複雑・ファジー小説

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六花は雪とともに【完結☆ 挿絵更新】
日時: 2012/01/20 21:56
名前: 火矢 八重 (ID: kGzKtlhP)

こんにちわ、こんばんわ、そしておはようございます。
毎度お騒がせの火矢 八重でございます。
さて、前置きをブッ飛ばして、注意事項へ行きましょう。

・荒らし・中傷は今すぐお帰り下さい。
・この小説は未熟者の中坊が書いております。「こんなのは嫌だ」と思った人は、戻るのボタンを押した方が災いを防げるかと思います。
・時代小説ですがファンタジーです。妖バリでます。
・荒らしはお断りですが、アドバイス・コメントはおk!反対意見(?)や物語の矛盾点、誤字の知らせなどもどんどんください!


さて、題名の「六花とは何ぞ?」と思っている方も多いと思います。六花と言うのは雪の結晶が六角形であることを「六花(りっか、ろっか)」と呼ぶそうです。




ちなみに、題名は思いつかなかったので他の人に協力を求めましたw
協力してくれた心やさしい方々↓

・サリー様・将軍様 ・葉紋様 ・ゆいむ様 ・黎様 ・27助様

この題名は27助様のアイディアを(ちょっといじって)使わせて頂きました。皆さまお忙しい中、有難うございました!
また、キャラクターの名前を考えてくれたサンマ様、誤字の訂正をしてくれた私のばあ様も、有難うございました!

それでは、始まります!
                                                      書き始め 11月6日

        ◆            ◆

お客様

志保様 『*イナイレ*【トリップ】失い過ぎた少女】など (二次小説の方でお世話になっていますwとても優しく突っ込みが素晴らしい方ですw)

27助様 (この小説の恩人さまです。素敵な題名有難うございました!)

シンデレラ人形様 『ドール・ヒーロー』 (コメントが可愛らしい方ですw勿論、小説も!)

ヒトデナシ様 『もしも俺が…』 (恩人さまその弐です。感動出来るお話と、それでいて重くならない、素敵なギャグや笑いを作れる方です。ヘタレな私を励ましてくれますbとても尊敬していますw)

ガリュ様 『氷翼少女』など (とても成長が早い(と言っては少し失礼ですが)、パワフルな方ですwファジーの処女作時代からの知り合いですw)

美羽様 『私たちのキズナ』 (可愛らしい学生のお話を書いています。一生懸命なお方ですw)

リオン様 『†萩宮学園 戦乱白書†』など (恩人さまその参です。素敵な題名有難うございました!) 

王翔様 『姫は大使で侍で。』 (沢山の物語を書いている、とても凄いお方です!処女作からとてもよくして頂いて、絵も頂いてしまいましたwとってもかわいい絵と、素敵なキャラを書く人ですw)
 
なっちゃん様 『素直の大切さ・すれ違い』 (とても一生懸命で面白いお方ですw学生の恋愛を書いています)

46鷺様 『存在証明裏表』 (妖モノが好きと言う、気が合いそうな方です♪小説は何時も楽しみにしておりますb)

水月様 『光の堕天使 〜聖なる力を持つ堕天使の物語』 (主人公ルエたんがメッチャ可愛いです!!とても優しくしてくれる方です^^)

白月様 『黒ウサギ×銀色蝶々』 (絵も頂いちゃいました!!目がとてもキュートですw白月様が書いたお話、とても面白いです!!時々このスレで個性的な主要キャラクターが雑談したりしています^^)

千様 『終日』 (とても怖い大樹が出てきますwまだまだ始まったばかりですが、話がとても樹になる、じゃなかった気になります!!)

檜原武甲様 『罪とDesert Eagle』 (オリキャラでお世話になった方ですw感謝感謝)

フェイト様 (優しくさせて頂いていますw)

陽様 『姫と魔物』 (面白い方ですよ♪休息気分な白龍と雪乃の絵も描いて下さいました!!)

フレイア様 (最近知り合ったばかりですが、とても優しいです♪)

刹那様 『あやかしの花嫁』(鑑定と何とコメントまで頂いちゃいました♪ 本当に感謝し尽くせません)

             ◆        ◆

鑑定してくださったかた

凜様 ステッドラ—様 初音カノン様 刹那様

             ◆       ◆

絵を描いて下さった方

王翔様 

神村様 (何時もお世話になっていますwとても可愛らしい絵を描いて下さる方です♪)

うさ様 (可愛らしい芙蓉の絵を描いて下さいました!!)

白月様

陽様

狐灯様 (格好良い白龍を書いて下さいました!!)
             ◆             
登場人物>>1 用語解説>>2  

第一部後書き>>43 番外編後書き>>68>>176  第二部後書き>>129 第三部後書き>>278 new!


—————————————————————————

◆第一部◆

序章 昔話のハジマリ>>3

第一章 優しい雪女>>6-7 挿絵>>8
 
第二章 春の女神>>13-15 挿絵>>16  

第三章 名を呼ぶもの>>27-29 挿絵>>30

第四章 似た者同士、違う所>>33-34 挿絵>>35

第五章 雪女の恋>>39-41 挿絵>>42


番外編

その壱 妖と人と水神様と>>49-51 挿絵>>105

その弐 交差するモノ>>64-67 挿絵>>253

その参 流るるままに>>145-150

その肆 六花とともに>>167-168


◆第二部◆

第六章 沢山のカケラ その壱>>76-78 挿絵>>79

第七章 沢山のカケラ その弐>>100-101 挿絵>>102

第八章 沢山のカケラ その参>>113-114 挿絵>>115
→小話 繋がる絆>>127


◆第三部◆

第九章 蛮勇と勇気の違い>>202-203 挿絵>>204

第十章 明かされた生い立ち その壱>>220-221 挿絵>>222

第十一章 明かされた生い立ち その弐>>240-242 挿絵>>243
→小話 『君を忘れない』>>246

第十二章 春の女神と雪女>>249-250

第十三章 最後の六花>>259-263 挿絵>>289 new!


最終章 明日への物語>>273
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【参照100突破感謝会】>>31
【参照200突破感謝会】>>52
【参照300突破感謝会】>>72
【参照400突破感謝会】>>95
【参照500突破感謝会】>>121
【参照600突破感謝会】>>138
【参照700突破感謝会】>>155
【参照800突破感謝会〜双六大会〜】>>164
【参照900突破感謝会〜以下略〜】>>173
【参照1000突破感謝会〜以下略〜】>>187
【参照1100突破感謝会〜以下略〜】>>207
【参照1200突破感謝会〜以下略〜】>>216
【参照1300突破感謝会〜以下略〜】>>226
【参照1500突破感謝会〜以下略〜】>>255
【参照1600突破感謝会〜以下略〜】>>277

Re: 六花は雪とともに【絵を書いてくれる方募集中☆あ、コメも!】 ( No.64 )
日時: 2011/12/16 18:45
名前: 火矢 八重 (ID: wVDXtEbh)

番外編その弐 交差するモノ

「杏羅さーん、お薬と食糧持ってきましたー」

「あー、ありがとう、雪乃」

「いいえー」


 雪女の雪乃が実家を飛び出して早十五日たった。雪乃が想いを寄せている杏羅の家に、雪乃は毎日と言っていいほど通っている。今日は鱗の薬と、山リンゴ、それとワカサギを持ってきた。
 その様子を見て、杏羅の妹ナデシコが「まるで夫婦のようだ」とからかってきたが、雪乃はただ、微笑みをつくるしかなかった。


(そう出来たら、どんなに良いだろう)


 そう淡く希望を持つが、それは叶わないだろうと思う。
 自分は雪女なのだ。熱に弱く、それ故人に直に触れば溶けてしまう、脆い妖。そんな自分が、杏羅と一緒になれるはずはないと、ずっと言い聞かせてきた。
 だから、この気持ちも伝えずにいようと思った。彼を惑わすことはしたくなかったからだ。


「それでは」

「はい、お大事に」


 雪乃が着いた時、老婦人が杏羅の家を出て行くのが見えた。少し足元をふらつきながら、帰路を急ぐ。
 気になって、雪乃は杏羅に訊ねた。


「あのお婆さんは……?」

「ああ、ちづさんと言って、最近よくうちに通うんだ。……もう、先は短いようだけど」


 杏羅の最後の言葉はあまりにも小さくて聞き取れなかったが、雪乃は見た時から気づいていた。
 杏羅は背伸びをしながら言う。


「何とかしたいって思うんだけどね。命には限りがあるからなあ。……こういうのは、傲慢なのかもしれない」


 そう言って、少し俯いた。


(……傲慢なんかじゃないよ)


 雪乃は心の中で思った。思っただけで、口には出さなかった。

 傲慢なんかじゃない、誰だってそう望んでしまうよ——。


                             ◆


「ただいまー」


 雪乃がそう言うと、「「おかえりー」」と必ず契約している精霊たちが返す。だが、今日は何も返事が無い。
 中を覗くと、月乃と花乃がしゃがみこんで、何かをしている。


「……月乃、花乃—?」

「あ、おかえりなさーい」

「今丁度ニャンコの手当てしていたんだよー」

「……」


 精霊たちの言葉に、無言で返す雪乃。
 そこには、雪のように真っ白なニャンコが寝ていた。


(なななななななにこれ!? なにこのかわゆいニャンコちゃん!? 抱きしめたい頬ずりしたいくんくんしたいッ……!! ああでも私雪女だった!! ニャンコに触ればあっという間に溶けてしまうんだった!! ……で、でも!!触りたいッ……!! でもダメッ……!!)

「……大丈夫—? 雪乃」


 雪乃の心の中で天変地異が起きていたことに、精霊たちは知るよしもなかったし、知る必要もなかった。







「……ねえ、聞くけどこれ猫又だよね?」


 やっと落ち着いた雪乃が、精霊たちに訊ねる。
 すやすやと寝ているニャンコは愛らしい姿だが、妖気を発散させているということは、このニャンコは間違いなく妖なのである。それに、普通のニャンコではありえない、元は一本だったのだろう真ん中で割れるように二本になっている。

「うん、でも怪我してたしー」

「妖気に凶暴な色は無いしー」

「……そっか」


 そう聞いて、雪乃は精霊たちの頭を撫でる。穏やかな顔で、精霊たちは気持ちよさそうに笑った。


「……ん」

「あ、気がついたー」


 パチリ、と猫又の目が開く。月乃が明るい顔になった。


「……ここは?」


 きょろきょろと辺りを見渡し、雪乃の方を見る。すると、驚いた顔で呟いた。


「……ちづ?」

「え?」


 雪乃が少し驚くと、猫又は首を振った。


「いや、匂いが少し違うな。それに、何十年も同じ姿はしていないはずだ。……だが、良く似ている」


 独りごとのように言い、少し俯いた。
 何が何だか良く判らない為、雪乃は猫又に現時点のことを伝える。


「あ、私は雪女の雪乃。わけあって人間と同じ生活をしているの。で、貴方怪我していて、見えないだろうけど私の精霊が手当てしたのよ」


 早口で伝えた為、猫又はポカンとした顔をした。その様子に、しまったと雪乃は思った。


(どうすれば、ちゃんと伝わるのだろう)


自分の言葉で、相手に伝えると言う事は、中々難しいことである。


「えっと……とにかく、この者たちが手当てしてくれたんだな?」

「あれ? 私たちの事が見えるのー?」


 猫又の言葉に少し驚いた顔で言う花乃。それには、雪乃も驚いた。
 精霊を見る妖は少ない。少なくとも雪乃の周りには一人もいなかった。


「……そうか、これが精霊か。この目で見るのは初めてだが。何から何まですまなかったな」


 猫又自身も驚いていたようだ。だが、礼儀正しくお礼まで言う。それに、「「いいよー。気にしてないしー」」と、精霊たちがのんびりとした声で返した。


「……ねえ、聞きたいんだけれど、ちづさんって……」

 雪乃が聞くと、猫又は小さな目を見開く。


「……お前、知っているのか?」

「知っていると言うか……今日すれ違ったんです」


 雪乃は、今はもう老いていて、医術師の家に通うほど体調が悪くなった、と猫又に伝える。


「……そうか、道理で同じ匂いが少ししたんだな」

「……知り合いなんですか? 良かったら聞かせてください」


 雪乃は願い申しでた。——人の過去の事を根掘り葉掘り聞くのは好きではないが、あの人の顔を見るととても気になったのだ。
 猫又は戸惑いながらも、ポツリポツリと話しだした。


Re: 六花は雪とともに【絵を書いてくれる方募集中☆あ、コメも!】 ( No.65 )
日時: 2011/12/16 18:46
名前: 火矢 八重 (ID: wVDXtEbh)

                              ◆


「……あれは、もう五十年以上前の話だ。ちづは妖のモノの姿を目に写すことが出来るほど霊力が高くてな。その為、良く妖に狙われることが多かった。……その為、妖を嫌っていた。


 そんな時、怪我をしている私を、ちづは手当てをしてくれてね。私がただの猫だと思っていたのだろう。彼女は、妖気を感じ取るほどの器量は無かったようだ。

 最初、私は彼女を喰おうと思っていた。生意気な人間、食ってやる、ってね。……私を猫だと思っていた彼女は、一方的に私に話しかけたよ。自分が楽しいと思ったこと、美しいと思ったこと、嬉しいと感じたこと……。

 私は喋ることはしなかったけれど、彼女の笑顔が愛らしくて、彼女が喋っていることに耳を傾け……彼女といる時間が、楽しいと思い始めた。

 そんな時、ふと私は思ってしまった。自分も喋れたら、どんなに楽しいのだろうと。——私は人間に変化して、彼女に近づいた。

 彼女は私をあの猫とは知らなかったけれど、私に対しても優しくしてくれた。話したり、笑ったり、楽しんだり。……何時しか私も彼女も、惹かれあっていた」


 目を細め、幸せそうに語る猫又。その様子に、思わず雪乃も微笑む。


「——だが、その幸せも終止符を打たれた。
 ……彼女よりも先に、周りの村人たちが私の正体に気づいてしまってね。ちづを説得させようとしたけれど、ちづは聞く耳を持たなかった。
 ……そしてとうとう、村人たちはちづと私を殺す行動を取った」


 はっと、雪乃は心に何かが刺さったような気がした。
 猫又が紡いだ言葉には、とても暗い色があったからだ。


「……私は怒りのあまり、村人たちを噛み殺し、抉り、首を取った。……我に返った後、そこは地獄のような惨状だった。生き残っていたのは私と、脅えているちづで。……ちづの真っ青で脅えている顔に、私は自分の罪の重さを知った。

 ——私は猫又だ。人を噛み殺す、血でまみれた猫又だ。どんなに人を好いても、本性は鬼だったのだ。……本当は、あの時欲を止めればよかったのだ。人と言葉を交わしてはならなかったのだ。……そうすれば、ちづは傷つかなかった」


 その最後の言葉が、雪乃の心を一番抉った。


                          ◆


 猫又は自分の過去を告げると、また眠ってしまった。
 どうやら精霊たちの前に、大物の妖に妖力を吸い取られたようで、もう命は僅かのようだった。
 夜も遅いので、雪乃たちも寝ることにしたが、雪乃だけは中々寝付けなかった。

 猫又の話を聞いている時、まるで自分と杏羅のようだと思った。


(——妖と人は、交わってはならない、か……)


 正論だと思った。だって、妖と人は別モノなのだから。楽しい時間に終わりを告げた時、とても辛いことにはなるだろう。
 けれど、雪乃は杏羅と出逢ったことを、悔いてはいない。例え辛い別れが来るとしても、楽しかった思い出は残るのだから。
 交わってはならないなんて、雪乃には言い訳のように聞こえた。


                          ◆


 翌日、雪乃は杏羅にちづの家を教えてもらった。教えてもらうついでに、ちづに渡す薬も預かった。

 家の前に、丁度ちづが居た。どうやら、今から杏羅の家へ行こうとした所らしい。
 ちづさん、と話しかけると、あら昨日の……と、優しげな声が返って来た。

 猫又から聞いた通り、とても優しい方だった。雪乃は猫又のことをちづに聞いた。


「……そう、貴方も妖が見えるのね」

「ハイ、最近会った妖が、貴方は昔見えていたと聞いて……」


 妖とバレるのを避けるため、自分は見鬼の才があるとちづに言った。ちづになら言っても良いかもしれない、と一瞬思ったが、ちづの口から他の者に伝わらない、とは限らない。


「……ねえ、貴方の目には、私はどう映っているかしら?」


 ちづは少しため息をついて、雪乃に訊ねた。


「とても優しい方に見えます」


 雪乃が素直に言うと、ちづは少し自嘲気に笑った。


「……そう、貴方にはそう見えるのね。でも、違うのよ。
 私はね、とても仲が良い妖が居たの。妖とは知らずに、……好きになってしまった」


 その言葉に、ドクンと雪乃の胸が鳴った。


「……けれど、それを伝える前に、あの人は去ってしまった。……理由は私が弱かったから。あの人は私を怖がらせたと思って去ってしまったけれど、本当は違うのよ。それはちょっとは怖かったわよ? 妖と知って傷ついたし、恨んだりもした。……でも、それでも私はあの人のことが好きだった。
 けれど、伝える勇気が無かったのよ。……戸惑いがあったから」


 また一つ、ドクンと胸が鳴った。
 ぽろぽろと、涙を零すちづ。手で覆い、我慢できなくなって叫ぶように泣いた。


「……私に、あの時、伝える勇気があったらッ……! もしかしたら、何か変わっていたかもしれないのにッ……!」


 猫背になるちづの背中を、雪乃は触れるわけにもいかず、ただ見るしか出来なかった。


Re: 六花は雪とともに【絵を書いてくれる方募集中☆あ、コメも!】 ( No.66 )
日時: 2011/12/16 18:48
名前: 火矢 八重 (ID: wVDXtEbh)

                             ◆


 今日ちづに聞いた事を、そのまま雪乃は猫又に伝えたが、猫又は返事だけ返し、後は何も言わなかった。
 その日、雪乃は夢を見た。猫又と、幼かったちづが、楽しそうに遊んでいる姿だった。
 猫又は、幼いちづに頭を撫でたり、からかったり、叱ったりする。ちづも、撫でてもらって気持ちよさそうに笑ったり、からかわれたことに怒ったり、叱られてしぼんだ顔をしたりした。
 それは色鮮やかな豊かな時間で、見ている雪乃も楽しかった。

 けれど、その場面はあっという間に血と骸の地獄へ変わる。白と黒と灰色の時間の中、猫又が闇に消え去った。その後をちづが慌てて追う。


『ねえ、待ってよ!!』


 必死に、手を伸ばすちづ。けれど、届いたものは猫又の幻で、掴んだ途端消えてしまう。


『お願いだから、出てきて!! 傍に来て!!』


 髪を乱し、叫びながら誰も居ない闇の中を走るちづ。やがてだんだん息遣いが小さくなり、ついには走るのを止めた。
 けれど、喋るのは止めなくて。小さくなっても、必死に闇に語りかけた。


『……お願いッ、出てきてよッ……!!』


 その言葉を聞いて、雪乃は悟ってしまった。


(——ああ、そうか。ちづさんも、猫又も、妖だろうが人だろうが関係なかったんだ)


 ただ、人の目が気になって。自分の想いを否定されるのが怖くて、逃げてしまったんだ。
 だから、悔んでいるんだ。——自分が、戸惑ってしまったことに。




「……ん」


 目を覚ました。まだ夜明けは来ていないようで、精霊たちも寝ていた。
上半身を起こすと、猫又も起きていた。


「アレ、猫又さん。起きていたんですか?」

「……そろそろのようだな」

「え?」


 雪乃が聞き返した途端、猫又の体が光り出した。パアアアと、淡く蛍のように光っている。


「ね、猫又さん!? どうしたんですか、光り出しましたよ!? 」


 慌てて雪乃が聞く。その声に、寝ていた精霊たちが起きた。


「……猫又さん、どうして光っているのー?」

「消えちゃうのー?」


 目をこすりながら、精霊たちは哀しそうな顔で言った。


「……精霊たちに助けられる前、私は大物の妖に大分妖力を吸い取られた。傷は治ったが、妖力が全て枯渇したのだろう。妖力が無くなれば、ただの猫になる。猫には重すぎる妖の生は……瞬く間に消え去ってしまう」


 雪乃たちに説明し、前足をペロリと舐める。どうやら、もう心の準備は出来ていたようだ。


「……やり残したことは、ないんですか?」


 雪乃が尋ねると、猫又は目を開き、少し間を開けて言った。


「……赦されるとしたら、一つだけやりたいことがある。一言でも……ちづに、伝えたい」


 その言葉を聞いて、雪乃と精霊たちは猫又を連れて、家を飛び出した。





Re: 六花は雪とともに【絵を書いてくれる方募集中☆あ、コメも!】 ( No.67 )
日時: 2011/12/16 18:50
名前: 火矢 八重 (ID: wVDXtEbh)

                                ◆


——あのひとは、何処? 私の頭を撫でてくれた人は、何処に居るの?


「あの人はッ……!」


 そう叫んで、手を伸ばした。
 気づくと、ちづは夢の世界から現実に帰っていた。びっしょりと汗をかいて、とても居心地が悪い。

 汗をぬぐい、水を飲みに外へ行った。フラフラの足取りで、とても危ないが、自分には伴侶も子供も居なかった。近くの若者が一緒に住もうかと言われたが、ちづはそれを丁重に断った。——命運が尽きる時に、死ねばよいのだから。だから、自分の身の安全のことは放っておいた。
 湧水で顔を洗い、水を飲む。冷たい水が喉をうるおした。

 その時、どしんどしんと、大きな音が聞こえた。地が震え、足元が揺れる。ちづは後ろを振り向いた。
 そこに、大きな熊の手が、ちづの目の先までせまっていた。
 その時、ちづは不思議なことに焦ってもいなかった。ただ、ああ助からないな、と思ったのだ。熊の素早い動きが、ちづの目にはとても遅く見えた。

 覚悟し、目を閉じる。だが、いくら待っても熊から襲われる衝撃は来ない。
恐る恐る目を開くと、パリパリパリッ……と、熊の手が氷に包まれた。そして、あっという間に熊が氷漬けされた。

 何が何だかわからないまま、ちづは周りを見渡した。その時、ちづ、とちづの忘れられない声が、老いて聞こえづらい耳にはっきりと届いた。


「……その声はッ……!」


 ちづが振り向くと、人間に変化した猫又が居た。
 ちづは驚いて、老いてよく見えない目を大きく開き、やがて猫又の胸へ飛び込んだ。猫又はそっと、両手をちづの背中に回した。壊れないように、そっと。
 年寄りの人間より、少し高めの温度がちづを温める。


「ごめ……ッんなさッ……い! ごめんッ……なさいッ!」


 涙を零しながら、伝えるちづ。その時、違うと心の中で思った。


(——私が伝えたいのは、謝罪じゃない)


 その想いが、ぐるぐると頭の中で回った。——私が、伝えたかったのは……。


「ちづ……ごめんな」


 猫又の言葉に、ちづは驚いて猫又の顔を見た。ちづの目に、淡く光りながら消えていく猫又の姿が見えた。


「……傷つけて、ごめんな。でも、とても嬉しかったんだ。とても、楽しかったんだ。あの時、話しかけてくれて、笑ってくれて、隣に居てくれて」





「「……ありがとう」」





 最後の言葉は、猫又とちづの声が重なった。猫又もちづも、泣きながらでも心から微笑んでいた。
 猫又の虚像を、目を細めてちづは抱きしめたままだった。






「……フウッ。間一髪」


 雪乃が遠くの所から呟く。熊が氷漬けされたのは、雪乃の仕業だった。あの熊は鬼熊という妖の一種で、猫又と同じく長い年月を経て妖力を手に入れたと考えられる。
 猫又の妖力を奪ったのも、あの妖の仕業だろう。


(……猫又さん、私にはちづさんと貴方の心が交わっているように見えたよ。ちゃんと、通じあえたのが見えたよ。猫又さん)


 ——貴方は、とても嬉しかったでしょう?


 雪乃は人知れず、微笑んだ。


                             ◆


 それから数日後、ちづは息を引き取った。
 雪乃も葬儀に立ち寄ったが、ちづの顔はとても穏やかで、幸せそうだった。きっと、黄泉の国で猫又と一緒に過ごしているんじゃないだろうか。願わくはそうで居て欲しい、と雪乃は思った。


(——人と妖が共存することは、とても難しいかもしれない)


 人は妖より寿命が短いし、妖は誰かが信じてくれないとあっという間に消えてしまう。妖は凶暴な力を持っている者も居るし、人も極悪人だっている。妖と人は別ものなのだ。
 でも、一瞬だけでも交わらないとはいえない。時に交差して、共感して、同情して……妖も人も、寂しいと思う気持ちが一緒なら、愛しいと思う気持ちも一緒だと思う。


(例え、杏羅さんやナデシコが、私の傍を離れたとしても)


 私が感じた想い出は、消えることはないから。
 だからきっと、大丈夫。


「……うんッ! 大丈夫!」


 笑顔で、雪乃は言った。



Re: 六花は雪とともに【絵を書いてくれる方募集中☆あ、コメも!】 ( No.68 )
日時: 2011/11/22 21:35
名前: 火矢 八重 (ID: wVDXtEbh)


 番外編 後書き

 どうも、火矢八重です。やっと番外編を更新できましたw次回からはやっと第二部へ参ります。
 ここから先はネタバレになっております。


 壱 妖と人と水神様と

 昔、『妖怪大戦争』という映画を見ました。その時出てきた川姫に、私は一目で惚れました。
 その後、度々川姫が出てくる話を書きましたが、今回は番外編のメイン主人公として書きました。

 川姫調べている時、人柱のことが書かれていたのですよ。それで、「家族の為に人柱になったけれど、心残りで妖に蘇生した女の子」と言うのが出来ました。

 また、このお話は責任の「押し付け合い」というテーマでも書いています。人のせいにし、そうすることで自我を守ることが出来るという、私が見た「社会」です。
 村の人々も、またナデシコも、他の者のせいにすることによって自分を守っていました。
 そうすることによって、このお話から見ると第三者である読者の皆さまには、深い溝が出来ていることに気づいたと思います。人を認めて、自分の間違いや過ちに気付くのはとても辛くて大変なことだなあと、常日頃思う私です。




 弐 交差するモノ

 ついに雪乃の変態の正体が日の元に!!(←違うだろ)

 この話の元ネタは、遠野物語の「オシラ様」です。オシラ様の話というのは、ある村娘と馬が、夫婦になる悲恋の話です。
 馬と人が一緒になることは出来ないように、このお話もまた、人と妖は一緒になれないことを意味しています。

 それは、やはり意見を受け入れないのでしょう。今でも妖怪の話をすると「中二病」と呼ばれるように、人の否定に押しつぶされ、自分の意見を押し殺す、そんな感じです。

 それはとても正しいことだと思います。空想と現実をごっちゃにしてはいけませんし、何よりもそうすることによって他人に迷惑をかけたり傷つけることもあるでしょう。

 しかし、もしも猫又とちづさんが、自分の意見を周りに認めさせようと努力していたら。ひょっとしたら、何か変わっていたかもしれません。

 周りを認め、自分を認める。前かいたようにそれは難しい事かも知れませんけれど、それを乗り越えた後はきっと良い方向に進むんじゃないかと思います。


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