複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
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- 俺だけゾンビにならないんだが
- 日時: 2013/08/20 22:05
- 名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)
ゾンビ物です。
残酷な表現が苦手な方はお気をつけください。
荒らしや誹謗中傷などはちょっと止めてください。
誤字脱字を見つけましたら、教えていただけるとありがたいです。
不定期更新、急に更新止まるかも。
中編くらいを想像しています。
目次
第一話「俺だけゾンビにならいんだが」>>1>>3>>5>>6
第二話「血肉内蔵脳漿の中を進め」>>8>>10>>13>>14>>15
第三話「こびりつく悲鳴」>>16>>18>>21>>25>>27>>30>>32>>35>>36
第四話「ゾンビよりも疲れる対人関係」>>37
- Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.33 )
- 日時: 2013/08/18 12:12
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: aTTiVxvD)
ちゃんと妹を埋葬してあげる主人公君・・・(´・ω・`)
- Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.34 )
- 日時: 2013/08/18 14:15
- 名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)
>>28
コメントありがとうございます。
無様な主人公を書くのが好きです
>>29
コメントありがとうございます。
苗字だけ明かしましたw瀬戸川君ですw
>>31
コメントありがとうございます。
救世主は死にました
>>33
コメントありがとうございます。
肉の腐る臭いってかなり深くまで埋めないと外に出ちゃうんですよね。
因みに主人公はそこまで深くまで埋めてないです
- Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.35 )
- 日時: 2013/08/18 20:45
- 名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)
強い飢餓感に目を覚まし、時計を見ると、午後三時を過ぎたくらいだった。しばらくベッドの上でボーっとして、意識がハッキリとしてきてから立ち上がる。頭がガンガンとしている。大きくあくびして、俺はふと燃やしたゾンビの死体がどうなったのかが気になり、窓を開けて外を見る。
「あ」
まだ燃えていた。
というか、炎が近くの家も燃えていた。パチパチと火の粉が弾ける音が聞こえる。どす黒い煙がモクモクと立ち昇っている。
燃える音に集まってきたのか、ゾンビの数がかなり増えていた。そいつらは炎に自ら近づいて行き、焼けゾンビになっている。燃えながらも覚束ない足取りで動き回り、近くの家出育てられていた花や草に火を付けていた。それが広がっていき、幾つかの家が燃えている。
焼きゾンビが炎を拡散させたのか、それとも俺が燃やした死体の炎が広がったのか、どちらかは分からないが、これは不味いことになった。
俺は呆けた表情でポリポリと頭を掻く。やっちまった。
ゾンビが集まってきているし、炎も広がってきている。この家には居られなくなったな……。俺の家まで炎が来るまではもう少し時間が掛かると思うが……。
取り敢えず落ち着こう。
この吐き気を催すレベルの飢餓感をどうにかするのが先だ。
俺はリュックサックとバットを手に、一階に降りていく。
それにしても、今回はリュックサックを背負わずに外に出たり、叫び声を上げたり、しっかりと注意もせずに家に帰ってきたりと色々と無謀すぎた。こんな事を繰り返していてはいつか死んでしまうだろう。自省しなければ。
冷蔵庫を開いて食べる物を選びながら、寝る前に傷口に巻いた包帯を捲ってみる。傷は大体治りかけていた。損傷が酷かった左手もどうなっているのか、欠けていた肉が戻ってきている。
包帯はもう必要ないな。身体から外し、放り捨てる。もう少ししたら家を放棄しなければならない。もうゴミをポイ捨てしても構わないだろう。
それにしても、この飢餓感は何だろう。これに襲われるのは二度目だ。
前回と今回の状況を考えてみると、どちらも酷く身体を損傷した後だ。身体を回復するには大量のエネルギーを消費していて、この飢餓感はその代償かもしれない。
冷蔵庫の中にあったサーモンやマグロと刺身の詰め合わせ(賞味期限切れ)を取り出して、刺身に醤油をぶちまける。入れ物に付いていた割り箸でそれらを次々の口の中に放り込んでいく。
マグロの口の中でとろける食感とサーモンとコリコリとした食感。
それらを楽しむ余裕はない。
刺身を全て食べ終えてもまだ空腹感が収まらなかったので、納豆一パックとインスタントの味噌汁を食べ、その後水を大量に飲んで空腹感を満たした。
その後、一度二階に戻った。
ベランダから外の様子を見てみるが、依然として炎は燃えて、ゾンビも集まってきている。
中に入り、自分の部屋を見回す。今まで集めてきた本やゲーム。名残惜しいが生き残る為には必要がないものだ。苦渋の決断をして部屋から出て、一階に降りていく。
机にリュックサックを置き、中身を全て出す。家を捨てなければならないから、色々な物を持ちださなければならない。とは言え元々リュックサックには入るだけ荷物を入れていた。押しこめばもう少しは入るだろうが、もっと物を持って行きたい。あまり欲張り過ぎるのも良くないが……。
そこで俺は窓を塞いでいた箪笥の一つを漁り、父さんが以前使っていた黒色の腰ポーチを取り出す。これならそれなりに荷物を持っていける。包丁や懐中電灯、一部の食料や薬をポーチの中に移す。これでリュックサックに結構な空きが出来た。
まず冷蔵庫の中を覗き、そこから保存が長く効きそうな食べ物を外に出す。それらの量やカロリーを考えて、持っていく物と持って行かない物を選択する。パッケージに入ったままの物は、取り出してタッパーの中に詰め込んだ。ぎゅうぎゅう詰めでちょっとグロテスクな感じになっているが、タッパーに入れたほうが多く持っていける。それから肝心の飲み物だ。これも選択しなければならない。ジュースを優先してリュックサックの中に入れていく。
それからサプリや薬などを選んで入れると、あっという間にリュックサックはパンパンになってしまった。チャックを締めるのに苦労した。
俺は溜息を吐き、入れきれなかった食べ物や飲み物を見る。
置いていくのは勿体無い。
さっき刺身やらを食べたばかりだったが、俺はそれらを食べることにした。
卵で目玉焼きを作り、納豆やバナナ、冷凍してあった肉を解凍して焼く。冷蔵庫にあった食材を結構な量使った。それらをバクバクと食べていく。勿体無いの精神だ。
さっき食べたばかりだというのに、意外と俺の胃は大きいらしく、次々と入っていく。全てをあっという間に食べ終えてしまった。
水を飲んで一休み。
しばらく椅子に座って休憩しつつ、これからの行き先を考える。正直宛がない。人が多く集まるような大きな場所はゾンビが多いしな……。
そう言えば、学校から家までの間に、数ヶ月前に活動を停止した浄水場が合ったような気がする。全く興味が無かったから今どうなっているかは知らないが。記憶ではそれなりに大きな所だったと思う。中の構造は分からないが、あそこならもしかして人が居ないかもしれない。
色々と悩みながら、俺はその浄水工場に向かうことにした。
椅子から立ち上がり、二階に上がってもう一度外の様子を確かめる。
ゾンビの数が多い。
自転車で移動しようと思っていたが、この中を自転車で通るのはキツイな……。車輪の音に反応して囲まれるかもしれないし……。
俺は徒歩で移動する事に決定し、一階の扉から庭に出る。そしてこっそりと移動を開始した。
- Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.36 )
- 日時: 2013/08/19 21:52
- 名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)
焼きゾンビを避けて歩く。
「…………」
妹の死体を葬ってから。
胸から、何かがポッカリと抜け落ちた様な気がしていた。
抜け落ちた物は大切だった様な気もするし、心を蝕む悪い物だった様な気もする。
喪失感と安堵があった。
何が抜け落ちたのかは分かるが、言葉にする事が出来ない。
抽象的に言うのならば、俺は心の一部を失ったのだろう。歩美を見殺しにした事で心の一部が壊れて、俺はその一部を切り離したのだ。
あれほど荒れ狂っていた心は、今でもすっかり落ち着いている。
歩美の事を考えても、もう何も感じなかった。
もう終わった事だ。俺が終わらせた。
歩美を殺したのは俺だ。もう言い訳するつもりはない。自己正当化はしない。
俺が生きるためにやった。ただそれだけだ。
俺が、俺の為にやったんだ。
ゾンビになった歩美を殺したのも、歩美の死体を埋葬したのも、全て俺の為だ。
ただの自己満足だ。
自己満足で動いて、自己完結した。
ただそれだけの話だ。
家族を失い、心の一部も失った。今までの日常生活には欠かせなかった大切な物だ。だけどそれらはこの世界で生きて行くには重りになりうる。だから、もう要らない。
生きて行く為に非情になろう。痛みも罪悪感も無視しよう。生きるために必要な物はなんだって利用してやろう。
それが簡単に出来る程、俺は心無い人間じゃないと思う。だけど生きる為なら、心も捨てよう。
この先、長生きしてどうなるんだろう。
世界が元通りになることはもう無いだろう。
今までみたいな安穏とした生活はもう送れないだろう。
生きる意味はあるんだろうか。
俺は死にたくない。
血や内蔵や脳漿をぶちまけて、無様に死にたくない。
あいつらみたいに死にたくない。
だから生きる。
死なないために生きる。
絶対に。
- Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.37 )
- 日時: 2013/08/20 22:07
- 名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)
「なんで臭いだ」
家の外には吐き気を催す様な強烈な悪臭が漂っていた。それは俺が燃やした死体の肉の臭いだ。それが周囲一面に拡散している。やはり家畜は人の為に改良されているんだな。豚や鳥や牛の肉の焼ける臭いは食欲を唆るというのに、人間の肉は何故こうも臭いんだ。まあ、人間じゃなくて焼けているのはゾンビの死体だけど。
家の焼ける音にゾンビが集まっている。赤く燃える家の周囲にはゾンビがうろつき、炎に触れたゾンビの身体が燃える。焼きゾンビとなったそいつは周囲を歩き回り、炎を広げていく。
身体が完全に焼き尽きて黒焦げになっているゾンビもいる。そいつは地面に横たわっているが、腕や足を時折ピクピクと動かしていることからまだ生きているのだろう。なんて生命力だ。強い治癒力を手に入れた俺だが、流石にここまで燃やされたら死んでいるだろう。……この状態になって生きているくらいなら、いっそ死んだ方がマシだろうな。
頭の中の想像に身体を震わせ、ゾンビとぶつからないように慎重に進む。焼きゾンビに触れて荷物が燃えたりなんかしたら大変だからな。
それにしても、本当に軽率な事をしてしまった物だ。すぐ近くの家まで火の手が回っている。火事を目にするのは初めてだが、結構なインパクがあるな。
「…………」
炎を見て、慌てて出てきてしまったが、この炎は俺の家までやってくるのだろうか? もしかしたら途中で雨が降ったりして鎮火するかもしれない。
そう考えると足が止まるが、炎の勢いを見て足を再び動かす。まあ、俺の家が燃えないようだったら戻って来れば良いだろう。歩美を殺しに外に出て分かったが、意外とゾンビの間を通って行くのは簡単だ。音を立てなければ気付かれないし、音を立ててもすぐにその場から離れれば、ゾンビは俺を簡単に見失ってしまう。それに仮に襲われたとしても、俺のこの腕力があれば抵抗できるし、何より俺には治癒力がある。ゾンビに噛まれても一日もあれば傷は塞がる。ゾンビに噛まれても良いっていうだけで、このサバイバル生活が一気に楽になるよな。
さて、これからの予定を簡潔にまとめよう。
まず目的地は、通学路の途中にある活動を停止した浄水所だ。
そこに辿り着いたら安全の確認をして、睡眠が取れそうな場所を確保。
ゾンビや人間が入ってこれないように入り口を塞ぐ事も重要だな。
持ってきた食料だけでも、切り詰めて食べればそれなりにもつ筈だ。だから余裕がある間に周囲の店に向かい、物資を調達。もし火事が止まっていて、家が燃えてないのなら、家に戻ろう。防御力は低いだろうが、やっぱ家の方が落ち着くだろうからな。もし浄水場が駄目だったら、最悪知らない人の家を使おうかな。
「うーん……でもこの生活じゃあいつまで持つか……」
店にある食べ物は無限じゃないし、一部を除いた食べ物はいずれ腐る。他にも生き残りの人間はいるだろうし、調達出来る食べ物にも限界があるだろう。
「やっぱ自給自足しないといけない日が来るんだろうなあ」
自給自足か……。
暇があったらスマホで調べなければならない。
思いつくことと言えば、野菜の種を調達してきて撒く、山や川にいる動物や魚を狩って食べる、くらいだな。野菜に関しては作る場所を探さないといけないし、動物を狩るには道具がいるし、魚なんて釣った事無い。
問題だらけだ。
こんな状況では俺の娯楽だった漫画やアニメの続きを見ることは叶わないだろうなあ……。余裕があったら書店で本を手に入れてこよう。これからの人生で楽しめる事を見つけるのは、意外と大切だからな。退屈は人を殺すと言うし。
そんな事を考えながら、俺は数日前に目の前で女の人が喰われ、狂いそうになったあの場所に辿り着いた。道路にはドス黒い染みが残っている。あの人の姿はない。まあ肉を探して歩いて行ったのだろうな。
あれを思い出しても、もうそこまでショックを受けない自分が、少しずつ壊れ始めている事を自覚する。だけどそれでいい。適応するには普通のままじゃ無理だから。
思ったよりもこの辺りにはゾンビがいなかった。たまに何匹かウロウロしている程度だ。この程度なら大して身構えなくても楽に歩いていける。
浄水場を目指して歩いていると、後ろの方からエンジンの音が聞こえてきた。振り返ると、黒い大きめの車がコチラに走ってきていた。正面には、ゾンビを車で轢いたのだろう、赤い血肉がベッタリと付着していた。車は俺の近くにやってくると停止した。窓が開き、中から三十代ぐらいの眼鏡を掛けた気弱そうなおっさんが顔を出した。
「君、大丈夫か? 一人かい?」
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