複雑・ファジー小説
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- Sky High 新スレに移行しました。
- 日時: 2015/11/03 22:30
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 6KsExnZ3)
- 参照: え、名前負けしてる? そんな馬鹿な。
銀色の髪を翻し、硝煙漂う戦場を舞う。
蒼穹の瞳に宿した炎は、敵を焦がす。
裏切りと絶望の過去を辿って、凄惨な戦いへと身を投じた。
——とある『最強』の【傭兵】のお話である。
***** ***** *****
ハイ、こんにちこんばんおはようございます。
皆さんご存じ、山下愁です。よろしくお願いします。
さて、複雑ファジー小説板では実に3……あれ4だったかな……忘れましたが、まあそんな感じの小説です。
そんな前提はさておいて。
読者の皆様。上記の4行はご覧いただきましたでしょうか?
ご覧いただきになったようで幸いです。ええ、本当に。ありがとうございます。
「かっこの使い方が変」とか「誰が主人公なのかよく分からん」なんていう言葉は聞こえません。ニュアンスだけ感じてくださればこれ幸い。
ええ、ハイ。ニュアンスは「とんでもなく暗くて凄惨な物語」でありますよ。悲哀・凄惨・残酷がテーマになっている山下愁史上初のほんのちょっと笑えるけど基本的にはダークネスがテーマになっている小説になります。
ので、以下の注意書きを読んでくださいね。
・人が死ぬ情景や、山下愁的なグロ描写(いや露骨なのはやりませんけども)仲間が死ぬ情景など『負の演出が盛りだくさん』になっています。
閲覧する際はくれぐれも注意してね。
タイトル負けしてるとか言ったらダメです。なるべく小学生のお子さんは(いやこんなクソみたいな小説読まないだろうけど)閲覧を控えるようにお願いします。
・誤字、脱字は無視してください。山下愁が自分で気づいた場合は、自分で直します。「間違ってますよ!!」とか言っていただけると嬉しいですし、文章で表現がすっげー変だなって思ったところも指摘してくださるとありがたいです。私はぜひともそれを参考にします。
もちろん、普通にコメントも大歓迎ですよ!! むしろ泣いて喜びます。
・山下愁は社会人であり、この時期になると繁忙期になってしまいます。 なので何が言いたいかって言うと、不定期です。更新は実に不定期になります。つーか遅いです。
ていうか、自分が満足したら無理やりに終わらせるつもりでいますよ山下愁は。ハイそこ、納得いかない顔をしないでください。あくまで私の妄想を吐き出す場所に使わせてもらうだけです。「帰れ!!」と言わないでください。
・非常に胸糞悪いシーンがあると思いますが、黙って見過ごしてください。山下愁の性格が悪いとか、決してそんなではありません。
・誹謗中傷、無断転載、パクリはおやめください。
なお、2次創作の場合は自己申告してください。泣いて喜びます。泣いて喜びます。
ふぅ、長いな。
成分としては、バトル120、胸糞50、笑い20、その他40とパーセンテージ限界突破でお送りします。
それではいいですか? 始まりますよ?
ちなみに書き方も結構変わってます。以前、鑑定さんに指摘されて直したのですが、この書き方だと新人賞に応募できゲフンゲフン。
***** ***** *****
登場人物紹介>>01
プロローグ>>02
※オリキャラ募集※>>03
ACT:?【新編開始】
ACT:1【最強傭兵】
ACT:2
ACT:3
ACT:4
***** ***** *****
お客様 Thank you!!
ツギハギさん様 ディスコ部長様 烈司様 梓咲様 モンブラン博士様
***** ***** *****
同時進行 Sky High-いつか地上の自由を得よ- パロディ
すかい☆はい-いつか地上を笑いで染めよ-
・人間どもよ許してなるものか>>11
登場人物(ユフィーリア、セレン、アノニマス他)
・君の髪の毛をロックオン>>27
登場人物(グローリア、リヴィ、ヘスリッヒ他)
・熱中症に気をつけろ>>38
登場人物(ユフィーリア、グローリア、エデルガルド、ハーゲン他)
・学園すかい☆はい
登場人物(未定)
※随時更新
***** ***** *****
Special Thanks
・梓咲様よりユフィーリアの絵が届きました>>28
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.40 )
- 日時: 2015/09/22 17:11
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: gTez.RDd)
「…………まずい」
「文句を言わないの、ユフィーリア。仕方ないでしょ、セレンがいないんだから」
粘土のような灰色の塊を千切っては口に放りいれるを繰り返していたユフィーリアが、不意にそう愚痴をこぼした。
彼女の愚痴をいち早く聞き取った空華は、苦々しげな表情を浮かべて食事を続けるユフィーリアを窘める。灰色の塊と言っても、栄養価を考えて作られた携帯食料なのだ。壊滅させた人間側の集落から盗んだものだが、人間とはこんなまずいものを食べていたのかとユフィーリアは考える。
料理番長のセレンがいないし、毎朝パンを焼いている元パン屋のカイザーもいない。残された道はこの携帯食料を食べるしかないのだが、ユフィーリアの食は遅々として進まない。まずいことが要因である。ちなみにエデルガルドもハーゲンもルーペントもこの携帯食料をまずいと思っているのか、全員顔を顰めながら黙々と食事をしていた。もはや無理やり口に詰め込んでいると言っても過言ではない。
ユフィーリアは携帯食料を咀嚼しながら、ちらりと正面へ視線をやる。
視線の先にいたのは、黒髪赤眼の青年——グローリアだ。それぞれが顔を顰めながら食事をしているにもかかわらず、彼だけは無表情で携帯食料を口に運んでいた。どこかその動作は機械を思わせる。
「…………」
「ユフィーリア、どうしたの?」
険しい表情でグローリアを睨みつけるユフィーリアに異変を感じ取ったのか、空華がユフィーリアへ問いを投げた。
ユフィーリアはグローリアから視線を外し、小さくなった粘土のような携帯食料を一気に口の中に放り込んだ。もぎゅもぎゅ、と咀嚼してから水と共に喉へ流し込んだ。
「何でもねえ」
遅れて、ユフィーリアは空華の問いに答えた。水筒に入れた水を空華の鞘に垂らしてやると、「うぁぁぁー、生き返るー」とおっさんのようなだらしのない声を上げた。
***** ***** *****
陽が高く上った頃、化け物軍勢は進撃を再開した。
ユフィーリアたち先遣隊が『ディーオ』へたどり着くまで、残りのメンバーは元の拠点で待機ということにしてある。大勢でゾロゾロと移動すれば、鳳凰部隊の目に届いて襲われてしまう。襲われてしまえば、少なくとも損失は出てしまう。それを避ける為だ。
先遣隊も戦力は必要になってくるが、待機組もまた戦力を残しておく必要があった。鳳凰部隊がいつ化け物軍勢の拠点を襲うか分からないからだ。グローリアの留守を狙って、鳳凰部隊やもしかしたら第5特務攻撃部隊の『鴉』が襲ってくるかもしれないからだ。
「だけどなー、あえてヘスリッヒを連れてこなかったのは何でだろうな」
荒野を歩きながら、ハーゲンが首を傾げた。
ヘスリッヒは先遣隊の中にいない。彼は待機組に配属されたのだった。納得していなかったようで、先遣隊が出撃するまで彼はずっとぶつくさ文句を言っていたのだが。
隣を歩くユフィーリアは、ヘスリッヒのことなど興味ないので、「さあな」というぶっきらぼうな返事をしていた。彼の心情など知ったことではない、と言いたげな態度である。
「それにしても、ディーオってこの方面で合ってるのか? もう3日は歩いているが、一向に荒野から出られねえぞ?」
「あー、それは俺も思ったぜ。この荒野、広過ぎじゃねえか? ところどころ死体とか血痕とかあるし」
エデルガルドの言葉に、ハーゲンが顔を顰めながら周囲を見回した。
荒れた大地のそこかしこには赤い染みが存在し、また屍がゴロゴロと転がっている。化け物軍勢の者もいれば、敵兵もいる。全員、この荒野で戦って死んだのだ。
転がる死体を一瞥し、ユフィーリアは正面へ視線を投げた。
先頭を歩くのはもちろんグローリアだ。その隣ではスカイが熊をはべらせながら、何やらグローリアと相談しながら歩いている。きっと『ディーオ』を攻め落とす為の作戦を練っているのだろう。平素はヘラヘラとした笑みを浮かべるグローリアの横顔は真剣そのものだ。
「この荒野の向こうは丘があるぜ。何でも、人間側と化け物側で区別をつける為にあるらしいがな」
「うぇ、マジかよ。坂があるってことだろ?」
「少しは体力つけろよな。兵士なんだからよ」
ルーペントの言葉に、ハーゲンがうへぇとげんなりした声を上げる。
元々敵側だったルーペントは、化け物軍勢から煙たがられる存在——ではあるのだが。何故だろう、化け物とは阿呆なのか馬鹿なのか単純なのか不明だが、ルーペントは敵側の事情を教えてくれる奴だと思い込んでいる者が大半である。だからこうして敵しか知り得ない情報を漏らしても、化け物軍勢の兵士は「へぇそうなんだ」程度の認識しかないのである。
その時だ。
先頭を歩いていたグローリアとスカイが足を止めたことにより、先遣隊全員の歩みが止まった。ハーゲンはよそ見をして歩いていた為か、前を歩いていたエデルガルドの背中に顔面をぶつけていた。
「みんな、行商人たちだ。ちょっと静かにしていてね!!」
グローリアの明るい声が届いてくる。
ふとグローリアの向こう側へ目をやれば、馬車が3つほどこちらにやってくるのが分かった。おそらく交渉して情報や食べ物を得る為だろう。先遣隊の兵士は全員して口を噤んだ。余計なことをしゃべれば、交渉がやりにくいだろうと判断したからだ。
馬車は先遣隊の近くまできて止まった。馬を操っていたのは初老の男と中年の男2人の合計3人だった。3人ともローブを着込み、フードを羽織っている。
「無闇な戦闘は避けたい。僕たちの頼みをちょっと聞いてくれないかな?」
グローリアが前へ進み出て、年長者である初老の男へ問いかけた。
初老の男はもごもごとくぐもった声で、「何だ」と返答に応じた。
「積み荷が食べ物だったら、食べ物を分けてほしいんだ。食べ物じゃなかったら情報が欲しい。あと何日でこの荒野を抜けられるのか、ぐらいはね」
にっこりとした人懐っこい笑みを浮かべるグローリア。
ユフィーリアは最初から交渉の内容に興味がないので手持無沙汰に足元の荒野を蹴飛ばしていたのだが、ふとあることに気づいた。
何やら腐臭がする。例えるなら、何日も放置した死体のような。
気のせいだと思いたかったのだが、ユフィーリアは念の為に同行していた獣人族の少年へ小声で問いかけた。
「オイ、何か臭わねえか?」
「ええ? えー、うーん、言われてみれば? 確かにそんな臭いは」
する、と獣人族の少年の言葉を聞き終わるより先に、ユフィーリアは行動をした。隊列から外れ、馬車へと近づく。背後からハーゲンとエデルガルドが「何してんだ!!」と彼女を制止するも、その言葉を鮮やかに無視する。
馬車の荷台へ回った彼女が、幌を持ち上げようとした時、中年の男に腕を掴まれて阻止される。だが、相手は化け物軍勢最強の傭兵。止められる訳がなく、腕を掴んできた手を握り潰して再起不能にした。中年の男の悲鳴を聞きながら、ユフィーリアは幌を持ち上げる。
荷台に積まれていたのは、人だった。いや、ただの人ではない。頭頂部には動物の耳が生えていて、尻の辺りには動物の尻尾——獣人族の特徴である。
しかし、積まれていた獣人族はみんな息絶えていた。それもそのはず、全員首がないのだ。手近に転がっている猫耳が生えた少女の生首を掴んで、地面でのた打ち回る中年の男の鼻先に突きつけた。
「オイ、こりゃどういうことだ。何で獣人族の死体が、馬車に積まれてんだ?」
先遣隊の連中が一斉にざわめき始めた。
この腐臭の正体はおそらく、死体が原因だろう。この3つの馬車は死体を積んでいたのだ。
「ユフィーリア」
目に涙を浮かべて怯える中年の男とユフィーリアの間に、グローリアが割って入った。ユフィーリアの手から生首を受け取って、実に悲しそうな目でそれを見下ろす。
それから静かに、銀髪碧眼の少女へと命令した。
「もう、いいよ」
ユフィーリアにはその言葉の意味が分かった。許可だった。——殺してもいい、というものの。
それから彼女の行動は早かった。担いでいた空華を構えて、まず目の前の中年の男の首を切り飛ばす。悲鳴を上げて馬から転げ落ちたもう1人の中年の首も同じように切り離した。頭部を失った2つの体は荒野に横たわり、静かに血を流した。
最後に残された初老の男は、ローブの下から拳銃を抜いたが、引き金を引くより前にユフィーリアは空華を振る。青い刃は、初老の男を一刀両断した。いつものように首を落とすのではなく、縦に一閃。左右にぱっかりと開かれて、初老の男は絶命した。その間、およそ20秒。
グローリアは繋がれていた馬を解放し、それから「行こうか」と先遣隊全員へ声をかけた。その顔には、いつもの笑みが浮かべられていた。
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.41 )
- 日時: 2015/09/23 00:09
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: gTez.RDd)
荒野を3日3晩歩き続け、ようやくポツポツと地面に緑が生えてきた。
最初は短い雑草。それから徐々に野草が生え始め、荒野だった場所は平原になった。そして平原の終点は小高い丘になっていた。
人類が設置したのだろうか。古ぼけた煉瓦造りの見張り台と崩れかけた壁を越えたその先に、小さな村がポツンと存在していた。周囲には何もなく、ただ広い平原と森が広がっているだけだ。
人類側の最前線の町、ディーオ。
ようやく、人類の町にたどり着いたのだ。
「案外小さな町だな」
ボロボロの壁に背中を預けながら、エデルガルドは町を見下ろす。その隣に立つユフィーリアは、ディーオを一瞥しただけだった。
見張り台に到着した先遣隊は、さっそく野営地の建設に取り掛かる。兵士が休む為のテントを張り、焚火に使う薪を集める。ユフィーリアとエデルガルド、ルーペントは襲ってくる人間がいないか見張りをする。
今日は見張り台が置かれているので、司令官を担うグローリアとその副官のスカイは造りが堅牢な見張り台で休むこととなる。各々の荷物を運びこんでいる様が窺えた。
「今からあそこを攻め落とすんだろ?」
「ちょこちょこと鳳凰部隊の野郎がいるのが分かる。鳳凰部隊を殺りながら、他の住人は追い出す。あくまで敵は常駐している鳳凰部隊だけだからなぁ」
エデルガルドとルーペントが会話している内容を聞き流しながら、ユフィーリアは退屈そうに欠伸をした。
退屈ではあるが、何か嫌な予感がする。
嫌な予感はあの行商人もどきを倒してからだ。あの獣人族の死体を積んだ馬車を操る、行商人もどき3人の男。
普通の人間があそこまで獣人族を殺せるだろうか。鳳凰部隊が殺した死体を、一般人がわざわざ戦場に出てきてまで捨てるだろうか。どうも胸の奥にある引っかかりが取れずにいる。
「オイ、ユフィーリア。ボーッとしてんな」
「……うるせえ。ボーッとなんてしてねえだろ」
エデルガルドに頭を小突かれて、ユフィーリアは苦々しげに舌打ちをした。
この胸の引っかかりは、自分にはどうすることもできない。人に話すべきだろう。だが、誰に? 誰にこの話を打ち明ければいい?
チラリ、と隣に立つエデルガルドとルーペントを見やった。2人はユフィーリアの視線に気づくことなく、他愛もない会話を続けている。ルーペントの何気ない軽口に、エデルガルドが呆れながらもツッコミを入れる。それを冷やかし、笑う。ようやく目的の町に到着した余裕から生まれる笑みだ。
(……こいつらに相談したところでどうにかできるって訳じゃねえな)
小さくため息を吐きながら、ユフィーリアはふと見張り台の方へ視線を投げた。
橙色の明かりが灯る窓辺。影がゆらゆらと天井付近を彷徨う。それからピョコッと黒髪赤眼の青年が顔を出して、何やら咳き込んでいた。
彼の顔を見て、ユフィーリアはピンと閃いた。何だ、悩む必要などどこにもない。彼はこの化け物軍勢の司令官なのだから。
***** ***** *****
突き抜けるような蒼空が色を変え、紺碧の夜空へとなる。青白い満月を彩るかのように、白銀の星屑が散らばっている。
人類側最前線の町『ディーオ』を攻め落とす為の作戦を練っていたグローリアは、ふと羊皮紙に走らせるペンの動きを止めた。
スカイはとっくの昔に眠りについた。寝袋の中ですうすうと規則正しい寝息を漏らす、赤髪の青年を一瞥する。長い前髪が乱れて、端正な顔立ちが露わになっていた。身なりを整えれば目を惹く顔立ちなのに、彼は面倒くさがって身だしなみを整えようとしない。
安心しきって眠りこけるスカイを見て小さく笑ったグローリアは、ペンを羊皮紙の上に放り出した。明日、彼にこの作戦の内容を提案してみようと思う。
「……なんだか目が冴えちゃった」
3徹ぐらいするのは当たり前になってきたグローリアである。グッと背伸びをしてから、少し外の空気でも吸ってこようと思いついた。
愛用している鎌を手に取って、グローリアは見張り台の石段を下る。螺旋状の階段を下りて、建てつけの悪い木戸を押し開けると、夜の世界が広がっていた。
焚火が周囲を照らす。今の見張りはハーゲンのようだった。背中を丸めて座っているハーゲンは、こちらの存在に気づいていない様子である。というか、こっくりこっくりと頭が揺れているので、おそらく眠っているのだろう。
声をかけて起こしてやろうかと思ったその瞬間、背後に気配を感じた。
「よお、司令官」
「……ユフィーリア?」
闇からのっそりと姿を現したのは、銀髪碧眼の傭兵。上下黒の軍服に外套、手には身の丈を超える大太刀が握られている。軍帽の下に見えるのは、ぞっとするほど美しい、だがどこか生気の感じられない顔立ち。
ユフィーリア・エイクトベル。化け物軍勢最強の傭兵が、グローリアの前に立っていた。
「どうしたの?」
「……ちょっといいか」
クイ、と顎で見張り台の裏を示される。それからそそくさとユフィーリアは身を翻して、見張り台の裏に消えた。
彼女の後を追って、グローリアは見張り台の裏へ足を踏み入れる。
人気はなく、ちょうど月光が遮る空間。その中で炯々と輝く碧眼が、グローリアを射抜く。何も感じられぬ、ただ戦場に執着している碧眼が今は、真剣な色味を帯びていた。思わず唾を飲み込んでしまう。
「えっと、僕初めてなんだけど……さすがにこれは……」
「いつぞやにアタシが倒した行商人もどきのことなんだが」
ユフィーリアが台詞を遮って口を開いた。
彼女の言葉を聞いて、すぐにグローリアは記憶を遡る。そしてすぐに思い出した。あの獣人族の死体をたくさん積んだ馬車に乗っていた、あの男3人のことだろう。
「それがどうしたの?」
「何故あんなに獣人族の死体を積んでいたのか。あいつらが殺したのか。それが気がかりでな」
「ユフィーリアがそんなことを気にするなんて、珍しいね」
思わず滑り落ちてしまった言葉に、慌ててグローリアが口を塞ぐ。誰が死のうが構わないと言わんばかりに戦場を蹂躙するユフィーリアが、まさか他人を気にするとは思わなかったからだ。
グローリアの発言にユフィーリアは顔を顰め、「気になっただけだ」と吐き捨てるように言う。咎められることはなかった。
少しだけ思案し、グローリアは口を開く。
「多分、あの獣人族は捕虜なんじゃないかな?」
「捕虜?」
「普通に生活していた、戦争と何のかかわりもない獣人族。町で兵士じゃない人間が暮らしているように、化け物たちにも戦争と関係のない集落はたくさんあるんだよ」
人間の兵士によって、化け物だからという理由で排除された獣人族。だが戦争をしている兵士と違って、捕らえられた獣人族は目の前の敵と戦う術を知らない。少し人間よりも身体能力が優れているからと言って、すぐに戦える訳ではない。
そうして捕らえられた獣人族は、奴隷にされて、嬲られ、貶され、弄ばれて、殺される。泣こうが喚こうがやめることはまずありえない。何せ化け物なのだ、乱暴に扱ったところで簡単に死にはしないだろう。
「最も、このディーオのさらに向こう側はさすがに化け物の集落はないけどさ。さすがに今回は酷いと思う。関係のない人間は追い出しちゃってと命令したけど、これは考え直す必要があるな」
「殺すか?」
「そうだね。それも視野に入れるとしよう」
グローリアの言葉に、ユフィーリアの碧眼が伏せられる。そうなれば彼女は刀を振るわなければならなくなる。泣き叫ぶ男を、女を、子供を、老人を、切り殺す必要が出てくる。
「関係のない人を殺すのは嫌?」
「違う」
グローリアの質問に、彼女は即座に否定した。己を射抜く碧眼は炯々と輝き、戦場に対する執着の炎が灯る。
彼女は何の躊躇いもなく殺す。大人も子供も、命乞いをしようが喚こうが騒ごうが、平等に等しく命を奪い、そして町を血で染めるだろう。何故なら今までだってそうだったから。今までだって、幾度となく戦場を血で染めてきたのだから。
その真剣な碧眼を真っ直ぐに見据えて、グローリアは満足げに笑った。
「うん。じゃあ期待してるよ、最強さん」
「……待て」
そろそろ見張り台の中に戻ろうとしたが、ユフィーリアの声によって阻まれてしまう。
彼女の唇がキュッと引き結ばれる。同時にグローリアも気づいた。気づいたからこそ、愛用の鎌を握った。
誰かが、この見張り台に近づいてきていた。
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.42 )
- 日時: 2015/10/12 23:10
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: gTez.RDd)
読者の皆様
すみません、明日うpしますので今のところはあげさせてください。
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.43 )
- 日時: 2015/10/20 22:51
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: aUfirgH8)
さく、さくと確実に気配はこちらへ近づいてきている。気配を隠す気はさらさらないのか、堂々とした足取りで敵兵だろう相手はやってくる。
ユフィーリアは空華を構えて、迫りくる気配の方向を睨みつけた。背後に立つグローリアも、愛用の鎌を握りしめている。
足音が徐々に近づき、影らしきものが崩れかけた壁の向こうから現れたと同時に、銀髪の傭兵は動く。地面を強く蹴飛ばして音もなく気配に接近し、空華を抜き放つ。月光に照らされて輝く薄青の刃。美しい弧を描いて、相手の首を捉えた。
しかし、
「——手ごたえが……ッ」
振り抜いた空華の刃は、さながら空を切ったかのように手ごたえが感じられなかった。確かに相手の首は捉えたはず。ならば、何故攻撃が通らなかったのか。
クスクス、という声が頭上から降ってくる。
立っていたのは男だった。白髪に白い軍服を纏ったその姿は自軍にいる竜人族のリヒトのようだ。だがリヒトは竜人族、わざとらしく気配を察知させるような相手ではない。それに体の線が細すぎる。まるで幽霊のようだ。
男の首元には一筋の傷が浮かんでいた。裂傷である。刀で切り裂かれた、一文字の傷。首と胴体は確かに離れているが、切り口が陽炎のように揺らめいている。
「最強と名高いユフィーリア・エイクトベル嬢に、下等生物どもを率いる司令官グローリア・イーストエンドか。下等生物の中では話が通じる方であるな」
「ジャドウ=グレイ君か」
グローリアは若干低い声で、幽霊のように立つ男の名を呼んだ。そこには若干の苛立ちと警戒が滲んでいた。
ジャドウと呼ばれた男は実に楽しそうな表情を浮かべて、ユフィーリアを押しのける。5メートルほどの間隔を開けて止まると、恭しく頭を垂れた。
「夜分遅くに失礼する、イーストエンド司令官」
「……今更そんな態度を取らないでよ。僕たちのことを『下等生物』呼ばわりする時点で、君には悪い印象しかないんだから」
常ににこにことした笑顔を浮かべ、戦場に似つかわしくないほんわかとした雰囲気を漂わせるグローリアが、今や剣呑な空気を纏わりつかせて相手を睨みつけている。敵として、司令官として、ジャドウ=グレイを警戒しているようだった。
攻撃が通らなければ、ユフィーリアにできることはない。極小の舌打ちをして、ユフィーリアはグローリアのすぐ傍で待機する。司令官の傍に戻る際、笑うジャドウを一瞥し、嫌悪の意味をたっぷり込めて足元に唾を吐き捨てた。
警戒するグローリアと番犬のように傍で佇むユフィーリアの2人を眺めて、ジャドウは口を開いた。
「下等生物なりに考えはしたようだね。確かにこの『ディーオ』を攻め落とせば、あとは芋づる式に人類の街は制圧できるだろう。しかし、まだ詰めが甘い。人類には我々鴉部隊や鳳凰部隊が存在するのだから」
「前置きが長いよ。君の本心はそれではないはずだ」
仲間を下等生物呼ばわりされて苛立っているのか、グローリアの口調は平素では考えられないほどに乱暴なものとなっていた。
ジャドウは気分を阻害されたからか、少しだけ顔を顰めた。つまらなさそうにフンと鼻を鳴らして、
「君たちの作戦を潰してあげようと思ってね。こうして夜襲にきた訳だ」
「なるほど。騎士道精神にしては姑息な手段を使うなって思っていたんだよね」
グローリアは厭味ったらしく言う。聞いていたのか聞かなかったふりか、ジャドウは笑うだけだった。
ジャドウの言葉を聞いて、ユフィーリアも納得した。ジャドウだけではない気配を感じたのだ。5メートル向こうに、10人や20人では片づかないほどの人数がいる。目まぐるしく戦況が変わる最前線に身を置くユフィーリアにとって、この程度の人数など朝飯前なのだが。
彼女の碧眼が、見張り台の向こうへと投げられる。
見張り台の向こうにいるのは、何も知らない残りの先遣隊だ。ルーペントやエデルガルド、ハーゲンならまだしも、他はどうなる。犠牲なしにこの場は切り抜けられないだろう。
先に隠れているだろう敵兵を始末してしまおうと、ユフィーリアは空華を構えた。だが、グローリアに制されてしまう。睨みつけると「大丈夫」と言って、彼は微笑んでいた。
「夜襲は困るな。見逃してくれない?」
「珍しいではないか、貴様が命乞いをするとは」
「無防備な仲間が殺される瞬間を、黙って見ていられるほど強い精神を持ち合わせてはいないんだ」
グローリアの発言に、ユフィーリアは目を剥いて驚いた。彼の横顔は至って真剣で、赤い瞳に宿る意思を読み取ることができない。彼女には、グローリアが何を考えているのか分からない。
反射的にグローリアの胸倉を掴み、噛みつくようにして怒鳴ってしまう。
「ふざけんな、お前は司令官だろうが!! 何を選べば正しいのか、お前は分かっているはずだ!!」
何が正しいのかなんて、ユフィーリアには分からない。作戦を考える立場になったことはないし、そもそもそういう方面まで頭が回らないからだ。
しかし、この状況に置いてどうすればいいのかというのは分かる。ここは戦場、最前線、だとするならばユフィーリア・エイクトベルという最強の手駒を投下すれば、全て終わるはず。
グローリアの胸倉を掴む手に、自然と力が籠められる。
「命じろ、アタシに命令しろよ!! 『隠れている奴らを全員殺してこい』って言えばいいだろ!!」
「ユフィーリア」
グローリアは微笑みながら、ユフィーリアの手を優しく解いた。丁寧に指を外して、呆気にとられる彼女の肩を突き飛ばす。
よろめいたところで、ユフィーリアが見たのは鎌を構えたグローリアだった。
月光を浴びて輝く、鈍色の大鎌。柄と刃の接合部に埋め込まれた懐中時計が淡い光を放ち、突如としてその針の動きを止める。同時にグローリアが、歌うように告げた。
「——適用『時間静止』」
それは、対象物の数や大きさを問わず3分間止める御業。ピタリとユフィーリアの時が止められてしまう。
「……おまッ……!!」
この狼藉に対して文句を言ってやろうとしたユフィーリアだが、ジャドウのわざとらしい拍手に遮られてしまう。
「素晴らしい。このジャドウ、感動した。いいだろう、騎士道精神の名に懸けて彼らの命を見逃してやろうではないか。ただし、君の命を以てして、だがね」
「……つまりそれは、僕に死ねと言うことかな?」
グローリアの質問に、ジャドウは何も言うことなく、ただ微笑んだだけだった。
少しの間黙考したグローリアは、「分かった」と確かに了承してしまった。
やめろ、ダメだ。言葉が詰まって上手く声を発することができない。水を求めて呼吸する魚のように、はくはくと唇を動かすことしかユフィーリアにはできなかった。
そうこうしているうちに、グローリアを数人の鳳凰部隊が拘束してしまう。鎌は取り上げられ、両脇から腕を拘束される。グローリアは何の抵抗もしなかった。粛々と、拘束を受け入れた。
「————グローリアッッ!!」
ようやっと、ユフィーリアの声が出た。
初めて、彼の名前を呼んだ気がする。
グローリアは首だけ振り向いた。笑っていた。拘束されていながらもなお、彼はいつものような笑顔を浮かべていた。
「スカイに、よろしくって言っておいて」
グローリアはそう言い残して、連れて行かれてしまった。
3分間が経過し、体の自由を取り戻したユフィーリアだが、しばらくは呆然と立ち尽くしていた。連れて行かれるグローリアの姿が完全に見えなくなってから、ユフィーリアは拳を見張り台の壁に叩きつける。
「……畜生ッ……!!」
少女の悔しさに彩られた声が、静かな闇夜に落ちる。
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.44 )
- 日時: 2015/10/21 12:01
- 名前: モンブラン博士 (ID: 1lVsdfsX)
ついにジャドウが登場して早くも化け物軍団はピンチですね。これでジュバルツとジャドウがタッグを組んだらちょっと絶望が襲ってきそうですね。私が投稿した残りのキャラ達の登場も首を長くして待っています。くれぐれも無理はなさらないでください。