複雑・ファジー小説
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- 俺だけゾンビにならないんだが
- 日時: 2013/08/20 22:05
- 名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)
ゾンビ物です。
残酷な表現が苦手な方はお気をつけください。
荒らしや誹謗中傷などはちょっと止めてください。
誤字脱字を見つけましたら、教えていただけるとありがたいです。
不定期更新、急に更新止まるかも。
中編くらいを想像しています。
目次
第一話「俺だけゾンビにならいんだが」>>1>>3>>5>>6
第二話「血肉内蔵脳漿の中を進め」>>8>>10>>13>>14>>15
第三話「こびりつく悲鳴」>>16>>18>>21>>25>>27>>30>>32>>35>>36
第四話「ゾンビよりも疲れる対人関係」>>37
- Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.3 )
- 日時: 2013/08/01 21:07
- 名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: P/sxtNFs)
寒い。
暗い。
深海の底にたった一人で沈められているような。
寒い。
暗い。
深海の底にたったひとりで沈められているような。
さむい。
くらい。
しんかいのそこにたったひとりでしずめられているような。
♪
沈んでいた意識が、急激に浮上する。
暗闇に包まれていた全身の感覚が蘇ってくる。
ゆっくりと、俺は目を覚ました。
寒い。
ここはどこだろう。
俺はポケットからスマホを取り出して、時間を確認する。
午後一時か。
音楽の授業はとっくに終わっていて、あれからもう二時間近く経過している。
もう五限目が始まってるじゃないか。
行かないと。
そうして立ち上がろうとして、俺は床にぶちまけられた大量血を見た。乾燥して地面にべっとりと赤黒い染みを作っている。それを見た瞬間、俺は全てを思い出し「ひぃい」と悲鳴を上げて壁にもたれ掛かる。
ゾンビが現れて、襲われて、見捨てられて、俺は……俺はゾンビになったんじゃなかったのか? 何故意識を保っている?
深呼吸して自分を落ち着かせながら、俺は女子生徒に食い付かれた腕に視線を向ける。制服の裾は千切られており、傷口から出た血液で赤黒くなっている。俺は裾を恐る恐る捲る。
「なんだこれ……」
肉を食い千切られた筈の傷口が、もうふさがり掛けていた。皮膚が破れ、ピンク色の肉が露出しているものの、それが既に半分以上治り掛けている。当然、血も止まっている。ゆっくり傷口を触ってみた。まるでタオルの上から触っているかのように、腕を触る感覚が鈍い。露出している肉をつついてみるが、多少の痛みしか感じない。
スマホの画面を利用して確認してみたが、噛み付かれた首元や唇も同じように、半分以上治り掛けていた。そして同じように強く触っても何かを介しているかのように、感覚が鈍い。傷口以外の部分を触ってみたが、やはりほとんど何も感じない。
訳が分からなかった。
この状況に頭がどうにかなりそうだった。
落ち着け……落ち着くんだ。
まず現状を確認しなければ。疑問も纏めておこう。
・学校にゾンビが出現→原因は不明。
・ゾンビに噛まれると同じようにゾンビになる→真偽は不明。傷を負った生徒がゾンビになっていたから、何かが原因でゾンビになるのは確か。
・噛まれた筈の俺はゾンビになっていない→原因不明。まだゾンビになっていないだけで、これからなるのかもしれない。
・傷口が塞がり掛けている→ゾンビに噛まれた影響?
・身体の感覚が鈍い→ゾンビに噛まれた影響?
こんな所だろうか。
分からない事ばかりだが、多少は落ち着きを取り戻す事が出来た。
俺の身体に起きている事は時間が経てば嫌でも分かるだろう。自分の身体に異常が起きていると言うのは怖くて仕方がないが、どうにも出来ない。
スマホを利用して、家族に電話を掛けてみる。しかし繋がらない。何度掛けても、家族の誰にも繋がらなかった。家の電話にも掛けてみるが、誰も出ない。警察や救急車に電話しても、会話中だか何だかで繋がらない。仕方がないので安否と場所を問うメールを送っておく。
それからスマホのアプリを利用して、ネット上の掲示板を開く。そこで『ゾンビ』というワードを検索する。
「…………」
恐ろしい数、ワードがヒットした。表示されたタイトルをひと通り見る。どれもが『ゾンビが現れた』とか『世界中でバイオハザード発生』だとか、そんな感じだった。
一番上にある物を開いて閲覧すると、現在起こっている状況についてまとめてあった。
世界中で同時にゾンビが発生したこと。
そのせいで世界中が大混乱になっていること。
ゾンビに噛まれたらゾンビになるということ。
ゾンビを殺すには、脳髄を破壊するしかないということ。
ゾンビは音と臭いに反応するということ。
大体が俺の予想通りだった。
掲示板上も大混乱になっていて、『俺ゾンビに噛まれたワロリンヌwwww』『母さんがゾンビになってるはwwww』『ゾンビになる前に自殺するわw』などと言った書き込みや、『現在、どこどこに隠れています。助けてください』と言った救助を求める書き込みなどがあった。
噛まれても生きているという俺の状況について、何か知る手がかりが無いか探したが、どこを見ても『噛まれたら終わり』としか書かれていなかった。
ある程度の情報は手に入った。俺が今まで見てきた様な、ゾンビ系の映画と同じような事が起きているという訳だ。
さて……ここからどうしようか。
- Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.4 )
- 日時: 2013/08/02 14:15
- 名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: P/sxtNFs)
>>2
コメントありがとうございます。
主人公が喰われるシーンは少し気合を入れて描写しました。
ありがとうございます。
更新頑張ります
- Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.5 )
- 日時: 2013/08/02 21:03
- 名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: P/sxtNFs)
世界中でゾンビパニックが起こっていると言う事は、救助はあまり期待できない。当然、自衛隊や警察といった組織は既に動き始めているだろうし、映画のセオリー通りならば、もう既にかなりの数の自衛隊員や警察官がやられているんじゃないだろうか。掲示板でも、自衛隊の基地でもパニックが起きていると書かれていたしな。もし、今後自衛隊が体勢を整えることが出来たとしても、救助が開始されるのは数週間先になるんじゃないだろうか。
それから、当然食料の流通は止まる筈だ。だから食べ物を確保する必要がある。
後は安全な場所だ。
だが、安全な場所といっても中々思いつかない。スーパーなどの大きな建物は確かに頑丈だが、その分人が集まっている。現状、出来るだけ人が集まる場所は避けた方が良さそうだ。
俺の現在地点は学校。
家からはいつも自転車で登校している。大体四十分くらいの距離だろうか。山が近くにあって、静かな住宅街にある。
この市は都会と言うほど栄えてはいないが、田舎というほど寂れた場所ではない。中間辺りだろうか。映画に出てくるようなショッピングモールも無いことは無いが、ここからは自転車でも一時間以上掛かる。
やはり、取り敢えず家に向かってみるか。家族がどうなっているかも気になる。向かう途中に、幾つか店があったな。スーパーに薬局、コンビニ、あと日曜大工センター。
スーパーは危険度が高いからスルーして、薬局とコンビニ、あとホームセンターには行っておきたいな。だけど色々な店によったとしても俺一人じゃそんなに持てないな。コンビニは品揃えがいいが、日持ちしそうな食べ物は少なそうだ。薬局なら非常用の食料や医療品もあるだろう。
よし、家に向かいつつ、薬局とホームセンターに寄って食べ物、医療品、後武器なんかを手に入れよう。と言っても、ホームセンターにはあまり言ったことが無いから、何があるのかイマイチ分からないのだが。まあ木材やバール、包丁といった使えそうな武器を幾つか回収しておけばいいだろう。
さて……今後の予定は決まった。
後は駐輪所に止めてある自転車を回収して、向かうだけだが……。
学校の中、ゾンビだらけだよな……。
♪
個室の扉を開けて、外を覗いてみる。トイレの入口から見える範囲ではゾンビはいない。
トイレから出る段階になって、俺の心臓は暴れ狂う様に脈打っていた。呼吸が苦しい。やっぱりこのままトイレの中に引き篭っていようかと考えたが、ここにいても先はない。まだゾンビが発生してあまり時間が経っていない。今後状況は悪くなっていく一方だ。今の内に食料と安全を確保して置くべきだ。
そう自分に言い聞かせて、音を立てないように外に出る。ゾンビは音と臭いに反応する。静かに動いていれば見つからないだろう。臭いの方はどうしようもない。
息を殺し、足音を立てないようにしながら入り口へ向かう。首だけ入り口から覗かせて、廊下の様子を——。
「っ」
すぐ目の前に、男子生徒のゾンビがいた。少し顔を動かせば顔と顔が触れ合うくらいの距離だ。白濁した双眸と俺の視線がかち合う。
呼吸が止まった。全身の筋肉がガチガチに硬直して、身動きが取れなくなる。
ゾンビは臭いでも人間を感知する。この至近距離じゃあ、臭いは嗅がれている筈だ。
終わった。
半ば諦めて、目を瞑る。
「…………。…………?」
しかし、いつまで経ってもゾンビが動き出す様子はない。
低い唸り声を上げながら、ゾンビは俺を無視してフラフラと廊下を歩いて行ってしまった。
「……っはぁ……はぁ」
止めていた息を吐き出す。固まっていた身体が動き出す。
死ぬかと思った。もう駄目かと思った。
覚束ない足取りで去っていくゾンビの後ろ姿を眺めながら、俺は息を吐き出す。
しかし、どういう事だろうか。掲示板ではゾンビは音と臭いに反応すると書いてあった。色々な場所でその様な書き込みを見たから、デマでは無い筈だ。こんな状況でもふざけたノリでデマを書く奴はいるかも知れないが……。
取り敢えず、移動するか……。
廊下には男子生徒のゾンビが三、女子生徒のゾンビがニ、教師と思われる男性のゾンビが一。
計六人のゾンビがいる。
いや……もう人と数えるのはおかしいか。
六匹のゾンビがいる。
俺は音を立てないようにして、ゆっくりとトイレから外に出る。窓からはいつもと変わらない青空と太陽が見えるのに、学校の中では化物が徘徊している。
俺が今いるのは第二体育館の近くにあるトイレ前だ。幸いなことに一階。ここから少し歩いた所に下駄箱がある。そこから外に出れば、すぐ目の前に駐輪場がある。そこで自転車を回収しよう。
下駄箱の方向に向かって、ゆっくりと歩く。途中で教師ゾンビとぶつかりそうになったが、何とか躱す。
それにしても、すぐ近くに俺が歩いているというのにゾンビはまるで俺に反応しない。やはり臭いで判断するというのはデマなのか?
不気味な静けさが広がる学校の中を、ゆっくり一歩一歩進む。今すぐ走りだしてしまいそうになる自分を抑える。大丈夫だ。音さえ、音さえ立てなければゾンビにはぶつからない。
「あ」
下駄箱の一歩手前。曲がり角から出てきたゾンビと軽く肩がぶつかり合い、思わず小さい声を漏らしてしまう。ゾンビはその声に反応し、俺の腕をガッチリと掴む。
嘘だろ。またかよ。
そして大きく口を広げ、腕にガブリ。
生暖かい物が腕に広がり、ブチブチと筋肉繊維が千切れる。だと言うのに、感覚が鈍くなっているお陰で痛みは以前よりも弱かった。そのお陰で何とか悲鳴を上げずにすんだ。他のゾンビは俺に気付いていない。
ゾンビは俺の肉を咀嚼する。
「は?」
しかしそのまま飲み込む事をせず、ペッと地面に吐き出した。ドチャリと肉塊が地面に転がる。血と唾液でヌメっているそれに興味が無くなったかのように、ゾンビは俺から腕を離し、去っていった。
何が、どうなってる?
- Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.6 )
- 日時: 2013/08/03 20:42
- 名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)
息を殺し、下駄箱にまで辿り着く。緊張からくる汗と、傷口から流れる血のせいでシャツや制服はグショグショだ。早く家に帰ってシャワーを浴びたい。たどり着ければ、だけど。
入口付近にゾンビが五匹彷徨いている。俺は音を立てないように下駄箱から自分の靴を取り出し、履いているスリッパを脱ぐ。それから靴を履いて、入り口を塞いでいるゾンビを確認。
深呼吸。
それから思い切って、スリッパを近くにあったロッカーに投げつける。ガンッと大きな音がなり、入り口にいたゾンビは音のした方に向かって歩き出す。俺はそれを見ながら、逆側から入り口へ向かう。
やはりそうだ。
ゾンビは今の所音にしか反応していない。音さえ立てなければ、すぐ隣を通っても気付かない。これで確認が出来た。
音だけにしか反応しないのなら、意外とこいつらから逃げるのは簡単かもしれない。パニックになって叫んだりしなければ、こっそり逃げ出せる。
しかし……。
俺は先程ゾンビに食い千切られた腕の傷を眺める。噛まれてから間もないと言うのに、もう血が止まっている。明らかにこの回復速度は異常だ。もしかしたら、俺がゾンビになっていないのと関係があるのかもしれない。
これは俺の妄想だ。
普通の人は、ゾンビに噛まれたら同じようにゾンビになる。しかし、俺はゾンビに噛まれたというのに一向にゾンビになる気配がない。つまり、俺はゾンビに対して何らかの耐性を持っているのでは無いだろうか。しかし耐性を持っていても、全く影響が無いわけではなかった。噛まれた影響で俺の治癒能力が上昇。それからゾンビは俺の臭い、もしくは肉に反応しなくなった。
何の確証も無いが、取り敢えず現状に説明はつく。
「よし……」
ゾンビ達がロッカーに群がっている間に、入り口から外へ飛び出す。外にいたゾンビも音を聞きつけてこちらに向かってきていたが、音を立てずに歩く俺は素通りしていく。
駐輪場はすぐ目の前だ。
早足になるのを抑えながら、ゆっくりと自分の自転車に近付く。
ポケットの中にある、定期入れの中に入れておいた自転車の鍵を取り出す。震える手を何とか制しながら、鍵穴へ差し込む。カチンと音がなり、自転車のロックが外れた。
喜んだのも束の間。ロッカーの音に引き寄せられていたゾンビの一匹がその音に気付き、ヨロヨロと俺に近付いて来た。
「ばっばか、来んな」
思わず小声でそう言うが、ゾンビに理解できる頭は無い。口を開き、顔を前に突き出した不恰好な姿で、俺に迫ってきた。
痛みが鈍くて傷がすぐに治るとはいえ、嫌な物は嫌だ。
近付いてくる顔に向かって、無駄だとは分かっていても思わず右手でパンチを叩き込む。
「は?」
そして俺は本日何回目になるのか、呆けた声を上げた。
ゴッと鈍く嫌な音が響き、ゾンビの首が変な方向へ曲る。それだけではない。殴られた勢いで、ゾンビが漫画の世界の様に浮き、後ろに飛んだ。ゾンビは地面に叩きつけられ、ビクビクと痙攣する。
何だ今の……。ゾンビの首が曲がって、吹っ飛んだぞ。
俺の記憶が正しければ、俺の腕力はここまで強くない筈だ。喧嘩慣れしている訳でも、格闘技を習っている訳でもない。そんな俺のパンチにここまでの威力がある筈がない。ゾンビになってバランス感覚が悪くなっているとはいえ、力は化物並みだし、身体の重さも変わっていない筈だ。
そして、殴った腕の感覚が鈍い。殴った瞬間、腕に強い衝撃が走った。感覚が鈍くなっているのにだ。それから腕に鈍痛が走り、動かしにくくなった。指も思ったように動かせない。もしかしたら、骨が折れているのかもしれない。
殴っただけで相手が吹っ飛び、自分の腕の骨が折れるって、なんだよそれ。
「どうなっちまってんだ……俺の身体」
呆けている間に、倒れているゾンビは折れ曲がった首のまま立ち上がった。再び俺に近付いて来ている。殴った音で他のゾンビも俺の方に向かい始めている。いつまでもここにいるわけにはいかない。
感覚のある左手で自転車のハンドルを掴んで車体の向きを変え、急いでサドルに跨る。そして近付いていくるゾンビ達の間を通り抜けながら、校門に向かった。自転車の音に反応して、多くのゾンビがコチラを振り向くが、それを無視して突っ切る。
そして俺は校門から飛び出した。
空は相変わらず、不気味な程青かった。
- Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.7 )
- 日時: 2013/08/04 07:10
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: TM72TTmK)
ゾンビ耐性、ゾンビが大量にいる中では有利なスキルですね!
でもそのせいで、ゾンビになっていない人からいろいろされそうで、主人公君のことが心配だ・・・
ゾンビシリーズで一番面白いかもしれませんこれ!
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