複雑・ファジー小説
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- 十字星座の戦士※お知らせ
- 日時: 2014/02/03 23:07
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: mL1C6Q.W)
〜prologue〜 【決まった未来、変えられる未来】
……声が、聞こえる。
その声は、これが初めてではない、過去、何度も何度も、同じタイミングで現れて、同じ言葉を残していく。
———目覚めよ
と。
声は、何かを促しているようだが、その意味までは、理解することができない。
何もない空間、闇に包まれた、不安を司る、そんな場所に誘われ、その声の主は、現れる。
夢と言われている空間。それは、本人意識ははっきりとしないものだが、この空間では、それにとらわれていない。体を動かしている感覚もあれば、聞こえる声を、『声』だと認識できるぐらい、意識もはっきりとしている。しかし、そこが夢だというということも、なぜだかわかってしまう。そんな場所。
いや……夢、ということにしなければ、この事象の説明がつかないから、かってにそう思っているだけで、本当はもっと別物の可能性もあるのだが。
その声は、いつも同じことを繰り返すだけ。声の主は、三度目の呼びかけで、その姿を表すということは、過去この空間にきているため、はっきりとわかっている。
———目覚めるのだ
目覚めよ……その意味は、まるでわからない。だけども、その声には、どこか焦るような響きが有り、自然と自身の心が不安に駆られるのを感じる。その時必ず、自分はこういうのだ
……どう言う意味だ
と。
意識もしっかりとしている、体の自由もきく、だが、この声は、自分の意識しないうちに、勝手に発せられる。
このことにも、もう慣れた。
けども、その声は、その言葉を無視して、さらに言葉を紡ぐ。
———十字星座の光よ
その瞬間、闇に包まれた空間に、ひとつの光が生まれる。
手のひらサイズに収まりそうなほどの光は、十字架のような形をしていて、それが、まばゆいばかりの光を放つ。
それが、声の正体。
そうだという証拠もなければ、声が自身の正体を明かしたわけでもない、しかし、なぜだか……俺には、わかってしまう。
声に、その光の正体に従うべきだと、俺の体は勝手に進みだし、その光に手を伸ばそうとする。
いくら抗っても、いくら意識がはっきりとしていても、勝手に体は動きだし、やがてその光に手が届く。
———世界はやがて、終焉を迎える。
俺の手に包まれた十字架は、さらに声を発する。脳に直接語りかけてくるかのように。
———おまえの力が、おまえに託された力が、必要だ
その瞬間に、手のひらに包まり、光をかすかに漏らしていただけの十字架が、闇を照らさんばかりに、強烈に光りだす。
……そして、闇が払われた、その先には……荒れ退んだ世界が広がっていた。
世界の中心には、人の形をした、なにかが立っている、その周りには……無数の人が、積み重ねられるようにして……死んでいた。
その世界は異様だった、その空間は異常だった。世界の中心に、一体の人の形をしたなにかが立ち……その周りには、誰ひとりとして、生きている者はいなかった。
人の形をしたなにかは笑っている。甲高い、悲鳴のような声をあげて、周りに積み重ねられるようにして、死んでいる人間を、蹴り飛ばし、また笑う。
あるものは、心臓を貫かれていた。あるものは、首がなくなっていた。またあるものは、人の形すら、していなかった。
無数に転がる死体、死体……笑う、人の形をしたなにか。
空は紅く染まり、人々が住んでいたであろう街は、背景の中、炎に包まれている。
ここで、俺が思わず、つぶやく
……なんなんだ……これは……
この世界が、現実でないことを、俺は知っている。こんな大量殺人、街の一つが炎上してしまうようなことが起きれば、当然、知らされているはずだからだ。
けれど……俺の脳のどこか……俺の心のどこかで、これは「現実ではない」と、「起こり得るはずがない」と、楽観視はできず……再び聞こえる声に、問う。
———因果律を捻じ曲げ、やがてすべてを滅ぼす『狂神』が、生まれる
……これは、絶対に、起こることなのか?
声は答えない。
……絶対に起こるはずが、ないよな?
そう、俺が言ったとき……背景に広がる世界の中で……、人の形をしたなにかに、挑む人の姿が、目に映る。
それは、肩までかかる、元は白であったであろう髪を、赤い血で染めた、15、6歳の少年だった。
少年は、武器をとり、人のかたちしたなにかに挑む。しかし、人のかたちをしたなにかは、その少年を笑いながら……
殺す
心臓を、手で一突き。人の力とは思えない力で貫き……少年を蹴り飛ばす。
その時、吹き飛ばされた少年の顔……それは、何度この世界に来ても、何度違うと思っても、覆ることはない……
そう……その少年の顔は……姿は、間違いなく……
俺自身、そのものだった———
その光景が流れた後、笑い声とともに、その世界は、崩れ去る。ガラスが砕け散ると同じときのように、音をたてて、その世界に終幕を下す。
これが……夢の終わりの合図。
その合図が現れた時、俺は、ただただ、問う
……あれは、なんなんだ
……こんなことが、起きるはずないよな?
……あの「人」は、なんだ?
……どうして、俺があそこにいる?
その質問に、十字架は答えない。
やがて、世界が終わりを告げる———
その時……十字架は……決まってこう、囁く
———破滅を止めたければ……目覚めるのだ……十字星座の光の戦士よ
———————————————————————————————————
はじめまして、Ⅷという者です。ゆっくり小説を書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
※お知らせ
(現在進行形で、3話を執筆(入力)中のため、更新が追いついてしまった際には、しばらくの間更新を停止し、ある程度まで進めたところで再び更新させます)
(メインキャラクターの顔のイメージ画up予定)
prologue >>0
一章【正義の影、悪の希望】
1話 【Peace(平和)】
>>2 >>3 >>4 >>5
>>8 >>11 >>12 >>13
>>14 >>15 >>16 >>17
>>20 >>21 >>22 >>23
2話 【Lie(嘘)】
>>24 >>25 >>26 >>27
>>28 >>29
3話 【Collapse(崩壊)】
>>30 >>31 >>32 >>33
>>34 >>35 >>36 >>37
>>39 >>40 >>41 >>42
>>43
4話 【Warrior of the cross constellation(十字星座の戦士)】
(3話終わり次第)
キャラクターイメージイラスト(>>38)
キャラクター設定
主人公
リヒト・タキオン
性別/男
年齢/16歳
身長/170
体重/60
十字星座の光の戦士
戦闘職業『白迅剣士』
初期使用武器『片刃直剣/ロングブレード』
性格/物事に対して、つまらなさそうに見つめ、人との交流をあまり好まない。だが、一部の人間、昔馴染みの人たちとは、仲が良い。昔はあまりひねくれた性格ではなかったのだが、『夢』を見るようになり始めてから、性格がゆがみ始める。光というよりも、闇のような心を持つ少年
ヒロイン
シエル・グランツ
性別/女
年齢/16歳
身長/150
体重/41
?
戦闘職業『黒迅剣士』
初期使用武器『細剣/ルビアス・レイピア』
性格 リヒトの幼馴染であり、おせっかいな性格。リヒトが戦闘職業を始めるのをきっかけに、誰かを守るという責任感とともに、自身も戦闘職業を始める。とても責任感が強く、仲間を大切にしている。口数が少なく、いつも眠たげにボーっとしているのが特徴の、優しい心を持つ少女
メインキャラクター (今現在の暫定的な設定)(物語のネタバレになる要素は?と表記する)
フラム・ヴァルカン
性別/男
年齢17歳
身長/174
体重/67
?
戦闘職業『炎明騎士』
初期使用武器『片手大剣・フレイムタン』
性格 同じく、リヒトの幼馴染。熱い心を持ち、人のため世のために活躍したがる、目立ちたがり屋。性格もお気楽で、軽い。しかし、人を守るため、大切な人を自らの手で守るべく、戦闘職業を始める。炎のように暖かい心をもつ少年
??
性別/女
年齢/??歳
身長/??
体重/??
?
戦闘職業『??』
初期使用武器『??』
性格/?
レイ・タキオン
性別/女
年齢/15歳
身長/148
体重/40
タキオンの継承者
戦闘職業『白迅剣士』
初期使用武器『長剣・タキオン』
性格/ 弱気で、いつも兄であるリヒトの後ろに隠れている、内気なタイプ。しかし、困っている人を放っておけない、心にやさしさと、儚さを宿した少女。
1000年前の戦争により、英雄『タキオン』が使ったといわれている、『長剣・タキオン』に認められし少女。
ルイン・?
性別/男
年齢/??歳
身長/??
体重/??
??
戦闘職業『??』
初期使用武器『??』『??』
性格/?
??
性別/??
年齢/??歳
身長/??
体/??
??
戦闘職業『??』
初期使用武器『??』
性格/?
バウゼン・クラトス
性別/男
年齢/??歳
身長??
体重??
??
戦闘職業『アポカリプス』
初期使用武器『??』
性格/?
- Re: 十字星座の戦士※3話【Collapse(崩壊)】 ( No.33 )
- 日時: 2014/01/20 01:09
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)
俺は、すっとぼけたようにそういうと、シエルは少しむっとしたふうに顔をゆがませて、
「どのへんって……十字星座の戦士のあたり」
「十字星座……か」
危機感、という話の時点で、こうくることは、だいたい予想がついていたが……
「シエルは、どう思う?」
俺は、朝考えた、最悪の可能性を、頭の隅においやり、シエルの意見を先に聞くことにする。
「どうって……もしも本当に、今、十字星座の戦士が、必要な世界になっていたとして、『機関』ほどの組織を相手にできる勢力なんて、それこそ魔界の四天王、そして……」
そこでシエルは少し考えるような顔になり、再び顔をあげ
「その四天王をも統べる、災厄の悪魔がこの世界に復活したとしても……たぶん、無理だと思う」
そう、その考えは、俺とほぼ一緒な意見だ。
機関は、11年前までは、バウゼン・クラトス……戦闘職業でもっとも強者として、神より授かるという称号、『アプカリプス』を不動のものとしていた者が運営し、そして、10年前に、その者の反逆を見事に返り討ちにした、さらなる強者たちが、機関の中には既にいる、ということだ。それだったのならば、並の犯罪者でも、いくら戦闘職業としての実力があろうが、一人でも、大群を投下しても、人間たちはもう、機関に歯向かうことはできないのではないだろうか。そう、俺が考える最悪の可能性は……そこなのだ。
「俺もだいたいシエルと同じ意見だが……逆にって……考えは、どうだ?」
俺は、おそるおそるシエルにそういう。これだけは、自分ばっかしでとどめておこうと思ったけれども、なぜかシエルには、話しておかなければならないような気がして、自然とそんなことが口にでてしまう。シエルは俺の言葉の意味を最初、意味がわからないと首をかしげていたが……やがてその真意に気がつくと、顔を青ざめさせ、いつも眠たげにしている目を、驚きに見開く。
「そんな……まさか……———」
「そうだ……もしも、もしもだ……」
「でも……たしかに、十字星座の戦士が必要になる世界……機関という最強の組織ですら止められない敵は……それしか、考えられない」
シエルは、思った以上に、納得がいった、といった顔をして、俺のことを見つめる。その目には、決意と決心と……そして、いつもの眠気に満ちた表情を一変させた、凛々しく、気高い、戦士の誇りが垣間見えたような気がした。
「でも、あんまり重く考えないでくれ。世界は至って平穏、穏やか……平和といっても過言じゃない。もしも、十字星座の戦士が本当に必要になってるなら……」
「世界はもっと、混乱してるって?」
「そうだ。だけど、そんな欠片は、一切ない」
俺は、それがまるで真実でないかのように、言葉を重ね、俺自身が考えついた最悪の可能性を消そうとする。本当にそんなことがあってはならないのだと、俺の心がそれを否定しているから、そんなことはないと、なにも証拠もないのに、隠蔽しようとする。
世界各地に配られる、首都から転送されてくる新聞にも、大きな事件は何一つとして書かれていない。あるとすれば、巨大な魔物の討伐に成功しただの、機関があらたなる発明をしただの、機関の政治方針に対するおえらいさんたちの論議をまとめた論文とかばかりで、とてもじゃないが、十字星座の戦士が必要になっている世界だとは思えない。
だが、シエルは、俺がそのことを否定するのが、気に食わなかったのか、むっとした表情で、そして、さらに、いつものねむたげな表情はすでにどこかに消えていて、焦りと、恐怖と、そして、俺に対する怒りだけが、その顔には映し出されていた。
「だからリヒトは……危機感が足りないって言ってるの」
シエルは俺に詰め寄り、胸ぐらを掴むと、いつもの穏やかではない、恐怖に怯えながらも、怒りに震えた声で、俺にいうのだ。
- Re: 十字星座の戦士※3話【Collapse(崩壊)】 ( No.34 )
- 日時: 2014/01/20 18:42
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)
「もしもそれが……それこそ———『機関』がすべてを隠蔽してるかもしれない……小さな村で起こった事件なんて、『機関』の新聞や、『機関』お墨付きの行商人たちからしか話は聞けない。首都でおこった事件なんて、権力ですべてもみ消せる。……『機関』がそもそも、私たちを騙しているなら———もうとっくのとうに世界は……」
シエルは、俺が今まで避けていたその組織の名前を言うと、俺がまだたどり着いていなかった答え……いや、たどり着くことを恐れた答えを、俺につきつける。だが、俺はそれでもまだ信じたくなかった。シエルがなぜ、こんなに焦っているのかも、わかりたくなかった。なぜこんな恐怖に震えているのかも、わかりたくなかった。十字星座の戦士が必要な世界を、夢で最後に見るあの映像を、信じたくなかった。
「そんなの……妄言だ」
俺は、その一言で、シエルの言葉を一掃する。
逃げだとは分かっている。だが、確証がないのに、そんなに怯えるのはどうかしていると、俺はそう言おうとした。だけど、俺の口から出た言葉は、シエルを、そして、そのきっかけとなった、自分の言葉を否定するものだった。
シエルは俺のその言葉に、今にも泣き出しそうな顔になる。だが、胸ぐらを掴む手に、さらに力がはいったかと思えば、俺のことを、その小柄な体のどこにあるのかわからない力で、後ろに投げる。
「———つぅ!?」
なんとか受身をとったものの、衝撃で俺の剣は鞘から飛び出し、折れた、情けのない姿を晒しながら、地面をころがっていく。
それをシエルは、今にも泣き出しそうな顔で見つめながら……
「私は……昨日の戦いで……リヒトは、変わったんだなって……思った……」
その声には、俺を否定する色が混じっていた。そして……俺に対する、哀れみと……そして———侮蔑が、混じっていることも……わかってしまった。
「でも……リヒトは……あの時から……なにも、変わってなかったんだね」
そう言い放つと、シエルは、俺に背を向けて、歩き出す。いつかみた光景を、俺はその瞬間に思い出す。
俺が、変わる……変わろうと決意した、あの日の出来事を。シエルに哀れみの目で見られ続けたあの日々を。俺が信じた、戦う力を。俺が守るべき、者を……。
だが、それを声にだすことはできなかった。声にだしてしまえば、俺は、その最悪の可能性を受け入れてしまう気がしたから。最悪の可能性に備えて、とか、いろいろなことを考えて、自分を正当化しようとした結果、やはり、俺は、ただ逃げていただけだった。あの時も、いつも、いつもいつも、俺は逃げているだけだったと、ただ思い上がってただけなんだと、シエルに真っ向から否定されることによって、立ち上がる気力すら、失われてしまった。
昨日の時点で、俺は、ようやくシエルを認めさせることができたんだな、と思った。だけど、それは俺のただの独りよがりで……そして……こんなふうにあっさりと崩れてしまうほど、脆いものだったんだな……。
「私たちは……力がある……守るための力が……。その力は、逃げるためじゃなくて……、戦うためにある。だから、最悪の可能性———『機関』が敵だったとしても、私は、私たちは戦う。……リヒトはその可能性から目をそらすなら……一人で、逃げればいい」
シエルはそう言い捨てると、やがて歩き去ってしまった。
俺は飛び出た、剣の柄のほうを見て、そして、空を見上げる。空は、さきほどまでの快晴とうって変わり、どんよりとして曇り空へと変化していた。それは、まるで不吉の予感とでもいわんばかりに、大地を、不気味に、照らしている。
俺は、思い出していた。ただ、ひたすらに、自分の無力をしった、あの日の出来事を。シエルに、認めてもらおうと思った、出来事を———そして、守る力を手に入れると……決意した、その日の出来後を。
- Re: 十字星座の戦士※3話【Collapse(崩壊)】 ( No.35 )
- 日時: 2014/01/21 21:48
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)
いつもと同じような一日だった。夢を見て、レイに起こされ……そして、母さんが、朝飯を用意してくれていて、父さんが、生業である戦闘職業の、遠征に出る日だったため、早くから準備をしているというだけの、ごく一般的な、家族の風景。
父さんに憧れ、自身も戦闘職業になることを望んでいた俺は、その年で、ようやく、各街にかならずある、戦闘職業育成ギルドに入隊することができ、ようやく訓練生として、剣をにぎることを許されていた。そこにはシエルもいて、フラムもいて、そして……その二人は、俺よりも才能があり、そして、多くの人から認めてもらえるほどの実力を、すぐに身につけた。だが、俺はそうではなかった。仲が良い二人が、一般よりも少し劣る俺を置いて、さきにいってしまうことが怖くて、俺は、はんばやけになっていたといってもいいだろう。戦闘職業にはいろうと思ったのは、父さんに憧れてというのもあるが、その時の俺が……いや、今でも思っている、俺が戦闘職業にはいろうとおもったのは……誰かを、いや……シエルを、フラムを、レイを……そして、父さんや母さんを、安心させられるほどの力を身に付け、守られる側から、守る側になろうと思っていたのだ。だが、焦りからか、俺はそんなことを忘れ、そして、追いつけないという諦めから、俺は怠慢し、教官の教えを聞かずに、一人でふらふらとてきとうなことをやっていたのだ。
周りの目は、俺を邪魔だといった。目障りだといった。それもしかたないことだったけど、当時の俺は、その言葉から逃げるように、だらだらと、適当な時間を過ごしていた。そして……一人だけ、置いていかれた。
その日は、月に一度ある、実力テストの日だった。父さんは遠征に向かうために、所属しているギルドのメンバーと落ち合うために、街の中央広場に集合する、と言い残し、剣を担いで、家をでた、母さんやレイはそれを見送り、俺も、いやいやながらも、実力テストに参加するために、剣を担ぎ、外にでた。
この実力テストをきっかけに、俺は、戦闘職業をやめようとも思っていた。まだはいった当初は同じ実力だったやつらも、とっくのとうに強くなっている。だから、俺は、もういいだろって、勝手に思いこみ、シエルやフラムが、俺たちのことを守ってくれるだろ、とか、好き勝手なことを思い、やめうと、していた。
その日の天気は、……今の天気と同じような、不吉の前兆とでもいいたげな、曇り空だった。
父さんたちの集合場所と同じ、中央広場に集合した訓練生たちは、教官の指導のもとに、シエルを先頭に、街の象徴である魔法石を目の前に整列し、教官が発表している、今回戦う相手の発表をきいていた。実力テストは、実力の近い者どうしで戦い、そして、勝った方の成績があがり、負けたほうが下がる、といった簡単な方式だ。けど、戦いの最中に使った技のキレ、剣術のキレなどによって、また別の判断基準が生じているから、俺たちのような子供にはわからない複雑な審査が行われるという。そして、当然のごとく、俺の成績は最下位で……当然、今回戦うのも、運悪く落ちてきた、下から2番目のやつだった。
結果は惨敗。誰もが、当然だといわんばかりに、俺を攻めた。戦った相手は、俺に興味を一切示さず、ただただ、当然だと言い捨てていった。
手を貸す者はいなかった。倒れている俺に、誰も手を差し伸べなかった。それが惨めで、悔しくて……俺は……やめてやる……と……叫ぼうとしたのだ。こんなのはもうごめんだと。
だが————それは、叶わなかった。
中央広場に、一閃の雷鳴が、轟く。いや、違う。ベルケンドの街全体、いや、もしかしたら、周辺の村にも聞こえたかもしれないし、中央までとどいたかもしれない……その音は———『魔物』の、雄叫びだった———
空から突如轟いたその雄叫びに、教官たちは即座に戦闘態勢に入る。どこから敵がやってくるかわからないから、あたりを見回し、教官たち全員で、俺たち訓練生を守るように、円を描き全方向に対応できるような形をとる。
父さんたちのギルドは、その雄叫びにより、一時的に全員散開。街中に避難勧告をだすために、走り出す。その時、俺はたしかに、父さんと目があった……父さんは、俺の戦いを見ていない。俺の実力が、どの程度か知らない。ただただボロボロになった俺をみて……よくがんばった……とだけ、目で語り———、俺たちの家がある方面に、走っていった。
ベルケンドの街には、中央広場のとなりに、巨大なドームがある。そこはいつもは、戦闘職業の人々が、訓練するためにはいる場所だが、緊急時には避難場所に変わる、そこは、街中の人全てが入るスペースはないものの、そのほかにも、べつのドームがあり、それぞれに避難することによって、街中の人々が、もし魔物が街にはいってきたりした時に、襲われないようにできる。
だがその本質は、街の人々を一箇所に集めることによって、魔物をすべてそこに集中させて、後ろから戦闘職業者が叩くという、いわゆる餌の役割を果たす避難所だ。
未だ、魔物の雄叫びが響いている。教官たちは、俺たちに、まだ魔物がこないことを見計らって、避難所にいくように指示する。教官たちの顔に余裕はなく、バウゼン・クラトスが敷いた結界を、真正面からやぶってくる魔物が、どれほどおそろしいものなのか、そのとき俺たちもようやく理解することができたのだ。
- Re: 十字星座の戦士※3話【Collapse(崩壊)】 ( No.36 )
- 日時: 2014/01/22 21:52
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: 74hicH8q)
だが、俺は、その時、一人だけ、飛び出していた。魔物が雲を突き破り、街に急降下してくるのが見え、教官たちは、俺にかまう暇などなくなったそのすきに、俺は飛び出していた。剣を握り締め、家にむかって、走っていた。
後ろから誰かがおってくる気配がある。けど、気にしてる余裕なんてなかったのだ。なぜか、嫌な予感に駆られていたのだ。雲を突き破ってきた魔物の姿は、伝説……神話……さまざまな蔵書に、聖獣として人々に知られる……竜だった。赤き竜は、ベルケンドの街の真上から急降下してきている……俺は……なぜかその時———————竜が、俺の家の近くに降り立つと、予感してしまったのだ。
そして————竜が地上に降り立ち。その衝撃で回りにある家は吹き飛び……その周辺にいた戦闘職業の人々が……吹き飛ばされる。
人の約4倍ほどの体躯を持つ赤き竜は、吼え、その吼えた衝撃でまた、突風が巻き起こる。俺は、そんな光景を———家の目の前で、見ていた。
竜は、自分の家の3つほどさきの道に降り立ち、その回りの家を吹き飛ばしたが、ここにはとどいていなかった。ただただそのことに安堵しながら、俺は家に入った時に……ふと、思った。
誰のぶんの靴も、玄関には……なかったのだ。
そのことに俺は、ひどく恐怖を感じた———そうだ……竜のいる方向は———べつの避難所に……むかうための道———
竜が、誰かと戦闘を始めた気配が伝わってきた。誰かによく似た雄叫びが聞こえる、誰かによくにた悲鳴が聞こえる。誰かによく似た、泣き声が聞こえる。その瞬間、俺は走り出していた。
いっても無意味なのに、いっても無駄なのに、邪魔になるだけなのに、いかずにはいられなかった。そのときはじめて後悔した。もっとまじめに訓練をうけれておけぱよかったと、その時後悔した、逃げるんじゃなかったと……そのとき後悔した———父さんや母さんに……なにも、恩返しをしてやることが、できなかったことを。
竜が、単身で戦っていた、剣士をつかむ。そのまま握力で剣士の骨は折れ、絶命する。悲鳴はさらに大きくなり、泣き声も大きくなる。竜は手にもった剣士だったものを……父さんを、口をおおきくあけ、上半身だけ、その鋭い牙で、くいちぎり……地面に下半身を放り捨てる。
剣が地面に落ちる、虚しい音が聞こえる。俺は叫んでいた。泣きながら、剣を構え、一人、父さんと同じように……単身で、竜につっこんでいったのだ。
ただの魔物すら倒すことのできない俺は、竜の脚にきりかかっても、見向きもされなかった。竜は、次の獲物と言わんばかりに、俺を無視し……目の前で泣きじゃくっていた……レイに手を伸ばしていた。
竜が手を伸ばし、レイをつかもうとした。俺は、また、その光景を、ただ絶望した表情でみていた。俺にもっと力があればと思った———その時こそ、本当に、夢にでてくる、十字星座の戦士の力がほしいと、心に思った……だが……竜がつかんだのは、レイをかばい、自ら身を投げ出した母さんで———母さんも———父さんと同じように———竜に、食い殺された。
その後、竜は、俺のあとを追ってきていたシエルが、機関の兵士の詰め所に立ち寄り、呼んできた機関の兵士によってこの場から立ち去り……別のところに降り立ったのちに、さんざん暴れまわった結果に……この街すべてのギルドが連携を取り、竜を討伐することに成功したというが……俺には、そんなことはもう、どうでもよかった。
シエルが、侮蔑と憐れみと……そして、悲しみを込めた目で、俺のことを見つめていた。俺は、四つん這いになって、泣いていた。自らの無力を、呪っていた。その時のシエルの目は忘れない。シエルの言葉も忘れない。そして、自分の後悔も……忘れない。自分の決意も———忘れちゃ、いない。
俺が弱いばかりに、犠牲者は増えた。俺が弱いばかりに、父さんも助けられなかった。肩を並べて戦えていれば、その場から追いやることもできたかもしれないのに……だから、その時の絶望も、俺は忘れてはいない。
雨は無情に、父さんたちの血を洗い流す。シエルはいった。変わらなければ、なにも変えられないと。俺は言った。変わってやると……ただ二人残された、兄妹のレイを守るために…命がけで家族を守ろうとした父さんのために……母さんのために———レイを、守るために……そして、戦闘職業に入ったときに決意した……シエルや、フラムも……俺が、守ってやるんだと———変えてみせる、と。
俺は、立ち上がる。折れた剣を再び鞘に納めて、もう、逃げちゃダメなんだと……変わらなければ、ならないんだと。
「……なにかを変えるなら……自分が変わらなくちゃならない……か」
その言葉を胸に、俺は、自分の、疑惑を、恐怖を、受け入れる。
もしも……機関が敵だったなら———機関が、十年前を節目に……なにもかもがかわってしまっていたとすれば……きっと、十字星座の戦士の力が……必要な世界に、なっているはずだ。
十字星座の戦士なんて得体のしれないものに対する恐怖もある、機関がもしも敵だった場合、自分にはなにができるかなんてわからない……だけど、俺は、なにも変えられないまま、逃げ続けるなんてことは……もう、できない。
ポツリ、ポツリと雨が降り始め、俺の頬を濡らす。
最悪の可能性を受け入れるのには、抵抗がある……その抵抗を、洗い流すように……雨が……降り始めた。
- Re: 十字星座の戦士※3話【Collapse(崩壊)】 ( No.37 )
- 日時: 2014/01/23 19:34
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: 74hicH8q)
雨が、降り始めた。
ポツリ、ポツリと、静かに、大地を濡らし、シエルの、頬を濡らす。
流れ落ちるしずくは、彼女の迷いを、彼女の恐怖を、彼女の懸念を、なにもかもを洗い流すことはできない。彼女は、ひたすらに、最悪の可能性のことを、頭にうかべては消して、それにどう対処するかを、考えては消してを、繰り返していた。
その時に、かならずうかびあがるのが、リヒトの顔だった。まるで逃げるようにして、自分の考えた最悪の可能性を、捨て去り、あくまで世界は、平和のままだと言い捨てた彼の顔を、シエルは思い浮かべる。
シエルは、自分の言葉に、リヒトに吐き捨てた言葉に、後悔していた。そう、彼の意見は、正しいのだ。自分がどうかしているだけだったのだ。リヒトは、機関を信じている。世界中、どの人に聞いても、機関は悪ではないと答える。それほどまでの絶大な信頼を集めている機関が、敵なんてことは、普通はありえないのに、シエルは、まるで本当にそうなんだと、確信もないままに、リヒトのことを、切り捨てたのだ。
ズキリ、と痛む胸を抑えて、いつもは感情の読めない、ねむたげな目を涙に濡らし、リヒトに謝ろう、と思った。
リヒトは、変わった。あの時とは違い、強くなった、そして……守るべき対象を、自分の考え方で、何者にも縛られずに、守ろうとしている。機関がたとえ、もしも相手になったとしても、リヒトは、機関を敵に回してでも、大切なものを守ろうとするだろう。リヒトとは、そんな男なのだ。
あの日……リヒトを変えるキッカケとなったあの日ですら、シエルは後悔している。あの時、もしも自分が、詰め所によらず、リヒトをそのまま追い、リヒトの父親に加勢していれば、最悪な結果は、変えられたのかもしれない。けど、シエルは、詰め所に寄る道を選び……そして、ただただ崩れ落ちて泣きじゃくるリヒトに、冷たい言葉を吐き捨てて、その場をさったのだ。自分だって泣きたかったのに、リヒトを抱きしめてやりたかったのに、口からでてきたのは、リヒトを否定するような、言葉だけだったのだ。
「……なにかを変えるなら、自分が変わらなくちゃならない」
自分の、信念ともいえる、その言葉を、シエルは口にする。誰にいわずとも、ただつぶやく。
このまま、リヒトを見捨てて、自分一人で怯えているようじゃ……自分一人で泣いているようでは……それこそ……あの時から———変わっていないのは、自分ではないのか。
シエルは、そう思った瞬間に、踵を返し……まだリヒトが、さきほどの場所にいると信じて————だが、それはかなわなかった。
雷鳴が、轟く。一閃の光が天を引き裂き、そのあとに、なにかの雄叫びが……大気を引き裂き、大地を揺らす。
地震でもない、雷が鳴ったわけでもない、ましてや、なにかがこわれたというわけではない……そうだ……彼女は、知っている、この雄叫びの正体を……4年前に……リヒトの両親を食い殺した魔物と……類似するかのような……雄叫びと———圧倒的な、魔力の放出。
「まさか……」
シエルは、最悪の可能性を思い浮かべて、顔を青ざめさせる。四年前と似たような景色、四年前と同じような雄叫び……街の結界を真正面から打ち破ることができる魔物なんて、限られているはずで……それも、強大な魔物ほど、街の結界は拒絶する……だが……ひとつだけ、結界の、弱点があるとすれば……
「もう……中にいる!?」
そうだ……剣士であるシエルが怯え、震えるほどの魔力を放出するような存在が、結界の内部にやすやすと進入できるはずがないのだ。だが、できるほうほうは、二つだけあるのだ。
ひとつは、それこそ真正面からぶつかってくるというもの。そしてもうひとつは———すでに、一度、なんらかの方法で内部に入った魔物には、もう、結界は、無意味で……何度でも、進入が、可能に、なるのだ。
シエルは考える。どうすればいいかを、剣を腰の鞘から引き抜き、考える。これこそ、リヒトがいっていた、最悪の可能性なのではないかと、これこそ、十字星座の戦士が必要になる世界ではないのかと。これこそ……機関の、しくんだことなのではないかと。
雄叫びはやまない。また、別のところから、同じような、強大な魔力を孕んだ雄叫びが、あがる、また別のところから、また、また————
近辺の家に住んでいる人々が、なにごとだといわんばかりに窓から顔をのぞかせたり、家からでてきたりする。戦闘職業を生業とするものは、緊急時に、一般人を安全に避難所まで避難させる役割をもっているはずだったが、そのときばかりは、誰も、行動することができなかった。
やがて雄叫びがやみ、どこからか、風を切る音が聞こえる。鳥が羽ばたくときに聞こえるような、ちいさな音ではない。巨大で、凶悪な……悪魔の羽ばたき———
自然と、人々の目線が、中央広場の方向へ向かう。この街のどこからでも見ることができる、巨大な魔石の頭上に……その正体は、あった。
人の4、5倍の体躯をもつ……人ならざるもの。かつて人々からは聖獣は呼ばれ、今現在にもその名を馳せる、誇り高き獣……竜……。真紅を体を、その巨大な翼でうかせ、この街を、殺気に満ちた瞳で……見下ろしていた。