複雑・ファジー小説

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空の心は傷付かない【12/18 完結】
日時: 2015/12/21 02:26
名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: uRukbLsD)

 お前が死んだって、僕はなんとも思わない。

 
 ——だから、別に死ななくても良かったのに。



※この作品には、暴力的、グロテスクな表現があります。


はじめまして、之ノ乃(ノノノ)と申します。
普段は別のサイトで執筆しているのですが、気分転換にこちらに小説を投稿することにしました。
どうぞ、よろしくお願いします。

ちなみに以前は、別の名前で『俺だけゾンビにならないんだが 』という小説書いてました。

上記の注意書き通り、この小説にはグロテスクな表現が多く含まれています。ご注意ください。


—目次—

プロローグ『アイのかたち』>>1
第一章『常にそこにある日々』>>2->>16
第二章『確約された束縛』 >>17->>24
第三章『反れて転じる』 >>25->>38
第間章『回る想い』    >>39
第四章『終える幕』    >>40->>44
エピローグ『しろいそら』 >>44-45

人物紹介『バラして晒す』  >>46

Re: 空の心は傷付かない ( No.1 )
日時: 2015/10/14 00:02
名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: uRukbLsD)

プロローグ  『アイのかたち』

 胸に刺さっていたナイフをゆっくりと引き抜いていくと、傷口から血液が溢れだして鉄の臭いが周囲に充満していく。僕は手についた彼女の血液を舌で丁寧に舐めとる。ねっとりとした血の味が口内に広がっていく。これが彼女の血の味だと考えると全身が快感に震える。もっと欲しいと全ての細胞が彼女を求める。

 動かなくなった彼女の顔に手を伸ばす。ツルツルとしていて気持ちの良い肌触りだ。そして大きく見開かれた綺麗な目。僕は彼女に顔を近付け、左の眼球を舌で舐めた。ツルツルとした感触。何回かその感触を楽しんだ後、ナイフで眼球を抉り出す。難しかったけどなんとか取り出すことが出来た。それを口の中に放り込む。口の中で飴玉のように転がした後、歯で噛み砕く。何度も何度も噛んでグチャグチャになった眼球をそのまま飲み込む。

 それから彼女の綺麗な黒髪を撫でる。生前からみんなに綺麗だと褒められていた黒髪だ。ポニーテルがよく似合っていた。今でも鉄の臭いに混じってふんわりとシャンプーの匂いがする。いい匂いだ。手触りと匂いを楽しんだ後、その黒髪を何本か抜いて口の中に入れる。唾液を絡めて何度も何度も歯ですり潰して飲み込む。流石に喉に詰まってしまったので、彼女の傷口から溢れる血を啜って喉の奥に流す。

 美味しい。最高に美味しい。どんな料理でも届かない至高の味だ。彼女を僕の身体に取り込めることを全身が歓喜している。全身の渇きが癒えていく。空っぽだった器が彼女で満たされていく。

 僕の目の前には大好きだった人がいる。ずっと好きだったけどそれを言葉にできず、ずっと近くにいたのに手を伸ばして触れる事も出来なかった幼馴染の少女が。この想いをずっと伝える事が出来なくて。こんな僕じゃ彼女への想いをなんて口にしたらいいか分からなくて。素直に言葉に出来なくて。だけど、今ならこの気持をハッキリと口に出すことができる。

 愛してる。愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる 愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる。君の笑顔も怒った顔も拗ねた顔も声も、髪も瞼も眼球も鼻も耳も唇も歯も舌も胸も腕も足も皮膚も骨も細胞の一つに至るまで君を愛してる。
 
「愛してるよ」

Re: 空の心は傷付かない ( No.2 )
日時: 2015/10/14 00:06
名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: uRukbLsD)

第一章 『常にそこにある日々』

 空から降り注ぐ日光によって皮膚が焼かれていく。熱せられた皮膚が悲鳴を上げ、全身から汗が吹き出した。額から垂れて目に入ろうとする汗を制服の裾でゴシゴシと擦る。

 季節は夏。夏休み間近の七月。暑さに気力を根こそぎ持っていかれながらも、僕達は学校に向かって登校する。暑い。

 学校に到着するためには長い坂を登らなければならない。自転車をゆっくりと押しながらゆっくりと坂を登っていく。

「それで、どうして屋久(やく)の事を好きになったんだっけ?」

 暑さのせいで会話も途切れがちだ。隣で僕と同じようにダラダラと自転車を押している陣城(じんじょう)に会話の続きを要求する。こいつ目が死んでるけど大丈夫か。

 舌を動かすのはだるいけど、何も話さずに坂を登ることだけに専念するのは暑さを余計に意識してしまって嫌なのだ。だから恋愛相談に乗ってあげているのに肝心の陣城がこの様子ではまともに会話が成り立たない。

 しばらく僕達の前をゆっくりと進んでいく女子高生の揺れるスカートを眺めていると、ようやく気力が回復したみたいで陣城が口を開いた。

「いや……だからさ。屋久がお前に弁当を作ったり優しくしたりしている所を見ていて、あーこの人いいなー的な」
「なるほどね」

 陣城が好意を寄せているのは僕の幼馴染である屋久終音(やく ついね)だ。幼稚園の頃からの知り合いで、断っているのだが毎日僕に弁当を作って持ってきてくれる。

 いつも長くて綺麗な黒髪を紐で結び、ポニーテールにしている。僕はまるで怪獣の尻尾みたいだ、と屋久に言うのだが他の男子からは好評らしい。陣城に聞いてみたところ「尻尾みたいに揺れるのが可愛いんじゃないか」とのこと。なるほど分からん。

 そんな風に屋久の話をしていると、噂をすれば何とやら。本人がやってきた。自転車を立ち漕ぎしてポニーテールを尻尾のように揺らしながら僕達の所までやってきた。

「おはよう、屋久さん!」

 ぐったりとしていた陣城はその姿を見て急激にテンションを上げ、爽やかな笑みを浮かべながら屋久に手を振る。陣城は黙っていればイケメンなので、その様子は結構さまになっている。

 屋久は自転車から降りると「はふう」と吐息を漏らす。よくもまあ朝からこんな坂を立ち漕ぎで登ってくる元気があるな。とてもじゃないけど僕には真似できないよ。

「おはよう陣城君。ついでに君もね」

 ついで扱いかよ。全く酷い幼馴染もいたもんだ。陣城が屋久に笑顔で挨拶されて喜んでいる。良かったな陣城。だからそのくねくねした動きはやめろ。

 屋久は僕を「ふふん」と鼻で笑うと、自転車のカゴに入っている鞄に手を伸ばして中身を取り出した。出てきたのは青いチェックの模様をしたナフキンに包まれた四角形の箱だ。いったい何が入っているのか皆目検討もつかない。

「はい、今日のお弁当」

 屋久が僕と目を合わせずに箱、もとい弁当箱を渡してきた。おい陣城、羨ましいのは分かるが犬みたいに「グルルルグルルル」変な声を出すな。全く、お昼ご飯なんて食べなくても生きていけるのに、屋久が無理矢理押し付けてくるのだから面倒だ。だけどまあ、せっかくだから今日も貰っておくとしよう。

「ありがとう」

 そう言って貰った弁当箱を僕の鞄の中に入れる。屋久は何故か僕が礼を言うと顔を赤くして視線だけでなく顔まで違う方を向いてしまった。今日はよっぽど機嫌が悪いみたいだ。触らぬ屋久にたたり無し。陣城と屋久を二人っきりにしてあげる為にも、今日は早めに学校へ行くとしよう。

「僕は急用が出来たから先に行くね」

 暑さでふにゃふにゃした身体に喝を入れて、自転車を押して走る。学校へいつもより早く近付いていく代わりに、急激に足に疲れが溜まっていく。後ろから屋久と陣城の叫び声が聞こえたような気がしたけど、それはきっと気のせいだろう。


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