複雑・ファジー小説

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空の心は傷付かない【12/18 完結】
日時: 2015/12/21 02:26
名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: uRukbLsD)

 お前が死んだって、僕はなんとも思わない。

 
 ——だから、別に死ななくても良かったのに。



※この作品には、暴力的、グロテスクな表現があります。


はじめまして、之ノ乃(ノノノ)と申します。
普段は別のサイトで執筆しているのですが、気分転換にこちらに小説を投稿することにしました。
どうぞ、よろしくお願いします。

ちなみに以前は、別の名前で『俺だけゾンビにならないんだが 』という小説書いてました。

上記の注意書き通り、この小説にはグロテスクな表現が多く含まれています。ご注意ください。


—目次—

プロローグ『アイのかたち』>>1
第一章『常にそこにある日々』>>2->>16
第二章『確約された束縛』 >>17->>24
第三章『反れて転じる』 >>25->>38
第間章『回る想い』    >>39
第四章『終える幕』    >>40->>44
エピローグ『しろいそら』 >>44-45

人物紹介『バラして晒す』  >>46

Re: 空の心は傷付かない ( No.18 )
日時: 2015/10/23 18:09
名前: キャッツアイ (ID: Z5cmkimI)

長編の力作、楽しんで読ませてもらってます(^^)

(コメントしてよかったのかちょっと不安ですが、もしダメでしたら消してくださいね。

Re: 空の心は傷付かない ( No.19 )
日時: 2015/10/23 19:50
名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: wpgXKApi)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

>>18

感想ありがとうございます。
だいたい八万文字くらいの作品なので、楽しんで頂けれれば嬉しく思います。

いえいえ、全然だいじょうぶですよ。
むしろありがたいです。

Re: 空の心は傷付かない ( No.20 )
日時: 2015/10/25 01:23
名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: wpgXKApi)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

 昼休み。
 さて、昼食だと鞄から弁当を取り出そうとして、今日の分の弁当を屋久から貰っていない事に気が付いた。いつもは朝とか遅くても二限目くらいに私に来るんだけどな。今日は朝から一度も屋久と顔を合わせていない。屋久が弁当を持ってきてくれなかった理由は何だろう。作り忘れた? 


「おいっすー」

 教室に入ってきた陣城が気の抜けた挨拶をしてくるけど、僕は昼食をどうした物かと頭を悩ませていた。まあ一食ぐらい食べなくてもどうという事はないから良いんだけどさ。

「何、お前今日弁当は?」

 僕の悩み事をピンポイントで撃ち抜いてくる陣城。ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて僕にコロッケパンを見せつけてくる。奪い取って食べてやろうかと考えたけど、そこまでコロッケパンを食べたい気分でもないのでやめておいてやった。

「なんだよ、お弁当作ってきて貰えなかったのか?」
「というか、朝から屋久に会ってないんだよ。いつもなら教室に来るんだけど、今日は来なかった」
「じゃあ自分から行けばいいのに」
「そんな発想が存在していたとは」

 盲点だった。いつも屋久が私に来るから、自分で取りに行くという考えが思いつかなかった。

 「あいつが好きで僕に渡してるんだから、僕が取りに行く必要はない」とか言ったら正真正銘の屑になりそうなのは考えなしの僕でも分かったので、口にする事はない。
 教室の隅で一人で弁当を食べている岩瀬さん(仮)がチラリと視線を向けてきたので、にこやかに笑って手を振る。すると彼女はいつもの様に顔を真赤にして顔を逸らしてしまった。

「何今の」
「僕の笑みには彼女の顔を熟したトマトにする能力があるのかもしれない」
「馬鹿だろ」
「…………」
「はぁ。なんで屋久さんはお前なんかに……うきぃぃ」

 猿の様に喚く陣城を視線から外し、僕は『なんで屋久さんはお前なんかに』という彼の言葉について考えた。
 屋久が僕に色々と世話をしてくれるのは、いつだったかも忘れた遠い昔に、彼女が一方的に僕にしてきた約束が原因だと思う。そんな約束、律儀に守る必要なんてないのに。僕が何を言っても屋久はその約束を破ろうとはしなかった。彼女の中でそれは勝手に確約され、その行動を束縛している。

 だから、僕は少し期待したのだ。彼女がようやくその束縛を解いて、自由になったのではないかと。と言っても、どう行動するかは彼女の自由だから、僕はどうでもいいんだけど。
 と、そんな風に思考する振りをしていると、教室の扉を開けて誰かが入ってきた。教室に誰かが入ってくるのは当たり前なのでいつもは気にしないのだが、入ってきた誰かが真っ直ぐに僕達の方へ歩を進めてきたので、そちらに視線を向けた。

「…………」

 教室に入ってきたのは屋久だった。手にはいつもの弁当箱が握られている。
「やっ、陣城君。と、ついでにそこの君」

 ついで扱いとは、相変わらず酷い幼馴染だ。
 と、そこで僕は屋久の顔を正面から見て、違和感を覚えた。
  笑ってはいるものの、態度がいつもより不機嫌で、何だか眉間に皺が寄っていたような気がする

 屋久は弁当箱を僕の机の上に置く。その時の態度から、もしかしたら、万に一つの可能性で、彼女は不機嫌なのではないか、と思った。相手の心が分からない僕だけど、ある程度付き合いがある屋久の事なら、もしかしたら少しは分かるかもしれない。
 だけど何故屋久は不機嫌なのだろうか。その理由が思いつかない。僕は屋久の癇に障る様な事をした覚えはないのだが……。
 ……覚えてないだけで沢山している可能性は、正直否定出来ないけど。正直どころか、余裕で否定出来ないんだけど……。
 笑ってはいるものの、態度がいつもより不機嫌で、何だか眉間に皺が寄っていたような気がする。

「ああ、そうだ久次君。後でちょっとメール送るから、ちゃんと見ておいてね」

 屋久は弁当を置いて、それだけ言うと帰って行ってしまった。ポニーテールを揺らす後ろ姿が特撮の怪獣の様だ、なんていう感想はどうでもいいんだけど、メールって何だろう。

「何だよ、結局弁当持ってきてくれたのかよ。うぎぎぃ」

 屋久が来たことで猿化が解けた陣城だったが、屋久が去っていったことで再び猿化してしまった。陣城が猿化しても戦闘力が十倍とかになったりはしないけど、うざさは十倍くらいになっていると思う。勘弁して下さい。

「それにしても、屋久さん不機嫌だったな。お前何かしたのか?」
「……分からない」

 僕が苦心して観察しても、確信に至らなかった屋久の機嫌を、僕よりも彼女との付き合いが短いはずの陣城は容易く見抜いていた。陣城に負けたからといって——というか勝ち負けではないけど——僕まで不機嫌になったりはしないけど、何だか複雑な気分になった……様な気がした。

Re: 空の心は傷付かない ( No.21 )
日時: 2015/10/25 22:40
名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: wpgXKApi)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


 屋久の言っていたメールは僕が下校して自分の部屋で一息付いた頃に送られてきた。
 迷惑メールじゃないメールがこんなにも連続して送られてくるのは珍しい。『夫がアリクイに殺された』とか『タイムスリップしてきた織田信長です』とかいう訳のわからないメールばかりがスマホに送られてくるのはスマホを買ってくれた祖父達に申し訳ないような気がするので、普通のメールが来るのはありがたい。

 メールは『ちょっと早いけど、六時頃にファミレスに行かない(*´Д`)?』といった内容だった。僕は今夜に何が予定は入ってないか、と深く考える振りをしてから、『いいよ(´・ω・`)』と返信した。考えるまでもなく何も予定なんて入ってない。

 今どきの人達はメールに顔文字や(笑)とかを入れるけど、あれチカチカしてあんまり好きじゃないんだよな。何も付けずにメールを送っていたら屋久から「何か怒ってるみたいで怖いから、顔文字とか付けなさい」と怒られてしまったので、それ以来顔文字を入れるようにしている。変換で出てくる数種類を使い回してるだけだけど。……何だか時代に取り残された老人みたいだな。

 時計を見れば、いつの間にか五時半を過ぎていた。屋久が指定してきたファミレスには歩いて十分くらいで付くからまだ間に合うけど、遅れると屋久が起こりそうなので早めに出たほうが良さそうだ。
 制服を脱いでハンガーに掛け、ジーパンと適当なシャツを着て部屋を出た。

 部屋を出た瞬間にむわっとした熱気が体にまとわり付いてくる。日中よりは気温が下がっているとはいえ、まだかなり熱い。
 屋久とはファミレスの前で待ち合わせをしているけど、家がすぐ近くなんだから一緒に行けばいいのに。何で別々で行く必要があるんだろう。昔から屋久にはよく分からない所がある。まあそれを言ったら僕は一体誰の事なら分かっているんだって話になるけどさ。誰の事も分かってないし。

 自分の事ですら分からないのに、他の人の事が分かる訳がない。
 分かろうと思ったことなんて、ただの一度もないけどね。
 フラフラと歩いていると、目的のファミレスに到着した。
 屋根はピンク色、壁は黄色という派手な外装が特徴的だ。
 以前、一度だけ舎仁に連れられて来たことがある。その時にメニューが豊富で美味しく、その割に安いという学生にはありがたいお店だと、舎仁が説明してくれた。まあ、舎仁は僕に奢らせるつもりだったらしいんだけど、僕は自分の分すら足りなくて逆に奢って貰ったっけ。その時の舎仁はやけに引き攣った笑みを浮かべて「……流石先輩です」と言っていたけど、何が流石なのか今だに分かっていない。
 現在時刻をスマホで確認すると、五時五十分だった。
 太陽は完全に沈みきっておらず、まだ西の空の下の方に居座っている。薄暗くなった街が橙色に染められていて、眺めていると何だか眠たくなってくる。

 親子が手を繋ぎながらファミレスに入っていくのを視界の端で捉えていると、首筋に生暖かい息が吹きかけれれた。振り向くと屋久が、顔を僕の首元にずいっと近付けて立っていた。

「もっとリアクション取ってくれないとつまらないよ」

 無表情で振り返った僕が気に入らないのか、屋久が頬を膨らませた。そんな事を言われても困る。僕が「うわあああッ!?」って驚いたら屋久の方が驚くだろうし。
 一歩後ろに下がり、屋久から距離を取る。
 屋久も制服から私服に着替えていた。
 水色の服に黒いズボンを着て、茶色の靴を履いている。

「……あのさ、今心の中で凄い適当に私の服装描写しなかった?」
「エスパー?」

 あのねぇ、と屋久は目を吊り上げる。

「上はミニワンピース。下はショートパンツ。あとブラウンのブーツ」

 自分の服を指さしながら説明してくれる屋久。何をムキになっているんだ。

「もう……せっかく私服着てきたんだから、そんなリアクション取ったら駄目でしょ。あと君の私服、最悪。今度一緒に買いに行ってあげるから」
「最悪って……。しょうがないだろ。僕は衣類に関して一部の知識しか持ち合わせてないんだから」
「一部でも知識を持ってる事がびっくりよ……。どんな知識を持っているっていうの?」
「そうだね……。僕が知っている衣類は、フルバック、タンガ、Tバック、ソング、ガーターベルト、ブラジリアン、ガードル、Gストリング、Cストリング、ビスチェ、ペチコート、ローレグ、ハイレグ、ビキニ、ローライズ、ボーイレッグ、ユニセックス、バンドルショーツ、サスペンダーショーツ、スキャンティ、リオカット、後はブルマくらいか」
「ぜ……全部パンツじゃん!?」
「ブルマはパンツじゃないよ」
「どうでもいいよそんなことっ!!」
「どうでもよくない!!」
「いつからそんなキャラになっちゃったの!? なんか気持ち悪いよ!?」
「…………」

 屋久が僕から距離を取って、今まで見たこのもないような顔で僕を見てくる。何でだろう。分からない。分からないけど、何だかこれ以上は言っちゃいけない気がするので、もう屋久にこの話をするのはやめておこう。

「ほら、いつまでも店の前に立ってる訳にはいかないし、中に入ろう」
「君が変な事言うからでしょ……」

Re: 空の心は傷付かない ( No.22 )
日時: 2015/10/27 00:16
名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: wpgXKApi)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


僕が店内に入ると、屋久は若干距離を取りながら後ろから付いてくる。この距離感は初めてだ……。
 店員に案内されて僕達は席に座る。向かいに座る屋久の目が何だか冷たい。店内も冷房が効いていて冷たい。
 微妙に余所余所しい屋久に促されて、メニューを決める。僕が選んだのはチーズハンバーグ。屋久はサラダセットというヘルシーなメニューを選んでいた。ピンポンする奴をピンポンして店員を呼んで注文する。

「それで、今日は急にどうしたの?」

 注文を取り終わった店員が去っていったのを確認して、僕は屋久に用件を聞いた。

「んー。用件っていう程でもないんだけどさ、久しぶりに二人で話してみたくなったんだ。最近はこうやって二人だけで会うことってないでしょ?」
「まあ、そうだね。最後に屋久とこうやってご飯食べたのもかなり前だし」

 そこで屋久はむー、と拗ねたように上目遣いで僕を睨んでくる。

「どうしたの」
「いや、最近は名前を読んでくれないなって思って」
「屋久だって僕の事君って呼んでるじゃないか」
「そーだけど……」
 唇を尖らせる屋久。
「分かったよ、オワ」
「……くぅ君」

 久次空と屋久終音。
 くぅ君とオワ。

 くぅ君の方は空から、オワの方は終から来ている。
 両方共、屋久が決めて、ある日こう呼び合うように、と言ってきたんだ。

 昔、互いに使っていた呼び名だ。前までは当たり前に使っていたけれど、高校に入ってからは殆ど使うことはなくなった。どっちが先に使わなくなったかは覚えていない。

「えへへ、なんか照れくさいね」
「……」

 店員が置いていったお冷を手に乗って、渇いた喉を潤す。カラカラと氷が音をたてた。

「すごい久しぶりに聞いた気がするなー」
「こうやって二人だけで話す機会があんまりないしね。高校の中であだ名を呼び合う訳にもいかないし」
「んー、そうだね。でもくぅ君が『毎日一緒にご飯食べたい』っていうなら、食べてあげてもいいよ? お昼とか夕飯とか」
「遠慮しとくよ。ただでさえ噂されてるのに、そんな事したら余計に騒がれるよ」
「私と噂されるのはいや?」
「……というか面倒だろ。僕はクラスで静かに過ごしていたいんだ」

 僕がそう言うと、屋久が目を細めた。

「静かに過ごす、で思い出したけどさ、くぅ君、昨日放課後に教室でクラスの女の子達の何かやってたみたいだね?」

 首を小さく傾ける屋久の仕草はまるで猫みたいだと思った。

「ちょっとしりとり大会をしてたんだ」
「嘘つき。くぅ君にしりとりする様な友達いないでしょ」
「…………」

 舎仁ならしてくれるし。

「それにそこにいた私の友達が話し聞いてたから、少しだけど内容は知ってるよ」
「盗み聞きとはちょっと趣味が悪いんじゃないかな」
「くぅ君と話してた……有沢さんとか結構大きな声で喋ってたみたいだし、聞こえてきちゃったみたいだから仕方ないと思うよ」
「………」
「珍しいよね。くぅ君が表立ってクラスの人と対立するなんて」
「別に。対立したつもりはないよ。ただの成り行き」
「イジメられてた女の子を庇って、対立するのが成り行きなの?」
 教室の前で聞いていたという、屋久の友人は一体どこまで話を聞いていたのだろう。それなりに事情を知られてそうだ。
「その女の子って、くぅ君とはただのクラスメイトってだけなんでしょ? えっと……なんて名前の子だっけ」
「岩瀬さん」
「……そんな名前だっけ?」

 ……やっぱり岩瀬じゃないのかな。

「まあいいや。どうして、くぅ君がその子を庇ったりなんかしたの?」
「教室に課題を取りに行ったら、女子達がゴタゴタしてて、それに巻き込まれたんだよ。そこで彼女がイジメられるのはいやだって言ってたから、ちょっと注意しただけ」

 自分で言っていても、言い訳だと分かる言い訳だった。

「いつものくぅ君だったら、どうでもいいって言って切り捨ててるでしょ?」
「……」
「なんで庇ったか当ててあげようか? 岩瀬さん……あの女の子が君の妹に似てたからでしょ?」

 僕の妹。
 僕が殺した妹。
 久次心。

 確かに。
 確かに岩瀬さん(仮)は心に似ているかもしれない。

「……ごめん。意地悪した」

 僕の沈黙をどう取ったのか、屋久が謝ってきた。謝られる様な事はされていないけど、取り敢えず「いいよ」と返しておいた。
 そうこうしている内に頼んでいた料理が運ばれてきた。鉄板に乗ったハンバーグとライスが目の前に置かれる。屋久にはサラダセットが。見た目も凄くヘルシー。

「じゃあ、食べよっか」
「……うん」

 しばらくの間、お互いに黙って料理を口に運ぶ。

「オワ」
「ん?」
「今度またハンバーグ作ってよ」
「どうして?」
「今食べてるのより、屋久のハンバーグの方が美味しいからね」

 屋久が箸を動かす手を止めて、顔を俯かせながら「分かった」と呟いた。その拍子にポニーテールが尻尾の様に跳ねる。

「オワさ、ちょっと髪解いてみてよ」
「? 分かった」

 屋久が髪を解く。尻尾の様に束ねられていた髪が滝のように広がる。

「何なのさ……」

 ポリポリと頬を掻きながらこちらを伺ってくる屋久。最近はポニーテールの姿ばかり見ていたから何だか新鮮だ。

「いや、ポニーテールよりも髪解いたほうが僕は似合ってるなって思ってさ」
「……もう。くぅ君はそんな事を真顔で言ってきて……ずるいよ」
「?」

 何がずるいのかを考えている間に、屋久が髪を元に戻してしまった。

「もったいない」
「また今度見せてあげるから……ほら、食べよ」

 屋久に促されて、再び手を動かす。
 またしばらく、お互いに黙って食べる。

「そういえばオワ。今日朝、なんで不機嫌だったの?」

 ハンバーグを食べ終え、残りはライスのみ。僕は手を止め、屋久に話し掛けた。

「内緒」
「ふぅん。てっきり僕は、毎日料理作ってくるのが面倒になったのかと思った」
「馬鹿。そんな訳ないよ。あれは私が好きでやってるんだし」

 約束だから、と屋久は言った。

 約束——。
確約された束縛——。

 彼女が一方的にしたこの約束。
 それは確か、僕の妹が死んで、母親が逮捕されて、すぐに交わされた物だったと思う。


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