複雑・ファジー小説

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十字星座の戦士※お知らせ
日時: 2014/02/03 23:07
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: mL1C6Q.W)

〜prologue〜  【決まった未来、変えられる未来】





……声が、聞こえる。
その声は、これが初めてではない、過去、何度も何度も、同じタイミングで現れて、同じ言葉を残していく。

———目覚めよ

と。
声は、何かを促しているようだが、その意味までは、理解することができない。
何もない空間、闇に包まれた、不安を司る、そんな場所に誘われ、その声の主は、現れる。
夢と言われている空間。それは、本人意識ははっきりとしないものだが、この空間では、それにとらわれていない。体を動かしている感覚もあれば、聞こえる声を、『声』だと認識できるぐらい、意識もはっきりとしている。しかし、そこが夢だというということも、なぜだかわかってしまう。そんな場所。
いや……夢、ということにしなければ、この事象の説明がつかないから、かってにそう思っているだけで、本当はもっと別物の可能性もあるのだが。
その声は、いつも同じことを繰り返すだけ。声の主は、三度目の呼びかけで、その姿を表すということは、過去この空間にきているため、はっきりとわかっている。

———目覚めるのだ

目覚めよ……その意味は、まるでわからない。だけども、その声には、どこか焦るような響きが有り、自然と自身の心が不安に駆られるのを感じる。その時必ず、自分はこういうのだ

……どう言う意味だ

と。
意識もしっかりとしている、体の自由もきく、だが、この声は、自分の意識しないうちに、勝手に発せられる。
このことにも、もう慣れた。
けども、その声は、その言葉を無視して、さらに言葉を紡ぐ。

———十字星座の光よ

その瞬間、闇に包まれた空間に、ひとつの光が生まれる。
手のひらサイズに収まりそうなほどの光は、十字架のような形をしていて、それが、まばゆいばかりの光を放つ。
それが、声の正体。
そうだという証拠もなければ、声が自身の正体を明かしたわけでもない、しかし、なぜだか……俺には、わかってしまう。
声に、その光の正体に従うべきだと、俺の体は勝手に進みだし、その光に手を伸ばそうとする。
いくら抗っても、いくら意識がはっきりとしていても、勝手に体は動きだし、やがてその光に手が届く。

———世界はやがて、終焉を迎える。

俺の手に包まれた十字架は、さらに声を発する。脳に直接語りかけてくるかのように。

———おまえの力が、おまえに託された力が、必要だ

その瞬間に、手のひらに包まり、光をかすかに漏らしていただけの十字架が、闇を照らさんばかりに、強烈に光りだす。
……そして、闇が払われた、その先には……荒れ退んだ世界が広がっていた。
世界の中心には、人の形をした、なにかが立っている、その周りには……無数の人が、積み重ねられるようにして……死んでいた。
その世界は異様だった、その空間は異常だった。世界の中心に、一体の人の形をしたなにかが立ち……その周りには、誰ひとりとして、生きている者はいなかった。
人の形をしたなにかは笑っている。甲高い、悲鳴のような声をあげて、周りに積み重ねられるようにして、死んでいる人間を、蹴り飛ばし、また笑う。
あるものは、心臓を貫かれていた。あるものは、首がなくなっていた。またあるものは、人の形すら、していなかった。
無数に転がる死体、死体……笑う、人の形をしたなにか。
空は紅く染まり、人々が住んでいたであろう街は、背景の中、炎に包まれている。
ここで、俺が思わず、つぶやく

……なんなんだ……これは……

この世界が、現実でないことを、俺は知っている。こんな大量殺人、街の一つが炎上してしまうようなことが起きれば、当然、知らされているはずだからだ。
けれど……俺の脳のどこか……俺の心のどこかで、これは「現実ではない」と、「起こり得るはずがない」と、楽観視はできず……再び聞こえる声に、問う。

———因果律を捻じ曲げ、やがてすべてを滅ぼす『狂神』が、生まれる

……これは、絶対に、起こることなのか?

声は答えない。

……絶対に起こるはずが、ないよな?

そう、俺が言ったとき……背景に広がる世界の中で……、人の形をしたなにかに、挑む人の姿が、目に映る。
それは、肩までかかる、元は白であったであろう髪を、赤い血で染めた、15、6歳の少年だった。
少年は、武器をとり、人のかたちしたなにかに挑む。しかし、人のかたちをしたなにかは、その少年を笑いながら……

殺す

心臓を、手で一突き。人の力とは思えない力で貫き……少年を蹴り飛ばす。
その時、吹き飛ばされた少年の顔……それは、何度この世界に来ても、何度違うと思っても、覆ることはない……
そう……その少年の顔は……姿は、間違いなく……

俺自身、そのものだった———

その光景が流れた後、笑い声とともに、その世界は、崩れ去る。ガラスが砕け散ると同じときのように、音をたてて、その世界に終幕を下す。
これが……夢の終わりの合図。
その合図が現れた時、俺は、ただただ、問う

……あれは、なんなんだ

……こんなことが、起きるはずないよな?

……あの「人」は、なんだ?

……どうして、俺があそこにいる?

その質問に、十字架は答えない。
やがて、世界が終わりを告げる———
その時……十字架は……決まってこう、囁く

———破滅を止めたければ……目覚めるのだ……十字星座の光の戦士よ




———————————————————————————————————



はじめまして、Ⅷという者です。ゆっくり小説を書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。







※お知らせ
(現在進行形で、3話を執筆(入力)中のため、更新が追いついてしまった際には、しばらくの間更新を停止し、ある程度まで進めたところで再び更新させます)


(メインキャラクターの顔のイメージ画up予定)







prologue >>0

一章【正義の影、悪の希望】
1話 【Peace(平和)】
 >>2 >>3 >>4 >>5
 >>8 >>11 >>12 >>13
 >>14 >>15 >>16 >>17
 >>20 >>21 >>22 >>23
2話 【Lie(嘘)】
 >>24 >>25 >>26 >>27
 >>28 >>29
3話 【Collapse(崩壊)】
 >>30 >>31 >>32 >>33
>>34 >>35 >>36 >>37
>>39 >>40 >>41 >>42
>>43



4話 【Warrior of the cross constellation(十字星座の戦士)】
(3話終わり次第)




キャラクターイメージイラスト(>>38)






キャラクター設定


主人公
リヒト・タキオン 
性別/男
年齢/16歳
身長/170
体重/60
十字星座の光の戦士
戦闘職業『白迅剣士』
初期使用武器『片刃直剣/ロングブレード』
性格/物事に対して、つまらなさそうに見つめ、人との交流をあまり好まない。だが、一部の人間、昔馴染みの人たちとは、仲が良い。昔はあまりひねくれた性格ではなかったのだが、『夢』を見るようになり始めてから、性格がゆがみ始める。光というよりも、闇のような心を持つ少年



ヒロイン
シエル・グランツ 
性別/女
年齢/16歳
身長/150
体重/41
?
戦闘職業『黒迅剣士』
初期使用武器『細剣/ルビアス・レイピア』
性格 リヒトの幼馴染であり、おせっかいな性格。リヒトが戦闘職業を始めるのをきっかけに、誰かを守るという責任感とともに、自身も戦闘職業を始める。とても責任感が強く、仲間を大切にしている。口数が少なく、いつも眠たげにボーっとしているのが特徴の、優しい心を持つ少女




メインキャラクター   (今現在の暫定的な設定)(物語のネタバレになる要素は?と表記する)


フラム・ヴァルカン
性別/男
年齢17歳
身長/174
体重/67
?
戦闘職業『炎明騎士』
初期使用武器『片手大剣・フレイムタン』
性格 同じく、リヒトの幼馴染。熱い心を持ち、人のため世のために活躍したがる、目立ちたがり屋。性格もお気楽で、軽い。しかし、人を守るため、大切な人を自らの手で守るべく、戦闘職業を始める。炎のように暖かい心をもつ少年



??
性別/女
年齢/??歳
身長/??
体重/??
?
戦闘職業『??』
初期使用武器『??』
性格/?


レイ・タキオン
性別/女
年齢/15歳
身長/148
体重/40
タキオンの継承者
戦闘職業『白迅剣士』
初期使用武器『長剣・タキオン』
性格/  弱気で、いつも兄であるリヒトの後ろに隠れている、内気なタイプ。しかし、困っている人を放っておけない、心にやさしさと、儚さを宿した少女。
1000年前の戦争により、英雄『タキオン』が使ったといわれている、『長剣・タキオン』に認められし少女。



ルイン・?
性別/男
年齢/??歳
身長/??
体重/??
??
戦闘職業『??』
初期使用武器『??』『??』
性格/?



??
性別/??
年齢/??歳
身長/??
体/??
??
戦闘職業『??』
初期使用武器『??』
性格/?


バウゼン・クラトス
性別/男
年齢/??歳
身長??
体重??
??
戦闘職業『アポカリプス』
初期使用武器『??』
性格/?

Re: 十字星座の戦士 ( No.8 )
日時: 2014/01/18 16:27
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

階段をおり、リビングにまだいるであろうレイに声をかける

「んじゃ、さきいってるわー」

「あ、はいっ。いってらっしゃい、またあとで」

レイは自分宛に届いた手紙を読みながら、俺に返事を返す。
俺はその返事を聞いてから、靴をはき、玄関を抜け外にでる。
……外は、快晴だった。
いつもとかわらない。清々しい天気だ。風が心地よく、太陽の光が強かろうが、暑さはあまり感じない、なかなかに過ごしやすい一日になりそうだな、とがらにでもないことを思う。
近所の子供たちが、こんな時間から外で走り回って、はしゃいでいる声と、ご近所どうしで話あっているおばちゃんたちの姿、笑い声。いつもとかわらない、平穏な時間。
基本的に、どの街も魔物がはいってこなければ平和だ。ちんけな犯罪者がいたちとしても、『戦闘職業』のまえでは意味をなさない。小さなナイフなんかでは、俺たち戦闘職業の剣とかにくらべると、たいして恐怖感はない。まあそれでも十分は殺傷力はあるが、俺たち戦闘職業という役柄が、やつらの抑止力になり、そういった事件もたいしておこることはない。
でもまあ、たまに戦闘職業のやつが犯罪をおかしたり、そういったやつらが募った集団、いわゆる犯罪者ギルドっていうのが存在していたりもして、絶対に平和だ、ということはないが、魔物や、そういったやつらを除けば、この世界はほぼ平和だといえるだろう。

「戦闘職業さまさまってところだな」

犯罪者を抑制するのも戦闘職業。犯罪を犯すのも戦闘職業。犯罪を犯す奴らのせいで少しまえに戦闘職業の必要性に首都で議会が開かれたっていう話を聞いているが、ずっと昔から続くこの職をなくすことはできないっていうのが中央の政治を司る「機関」の決定らしい。
まあ、その犯罪者ギルドってのの活動を抑制するために、各方面の街に「機関」の兵士を送っているっていう話だ、この街にも、シエルの実力を認めた「機関」の兵士のほかに、十数名おくられてきている。
そんなやつらに認められているシエルは、強い。
おそらく、この街の戦闘職業の代表者達と互角にわたりあえるのではないだろうか……?
たしか、シエルが今の称号を獲得した時に、教官の中にいる、この街の代表陣の一人と模擬戦闘を行ったことがあった。その時の観客は3人だけだったが、彼女はたしかに、教官を後一歩のところまで追い込んでいたのを、今でも覚えている。
それが……シエルという、俺の幼馴染の女の子の、実力だ。
俺はそれを見せつけられて、強くなろうと何度も思った。二度となにかを失い、後悔しないように、というもあるが……なによりも、俺は、俺が弱いままでは、彼女は俺すらも守る対象に入れているだろうと思ったから。ただ、惨めなプライドが、俺を突き動かした。
彼女の性格は、俺の真反対だ。俺は、自分の身を守るために、周りの何よりも、自分自身を守るために力をつけた。誰にも守られない、誰も俺を守らせない、俺自身だけが、俺を守る、そんな力を求めている人間だとしたら、シエルは、自身の周りすべてを守るために、戦う、正義の心を持つ。
そんなことを考えながら歩いていると、寂れた公園にたどり着く。
……どこからか、笑い声が響いてくる、どこからか、鳥の声が聞こえてくる。しかし、なぜかこの公園は、寂しかった。
誰もいない。こんな時間だから当然だといわれればそうだが、この公園は、いつも、人がいない。
いろいろと曰くつき、というわけでもない、ただ、人が寄り付かない、そんな場所。
そこの広場の真ん中で、俺は剣を下ろす。
鞘から剣を抜き取り、鞘をベンチにむかって放りなげる。

「今日も頼むぞ」

といい、ニヤリと笑い、相棒を太陽にむかってかかげる。相棒はそれに答えるように、太陽の光を反射して、一度だけ強く輝いた。
教官の教えは理屈ばかりだ。周りの連中は、言われたことだけをずっとやってきた。そんななかで俺だけは、型というものにとらわれず、自由にやってきた。
べつにやつらが間違っているとは言わない。現にシエルも、型に囚われた練習をガッチガチにやっていたし、それでも強くなれた。実際、型に囚われたやり方の方が、確実に強くなる道だ、しかし、そこから自分自身の戦い方を見出さなければ、シエルのように強くなれない。
そのてん、俺は最初から自由にやっていたせいで、型がなく、本当に自由だ。けども、そのせいでとはいわないが、俺には、『技』が少ない。
型に囚われたやり方は、『技』を強く意識させて、戦う。つまり、『技』の技術を磨き、多彩な『技』を使えるようにし、なおかつ個人の戦闘技術を引き上げるやりかたで、誰もが求める理想の形だ。だが、その型にとらわれないやり方は、個人の戦闘技術を比較的に引きあげ、『技』が使えない状態に陥っても強く居られる道だ。だからといって『技』がつかえないわけでもないので、現状俺からしたらどっちもどっちってところだ。だけど、型も自由も、どちらも個人の努力が大切なので、そのせいで俺はシエルに遅れをとってる……というのはまあいいすぎだな。
ま、そんなわけで俺は、細かい『技』を覚えてはいない……だけど、それをカバーできるほどの技術は、身につけたつもりだ。
剣を右手でもち、腕をさげる。自由にやってきた俺には型がない。上段の構え、中段の構え、下段の構えすらも存在しない。『技』の初期モーションすらも、俺は自身が思った時に発動することができるので、それすらも存在しない。
俺は、まず剣を一度振り上げ、地面に思い切り叩きつける。地面につくその一瞬の瞬間に、俺は技名をつぶやく

Re: 十字星座の戦士 ( No.9 )
日時: 2014/01/11 20:48
名前: テーワ ◆CpJvzokFd. (ID: hQv1ULP5)

こんばんわ。
この物語りは
時間を忘れてしまうほど
おもしろいです。
頑張ってください。

Re: 十字星座の戦士 ( No.10 )
日時: 2014/01/12 23:21
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: wzVEqeM3)

テーワ氏

コメントありがとうございました。
更新がんばります

Re: 十字星座の戦士 ( No.11 )
日時: 2014/01/18 16:29
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

「『魔光刃』」

言い終わると同時に剣が地面を叩きつける。そこから地面に光の波紋が生まれ、それが地面でひとつの塊となり、前に一直線に進んでいく。
目標は広場の一部に生えている木、距離は15mほど。そこにたどりつくまではだいたい2秒もかからないだろう。その2秒の間に、光の塊は地面に浮かび上がり、縦1mほどの刃を作り出す。
刃といっても、それは形だけで、この『技』は、ぶつけた相手を衝撃波で吹き飛ばす、波系等の技なので、たいした殺傷力のない、初歩級の技だ。
初歩級の技……それだけでは、たいした威力はない……だから、俺たち戦闘職業の技使いは、下級、中級、上級の技を組み合わせて使う、連続技、というのを自らで作り出し、オリジナルコンボを極める。

「『魔光連弾』っ」

俺は木にあたるのを見るまもなく、すぐに次の行動に移る。次は、剣を後ろに一気に引き、一直線に突き出す。さながらフェンシングの構え。突き出した瞬間に空気が震え、剣の先端に光が凝縮して、集まり、人の顔サイズの球体となり、俺はそれが剣の先端に宿ったのを確認せずに、一度目は下に、二度目は最上段に切り上げる。
すると、球体はちょうどつきだしたときの位置に刃が通った時に、一度、二度と前方にむかって光の弾がうちだされる。ここまでかかった時間は約2秒。ちょうど木に魔光刃の一撃があたったところに、さらに追い討ちをかける一撃。だが、まだ終わらない。

「『魔光十連打』ぁ!」

俺がそう叫ぶと同時に俺の剣に光が宿る。俺はそれを下段、上段、下段、斜め上段、横一閃、体を一回転させてもう一度一閃、後ろに引いて突き出し、下に切り下げ、最上段に思いきり切り上げてから、そこから振りかざすように思い切り地面に刃を叩きつける。
一度俺が宙を切るたびに、光の刃が鎌鼬のようにはなたれる。そして、最後の一撃は、地面を伝い、目標に向かって放たれる。
全て放ち終わるまでに、約3秒。
普通、オリジナルコンボというのは、使用したあとに疲労がすさまじく、3回で止める。だがしかし、俺はまだ止まらない。

「『滅殺光刃』!!」

俺はそういうと同時に、魔光十連打の最後の一撃に並行して相手に詰め寄り、体をひねらせ、剣を目標の木にむかって、思い切り横一閃に切りつける。
木までの距離は、まだ5mほどはあった。だがしかし、俺の剣には再び光がやどり、今度はそれが、剣の形をとり、刀身に加わり、5mの幅を一気に縮め、木を真ん中から切り裂く。
木はそのまま耐え切れず、俺とはべつの方向に倒れる。……実際は、一閃になぎ払った瞬間に、またさらに光の鎌鼬がうまれるのだが、今回は手を抜いたのでそれが生まれることはなかった。
俺は満足そうに剣を一度横に払い、腕を下した。
……今日はなんか、いつもより調子がいいような気がする、と一人思い、公園の時計に目を向ける。
約束の時間まで、まだ30分ちょいあるな、と思いながら、俺はあたりを見回す。
……その公園には、やはり誰もいない。
いつもどおりの風景だ。いつもどおりの姿だ。だけども、俺は、この公園には、なつかしい思い出が、いろいろとあるのだ。
鞘を投げ捨てたベンチにむかって歩きながら、俺は昔のことを思い出す。ただひたすらに、無邪気に遊んでいただけの子供の頃を。
あの時はまだ、世界のゆがみなんてしらなかった。怖い魔物も、戦闘職業の人たちが倒してくれる、安全な、そして平和な暮らしが、約束されていると、俺はそう信じていて、まわりのみんなもそう信じて疑っていなかった時代。
そんな日常は、今でもうらやましいと思っている。今でも戻りたいと思っている。この公園で、みんなと遊んだそんな過去に、戻りたいと思っている。
この公園は俺にとって、自らが少しの平和を生きていた証だ・・・と、俺はそう思っている。
ま、そんなことを思っていても仕方がない。流れた時間は、俺たちの経験となって、時には、枷となるって、俺の担当だった教官もいってたしな。
ベンチに投げ捨てた鞘に、剣をしまう。そしてそのまま剣をわきにどかして、ベンチにすわりこむ。
今日は、そう、その平和を共に生きていて……誰よりも、強くあろうとした、幼馴染との……戦いだ。
やつは強い。12歳の頃、一緒に戦闘職業になろうと誓ったあの日から、俺とあいつのさは歴然だった。
俺はその時から、そして今までも、自分を守ることが精一杯だと思っている。だが、昔の俺は、本当に自分のことだけしか考えていなかった。ただ自分ひとりが生き残ればいいと、ただ自分だけが助かろうと、そう思っていた。そのせいか、やる気もなく、ただただ自堕落に、てきとうなペースで、中途半端に、剣を握っていた。だが、シエルは違う。
シエルは、入ったとき……いや、平和だったあの時から、あいつは人を守ることに執着していた。自らの身を犠牲にしてでも、ほかの人を守るのだと、いっていた。だから、やつは人一倍に強くあろうとして、実際に、同年代では誰も追いつけるものはいなくなった。
強さを求め、力を求め、守ることに執着した人間の力。そして、覚悟もなく、自分を守れればそれでいいとてきとうにやってきた人間の力。そこには圧倒的な差が生まれるのもしかたがなかった。
そして今回の戦いは……俺が、シエルに追いつく戦いだ。
この二ヶ月だけじゃない、俺は、「あの事件」から、こう思うようになった。

人を守るなら、まず自分を守れるほどの力をつけろ。

と。
自分すら守れないものが、人を守ることなんてできないと。俺はそう思うようになった。
だから、俺は強くなろうとした。
あがいてあがいて、死に物狂いで、やつにおいつこうとした。
そして……俺が、やつと同じ階級の称号を得たとき・・・そう、俺は言ったのだ。
まあ、しいて言ってしまえば、今回の戦いは、自分の思いをぶつけ合う戦いだといってもいい。
シエルの、自身を犠牲にして人を守るという思いと、俺の、自身を守る力をもち、ほかの人も守れると証明する思い。どちらが上か。

「実力的にあれだが……負けるつもりはないさ」

と、ひとりつぶやいて俺は鞘を担ぎ直し、立ち上がる。
さあ、俺のあがいてあがいてあがき抜いた、力を見せてやるか。

Re: 十字星座の戦士 ( No.12 )
日時: 2014/01/18 16:32
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

………………某所


暗闇のなかから、声が聞こえる。
太陽の光が差し掛からない、影となった部屋から、声が聞こえる。

「やつらが、動き出した」

その声は、雄々しくも、若干の老いが混じっている、男の声だった。
その声の主は、どこか焦っているかのような声でそういうのだ。

「北の象徴、「ベルケンド」にむかってまもなく、【天魔】を従え、出発するだろう」

だが、焦っていても、冷静に考えているのか、落ち着きが伺える。

「……やつらは【転送石】をつかわないのか?」

その声の主とはべつに、若い、男の声が返される。
男の声には若干の焦りが見えるが、やはり、どこか落ち着いていて、妙な雰囲気を醸し出す二人だった。

「やつらは、表では正義を語っている。そんなことができるはずがない」

転送石、というのは、各方面の巨大な街の中央あたりに存在する、魔法石のことだ。
その石は、マナを溜め込んでおり、登録された地域に瞬間移動することができるという、便利なものだ。だが、登録できるのは同じく転送石が置いてある場所のみで、各街にしか移動はできない。

「おそらく、出発は深夜……だろうな」

そういうと、老いた男のほうは、咳払いをして、部屋の電気をつける。
その部屋は、狭い。
なにかの書類か、資料かはわからないが、紙が散乱していて、足の踏み場もない。そんな部屋に、二人の男が立っている。
ひとりは、さきほどの若干老いた声の持ち主。そしてもうひとりは、若い男。その二人はいま、フードを目が隠れるほどに深くかぶっており、表情が伺えない。
黒い、シンプルなローブで身を包んでいるのは、老いた男。そして、ローブの中心に、赤い十字架がペイントされていて、右の胸元に、十字のワッペンをつけているのが、白いローブを着た、若い男だった。

「そして狙いは……おそらく……いや、確実に」

黒のローブの男がなにかを言おうとしたが、白いローブの男が遮るように、先に答えをだす。

「【十字星座の戦士】か」

「……それがわかっていたのに、動かなかった俺たちのミスだな」

黒いローブの男は悔しそうに言う。

「だが……ここでやすやすと、俺たちの希望……この十年間の希望を、殺されるわけにはいかん」

そういうと、黒いローブの男は、懐から三枚の紙を、白いローブの男に手渡す。そこには、白黒だが、やる気のなさそうな顔立ちをした少年、明るい雰囲気の少年、そして、物静かそうな少女の姿が映し出されていた。それを白いローブの男は手に取り、同じく懐にしまい込む。

「その子供たちが、諜報部から流された……十字星座の戦士の力をもつとされている……そして……やつらのターゲットだ」

白いローブの男はそれをみて、思う。
運命に左右される、哀れな子供たちだとか、その力がゆえに命を狙われるのがかわいそうだとか、そんなことは思わない。ただ、思うのだ。こいつらは・・・自分と、同じなのだと。
ズキン、とうずく右目を抑えるようにして、手を当てる。何年も、何十年も、続けてきた、行動。そこに意味なんてなかった、それに可能性なんてなかった・・・だけど、ようやく、男は願いを叶えることができるのだと、ひそかに微笑み・・・

「俺たちの十年を、いや……俺が生まれ、あんたに拾われてから……あいつに出会ってから今までの時間を、無駄にするわけにはいかない……、この少年たちの未来も、俺が切り開いてやるさ」

そういうと、白いローブの男は身を翻し、狭い部屋をでていこうとする。だが、黒いローブの男は、それを、一度だけ引き止める。確認するかのように、その覚悟を、たしかめるように

「……ここからは、本当に厳しい戦いになる。俺は……おまえをこれ以上、巻き込みたくはない……だが……それでも、いくんだな?」

その言葉に、白いローブの男は、一度だけ黒いローブの男を見る。ローブを外して、その素顔を晒しながら、黒いローブの男を、自らのことを育ててくれた、自らの力を制御する力を与えてくれた、唯一無二の、親と呼べる、その男を見て、白いローブをまとった、若き青年は、いう。

「……いってくるよ、バウゼン」

その言葉を聞いて、黒いローブの男も、フードを外す。60代後半の、威厳のある顔立ちを、明るく歪ませ、笑顔を作り

「いってこい、ルイン」

と言い返す。

人は彼らを悪だという。
自らの信じる正義に立ちふさがる、悪者だという。
だが、彼らは信念をもち、動くだけ。
自らが正しい行動をとっているかなんてどうだっていい。人々から罵倒されたっていい。正義によって制裁をくらっても、けして折れることのない、信念をもつ。
その道がたとえ茨の道であっても、進まなければならない理由がある。だから、彼らは、己の力で道を切り開き、悪の汚名をつけられても、信念を貫くだけ。
そう、彼らは自らのことを、こう呼ぶ。
【レジスタンス】
と。


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