複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

十字星座の戦士※お知らせ
日時: 2014/02/03 23:07
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: mL1C6Q.W)

〜prologue〜  【決まった未来、変えられる未来】





……声が、聞こえる。
その声は、これが初めてではない、過去、何度も何度も、同じタイミングで現れて、同じ言葉を残していく。

———目覚めよ

と。
声は、何かを促しているようだが、その意味までは、理解することができない。
何もない空間、闇に包まれた、不安を司る、そんな場所に誘われ、その声の主は、現れる。
夢と言われている空間。それは、本人意識ははっきりとしないものだが、この空間では、それにとらわれていない。体を動かしている感覚もあれば、聞こえる声を、『声』だと認識できるぐらい、意識もはっきりとしている。しかし、そこが夢だというということも、なぜだかわかってしまう。そんな場所。
いや……夢、ということにしなければ、この事象の説明がつかないから、かってにそう思っているだけで、本当はもっと別物の可能性もあるのだが。
その声は、いつも同じことを繰り返すだけ。声の主は、三度目の呼びかけで、その姿を表すということは、過去この空間にきているため、はっきりとわかっている。

———目覚めるのだ

目覚めよ……その意味は、まるでわからない。だけども、その声には、どこか焦るような響きが有り、自然と自身の心が不安に駆られるのを感じる。その時必ず、自分はこういうのだ

……どう言う意味だ

と。
意識もしっかりとしている、体の自由もきく、だが、この声は、自分の意識しないうちに、勝手に発せられる。
このことにも、もう慣れた。
けども、その声は、その言葉を無視して、さらに言葉を紡ぐ。

———十字星座の光よ

その瞬間、闇に包まれた空間に、ひとつの光が生まれる。
手のひらサイズに収まりそうなほどの光は、十字架のような形をしていて、それが、まばゆいばかりの光を放つ。
それが、声の正体。
そうだという証拠もなければ、声が自身の正体を明かしたわけでもない、しかし、なぜだか……俺には、わかってしまう。
声に、その光の正体に従うべきだと、俺の体は勝手に進みだし、その光に手を伸ばそうとする。
いくら抗っても、いくら意識がはっきりとしていても、勝手に体は動きだし、やがてその光に手が届く。

———世界はやがて、終焉を迎える。

俺の手に包まれた十字架は、さらに声を発する。脳に直接語りかけてくるかのように。

———おまえの力が、おまえに託された力が、必要だ

その瞬間に、手のひらに包まり、光をかすかに漏らしていただけの十字架が、闇を照らさんばかりに、強烈に光りだす。
……そして、闇が払われた、その先には……荒れ退んだ世界が広がっていた。
世界の中心には、人の形をした、なにかが立っている、その周りには……無数の人が、積み重ねられるようにして……死んでいた。
その世界は異様だった、その空間は異常だった。世界の中心に、一体の人の形をしたなにかが立ち……その周りには、誰ひとりとして、生きている者はいなかった。
人の形をしたなにかは笑っている。甲高い、悲鳴のような声をあげて、周りに積み重ねられるようにして、死んでいる人間を、蹴り飛ばし、また笑う。
あるものは、心臓を貫かれていた。あるものは、首がなくなっていた。またあるものは、人の形すら、していなかった。
無数に転がる死体、死体……笑う、人の形をしたなにか。
空は紅く染まり、人々が住んでいたであろう街は、背景の中、炎に包まれている。
ここで、俺が思わず、つぶやく

……なんなんだ……これは……

この世界が、現実でないことを、俺は知っている。こんな大量殺人、街の一つが炎上してしまうようなことが起きれば、当然、知らされているはずだからだ。
けれど……俺の脳のどこか……俺の心のどこかで、これは「現実ではない」と、「起こり得るはずがない」と、楽観視はできず……再び聞こえる声に、問う。

———因果律を捻じ曲げ、やがてすべてを滅ぼす『狂神』が、生まれる

……これは、絶対に、起こることなのか?

声は答えない。

……絶対に起こるはずが、ないよな?

そう、俺が言ったとき……背景に広がる世界の中で……、人の形をしたなにかに、挑む人の姿が、目に映る。
それは、肩までかかる、元は白であったであろう髪を、赤い血で染めた、15、6歳の少年だった。
少年は、武器をとり、人のかたちしたなにかに挑む。しかし、人のかたちをしたなにかは、その少年を笑いながら……

殺す

心臓を、手で一突き。人の力とは思えない力で貫き……少年を蹴り飛ばす。
その時、吹き飛ばされた少年の顔……それは、何度この世界に来ても、何度違うと思っても、覆ることはない……
そう……その少年の顔は……姿は、間違いなく……

俺自身、そのものだった———

その光景が流れた後、笑い声とともに、その世界は、崩れ去る。ガラスが砕け散ると同じときのように、音をたてて、その世界に終幕を下す。
これが……夢の終わりの合図。
その合図が現れた時、俺は、ただただ、問う

……あれは、なんなんだ

……こんなことが、起きるはずないよな?

……あの「人」は、なんだ?

……どうして、俺があそこにいる?

その質問に、十字架は答えない。
やがて、世界が終わりを告げる———
その時……十字架は……決まってこう、囁く

———破滅を止めたければ……目覚めるのだ……十字星座の光の戦士よ




———————————————————————————————————



はじめまして、Ⅷという者です。ゆっくり小説を書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。







※お知らせ
(現在進行形で、3話を執筆(入力)中のため、更新が追いついてしまった際には、しばらくの間更新を停止し、ある程度まで進めたところで再び更新させます)


(メインキャラクターの顔のイメージ画up予定)







prologue >>0

一章【正義の影、悪の希望】
1話 【Peace(平和)】
 >>2 >>3 >>4 >>5
 >>8 >>11 >>12 >>13
 >>14 >>15 >>16 >>17
 >>20 >>21 >>22 >>23
2話 【Lie(嘘)】
 >>24 >>25 >>26 >>27
 >>28 >>29
3話 【Collapse(崩壊)】
 >>30 >>31 >>32 >>33
>>34 >>35 >>36 >>37
>>39 >>40 >>41 >>42
>>43



4話 【Warrior of the cross constellation(十字星座の戦士)】
(3話終わり次第)




キャラクターイメージイラスト(>>38)






キャラクター設定


主人公
リヒト・タキオン 
性別/男
年齢/16歳
身長/170
体重/60
十字星座の光の戦士
戦闘職業『白迅剣士』
初期使用武器『片刃直剣/ロングブレード』
性格/物事に対して、つまらなさそうに見つめ、人との交流をあまり好まない。だが、一部の人間、昔馴染みの人たちとは、仲が良い。昔はあまりひねくれた性格ではなかったのだが、『夢』を見るようになり始めてから、性格がゆがみ始める。光というよりも、闇のような心を持つ少年



ヒロイン
シエル・グランツ 
性別/女
年齢/16歳
身長/150
体重/41
?
戦闘職業『黒迅剣士』
初期使用武器『細剣/ルビアス・レイピア』
性格 リヒトの幼馴染であり、おせっかいな性格。リヒトが戦闘職業を始めるのをきっかけに、誰かを守るという責任感とともに、自身も戦闘職業を始める。とても責任感が強く、仲間を大切にしている。口数が少なく、いつも眠たげにボーっとしているのが特徴の、優しい心を持つ少女




メインキャラクター   (今現在の暫定的な設定)(物語のネタバレになる要素は?と表記する)


フラム・ヴァルカン
性別/男
年齢17歳
身長/174
体重/67
?
戦闘職業『炎明騎士』
初期使用武器『片手大剣・フレイムタン』
性格 同じく、リヒトの幼馴染。熱い心を持ち、人のため世のために活躍したがる、目立ちたがり屋。性格もお気楽で、軽い。しかし、人を守るため、大切な人を自らの手で守るべく、戦闘職業を始める。炎のように暖かい心をもつ少年



??
性別/女
年齢/??歳
身長/??
体重/??
?
戦闘職業『??』
初期使用武器『??』
性格/?


レイ・タキオン
性別/女
年齢/15歳
身長/148
体重/40
タキオンの継承者
戦闘職業『白迅剣士』
初期使用武器『長剣・タキオン』
性格/  弱気で、いつも兄であるリヒトの後ろに隠れている、内気なタイプ。しかし、困っている人を放っておけない、心にやさしさと、儚さを宿した少女。
1000年前の戦争により、英雄『タキオン』が使ったといわれている、『長剣・タキオン』に認められし少女。



ルイン・?
性別/男
年齢/??歳
身長/??
体重/??
??
戦闘職業『??』
初期使用武器『??』『??』
性格/?



??
性別/??
年齢/??歳
身長/??
体/??
??
戦闘職業『??』
初期使用武器『??』
性格/?


バウゼン・クラトス
性別/男
年齢/??歳
身長??
体重??
??
戦闘職業『アポカリプス』
初期使用武器『??』
性格/?

Re: 十字星座の戦士※3話【Collapse(崩壊)】 ( No.38 )
日時: 2014/01/23 20:43
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: 74hicH8q)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=1473

シエル×リヒトを描いてみました。

Re: 十字星座の戦士※イメージイラスト ( No.39 )
日時: 2014/01/25 16:38
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: mL1C6Q.W)

誰かが悲鳴をあげた。誰かが、走り出した。それを皮きりに……人々は混乱の渦に包まれる。家から次々と飛び出した人々は、中央以外の避難所にむかうために、一斉にはしりだす。
だが、その瞬間、再び人々の動きは止まる。
街には、東西南北、そして中央に、避難所が設置されている。人々は、そこにむかうために走り出したのだが———また、人々は、顔を上げて、その避難所がある方向を、見つめる。
それぞれ避難所の近くから、宙を羽ばたく巨大な竜が姿を現した。
人々の動きはそれだけで止まる。どうしていいかわからずに、ただただ立ち止まる……そして———剣を携えるシエルをみて———

「おい!!お前剣士だろっ!!はやくあいつをなんとかしろよ!!」

と、怒鳴る。
それにつられて、べつのところからも、同じような怒鳴り声が聞こえる。それだけではすまない。次々に飛んでくるやじが、シエルの心を追い詰めていく。
竜が吼え、人々の表情は恐怖に凍る。やがてその恐怖に負けた人々が、次々にシエルを攻める。
シエルは走り出す。剣を構え、ひとまず、一番近い、南部の避難所の竜をなんとかするべく、中央より西よりの、リヒトから背を向けて歩いてきた道を振り返り……迷いを断ち切るように、走り出す。
人々の渦を、家の屋根を伝って抜け出すと、すでに、この街の戦闘職業ギルドの人々が、屋根を伝い、竜にむかって走っていく姿が、見えていた。
正直、歴戦の戦士である彼らでも、きっと、こんな事態は、初めてだろう。巨大な魔物を相手にした人もいるかもしれない。四年前、竜討伐に加わった人も、いるかもしれない……だが、今回は、全員が集中して一体を叩くことはできないだろう。シエルも、南側を担当することになったギルドに合流して、戦うことを決意する。
だが————次の瞬間

『ベルケンドの街のみなさああぁぁん……はい、ちゅうもおおぉぉぉぉく!!』

中央の竜の上から、突然響き渡ったその声に……誰もが振り返った。そしてそれと同時に……目を疑った———
そうだ……遠目からでもわかる……真紅の竜の頭で、巨大な大剣をかたに担いだ……赤きローブをきて、フードを目深にかぶっている人間の姿……そして……さきほどは気がつかなかった……竜の胸から下腹部にまでのびる傷跡は……間違いなく———
機関を象徴する……十字架———

『これよりこのベルケンドの街をぉ……この……』

人々も守るための行政機関。最強の勇士たちが集う場所。誰もが目を疑った、誰もがその言葉を疑った、誰もが、うそであってほしいと願った。歴戦の剣士たちすら、歴戦の魔術師ですら、歴戦の銃士ですら、誰も、目の前の敵に集中することができなかった……誰も———

『機関十二神将……ゼル・レギオン様が!!最高権力者、イナンナ・デスストリームに変わり……この街を、恐怖と、絶望と、破滅に陥れさせてやんよおぉぉ!!ヒイィィッハァー!!』

大仰な仕草で雄弁に語り……そして———腕を天にめがけて振り上げ……それを合図に———すべての竜が吼え———戦いが、始まった。
そのときにはもう———誰もが気がついていただろう……機関の格好をしただけの愉快犯が、街を混乱に陥れるために起こしたものじゃないかとか、機関の名を語るテロリストなんじゃないかとか、そんなことはもう、誰も考えられなくなっていた……そう……竜の存在……そして……あの真紅のローブの男から流れる、桁違いの魔力は……まさに……機関の力の象徴とも……いえたから———




Re: 十字星座の戦士※イメージイラスト ( No.40 )
日時: 2014/01/26 23:36
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: mL1C6Q.W)


「……機関……だと……」

竜が、街に現れ、ゼル・レギオンという男が、狂ったように笑う。そして人々は……我さきにと、逃げ出す。
敵は機関と名乗った。最悪の可能性が、実現した。
俺は、それをただただ呆然と眺めて……そして……怒りに燃えた。
最悪の可能性……機関が、もしも敵だった場合、ほかの街でおこった事件、小さな村でおこった事件、首都でおこった事件などは、機関から配信される情報しか知りえない俺たちは、そんなこと予知できるはずがないし、対処する方法もない……シエルのいっていることは何一つ間違いではなかったし、俺たちは、機関が、敵であることを、世界を裏切っていることを証明する手立ては、ひとつもなかった。
だが……機関は、ここで、敵であることを宣言した———四年前、母さんや父さんを殺したときと同じような……竜を連れて———

「……っ」

俺は、怒りのあまり拳を震わせる。最悪の可能性が起こったことにも、自分の危機感が足りなかったことにも……そして……母さんや父さんが殺されたとき……もしもそのとき、機関が影から手をひいていたとしたらと考えると……怒りで、頭が真っ白になりそうになる。

「ふ……っざけんな!!」

俺がそう叫んだと思った瞬間、人々の悲鳴が、さらに大きなものとなり、建物が壊れる音が、加速して、聞こえ始めてきた。

「くそが!!」

俺はすれ違う人々を無視して走り出す。剣は折れ、なにもできないのに、西側の避難所付近で暴れまわる竜にむかって、走る。
その途中、見た。無残に転がる人の死体を。
まだ始まったばかりなのに、竜は、戦闘職業の人たちが抑えてくれているというのに、死人が、もう、でていた。
そのことに、俺は顔を青ざめさせる。そうだ、けして竜の攻撃の流れ弾とかではない、竜が吹き飛ばした建物とかの破片でもない……そうだ……だとしたら考えられることは……

「機関の……兵士か」

俺は走りながらそうつぶやく。おそらく、きっとどこかに、けして少なくない数の機関の兵士がいるだろう。戦闘職業のスペシャリストたちが、こぞって一般人を……守る対象を、殺し回っているのだろう……そのことに、一層俺は、怒りを覚える。

「人を馬鹿にしやがって……」

機関が敵だったことに、絶望して動けない人は、多いはずだ。今戦っている戦闘職業の人たちも、きっと、機関が敵だなんて信じられないと思っているだろう。俺も、そんなの信じたくないし、嘘だというのならば、嘘だといってほしいと思っている……だが、四年前と同じように出現した竜、そして、この街を壊すといった、機関の十二神将。そして……無残に殺された、俺たち戦闘職業が……守るべき、人々……
間違いなくそれは……俺が思っていた最悪の可能性の具現化で———シエルの考えが、正しかった、という証明だった。
俺たちが……いや、俺が、誰に信じてもらえなくてもいい、信じてもらえなくてもいいから、その可能性があるということを、みんなに知らせておけば、もしかしたら、なにか対策ができたかもしれない。だけど、俺は、それをしなかった。危機感が足りないと言われればそうだし……臆病だと言われれば、それもまた、事実だ。
無残に転がる死体から目を背けるように、俺は走る……だが、一瞬だけ……ほんの一瞬だけ———チラりと見えた光景の中に……血まみれで倒れた……剣士の姿を———みた。

「ちっ!!」

思うより先に、体が反応して、急停止し、後ろに跳躍する。すると、俺が交わさずに、そのまま走っていたら確実に捉えていたであろう場所を、剣の残光が、霞んでいた。

「思ったよりも反応がいいですねぇ……しとめられなくて残念です」

そして、言葉とは裏腹に、あまり残念がっていない、むしろ、それを楽しんでいるかのような口調で、一人の男が姿を表す。
その男は、赤かった。もともとは白いローブだったであろう……機関の象徴のローブを、返り血で濡らし、真っ赤に染め上がったローブを身にまとい、顔はフードで覆われていて見えない。右手にぶら下げるようにして持たれて長剣は、これまでに人を何人も切ったであろう証明に、血が滴り落ちていて……そして……

「な……なんだ、その『腕』は」

Re: 十字星座の戦士※イメージイラスト ( No.41 )
日時: 2014/01/27 22:56
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: mL1C6Q.W)

その男と対峙して、怒りよりも、恐怖よりも、なによりもさきに、その男の、剣をもたない左腕に、ひどい嫌悪感を覚え、俺は質問せずにはいられなかった。
その俺の質問を聞き、男は……肩口からローブが破れ、晒されている自分の左腕を楽しそうに見つめ、ああ、とつぶやく

「『これ』……ですか。さぁて、なんでしょうねぇ」

クスクスと笑いながら、男が左腕を天に掲げる。
その左腕は、人間の腕ではなかった。そう……ドス黒い鱗で覆われ、体格に合わない太さになり、指が3本しかなく、その指先からは凶悪な爪が、ギラリと、鈍色の輝きを放っていた。
それはそう……さながら……

「魔物……」

「せええぇぇいかああぁぁぁい、よくわかりましたねええぇぇ!!」

クスクスと笑っていた男が、盛大に体を仰け反らせ、そう叫ぶ。
よく見ると、その爪からも、血が滴り落ちていて……その男が、今までに、何人も、何人も何人も何人も、人を……信じていた人々を、殺したということが、伺えた。
それがわかると、再び俺の心に、怒りが湧き上がる。未知に対する恐怖を、機関の兵士に対する恐怖を、その溢れ出る力に対する恐怖を打ち負かすほどの、絶大な怒りが、俺の行動を、俺の思考を、制限させていく。

「さてぇ……質問タイムは終わりですよ少年……。あなたも、そこらに転がってるごみくずのように……ぐちゃぐちゃにしてあげますよぉ!」

機関の兵士が、恍惚とした声で、そう叫ぶ。

「この……くされやろうが!!」

俺は吼える。怒りにまかせ、剣を鞘から抜刀し———気づく。

「おや……おやおやおや!!」

再び機関の兵士が笑う。俺のその『剣』を見て、笑う。
折れた剣を見て……機関の兵士は笑う。

「く……くそが!!」

わかっていたはずだった。自分になにもできないことは。剣が折れているのに、危機感が足りず、先延ばしにしても大丈夫だろうとか、そんな甘ったれたことばかり考えていたから、今となって、後悔するのだ。今も必死で竜と戦い、人々を安全なところに避難させようと頑張っている剣士や銃士、魔術師に合流しても同じ、フラムやレイ、シエルだって、きっとどこかで、戦っているはずだ、なのに……俺だけは、戦うことが、できない。自分の甘さのせいで、自分の弱さのせいで……そこに倒れている、仲間の敵すらも、とってやることも……
できない。

「なんでだよ……」

ここで死ぬのか、と思うと、突然恐怖が、怒りを打ち負かす。機関の兵士は未だ笑って攻撃はしてこないが、逃げる、という選択肢は、どのみち俺にはない。逃げたところで、竜の進行はきっととまらない。今ここから逃げても、どうせ別のところにも機関の兵士はたくさんいる、そんな状況で、どこに逃げろういうのか……いや。
もう逃げないって決めたはずなのに、俺は、逃げることをまっさきに考えていた。そのことに腹が立つ。苛立ちが、募る。

「もういいですよあなた……なにもできないくずは、とっとと死んでくださいな」

機関の兵士の声が、いちいち耳に触る。人々の、遠くから聞こえる悲鳴や、逃げ惑う、恐怖の声が勘に触る。竜の雄叫びが、無償に腹が立つ。建物が壊される破砕音が、五月蝿い。なにもかもが……俺を、俺の心を、逃げる方向へ、導こうとして……それに従おうとする、俺自身に一番、腹が立つ。

「なあ……わかってんだろ」

機関の兵士が、詰め寄ってくるのがわかる。魔物と化している左腕を振り上げ、死へと導こうとする。だが、恐怖は、どこかに消えていた。ただ、俺は、思った。ただ、俺は、思い出した。世界が、破滅へと近づいているとき、十字星座の戦士の力が必要になると、ここは、もう、そんな世界なんじゃないのかと、俺は、思った。自分自身の力じゃなくてもいい。
誰かに託された力だってなんでもいい、俺は……もう……逃げたく、ないんだ。大切な場所を、人を……守りたいんだ。

「そろそろ、力を貸せよ……」

俺の呼び声に呼応するかのように、右手の甲が、熱くなる。だが、俺は、それを無視するように、今この瞬間だけ、この現実のすべてを無視して———『夢』に、語りかける。
今日だけ見ることのなかった夢に、今日だけ、その言葉をきかせなかった夢に、今日だけ、映像をみせなかった夢に、俺は———語りかける。

「いい加減に……目覚めやがれ!!」

———目覚めるのだ……

声が、響く。脳内に直接語りかけるようにして、その声は響く。その瞬間に、手の甲が、焼けるような熱さに包まれ……そして———

「はい、さようなら」

Re: 十字星座の戦士※3話【Collapse(崩壊)】 ( No.42 )
日時: 2014/01/29 19:39
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: mL1C6Q.W)

と声が聞こえた瞬間に、俺は、剣を……折れた刀身から、まるで最初からそこにあったと言わんばかりの、光の刃が形成されたその剣を……相棒を構え、爪をギリギリのところで、食い止める。

「むっ!?」

機関の兵士が、なにもしてこないと踏んでたのだろう、俺の行動に驚き、すぐに腕をひっこめて、後ろにステップする。俺は、肩で息をつきながら、機関の兵士の行動を伺う。
身体的に、なにもかわった実感はないし、今まで以上に動けるとは思えない。新しい技を覚えた感覚もないし、なにかが目覚めたという実感もない。だがしかし、なにかが目覚めた……なにかが、夢が、俺に力を貸したという証明として……折れた刀身の先から、光が、刃となりかわり……一本の剣が、俺の手には、握られていた。

———今のお前では、それが限界だ

頭の中に、声が再び聞こえる。俺は、なにが限界なんだ、とその声に返すように疑問を思い浮かべると、声が、夢とはまるで違い、返答を返す。

———十字星座の戦士の力に慣れていないお前の身体では……すぐに壊れてしまう

そういうことか、と、俺は納得する。ようは、剣をもったことがないやつが、いきなり実戦で剣を使おうとしても、なにもできないのと同じだ。慣れろ、といいたいらしい。
今まで受け入れようとしなかった力。実感もわかないし、正直なにがどんな理屈でこんな力がつかえるのかだってわからない。剣をなにもないところから作り出す魔法だってたしかに存在はするが、俺にそんな高等な魔術は使えないし、ましてや壊れた剣先から生み出すなんて聞いたことがない。
だが、そんな、ありえない力が、必要になってしまうほど……世界がやばい状態だっていうのは、もう、十分理解した。
得体の知れない力……十字星座の———

———さあ……ここから先は……お前の戦いだ……十字星座の……光の戦士よ

光の、力———

「光……ですか……そうか……そうですか……あなたが———」

機関の兵士が、なにかをつぶやくのが聞こえる。だが、俺は、その声を無視して、一直線に、詰め寄る。
相手が機関の兵士であろうが、一流の戦闘職業だろうが、魔物の腕を持とうが、俺にできるのは、恐怖に怯えることではなく……それが敵だというのならば、自分自身を、戦って、守りぬくことのみだ。俺が生き残ることで、救える人々がいるのならば、俺が戦うことで、救える人がいるのならば、俺は、逃げるわけには、いかない。

「『魔光刃』!!」

剣を走りながら振り下ろし、光の粒子がまとわりついた剣先を少しだけ地面に触れさせる。そこから波紋が伝わり、光の衝撃波が、地面を伝い、機関の兵士を襲う。機関の兵士は、それをするりとかわすと、また、クスクスと笑い始める。

「……あなたが、レジスタンスの最後の希望でも……力をたいして使えないのならば、話は別、所詮くずはくずのままのようでしたねぇ!!」

かわしたかと思うと、機関の兵士は、それをほんのすれすれでよけただけで、すぐに態勢を立て直し、真っ向から俺に迫る。
考える暇はない。技を使うか、そのまま技術で攻めるか……俺の信じた道を、行けばいい。

「『魔狼剣』!!」

機関の兵士がそう叫ぶ。剣のまわりに粒子がやどり、それが狼の形を形成し、機関の兵士は、その狼が宿った剣を、まっすぐに突き出す。
突き出すと同時に、その狼だけが雄叫びをあげ、俺に一直線に向かう。それを俺は……技をつかうことなく、剣を思い切り斜め上から斜め下に切り下げ、狼を消し飛ばす。

「『狼連牙』!!」

だが、相手はオリジナルコンボをつなげるために、一度後ろに跳躍し、そこから三度、同じように粒子の狼が宿った剣を、三度突き出す。一度、二度、三度と突き出すたびに狼が現れ、咬み殺さんばかりの勢いで俺に肉迫する。だが、俺は、まだ技を使わない。

「ふっ!!」

一体目の狼を切り捨て、二体目は剣で受け流し、三度目は、剣で受け止め、弾く。その一瞬にできた隙に、機関の兵士は、何十体もの粒子の狼を生み出し、俺に放っていた。

「ちっ!!」

さすがに、交わしきれないと思い、俺は走るのをやめ、後ろに跳躍する。だが、四方から迫るすべての攻撃に耐え切れるとは思えない。技をつかわなければ。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。