複雑・ファジー小説
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- 十字星座の戦士※お知らせ
- 日時: 2014/02/03 23:07
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: mL1C6Q.W)
〜prologue〜 【決まった未来、変えられる未来】
……声が、聞こえる。
その声は、これが初めてではない、過去、何度も何度も、同じタイミングで現れて、同じ言葉を残していく。
———目覚めよ
と。
声は、何かを促しているようだが、その意味までは、理解することができない。
何もない空間、闇に包まれた、不安を司る、そんな場所に誘われ、その声の主は、現れる。
夢と言われている空間。それは、本人意識ははっきりとしないものだが、この空間では、それにとらわれていない。体を動かしている感覚もあれば、聞こえる声を、『声』だと認識できるぐらい、意識もはっきりとしている。しかし、そこが夢だというということも、なぜだかわかってしまう。そんな場所。
いや……夢、ということにしなければ、この事象の説明がつかないから、かってにそう思っているだけで、本当はもっと別物の可能性もあるのだが。
その声は、いつも同じことを繰り返すだけ。声の主は、三度目の呼びかけで、その姿を表すということは、過去この空間にきているため、はっきりとわかっている。
———目覚めるのだ
目覚めよ……その意味は、まるでわからない。だけども、その声には、どこか焦るような響きが有り、自然と自身の心が不安に駆られるのを感じる。その時必ず、自分はこういうのだ
……どう言う意味だ
と。
意識もしっかりとしている、体の自由もきく、だが、この声は、自分の意識しないうちに、勝手に発せられる。
このことにも、もう慣れた。
けども、その声は、その言葉を無視して、さらに言葉を紡ぐ。
———十字星座の光よ
その瞬間、闇に包まれた空間に、ひとつの光が生まれる。
手のひらサイズに収まりそうなほどの光は、十字架のような形をしていて、それが、まばゆいばかりの光を放つ。
それが、声の正体。
そうだという証拠もなければ、声が自身の正体を明かしたわけでもない、しかし、なぜだか……俺には、わかってしまう。
声に、その光の正体に従うべきだと、俺の体は勝手に進みだし、その光に手を伸ばそうとする。
いくら抗っても、いくら意識がはっきりとしていても、勝手に体は動きだし、やがてその光に手が届く。
———世界はやがて、終焉を迎える。
俺の手に包まれた十字架は、さらに声を発する。脳に直接語りかけてくるかのように。
———おまえの力が、おまえに託された力が、必要だ
その瞬間に、手のひらに包まり、光をかすかに漏らしていただけの十字架が、闇を照らさんばかりに、強烈に光りだす。
……そして、闇が払われた、その先には……荒れ退んだ世界が広がっていた。
世界の中心には、人の形をした、なにかが立っている、その周りには……無数の人が、積み重ねられるようにして……死んでいた。
その世界は異様だった、その空間は異常だった。世界の中心に、一体の人の形をしたなにかが立ち……その周りには、誰ひとりとして、生きている者はいなかった。
人の形をしたなにかは笑っている。甲高い、悲鳴のような声をあげて、周りに積み重ねられるようにして、死んでいる人間を、蹴り飛ばし、また笑う。
あるものは、心臓を貫かれていた。あるものは、首がなくなっていた。またあるものは、人の形すら、していなかった。
無数に転がる死体、死体……笑う、人の形をしたなにか。
空は紅く染まり、人々が住んでいたであろう街は、背景の中、炎に包まれている。
ここで、俺が思わず、つぶやく
……なんなんだ……これは……
この世界が、現実でないことを、俺は知っている。こんな大量殺人、街の一つが炎上してしまうようなことが起きれば、当然、知らされているはずだからだ。
けれど……俺の脳のどこか……俺の心のどこかで、これは「現実ではない」と、「起こり得るはずがない」と、楽観視はできず……再び聞こえる声に、問う。
———因果律を捻じ曲げ、やがてすべてを滅ぼす『狂神』が、生まれる
……これは、絶対に、起こることなのか?
声は答えない。
……絶対に起こるはずが、ないよな?
そう、俺が言ったとき……背景に広がる世界の中で……、人の形をしたなにかに、挑む人の姿が、目に映る。
それは、肩までかかる、元は白であったであろう髪を、赤い血で染めた、15、6歳の少年だった。
少年は、武器をとり、人のかたちしたなにかに挑む。しかし、人のかたちをしたなにかは、その少年を笑いながら……
殺す
心臓を、手で一突き。人の力とは思えない力で貫き……少年を蹴り飛ばす。
その時、吹き飛ばされた少年の顔……それは、何度この世界に来ても、何度違うと思っても、覆ることはない……
そう……その少年の顔は……姿は、間違いなく……
俺自身、そのものだった———
その光景が流れた後、笑い声とともに、その世界は、崩れ去る。ガラスが砕け散ると同じときのように、音をたてて、その世界に終幕を下す。
これが……夢の終わりの合図。
その合図が現れた時、俺は、ただただ、問う
……あれは、なんなんだ
……こんなことが、起きるはずないよな?
……あの「人」は、なんだ?
……どうして、俺があそこにいる?
その質問に、十字架は答えない。
やがて、世界が終わりを告げる———
その時……十字架は……決まってこう、囁く
———破滅を止めたければ……目覚めるのだ……十字星座の光の戦士よ
———————————————————————————————————
はじめまして、Ⅷという者です。ゆっくり小説を書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
※お知らせ
(現在進行形で、3話を執筆(入力)中のため、更新が追いついてしまった際には、しばらくの間更新を停止し、ある程度まで進めたところで再び更新させます)
(メインキャラクターの顔のイメージ画up予定)
prologue >>0
一章【正義の影、悪の希望】
1話 【Peace(平和)】
>>2 >>3 >>4 >>5
>>8 >>11 >>12 >>13
>>14 >>15 >>16 >>17
>>20 >>21 >>22 >>23
2話 【Lie(嘘)】
>>24 >>25 >>26 >>27
>>28 >>29
3話 【Collapse(崩壊)】
>>30 >>31 >>32 >>33
>>34 >>35 >>36 >>37
>>39 >>40 >>41 >>42
>>43
4話 【Warrior of the cross constellation(十字星座の戦士)】
(3話終わり次第)
キャラクターイメージイラスト(>>38)
キャラクター設定
主人公
リヒト・タキオン
性別/男
年齢/16歳
身長/170
体重/60
十字星座の光の戦士
戦闘職業『白迅剣士』
初期使用武器『片刃直剣/ロングブレード』
性格/物事に対して、つまらなさそうに見つめ、人との交流をあまり好まない。だが、一部の人間、昔馴染みの人たちとは、仲が良い。昔はあまりひねくれた性格ではなかったのだが、『夢』を見るようになり始めてから、性格がゆがみ始める。光というよりも、闇のような心を持つ少年
ヒロイン
シエル・グランツ
性別/女
年齢/16歳
身長/150
体重/41
?
戦闘職業『黒迅剣士』
初期使用武器『細剣/ルビアス・レイピア』
性格 リヒトの幼馴染であり、おせっかいな性格。リヒトが戦闘職業を始めるのをきっかけに、誰かを守るという責任感とともに、自身も戦闘職業を始める。とても責任感が強く、仲間を大切にしている。口数が少なく、いつも眠たげにボーっとしているのが特徴の、優しい心を持つ少女
メインキャラクター (今現在の暫定的な設定)(物語のネタバレになる要素は?と表記する)
フラム・ヴァルカン
性別/男
年齢17歳
身長/174
体重/67
?
戦闘職業『炎明騎士』
初期使用武器『片手大剣・フレイムタン』
性格 同じく、リヒトの幼馴染。熱い心を持ち、人のため世のために活躍したがる、目立ちたがり屋。性格もお気楽で、軽い。しかし、人を守るため、大切な人を自らの手で守るべく、戦闘職業を始める。炎のように暖かい心をもつ少年
??
性別/女
年齢/??歳
身長/??
体重/??
?
戦闘職業『??』
初期使用武器『??』
性格/?
レイ・タキオン
性別/女
年齢/15歳
身長/148
体重/40
タキオンの継承者
戦闘職業『白迅剣士』
初期使用武器『長剣・タキオン』
性格/ 弱気で、いつも兄であるリヒトの後ろに隠れている、内気なタイプ。しかし、困っている人を放っておけない、心にやさしさと、儚さを宿した少女。
1000年前の戦争により、英雄『タキオン』が使ったといわれている、『長剣・タキオン』に認められし少女。
ルイン・?
性別/男
年齢/??歳
身長/??
体重/??
??
戦闘職業『??』
初期使用武器『??』『??』
性格/?
??
性別/??
年齢/??歳
身長/??
体/??
??
戦闘職業『??』
初期使用武器『??』
性格/?
バウゼン・クラトス
性別/男
年齢/??歳
身長??
体重??
??
戦闘職業『アポカリプス』
初期使用武器『??』
性格/?
- Re: 十字星座の戦士 ( No.28 )
- 日時: 2014/01/18 19:23
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)
「……」
天井にむかって、折れた俺の相棒を、掲げる。
ベッドに寝転がりながら、俺はまだ、昼間のことを考えていた。
あのあと、しばらくしたあとに、フラムの家をあとにした俺たちは、そのままなにもすることなく帰宅し、俺はそのあと、ずっと部屋で、無駄だとわかっている思考を繰り返す。
十字星座の戦士が存在する理由、十字星座の戦士の由来、十字星座の戦士の生まれ、そのすべてをしったとは思えない、だが、その一片だけを、知識で得ることになった。
それは、今まで俺たちがしっている神話の内容とは大きくかけ離れていたし、古の四英雄ですらも、その十字星座の戦士という存在の影に隠れてしまった。
十字星座の戦士が再び現れるとき、世界がどうなっているか……、それは、俺には知る術はない、だが、そのヒントはおそらく……あの、夢だ。
十字星座の戦士が、破滅を止めるために生まれた戦士だったとするならば、その存在が現れるとしたら、破滅が弾くったあとなのか、それとも……破滅が始まる前なのか、それはわかるはずもないが、古代の対戦で、十字星座の戦士は、破滅を止めるために、戦争の最終段階で生まれた。もしも、その手順にのっとっていたとすれば……もう、すでにどこかで、破滅への布石が下ろされたのかもしれない。平和は、もう、崩れ去っているのかもしれない。
「……そんなこと、機関がだまっているとも思えないが」
だが仮にそうだったとしても、この世界、グランドクロスのなかでおこった、大規模な事件があったとするならば、機関がすべての街の戦闘職業の人間を集結させて、その事件をおこした敵に立ち向かうだろう。だが、それがないということは、きっとまだ、なにもおこってないと過程してもいいはずだ。
……俺は起き上がり、部屋の窓をあける。冷たい風が一瞬、部屋に流れ込み、堅い思考が和らぐ。
そうだ……今は、十字星座の戦士なんかいなくても、「機関」という平和を実現化させた、俺たちの正義がいるんだ、十字星座の戦士の出る幕なんて、ないじゃないか。
俺たちが出る幕がない世界を実現させるための機関だ……と、俺は信じよう。それしかできないのだから。
この時は……まだ、自分に課せられた使命がなんなのか、わかっていなかった。いや……わかろうともしていなかった。
もしも、この時から、自分自身に課せられた使命に基づいた行動をとっていたならば……決まってたしまった未来は、変えられていたのかもしれない……だが……俺は、この時も、昔と変わらず……変わったと思ってたのに……変わっていなかった。……そう、ただ、ただ、今の現状に、甘えてしまっていたのだ。
……世界は、動きだす。ぐるぐると、回りだす……それが……破滅にむかって回っているのか……それとも……平和へとむかっているのか……それは、誰も知ることはできない……ただ、人々の行動で……その歯車は、動き始める……そのことを知らない俺は……「機関」にすべての責任を押し付けて……ただ、ただ、逃げるように眠るだけだった。
- Re: 十字星座の戦士 ( No.29 )
- 日時: 2014/01/18 20:29
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)
「————————お待ちしておりました……ゼル・レギオン様」
月明かりが、分厚い雲に覆われ、完全な闇に包まれたベルケンドの街の入口に、闇夜に覆われ、目立たなくなった、白いローブを着た男が、街の外からやってきた、赤いローブを着た男、と、その後ろに連れられてやってきた白いローブの男30人、そして、その男たちがひいてきた、巨大な荷馬車5台を確認して、恭しく頭を下げる。
ゼル・レギオンと呼ばれた、赤いローブを着た男は、後ろの荷馬車をひいてくる男たちの動きを止めさせて、目深にかぶったフードをはずし、ニヤァ、と不気味な笑いをうかべる。
「キメラ30名とぉ、「天魔」5体、無事ベルケンドの街にとーうちゃーく」
そう、おちゃらけていう。
後ろからは、白いローブをきた男たちが、不気味に笑う。出迎えにあがった白いローブの男も、つられて不気味に笑い始める。
「いやいや……じつに愉快だなぁ……もうすぐぶっこわれちまうってのに、この街はのんきすぎる!!平和すぎる!!まるで警戒しやしねぇ!!」
そういい、豪快に笑う。いつもならば、この入口には、戦闘職業の、ギルドと呼ばれる団体が、警備をおこなっているのだが、白いローブの男があらかじめ、夜間の警備をギルドではなく、自分たちが行うと交渉していたため、いつも行われている警備は、ないのも同然だった。
出迎えにあがった白いローブの男は、その事実を思いだして笑う。自らたちが信じきって託した警備、それは、その「天魔」を迎え入れるための布石になり、日が昇った、この街が壊滅することを示しているのだ。警備を任せた男たちが、裏切られたと知ったときの表情を想像して、白いローブの男は、また笑う。
そう、このことを知る者はいない。想像もできないだろう。自らが正義だと思うものが、自らのすべてをぶち壊してしまうなんて、思うはずがない。
だから、男たちは笑う。この街の未来を想像して。
「この街に恨みなんてねぇが……十字星座の戦士が「運悪く」この街に生まれちまったことを後悔するがいい……ヒヒッ」
赤いローブの男はそういいながら、忍び笑いを漏らす。
荷馬車をひいた男たちが、つぎつぎに街にはいっていく。それを、白いローブの男が、笑いながら歓迎する。普通なら、街に入る際には、荷馬車の中身のチェックなどが行われるはずだが、そんなことはしない。そんなことをしてしまえば逆に、白いローブの男が「喰われてしまう」からだ
「明日はいい一日になるぜぇ……この街の犠牲とともに……歯車が動き始める……「アポカリプス」の称号をもつあいつでも、もうとめられなくなる……」
赤いローブの男は、狂ったように笑う。その男の狂気に連動するかのように、月が、紅に染まる。男の目は、その月を映し、まばゆいばかりの狂気を宿す。
「レジスタンスが求める最後の希望を叩き潰し……俺たちの目的を……遂行させようぜぇっ……ギャハハハハッ!!」
白いローブの男の肩をたたき、大声をだしながら笑い、その男も街のなかにはいる。出迎えた白いローブの男もそれに釣られるようにして、笑う。
天魔と呼ばれた化物が、街に入るのを誰も止めることはできない。自らに迫る恐怖を、誰も感じ取ることはできない。それが過ちであることすらも、なにもかも、誰かの手のひらで踊っていることなど、誰もわかるはずがないのだから。
ベルケンドの街は、完全な闇から、狂気の紅に照らされる。天魔と呼ばれる化物を招き入れ、まるで、最後の夜だといわんばかりに、月は、紅く、紅くベルケンドの街を照らし出す
「……さぁ……戦争の始まりだ」
赤いローブの男がそういい……、【機関】の兵士たちは、影に消えた。
その様子を、ずっと伺っていた、同じく白いローブを着た男が見ていた。
ただただ、拳を握り締め……自らの無力を呪いながら———
- Re: 十字星座の戦士 ( No.30 )
- 日時: 2014/01/19 23:42
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)
3話【Collapse(崩壊)】
目が、覚める。
いつものような不快感を感じることなく、布団が放り出されていることもない……夢が現れたという、実感も、ない。
そんななかで、俺は目を覚ます。
夢……毎日見ていたはずの夢……それをみなかった……か、あるいは、記憶されていなかった、という事実に、俺は驚きを隠せずに、ベッドから転がり落ちる。
いつもいつも十字だのなんだのとうるさいあの夢が、今日に限って現れなかったのだ。
「夢が……なかった?」
その夢を見始めたのは何年前だったか……その日から、毎日毎日見続けていた。同じ内容、同じ会話……それをなんどもなんども繰り返していくうちに、俺はそれが当たり前だと思っていたが、なぜ、今日に限って?と、俺は転がり落ちた衝撃でぶつけた頭をさすりながら思う。
時間は、いつもより起きるのが早いぐらいの時間。そして、目は、先ほど頭をぶつけた衝撃でほぼ覚醒している。だけど、腑に落ちない点が、俺の心にもやをつくり、不快な感じがするのがわかる。
さんざんいやだとばかり思っていた夢が突然現れなくなったことに、俺は、喜びどころかその正反対の、焦りの表情をうかべる。
部屋の外から、ドタドタと音が聞こえる。おそらく、俺がベッドから転がり落ちた音でなにがあったのか、レイが確認しにくると判断した俺は、その夢のなんたらを忘れるかのように、まるでその答えがないことから逃げるかのように、平然と立ち上がり、何事もなかったかのように振舞う準備をする。
俺が立ち上がると同時に、レイがドアを軽くあけながら
「さっき、大きな音がしたけど……お兄さん、大丈夫ですか?」
言い終わると同時に、ドアを全開にする、そして、レイの目に映るのは、シャツとパンツだけという、人にみせるにはちょっと恥ずかしい姿をした俺の姿だった
「———!!」
レイは、声にならない悲鳴をあげたかと思えば、思い切りドアをしめる。ふむ、いつもしずかなレイからは想像できない、行動だな……と俺は冷静に判断しながら、レイの恥ずかしがり屋な性格を思い出して、少し申し訳ない気持ちになりながら、ドアの前にまだいるであろうレイに返事をかえす
「べつになんともなかったぞー」
そういいながら、タンスからいそいそとジャージをとりだしながら、それを着る。
レイがなにもいわずに階段をおりていく気配がする。まあ、なにがあったかの確認でおもわぬものを見させられて、恥ずかしい気持ちはわかるけど、返事は返してほしかったな、といたたまれない気持ちになりながら、俺はカーテンをあけ、窓を全開にして、外をみる。
今日はも平和で、平穏な、空気が、この街にはただよっている。
機関がつくりだした、平和な世界。バランス、均衡……それは、人々が求めていた、理想の形だ。そして……その人の理想をつくりあげたのは、初代の機関の最高権力者、バウゼン・クラトスという人物だ。東西南北に1つずつ存在する、巨大な街。たとえば、俺が住んでいるこのベルケンドや、ほかの、西、南、東の街は、かつては、魔物が街のなかにはいってこない日なんてないぐらい、危ういところになりたっていたという。その当初、戦闘職業は、街の中から外にでる暇などなく、魔物の巣窟に出向いたり、危険因子の魔物を大規模編成で、討伐しに外にいくことなんてほとんどなかったという。今では、それを行うのが当然となっているのは、そう、やはり、バウゼン・クラトスという人物の働きによるものだった。
バウゼン・クラトスは、俺が知っている限りでは、五十年前、この世界の中心にある塔……かつての大戦で神が人間側の拠点として作り上げた巨大な塔を中心に、大きな街……首都を作り上げた。当然、それはバウゼン・クラトスだけの功績ではなく、東西南北、各街のギルドが連携し、五年をかけて、首都のをつくりあげたという。そして、バウゼン・クラトスは、一人世界を周り、ここからは俺にもよくわからないが、各街の中心部に存在する、巨大な魔石を、すべての街の魔石と魔術的回廊をつなげ、そして、首都の塔に最終的に全てつなげるという新技を成し遂げた。その利益は、魔術的理解のあるものが、魔石を使うことによって、バウゼン・クラトスがつなげた魔術的回廊をたどって、瞬間的に別の街、または首都に行くことができる、というものだった。そして……それだけではなく、首都の塔……神が作り出した、人間側の拠点となった塔……そこには、当然、魔力が宿っている。あらゆる魔という魔からその塔を守る、結界がその塔には張り巡らされていて、その結界につかわれている魔力を、すべての街の魔石に、魔術回廊より支給することにより、すべての街にも同じような結界をはれるようにする、といった、人々が求めていた、安寧をもたらすこともできた。
その後、バウゼン・クラトスは、戦闘職業の中でもっとも強いもの……絶対的な力をもち、なおかつ、人々を導く者に与えられる称号……「アポカリプス」を不動のもとに手に入れる。
称号を手に入れると同時、、バウゼン・クラトスは、世界各国から有能な人材を首都に集め、世界のバランスを保つべく、「機関」という組織を作り上げ、この世界の中心にたつことを宣言する。その宣言に、すべての街の人々は従い、賛同した。
機関は、政治的な組織でもあり、魔石の魔術回廊を管理するものでもあり、街を警護する兵士でもあり、悪を裁く正義でもあり……この世界のトップとなった。
絶対的な権力を経て、自らの代だけで、世界に平和と安寧をもたらした最強で、最高な男は———やがて、ギルド「自由の翼」とともに、世界を裏切る。
バウゼン・クラトスがつくりあげた平和は、誰もが認めている。誰もがその行為を無意味だとも思わず、その恩恵に預かっているのも確かだ。今見ている、魔物もいない、近所のおばちゃんたちが、外で談笑しながら、笑い合う姿。当たり前のものだけれども、これは、バウゼン・クラトス……そして、そのバウゼン・クラトスが作り上げた、この世界の秩序を守る、機関という組織がなければ、ありえないことなのだ。
「だから……」
だから、きっと、まだ、「十字星座の戦士」などという存在が、必要になる時代ではない、と俺は勝手に結論つける。機関という組織がある以上、そのトップがバウゼン・クラトスでなくても、きっと、世界は正しい方向に導いていかれると。
夢をみなかったときからなにかがひっかかっていたが、夢のなかにでてくる十字架も、きっと、そう思ったから、今日にかぎってでてこなかったんだな、と一人納得し、俺は窓をしめながら時計をみる。
とくに用事もないが、久しぶりにシエルの家に遊びに行くかなー、とか思うが、まだ朝の7時だ、さすがに今の時間からいくのはあれだな、とか思い、俺はリビングにおりることにする。
そういえば、とおもいだして、昨日ぶっこわれたままもって帰ってきた相棒を、直しに行かないと、しばらくはてきとうな武器で警備とかしなくちゃならなくなるな、とおもいつつ、ドアをあけて、リビングにむかう。
- Re: 十字星座の戦士※3話【崩壊】 ( No.31 )
- 日時: 2014/01/19 22:30
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)
台所からは、機嫌をなおしたかどうかはわからないが、レイが朝ごはんをつくっている気配がする。いつもの風景、いつもの光景。
昨日、俺たちが知識と知ったことは、正直、かなり異常なことだった。あの本が発売されたとき、バウゼン・クラトスはおそらくそれなりに叩かれたのではないか、と思う。たとえそれが真実だったとしても、人々が知っている常識を覆すには、それなりの反発も予測できることだ。たぶんだが、バウゼン・クラトスが犯罪者となったいま、その本は生産が止められ、二度と市場に出回ることはないだろう。だが、俺はおそらく、と自分に言い聞かせつつ、こう思う。
バウゼン・クラトスは、この本をつくる以前から、真実を知っていたのではないか、と。
ならばなぜ、とも思う。ならばなぜ、そのタイミングで、自分が事件を起こす一年前なんかに、その本を作り上げたのだろうかと。今までその真実を知っておきながらなぜそのタイミングで、真実を、歴史の影に消えていた英雄の名を、人々に知らしめようとしたのだろうか、と。
その瞬間、俺は、本当に最悪な可能性が、頭をよぎる。
俺は、階段の途中で壁に手をかけて、目を見開く。ふとした瞬間に、なにかがみえてしまったような感じで、思う。
そうだ……違和感だ。バウゼン・クラトスが作った本が発売された理由、なぜそのタイミングではならなかったのか。そして、どうして、フラムの家に、そんなものが置いてあったのか……違和感だ。違和感ばかりだ。フラムの親は普通だ。普通に仕事をしていて、普通に生きている人たちだ。だから、バウゼン・クラトスの名前も当然しっていて、十一年前からも、そのカリスマ性を知っていて、当然、その人がだした本ならば買っておいたりもするだろう。そうだ……それこそが「狙い」だ。
仮に、本当に、仮にだ、と俺は、頭を抱えながら、その最悪な可能性、この世界が、夢のようになるであろう、本当に最悪な可能性……。
「だが……バウゼン・クラトスがそれを見越して本をつくったなら———」
話は、大きく変わる。
この世界を守る者なんて存在しなくなる。この世界を秩序で安定させる者もいなくなる。なにもかもが、そのひとつの組織の裏切りによって、この世界は、大きく狂わされる。
そうだ……俺が、俺たちが、十字星座の戦士たちが……もしも必要となるそのときがくるのならば———世界に、突然魔王が出現する、とか、天災がこの世界を覆うだとか、そんな問題ではない。もっと内側が……この世界の、中心部まで食い込む、根本的なものだ……そうだ———
「だが……まだ決まったわけじゃない」
俺は、バウゼン・クラトスの本の違和感を振り払い、その最悪の仮定を頭から追い出す。逃げるように。
そして、いつもの一日が始まる。
なぜ、自分の思考が、突然世界の崩壊の可能性を仮定したのか、なぜ、バウゼン・クラトスの本に違和感を覚えたのか、普段なら、そんなことは、ありえない、きにもとめないはずなのに、その違和感にも気がつかないまま……世界の歯車は回り始める。誰かが笑い、誰かが泣き、誰かが狂う。そんな世界から目を背け……俺は、俺たちは、ただ、いつもの日常に、戻っていった。
- Re: 十字星座の戦士※3話【崩壊】 ( No.32 )
- 日時: 2014/01/20 01:27
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: APISeyc9)
「リヒトは、少し危機感が足りない」
朝とも昼ともいえない、曖昧な時間帯、どちらとも言えないが、日差しは暖かく、今日も絶好の外出日和だといえる。
そんななかで、街中を警備、といった名目でシエルを誘って、街中を歩いているときに、ふとしたきっかけで、シエルがそういう。
だが、別に怒っているわけではなく、呆れている、といったふうな感じにそういう。まあ、原因は、俺が壊れた剣を一日放置した結果、そのまま鞘に収めてきたということだろうな、と俺は苦笑いしつつ、シエルにこたえる
「ま、なにごとにも対処できるように最善をつくせって教官の言葉を思い出すぐらいには反省してるよ」
といいながら、俺は相棒を鞘から引き抜く。
シエルと本気でぶつかりあった証明であり、俺の努力の証明でもある剣。相棒。それをこのまま放置しておくのは、さすがに俺も忍びない、だが、すぐに事件やらなにやらが、おこるはずもないし、いくら努力をかせ寝てきたとは言え、俺のように、街の警備だけ行っているものが、駆り出されるような緊急事態なんて早々起こり得るはずがないので、のんびりとしたもんだ。
「いついかなるときにでも対応ができてこそ、一流の剣士だからね」
そんなものに憧れるような含みを込めて、シエルがそういう。俺からしたら、十分お前もすごいけどな、と思うが、一流とは、新人が5年、10年とがんばってもなれる領域ではないはずで、俺はその領域に達しているような剣士や、戦闘職業の人を見たことがないのでわからないが、俺たちのような新人がそうそうなれる領域ではないはずだ。当然、俺たちのことを教えた教官たちですらも、いついかなる時、臆せず、立ち向かえる勇気、そして実力をもっているといわれれば、そうでもない。そんな剣士になることが、俺たちの目標であり、教官たちの夢だ。
まあ……べつに、そんなに力をつけても、戦う敵がいなければ意味はないんだけどな、と俺は思いつつも、そんな力をつければ、俺も、今の考えを捨てられるかもな、とか思ったりもする。
「でも、剣を壊した日にすぐに修理にださないのは、また別問題だと思う」
「うっ……」
「もしも仮に、今日この時にでも魔物が街の中にはいってきたらリヒト、どうするの?」
「ま、まあ、体術で……」
「体術も試験ギリギリだったくせに」
シエルが心底呆れながらも、出来の悪い弟を見るような、優しい目で俺のことを見つめる。
そんな目がちょっと恥ずかしくて、俺はボリボリと頭をかき、言い訳をくちにする。
「ま、まあ、そんなすぐに俺みたいな落ちこぼれが駆り出される機会があるとは思えな……」
「危機感が足りない」
「……はい」
シエルにたしなめられて、俺は言い訳をやめる。
ま、こいつの言い分はもっともで、たしかに、俺も気が緩んでいた感もある……だが、俺は、少しだけ表情を険しくして、今朝、ふとした瞬間に気がついた、最悪の可能性を思い浮かべ、武器を修理しようと考える。
「でもなぁ……今から出しても、明日かあさってぐらいになっちまいそうだけどな」
「その間は、代わりのもの支給してくれるはず」
「だな……、どこいくかも決まってなかったし、修理屋のおっちゃんのとこいくか」
俺がそういうと、シエルはそれにうなづき、俺たちは修理屋へむかう道をたどるようにして、街を歩く。
俺はシエルと喋りながらも、朝のことをまた考える。
バウゼン・クラトスの本がなぜ、あのタイミングで発売されたか、なぜ、俺に、十字星座の戦士だと告、その力を目覚めさせようとするのか、なぜ、世界の未来だと語り、その映像をみせるのか、そしてなぜ……今日にかぎって、その映像が、夢としてでてこなかったのか……それは、一人で考えるには、とても大きなことで、とても、答えが出るものでもなかった。
「リヒトは……昨日の、バウゼン・クラトスの本の話を、どう思ってる?」
そんなことを考えているときに、シエルがふとそんなことをいう。
俺は、見透かされているんじゃないかと一瞬あせりながらも、シエルはただ単純に興味があるといったふうな顔で俺のことをみているので、すぐに杞憂だと悟り、胸をなでおろす。
「ん……?どう思うって……どのへんがだ?」