複雑・ファジー小説

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Sky High 新スレに移行しました。
日時: 2015/11/03 22:30
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 6KsExnZ3)
参照: え、名前負けしてる? そんな馬鹿な。

 銀色の髪を翻し、硝煙漂う戦場を舞う。
 蒼穹の瞳に宿した炎は、敵を焦がす。
 裏切りと絶望の過去を辿って、凄惨な戦いへと身を投じた。


 ——とある『最強』の【傭兵】のお話である。


***** ***** *****


ハイ、こんにちこんばんおはようございます。
皆さんご存じ、山下愁です。よろしくお願いします。

さて、複雑ファジー小説板では実に3……あれ4だったかな……忘れましたが、まあそんな感じの小説です。
そんな前提はさておいて。

読者の皆様。上記の4行はご覧いただきましたでしょうか?
ご覧いただきになったようで幸いです。ええ、本当に。ありがとうございます。
「かっこの使い方が変」とか「誰が主人公なのかよく分からん」なんていう言葉は聞こえません。ニュアンスだけ感じてくださればこれ幸い。
ええ、ハイ。ニュアンスは「とんでもなく暗くて凄惨な物語」でありますよ。悲哀・凄惨・残酷がテーマになっている山下愁史上初のほんのちょっと笑えるけど基本的にはダークネスがテーマになっている小説になります。
ので、以下の注意書きを読んでくださいね。


・人が死ぬ情景や、山下愁的なグロ描写(いや露骨なのはやりませんけども)仲間が死ぬ情景など『負の演出が盛りだくさん』になっています。
 閲覧する際はくれぐれも注意してね。
 タイトル負けしてるとか言ったらダメです。なるべく小学生のお子さんは(いやこんなクソみたいな小説読まないだろうけど)閲覧を控えるようにお願いします。

・誤字、脱字は無視してください。山下愁が自分で気づいた場合は、自分で直します。「間違ってますよ!!」とか言っていただけると嬉しいですし、文章で表現がすっげー変だなって思ったところも指摘してくださるとありがたいです。私はぜひともそれを参考にします。
 もちろん、普通にコメントも大歓迎ですよ!! むしろ泣いて喜びます。

・山下愁は社会人であり、この時期になると繁忙期になってしまいます。 なので何が言いたいかって言うと、不定期です。更新は実に不定期になります。つーか遅いです。
 ていうか、自分が満足したら無理やりに終わらせるつもりでいますよ山下愁は。ハイそこ、納得いかない顔をしないでください。あくまで私の妄想を吐き出す場所に使わせてもらうだけです。「帰れ!!」と言わないでください。

・非常に胸糞悪いシーンがあると思いますが、黙って見過ごしてください。山下愁の性格が悪いとか、決してそんなではありません。

・誹謗中傷、無断転載、パクリはおやめください。
 なお、2次創作の場合は自己申告してください。泣いて喜びます。泣いて喜びます。


ふぅ、長いな。
成分としては、バトル120、胸糞50、笑い20、その他40とパーセンテージ限界突破でお送りします。
それではいいですか? 始まりますよ?
ちなみに書き方も結構変わってます。以前、鑑定さんに指摘されて直したのですが、この書き方だと新人賞に応募できゲフンゲフン。

***** ***** *****

登場人物紹介>>01

プロローグ>>02

※オリキャラ募集※>>03

ACT:?【新編開始】


ACT:1【最強傭兵】
ACT:2
ACT:3
ACT:4
***** ***** *****

お客様 Thank you!!
ツギハギさん様 ディスコ部長様 烈司様 梓咲様 モンブラン博士様


***** ***** *****

同時進行 Sky High-いつか地上の自由を得よ- パロディ

すかい☆はい-いつか地上を笑いで染めよ-

・人間どもよ許してなるものか>>11
 登場人物(ユフィーリア、セレン、アノニマス他)

・君の髪の毛をロックオン>>27
 登場人物(グローリア、リヴィ、ヘスリッヒ他)

・熱中症に気をつけろ>>38
 登場人物(ユフィーリア、グローリア、エデルガルド、ハーゲン他)

・学園すかい☆はい
 登場人物(未定)

※随時更新

***** ***** *****
Special Thanks
・梓咲様よりユフィーリアの絵が届きました>>28

Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.20 )
日時: 2015/03/22 22:25
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)

烈司様>>



お、おう……?
は、初めまして山下愁と申します。何やらすごいお話になっているようで……。
話の数が少なくて申し訳ありません。まだ始めたばかりなのと、私の現実の仕事がハードだったものであまり更新できておりませんでした。
更新は気長にお待ちいただけると助かります。

それでは、またのお越しをお待ちしております!!

Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.21 )
日時: 2015/03/23 12:17
名前: ・スR・ス・ス・スD ◆kp11j/nxPs (ID: 7WYO6DME)

 戦場の豪雨は、拠点にまで及んではいなかったようだ。
 乾いた地面を踏みしめながら、ユフィーリアは猫妖精——テオバルドと共に拠点へと目指す。猫妖精らしく軽やかな跳躍でけもの道を進んでいくテオバルドを追いながら、ユフィーリアは思考を巡らせた。
 グローリアによる、突然の撤退命令。ただの撤退なら拠点の鐘が鳴らされる程度だが、唐突に出された撤退命令に納得がいかない。
 しかも、ユフィーリアを招集するほどだ。よほどのことが起きたのだろうか。

(……一体何を考えてやがる)

 テオバルドの背を追いかけながら、ユフィーリアは舌打ちをした。
 やがて、ユフィーリアとテオバルドの耳に喧騒が届く。草木をかき分ければ、化け物軍勢の拠点にたどり着いた。

「おいグローリア、一体どういうことだ!?」「撤退命令なんて聞いてねえぞ」「納得のいく説明じゃなけりゃ捻り潰すよぉ!?」「テメェそんな腰抜けだったのかこの『自主規制』野郎がァ!!」

 化け物軍勢として人間どもと戦っていた奴らは、みんなしてグローリアに詰め寄っていた。ユフィーリアと同じく、突然の撤退命令が納得できないようである。ヘスリッヒは中指を突き立て、ルーペントはグローリアに掴みかからん勢いだ。アノニマスも納得していないようで、平素は無表情なのが少しだけ怒っているようだった。
 一方のグローリアは、己を責め立てる軍勢の中心にいながらも、何も言葉を発することはなかった。ただ黙って瞳を閉じ、腕を組んで拠点の壁に寄りかかっているだけだ。その傍らには、彼が好んで使う時計が埋め込まれた鎌が立てかけられている。

「やあ、テオ。ご苦労様」
「スカイ、命令通りユフィーリアを連れてきた。これで戦場に出ていた化け物軍勢は揃った。そろそろ理由を話してくれてもいいだろう」

 ユフィーリアの隣に現れた赤毛の青年——スカイに、テオバルドは告げる。彼自身も、この撤退命令に疑問を持っているようだった。
 スカイはくるくると癖のある赤毛を掻き上げて、「そうだね」と頷いた。

「グローリア、ユフィーリアが帰還したよ。そろそろ理由を話してくれ。みんなこの撤退命令が納得できないんだからさ」

 スカイの台詞に、グローリアは反応を示した。ゆっくりと瞼を開き、夕焼けの如き赤い双眸がグローリアを取り囲む化け物たちの前に晒される。
 彼はぐるりと辺りを見回して全員の顔を確認したのちに、鎌を手に取った。それからいつものように笑みを浮かべる。

「突然の撤退命令に、みんなは混乱しているかもしれない。怒っているかもしれない。でも、僕がトチ狂った訳じゃあないんだ。落ち着いて聞いてくれないかな?」

 聞くも何も、説明をしてくれないと何もしようがない。
 もしそれが化け物たちの納得のいかない理由だったら、彼の命はないかもしれない。
 むしろ、グローリアを取り囲む集団から外れた位置に存在する最強の傭兵、ユフィーリアが彼を切り殺すかもしれない。
 命の危機に晒されていることも気にせず、彼は撤退命令のことについて説明し始めた。

「この辺りで人間たちの野営地が発見された。そこには、何人かの『梟』部隊と大多数の『鳳凰』部隊がいる。そして——ハナコちゃんもね」
「ハナコって、あの捕虜のか?」

 エデルガルドがグローリアへ問いかければ、彼は「その通り」と答えた。

「ハナコちゃんが敵軍勢にいるってのは、正直結構つらい。あの子、問答無用で引きずり込んでくるからね。『梟』部隊の奴らも侮れない。奴らの使ってくる魔法は、化け物軍勢にあってもおかしくはないんだから」
「んじゃあれなの? 今回は二手に分かれるって感じ? だったら前線にいる奴らを全員呼ばなくてもよかったんじゃないのぉ?」

 次に発言したのは全身真っ黒の少年だった。ご丁寧にフードまで被った少年の名は、イルケフィア・アルファードという。
 彼の言葉に、誰かが「うるせー嘘つき野郎が!!」という野次が飛んだ。どうやら化け物軍勢の中で、彼は嫌われているようである。
 そんなイルケフィアに対し、グローリアは首肯した。

「そうそう。特に今回は、なるべく強い人に叩いてもらおうと思ってね。油断はできないし、こうして全員に集まってもらった訳。そんな訳で、二手に分かれてもらうんだけど——」
「それだけじゃねえだろ」

 早くも作戦の説明に移ろうとしたグローリアに、ユフィーリアは待ったをかけた。
 全員の視線が、銀髪碧眼の少女へと集中する。もちろん、グローリアの目線も同様に。
 スカイが隣で「どういうことだ」という視線を向けてくるが、彼女はお構いなしに言葉を続けた。

「そんな理由で、アタシを最前線から引き戻したのか? 違うだろ。お前は常にアタシを抜いて作戦を考える。エドやハーゲンだって申し分ない強さだし、そこの紙袋野郎にでも任せりゃすぐに野営地は崩壊する。作戦を伝えるだけならオルヴォやミネルバの伝令班に任せりゃいいだろ。でも今回の撤退命令は、それだけじゃねえんだろ?」

 実のところ、ユフィーリアは納得していなかった。
 ただ作戦を伝えるだけなら、彼女の言う通り、鳥人族であるオルヴォや堕天使のミネルバに伝えればいい。彼らの仕事は作戦を伝えることなのだから。
 それに、グローリアは特に関わったこともないのに、ユフィーリアをよく理解している。彼女が作戦を忠実に遂行してくれる訳じゃないので、普段は彼女を抜いて作戦を考えるのだ。
 だというのに、今回のこの撤退命令。テオバルドまで使ってユフィーリアを呼び戻したのは、何か他に理由があるのでは? と彼女は踏んだのだ。
 ユフィーリアの台詞を受けて、グローリアはきょとんとした顔をする。が、それも一瞬の出来事で、すぐに笑みを張りつけた。

「さっすがユフィーリア、勘が鋭いね。女の勘って奴? そうさ。作戦を伝えるだけならオルヴォ君やミネルバ君にやってもらえばいい。彼女の言う通りだ、全員に撤退命令を出したのは——それだけじゃない」

 楽しそうに笑って、グローリアは全員に問いかけた。

「今回、戦場に豪雨を降らせたのは誰の仕業か知っているかな?」

 辺りがざわざわと騒がしくなった。『金糸雀』部隊の仕業と思っている輩もいれば、魔法使いの誰かの仕業だと言う奴もいる。
 しかし、原因を知っていたユフィーリアはその問いに素早く答えを返した。

「ナキだ」

 その答えに、より一層辺りがざわめいた。
 主に、「ナキって誰だ?」という話題だが。

「フゥン。あのテルテル坊主野郎がそんな力持ってるなんてナァ。ケーッどうせ同僚が泣かせて大雨降らせたってオチだろ。そんなんで混乱するような化け物だったらよほどの『自主規制』野郎だ」
「ヘスリッヒ殿、破廉恥な言葉は慎んでいただきたい」

 ヘスリッヒの台詞にリヒトが注意をするが、彼はどこ吹く風だった。
 グローリアは集団をかき分けてユフィーリアの前に立つと、凛とした声で彼女に問うた。

「ねえ、ユフィーリア。ナキ君は何か持っていなかったかい?」
「何か?」
「彼とは別に関係のないものさ」

 ユフィーリアはグローリアの目を真っ向から見据えた。
 とても冷え切った目をしていた。奴はこんな瞳もできるのか、とユフィーリアはひっそりと感心した。

「鎌を持っていた。奴の身長を超す、銀色の鎌だ。豪雨で視界は悪かったから色は定かじゃないけど、鎌なのは分かる。銀色の長い柄に、歪曲した刃が垂直に取りつけられていた」
「……」

 ユフィーリアの報告に対し、グローリアは黙った。
 そしてその数秒後。

「あっはははははははははははは!!」

 笑い出した。
 壊れたようにケタケタと笑うグローリア。周りの化け物たちはみな、引いていた。
 しばらく哄笑を蒼穹へと響かせたグローリアは、唐突に地面へと己が持っていた鎌の刃を突き立てた。ざっくりと銀色の刃が地面を深く抉る。

「ねえ、ユフィーリア。人間って阿呆だね。僕はその鎌に触れていいなんて、一言も許していないのに。『彼女』の墓標を、簡単に抜いちゃうもんなんだね」
「……」
「知らないって顔だね。いいよ、知らなくて。これは誰も知らない、僕だけのものだ」

 ユフィーリアから視線を外したグローリアは、全員へ目を向けた。
 誰も、何も言うことはなかった。

「なあ、お前ら」

 グローリアはふわりと笑んだ。いつも彼が浮かべている笑顔なのに、纏っている雰囲気がどす黒い。
 ヘスリッヒも、ルーペントも、スカイも、リヒトも、化け物たちはみんなして口を噤んだ。今の彼に、何も言えなかった。


「————僕の私怨の為に働けよ」

Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.22 )
日時: 2015/03/29 16:35
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)
参照: ルーペントから漂うコレジャナイ感

 グローリアが言っていた野営地は、山間に存在した。
 小さな建物があちこちに建てられ、中には煙を上げている建物まである。その間を人間たちがちょこまかと動き回っていた。
 鬱蒼と生い茂る木々に隠れて、ユフィーリアは眼下に広がる野営地を眺めていた。その瞳が冷え切っていることを、野営地の人間は知らない。

「——あれが野営地か」

 ユフィーリアの隣に、ウルフ髪の男が立った。
 男——エデルガルドを一瞥したユフィーリアだったが、再び野営地へと視線を戻す。いつものことである。
 野営地を潰す任務を与えられたのは5人。ユフィーリア、エデルガルド、ハーゲン、アノニマス、ルーペントだ。化け物軍勢の中でも折り紙つきの強さを誇る者である。

「で、野営地を潰す為の作戦だが」
「興味ない」

 エデルガルドの言葉を一蹴し、ユフィーリアは1歩下がった。
 肩に担いでいた黒鞘の大太刀、空華の柄を握る。白魚のような指がゆっくりと青い柄に絡み、そして神速で刃が引き抜かれた。
 陽光を反射する薄青の刃。氷の如き冷たい印象を与える空華の刃は、野営地の真上を滑った。音もなく、すーっと滑らかに。
 攻撃はそれだけ。それだけで、野営地の地面に深い切れ込みが刻まれた。

「全部アタシがぶっ潰す。お前らはそこで見てろ。作戦が必要ならアタシを抜いて実行しろ」

 振り返らず、唖然と立ち尽くす4人へと告げたユフィーリアは、野営地めがけて飛んだ。
 あ、と背後でハーゲンが声を上げた。だが、すぐに聞こえなくなる。重力に従って、少女の矮躯は落下を開始した。
 眼下の野営地で動く人間は、こぞってユフィーリアを見上げていた。最初こそ「あれは何だ」と疑問を持っていたようだが、徐々に彼女の姿が露わになるにつれて慌てた様子を見せる。
 野営地の中心に降り立ったユフィーリアは、ぐるりと周囲を見渡した。
 剣や刀、槍を構える兵士。その中に混じって、藤色の髪を持つ男が立っていた。身の丈を超す鎌を持った、テルテル坊主のような男。
 彼を見つけたユフィーリアは、口の端を吊り上げた。

「——よぉ、ナキ。さっきぶりだな」

 まるで友達のように、ユフィーリアはナキに声をかけた。
 それを合図に、ユフィーリアを取り囲んでいた兵士たちが一斉に襲いかかる。武器を振り上げ立ち向かうが、彼らの行動はユフィーリアにとって遅すぎた。
 瞬きの間で兵士たちをすり抜けたユフィーリアは、すでに抜刀を終えていた。抜き放たれた空華を払って、納刀する。カチン、と小さな音が奏でられたと同時に、ユフィーリアへ襲いかかった兵士たちは全員首を落とされた。その数、およそ20人。
 ビチャビチャと赤い液体が地面へ落ちて、海を作る。軍靴が血で汚れることも厭わず、ユフィーリアは次なる敵——ナキを狙った。

「潔く死ね」

 空華を構え、身を屈める。
 ナキはすでに青い瞳へ涙を浮かべ、小刻みに震えていた。鎌にすがりついて、「ひっく、ぅえ」と嗚咽を漏らす。彼の感情が『悲』の方面へ向かっている証拠だ。それに伴い、周りの天候も徐々に変わってくる。
 雨雲が空を覆い始め、ポツポツと少量の雨を降らせた。この程度ならまだ落ち着いて攻撃できる。グッと足に力を込めた、その刹那。

「——ユフィーリア、後ろだ!!」

 エデルガルドの声が鼓膜に突き刺さり、反射的にユフィーリアは振り返った。
 漆黒の手が、ユフィーリアを待っていた。
 どうやらその手は、ユフィーリアの影から伸びているようだ。ゆらゆらと左右に揺れる手は、ユフィーリアが振り向いた瞬間に襲いかかってきた。
 舌打ちと共に、ユフィーリアは漆黒の手を切り裂く。根元を影から分断された手は、空中に霧散した。

「グローリアの話を聞いていなかったのか!! 敵勢にはハナコ・ティレッタがいるってよ!!」
「聞いてたけど……」

 次々に影から伸びてくる黒い手を見て、ユフィーリアはポツリと漏らした。

「……どんな能力だったか知らないし」
「この戦闘馬鹿で前線馬鹿のド・阿・呆ォォォォォオオオオオオオオ!!」

 エデルガルドの怒号と共に、斬撃が飛んできた。ユフィーリアを囲んでいた黒い手はエデルガルドによって残らず刈り取られる。

「ユフィーリア、テメェ1人で行動するなよ危ないだろうが!!」
「……お前は大丈夫なのか?」

 ツカツカと歩み寄ってきたハーゲンは、ユフィーリアの胸倉を掴んで怒鳴りつける。
 しかし、ハーゲンの説教などユフィーリアは聞いてはいなかった。それどころか、彼女はハーゲンの身を心配したのだった。
 現在、ハーゲンの左腕はない。食い千切られたような断面から、じゅうじゅうと蒸気を上げて回復していっている。トカゲのようで気持ち悪い。

「こいつ間抜けだよな。アサルトライフル乱射しながら突入して、ハナコの罠に引っかかってやんの。おかげで左腕がブチッと」
「納得した」

 楽しそうに笑いながらすでに頭を潰された兵士の死体を引きずるルーペント。手に装着されたガントレットが赤く染まっているところを伺うと、彼女が手をかけたようだ。
 ルーペントからの言葉を受けて、ユフィーリアは合点がいった。ハーゲンらしい戦い方をしたようだ。
 突入して負傷したことをあっさりとばらされたハーゲンは、顔を真っ赤にして「ルーペント!!」と抗議をした。

「……ッ!!」
「どーしたアノニマ」

 クイクイとユフィーリアの外套を引いたアノニマスは、ナキを示した。
 ナキは変わらず震えている。だが、その震えは泣いているのではなくて————


「————俺の仲間に何してんだぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」


 怒っていた。
 青い双眸を吊り上げて、ナキは鎌を振り上げる。5人とナキの距離は開いている為、鎌の刃は届かない。銀色の歪曲した刃はざっくりと地面に深々と突き刺さった。
 同時に、ピシャァーッン!! と雷が落ちた。

「なるほど」

 ユフィーリアは冷静な判断を下した。

「こいつ、怒ると雷を落とすのか」

 面白い、とユフィーリアは口の中でつぶやいた。
 愛刀を構え、彼女は歌うように宣言した。

「それじゃあぼちぼち、戦争しましょうか?」

Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.23 )
日時: 2015/04/12 01:39
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)
参照: 別にさぼっていた訳じゃないゲフンゲフン

 グローリア・イーストエンドは、けもの道をひた走っていた。
 草木をかき分けて、樹木の間をすり抜けて、ただ走る。目的地は人間たちの野営地——ユフィーリアたち5人が戦っている場所だ。
 目的地点が近づくにつれて、雷の音が聞こえてきた。野営地にいる『梟』部隊の兵士、ナキの仕業だろう。彼は己の感情によって、周囲の天候を変えることができるのだ。

「雷ってことは相当怒っているようだねぇ。ルーペントちゃんを行かせたのは間違いだったかな」

 グローリアの口調は軽いものだが、表情は冷たい。その赤い瞳に、平素のような柔らかな空気は存在しない。
 けもの道を突き進む彼の後ろを、ちょこちょこと猫がついてきていた。
 ただの猫ではない。半纏を身につけ、一眼レフカメラを腰に装備した猫妖精である。この猫は化け物軍勢の召喚士、スカイ・エルクラシスの使い魔である。

「グローリアの旦那ァ、1人で動くことは危険ですぜィ。あっしは戦い専門の使い魔じゃありやせんで」
「ペルーリア君さ、わざわざついてこなくてもよかったんだよ? いくらスカイが護衛代わりにって言ってもさ」
「スカイの旦那の命令は絶対でさァ」

 猫妖精——名をペルーリア——は、つぶらな猫目でグローリアを見上げた。
 しかし、グローリアはペルーリアを一瞥もしなかった。赤い双眸は行く先を真っ直ぐに見つめ、何の躊躇もなく突き進んでいく。
 やがてけもの道は途切れ、高い崖にたどり着いた。眼下には人間たちの野営地が広がり、それを分断するかの如く縦に1本の亀裂が走っている。野営地の中央辺りは赤い海となり、肉片が浮かんでいた。おそらくはユフィーリアたちが殺した人間の兵士だろう。

「うわぁ……えげつねえですねィ」
「ペルーリア君、僕もう面倒くさくなっちゃった」
「——え?」

 ペルーリアがグローリアへ視線を向けた時、そこに彼の姿はなかった。
 最後に見えたのは、空中に浮かんだ『歪み』に消えていく長い黒髪だった。

***** ***** *****

 ユフィーリアは考えていた。
 ナキは怒り狂って銀色の鎌を振り回し、彼を守るかのように雷が落ちる。彼を中心とした周囲の地面は、もはや黒焦げ状態だ。
 さらにユフィーリアの背後では黒い手の乱舞が発生しており、これにはエデルガルドとハーゲンが2人がかりで立ち向かっている。アノニマスは着々と残りの『鳳凰』部隊兵士を始末しているが、問題は最後の1人だった。
 服が汚れることも厭わずに、血の池にしゃがみ込んで耳を塞ぐルーペント。視線が泳ぎ出し、どこかそわそわとしている。そう言えば、彼女は雷とかそういう類が嫌いだった。

「……どうするか」

 このまま突っ込んでナキの首を飛ばすにも、雷に打たれれば最強のユフィーリアとて致命傷を受ける。そこまで体は強くない。
 距離と空間を無視してナキの首を落とすにも、彼の周囲は雷が踊り狂っている。つまり何が言いたいかというと、ナキの姿がよく見えないのだ。眩しすぎて。
 チッと舌打ちが1つ漏れたが、雷の音に掻き消された。

「エド、ハーゲン!! そっちはどうだ!!」
「切っても切っても湧いて出てくる!! どうなってるこの手は!!」

 エデルガルドは2本の刀でバッサバッサと黒い手をなぎ倒していくが、そのたびに黒い手は別の場所から生えてくる。ハーゲンはアサルトライフルのシリンダーを好感している隙に黒い手の攻撃を受けたのか、今度は右手がなくなっていた。しゅうしゅうと右手があった部位から蒸気が上がっている。
 アノニマスもさすがに雷を落としまくるナキに近づけないのか、ユフィーリアの視線を受けてブンブンと首を横に振った。

「俺のぉぉぉぉおおおお!! 仲間にぃぃぃぃぃいいいい!!!!」

 しまった。油断をしていた。
 ナキは鎌を振り上げて、ユフィーリアめがけて突っ込んできた。雷の包囲網を抜けた彼は、歪曲した刃をユフィーリアへ振り下ろす。
 咄嗟に空華で防御をしたが——その刃は彼女を傷つけることなく、空中で止まった。

「なっ——」
「……」

 ナキは目を剥いて驚いた。ユフィーリアも同様に、驚きを隠せなかった。
 ナキとユフィーリアの間を遮るかのように、鎌が生えていた。虚空から垂直に鎌が伸び、ナキが振り下ろした刃を受け止めている。
 空間が歪み、その向こうから人間が現れた。

「お前——」

 艶のある黒髪を靡かせ、軍靴は血の海を踏みしめる。
 愛らしい顔立ちに乗った双眸は、夕焼けにも負けない赤い色。
 戦闘を知らない華奢な手が握るのは、懐中時計が埋め込まれた死神の鎌。


「やあ、ナキ君。初めまして」


 空間の歪みから現れた男は、ユフィーリアたち化け物軍勢の頂点に立つ司令官だった。
 微笑を浮かべ、ユフィーリアを押しのけてナキと相対した男は、己の名前を歌うように口にした。

「化け物軍勢の司令官を務めています、グローリア・イーストエンドです」

 口調は平素のグローリア・イーストエンドそのままだったが、ユフィーリアは彼の横顔を見て息を呑む。
 その瞳に、慈悲や柔らかな空気など存在しなかった。そこに存在する感情はただ1つ。

「それ、返してくれる?」

 ————『憎悪』のみ。

Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.24 )
日時: 2015/04/12 23:21
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)
参照: ナキ君ごめんなさい。

 突如として現れたグローリアに、ユフィーリアは驚きを隠せなかった。
 どうして司令官であるこの男が戦場へ? 何か目的が?
 ならばユフィーリアたち化け物軍勢を招集した時点で、何故彼女に言わなかったのか。疑問は生まれるが、口にすることができない。
 ユフィーリアの本能が、「今、グローリアに話しかけてはならない」と語っている。口から出かけた台詞を無理やり飲み込んで、ユフィーリアは使い物にならないルーペントを引きずって後退した。

「お、おい……何でグローリアがこんなところに……てかどうやって」
「黙れハーゲン。下手に話しかければ殺される」

 ハーゲンはヒソヒソとエデルガルドに耳打ちをしたが、エデルガルドは険しい表情でハーゲンの台詞を一蹴した。
 兵士の虐殺を終えたアノニマスも、グローリアから距離を取る。この場にいる前線経験者は、グローリアに話しかけてはいけないと悟っていた。

「うるさい!! お前ら、俺の仲間たちを殺しまくって!! 許すものか!!」

 グローリアの「それ返して」という台詞を払いのけ、ナキは怒鳴った。怒鳴り声に合わせて、彼の背後に雷が落ちる。
 ピシャァーッン!! という轟音を響かせたが、グローリアはどこ吹く風だった。怖がるそぶりを見せることなく、彼は同じ台詞を繰り返す。今度はしっかりと、目的のものを指さしながら。
 彼の細い指が示したものは、ナキの持つ銀色の鎌だった。

「それ、返してくれる?」

 しかしナキは聞かなかった。否、聞こえていなかった。
 仲間を皆殺しにされ、怒らない方がおかしい。青い双眸を吊り上げて、鬼のような形相をするナキはグローリアへ向かって鎌を振り上げた。
 銀色の鈍い輝きを纏って、刃はグローリアへと振り下ろされる。
 ユフィーリアはナキに攻撃するべく、空華の柄を握った。エデルガルドやハーゲンも同様だった。各々の武器を構えてナキへと襲いかかろうとした、が。

「————か、」

 地面に広がった血の海に、波紋が生まれる。
 鎌の刃は、グローリアを貫いてはいなかった。刃は何故か、ナキの体を貫いていたのだ。
 グローリアの目の前に生まれた歪みが鎌の刃を飲み込んでいる。そして歪みはナキの背に現れ、そこから刃が伸びていた。
 つまり、グローリアは空間を歪曲させて自分に向かってくる刃をナキに向かうようにしたのだった。

「自分で自分を刺しちゃうとかさぁ、自決でもする気だったの? かっこいいね。仲間の後を追うって奴? いやあ、僕はさすがに真似したくないな」

 ナキの手から銀色の鎌の柄を奪うと、グローリアは乱暴にナキの体から刃を引き抜いた。
 ぶちゅ、と嫌な音がして血が溢れる。同時にナキの口からも血塊が吐き出され、彼は仰向けに血の海へ沈んだ。
 ぜぇはぁと荒い息を繰り返し、涙を浮かべるナキの傍らに、グローリアは微笑を浮かべてしゃがみ込んだ。

「君、死んじゃうね? 遺言とか聞いてあげようか?」
「…………ぃ」
「え?」

 耳を澄まさないと聞こえないほど小さな声で、ナキは訴えた。

「しにだぐ、ない……!!」

 青年の願いだった。まだ死にたくないと。
 誰だってそう思うはずだ。化け物だって、人間だって同じだ。死ぬ間際になって、まだ死にたくないと願うのだ。
 だが助けられないのは分かっている。彼は、この場で死んでいく定めなのだ。

「分かった。死にたくないんだね?」

 だというのに。
 グローリアは彼の願いを聞き入れた。
 これには遠目から見ていたユフィーリアたちも呆気にとられた。何故彼は敵を救おうとしているのか。

「おい、おいグローリア。待て」
「あらエド君どうしたの? そんな怖い顔して。モテないよ?」
「そんなことはどうでもいい。何で敵であるそいつを助けようとしてるんだ?」

 はっ、はっと荒い息を繰り返すナキとエデルガルドへ交互に視線をやるグローリア。
 それからグローリアはゆっくりと鎌を掲げた。自身が愛用している、懐中時計の埋め込まれた鎌を。

「——適用『時間静止(クロノグラフ)』」

 凛としたグローリアの声が、周囲に浸透した。
 カチン、と何かが嵌まる音がしたと同時に、ナキの呼吸音が止んだ。

「生かしてあげるよ、でも死にもしないよ」

 グローリアはもう1度ナキの傍にしゃがみ込んで、楽しそうに笑った。

「君はそのまま一生を生きていくんだ。剥製みたいに、生命の時を止められて。愉快だねぇ。君の生命を動かすことは、もう僕にしかできないよ。だけど動かしてあげない。君が『生きたい』って願ったんだから、化け物みたいに一生そのままで生きればいいさ」

 グローリアは、ナキの全ての時間を止めたのだ。
 動きの時間を止めるのではなくて、生命そのものを止めたのだ。細胞分裂が起きる瞬間も、呼吸も、鼓動も、脳波も、ありとあらゆる時間を全て止めたのだ。

「グローリア、それだと3分間が限界じゃあないのかい? 3分経てばナキは動き出すんじゃ?」

 ユフィーリアの手の中にある空華が、グローリアへ問いかけた。
 グローリアはいつものような柔らかな光を瞳に宿し、空華の質問に答える。

「動きを止めるのは、ね。でもこの技は、人を殺せない僕に許された、たった1つの人を殺せる方法なんだ。普通の人にはちょっと実行するには難しいけれど、僕には簡単なんだ。人の生命の時間を止められればいいんだから」
「えーと、どういうことなんだろう?」
「動きを止めることには3分間っていう制限時間があるけど、生命そのものの時間を止めるのであれば制限時間は存在しないんだよ」

 あははは、と軽く笑い飛ばしながら、ものすごいことを告げるグローリア。
 その時、蒼穹に鐘の音が響き渡った。撤退命令のようである。

「じゃあ、みんな。帰ろうか」

 2本の鎌を抱えたグローリアは、先陣を切って歩き出す。
 彼の後ろにはエデルガルドとアノニマス、そしてハーゲンがルーペントを引きずって野営地を後にする。
 最後尾を歩くユフィーリアは、ふと足を止めて背後を振り返った。
 血の池に沈む、人間の死体。その中に五体満足で生命の時間を止められた、剥製が1人。泣くことも笑うことも死ぬことも生きることも、おそらく彼には許されないだろう。あの男が、それを許すはずがない。

「お前が悪いんだ、ナキ。うちの司令官を怒らせると、相当やばいってのは知ってただろうに」

 独り言のようにつぶやいて、ユフィーリアはその場を去った。
 剥製となったナキは、何も答えることはなく、彼の瞳は真っ直ぐに虚空を眺めているだけだった。


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