複雑・ファジー小説
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- 心を鬼にして
- 日時: 2016/11/03 22:09
- 名前: 凜太郎 (ID: uzSa1/Mq)
心に強い信念を持ち、だいじなもの、守りたいものをもつ者。
その者たちは、心に、≪鬼≫を持つと言われている。
その≪鬼≫を退治し、人間界を暗くさせようとする男、≪桃太郎≫とその一行
今宵、鬼と桃太郎との戦いが始まる
さぁ、心を鬼にして。
−−−
初めましてか何度目まして、凛太郎です
今日から書いていく作品は、鬼とか桃太郎とか、超有名昔話「桃太郎」の世界観を多少モチーフにしたバトル物の作品です
バトル物は今まであまり書かなかったので、ぎこちない部分があるかもしれません
でも、楽しんで読んでいただけるよう精一杯頑張ります
それでは、よろしくお願いします
目次
第1話「燃えろ熱血!赤鬼誕生」>>001>>002>>003>>004
第2話「冷静沈着?青鬼誕生」>>005>>006>>007>>008
第3話「一緒に戦えない?青鬼の秘密」>>009>>010>>011>>012
第4話「青鬼の復帰!始動する期末テスト」>>013>>014>>015>>016
第5話「先輩の夢を叶えよう!県大会の始まりだ!」>>017>>018>>019>>020
第6話「魔の修了式!赤鬼、新しい力!」>>021>>022>>023>>024
第7話「鬼と人の絆?青鬼、新しい力!」>>025>>026>>027>>028
第8話「夏だ!海だ!合宿だ!サッカー部地獄の合宿開始!」>>029>>030>>031>>032
第9話「正体がばれちゃう!?鬼の決断!」>>033>>034>>035>>036
第10話「先輩の信念!緑鬼誕生」>>037>>038>>039>>040
第11話「夏の出会い!8月に咲く恋の花」>>041>>042>>043
- Re: 心を鬼にして ( No.39 )
- 日時: 2016/10/30 22:15
- 名前: 凜太郎 (ID: uzSa1/Mq)
第10話「先輩の信念!緑鬼誕生」3
俺たちが黙ってしまい、静寂が流れていた時、突然空が紺色に染まる。
咄嗟に顔を上げると、そこには電柱のような形をしたダゴビキがいた。
「ダゴビキ?黒い鬼じゃないのか?」
氷空はそう言いつつ立ち上がり、すぐに左手を構えた。
その時、俺はブランコに少女がいたことを思い出し視線を向けるが、そこには誰もいない。
もう帰ったのか……良かった。
「龍斗なにやってんだ。さっさと倒すぞ」
すでに変身した氷空は、そう言って拳銃を抜く。
俺はそれに頷き、立ち上がり、変身した。
その時、先輩が「あれは、夢じゃ……なかったのか……」と声を漏らしたのが分かった。
「先輩……少しだけ、待っていてください。あの化け物を、倒してくるので」
「だったら俺も」
「先輩は!そこで、見ていてください。大丈夫です。俺達強いですから」
笑顔で言って見せると、先輩は困惑した様子で瞳を揺らがせた。
俺は先輩の肩を押して、無理矢理座らせると、まっすぐダゴビキを睨んだ。
「先輩には、指一本触れさせない!」
叫び、強く踏み込み、一気に距離を詰める。
そして、ダゴビキを思い切りぶん殴り、さらにそこから回し蹴りを喰らわせた。
電柱ダゴビキが地面に倒れ込んだのを確認しつつ、俺は刀を抜いた。
「でりゃあああああああああああああッ!」
刀に炎を纏わせ、切りかかる。
すると、何かを切り裂いた手ごたえを確かに感じ、俺はすぐに刀をしまってバックステップで距離を取る。
「早いなぁ……僕やることなかったじゃん」
「へへっ、つい、な」
そう言って鼻の下を擦った時、氷空の背後にダゴビキが起き上がってくるのが見えた。
「氷空、後ろ!」
「ッ!?」
咄嗟に横に氷空が飛んだ数瞬後、そこに深々と石柱のようなものが突き刺さる。
顔を上げると、そこには腕を電柱に変えたダゴビキがいた。
「まさか、効かなかったのか!?」
「龍斗!一昨日やった合体技だ!」
氷空はそう言って拳銃を構えた。
俺はそれに頷き、刀を構える。
そして、氷空が撃った青い双龍を刀にまとわせ、青い炎にし、一気にダゴビキに切りかかる。
しかし、刀が当たるほんの少し前で横から石柱で殴られ、俺は地面を跳ねた。
「龍斗ッ!クッ……」
氷空がすぐに拳銃を構えるが、そこに石柱が振るわれ、氷空の華奢な体が吹っ飛ぶ。
俺はフラフラと立ち上がり、電柱ダゴビキを睨む。
「龍斗……氷空……」
顔を青ざめさせながら、先輩が近づいてくる。
来ないで、と言おうとしたが、立っているだけでギリギリな状態では声なんて出ない。
「せん……ぱ……」
「酷い怪我じゃないか……こんな怪我してまで、お前らは戦うのか……」
そう言って唇を噛みしめると、先輩はまっすぐダゴビキを睨んだ。
すると、彼はゆっくりと歩き、ちょうど俺と氷空を守るように、俺の前に立つ。
そして、両手を広げ、凛とした声で言った。
「これ以上、俺の後輩に手は出させない」
「先輩!逃げてください!このままじゃ……」
「俺は二度と!大切なチームメイトは失いたくない!たとえこの命尽きようとも!俺は、仲間を守る!」
その時、突然先輩の体を竜巻が包み込んだ。
しばらくして、竜巻が消えると、そこには緑色の服に、鮮やかな黄緑色の髪、額からは緑色の角を生やした、鬼が一人、そこにいた。
- Re: 心を鬼にして ( No.40 )
- 日時: 2016/10/31 22:09
- 名前: 凜太郎 (ID: uzSa1/Mq)
第10話「先輩の信念!緑鬼誕生」4
「うおーなんだこれ」
俺は自分の服装を眺めながら、なんとなく呟いた。
いやー、風に包まれたと思ったらこんな格好になるとは。人生、何が起こるか分からないね。
「センパッ……前!」
その時、氷空がそう叫んだのが聴こえた。
顔を上げ化け物を見ると、すでに石柱のような腕を振り下ろし、俺に殴りかかる勢いだった。
「先輩!」
「うおっと……」
とりあえず、横に跳んでそれをかわす。
すると、軽く跳んだだけなのに、横に跳びすぎてそのまま公園の端のフェンスにぶつかった。
「いっ……たくねぇな、これくらい!」
思いのほか痛くなかったのですぐに立ち上がり、一気に走って化け物との距離を詰める。
その時、横から電柱が思い切り振られるが、それを跳んでかわす。おぉ、大分感覚が分かってきた!
そのままクルリと空中で回転した俺は、化け物に思い切りかかと落としを喰らわせた。
「これで一丁上がりか?」
「まだだミド!」
一人で呟いた言葉に、急に目の前に現れた緑色の小さな鬼が言う。
「うお!なんだこの鬼!」
俺が叫ぶと、鬼は「それどころじゃないミド!」と言って、化け物に視線を向けた。
「あのダゴビキへの怒りを、その薙刀に込めて技を放つミド!」
「ダゴビキって何だよ!?っていうか、薙刀って……これか」
背中に何か棒のようなものが背負ってあったので、取ってみると、それは薙刀だった。
長い棒の先に、短い刃がキラリと光る。
俺は、倒れる後輩二人を見て、フゥ、と息をつく。
「俺の後輩を傷つけた罪、償ってもらう!」
薙刀を構え、強く踏み込み、一気に化け物との距離を詰める。
薙刀の刃先にかまいたちのような風が纏われるのを見て、強く握りしめる。
そして、化け物を斬ろうとした瞬間、目の前から化け物が消える。
「なっ!?」
「上っ……」
龍斗の言葉に、俺はすぐに顔を上げた。
そこでは、どういう跳躍力をしているのか、化け物が俺の頭上にいた。
そして、空振った薙刀は空気の流れを切り裂き、空中に僅かにつむじ風が起きていた。
「そうだっ!」
俺は強引に体を捻り、そのつむじ風に風を集めるようにして、やがて風の球を作ることができた。
そして、まだ空中にいる化け物を睨む。
「いっけえええええええッ!」
風の球を蹴り上げると、それは空高く昇っていき、やがてそれは化け物の体にぶち当たる。
中には、俺の薙刀に纏われていたかまいたちも入っていたようで、化け物の体は八つ裂きになって、消えていった。
「ふぃー……あっ、龍斗、氷空、大丈夫か!?」
俺はすぐに二人の元に駆けよったが、二人は何かを呟いて変身を解くと、怪我はまるで無かったことのように治り、普通に立ち上がってしまった。
それを見て唖然としていると、龍斗が「あ、そっか」と言った。
「先輩は変身できるようになったばかりだから分からないんですね。鬼は外、服は内って言うと、変身は解けるんです」
「お、鬼は外服は内……?」
龍斗の言葉を復唱すると、俺の服は風になって消え、元の服に戻っていた。
「おぉ……」
「……と、まぁ、先ほどのが桃太郎一行のダゴビキという化け物です」
変身が解けたことに驚いている俺に、氷空はそう言って目を逸らした。
「なんで目を逸らすんだ?」
「だって、やっぱり先輩をこの戦いに巻き込むのはどうかなって……」
氷空の言葉に、俺はわざとらしくため息をついてから、彼と龍斗の額を思い切り人差し指で突いた。
それに二人は驚いた様子で俺を見るので、俺は笑って見せた。
「水臭いじゃねぇか。自分が戦ってるくせに、俺は安全なところで見てろって?」
「それは……」
「俺は、一緒に戦いてえ。たとえ、この鬼の力がなかったとしても」
俺の言葉を聞いた二人は顔を見合わせ、俺の顔を見た。
やがて、氷空は諦めたように頷き、龍斗は目を輝かせた。
「やったぁ!先輩と一緒に戦える!」
「ははっ!そんなに嬉しいか。俺も嬉しいぞ!」
俺はそう言いつつ、龍斗の頭をわしゃわしゃと撫でた。
そして左手で氷空の肩に手を置き、笑って見せた。
「今日からよろしくな!氷空、龍斗」
俺の言葉に、二人は大きく頷いた。
こうして、俺は二人と一緒に戦うことになった。
- Re: 心を鬼にして ( No.41 )
- 日時: 2016/11/01 21:47
- 名前: 凜太郎 (ID: uzSa1/Mq)
第11話「夏の出会い!8月に咲く恋の花!?」
「でりゃあああああああああああああッ!」
青い炎を纏った刀で、俺はダゴビキを切り裂いた。
空が紺色から綺麗な青色に戻るのを確認し、俺は変身を解いた。
「部活直後に来るってのは予想外だったな」
「そうですね……キモンやクドツが来るわけでもないですし」
緑川先輩と氷空の会話に、俺は首を傾げる。
「何の話だ?部活直後くらいに来るのは初めてじゃないぞ。俺が鬼になった時は、部活終わりのグランド整備の時だし」
「うーん……どっちかと言うと、時間とかタイミングよりも敵がダゴビキ以外現れないのが気になるんだよね、僕は」
俺の言葉に、氷空は苦笑いしながらそう言った。
緑川先輩もそれに頷く。
「今まで赤い髪の奴や、黄色い髪の奴らが来てただろ?最近、来なくなってからダゴビキ?とやらも強くなったみたいだし、何か裏があると思うんだよなぁ……」
考えすぎだと思うけどな、俺は。
「じゃあさ、3人でダゴビキの原因探しするってのはどうだ?」
「あー……ごめん。僕これから陽菜のお見舞い」
俺の誘いを断りながら、氷空は鞄を背負った。
それに「えー」と俺が不満そうな声を上げると、緑川先輩も「実は俺も用事が……」と言った。
「用事って?」
「康平と勉強会。まぁ、俺は俺でそれっぽい奴見つけたら相手しとくから。何かあったらミドリが連絡役をしてくれるさ」
「任せるミド!」
先輩の言葉に、緑色の鬼がえっへんと胸を張る。
氷空と違って先輩は鬼とすぐ仲良くできたんだなぁ、と思い、なんとなく氷空に顔を向けると、不思議そうに首を傾げてきた。
「じゃあ、また明日の練習で」
「おう。またなー。先輩さようなら!」
「おう。またな」
そんな会話をしつつ、俺たちはそれぞれ帰路についた。
−−−
「次々にダゴビキを発動させているのは、やはりジーケだろうか」
街の様子が見られる鏡を見ながら言ったクドツの言葉に、キモンは「多分な」と答える。
「こっちには全然来ないのに、ダゴビキを出しては負けるって……っていうか、本当に強いのか?コイツは」
「いや、この感じ……まだ遊んでいるような感じがする。桃太郎様があれだけ評価する幹部だぞ?それがこの程度の実力なわけが……」
クドツの呟きを嚙みしめるように脳内で反芻させたキモンは、やがて小さく息を呑んだ。
「まさかコイツ……遊んでる?」
「……フンッ。ガキだからって油断しているんだろ。俺は知らん」
クドツはそう言うとソファに仰向けに横になり、やがてぼやくように言った。
「もしもこのまま負け続けるなら、全員まとめてクビにされるだけだ」
その声は、微かに震えていた。
- Re: 心を鬼にして ( No.42 )
- 日時: 2016/11/02 17:50
- 名前: 凜太郎 (ID: uzSa1/Mq)
第11話「夏の出会い!8月に咲く恋の花!?」2
陽炎揺らぐ炎天下。
俺は一人、部活の荷物が入ったカバンを背負い鼻歌を歌いながら帰路をテクテク歩いていた。
「ダ〜ゴビッキの〜犯人どっか〜にお〜らんかね〜♪」
適当に作った歌を歌いながら、俺は右手の人差し指と親指の先をくっつけて丸を作り、それを右目に当てた。
そして左目を閉じて、辺りを軽く見渡す。
こんなことをしても見つからないのは分かっているが……気持ちの問題だ。
「ん?」
そこで、俺はかなり離れた距離の所に見覚えのある少女を見つけた。
華奢な体に、背中まで伸びた長い青髪。
少し考えて、以前、緑川先輩が覚醒した時に公園にいた少女であることに気付いた。
ダゴビキの戦闘に巻き込まれてはいないとは分かっていたが、元気そうで何よりだ。
実は少しだけ気になってたんだよね〜。もしかしたら怪我とかしてたんじゃないかって。
ダゴビキは急に現れたし、もしかしたら公園に来る前に攻撃されている可能性もなくはなかったからね〜。
良かった良かった。
「……おっと?」
そう思いながらもう一度丸を作った右手を覗くと、唐突に少女の体は揺らぎ、やがてその場に倒れてしまった。
「……」
俺はしばらく足を止め、一考する。
これは。つまり。非常事態?
「うわぁぁぁぁああああッ!?」
俺は焦る。
こういう時、どうすれば良いのかなんて分からない。
咄嗟に俺は少女に駆け寄り、彼女の体を抱き起す。
彼女は汗を流し、「うぅ……」と声を漏らした。
ええい!これは非常事態だ!
俺は少女の華奢な体を抱き上げ、すぐに近くにあった木陰にあるベンチに向かった。
さて、ひとまずベンチに腰掛け、俺のカバンを枕替わりに寝させたのは良いが、これからどうすればいいのかが分からない。
救急車か?いや、流石にそれは大げさかもしれないし……いやいや!大袈裟でも命にかかわる可能性もある!
俺はスマホで119番に電話をかけ、なんとかたどたどしく要件を伝えた。
しかし、救急車が来るまで何もしないべきだろうか?
少し考えた末に、俺は氷空に電話をかけた。
『プルルルル……———プルルルル……———』
……だめだ、かからない。
そういえば、アイツ今病院にいるんだっけ。
俺は唇を噛みしめ、次に先輩に電話をかけた。
『プルルルル……———プルルルル……———』
クソッ!こっちもか!
いや、先輩だって康平先輩と勉強だって言ってたし、図書館にいたとしたら出られるわけがない。
俺は舌打ちしながら、救急車を待った。
しばらくして、赤いランプを光らせながら白い箱型の車が走ってきた。
「熱中症で倒れたというのは!?」
「こっちです!」
俺が少女のもとへ案内すると、男の人たちが担架を持ってきて、それに少女を乗せる。
俺はそれを見てホッと息をつき、帰ろうとした。
しかし、カバンを持ったところで呼び止められた。
「あぁ、君。ちょっと一緒に来てもらえないかな」
「な、なんでですか?」
「現場とかを知っている人間がいたほうが良いんだよ」
「分かりました……」
まぁ、どうせ暇だし別にいいかと嘆息し、俺も救急車に乗った。
- Re: 心を鬼にして ( No.43 )
- 日時: 2016/11/03 22:08
- 名前: 凜太郎 (ID: uzSa1/Mq)
第11話「夏の出会い!8月に咲く恋の花」3
「ん……?」
ドアの近くの水道で花瓶の水を入れ替えていた時、やけに医者達がざわついていることに気付いた。
まぁ、僕には関係ないことだろう。
僕は首を振って考え直すと、花瓶を持って陽菜の元に近づく。
「陽菜……」
機械に繋がれた陽菜の姿に、僕は息をつく。
相変わらず、彼女の意識は戻らないまま。
僕はベッドの横に置かれた椅子に腰かけ、彼女の小さな手を握った。
「今日は、部活で先輩と軽く試合をしたんだ。当たり前だけどボロボロにされちゃってさ〜。でも、僕が指示を出して、龍斗が決めたんだ。中学の頃みたいに……」
いつものように、その日あったことを彼女に語る。
もちろん、彼女からの返答はない。
それでも、語って、語って、語りつくす。
僕の自己満足でしかないかもしれないが、こうして語っていれば、いつか彼女が、笑ってくれるような気がするから。
−−−
カリカリと、シャーペンが紙の上を走る音が響く。
市立図書館のテーブルで、俺と康平は隣り合って座り、数学の問題集を解いていた。
「うっし。終わった」
「早ッ!俺まだ半分もいってねぇよ……」
俺が文句を言うと、康平はため息をついてから笑い、「俺が教えてやるよ」と言って、分からない場所を教えてくれた。
しばらくして俺は問題集を終わらせ、背もたれに体重を預けた。
「ふぅ……疲れた」
「夏休みは受験の天王山。部活も良いけど、勉強もしないとな」
「分かってるよ、そんなこと」
康平の言葉に俺はため息まじりに言いつつ、伸びをした。
それを見た康平は苦笑して、「少し休憩するか」と言った。
俺はそれに頷いて背もたれから体を離すと、机に突っ伏した。
その時、腕が俺の筆箱に当たり、それは床に落ちてしまった。
「おいおい、何やってんだよ」
「おっと……悪い」
康平はすぐにしゃがむと、俺の筆記用具を拾い始める。
俺はそれに謝りつつ、一緒に拾った。
その時、康平は一つの消しゴムを手に取って、固まる。
「お前……これ……」
「ん?どうした?」
康平の言葉に、俺は康平が持っているものを見た。
それは、かなり古びた、緑と白のサッカーボールの消しゴムだった。
「……捨てられるわけないだろ。これが、俺たちの持つ唯一のアイツの形見なんだから」
俺はすぐに康平の手から消しゴムを取ると、筆箱にしまった。
「……お前、まだアイツのこと気にして……」
「良いから。さっさと、勉強するぞ」
俺は筆箱を机の上に置き、鞄から古文の問題集を取り出した。