複雑・ファジー小説

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俺だけゾンビにならないんだが
日時: 2013/08/20 22:05
名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)

ゾンビ物です。

残酷な表現が苦手な方はお気をつけください。
荒らしや誹謗中傷などはちょっと止めてください。
誤字脱字を見つけましたら、教えていただけるとありがたいです。

不定期更新、急に更新止まるかも。

中編くらいを想像しています。

目次

第一話「俺だけゾンビにならいんだが」>>1>>3>>5>>6
第二話「血肉内蔵脳漿の中を進め」>>8>>10>>13>>14>>15
第三話「こびりつく悲鳴」>>16>>18>>21>>25>>27>>30>>32>>35>>36
第四話「ゾンビよりも疲れる対人関係」>>37

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.23 )
日時: 2013/08/12 02:44
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: aTTiVxvD)

予想外だ
まさかゾンビものでうるっとするなんて・・・
相変わらず面白いです!

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.24 )
日時: 2013/08/12 16:09
名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)

>>22
コメントありがとうございます
出来るだけ現実にありそうな感じで書いてみました
安価はミスです。直しておきました

>>23
コメントありがとうございます
(´・ω・`)の人がお気に入りです

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.25 )
日時: 2013/08/12 22:39
名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)

 ベランダでスマホを弄りながら、そろそろ一度中に戻ろうかな、なんて考えていると、突如としてそれが起きた。

「うぁ……ぐっ」

 強い嘔吐感。
 腹の奥から熱い何かが込み上げてくる感覚に、俺は席を立って慌ててトイレへ駆け込む。ゴボゴボと自分の口から溢れだした物を見て、俺は恐怖を感じた。
 血液だった。それも赤色じゃない。どす黒く濁った血液だ。
 以前も同じ事が合った。ゾンビに噛まれた後、逃げ込んだトイレの中でも血液を吐き出した。あの時と同じだ。
 口の中に苦い鉄の味が広がって、俺は本当に嘔吐しそうになる。
 これは一体何だ。俺の身体はどうなっている?
 多くの血液を吐き出して、ようやく収まった。吐き出した黒い血を見て怯えながら、それをトイレに流す。トイレの外にある手洗い場の蛇口を捻って血を洗い流し、うがいして部屋に戻る。
 血を出したせいか、身体が酷く怠い。

「どうなってるんだよ……」

 腹を抑えながら体内で起きている何かに恐怖を抱く。もしかして、俺はゾンビにならないんじゃなくて、ゾンビになるのが遅い体質なんじゃないだろうか? もしかしたらもう少ししたらゾンビになってしまうんじゃないか? 今のはその予兆かもしれない。
 
「あ、れ」

 不意にグラリと視界が揺れた。気付いたら俺は床を見ていた。違う。俺が床に倒れたんだ? 何が起きた? 身体に力が入らない。意識が徐々に薄れてい、く。
 もしかして、おれしぬのか?
 ぞんびになるのか?
 いやだ。
 たすけて。


 カーペットのザワザワとした手触り。
 指を動かしてそれを確認する。
 意識が徐々に戻ってきた。
 怠い。
 重たい身体を持ち上げて、何とか立ち上がる。
 部屋が暗い。
 開けっ放しになっていた窓から温い風が入ってきて、身体を撫でる。外を見るともう暗くなっていた。おかしい。さっきまで日が昇っていた筈なのに。
 部屋にある時計を見ると、もう夜の八時だった。また長い間眠ってしまっていたらしい。
 俺は雨戸と窓、カーテンを閉めて外から部屋の中が完全に見えない様にした後、部屋の電気を付ける。電球の眩しさに目を細めながらポケットのスマホを取り出そうとして、ふと俺は違和感を覚えた。
 何だろう。
 視界がいつもより高く感じる。
 妹の部屋に置いてあるピンク色の全身鏡を見て、俺は目を疑った。俺の見間違いじゃなければ、身長が高くなっている。詳しくは分からないが、意識を失う前よりも四センチくらい高くなっているんじゃないだろうか。
 それだけじゃない。
 何というか、全体的にガッチリした様な気がする。
 服を脱いで裸になり、確信する。ひょろひょろだった俺の身体が、何故か少し筋肉質担っているような気がする。顕著なのは腕だ。腕が太くなっている。特に二の腕の辺りが。
 いったい何が起きたんだ。
 確か吐血した後、急に身体に力が入らなくなって、意識を失ったはずだ。七時間近く経っていると思うが、たったそれだけの時間で身体がここまで変化するなんて事はありえない。
 しかし現実に起きている。
 混乱する頭で必死に考えた。
 あー、うん。多分あれだ。ゾンビに噛まれた影響だな、これは。
 説明が付かないことは、大体このせいにしておけば説明が付く。根拠は無いが、もうそういう事にしておこう。ウイルスか何かが身体の中で何かを起こして、俺は身長が伸びて筋肉も付いた。んー、筋肉も付いたけど、骨も太くなっているのかな…・これは。
 しばらく考えてもそれ以外の理由が出てこないので、俺はそういう事にした。
 まあ、ゾンビになったり、死ぬ様な気配は無いしな。放っておいても悪い影響は無さそうだ。
 
「さて……夕飯食べよう」

 
 

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.26 )
日時: 2013/08/13 21:21
名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)


翌日。
 ベランダで周囲を見張りながら、掲示板で他の人の様子を確かめる。
 どこもかしこも、地獄絵図の様な惨状が繰り広げられているらしい。動画投稿サイトに自衛隊とゾンビが戦闘している場面が乗せられていた。ゾンビ達を射殺していく自衛隊だが、次第に周囲を囲まれていき、やがて何人かが餌食になった。それから彼らは慌てて撤退していく。ヘリから攻撃している動画の方は、一方的にゾンビを片付けていたので、少し希望が持てそうだった。とはいえゾンビは増える一方だ。ヘリで射殺出来る人数なんて数が知れている。ミサイルとかで一気に吹っ飛ばしたら一気に片付くだろうが、流石にそこまでしないと信じたい。生き残りまで吹っ飛んじまう。
 スマホの充電が50%程度にまで減った。もう少しで二時になる。遅めだが、昼食を摂ろうかな。出来るだけ長持ちする様に食事を取らなければならない。
 そうだなぁ……。冷蔵庫の奥の方にあった卵のパック、確か大分前からある気がする。母さん結構いい加減だから、家にあるのにまた同じの買ってくるんだよなぁ……。見たところ新し目の卵がよく見える所に置いてあったし。取り敢えず古い方の卵から使っていくか。
 昼食のメニューを考えながら椅子から立ち上がり、部屋に戻ろうとした時だ。

「ん?」

 視界にゾンビとは違う物を捉えた。ベランダからそれなりに距離があるせいでハッキリとは見えないが、人間のようだ。棒の様な物を振り回しながらゾンビ達を蹴散らして進んでいる。
 俺は双眼鏡を取り出して彼らの様子を眺める。
 やはり人間だ。四人組だな。先頭を鉄パイプを持った男が走り、近付いてくるゾンビを殴り飛ばしている。そのすぐ後ろに学生服を着た女性が続き、その後ろで鉄パイプを持った男二人が追ってくるゾンビを牽制している。全員血塗れだ。噛まれたという感じでは無いから返り血か?
 あ、一番後ろの奴が噛まれた。
 噛まれて動きが鈍った奴を、あっと言う間にゾンビが取り囲む。そして食らいついていく。そいつの隣に居た奴がそれを助けようとするが、鉄パイプを掴まれ、同じように噛まれる。何とかゾンビ達の中から抜けだして、先頭の男達に続くが、あいつはもう駄目だろうな。
 ゾンビ達は男達を追跡する。
 クソ、結構な量だ。あいつら、ゾンビを連れてきやがったな。
 この周囲を彷徨いていたゾンビ達も音を聞きつけて彼らに集まり始める。あぁ、やばいな。このままじゃ追い付かれて終わりだ。
 先頭の男は何を思ったか、急に立ち止まる。女性達は怪訝そうに彼を見る。

「なっ」

 あろうことか、先頭の男は先程噛まれた男の頭を鉄パイプで殴打した。殴られた男は力なく倒れ込む。女性が何事かを男性に言うが、男性はそれを無視し、手を引いて走りだす。後ろから追ってきていたゾンビ達は足を止め、倒れた男に群がり始めた。
 男達はその隙に走る。
 ……。
 一体どこに向かっているんだ? 彼らを見て首を傾げていると、すぐに答えは出た。

「歩美……」

 今走ってきている女性の顔を良く確認して、ようやく俺は気付いた。
 学生服を着た血塗れの女性は歩美、俺の妹だと言うことに。
 何を考えたか知らないが、家に帰ってくるつもりなのだろう。あいつの通っている中学は家から十五分程度の距離だ。徒歩でも帰ってこれない事も無いだろうが……。

「クソッ!」

 俺はパニックになりかけながら、慌てて家の中に飛び込む。ドタバタと階段を駆け下り、玄関を塞いでいた箪笥をどける。そして鍵を開けようとして、思いとどまる。
 歩美を家の中に入れるのはいい。だけどあの男は? 正しい選択だと思うが、あの場で仲間を切り捨てられる様な強かな人間だ。家の中に入れたら色々と面倒な事になるかもしれない。それに食料だって、歩美と二人きりならとにかく、あの男を加えたらあっと言う間に無くなってしまう。
 俺は深呼吸すると、背負っていたリュックサックから包丁を取り出す。金属バットも装備するが、刃物の方が恐怖感を与える事が出来ると思う。
 さっき見た距離的に、もう少しで家に辿り着くだろう。ゾンビに食われて無ければ、だが。
 クソ、家の周囲にゾンビが集まってきちまうだろうが……。
 覚悟を決め、俺は玄関を開いた。隙間から外の様子を伺う。
 すぐ家の前を、さっきの男と歩美が走っていた。俺は包丁を右手に、金属バットを左手に握りながら、外に飛び出した。
 入り口の扉を開け、妹達がやってきた。ゴクリと唾液を飲み込み、俺は包丁を握る指に力を込める。

「止まれ!」

 走ってきた二人は、玄関から出てきた俺見て驚きに目を見開く。俺の顔を見て、次いで右手の包丁に視線が行く。
 俺は後の展開を予想し、息を吐く。
 男を家の中に入れる訳にはいかない。

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.27 )
日時: 2013/08/14 21:46
名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)


 
 血だらけの学生服にぐしゃぐしゃの茶髪。額からは血が流れている。ここまで来るのに相当走ったのだろう。歩美の肩が上下している。

「あ、兄貴!?」

 俺の顔を見た歩美が、驚愕に目を見開く。隣の男は歩美と俺を交互に見て固まっている。
 視線が交差して数秒。
 血だらけの学生服にぐしゃぐしゃの茶髪。額からは血が流れている。
 
「歩美、残念だけどそこの男の人は家の中に入れる事は出来ない。歩美だけなら入れてやる」

 包丁を突き出したままの俺の言葉に二人は表情を凍り付かせる。家の周辺にゾンビが少しずつ集まってきているのを横目で確認しつつ、目の前の二人の警戒を怠らない。

「な、何言ってるの!? なんで大輝だけ!」

 歩美の隣にいる男は少なくとも二十歳を越えている。それを親しげに下の名前で呼ぶのか。
 大輝と呼ばれた男は歩美を腕で制すると、穏やかな表情を浮かべながら口を開いた。

「えっと、何か警戒されてるみたいだけど、僕は怪しい者じゃないよ。そこの中学生の教師さ。歩美のクラスの担任なんだ」
「そ、そうよ!」

 男が歩美の名前を呼び捨てにするのはまだ分かるが、歩美が男を呼び捨てにするというのはおかしい。担任を呼び捨てにして、親しげに下の名前で呼ぶってどういう事だよ。頭の中で、男と歩美の関係を想像して、俺は目を細める。

「ほ、ほら、包丁を下ろしてくれ。後ろから奴らが来てるんだ。早く家に入れてくれよ」
「駄目です。大輝さんと言いましたね。歩美をここまで連れてきてくれた事には感謝しますが、貴方は家の中に入れることは出来ません。この状況で家族以外の人間を信用するなんて真似は俺には出来ません」
「兄貴! いい加減にしろよ! やばいんだって!」

 冷静に言葉を紡いでいるつもりでも、俺の頭は相当に混乱していた。男は危険だ。だから家の中に入れたら俺や歩美が危ない。だけどここで見捨ててもいいのか? いや……やはり入れる事は出来ない。歩美だけしか、家に入れることは出来ない。
 ゾンビの呻き声が徐々に近付いて来ている。男は頻りに後ろを気にしながら、言葉に苛立ちを混ぜながら俺に入れるように説得してくる。

「歩美! 早くこっちにこい!」

 もう時間がない。
 俺は金属バットを離し、歩美の腕を強引に引っ張り、家の中に引きずり込もうとする。
 その腕に鈍い衝撃が走った。
 男が俺の腕に向かって鉄パイプを振り下ろしていたからだ。嫌な感覚が腕を襲い、力が入らなくなって歩美を離してしまう。

「ふざけんじゃねぇえよ! とっとと家に入れやがれ糞ガキィ!」

 男は歩美の腕を掴んで自分に引き寄せると、「歩美がどうなってもいいのかァ! あぁ!? こいつをここに連れてきたのは俺だぞォ! ここまで来てお払い箱とかふざけんじゃねえよ!」と今までの穏やかな口調を消し、怒鳴り散らす。
 俺はヨロヨロと後ろに下がる。

「お、お前はここに来るまでの途中で仲間を囮にしてんじゃねえか! その鉄パイプで殴ってよォ! そんな奴を信用できるか!」

 それを言うと男はギリッと歯ぎしりすると、鉄パイプを持ち上げた。それを俺の脳天目掛けて振り下ろす。間一髪の所でそれを避け、俺は家の中に逃げ込む。

「いいから中に入れやがれェ!!」

 男は叫びながら家の中に入ろうと腕を伸ばしてきた。玄関を閉めるが、腕が間に挟まってしまう。俺はパニックになりながら、扉を少し開き、それからまた閉める。ガンッと音がして間にあった腕が挟まれる。

「出てけ出てけ出てけ出てけ出てけェ! この、このッこのこのこのォォォ!」

 ガンガンガンガンガンガンガンガン、何度も何度も扉を叩き付ける。挟まれた腕が嫌な音を立てて凹む。男はその痛みに悲鳴を上げる。何回目か、扉が開いた隙に男は腕を外に抜いた。
 俺はその隙に扉を閉めると、鍵を閉める。
 意味を成さない叫び声と共に、ドンドンと玄関が叩かれる。それに混じって「兄貴、兄貴ッ!」という歩美の悲鳴が。
 扉の外で、ゾロゾロと二人以外の足音がする。二人の悲鳴が上がる。
 男が悲鳴を上げた。
 歩美も悲鳴を上げた。

「兄貴ィィ! 助けてよぉ! 入れてよぉ! いや、いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。
 二人の悲鳴はやがて小さくなっていき、代わりにクチャクチャと咀嚼音が大きくなっていく。
 クチャクチャクチャクチャクチャクチャ。
 俺は玄関の前を箪笥で完全に塞ぐと、よろよろと座り込む。

「は。ははは、ほら見ろ。やっぱりあの男は危険だった。本性表しやがったよ。はは、クソ、腕がまた折れちまった。あんま痛くねえけど。ふ、ふは、これで良かったんだ。あの男を中に入れる訳にはいかなかったんだよ。そうだ、そうそう。撃退に成功したんだ。俺は正しい。間違ってないよな、な。はは、は」
 
 だけど。
 あ、あれ。
 で、でも歩美は中に入れられてない、ぞ?
 はは、おかしいな。正しかった筈なのに、あれ?
 歩美は?
 歩美はどうして?
 こ、殺した?
 俺が?
 違う、殺したのはゾンビだ。
 俺は悪くない。
 違うんだ。
 違う違う違う違う違う違う。
 俺は正しかった。
 男を入れちゃ駄目だった。
 だからいいんだ。
 そう、いいんだ。
 そうだろ?
 なあ。
 俺は間違ってないよな?
 これで良かったんだよな?
 なぁ、そう言ってくれよ。
 誰でもいいから。
 なんでもいいから。
 
「誰かそうだって、これで良かったんだって言ってくれよォ!」


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