複雑・ファジー小説
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- レイヴン【三話・因果】※作者トリップ変更
- 日時: 2016/02/25 09:38
- 名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: HAhG.g1E)
久しぶりに小説が書きたい衝動にかられたので気ままに執筆していきたいと思います。よろしくおねがいします。
作者が投稿したあとに見返してみておかしいと思った点を随時調整していきますが、物語の流れが大幅に変わることはないので読みすすめたところは流して読んでも問題ありません。
作者は自由気ままに執筆していきます。気が向いたら是非、読んでいってみてください。
作者はあまり想像力豊かではなく、また、自身の作った設定上でしか物語を描けないという不器用極まりない人間ですので、オリキャラ募集などは基本致しません。ご了承お願いします。
更新速度は不定期です。1日1回を目安としていますが、一日に2回、3回という日もあれば、都合により何日か時間を空けるときもございますのでご理解の程お願いします。
作者は絵を描くことが好きなので、希にキャラクター絵などを載せていくことがあります。それを見ていただくことでキャラクターの容姿をより正確に表現し、みなさまと共感したいと思っております。
※最近あまり小説を書く時間を確保できなかったために、カキコにおとずれる機会も減り、自分のトリップを忘れてしまったので変更させていただきました。
時間をおおきくあけてしまったためにストーリーの構成を忘れかけてしまっているので、時間があるときに読み返し、再び執筆していきたいと思います。
※目次 ※(★が小説の本文 ●が補足など)
★プロローグ>>1
●用語紹介>>2 ※2/1微調整
●主要キャラクター紹介(随時公開)>>3 ※2/3新規公開
★第一話 正義とは >>4 >>5 >>6 >>7 >>8
>>10 >>11 >>12 >>13>>18
>>19 >>20 >>21 >>22 >>23
>>25 >>26 >>27 >>28
★第二話 仮面の表 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33
>>34 >>35 >>37 >>38 >>39
>>40 >>41 >>42 >>43 >>44
★第三話 因果 >>45 >>46 >>47 >>48 >>49 >>50
>>51 >>52
●キャラクターイラスト >>9 >>24 >>36
- Re: レイヴン【第二話・仮面の表】 ( No.43 )
- 日時: 2015/02/20 02:06
- 名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: 3TttADoD)
それは小型の無線機だった。【レイヴン】の全部隊に支給されるものだが、37部隊は、結衣があまりこの存在を好んでいないために、普段から使うことは今までに一度もなかった。
小型の無線機。【アビリティ】の首につけれられる首輪の内部に仕込まれた小型カメラ。【力】を使った際に反応を示し、基地内部にある所属している部隊の部署のオペレーションルームのモニターに映像を映し出し、録画するそのカメラは、あくまで、【力】を使った際にしかその映像を映し出すことができない。【力】を使ったあと五分はひらき続けるが、【力】を使うまでは、まったくもってその状況を理解できずに、いま、どこで、なにをしているのかも、情報として伝わってこず、さらにはオペレーションルームからは一切音声を【アビリティ】に届けることができないのだ。
そのことに懸念を覚えた【レイヴン】の総司令官達は、すべての部隊に無線機をくばり、所属している【アビリティ】の監視を徹底させるためにそれを義務つけた。【アビリティ】はあくまで【レイヴン】に飼われていて、下手なことができないようにと、させないようにと、拘束の意味をもってこれを支給した。
結衣はそれをめんどくさいから、とか、馬鹿げているから、とかいろいろな理由をつけては今日この時まで一度もその無線機をだしたことがなかったが、今取り出した……ということは、おそらく、
「君が前回みたいに衝動に任せて飛び込んでいってしまっては元も子もないからな。あまり心配をかけさせないでほしい」
その言葉をきいて、いかに結衣が、今回の仮面の男の件で、迷いが生まれていたのかを刃は悟る。
普段ならぱ、こんな、拘束力を高めるために作られた道具など、無視してつけないし、これが結衣の判断でなければまちがいなく刃は握りつぶしていただろう。だが刃は素直に頷いて、イヤフォンタイプのそれを耳にさし、マイクをスーツのえりの部分につける。
このタイプは、親機が起動していない場合は通信を取ることは不可能で、【アビリティ】の拘束力を高めるためという意味合いからかはわからないが、【アビリティ】側からは親機の電源を入れることはできない。だが、親機が常に起動している場合はべつで、【アビリティ】側からの通信を常にキャッチすることができる。結衣は、自身の机の上に親機の端末をセットすると、それを起動し、一度刃のことをみる。
刃は意図を察して、一度マイクをたたく。すると親機のほうから微かに音が聞こえてきて、通信ができていると判断できた。
「あと一時間後に外へでれるように準備してきてくれ」
結衣は、親機がちゃんと機能していることを確認すると、刃に自分がもっていた【アビリティ】の資料を刃へと渡す。それを刃は受け取りながら。
「ごめんな、俺たちのわがままにつきあわせちまって」
と一言、結衣へと謝罪の言葉をいれ、そのまま支度をするために、自身の寮へと向かうのだった。
- Re: レイヴン【第二話・仮面の表】 ( No.44 )
- 日時: 2015/02/23 04:37
- 名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: 3TttADoD)
刃がまだ、【レイヴン】の外への出発で手をこまねいている頃———
その場所には、胸を貫かれ、四肢をもぎとられ、周辺一帯に血や臓器を、なにかに圧迫されて弾け飛ばされたようにぶちまけた、かつては【レイヴン】の【アビリティ】だった2つのペア分の死体が転がっていた。
高層ビルの屋上で繰り広げられていた戦いはいとも簡単に決着がついていた。【レイヴン】東京エリア第五部隊のうちのふたつのペアが追い詰めたと思っていたはずのその男は、傷ひとつ負うことなく、高レベルの【アビリティ】をいとも簡単に返り討ちにしてしまっていた。
「哀れな【アビリティ】よ……」
その男は、黒いマントで身を包み、ふざけているかのような白い、無表情の仮面をつけた、長身の男だった。
その男は、無残に散らかった死体をみつめながら、天を仰ぎ、祈りを捧げるかのように囁く。
「世界に捨てられ……【レイヴン】に飼われ……狂ってしまった世界で奮闘し続けていた我らが同士に祝福があらんことを……ククッ」
しかし、その囁きの最後で男は、こらえていたかのように笑い声を漏らし、そして、屋上の端へと歩いていき、はるか遠くに見える【レイヴン】の基地をみつめる。
東京エリアに存在している【レイヴン】の基地にはなんの思い入れもなく、ただただそこにある、【レイヴン】という存在に対して、男は思いを馳せる。
『状況はどうだい、仮面』
しかし、思いを馳せようとしたところで、耳にさしてある無線機から声が聞こえてきて、男はしぶしぶといった風に返事を返す。
「どうもこうもないよ。所詮東京の【レイヴン】が飼い慣らしている【アビリティ】のレベルは大した事ないからねえ」
そういいながら、さきほどから風にふかれて流れてくる血のにおいの元をみる。だが、無線機のさきの相手は、そういうことじゃないと一度いい
『君に関してそっち方面の心配は無用だと承知している。さっきのは【計画】に関わった【アビリティ】や研究員の回収のほうだよ』
「君の言動はいちいちわかりにくいから困るな」
『君みたいに大仰に話さない分随分とわかりやすいと思うけど』
「ククッ、まあどうでもいいよ。回収の方は順調だよ。私が知る限りではあと1人といったところだね」
そこで、仮面の男がなにかを思い出したかのように手を一度たたく。
それは、深夜のショッピングモールで出会った野良【アビリティ】だった。最近【アビリティ】たちの間ではどうにも、仮面の男が【レイヴン】から野良【アビリティ】を守り、対抗する組織をつくっている、という噂がながれていってしまっているらしい。
先日は、残りひとりとなった、計画に関わった【アビリティ】をさがすために、野良【アビリティ】が潜んでいそうな場所を転々と移動していたために何度か同じようなことを言われ、うんざりしていたところだった。
だが、野良【アビリティ】は極力、自身にまとわれついてくる【レイヴン】の【アビリティ】たちの捜査をかく乱するためにも生かしていたのだが、あのショッピングモールでは、すでに二人ほど、その野良【アビリティ】にマークがついていた。
すぐに襲い掛かってくるようならば殺してしまおうと思ったがそこで遊び心が勝り、【アビリティ】の男を殺すその瞬間まで出てこないようならば見逃そうと、でてきたのならば殺そうと、そう考えていた。
昨日の深夜におこった出来事を鮮明に思い出しながら、なぜか笑いが止まらなくなってしまった仮面は、一度無線の先の人物に怒鳴られる。
『笑っている暇はないぞ仮面。じきに東京エリアの第一部隊も動き始めるだろ。そしたらいくら君でもやばいだろう?」
【レイヴン】の第一部隊というのは、そのエリア間でもっともつよい【アビリティ】たちが集う最強の集団。
あまり上下関係が存在しない【レイヴン】の部隊のなかで、第五部隊までが上位部隊に属され、そして、それの筆頭が第一部隊だった。
その中には当然、危険度はS以上。中にはSSSの化物まで飼い慣らしているところすらあるというほどのものだ。過去の危険度SSSの化物たちは、その第一部隊との戦闘によって処理されたといわれていた。
だが、それでも仮面の男は笑う。
「どんな【アビリティ】がこようが私には関係がないね」
その言葉は、声が笑っていたが、仮面の中にある獰猛な、黄色の瞳は、深い憎しみに彩られていた。
だが、無線のさきの相手は気にした様子はなく、ひとつ、なにかを思い出したかのように尋ねる。
『とりあえず君と、君が回収した【計画】の関係者の帰還を僕たちは待つとして、例の【力】を使わない【アビリティ】はどうしたんだ?いたく気に入っているようだったけど』
「……あの中途半端な【アビリティ】君ね」
『君と同じ種類の【アビリティ】であり、君と同じように身体能力が極限まで向上したのに、【力】をつかわない【アビリティ】……東京には随分とおもしろい【アビリティ】がいるもんだね』
「あの青年のことは私個人的にもちょっとひっかかる部分があるんだよね……もう一度接触したら、喋ってしまってもいいかい?」
無線のさきの相手は、その質問に一度考えるように唸る。
だが、しゃべる内容……つまり、【計画】と彼らが言うものについて、【レイヴン】に知られてもひとつの部隊、その真実を知ってしまった部隊が【レイヴン】の上層部に消される未来が待っているだけと知っていたために
『いいだろう。できることなら、君と同じ種類の【アビリティ】は貴重だからね、仲間に引き入れてくれてもかまわないぞ』
その言葉をきいた仮面は、【レイヴン】の基地のすぐ近くにあるショッピングモールで【力】もつかわずに突っ込んできた、自信と同じ違和感を持った【アビリティ】のことを思い出す。
目つきが悪いが力強い信念を宿した瞳。その裏に見え隠れする寂しげな色を見た瞬間に、なぜかなつかしい気がして、あの時、仮面の男は、その【アビリティ】を殺すことができなかった。
そんなことを思い出したからか、仮面の男はすこし弱気にこうつぶやく
「アレはそう簡単に仲間を裏切らないタイプだとおもうけどね」
そこまでいったところで、仮面の男は無線のイヤフォンを外し、自身の右目を閉じ、ある場所を頭の中で瞬時に思い浮かべる。
その場所は———民営のプール———
瞬間、仮面の男の姿はビルの屋上から掻き消え———あとには、無残に散らばる死体が残るだけだった。
- Re: レイヴン【第二話終】次回更新第三話 ( No.45 )
- 日時: 2015/07/01 21:55
- 名前: Ⅷ ◆S0/yc2bLaI (ID: QrFqqwfB)
3話、因果
「……まじかよ」
目的先である民営のぷーる。その最寄り駅を見たときは愕然としてしまっていた。
なにかの冗談でありたいと信じて外へでてきて、電車を乗り継ぐこと一時間程度。都心とは随分と雰囲気が変わり、高層ビルなどはなく、あっても駅前に五階程度のマンションが立っているぐらいの、いわゆる田舎といわれてもいいレベルの場所だった。
茹だるような暑さでてりつける太陽を憎々しげに思いながら、刃は駅のホームへと降り立っていた。
「なんでよりにもよってここなんだかなあ」
懐かしくもあり、そして、もう二度と戻ってくるはずのなかったその場所は、かつての片桐家があった町だった。
「チッ」
思い出したくもないことを思い出しそうになってしまい、そのことに対して刃は舌打ちする。しかし一方では、この捜査に蓮がいなくてよかったと心のなかで安堵していた。
蓮がいない、ということを思い出した刃は、ポケットに忍ばせていたタバコをとりだし、まだ駅の構内だというのにそんなことお構いなしにたばこに火を点けふかし始める。幸いにも、朝や夜などは人が多くなるだろうが、今は太陽が沈み始め夕方になろうとする時間帯なので、人があまりおらず、刃のその迷惑極まりない行為は誰にもとがめられることはなかった。
一応、【レイヴン】の【アビリティ】として捜査を行う場合、電車などといった交通手段を使う場合は、限度額のないカードがわたされる。それを駅員に提示し、捜査状と【アビリティ】の証拠である首輪を見せれば、電車賃はその場で払う必要がなくなるので、いつもやっているように簡単に手続きを終え、外にでる。
正直なことを思うと、今、この瞬間でも、仮面の男が現れた際に、自分がどんな行動をとるのか、それが刃にはわからなかった。
なんの目的があるのか、それが【アビリティ】を集めている、というのは間違いがないが、その理由がわからなくなってしまった。特別ななにかをもつ【アビリティ】をあつめているのだとしても、刃たちが出会った【アビリティ】は、戦って見て分かることだが、なにひとつ普通の【アビリティ】とはかわらなかった。だからこそ、今回も、仮面の男が現れて邪魔してくる可能性がある反面、もしかしたら、現れずにことは簡単に進んでしまうのかもしれない。
もちろん、そうなってくれればありがたいのだが、そうでなかった場合は……覚悟を決めなければならない。
駅から歩くにつれ、なつかしい風景が目に焼き付く。昔……四年前、蓮を連れ出して逃げ出したあの日とはちがう……刃がまだ、普通の高校生だったときに通い、そして家に続く道を歩いた時と、かわっていない。
『刃、状況はどうだ?』
昔の風景を懐かしんでいると、耳に取り付けた無線機から、結衣の声が聞こえてくる。
結衣は、刃がこの場所にどんな思いを持っているのか知っている。刃が、この場所にターゲットが潜んでいると知ったとき、結衣が、どうして蓮を、普段ならペアで行動するはずの【アビリティ】を、単独で行動させたのか。ようやくそのすべてが理解できた。
際しよこそは、本気で刃がさぼったことに対する八つ当たりとか、蓮が疲れているからだとか、そんくらいの理由でしか考えていなかったが、どうやら結衣もいろいろ考えるところがあったらしい。その気遣いに刃はとても感謝していて、本当にここに蓮をつれてくるわけにはいかなかった。
自分たちを裏切り、見捨て、心に傷を負わせたこの町に、まだ、年の割に落ち着いているとは言え、14歳の蓮を、連れてくるわけにはいかない。
あれからたった四年たった……それでも、まだ、四年しかたっていない。そう簡単に、割り切ることなど、できるはずがない。当事者でなかった刃ですらも、未だに四年前の時から、なにも進歩してはいないから。
「最悪な気分だよ」
だが、結衣に自分の余裕のなさを伝えるわけには行かなかった。余裕がないことがわかれば刃は即時帰還、別の部隊がこの町にはいり、【アビリティ】を確保することとなるだろう。そうなれば、仮面の男との接触の可能性はなくなり、チャンスを逃すこととなる。
こんな絶好の機会で唯一動けるのが自分だけだという現状に腹が立つながらも、なんとか、仮面の男というプレッシャーと、過去の出来事を飲み込み、前に進む。
『あまり無理はしないで』
- Re: レイヴン【三話・因果】 ( No.46 )
- 日時: 2015/07/10 11:14
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: 9oy0/Hp9)
だが、結衣にはお見通しなのか、心配そうな声が聞こえてくる。それに刃はやはり、らしくないなとおもい、その言葉を無視する。
民営のぷーる、といえば、この町にはひとつしかない。昔、蓮と一緒に何度かいったことがある場所だからこそ、刃には地図や案内の必要はなかった。
「気に食わないぐらい何も変わってねぇな」
ひとりつぶやきながら、周囲のなにも変わらなさに呆れのような顔をする。
「めんどくせぇ」
ぶつぶつと文句をたらしながら、なるべく人目につかないようにと歩く。あれから四年たってはいるが、刃たちはこの町では嫌な意味で有名になりすぎた。だから、若干成長した刃の姿をみた近隣の住人は、まちがいなく片桐刃だと見抜くだろう。そして、四年前ここに住んでいたときはまだ人間であったはずの刃が、【アビリティ】になり、【レイヴン】に所属したと知った人々は、何を思うのか、どんな行動をとるのか、それがわからないからこそ、刃は極力人通りの少ない道を縫うようにして進んでいく。
昔からなじみがあるからこそ、刃は迷わずに道のりを進んでいく。人通りが多い大通りに出そうになれば、そこからすこしはなれたところにある抜け道を辿り、目的の場所であるそのプールが近づいていくに連れて、ふと、ひとつの可能性がうかびあがる。
もしも、こうして現場に向かっている途中で、再び仮面の男と接触してしまったら、刃はどんな行動をとるのか。
仮面の男と最初に遭遇したときもそうだった。【アビリティ】の捜査中に突如として現れ、まるで挑発するかのような言葉を残していったやつに対して、刃は気がつかないどころか、恐怖に震え上がった。
ならば、今回、そうなってしまったらどうなるのか。
それは、正直にいってわからなかった。
今回は、仮面の男の情報を、多少ながら得た。そのうえで遭遇したのならば、刃は、迷わず仮面の男と再び拳を交えるだろうか。それともまた、恐怖で震えてしまうのだろうか。
そこまで考えたところで、刃は考えるのをやめた。出会ってしまったら出会ってしまったで、その瞬間にすべてが終わるということはないのだ。それに、今回は静止役の結衣のサポートもある。だから、仮面の男が現れ、その瞬間に能力を使ってこない限りは、できるだけ、言葉をつかって足止めすればいいだけの話だ。
「……たしか、ここを曲がったらあとすこしだな」
考え事をしながら歩いていたからか、目的地はすぐそこといえる距離まで迫っていた。
おそらく、ここからは人気を気にして進むことは不可能だろう。現場の判断というのがあるが、基本的に【アビリティ】が目撃され、【レイヴン】に通報された場合、近くにある交番、または警察署が動き、道路を封鎖にあたる。それがショッピングモールや、人が多く集まる場所だった場合は、【アビリティ】が率先して暴れない限りは、【アビリティ】を刺激しないように、極秘裡に進める場合がおおく、今回も、民営のプールとはいえ、人がそれなりに集まる場所であったがために、そういった対応をしようとした矢先に、【アビリティ】は暴れ、人質をとったから、そのプール一帯、200m付近から封鎖されているはずだった。
経営者から……つまり、人質からの通報によれば、【アビリティ】が出現してから3日ほど経過しているらしい。3日も経っていれば、封鎖されている場所に物珍しそうに近づいてくる人はいないだろうが、その封鎖されている場所付近に住んでいる人たちなんかは、ことが片付くまで家に帰ることができずに、定期的に見に来るか、警察からことが片付いたと報告がくるまではいてもたってもいられないだう。そういった人たちとの遭遇は免れなかった。
刃は、どこかうんざりしたような顔で一度ため息をつき、ポケットからタバコをとりだす。口に咥え、ライターを取り出し火をつけると、一度大きく吸って、それを吐き出す。
『刃……君はまたタバコかい』
イヤフォンから、結衣の呆れた声が聞こえる。
「うるせーよ」
刃はそれをうっとおしそうに受け流しながら、半分ほど吸ったタバコを地面に投げつけ、足で踏みつけ、そして歩き出す。
その瞬間———背後から鋭い殺気を感じ———
「なっ———」
とっさの判断で振り返ろうとしたが間に合わず、鋭い衝撃のもとに刃は吹き飛ばされる。
人間とは思えないほどの怪力……だが、【力】とはちがう、重い一撃。これには覚えがある————そう思った瞬間に、刃の体中から汗がどっと吹き出す。
心臓がありえないほど大きな音でなっている気がする。さきほどもろにダメージをうけた背中が痛む。だが、そんなことよりも刃は確認はなければならなかった。今回の任務で考えていたなかでもっとも最悪なケースになってしまったという事実を。もしも現れたら、自分の全身全霊をもって戦わなければ、逃げることすらままならない相手を。いま【レイヴン】が、血眼になって追いかけている。その男を。
「やぁ、中途半端な【アビリティ】君」
- Re: レイヴン【三話・因果】※作者トリップ変更 ( No.47 )
- 日時: 2015/07/10 11:18
- 名前: Ⅷ ◆S0/yc2bLaI (ID: 9oy0/Hp9)
ふざけているかのような無表情の仮面で顔を覆い、黒い、膝したほどまである長いローブで身を包んだ長身の男が、そこに立っていた。
刃は身震いした。最悪だ。なぜ仮面の男がここにいる。なぜこんなにも早く、なぜ、どうして、と頭の中で思考がぐちゃぐちゃになる。いまこの瞬間まで仮面の男が現れたらどうするか、などと考えていたことすべてが意味のないものとなり、刃はただただ、目の前の、絶望を体現したかのような男に目を奪われ、今この状況に恐怖し、動けなくなってしまっていた。
だが、そんな刃の状況など知ったことではないと言わんばかりに男は大仰に腕を広げ、愉快そうにしゃべりだす
「いやぁ……ここで待っていればきっと君がくるんじゃないかって思っていたんだよねぇ……そしたら本当に来てくれたじゃないか!ククッ……じつに私は運がいい」
愉快そうにしゃべりだす仮面の男を、刃は睨む。だんだんと落ち着いてきて、今の状況をなんとか受け止めることができてきて、それを見越してか、イヤフォンから結衣の声が聞こえる。
『仮面か?』
「最悪だ」
『できるだけ時間を稼いで。今、そこから半径50Km近辺にいる【アビリティ】に救援要請を送ってみるから』
「たのむぜ新城……!」
刃はフラフラと立ち上がりながら仮面の男を睨む。できるだけ戦うのは先延ばしにしたほうがいいと判断してからか、戦闘の姿勢はとらずに、だが、なるべく隙をつくらないように立ちながら、仮面の男の動向を探る。
だが、仮面の男は、刃が時間稼ぎをしようとしていることすらお見通しなのか、一度後ろを振り返り
「君にいいものを見せてあげよう」
という。
その言葉とともに、仮面の男の背後から、痩せこけ、薄汚れたシャツとズボンをはき、脇になにかを抱えた中年の男がでてくる。刃はその男をみた瞬間舌打ちする。おそらくだが、先を越され、民営のプールに立てこもっていた【アビリティ】を奪われたのだ。
だが、その男が抱えるようにしてもつものを見た瞬間に、刃は戦慄した。
まるで、スイカでもはいっているんじゃないかと思うほどおおきなプレゼントボックス。黄色い箱に、赤いリボンが巻かれた、祝いの席なんかでだしたら大盛り上がりしそうな物体。だが、その箱の底からは、赤黒い、まるで……血のような液体が、ぽつり、ぽつりと、地面に滴り落ちていた。
刃の顔が怒りに染まる。だが、その顔をみてさらに仮面の男は楽しそうに笑い
「後ろも見たまえッ」
その言葉に、刃は思い出す、そうさきほど刃が、人気を避けては通れないと言っていた場所……封鎖地点から少しだけ離れたこの場所で後ろを振り返ればきっと……人がいるはずだ。それなのに、【アビリティ】があらわれたことに悲鳴どころか、どよめきすらも聞こえない。足音も、喋り声も、なにひとつ、時が止まっているかのように————
刃はおそるおそる振り返ってその先には———どす黒い血の海の上にばらまかれた……かつて人だったものが、数十人分、転がっていた。