複雑・ファジー小説
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- Sky High 新スレに移行しました。
- 日時: 2015/11/03 22:30
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 6KsExnZ3)
- 参照: え、名前負けしてる? そんな馬鹿な。
銀色の髪を翻し、硝煙漂う戦場を舞う。
蒼穹の瞳に宿した炎は、敵を焦がす。
裏切りと絶望の過去を辿って、凄惨な戦いへと身を投じた。
——とある『最強』の【傭兵】のお話である。
***** ***** *****
ハイ、こんにちこんばんおはようございます。
皆さんご存じ、山下愁です。よろしくお願いします。
さて、複雑ファジー小説板では実に3……あれ4だったかな……忘れましたが、まあそんな感じの小説です。
そんな前提はさておいて。
読者の皆様。上記の4行はご覧いただきましたでしょうか?
ご覧いただきになったようで幸いです。ええ、本当に。ありがとうございます。
「かっこの使い方が変」とか「誰が主人公なのかよく分からん」なんていう言葉は聞こえません。ニュアンスだけ感じてくださればこれ幸い。
ええ、ハイ。ニュアンスは「とんでもなく暗くて凄惨な物語」でありますよ。悲哀・凄惨・残酷がテーマになっている山下愁史上初のほんのちょっと笑えるけど基本的にはダークネスがテーマになっている小説になります。
ので、以下の注意書きを読んでくださいね。
・人が死ぬ情景や、山下愁的なグロ描写(いや露骨なのはやりませんけども)仲間が死ぬ情景など『負の演出が盛りだくさん』になっています。
閲覧する際はくれぐれも注意してね。
タイトル負けしてるとか言ったらダメです。なるべく小学生のお子さんは(いやこんなクソみたいな小説読まないだろうけど)閲覧を控えるようにお願いします。
・誤字、脱字は無視してください。山下愁が自分で気づいた場合は、自分で直します。「間違ってますよ!!」とか言っていただけると嬉しいですし、文章で表現がすっげー変だなって思ったところも指摘してくださるとありがたいです。私はぜひともそれを参考にします。
もちろん、普通にコメントも大歓迎ですよ!! むしろ泣いて喜びます。
・山下愁は社会人であり、この時期になると繁忙期になってしまいます。 なので何が言いたいかって言うと、不定期です。更新は実に不定期になります。つーか遅いです。
ていうか、自分が満足したら無理やりに終わらせるつもりでいますよ山下愁は。ハイそこ、納得いかない顔をしないでください。あくまで私の妄想を吐き出す場所に使わせてもらうだけです。「帰れ!!」と言わないでください。
・非常に胸糞悪いシーンがあると思いますが、黙って見過ごしてください。山下愁の性格が悪いとか、決してそんなではありません。
・誹謗中傷、無断転載、パクリはおやめください。
なお、2次創作の場合は自己申告してください。泣いて喜びます。泣いて喜びます。
ふぅ、長いな。
成分としては、バトル120、胸糞50、笑い20、その他40とパーセンテージ限界突破でお送りします。
それではいいですか? 始まりますよ?
ちなみに書き方も結構変わってます。以前、鑑定さんに指摘されて直したのですが、この書き方だと新人賞に応募できゲフンゲフン。
***** ***** *****
登場人物紹介>>01
プロローグ>>02
※オリキャラ募集※>>03
ACT:?【新編開始】
ACT:1【最強傭兵】
ACT:2
ACT:3
ACT:4
***** ***** *****
お客様 Thank you!!
ツギハギさん様 ディスコ部長様 烈司様 梓咲様 モンブラン博士様
***** ***** *****
同時進行 Sky High-いつか地上の自由を得よ- パロディ
すかい☆はい-いつか地上を笑いで染めよ-
・人間どもよ許してなるものか>>11
登場人物(ユフィーリア、セレン、アノニマス他)
・君の髪の毛をロックオン>>27
登場人物(グローリア、リヴィ、ヘスリッヒ他)
・熱中症に気をつけろ>>38
登場人物(ユフィーリア、グローリア、エデルガルド、ハーゲン他)
・学園すかい☆はい
登場人物(未定)
※随時更新
***** ***** *****
Special Thanks
・梓咲様よりユフィーリアの絵が届きました>>28
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.30 )
- 日時: 2015/05/23 22:52
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)
銀髪碧眼の少女が戦場を舞う。
身の丈を超える青い刃を振るえば、敵の首が綺麗に飛ばされる。荒れた地面を転がって、鮮血が染み込む。
最前線で敵を屠り続ける少女を、遥か遠くから眺める女が1人。
「むっふっふー、今日も絶好調ですねユフィーリアさぁーん?」
人間たちの視力では到底見えない距離に建っている櫓。その上から戦場の方へ目を向けてにやにやと、青い髪の女は笑う。彼女の傍らには銀色の狙撃銃が置かれてあり、銃口はもちろん戦場方面へと向けられている。
風が女の長い青髪を揺らす。
女は桜色の唇に笑みを浮かべたまま、スコープを覗き込んだ。狙うは最前線で戦う傭兵の背後。彼女に迫る脅威。
白魚のような指が引き金を引いたと同時に、銃口から銃弾が吐き出された。
「距離はー、およそ87キロってところ? 余裕でしょ、余裕。ウチにかかれば——」
眉間に風穴が開き、兵士が1人倒れた。
傭兵の少女は気にせず戦っている。それが当たり前とでも言うかのようなふるまいだ。
「————どんなところでも絶対に命中させてやるぜぃ?」
ACT:3 絶対命中
戦場から帰還を果たしたユフィーリアを迎えたのは、化け物軍勢の医者ラヴェンデルだった。
「お帰り、ユフィーリア!! 疲れただろう? ほらほらこっちにきて体を休めて休めて!!」
「…………」
普段なら医療器具を持っているはずの彼女が、何故か今はお玉を手にしている。医療器具ではない、調理器具である。
ふわふわと辺りにラベンダーの香りを振りまきながら、彼女は拠点のあちこちをせわしなく動き回っていた。働き具合はリヴィとどっこいである。
凄惨な戦場にてすさんだ精神がラベンダーの香りによって少なからず軽減された。ユフィーリアは手近にあった岩に腰かけると、空華の整備に入る。清潔な布はあとで生活班の誰かから貰うとして、今は外套の端で拭いてやることにする。
「ハイ、ユフィーリア。これが今日の夕飯だ、ちゃんと食べるんだよ!!」
「……先生、リヴィはどうした?」
「マタタビに酔ったみたいなんだ。近くの集落でマタタビを貰ったみたいでね!!」
なるほど、とユフィーリアは納得した。
獣人族であれど、猫や犬などの獣と同じ性質を持っている個所がある。リヴィは猫の獣人族で、マタタビに酔ったり、動くものに興味をそそられたりするのだ。セレンの場合は玉ねぎやチョコレートなどの類は苦手だし、同じ最前線で戦うウサ耳の中年イグナーツは地獄耳である。
他にもペルーリアがマタタビをキメすぎて医務室送りになったとか聞いたが、どうでもいいことなので聞き流した。あの下衆猫は1度シバかれた方がいいだろう。
もそもそと手渡しされたおにぎりを頬張っていると、遅れて帰還してきたエデルガルドとハーゲンがユフィーリアに気づいた。
「お前でも飯は食うんだな」
意外、とでも言うかのような目で見てきたハーゲンを、無言で切り飛ばした。ちなみに空華は抜かず、地面に落ちてた石の欠片をナイフに見立てて切り飛ばした。
ゴロリと地面に首が転がる。エデルガルドが丁寧に持ち上げて、棒立ちしているハーゲンの腕に抱えさせた。
「エデルガルドォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!」
「うるせえ」
絶叫したハーゲンの口の中におにぎりを突っ込むエデルガルド。そして何かを思い出したかのように、ユフィーリアの方へ振り返る。
「そういえば、いつも思うんだが」
「…………」
「お前の近くにいる兵士が、つうか正確には背後から襲いかかった兵士だけ眉間に風穴開けて死ぬ。お前って銃火器も扱えたのか?」
「扱えなくもない」
おにぎりの最後の1口を放り込み、ユフィーリアは淡々とした口調で答えた。
普段から切断術を行使するユフィーリアであるが、武器に関しては何でも扱える。切断術が使えなかったとしても、十分強い傭兵となれるだろう。そのレベルである。
だが、ユフィーリアは基本的に空華以外の武器を扱うことはない。理由は単純で、空華が拗ねるからだ。空華がたとえ拗ねようが拗ねまいが、ユフィーリアは刀剣を使い続けるのだが。
「扱えなくもねえんなら、空華の他に自動拳銃でも持っていたらいいんじゃねえの? 護身用に」
「嫌だ」
自動拳銃の装備を提案してきたエデルガルドの意見に、しっかりと拒否を示す。
何故だ、と問うてきたエデルガルドに、ユフィーリアは黙り込んだ。
銃火器の心得はあるのだが、ユフィーリアが銃火器というものを使わない理由は2つある。
「整備が面倒臭いっていうのと、銃火器に関してはシズクがいるから必要ない」
「シズクが? ああ、あの笑い袋。あいつすげえのか? 守ってもらった記憶なんてうろ覚えなんだが」
「狙撃に置いてあいつの右に出る奴はいねえ。最前線に行きゃ、あいつのサポートは必須になってくる」
野菜の切れ端が浮かんだ薄味のスープを喉に流し込みながら、ユフィーリアは続けた。
「あいつの有効射程範囲はおよそ100キロ、命中確率は200パーセントを超える——化け物みたいな狙撃手だ」
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.31 )
- 日時: 2015/05/26 22:29
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)
- 参照: イグナーツこんなんだったかな。
グローリア・イーストエンドはけもの道を歩いていた。
彼の目的は櫓にある。櫓のふもとで警戒をしているリヒトを含めた竜人族3人に、編成の変更を告げにきたのだ。彼らの後に櫓を守護するはずの巨人族、アルミ・アリ・ヴァロネンが駄々をこねたので、急遽アノニマスとイグナーツが担当することになったのである。あの我儘娘には困ったものである。
草木をかき分けながらけもの道を進んでいくと、どこからか視線を感じた。ピタリと足を止めて、辺りを見回してみる。
グローリア以外の人影は見当たらない。あの最強傭兵ほどではないが、グローリアも敵兵にはそれなりに警戒はしている。周りからは「もっと警戒しろ」と注意されるのだが。特にヘスリッヒから。何故だろう。
「誰かいるのー?」
馬鹿正直に声をかけてみるも、反応はない。ここでのこのこと出てくる敵などいない。笑い者になるのは目に見えて分かる。
気のせいか、もしくは本当に敵がいるのか。さすがにグローリアはそこまで判断できなかった。首を傾げてから、彼は歩くことを再開する。
やがて櫓が目の前に見えてきて、リヒトと竜人族2人がグローリアへ敬礼する。
「グローリア殿、どうされたでありますか!!」
「ちょっと、下の見張りは変更するよ。この後にくるのはアノニマスとイグナーツね。アルミちゃんが駄々をこねてね」
「なるほど、了解いたしました!!」
リヒトの声が、静かな森の中に響き渡っていく。もしかしたら拠点まで届くかもしれない、というほど大きな声だった。
グローリアは困ったように笑って、「ところで」と話を続けた。リヒトに視線のことについて尋ねてみようと思う。
「この辺りに誰かいるのかな? 視線を感じたから敵さんかなって思ったんだけど」
「あ、それウチだよーあはははははははははははは」
突如として降ってきた哄笑に、グローリアは思わず飛び上がった。
夜空から降り注ぐ下品な笑い声。その主は、櫓の柵にもたれかかって、プルプルと震えていた。
月明かりに照らされた青い長髪。頭に乗せられた軍用ゴーグルに、闇に溶ける真っ黒なコート。対照的に、袖から伸びた肌は青白い。傍らには巨大な銀色の狙撃銃が設置され、銃口は戦場へと向けられている。
シズク・ルナーティア。
この櫓を守護する、化け物軍勢の狙撃手である。
「びっくりさせないでよ!!」
「ごめんってば。いやー、グローリアでも警戒することってあるんだね!! でも警戒の仕方が甘いよ甘い。ユフィーリアなら冷たい瞳で辺りを睨んでから、ただじっと待ってるよ!! あれって敵が焦れて動くのを待ってるんだって!! さすが傭兵!!」
ケタケタと楽しそうにシズクは笑った。楽しそうではあるが、笑い方がいささか下品である。
やれやれ、とグローリアが肩をすくめた時、ガサガサと遠くで草木が揺れた。誰かが櫓へやってきたようだ。
またしてもシズクの笑い声が降ってくる。
「あはははははははは!! あはははははははははははは!! よかったじゃんグローリア、愛しのあの子だよ!!」
「…………ねえ、リヒト。僕たまにシズクが何を言っているのか分からなくなるんだけど、僕の頭がおかしいの?」
「案ずることはないであります、グローリア殿。自分も同様であります」
よかった、とグローリアが安心したところで草木から誰かが現れた。
リヒトたちと交代する為にアノニマスかイグナーツがやってきたのかと思ったが、その勘は外れた。
夜風に靡く銀髪と黒い外套。戦場たる世界を睨みつける碧眼。肩に担いでいるのは、黒鞘に納められた身の丈を超える大太刀。——ユフィーリア・エイクトベルだった。
ユフィーリアはグローリアを一瞥してから、フイと視線を逸らして櫓を上っていく。
「ユフィーリア!!」
「…………」
櫓を上る手が、ピタリと止まる。だが、すぐに彼女は櫓の梯子を上り始めて、姿を消した。
完全に櫓の向こうへと姿を消したユフィーリアを惜しく思うグローリア。せめて睨みつけるなりしてくれればいいものを、彼女はこちらを見向きもしなかった。
シズクはそんなグローリアを見て、再び笑う。
「通常運転…………ッブククッ」
「……僕、拠点に帰るね。疲れちゃった。『先生』とヘスリッヒ巻き込んで飲む」
「お疲れ様であります!!」
ビシッと敬礼したリヒトに見送られて、グローリアは拠点へと帰って行った。
***** ***** *****
いつものように櫓へ上ったユフィーリアは、空華を鞘から抜き放つ。黒鞘から滑り出た青白い刃を月明かりに照らして、あらかじめ持ってきた清潔な布で刀身を拭う。
そんなユフィーリアを笑いながら眺め、シズクは
「グローリアを無視してよかったの?」
「…………」
シズクの問いかけに、ユフィーリアの手が止まる。
刀身へと注がれていた碧眼を、にっこりと笑ってユフィーリアを見ている狙撃手へ向けてから一言。
「いつものことだろ」
淡々とした口調で、ユフィーリアは答えた。
シズクは「そっか」と頷いて、戦場の見張りを再開させた。銀色の狙撃銃につけられたスコープを覗き、彼女の動きは止まる。
シズクの視力は化け物並みである。千里を見通すと言われているのだ。夜だろうが朝だろうが、どんな時でもシズクの目は獲物を逃さない。まるで狩人だ。
ユフィーリアは、そんなシズクの射撃センスを信用していた。化け物軍勢で数少ない背中を預けられる相手だと、ユフィーリアはそう考えている。
前線へ飛び込む彼女を、シズクは持ち前の射撃センスで援護してきた。それは天地戦争が始まってから現在に至るまで、変わらない。
「あ、イグナーツがやってきたみたい。リヒトに喧嘩売ってるね」
あははは、とシズクは楽しそうに笑った。目は戦場へ向けられているのに、反対方向からやってきたウサ耳の男をちゃんととらえていた。恐ろしい視界である。
シズクの言う通り、櫓の下から喧しい声が聞こえてきた。
「やあ、カチカチ君今日もいつも通りカチカチしていて固そうだ!! 殴ったら僕の拳の方がイカれてしまうのではないだろうか、1発殴らせてくれないか」
「何か嫌なことでもあったでありますか!! スカイに賭けで負けたでありますか!!」
「ええい大声で叫ぶなァ!! 確かに負けたがあれは負けではない断じて負けではなくて——そう、負けてやったのだ!! 僕は大人だからな!! 若造にポーカーでストレートに負ける訳ないだろう!!」
「負けたでありますな!!」
「だから断じて負けた訳ではない!!」
何の押し問答をしているのだろうか。負けた負けてないの言い合いが続いている。
空華の刀身を拭き終えて鞘に納め、ユフィーリアは小さく欠伸をした。空華にすがりつき、膝を抱えて瞳を閉じる。
シズクは何も言わない。彼女がここで寝ることに慣れてしまったようだ。だから、優しい声音で夢の世界へ送り出す。
「お休み、ユフィーリア」
闇に怯えて眠る少女を守護するように、狙撃手は戦場で目を光らせる。
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.32 )
- 日時: 2015/06/07 22:49
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Ngz77Yuf)
タァンッ!! と蒼穹に銃声が響き渡った。
最前線で戦っていた銀髪碧眼の少女へ襲いかからんとしていた赤い軍服の男が、眉間から血を吹き出して死んだ。少女はそれが当たり前とでも言うかのような振る舞いで、次々と目の前の敵を屠っていく。
それを傍で見ていたヘスリッヒがニヤニヤと近づいてきた。ちなみに彼にも敵の白刃が迫っている訳だが、1つもかすりはしなかった。代わりに傷つくのは周囲の敵兵である。
「優秀な狙撃手さんがいるみたいじゃねえかオイ? イイネェ」
「お前は守ってもらえねえな」
しれっとした表情で、ユフィーリアはさらに5人の兵士の首を切り離した。
彼女の背中を守護しているのは、化け物軍勢きっての狙撃手のシズクである。普段から『貧乳』だの『まな板』だのおちょくっているヘスリッヒは当然ながら、シズクの守護は受けられない。それどころか、逆に戦場で味方に命を狙われてもおかしくはないほどだ。
ヘスリッヒもそれは自覚しているようで、「だろうなァ」とケラケラ笑っていた。
「ま、オレには必要ねえがなァ」
「だろうな」
ヘスリッヒが見えたことにより、シズクの撃ったであろう弾丸が彼の腕めがけて飛んできた。狙撃銃の最大射程からさらに転送させた弾丸が、いつの間にか彼の腕の近くにある。
だが、弾丸は彼に当たることはなかった。代わりにヘスリッヒの後ろから襲いかかろうとしていた兵士の腕をぶち抜いた。腕から血を流して、呻く兵士。
緩やかな動作でヘスリッヒは腕を射抜かれた兵士の頭を掴むと、地面へと叩きつけた。叩きつけた頭へ、さらに蹴りの追撃をお見舞いする。
「ヒャヒャヒャ!! 無駄だってーのっ!! オレを倒したきゃ寝込みを襲うんだなァ!!」
「弱点言ったな、お前」
ケタケタと狂ったように笑いながら、武装せずに身1つで敵陣に特攻していく紙袋を見送って、ユフィーリアはそっと息を吐き出した。奴との会話は疲れる。
敵は湧いて出てくる。最前線なのだから当たり前だ。軍帽を目深に被り直して、空華を構えた。
その時だ。
タァンッ!! と近くで銃声が聞こえた。
弾かれたように顔を上げて、反射的に空華を抜く。
黒鞘から抜かれた神速の刃が切ったのは、鈍色の弾丸だった。シズクが誤射でもしたのかと思ったが、違う。狙撃銃で使われる弾丸よりも、若干小さい。自動拳銃用の薬莢だ。
香る硝煙の臭いに眉を顰めたところで、2撃目。空華を鞘に戻す暇もなく牙を剥いた弾丸にも、ユフィーリアは冷静に対応した。迫ってくる弾丸を鞘で弾き落とし、空華を鞘に納める。
一体誰が。鳳凰部隊は基本的に自動拳銃の類は使わない。近接戦闘を主にする彼らは、刀剣の類を用いる。とはいっても、ジークムントのように例外はいるのだが。
銃火器を扱う部隊は——奴らしかいない。
「おっと、あれを弾くか。いやー、上手くやったと思ったんだがなぁ」
「…………」
赤に混じって現れた、青い軍服。その手に握られているのは、青いペイントを施した自動拳銃が2丁。銃口から白煙が立ち上っている。
ダークブルーの短髪に、精悍な顔立ち。ギラリと輝く髪と同じ色をした双眸。ダークブルーの頭を守るヘッドギア、腕のアーマー、ブーツは全て黒で統一されていた。
頭のてっぺんから爪先まで眺めて、ユフィーリアは首を傾げた。
誰だっけ、こいつ。
「お前さん、確かユフィーリア・エイクトベルって名前だよなぁ。噂は聞いちゃいる。何でもかんでも切り飛ばしちまうってな。だからちぃっとばかし挨拶代わりに弾丸をくれてやったんだが、2発とも弾かれちまうとはな。さすがだ」
パチパチとわざとらしく手を叩いて称賛してくる男だが、ユフィーリアは思い出せずにいた。
(誰だっけこいつ。何かわざとらしい称賛してくる。全然嬉しくねえんだが。どうすればいいかな、話無視してぶった切ればいいかな。でも人の話は最後まで聞けって母ちゃん言ってたし、セレンにもきつく言われてるし。天地戦争始まって、一応注意はしていたんだがこいつは思い出せないから切ってもいいよな?)
表情は冷静でも心の中は荒れ模様のユフィーリアだった。
とにかく目の前の男は敵である。鳳凰部隊ではないが、敵は敵。彼女の刃の餌食となるべき敵である。
空華を抜刀すべく青い柄に手をかけたところで、上空から「ユフィーリア!!」と声がした。次の瞬間に、彼女は空にいた。
「オルヴォ……?」
「シズクがユフィーリアを連れてきてくれって頼んできましてですねー!! ちょっと前線から引いてもらいまっす申し訳ない!!」
己を連れ去ったオルヴォから事の次第を聞いて、ユフィーリアは柳眉を寄せた。
シズクが撤退命令を出しただと? 何の意味があって?
いつもの櫓が見えてくるまで、ユフィーリアの疑問は消えることはなかった。
***** ***** *****
オルヴォによって拠点の櫓まで連れてこられたユフィーリアは、シズクへ詰め寄った。
「どうして前線から引き戻した。勝てないとでも思ったのか?」
「違うよー、ユフィーリアは誰にも負けないってのは分かっているけどね。それでもちょっとお願い、聞いてくれないかな」
シズクはへらへらと笑っていた。いつものように笑っていた。だが、声音が真剣だった。
抜きかけた空華を担いで、ユフィーリアは「……何」と話すように促す。
「あの青い軍服の奴、ハーティ・ストレームって奴なんだ。第2特務攻撃部隊『燕』の隊長さん」
「……『燕』って言や、遠距離支援を担当している部隊じゃねえか。どうして隊長が前線にやってきてんだ」
「狙撃銃の下準備がドへたくそだからね。あはははは!! 準備している間に他の奴に獲物を取られちゃうからね、もうお笑いものだよ!! あははははは」
何が面白いのか、シズクは腹を抱えて床を転げまわった。ついに壊れてしまったのだろうか。
ひとしきり笑って、彼女はゆっくりと身を起こした。深呼吸を数回してから、ユフィーリアへ『お願い』を切り出す。
「あいつとやらせてほしい」
その言葉の意味が、最初は理解できなかった。
ユフィーリアは数度瞬きをしてから、ようやく理解できた。
シズクは、ハーティ・ストレームと戦うことを望んでいるのだ。狙撃手として、何か許せないものでもあったのだろうか。はたまた、銃火器を扱う者として純粋に戦ってみたかったのか。
「……分かった」
ユフィーリアは了承した。
いつも彼女には助けられているのだ。今回は、彼女の願いを聞き入れてやろう。
シズクはにっこりと笑んで、「ありがとう」と礼を告げた。
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.33 )
- 日時: 2015/06/25 23:39
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Ngz77Yuf)
スコープで戦場を覗けば、赤い波の向こうに青い軍服を着た人間が1列で並んでいる。
その手に握られているのは狙撃銃。第2特務攻撃部隊『燕』の人間は、遠方からの攻撃を得意としている。つまりは銃の扱いが非常に上手い。命中率は100%——まさに百発百中である。
しかし、シズクとて負けてはいない。千里を見通す彼女は、どこへだって弾丸を届けられる。その御業で以てして、仲間を、彼女を守ってきたのだから。
スコープに刻まれた十字の中央に、銀髪碧眼の少女が映る。疾風の如く戦場を駆け、通り過ぎる鳳凰部隊の敵を切り捨てる。彼女が通り過ぎた場所には屍が積み上げられ、真っ赤な道が敷かれる。
「頼むぜ、ユフィーリア」
ペロリと唇を湿らせる、狙撃手の女。
遥か遠く離れた戦場を睨みつけ、引き金に指をかける。
彼女の戦闘用意は終了した。あとは、勝機が訪れるのをひたすら待つのみだ。狙撃手は『待機』も仕事のうち。待つことには慣れている。
また1人屍を作り出した最強の傭兵の姿を追いながら、シズクは発砲の瞬間を待ち続けた。
***** ***** *****
断末魔を上げることなく死んだ敵兵の死体を蹴飛ばすと、ぐしゃという鈍い音を奏でる。
頬に飛び散った生温かい血液を手の甲で拭い、ユフィーリアは周囲を見渡した。
赤い軍服の群れ。その先に横1列に綺麗に並んだ、青い集団。——あれこそ人類の誇る百発百中の命中率を誇っている銃撃戦の専門家、第2特務攻撃部隊『燕』だ。
遠距離からの攻撃を得意とし、使用している武器は銃火器一辺倒。狙撃手を扱う者が大半で、中には自動拳銃や機関銃などと言った射程の短い銃を使う者もいる。
主に燕部隊を率いている隊長がなのだが。
「————やぁぁぁ!!」
「遅い」
正面から切りかかってきた赤い軍服の敵兵を、何の躊躇いもなく屠る。
神速で抜き放たれた空華が、敵兵の喉元を一閃した。白い閃光が敵兵の上を走り、次の瞬間には血を噴水の如く撒き散らしながら死体と化した。
ゆっくりと地面へ倒れ伏す死体を一瞥してから、また別の敵兵へ。今度はユフィーリアの姿を捉えた瞬間に、背を向けて逃げた3人の兵士。当然、ユフィーリアが逃がすはずもない。空華を1度鞘に納め、その場で振り抜いた。
逃げた兵士とユフィーリアの距離は、およそ300メートルほど。ただその場で刀を振っただけなのに、逃げた兵士の上半身がまとめてずるりと地面に落ちた。次いで下半身がうつ伏せに倒れ、切断面からは臓器と脂肪と血液が垂れる。
3人の兵士だけではない。ユフィーリアの視界に入った赤い服の敵兵は、1人残らず上半身と下半身を分断された。周囲50メートルから敵兵がいなくなったことを確認し、ユフィーリアは空華を納めた。
「やあやあ、ユフィーリア。相も変わらず凄まじい戦いぶりだ!! 感心する!! 拍手を送ろう!!」
「……その手に握られている敵兵は死んでいるのか?」
「いいや? 正面から正々堂々かかってきたから、正々堂々殴り返しただけだ。熱い殴り合いだった!!」
わざとらしい口調と共にイグナーツが現れる。その手には、顔に青痣を作ったボロボロの鳳凰部隊兵士が引きずられていた。髪も顔面も軍服もボロボロである。性別が判別できるかどうかも危ういが、多分男だ。
敵兵が装備していた武器はおそらく、ガントレットやメリケンサックなどの拳に関するものだったのだろう。そんな彼は、体術が得意なイグナーツにとって格好の餌食だったのだ。ボコボコにされるのも無理はない。この男、ウサ耳を生やしたキュートな見た目とは裏腹に、少々やりすぎてしまう節があるのだ。
ペイ、とボロボロの兵士を放り投げて、トドメと言わんばかりに回し蹴りを叩き込んで遠くへ吹き飛ばしたところで、イグナーツは満足げに息をついた。その表情は輝かしいものだ。
「ところで、あちらに控えている青い集団に攻撃は仕掛けないのかね? なかなか前に出てこないものだから、こちらから行ってやろうと考えたのだがエデルガルド君が全力で止めてくるのでね!! 君の意見もぜひ伺いたい」
「アタシもエドに賛成だ。あいつらとは戦わない」
「戦えない、ではなく?」
イグナーツが興味深げにユフィーリアを見やる。
ユフィーリアの碧眼が、綺麗に整列している燕部隊を映した。ビクリと1部の兵士が反応して銃口をこちらに向ける。おそらく燕部隊は、ユフィーリアが動くまで引き金を引くことはないだろう。逆に言えば、ユフィーリアが燕部隊を攻撃しようと動いた瞬間に、銃弾の雨嵐が襲い掛かってくる。
銃弾の雨嵐を完全に防ぎきれることはできない。銃弾を弾き返すことはできるが、それが無数ともなるとさすがに限界である。視界で捉えることができなければ、得意の切断術を使うこともできない。
戦えないという言葉も正解ではあるが、奴らと相対すべきなのはユフィーリアではないのだ。
「おうおうおう、やってくれるねぇ」
ジャリ、と土を踏みしめる音。
イグナーツがピクリと反応し、拳を構える。目はギラギラと輝き、戦闘態勢に入った。だがやる気満々なイグナーツを、ユフィーリアは制する。
現れた青い軍服の男——燕部隊隊長、ハーティ・ストレームを睨みつけながら、ユフィーリアはイグナーツへ
「他のところで戦ってこい。こいつと戦うのはアタシだ」
「それはずるい」
「他の敵を譲ってやっただけでもありがたいと思え」
氷よりも冷たい瞳で、今度はイグナーツを睨みつけた。
しかし、絶対零度の視線でもイグナーツは気圧されなかった。だが、この場に留まる気もないようで、「分かった」と頷いて意気揚々と獲物を探して去って行った。
戦場へと消えたウサ耳のおっさんを見送り、ユフィーリアはハーティへと向き直る。
「いいのか? 1対1で」
「構うものか」
空華を構え、ユフィーリアはいつもの調子で告げる。
ハーティは楽しそうに口笛を吹き、重機関銃を腰のホルスターから引き抜いた。白色にペイントが施されているそれを両手で構えると、引き金を引く。
銃声はしなかった。パシュッ、という音と共に銃口から射出されたのは、ワイヤーだった。先端には尖ったフックがついていて、虚空を引き裂いてユフィーリアへと襲い掛かる。
だが、そのワイヤーはユフィーリアには遅すぎた。ひょいと身を捻ってワイヤーを避ける。
「ハハッ、かかったな最強!!」
「……!?」
ガッと後ろから衝撃がやってくる。何かに殴られたではなくて、何かにのしかかられた感覚だ。
背後を見やると、首のない男がユフィーリアにのしかかっている。ユフィーリアが先ほど殺した鳳凰部隊のものだ。腹にはワイヤーが突き刺さり、おそらくそれで引き寄せたのだろう。
「邪魔だ!!」
空華を抜刀し、のしかかってくる死体を切り捨てる。ワイヤーが突き刺さっている腹から下の部分はハーティのもとへすっ飛び、上半身は細切れにされた。
しかし、ハーティの攻撃の攻撃は止まらない。いつの間に構えたのか、右手には青い自動拳銃が握られている。
銃声が轟き、銃弾が射出される。ユフィーリアは振り向きざまに飛んできた銃弾を鞘で叩き落として、空華を鞘に納めた。それから抜刀。
「おっ!?」
ハーティは素早くしゃがむ。
ユフィーリアの刃は、ハーティの後ろで控えていた鳳凰部隊の兵士を5人ほど切り裂いた。血を噴出しながら倒れる。
「口ほどにもないってか?」
ハーティは余裕の表情で、自動拳銃を器用にくるくる回す。
ユフィーリアは睨みつけるでもなく、舌打ちをする訳でもなく——ただ笑った。余裕の彼を、嘲笑った。
「悪いが、お前の敵はアタシじゃねえ」
「……ハァ?」
その時だ。
空中を引き裂いて、1つの銃弾がユフィーリアの背後から飛んできた。いつの間に射出されたのか、ユフィーリアには分からない。その銃弾はユフィーリアとはかなり距離があるからだ。
ハーティの眉間を狙って飛んできた弾丸だが、残念ながらヘッドギアに阻まれてしまう。だが痛みはあったようで、苦悶の表情を浮かべていた。
「お前の敵は、もっと後方だ。狙えるもんなら狙ってみろよ」
今度は、ユフィーリアが余裕の笑みを浮かべるのだった。
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.34 )
- 日時: 2015/07/18 22:50
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 0bGerSqz)
「あー、こりゃまずい状況になってるなぁ」
化け物軍勢の拠点にて、多数の動物に囲まれている赤髪の青年——スカイ・エルクラシスがぼやいた。
その隣にいたグローリアは、戦況が細かく書かれた羊皮紙から顔を上げる。赤色の双眸に不思議そうな空気を漂わせ、スカイを見やった。
「何がまずいの?」
「『燕』部隊が1列に並んでる。こりゃあ、銃弾の嵐が起きてもおかしくないよ。多分、ユフィーリアが変な動きを見せた瞬間にドーンだと思うね」
第2特務攻撃部隊『燕』——遠距離攻撃を専門としている集団である。
遠距離攻撃と言えば銃火器、それも遠くを狙うことができる狙撃銃の類を用いる。もちろん命中確率はほぼ100%、百発百中だ。
化け物軍勢にも狙撃手はもちろん存在する。シズクは千里を見通す狙撃手で、100キロ先まで弾丸を届けられるほどの命中確率だ。狙撃銃の有効射程どころか最大射程までも凌駕する距離である。化け物と呼ばれても頷けよう。シズクの他にも狙撃手は存在するのだが——。
重大なことを言おう。化け物軍勢の狙撃手は、『燕』部隊よりも人数が圧倒的に少ないのだ。
化け物軍勢は、ほぼ近接戦が得意な奴で固められているのである。力技である。そりゃ鳥人族は飛び道具を使ったりするのだが、シズクのように本格的な狙撃手は数少ない。
「ほぼみんな戦場に出てるよね……そこで銃弾の嵐とか起きたら大変だ。みんな眉間に風穴だらけだよ」
「ユフィーリアやハーゲンなら生きてるかもしれないけど、他はどうだろ……ヘスリッヒはまたボロボロになって帰ってきたし」
スカイは気だるげに拠点の隅へと視線を投げた。
そこには木に寄りかかって、リヴィに包帯でぐるぐる巻かれているヘスリッヒの姿があった。服があちこち砂塵だらけで、赤く染まってもいるのだが、紙袋だけは無事だった。
グローリアは顎に手を当てて考えてから、愛用の鎌を持って立ち上がる。
「グローリア、どこに行くの?」
「戦場」
グローリアは、スカイへ振り向かずに告げた。
彼の足取りは迷わず、戦場へ向けられている。
***** ***** *****
銃声がして、吐き出された弾丸が銀髪をかすめて飛んで行った。
慌てることなくユフィーリアは戦闘態勢を整える。空華の柄を握って抜刀。刃は目の前の男——ハーティの首を捉えていたはず、だが。
「……!!」「わ、わああああ!!」「ど、どこから!!」
切られたのは、ハーティの後ろで他の化け物たちと戦っていた鳳凰部隊の兵士だった。
ゴロリと転がった首を見て、周囲の兵士たちが吃驚の声を上げる。それから怨敵を探すが、仲間の首を落とした敵は見当たらなかったようだ。ビクビク怯えながら、再び戦場へ戻る。
ハーティはその光景を一瞥し、ユフィーリアを睨みつけた。
「やってくれるねェ」
「ハッ、そっちこそ」
ユフィーリアは笑った。
次の瞬間に、ハーティの眼球めがけて弾丸がどこからともなく飛んでくる。それに素早く反応したハーティは、首を逸らして避けた。だが、体がついて行かなかったのか、足をもつれさせて地面に転ぶ。
その隙を弾丸は見逃さなかった。立て続けに2発の弾丸が、ハーティの腕と太ももへ向かって飛んでくるも、防弾素材の軍服が弾き返した。さすがは『燕』部隊を率いる隊長、弾丸の耐性は強いようだ。
「どこから飛んでくるか分からない弾丸だね、ホント。お手上げお手上げ」
「…………」
地面に座り込んだハーティは、両手をひらりと振って見せた。降参、と言っているのだろうか。
いや、違う。
ユフィーリアは気づいていた。ハーティの背後にいる『燕』部隊の連中が、一斉に狙撃銃を構えたのを。
そうか、狙撃の合図か!!
「チッ!!」
空華を鞘に納めて、飛んでくる銃弾に備える。
タァンタァン!! と甲高い銃声が戦場へ立て続けに響き渡り、『燕』部隊の攻撃が行われた。銃弾の嵐が、戦場を一直線に駆け抜け————
「適用『時間静止』」
飛んできた弾丸が、一斉に、ピタリとその動きを止めた。
一瞬、ユフィーリアには何が起きたのか分からなかった。だが、それも一瞬のことだった。
ザリ、と地面を踏みしめる音。ハーティが何かに気づいたように、目を見開く。ユフィーリアが振り返った先に、彼は飄々とした笑顔を浮かべて立っていた。
「やあ、ハーティ・ストレーム隊長殿。君の銃攻撃は素晴らしいものだよ、称賛しよう。パチパチパチ」
わざとらしく拍手をしながら現れた青年——グローリアは、持っていた大鎌を横に振った。
弾丸の進行方向に歪みが生まれ、歪みの出口は『燕』部隊の後頭部に作られる。
グローリアは笑いながら、
「でもこれで、君の部下はたくさん死ぬね」
弾丸の時が動き出す。歪みの中に吸い込まれた銃弾は、『燕』部隊の後頭部を残らず貫いた。自分で撃った弾丸で、彼らは死んだのだ。
揃って眉間から血を流して死んでいく部下を、ハーティは呆然と眺めるしかなかった。その呆然としたハーティを狙ってか、彼の頬を化け物軍勢の狙撃手が撃った弾丸がかすめていく。
おそらく、彼女はわざと外したのだろう。ハーティの頬に薄く血が滲んだ。
「あれだけでよかったね。君の部下はもっといただろう? 全員をあそこに配置していなくてよかったよかった」
「お、まえ……!!!!」
ハーティはグローリアを睨みつけた。ダークブルーの瞳から涙を流し、青い自動拳銃を構えた。
しかし、彼の弾丸はグローリアに当たらず、ユフィーリアに全て弾かれる。グローリアを守るように仁王立つ彼女は、己が愛刀を構えた。
「……お前は帰れ」
「うん、分かった。じゃ、ユフィーリア。ほどほどにね?」
グローリアはにっこりといつもの調子で笑って、拠点へ向かって帰って行った。途中でオルヴォに拾われていたから、きっと狙われることはないだろう。
怒りの露わにするハーティを眺めて、ユフィーリアはほくそ笑んだ。
「それじゃ、戦争しましょうか」
最強の傭兵は、挑発するように告げた。