複雑・ファジー小説
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- 空の心は傷付かない【12/18 完結】
- 日時: 2015/12/21 02:26
- 名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: uRukbLsD)
お前が死んだって、僕はなんとも思わない。
——だから、別に死ななくても良かったのに。
※この作品には、暴力的、グロテスクな表現があります。
はじめまして、之ノ乃(ノノノ)と申します。
普段は別のサイトで執筆しているのですが、気分転換にこちらに小説を投稿することにしました。
どうぞ、よろしくお願いします。
ちなみに以前は、別の名前で『俺だけゾンビにならないんだが 』という小説書いてました。
上記の注意書き通り、この小説にはグロテスクな表現が多く含まれています。ご注意ください。
—目次—
プロローグ『アイのかたち』>>1
第一章『常にそこにある日々』>>2->>16
第二章『確約された束縛』 >>17->>24
第三章『反れて転じる』 >>25->>38
第間章『回る想い』 >>39
第四章『終える幕』 >>40->>44
エピローグ『しろいそら』 >>44-45
人物紹介『バラして晒す』 >>46
- Re: 空の心は傷付かない ( No.8 )
- 日時: 2015/10/15 22:54
- 名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: uRukbLsD)
放課後、部活に行く途中の屋久に空のお弁当箱を渡して礼を行った後、僕は学校を出た。学校に残って特にやることもないから帰宅部として帰宅するのだ。
やることはないと言ったけど、数日前にやった模試の国語の成績が悪すぎて担任に補習に参加しろと言われている。だがどうせやったって意味はないと分かりきっているので、参加する事はしない。
定期テストの国語はノートと教科書を見ておけば大体解けるからいいけど、模試だとそうもいかないからなあ。「筆者の心情を書きなさい」とか無理難題にも程がある。他人の気持ちなんて分かる訳がないのに。解ける奴はエスパーかよ、と思う。だけど周りの皆は簡単に解いているから、きっと間違っているのは僕なんだろうな。
今朝登ってきた坂を自転車で勢い良く下っていく。坂の途中には人が落ちないようにガードレールで守られた池がある。それが日光によって水が殆ど蒸発してひび割れた地面が露出していた。空き缶やらお菓子の袋やら普段大量に隠れたゴミも丸見えだ。何故かボロボロになったベビーカーまで落ちている。誰が捨てたんだよあんなもの。
きっとあの池のように人間の心には色々な物が隠れているのだろう。水で隠れていて何があるかは分からないけど。だけど僕には何もない。空っぽだ。何もないからそれを隠すために水を持ってきて中身があるかのように偽装して、周囲を欺いている。周りの真似をして感情があるのだと錯覚させるのはそこそこ骨が折れるけど、普通に生活していくためには仕方ないことだった。
僕にはもう父も母もいない。父は僕が小さい頃に事故で死んでしまった。どんな人だったかは写真でしかしらない。どんな事を思って生きていたのか、僕をどう思っていたのか、写真に写っている彼からは分からなかった。そして母の方はまだ生きているけど、もう元母と言っていいかもしれない。彼女に対して残っている記憶は怒声と痛みだけだ。
父が死んだショックでそうなったのか、元からそういう人間だったのかは分からない。母は僕をサンドバッグ代わりにしてストレスを発散していた。顔を殴られた時の思考が鈍くなって鼻に重い衝撃が走る感覚や、腹を蹴られた時の胃液が喉を迫り上がってくる感覚や、押し付けられた煙草の熱さや、ベランダに放り出されて過ごした夜の寒さは今でも覚えている。
「お前なんか産むんじゃなかった」と僕の存在価値が否定されたからじゃあ死ぬしかないかという結論に至って、小学二年生の頃にベランダから飛び降りて自殺を試みたけど見事に失敗してしてしまったっけ。大した高さも無かったし、ただ足を捻挫しただけだった。
そういえば言い忘れていたけど父と母の他にも僕には家族がいたんだった。僕には妹がいた。あいつも僕と同じように母に暴力を振るわれていたっけ。最初の頃は庇ったりなんかしていた気もするけど、あまり意味のないことだった。僕がいない所で余計に殴られていたみたいだし。家出して幸せになってやるとか言ってたけど、結局あいつが家を出て行くことはなかったな。
まあそんな僕の家族だけど、最終的に僕は父方の祖父の家に引き取られる事になった。ある事がきっかけで母の虐待が明らかになったのだ。今、母がどうしているのかは知らない。祖父や祖母は母については触れないようにしていたし、何より僕自身に興味がない。あの人が生きていようが死んでいようが、特に関心はない。一言で表すならば「どうでもいい」だ。
祖父や祖母は多分僕に愛情を注いでくれたんだと思う。だけどその愛情が入る為の場所が僕には無くて特になんとも思わなかった。僕はもうその頃には空っぽになっていたんだと思う。というか、最初から中身があったのかも今となっては疑わしい限りだ。父が生きていても母に虐待されなくっても、僕は空っぽだったのかもしれない。父と母は多分空っぽでは無かったと思うから、なんで僕があの二人から産まれたのかさっぱり分からない。妹も中身があったみたいだし。
そういえば、その妹が死んだ事がきっかけで母の虐待が明らかになったんだったな。母が灰皿で妹の頭を殴って殺して、それを見た僕が近所の人に助けを求める。そして近所の人が警察を通報し、今までの事も明らかになった。そういうシナリオだ。だけど実際、母は妹を殺してない。妹が死んで自分のせいになって、さぞかしびっくりしただろうな。無実なのに、とありもしない罪悪感を覚える事を妹の墓参りをしている時によくしている。なんで罪悪感を覚えるかって? そりゃあ決まっているだろう。
——僕が妹を殺したから。
あいつを殺して分かったけど、命はとても軽い。誰かが命は地球より重いと言ったけど、命は灰皿よりも軽い。とても簡単に奪われて失われる。だからこそ、今の僕がここにある。僕は人殺しだ。それに僕は妹以外にも人を殺している。だからこそ僕は生きなければならない。最初から死んでいた僕は、殺してきた人の命を『喰らって』今ここに立っている。まあそんな事を言っても、罪悪感も何も感じてないけどね。感動も感慨もないよ。
だから妹を殺した時の感想も。
——どうでもいい、だ。
- Re: 空の心は傷付かない ( No.9 )
- 日時: 2015/10/16 23:14
- 名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: uRukbLsD)
学校から自転車を漕いで三十分。僕は部屋を借りているマンションの自転車置き場に自転車を置いた後、自室へ向かった。高校生に入る時に祖父に頼んで僕はマンションの部屋を借りて貰った。祖父達には悪いのだが一緒に暮らしてあれこれと世話をして貰うよりは一人で生活した方が楽だ。学費や生活費を仕送りして貰っているから、今だって世話にはなっているが。
しかし、せっかく祖父達から逃げてきたというのにマンションのすぐ近くに屋久の家があった。徒歩三分くらいの位置にある。僕が引っ越してきた事を知った屋久は時々僕の家に作った料理の余り物を届けるようになった。僕は何度も断ったのに屋久は止めなかった。それどころか対抗するように毎晩料理を持ってくるようになって、挙句の果てには昼食に弁当を作ってくるようにもなった。
これだけして貰っているのだから定期的に屋久の家にお菓子を持ってお礼にいかなくてはならないし、面倒にも程がある。ご飯なんて適当にコンビニで買って食べるのに。そう屋久に言ったら「そんな事だから君はそんな死んだような目をしているんだよ」と説教されてしまったけど、それは多分元々だ。
勉強机に鞄を置き、ベッドに腰掛けて一息吐く。今日は過去の事を思い出していたせいか頭が重い。制服を脱いで風呂場に向かう。蛇口を捻ってシャワーを浴びる。湯船にはお湯が入っていないため浸かることは出来ない。
僕の身体には昔付けられた傷が残っている。身体を洗いながらその傷を何となく見つめる。この傷を見る度に僕は思うのだ。ああ、まだ生きてるんだなって。
過去に聞いた誰かの言葉が頭を過る。
やはり今日は頭が重い。思考にもやが掛かっているように不明瞭だ。まあいつも不明瞭と言っていいかもしれないけど。
僕はタオルで身体を拭いてから風呂場から出て、学校のジャージを着る。これは体育の授業以外にもパジャマとしての使い道があるから便利だ。
ドライヤーで髪を乾かした後、そのまま自分の部屋に向かう。まあ全てが僕の部屋なんだけど、取り敢えず勉強机やベッドが置いてある部屋は自分の部屋と呼ぶことにしている。
ベッドに横たわり目を瞑る。重い頭を軽くするために仮眠を取ることにした。
『自分がなんで生まれてきたか分かる?』
誰かの言葉。
僕は確か分からないと答えた。
『なんで痛みを感じるのかな?』
誰かの言葉。
僕は生きているからだと答えた。
『なんでこんなに辛いのかな?』
誰かの言葉。
僕は生きているからだと答えた。
『じゃあ、生きている意味なんてあるの?』
誰かの言葉。
僕は答えられなかった。
『ねえ、だったら』
誰かの言葉。
僕は。
『 』
誰かの言葉。
僕は。
僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は。
『ね? ×××××?』
ぼくは、、、?
- Re: 空の心は傷付かない ( No.10 )
- 日時: 2015/10/18 00:28
- 名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: uRukbLsD)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
ピーンポーンというインターホンの音で目を覚ました。何か夢を見ていた気がするけど、意識の覚醒と共にそれは霧散していった。思い出せない。まあ忘れたって事はどうでもいい事なんだろう。まあ僕にとってほぼ全てがどうでもいいんだけどね。
日はすっかりと落ちていた。カーテンの隙間から夜の闇が覗いている。部屋の時計を見ると針は七時半を示していた。それなりの間眠っていたらしい。
僕はベッドから起き上がり、インターホンを確認しに行く。この時間帯で僕に用事があるのは恐らく一人しかいない。
「開けたよ」
マンションの扉を開けてやる。相手は頷くと画面から消えた。
しばらくして扉が開かれた。そういえば鍵は閉めてなかったな。気を付けないと。
陣城は鍵をなくしたらしいけどどうしたんだろう。
「夕飯持ってきたよー」
扉から入ってきた屋久が手にしたタッパーを誇らしげに掲げながら、大きく欠伸をしている僕の所にやってくる。学校で会った時と同じように制服を着ている。ポニーテールが尻尾のように跳ねる。
「今日はカレーだぞー。ご飯とプラスして納豆も持ってきた」
「屋久は好きだね、納豆」
「いや確かに納豆は好きだけど、カレーに納豆は本当に合うんだって! 前に話したけど、騙されたと思って食べてみてよ。君も満足するから!」
何故そうも納豆カレーをプッシュしてくるんだこいつは。
だけどまあ夕飯を用意してくれているのは屋久なので文句を言う訳にも行かない。僕は黙ってカレーとご飯の入ったタッパーと納豆一パックを受け取る。屋久はそれを見て満足気に頷いた。
屋久曰く、納豆はよく混ぜると良いらしい。そしてお好みでソースやチーズを入れると美味しいんだとか。うん、これこそどうでもいい。
「なあ、屋久」
納豆カレーの説明をするだけしてそのまま帰ろうとする屋久の背中に声を掛ける。きょとんとした顔で振り返る彼女。
「弁当作ったり、夕飯作ったりって大変じゃない?」
「ん、なんで?」
「もし僕のせいで貴重な時間を消費しているっていうんだったら、もうやめてくれてもいいんだよ」
「——やめないよ」
屋久は無表情できっぱりと答えた。意見を変える気がないと分かる彼女の態度に、僕はそれでも声を掛ける。
「あのさ、なんで僕にこうしてくれるの?」
「だって君、料理自分で出来ないじゃん」
「料理は出来なくったって食事は出来るよ」
「でもコンビニ弁当ばかりでしょ? 身体に悪いよ」
「……。もし、僕を哀れんでそう言ってるのな
ら」
言葉を言いかけた時、屋久が僕の目の前まで近づいて来る。睨むような上目遣いに思わず僕は口を噤む。息が掛かりそうな程の至近距離で、屋久は宣言した。
「別に君を哀れんでなんかない。これは私が好きでやってるんだからやめない」
「…………」
「それに、約束したから」
そう言うと、今度こそ屋久は僕に背を向けて帰っていった。扉が閉まる音が静かな家に響く。一人になった僕はしばらく立ち尽くしていた。
「……カレー食べるか」
屋久一押しの納豆カレーは、まあ、不味くはなかった。
- Re: 空の心は傷付かない ( No.11 )
- 日時: 2015/10/18 21:07
- 名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: wpgXKApi)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「あ、あの……」
翌日の昼休み。陣城とのランチタイムを終えてから、騒がしい教室から抜けだして校内をブラブラ歩き回っていると岩瀬さん(仮)に声を掛けられた。また何かの罰ゲームかな。俯きがちな岩瀬さん(仮)は僕の視線を受けると硬直し、しばらくするとギギギギと効果音がなりそうな程にぎこちなく僕の顔を見つめ返してくる。
「えっと……ちょ、ちょっと相談に乗ってくれませんか!?」
まるで命が掛かっているかの如く、ずいっと僕に顔を近付けながら鬼気迫る必死な表情で彼女はそう言った。そして僕が返事をするよりも早く顔をトマトの如く赤く染め、二歩程後ろに下がっていく。通りすがっていく生徒達が何事かと僕達の方に視線を向けてくるので、僕は岩瀬さん(仮)の右手を握って人気の少ない校舎裏に連れて行く。
校舎裏にあるのは教員用の駐車場と行事用の道具が入っている物置だけだ。大抵の生徒はこんな場所に興味を示さない。不良漫画で言う「体育館裏にこいや」はこの学校で言うと「校舎裏にこいや」となる訳だ。
「それで、相談って何かな」
休み時間にも限りがあるし、早い所用件を話して欲しい。
岩瀬さん(仮)はまたモジモジしていたけど、その言葉で僕の顔をしっかりと見据えて話をしてきた。
「えっと……私はですね……クラスの女の子に……ちょっとだけなんですけど……苛められているんですよ」
「うん」
「だから……えっと、どうにかしたいって思ってるんです」
「なるほどね」
「だから、その……何か解決法を教えて欲しいなぁって……」
ははーん、なるほどそういう訳か。
……いやいや事情は分かったけど何故それを僕に説明するんだ。昨日ちょっと話しただけで僕と岩瀬さん(仮)は殆ど関わりがないだろう。その辺の男子に相談しておけば良いのに、何故僕なんだろう。疑問が浮かび上がるけど、まあいいか。
「君が苛められている原因は物事をハッキリ言えないからじゃないかな」
「……」
「自分の意見が言えないから他の人はあいつなら何をしてもいいんだって思う。だから君がやりたくないことを他人はするんじゃないかな」
「そう……かもしれません」
今言った台詞のほとんどは少し前に読んだ小説の台詞だ。どんなキャラが誰に言っていたのかはもう曖昧だけど、多分台詞はこんな感じだったと思う。
岩瀬さん(仮)は「なるほど……」と頷いている。
「自分の中に意見があるくせにそれを他人に言わず、そのくせ不満だけは心の中に貯め込んで。言いたいことがあるのなら言えばいいのに」
自分でも何故そんな事を言ったのか分からなかった。喋り過ぎたと思った。
岩瀬さん(仮)はその言葉に目を潤ませ泣きそうになっていた。けれど僕には慰めるつもりはない。休み時間の終わりも近付いてきているし、早く教室に帰りたかったからだ。
「それじゃあ、僕はもう教室に帰るね」
彼女に背を向け歩き出そうとすると、後ろから制服の裾を掴まれた。
「えっと……。相談にのってくれてありがとうございました。私、頑張ろうと思います」
「力になれたなら良かったよ」
そう言って背を向けて歩き出そうとするとまた後ろから制服の裾を掴まれた。
「えっと……携帯って持ってますか?」
「一応持っているけど」
登録している人なんて屋久と陣城、その他数人だけだ。祖父祖母は携帯は持っていない。たまに電話を掛けてくる。
「だったら、メアド交換しませんか?」
こうして今日、僕の携帯に新しいメールアドレスが登録されたのだった。連絡帳には全員フルネームで登録しているけど、この子の名前は分からないので岩瀬さん(仮)で登録しておいた。
こうして昼休みは岩瀬さん(仮)の相談に乗り(乗れた気がしないが)終わった。
岩瀬さん(仮)は僕の言葉、じゃなくて小説の言葉から何かを得ることが出来たようで、何かを頑張ってみると言っていた。よく分からないけど頑張ればいいんじゃないかな。
小説と同じ展開になって、同じ台詞を彼女に語った。
だったら僕はその先の展開も分かっていたはずなのに。
- Re: 空の心は傷付かない ( No.12 )
- 日時: 2015/10/19 14:06
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 3rsK9oI3)
始めまして 之ノ乃様、二次(映像)とファジーで書いてる駄文士、風死です。
ゾンビのほうも読ませてもらっています。
岩瀬さん(仮)という発想が素敵ですね。
ところどころに共感できる小ネタがあったり、軽く重要そうなネタが流されてたり面白いなと思います。
今後の物語の膨らみに期待です。
更新頑張ってください。