複雑・ファジー小説
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- Sky High 新スレに移行しました。
- 日時: 2015/11/03 22:30
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 6KsExnZ3)
- 参照: え、名前負けしてる? そんな馬鹿な。
銀色の髪を翻し、硝煙漂う戦場を舞う。
蒼穹の瞳に宿した炎は、敵を焦がす。
裏切りと絶望の過去を辿って、凄惨な戦いへと身を投じた。
——とある『最強』の【傭兵】のお話である。
***** ***** *****
ハイ、こんにちこんばんおはようございます。
皆さんご存じ、山下愁です。よろしくお願いします。
さて、複雑ファジー小説板では実に3……あれ4だったかな……忘れましたが、まあそんな感じの小説です。
そんな前提はさておいて。
読者の皆様。上記の4行はご覧いただきましたでしょうか?
ご覧いただきになったようで幸いです。ええ、本当に。ありがとうございます。
「かっこの使い方が変」とか「誰が主人公なのかよく分からん」なんていう言葉は聞こえません。ニュアンスだけ感じてくださればこれ幸い。
ええ、ハイ。ニュアンスは「とんでもなく暗くて凄惨な物語」でありますよ。悲哀・凄惨・残酷がテーマになっている山下愁史上初のほんのちょっと笑えるけど基本的にはダークネスがテーマになっている小説になります。
ので、以下の注意書きを読んでくださいね。
・人が死ぬ情景や、山下愁的なグロ描写(いや露骨なのはやりませんけども)仲間が死ぬ情景など『負の演出が盛りだくさん』になっています。
閲覧する際はくれぐれも注意してね。
タイトル負けしてるとか言ったらダメです。なるべく小学生のお子さんは(いやこんなクソみたいな小説読まないだろうけど)閲覧を控えるようにお願いします。
・誤字、脱字は無視してください。山下愁が自分で気づいた場合は、自分で直します。「間違ってますよ!!」とか言っていただけると嬉しいですし、文章で表現がすっげー変だなって思ったところも指摘してくださるとありがたいです。私はぜひともそれを参考にします。
もちろん、普通にコメントも大歓迎ですよ!! むしろ泣いて喜びます。
・山下愁は社会人であり、この時期になると繁忙期になってしまいます。 なので何が言いたいかって言うと、不定期です。更新は実に不定期になります。つーか遅いです。
ていうか、自分が満足したら無理やりに終わらせるつもりでいますよ山下愁は。ハイそこ、納得いかない顔をしないでください。あくまで私の妄想を吐き出す場所に使わせてもらうだけです。「帰れ!!」と言わないでください。
・非常に胸糞悪いシーンがあると思いますが、黙って見過ごしてください。山下愁の性格が悪いとか、決してそんなではありません。
・誹謗中傷、無断転載、パクリはおやめください。
なお、2次創作の場合は自己申告してください。泣いて喜びます。泣いて喜びます。
ふぅ、長いな。
成分としては、バトル120、胸糞50、笑い20、その他40とパーセンテージ限界突破でお送りします。
それではいいですか? 始まりますよ?
ちなみに書き方も結構変わってます。以前、鑑定さんに指摘されて直したのですが、この書き方だと新人賞に応募できゲフンゲフン。
***** ***** *****
登場人物紹介>>01
プロローグ>>02
※オリキャラ募集※>>03
ACT:?【新編開始】
ACT:1【最強傭兵】
ACT:2
ACT:3
ACT:4
***** ***** *****
お客様 Thank you!!
ツギハギさん様 ディスコ部長様 烈司様 梓咲様 モンブラン博士様
***** ***** *****
同時進行 Sky High-いつか地上の自由を得よ- パロディ
すかい☆はい-いつか地上を笑いで染めよ-
・人間どもよ許してなるものか>>11
登場人物(ユフィーリア、セレン、アノニマス他)
・君の髪の毛をロックオン>>27
登場人物(グローリア、リヴィ、ヘスリッヒ他)
・熱中症に気をつけろ>>38
登場人物(ユフィーリア、グローリア、エデルガルド、ハーゲン他)
・学園すかい☆はい
登場人物(未定)
※随時更新
***** ***** *****
Special Thanks
・梓咲様よりユフィーリアの絵が届きました>>28
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.35 )
- 日時: 2015/07/18 23:44
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 0bGerSqz)
『ねえ、銃火器は使わないの? ユフィーリアなら絶対に使いこなせると思うのに』
『…………』
『あ、人の話を聞いてないね!! リヒトと同じような感じでさぁ、使ってみようよぉ。ねえねえねえってばねえーユフィーリアもきっと銃火器のよさに気づくと思うからさ』
『シズク』
『お、やっとこっち向いてくれたってことで』
『銃火器は重いから使わない』
「そういえば、そんなやり取りもしたなぁ」
戦場から遥か遠く離れた櫓から、シズクはスコープで敵に狙いを定める。
小さな窓に狙われた男は、目の前の少女へ銃弾を浴びせるが、彼女は残らず銃弾を弾き返し、刀を振る。死んだのは男ではなくて、彼の背後にいる赤い軍服を着た兵士たちだった。
首がすっ飛ばされた死体を見て、周囲の兵士たちは蜘蛛の子を散らしたように方々へ逃げていく。シズクは背を向けて情けなく逃げる兵士に目もくれず、ただひたすらに傭兵の少女と相対する男を狙い続けた。
次に訪れる命中の好機はいつか。3秒後か、5秒後か、10秒後か、1分後か——どんな時だって、狙って見せる。
それでも、シズクはあの男を倒せないと知っている。貫通に対する耐性があるのだ。さすが銃火器による遠距離攻撃を得意とする『燕』部隊を率いる長だ。
だからシズクは、託したのだ。とあるものを、彼女に。
***** ***** *****
ヒュッと弾丸が空気を切る音がすぐ近くでした。弾丸が耳元をかすめたのだ。幸いにも首を捻って弾丸は避けたが、さらなる追撃がハーティ・ストレームより与えられる。
立て続けに飛んでくる銃弾を、冷静に空華で払うユフィーリア。それでも相手の集中力は凄まじいものだ、確実にユフィーリアの命を取ろうとしてくる。
これほど歯ごたえのある敵は久しぶりだった。少なからず、ユフィーリアは高揚していた。飛んでくる銃弾を軽々と避けながら、舌なめずりをする。
音もなく、後方から狙撃弾が飛来する。狙いはハーティの腹部。だが、ハーティは大きく1歩飛びのいて弾丸を回避した。そして白い重機関銃からワイヤーを射出し、近くの首がなくなった死体を引き寄せた。
(……シズクを探すのを諦めたか。まあそりゃそうだろうな)
彼女がいるのは遥か後方、化け物の拠点にいる。そんな場所から狙い撃ちされても、姿など当然見えない。
タイミングを見計らって背後から襲ってきた死体を、さらに上半身と下半身に分断させる。切断面から臓物と鮮血を撒き散らして、ワイヤーの刺さった上半身はハーティのもとへ飛んで行った。
死体からアンカーを引き抜き、さらにワイヤーを射出。飛んできた死体は首がついていたが、あちこちが穴だらけの蜂の巣にされていた。ユフィーリアが討った兵士ではない。リヒトか、ハーゲンか、他の誰かだろうか。そんなことを考えながらユフィーリアは、飛んできた屍を縦に一刀両断する。脳漿、臓物、鮮血を周囲に撒いて、ハーティの足元に右半身が転がった。
「死体を弾丸代わりにするのは、どうかと思うがな」
「そっちこそ、後ろで戦ってる俺の仲間をぶった切るのはやめてくれねえかな?」
「嫌だ」
言葉と同時に、ユフィーリアは刀を引き抜いた。神速の太刀はハーティのすぐ後ろで戦っていた、赤い軍服の兵士の上半身を切り落とす。悲鳴を上げることはおろか、ユフィーリアに気づくことなく彼の兵士は絶命した。
目を見開いたまま地面に転がった仲間を一瞥し、ハーティは眉根を寄せる。それからユフィーリアへ向き直って、自動拳銃を構えた。
銃声が3度、銃口からは弾丸が吐き出される。狙いはユフィーリアの胸部と右腕、左足だった。それら全てを空華を使って弾き落とす。次も飛んでくるかと思ったが、ハーティは少し難しげな表情をしていた。
それで分かった。好機がきたのだと。
今まで飛んできていた後方からの支援が、途端になくなった。彼女も察したのだ。これが好機であると、最後であると。
——弾切れ。
ユフィーリアは、この時を待っていた。1つの武器が使えなくなった、この瞬間を。
「チッ」
ハーティは舌打ちをして、重機関銃へと持ち替えたその瞬間。
ユフィーリアは彼に体当たりをした。地面を力強く蹴飛ばして、トリガーに指をかけた彼の懐に、思い切り飛び込んだ。
「かはっ!?」
何が起きたのか分からず、ハーティは地面を仰向けで転がることになる。衝撃で重機関銃が手から離れ、鈍い音と共に地面を転がった。
すかさずユフィーリアは重機関銃を蹴飛ばして、拾うことが不可能な位置まで滑らす。胸の位置にのしかかり、膝を使って両腕を拘束する。空華の中子をハーティの喉元に押しつけて、拘束は完了した。
鋭い濃紺の瞳が、ユフィーリアを射抜く。だが、彼の瞳の中に映ったユフィーリアは笑っていた。それはもう楽しそうに笑っていた。
「終わりだ、『燕』の隊長」
左手で空華を押さえつけ、ユフィーリアはゆらりと右手を持ち上げる。
その手に握られていたのは——
「銃……!?」
少女の手にすっぽりと収まる大きさの、小さな銃だった。その程度であれば、銃火器を吊るす為のホルスターがなくても、服の間とかに隠せるだろう。まして、ユフィーリアは小柄な体躯を隠すかのように外套を羽織っている。小さな銃を持っていても気づきようがない。
ハーティの目が見開かれる。何故なら、ユフィーリア・エイクトベルという最強の傭兵が銃火器を持っていることを初めて知ったのだ。普段、彼女は剣術で敵を屠るのだから。
ユフィーリアは不敵に笑って、
「今じゃ珍しいんだとよ。1発撃ちきりの拳銃っての」
引き金を引いた。
パシュッと情けない音がして、銃口から煙が噴出された。顔面に煙を受けたハーティは咳き込む。何故か目が焼けるように熱い。
「催涙弾だと……!! オイ、これは」
「言ったろ。お前の敵はアタシじゃねえ」
ポイ、と用済みとなった小さな拳銃を放り捨て、ユフィーリアは空華を担いで立ち上がった。同時に、蒼穹へ撤退を知らせる鐘が鳴り響く。
涙と鼻水を垂らしながら、ハーティは呆然とする。
「人の獲物はできる限り狙わねえ主義だ」
面倒くさそうにそれだけ告げると、ユフィーリアは戦場を後にした。
残されたハーティはぼたぼたと溢れてくる涙と鼻水を処理するのに精いっぱいだった。
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.36 )
- 日時: 2015/07/25 22:30
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 0bGerSqz)
「ゆふぃー、かっこいいー」
「…………」
拠点に帰った瞬間、リヴィがキラキラした目をユフィーリアへ向けた。スカートの裾から伸びる猫の尻尾は興奮でぶわぶわと太くなり、さらに耳は忙しなく動き回っている。
何に興奮しているのかユフィーリアには皆目見当もつかないのだが、とりあえず彼女の頭を撫でてやることにした。
小さな頭に手を乗せて、少々乱暴にぐりぐりぐり。ユフィーリアに撫でられて、リヴィもご満悦の様子だった。
それにしても、何がカッコいいのだろうか。
「ユフィーリア、拳銃使ったでしょう? だからよ」
「……ああ、そういえば」
セレンが夕食を手渡しながら、首を捻るユフィーリアに教えてやった。
そういえば、戦場でものすごい小さな拳銃を捨ててきたような気がする。1発しか撃てない使い捨ての銃火器故に、渡された本人からも「捨ててきていいよ!!」と言われていたのだ。言われた通りに捨ててきたので、すっかり忘れていた。
「ユフィーリアは拳銃なんて滅多に使わないでしょう? 拳銃も使えるユフィーリアカッコいいってリヴィがねー」
「そうか、それでか」
腰辺りに抱きついてきたリヴィを見下ろせば、彼女は満面の笑みを浮かべた。その表情に自然とユフィーリアの表情も緩んでしまう。
「ほら、リヴィ。次の子にも渡してあげないと」
「はーい」
リヴィとセレンが忙しない様子でどこかへ駆けて行く。
去りゆく背中を見送ってから、ユフィーリアは手渡された大きな握り飯を頬張った。いい感じに塩気が効いている。さすがセレンである。
もそもそと拠点の隅で握り飯を頬張っていると、フッと目の前が暗くなった。グローリアかと思ったが、視界の隅に青い髪がよぎる。
ゆっくりと視線を上げると、満面の笑みを浮かべたシズクが立っていた。その手にはスープが注がれた器が握られている。
「お疲れ、ユフィーリア」
「……ったく、お前って奴はよ」
隣にドスンと勢いよく座ってきたシズクに、ユフィーリアはため息をついた。
ユフィーリアに拳銃を渡してきたのは、紛れもない、シズクだったのだ。1発しか撃てない小さな銃を無理やり押しつけ、「これをハーティにぶっ放してきてほしい」と頼んだのだ。
ハーティと戦わせてほしいと言っておきながら、彼女はとどめを刺さなかった。ユフィーリアはそれが不思議で仕方がないのだ。弾丸を弾くにしても、彼女の腕前ならハーティ・ストレームを倒せただろうに。
その心境を察したのか、シズクが勝手に語り始めた。
「せっかく手応えのある獲物が出てきたんだもん。あっさり殺しちゃったら楽しくないじゃない。——それに」
ズズ、とスープをすすってから、シズクは
「ハーティ・ストレームはウチの獲物じゃないもん。殺さないけどさ、少しぐらい遊ぶのは許してほしいかな」
「…………」
意外な言葉だった。
シズクは、ハーティを狙っていなかったのだ。ただの遊び相手と見ていたらしい。末恐ろしい狙撃手である。
深く突っ込む気も起きなかったので、ユフィーリアは黙って握り飯を口に運んでいた。抱かれている空華は「へー、そうなんだー」と相槌を返していたが。
2つ渡された握り飯を完食したところで、ユフィーリアはふとあることに気づいた。
何でシズクがここにいるのだろうか。
「……そういえば、何でお前はここにいるんだ?」
「え?」
シズクは藍色の瞳を丸くする。
普段彼女は櫓で過ごしている。当然戦場には出ないので、拠点に帰るのが1番早いとでも言うべきだろうか。ユフィーリアたち前線組や本隊が拠点へ帰還する頃には、シズクは夕食を済ませて櫓で見張りをしているのだ。
それが今回に限って拠点で食事を摂っている。ユフィーリアは、それが珍しくて仕方がないのだ。
「うーん、何かグローリアが『発表があるから拠点に集合!!』って叫んでたから。だからこっちでご飯食べようかなって」
「……発表だと?」
ユフィーリアは眉根を寄せる。
あの戦場にはふさわしくないほんわか司令官が考えることだ。きっとよからぬことに決まっているだろう。もし「戦争放棄しよう」なんて言い出した暁には100回ぐらい刻んで櫓からばら撒いてやる。
空華を少し強めに握りしめ、ユフィーリアは密かに決意した。空華が「痛い!!」と訴えた声は聞こえないふりをした。
「ハーイ、みんなお帰りなさーい!!」
そこへ、拠点としている砦からグローリアが姿を現した。携えている懐中時計が埋め込まれた大鎌をブルンブルンと振り回しながら、にこにこと笑っている。いつものグローリアだが、彼が現れた瞬間に、拠点の空気に緊張が走った。
彼から伝えられる発表を心待ちにしているのだろう。平素は喧しいヘスリッヒでさえも、黙って彼の言葉に耳を傾けている。
「前線組、本隊組の皆さん。お疲れ様でした。あの荒野で戦ってきて、もう随分経つよね。そこで、僕ら化け物軍勢は次の舞台へ行こうと思います!!」
「話が回りくどいぜ、グローリア。とっととゲロっちまえよ」
キシシ、と笑いながらルーペントが続きを促す。
グローリアはわざとらしく咳払いをしてから、
「満を持して、僕らは人間の国を攻め落とそうと思います!!」
おおおお、と周囲から歓声が上がった。中には拍手をする者もいた。
人間の国を攻め落とす、ということは化け物軍勢はついに進軍を開始するということになる。
「つってもよ、どこの国を攻めるんだ? 国を攻めるっていうことは、兵力も馬鹿みたいに必要になってくる」
エデルガルドが挙手をして、至極真っ当な質問をグローリアへぶつけた。
グローリアはパチンと指を弾いて、「いい質問だ」と嬉しそうな声を上げる。口調からして、その質問を待っていたのだろう。
「荒野を超えた先にある、『ディーオ』という小さな町さ。最近その町には鳳凰部隊が常駐しているんだ。人間の世界を攻め込むにはもってこいな場所だよ」
「町の奴ら全員殺すってか?」
「あはは、さすがにそこまでじゃないよ。兵士じゃない人間は町から出て行ってもらうけど——」
笑っていたグローリアの表情から、フッと笑みが消えた。
篝火に照らされる彼の赤眼が、炯々と輝く。その瞳の向こうに見える感情は、『決意』だった。
「——僕らに敵対してきたその瞬間に、全員殺す。男も女も子供も老人も、みんなだ」
周囲がシンと静まり返った。
グローリアの言葉に気圧されたか、誰も何も言うことはなかった。ユフィーリアも黙ってグローリアを見ていた。
パッと華やかな笑顔を浮かべたグローリアは、「発表終わり!!」と明るく終了を告げる。
「そんなことで、今日は早く寝ようね!! 明日は忙しいから、みんなで協力すること!!」
おやすみー、なんて少し眠気を孕んだ口調で挨拶をしてから、グローリアは砦の中へと引っ込んでいった。
発表が終わったからか、各々行動を再開させる。エデルガルドやハーゲンは数人の男性兵士と今日の戦果を報告し合っていたし、ルーペントは愛用の武器であるガントレットの整備をしている。ヘスリッヒはセレンにお代わりを要求していたし、すでに眠いのかアノニマスは舟を漕いでいる。オルヴォとミネルバは警備の為、夜空へ飛び立った。いつもの拠点の風景だ。
スープを飲み干して器を水桶へ器を入れると、ユフィーリアは櫓を目指して歩き出した。背後から慌てたようにシズクが追いかけてくる。
「ねえ、ユフィーリア。気づいた?」
「ああ」
「進軍するのはいいけど、グローリアは何を考えてるんだろうね」
「さあな」
けもの道を歩きながら、ユフィーリアは先ほどのグローリアの瞳を思い出す。
赤い瞳に宿った感情は、決意だった。敵対してきた無関係の人間でさえも殺すという決意。だが、ユフィーリアにはその決意の奥に別の感情が宿っているような気がしたのだ。
言葉では表現できない、ドス黒い感情。怒りでも、恨みでも、嫉妬でもない。しいて言うなら、——呪いだろうか。
「あいつが考えていることなんか興味ねえ」
ユフィーリアは平素の素っ気ない回答を口にする。
シズクはいつものようにケタケタと笑いながら、「相変わらずだ」と言った。
ACT:3 END
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.37 )
- 日時: 2015/08/22 23:53
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: gb7KZDbf)
ACT:3 絶対命中 NG集
OKシーン ユフィーリアがご飯を食べているところに2人が登場
もそもそと手渡しされたおにぎりを頬張っていると、遅れて帰還してきたエデルガルドとハーゲンがユフィーリアに気づいた。
「お前でも飯は食うんだな」
意外、とでも言うかのような目で見てきたハーゲンを、無言で切り飛ばした。ちなみに空華は抜かず、地面に落ちてた石の欠片をナイフに見立てて切り飛ばした。
NGシーン
もそもそと手渡しされたおにぎりを頬張っていると、遅れて帰還してきたエデルガルドとハーゲンがユフィーリアに気づいた。
「お前でも飯は食うんだな」
「…………」
意外、とでも言うかのような目で見てきたハーゲンを、無言で睨みつけるユフィーリア。
もぐもぐと咀嚼してから、口を開く。
「なんか悪いのか。アタシだって人間だぞ」
「え、お前って人間だったの」
「……」
シュン、シャキン。
パラッ。(ハーゲンの頭が細切れにされる)
「ユフィーリア、過剰攻撃だぞこれ。ハーゲン何もしゃべれねえだろうが」
「そいつが悪い」
「ごもっとも」
触らぬ最強になんとやら。今回は彼が言いすぎました。
OKシーン イグナーツとリヒトの言い合い
「やあ、カチカチ君今日もいつも通りカチカチしていて固そうだ!! 殴ったら僕の拳の方がイカれてしまうのではないだろうか、1発殴らせてくれないか」
「何か嫌なことでもあったでありますか!! スカイに賭けで負けたでありますか!!」
「ええい大声で叫ぶなァ!! 確かに負けたがあれは負けではない断じて負けではなくて——そう、負けてやったのだ!! 僕は大人だからな!! 若造にポーカーでストレートに負ける訳ないだろう!!」
「負けたでありますな!!」
「だから断じて負けた訳ではない!!」
NGシーン
「やあ、カチカチ君今日もいつも通りカチカチしていて固そうだ!! 殴ったら僕の拳の方がイカれてしまうのではないだろうか、1発殴らせてくれないか」
「何か嫌なことでもあったでありますか!! スカイに賭けで負けたでありますか!!」
「ええい大声で叫ぶなァ!! 確かに負けたがあれは負けではない断じて負けではなくて——そう、負けてやったのだ!! 僕は大人だからな!! 若造にポーカーでストレートに負ける訳——」
「負けてたろ」(←上からユフィーリアの声)
「負けてない!!」(←イグナーツ言い返す)
「面白いぐらいに負けてたじゃねえか。お前賭け弱いんだからやめとけって珍しくヘスリッヒに言われても」
「負けてないんだァァァァァ!!」
「ユフィーリア、余計なことを言わない方がいいからあーあーあー、半泣きで拠点へ戻ってた」
余計なことを言った最強だが、本人に自覚はなし。
このあとイグナーツはリヴィによしよしされるまで帰ってこなかった。
OKシーン ヘスリッヒがシズクに狙撃されるシーン
「ま、オレには必要ねえがなァ」
「だろうな」
ヘスリッヒが見えたことにより、シズクの撃ったであろう弾丸が彼の腕めがけて飛んできた。狙撃銃の最大射程からさらに転送させた弾丸が、いつの間にか彼の腕の近くにある。
だが、弾丸は彼に当たることはなかった。代わりにヘスリッヒの後ろから襲いかかろうとしていた兵士の腕をぶち抜いた。腕から血を流して、呻く兵士。
緩やかな動作でヘスリッヒは腕を射抜かれた兵士の頭を掴むと、地面へと叩きつけた。叩きつけた頭へ、さらに蹴りの追撃をお見舞いする。
NGシーン
「ま、オレには必要ねえがなァ」
「だろうな」
シュッシュッシュッ(←弾丸3発飛んでくる)
ヒュッ(←転嫁させる)
カキンキンキン(←ユフィーリアが弾丸を弾く音)
「オイ、オイ紙袋」
「わりーわりー。あまりにもテメェのことを考えすぎて」
3発とも何故かユフィーリアへ転換。
嫌な予感がしたので刀を抜いておいて正解だったと彼女はあとで漏らした。
OKシーン ハーティ初登場
「おっと、あれを弾くか。いやー、上手くやったと思ったんだがなぁ」
「…………」
赤に混じって現れた、青い軍服。その手に握られているのは、青いペイントを施した自動拳銃が2丁。銃口から白煙が立ち上っている。
ダークブルーの短髪に、精悍な顔立ち。ギラリと輝く髪と同じ色をした双眸。ダークブルーの頭を守るヘッドギア、腕のアーマー、ブーツは全て黒で統一されていた。
NGシーン
「おっと、あれを弾くか。いやー、上手くやったと思ったぶげぇ」
「…………」
ユフィーリアはハーティの顔面を、渾身の力で殴り飛ばした。
銃火器を使ってくるということは、中距離から遠距離まで攻撃が可能——近距離は弱いはずだと踏んだのだろう。予想した通り、顔面を殴られたことによって彼の体はぐらりと傾いだ。
その足を払って地面に押し倒すと、ユフィーリアはハーティのマウントポジションを取った。身動きができないように空華の鞘を喉元に押し当てて、グッと力を込める。
「待って、待って、何でいきなり顔面殴られた俺は」
「怪しくて知らない奴に会ったら顔面殴れと師匠が」
「君の師匠って乱暴だな!?」
知りたくなかった彼女の師匠の教え。ていうか師匠何を教えてたんだお前。
OKシーン シズク、ハーティとやりあうことを告げるシーン
「あいつとやらせてほしい」
その言葉の意味が、最初は理解できなかった。
ユフィーリアは数度瞬きをしてから、ようやく理解できた。
シズクは、ハーティ・ストレームと戦うことを望んでいるのだ。狙撃手として、何か許せないものでもあったのだろうか。はたまた、銃火器を扱う者として純粋に戦ってみたかったのか。
NGシーン
「あいつとやらせてほしい」
「……分かった」
「ありがとう」
「ハイ」
「ん?」
「え?」
ユフィーリアが渡してきたのは、予備で持っている折り畳み式のナイフ。
空華がどこかへ飛んで行った際につなぎで使うものである。
「最前線に行くんだろ?」
「行かないよ?」
「どうやって戦うんだ?」
「君、ウチの能力分かってんの? 狙撃狙撃。狙撃するから。おとりやって」
戦闘馬鹿はそこまで頭が回らなかったようです。
OKシーン グローリアの感情を読み取ったユフィーリアのシーン
けもの道を歩きながら、ユフィーリアは先ほどのグローリアの瞳を思い出す。
赤い瞳に宿った感情は、決意だった。敵対してきた無関係の人間でさえも殺すという決意。だが、ユフィーリアにはその決意の奥に別の感情が宿っているような気がしたのだ。
言葉では表現できない、ドス黒い感情。怒りでも、恨みでも、嫉妬でもない。しいて言うなら、——呪いだろうか。
「あいつが考えていることなんか興味ねえ」
NGシーン
「あいつが考えていることなんか興味ねえ」
「……ユフィーリア、ちょっと道違うよ?」
「…………」
「ほんとは気になるの?」
「別に」
「気になるんでしょ?」
「気にならない」
「……あ、違うわこれ目が据わってる眠いんだ眠いんだねユフィーリアちょっと千鳥足になってるマジでえやばいやばいこれちょっとえー何でぇぇ!?」
「だいじょうぶ」
久々の銃火器を使って疲れたのか知らないけど、最強の傭兵だって人間です。
今回はここまで!!
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.38 )
- 日時: 2015/09/06 21:33
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: gb7KZDbf)
ミーンミーンミーン、と蝉の泣き声が頭上から降ってくる。
憎らしいほどに美しい夏の青空。突き抜けるほど鮮やかな青い天幕に、うだるような熱気が全身に纏わりついてくる。白い雲が青い空を漂い、風に乗ってどこかへ流されて行った。
戦時中であっても四季は移ろいゆく。春から夏へ、夏から秋へ、秋から冬となり、また春がくる。自然の摂理は変わらない。どんなファンタジーな世界だって、四季はあるはずだ。
「……あっつーい……」
「……なんもやるきがおきねえ。せりふなんかぜんぶひらがなでしゃべるしかねえ……」
「君下手すれば本編でもそれやりかねないよね? ああダメだ、もう体力が持たない……」
パタパタと作戦をまとめた羊皮紙で自身を煽ぐグローリア。生温い風しかこない上に、体力が削がれるのでやめたようだ。艶のある長い黒髪は高く結ばれて、少しでも涼を取ろうと工夫された結ばれ方をしている。
隣では赤い髪の青年、スカイが地面にうつ伏せで倒れていた。本人いわく、「地面の方が気持ちいい」らしい。顔面や服が汚れてしまいそうだが、彼はそんなことを気にしないのだろうか。おそらく気にしないのだろう。
「……近年にない暑さらしいぞ、オイ。司令官は砦に引っ込んでろ、熱中症で倒れるぞ」
「エデルガルドは暑くないの……?」
グローリアの赤い瞳が、通りがかったエデルガルドを映す。
彼の格好は露出の少ない青い軍服と黒いズボンである。背中に交差するように差した2本の刀が、歩くたびに揺れて涼やかな音を立てる。気温は全然涼しくないのだが。
「俺は別に平気だ。暑さには慣れている。これぐらい傭兵として当然だろう」
「……さすがだね、僕も暑さには慣れている方だけど……さすがにこの暑さはどうにもならないよ……」
グローリアはヘロヘロとその場に座り込み、羊皮紙で日差しを遮る。気休めにしかならないことは分かっている。だが、こうでもしなければ本当に熱中症になってしまうと思ったのだ。
そういえば、彼女は平気だろうか。ふとグローリアの脳裏に、あの最強の傭兵の姿がよぎる。
銀髪碧眼で、常に凛とした少女。誰にも心を開かず、信用しない謎多き傭兵。どんなものでも一太刀で殺してしまうほどの絶大な力を持つ、黒い軍服の彼女は——
「……中に入っとけ。お前に倒れられたら困る奴がいるだろ」
「お、ユフィーリア」
そこへふらりと拠点近くを通りがかった黒い軍服の少女。軍帽から靡く銀色の髪が、陽光を反射して輝いている。
ユフィーリア・エイクトベル。化け物軍勢で最も強い傭兵の少女だ。肩に担いだ長い刀——空華で肩を叩いて気だるげに立っている。この暑い中だと言うのに、目の前の銀髪碧眼の少女は汗1つ掻いていない。
ついに暑さで幻覚でも見えてしまったのだろうか、とグローリアは一瞬考えるが、どうやらこれは現実らしい。彼女の影はきちんとある。
「お前がグローリアを心配するなんて珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」
「……」
「オイ、ユフィーリア? オイ!?」
その時だ。
フラリ、とユフィーリアの体が傾いだ。その場に膝をつき、地面に体を横たえて動かなくなってしまう。
エデルガルドが慌ててユフィーリアを起こす。彼女は顔を真っ赤にして、目を回して呻き声を上げていた。完全に熱中症である。エデルガルドは急いでラヴェンデルのいる医務室へユフィーリアを運んだ。ちなみに空華は倒れた時点で彼女の手から離れ、地面に倒れたままになっている。
グローリアとスカイ、そして置き去りにされた空華は運ばれていくユフィーリアを見送った。
「……最強が暑さにやられた、だと」
「いやいや、グローリア。ユフィーリアの格好を思い出して見なよ。このクソ暑い中で、熱を吸収しやすい上下黒い軍服に外套と軍帽だよ? 露出なんて顔しかしてないじゃん。熱中症になってもおかしくはないよ」
「うん、それもあるんだけどねー」
スカイの台詞に空華が被せてくる。
「彼女、暑さに弱いんだよね。今まで北国で生活していたからさー」
あはは、と軽く笑い飛ばす空華。
グローリアは何かを決めたようにキッと前を見据え、それからゆっくりと立ち上がった。表情はいつにも増して真剣味を帯びている。
「海に行こう」
これ以上ないシリアスな声色で、そんなしょうもないことを提案した。
熱中症に気をつけろ!!-真夏の海のマーメイド☆-
青い空、白い雲、キラキラと輝く蒼海。——海である。
化け物軍勢の拠点から遥か離れた場所に海がある。ちなみに人類側に歩くのでなく、すでに化け物たちが占拠した方向へ歩いていくと海へたどり着くのだ。化け物たちの体力・脚力を以てすれば1時間弱で到着する距離である。
「普段は天然阿呆司令官だがたまにはいいことを提案するじゃねェか」
ヘスリッヒは海を眺めながら言う。彼の格好はいつものようにタートルネックにベージュのズボンである。意地でもその格好から変えないらしい。
すでに上半身のシャツを脱ぎ、ズボンの裾をたくし上げたグローリアは「酷い!!」とヘスリッヒの方を振り向いて嘆いた。これ以上にない素晴らしい提案をしたと思ったのに、何故か罵られた。
化け物たちはギャーギャーと騒ぎながら海へと特攻していく。ぼしゃーん、ばしゃーんと立て続けに水柱が立ち上がった。よほど暑かったのだろう。
「そういや、女子どもは水着なんていう大層なもんを用意してたんだっけな。戦争中だってのに、何でそんなもん作ってんのかね」
「水浴びの為に必要だって、この前セレンがリヴィの水着作りながら言ってたぜ」
ハーゲンがポツリと漏らした一言に、エデルガルドが素早く返す。何でも男子共がいつ何時覗いてきてもいいように、水着を着て入るのがマナーらしい。覗かねえよ、とハーゲンが怒ったようにつぶやいた。
「へすりひー!!」
そこへ子供らしい高い声がヘスリッヒの名前を叫ぶ。
次いでヘスリッヒの長い足に引っ付く小さな影。黒い髪はポニーテールに結ばれ、紫色のリボンがひらひらと揺れる。頭頂部で忙しそうに動く猫の耳と尻で揺れる尻尾。化け物軍勢のアイドル、リヴィである。
彼女が身に着けている水着はワンピースタイプのもの。ピンク色のフリルがふんだんにあしらわれた、可愛らしいデザインだ。可愛い彼女にぴったりである。
「せれんにねー、つくってもらったのー! かわいい? かわいい?」
「可愛い可愛い。あと足に引っ付くな暑い子供体温めっちゃ暑い」
「リヴィー、そっちはヘスリッヒの義足だからやめなさーい」
あとから追ってきたセレンが、リヴィにやめるよう呼びかける。彼は脱がないのか、それとも元々暑くないのか、袖のないパーカーにハーフパンツというラフな格好だった。大量の箱を抱えているところを見ると、彼はお弁当を作ってきたのだろう。
リヴィがヘスリッヒの足から離れ、セレンと一緒に箱を運び始める。やはりここでも健気さを発揮する辺り、偉い子である。
「リヴィがあまりにも可愛いからって的外れな褒め方だねヘスリッヒあははははははは」
「あ、シズク」
次いでやってきたのは、化け物軍勢の優秀な狙撃手、シズクだ。
すらりとした肢体が纏っているものは、セパレートタイプの空色の水着である。普段は布に隠されている白い肌は惜しげもなく晒され、陽光を受けて眩しいぐらいに輝いている。
「……うわっ」
「テメェ今胸見たろ残念って思ったろ畜生この紙袋18禁野郎面貸せコラァ!!」
やってきたシズクの胸部を見て憐れみを含んだ視線を投げるヘスリッヒに対して、シズクはいつの間に持ってきたのか愛用の対物狙撃銃の銃口を彼に向ける。胸のことは彼女にとって禁句なのである。
常に見ているその光景を苦笑いで眺めるグローリアとスカイの耳に、足音が入ってくる。サク、サク、と若干頼りなさげに歩いてくる背後の相手へ、2人は同時に振り向いた。
「…………海なんて久々に見た」
そこに、普段の禁欲的な少女の姿はなかった。
現れたのは最強の傭兵、ユフィーリアだった。平素の格好は露出の少ない黒い軍服と外套、軍帽というもので、そのせいで熱中症を引き起こしてしまったほどだ。
しかし今、彼女が纏っているものは水着——それもビキニである。透き通るような白い肌を覆う、軍服と同じ色の黒いビキニ。銀色の髪は結ばずに、夏風に晒している。下半身はパレオを巻き、スリットから覗く生足がまた美しい。その手にはやはり相棒の空華が握られていたのだが、それを差し引いても彼女は美しかった。
そして普段は外套を纏っているから分かりにくかったが、彼女の胸は結構大きかった。端的に言おう、巨乳だった。
「……今これほどユフィーリアを憎らしく思ったことはない。君はウチの敵か」
「血涙出てるぞ、シズク。あとハーゲンは失血死するんじゃねえのか」
血涙を流して睨むシズク、鼻血を出して今にも倒れそうなハーゲンを捨て置いて、ユフィーリアは1人海に向かっていった。
蒼海へと消えていく少女の背中を眺めながら、グローリアはボソリと。
「……美人は何着ても美人なの?」
「そうじゃね?」
グローリアの言葉に、スカイは面倒くさそうに同意したのだった。
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.39 )
- 日時: 2015/09/06 21:39
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: gb7KZDbf)
誰かが叫んだ。
処刑されろ。死ね。殺せ。罰せられて然るべきだ。醜い囚人。人でなし。反逆者。——化け物、と。
耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言の嵐を一身に受けているのは、処刑台に乗せられた女だった。ボロボロの囚人服を纏い、頬は痩せこけ、漆黒の髪はボサボサ。静かに目を閉じて、あらゆる罵声に耳を傾けていた。
どうせ殺される身だからと、彼女は諦めていたのだろうか。抵抗することもなく、処刑台に跪く。その傍らに、剣を携えた自警団の男が立った。
蒼穹を裂かんばかりに突き上げられる剣。ちょうどその時、女性がゆっくりと顔を上げた。今まで閉じられていた目が、衆目に晒される。
美しい、朝焼けの色をした双眸を緩ませて、女性はかさついた唇をわずかに動かした。最後の言葉だろう。だが、その言葉は声にならずに終わってしまったのだが。
ボト、と女性の首が落ちる。鈍い音が処刑台の床から響き、今まさに首を刎ねた男が女性の首を持ち上げた。
大衆からは割れんばかりの歓声が上がる。拍手喝采。女性が死んだことを、それはもう大層喜んだ。化け物がいなくなったのだ。これで、彼女に怯えて暮らすことはなくなる————!!
大衆から1歩外れたところから、少年が歯を食いしばっていた。きつく握られた拳からは血が滴り、舗装された道路に落ちる。
くるりと踵を返した少年は、そのままどこかへ姿を消した。
ACT:4 進撃開始
パチパチ、と薪の爆ぜる音がユフィーリアの耳朶を打つ。
化け物軍勢の司令官、グローリア・イーストエンドが進軍を開始すると告げてから3日。ユフィーリアを含めた先遣隊は、件の『ディーオ』という町を目指していた。
焚火に薪を追加しつつ、ユフィーリアは1つ欠伸をする。頭上に広がる美しい夜空。正確な時刻までは分からないが、夜中であることは分かる。夜が明けるまで、まだ時間はある。ユフィーリア以外の先遣隊は早々に眠っているので、起きているのは彼女1人だ。持て余した暇を潰すように、薪を手で弄ぶ。
「ユフィーリア」
「…………」
不意に名前を呼ばれて、ユフィーリアは声の方に視線を投げる。
闇の中からゆらりと現れた黒髪の女性。女性にしては随分と個性的な髪型をしている。薄闇に浮かび上がる白い肌は病的を通り越して、死人のようだ。じっとユフィーリアを見つめる双眸は、鮮やかな青。そして何よりも特徴的なのは——その首に残っているまるで切り裂かれたかのような傷。
ルーペント・ノーラ・ブランドストレーム。
1度戦死し、そして強すぎる意思のせいで蘇って化け物となった経緯を持つ、元人間である。
「交代だ。アンタも寝てこい」
「……言われなくても」
弄んでいた薪をルーペントへ投げつけ、早々とユフィーリアは立ち上がった。ルーペントと入れ替わりで、闇の中に消えていく。
しかし、夜の闇へ足を踏み入れたと同時に、ルーペントに呼び止められた。
「私のこと、恨んでいるか?」
「……別に」
そうか、と答えたルーペントの声はどこか寂しさが混じっていた。
ユフィーリアは焚火に向かうルーペントを一瞥して、その場を去った。
1歩闇の中に踏み入れれば、あとは月と星明りしか見えない。布と柱で簡易的に作られたテントに、司令官となるグローリアとスカイが眠っている。今回の進軍に関する重要な人物だ。守りも強固になるのも頷ける。
その入り口付近には、エデルガルドとアノニマスが胡坐を掻いて眠っていた。傭兵をしている2人なら、誰かが不用意に近づいても起きるだろう。
「……ん、ユフィーリアか。交代か?」
「ルーペントと交代してきた」
ユフィーリアが近づいたことで目覚めたエデルガルドとアノニマスが、寝ぼけ眼でユフィーリアを見上げてくる。
エデルガルドの隣に胡坐を掻いたユフィーリアは、欠伸をしてから軍帽を目深に被り直した。担いでいる愛刀の空華に縋りつくようにして、瞳を閉じる。
「オイ、お前は女子の群れのところで寝てこいよ。女子は仮設テントで寝ろってグローリア言ってたろうが」
「アタシがどこで寝ようと勝手だろ。集団で寝るのは落ち着かない」
言い訳をしてこようとするエデルガルドを無視して、ユフィーリアは浅い眠りに落ちて行った。
余談ではあるが、ユフィーリアが隣で寝こけたことにより、エデルガルドの眠気は完全にぶっ飛んでしまった。
***** ***** *****
「やめて!! やめて!!!! やめてよ!!!! 何で彼女を殺すの!! 何で!! 何で!!」
少年は必死になって叫んだ。両手を自警団の男衆に拘束され身動きができない。何とか拘束を振り切ろうとしてバタバタと暴れてみるも、子供の力が成人男性の力に敵う訳がない。
彼は納得ができなかった。彼女が捕まり、殺されるということが認められなかった。彼女は何もしていない。いや、何かしたかもしれない。彼女は人の命を奪うことを生業としていた。だが、それは仕方のないことだったのだ。
同じように男衆に拘束された女性は、絶望に塗れた瞳を子供へ向けた。叫び続ける子供をただじっと見つめ、それから柔らかな笑みを浮かべた。その笑みに、絶望の色は感じ取れなかった。
少年は理解できなかった。何故彼女は笑うのか。自分の命が危機に晒されているというのに、何故この状況で笑うことができるのだろうか。
「……大丈夫、大丈夫よ」
細々と紡がれた女性の声。鈴を転がすような、凛とした声が少年の耳にするりと滑り込んでくる。
「私は死なないわ。分かっているでしょう?」
さも当然と言うかのように。
女性はさらりと言ってのけた。
自警団の男衆は女性の腹を、問答無用で蹴飛ばした。女性は呻き声を上げて、その場に蹲る。艶のある黒くて長い髪が、地面に散らばった。
男衆は何度も何度も女性を蹴飛ばした。頭を踏みつけ、腹を蹴り上げ、罵倒を浴びせた。「化け物」と。
「やめろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
少年の悲痛な声が、無慈悲な曇天へと轟く。
「————ッ!!」
意識が急浮上して、グローリアは寝袋から飛び起きた。
頬を伝う汗を拭い、肩で息をする。指先がガタガタと震え、ギュッときつく拳を作った。
「どうした、グローリア?」
「……スカイ……」
隣で寝ていた赤い髪の青年が、眠気を孕んだ声で問いかけてくる。ぼんやりとした翡翠色の瞳を見て、グローリアは少しだけ落ち着いた。
フゥ、と息を吐いて、再び横になる。
天井付近では、燃え尽きた蝋燭の入ったカンテラが揺れる。うっすらと月明かりがテントの布を照らしているのが分かった。視線を少し右へとやれば、布の壁に立てかけられた、己が扱う鎌が視界に飛び込んでくる。
「……怖い夢を見てさ。大丈夫。もう平気だよ」
「……無理はすんなよ。君は化け物軍勢の司令官なんだからさ。重圧に耐えきれなくなったら、僕に言ってよね」
「あはは、僕がいつ無理をしたって言うのさ。心配しないでも、僕は司令官の立場が好きだよ」
からからと笑い飛ばすグローリア。
ふぅーん、と適当な返事をした話し相手は、寝返りを打って再び夢の世界へと旅立った。
グローリアもゆっくりと瞳を閉じる。ほどなくして、意識は泥の中へと落ちて行った。