複雑・ファジー小説

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俺だけゾンビにならないんだが
日時: 2013/08/20 22:05
名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: 7NLSkyti)

ゾンビ物です。

残酷な表現が苦手な方はお気をつけください。
荒らしや誹謗中傷などはちょっと止めてください。
誤字脱字を見つけましたら、教えていただけるとありがたいです。

不定期更新、急に更新止まるかも。

中編くらいを想像しています。

目次

第一話「俺だけゾンビにならいんだが」>>1>>3>>5>>6
第二話「血肉内蔵脳漿の中を進め」>>8>>10>>13>>14>>15
第三話「こびりつく悲鳴」>>16>>18>>21>>25>>27>>30>>32>>35>>36
第四話「ゾンビよりも疲れる対人関係」>>37

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.38 )
日時: 2013/08/22 22:23
名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: P/sxtNFs)


 掠れた声で男の人は話し掛けてきた。少し警戒しつつ、「ええ、そうですよ」と返事を返す。
 車の中を覗くと、運転席に男が一人、後ろに男女が四人乗っていた。店から調達してきたのか、車には食料が大量に入った買い物カゴが積まれていた。

「こんな所を歩いていたは危険だ?。僕達の車に乗りなさい」
「いえ……大丈夫です。行く宛があるので……」

 ゾンビに噛まれても死の危険が無い今、最も俺が恐れるべきは人間だ。それに一人ではゾンビに相手にされなくても、他の人間が入れば群がってくる。
 男の人は眉を潜めると「いや……そうか。しかし食べ物は大丈夫か?」と聞いてきた。

「あー、食べ物とかはリュックサックの中に入れてあるので大丈夫です」
「……そうか」

 男は頷くと、車の中の他の人達に何か呟いた。するとその人達は頷き、車のドアを開ける。男の人も車のドアから降りてきた。
 何だ、と警戒するよりも早く、鈍い衝撃が頭を揺すぶった。突然の出来事に何が起きたか分からず、俺は頭を抑えて後ろに蹌踉めく。額から生暖かい物が垂れてきて、俺は掌に付いたそれを見て、血だという事を理解した。

「あ、? あえ?」
「すまん。許してくれ」


 警戒だの何だの言っておいて、やはり俺は心にはまだ甘さが残っていたのだろう。気弱そうな男の手に持つ長い木材がもう一度俺の頭に振り下ろされて、ようやくその事に気が付いた。車から降りてきた他の三人の男は全員、手に武器を持っていた。殴打されて地面に倒れ込んだ俺を囲み、何度も殴り続けてくる。俺が握っていた金属バットは奪い取られ、遠くに蹴られてしまった。

「や、やめてくれ! やめ、ガッ」
「早くしないと奴らがやってくる……。早くこの子から荷物を奪っていこう」

 気弱そうな男は気弱な口調のまま、そう言って他の人に指示を出す。男達は「ああ」と返事を返すと、俺の身体を何度も何度も殴り続ける。ゴッという鈍い音と、弱い鈍痛が身体全体に広がりだす。痛覚が弱くなっていて良かった。普通の状態だったらとっくに気絶していただろう。

「し……死んだ……のか。何てことを……」
「俺達が生きてくためには仕方ねえよ……気にするな」
「よ、よし。荷物を取ろう」

 動かなくなった俺の背中のリュックサックに、男の一人が手を伸ばしてきた。その瞬間、俺は起き上がってその男の腕を掴み、力を込めてへし折る。骨が砕ける音と、男の悲鳴。他の男達が慌てて俺に武器を振り下ろす。俺は振り下ろされたうちの一つを掴み、それを奪い取る。その間に他の攻撃はモロに喰らうが仕方ない。奪いとった木材で腕をへし折った男の頭を殴る。男は悲鳴を上げること無く地面に倒れた。

「この野郎!」

 武器を奪われた男は後ろに下がり、他の二人が攻撃してくる。俺はそれを防ぐこと無く喰らい、男の一人の脇腹に木材を叩き込む。俺の力に耐えられなかったのか、手の中の木材がギシリと音を立てる。
 血がポタポタと頭から流れて視界を塞いでくる。それに構わず、俺はもう一人の方を見て笑みを浮かべた。そんな俺に恐怖を感じたのか、男の動きが一瞬止まる。そこへ手にしていた木材を思い切り投げつけた。それは男の顔に命中し、「ごあっ」と男は奇声を上げて倒れ込む。
 残ったのは、気弱そうな男一人だ。男は「ひぃ」と悲鳴を上げて逃げ出そうとするが、俺は足元に倒れている男が握っている木材を取ると、その後頭部に投げた。嫌な音がして男は地面に倒れ、動かなくなる。死んだのか、気絶したのかは分からない。どうでもいい。
 俺は急に攻撃された事に激しい怒りを覚えていた。それは男達を倒しても収まらない。遠くに蹴られた金属バットを拾うと、車の中で俺を見ている女どもを見る。直接俺に危害を与えた訳ではないが、攻撃する事を止めなかったのだ。俺に何をされても文句は言えないだろう。
 俺は車に近づくと、フロントガラスにバットを叩き付けた。大きな音を立てて砕け散る。

「ははははっ」

 俺は笑い声を上げて、車に向かって何度も何度もバットを振る。ボコボコと凹んでいく車を見るのが楽しかった。そして俺はタイヤに向かってバットを振る。一撃では壊れなかったが、二回振り下ろすとボコッと音を立てて変形した。他のタイヤにも同じようにバットを振る。これでもう車は動けない。
 中の女達は悲鳴をあげ、「やめて」と叫ぶ。あの男達は俺がやめてくれと頼んでも止めなかったぞ?

「ははははははははは! ざまぁあああああみろ! 車はもう動かねェから、自分の足で移動しなきゃいけねーぞ! ははははははははっはははは!」

 俺はわざと大声で女達を嘲笑う。その声に反応して、周囲からゾンビが集まってきている。地面に倒れている男達は未だに起き上がらない。指が動いていたり、呻き声を上げている事からまだ生きているのだろう。
 俺はそれを見て笑うと、その場から走りだした。後ろから声が聞こえてくるが無視した。
 とんだ時間を食ってしまったが、俺は今日中に浄水場に行かなくちゃならないんだからな。
 その後、彼らがどうなったか俺は知らない。

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.39 )
日時: 2013/08/23 12:28
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: vXApQJMC)

物資ゲット=生存確率アップですからね・・・・
ゾンビが蔓延ったら実際治安のいい日本もこんな強奪殺人なんかが増えるのかな
この分だと自家栽培してても人が現われて強奪されそうだな
旅をし続けるしかないのか

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.40 )
日時: 2013/08/23 16:01
名前: 名純有都 (ID: GUpLP2U1)

やっぱり、生きて行くともなると、バイオのアリスみたいに人助けなんてしている暇はありませんね……というか、自分のことしか考えられないでしょうね。

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.41 )
日時: 2013/08/23 21:01
名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: P/sxtNFs)




 あの場から離れた俺は、道路の隅っこで休憩を取っていた。ゾンビは殆どいない。
 リュックサックに入れておいたタオルで血を拭き、一応消毒液を掛けておく。ペットボトルを開けて水分を補給し、一息つく。
 殴られた痛みは殆ど無いが、少しだけ頭がクラクラする。どうせすぐ治るだろうと攻撃をわざと受けたものの、今思うとかなり危ない行為だった。自分の身体に何が起きているかハッキリと把握していないのに、治癒能力に頼り過ぎるのは危険だ。
 
「クソ……」

 あんな気弱そうな男が、突然荷物を奪う為に襲い掛かってくるなんて。つい今さっきの出来事だが、こうして落ち着いてから思い返すととんでもないショックだ。悪意や敵意を向けられた訳でもなく、荷物を奪う為だけに殺されかけた。申し訳なさそうな顔をしながらも、容赦なく武器を振り下ろす。警戒しなければならないとは思っていたが、極限状態の人間の恐ろしさを俺は知らなかった。もし俺の身体が超人の様な状態になっていなかったら、と考えるの今でもゾッとする。
 殴られた箇所から流れていた血は、座ってから十分程で止まった。スマホの画面で怪我を確認すると、殴られて避けた部分が塞がり掛かっていた。今回も治癒能力はきちんと働いてくれたらしい。
 しかし、この治癒能力はどの程度まで発揮するのだろうか。今まで肉を千切られたり、骨を折られたりと色々なダメージを負ってきたが、いずれも致命傷では無かった筈だ。もしこの先、首の骨が折れたりだとか、脊椎を損傷したりだとか、心臓を刃物で刺されたりした場合、その怪我も治るのだろうか。
 恐らくだが、治癒能力が間に合わないような、即死攻撃を喰らったらアウトだと思う。心臓はどうか分からないが、首を切り落とされたりだとか、脳天を撃ちぬかれるとかされたら死ぬだろうな。
 腕や足が千切れたりなんかした場合、くっつけたりしたら治るのだろうか。
 自分の治癒能力について想像を巡らすが、当然実際に試して見なければどうなのかは分からない。試すつもりは全く無いが。

「よし、そろそろ行くか」

 リュックサックを背負い直し、俺は立ち上がった。浄水場は自転車ならここから十分かそこらで辿り着けるが、徒歩となるとそれなりの時間が掛かる。最悪、日が暮れる前に辿り着いておきたい。この先何があるか分からない以上、少し急いだ方が良いだろう。
 周囲にゾンビがいないことを確認して、俺は再び浄水場に向かって歩き出す。
 行く途中、動かない死体が転がっていたり、電信柱に突っ込んだ車の中で藻掻いているゾンビだとか、それなりにグロテスクな物を見掛けたが、「うわぁ……」程度のリアクションで済んでいた。元々グロい物には耐性が合ったものの、ここ数日の間にグロ耐性が尋常じゃないぐらい高くなっている。下手なスプラッター映画ではもう何も感じる事が出来なさそうだな。
 それからしばらく歩き続けると、ゾンビの数がまた増えてきた。人が立て籠もっていると思われるホームセンターに近付いて来たからだ。
 遠目からホームセンターが見える。ホームセンターの屋上に誰かが立っていて、何かをしている様だ。建物の右側にゾンビが集まっていて、左側には殆どゾンビが見当たらない。
 静かにしていればゾンビに襲われない俺は、やや緊張感に欠けた表情で、それを「ゾンビ映画の一場面の様だなぁ」と眺める。多分、屋上にいる人がゾンビを右側に引き付けている間に、左側から人が出入りするのだろう。今思い出したが、普通の人はゾンビに噛まれたら一発でアウトだもんなあ。外に出るのも一苦労だろうな。
 まあいいや。俺は浄水場に向かおう。
 そう思い再び歩き出そうとした時、後ろから大きなクラクションが鳴り響いた。周囲にいたゾンビは皆視線をソチラに向ける。

「な、なんだ?」

 後ろから大きなトラックが走ってきていた。また生きた人間かよ、とせいせいする。そのトラックは凄まじいスピードでこちらに突っ込んできた。音を聞きつけてトラックへ向かっていくゾンビを撥ねながら、トラックはゾンビから俺を隠すように車体を横にして急停止した。そしてドアが開き、中から男の怒鳴り声が聞こえてきた。

「早く! 早く乗るんだ!」
「え」

 一瞬、何がなんだか分からなくなって止まる。
 ああ……恐らくこのトラックに乗っている人は俺がゾンビに囲まれていると勘違いしたんだろう。だからクラクションを鳴らしてゾンビを引き付けたのか。
 えぇ……でも乗れって言われても困るんだけどな……。俺、浄水場に向かわないといけないし。助けてくれようとしているのはありがたいんだが、その必要は無いんだよ。だって俺、ゾンビにスルーされてるから。
 どうしようか悩んでいると、トラックの中から「早く乗るんだ!」と再び怒鳴り声。乗りません、なんて言える雰囲気ではとても無かった。

「え、あー、はい!」

Re: 俺だけゾンビにならないんだが ( No.42 )
日時: 2013/08/24 13:44
名前: 沈井夜明 ◆ZaPThvelKA (ID: P/sxtNFs)

>>39
ゾンビに襲われるリスクを犯して食料を調達するよりも、いっそ人間から奪い取った方が楽ですからね。彼らも好きでやった訳ではないのですが……。

>>40
この状況になると、自分だけ助かれば良いっていう人と、助けわ無ければならないんだ!とリーダーシップを取りたがる人など、色々な人が出てくるでしょうね。


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