複雑・ファジー小説
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- 貴方と過ごした日々
- 日時: 2017/06/16 16:44
- 名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)
はじめまして小鈴です。ここからまた続きを書いていこうと思います。
『私は貴方たちを忘れない』の続きです。明治時代編の始まりです。
ここよりほとんどが作り話をさせていただきます。
陽菜と楓と紫衣の夫婦話になります。
主人公 楠 楓【くすのき かえで】十九歳
立川 紫衣【たちかわ しい】十九歳
望月 陽菜【もちずき ひな】十八歳
登場人物 土方歳三 三十五歳。大久保利通 三十九歳。
木戸孝允 三十六歳。
明治二年の話で夫婦になるまでの話となってから手記を書くまでの話を書いていこうと思います。これからもよろしくお願いします。
- Re: 貴方と過ごした日々 ( No.37 )
- 日時: 2017/10/05 09:56
- 名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)
「おい。名前」
「ええ?・・・・・歳三さん」
かなり小さな声でなんとか。彼の人の名前を呼ぶ。それだけで真っ赤に顔をさせていた。
困った顔をしたの土方だった。
『これだけで赤くなるのか』
手と手を重ねていたそれをほどき今度は指をからめせて身をかがめて額にひとつ。頬にもひとつと唇を触れさせる。びくんと一度だけ肩を跳ねさせるが次第に力を抜いていく。ゆるりと土方は動いていき気が付くと布団の上に転がされていた。
「ふえ」
驚いたように目を丸くさせていた。
ただ無言でそして温かいぬくもりに笑みが浮かんでいく。
「なんだよ」
「なんでもありません」
陽菜は彼の瞳が揺れていることに気が付く。優しいこの人はもしかしたら私のことを心配しているのではないのかと思う。
「抵抗しねぇのか」
「する必要はないです」
真面目な声に答える。
「明りを消してください」
とだけ伝える。願い通りに蝋燭の火を消した。あっという間に暗闇に染まる。
「こわいか」
いまだってこうやって聞いてくれる人。怖いわけないと伝えたい。緊張はするがそれだけだ。
「あなたを信じていますだから大丈夫。あなたの望み通りにしてください」
その場に撃沈させられた。
「あ・・・の・・・?」
「そうかよ」
とだけ答えると煩悩を打ち払う。
しばらくのち。同じ布団の中に2人はいた。
「大丈夫か」
耳元にささやかれて陽菜は小さくなる。
「はい」小さな声で答えた。
土方は片腕を差し出し陽菜はその腕を枕にしていた。
「今日は疲れただろう。そのまま寝ちまいな」
うとうとし始めている陽菜に伝えた。
ふんわりと伝わる温もりと土方独自の香にほっとさせられる。
もぞりと動き胸元に頬をこすりつけて目を閉じた。
「歳三さん。おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
こうして2人は初めての夜を過ごした。
- Re: 貴方と過ごした日々 ( No.38 )
- 日時: 2017/10/08 13:24
- 名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)
【木戸家】
初めて新しい家に移り住み三々九度をかわしその日は何もせず眠りについた。明日の約束をした。
夜になると2人で片付けをすませて先に部屋の中で待つのは木戸だった。待つ間備え付きの机に書類に万年筆で書き物をしていた。和室のそこはランプの明りで手元を照らす。
「まだ終わりませんか」
寝間着のまま木戸は仕事をしていた身なりを整えた紫衣が声をかけてきた。
「もう少しで終わるよ」
心配していたのだ。いつも背中を向けて仕事をしているから・・・・・。
木戸は答えて書物を閉じた。
「いいのですか?」
首を傾げてきたので一つ頷いた。
「そこにいては体が冷えてしまうよ」
中に入り彼女は一度頭を下げてから進んでいく。
木戸は体の向きをくるりと変えた。そして立ち上がると彼女のそばによる。手を伸ばすとビクンと一度体を小さくさせた。
「こわい?」
目をはっと開けると木戸は寂し気にさせてそう聞いてきた。
「こわくない」
首を振り伝えたら「ふるえている」と指摘をされる。
「大丈夫。ふるえていない」
紫衣は木戸の手を握りしめていたが細かく震えていた。
「ゆっくりしていこう」
少し冷たくなった指先を温めるように包み直した。両方を握りしめて手の甲に唇を押し付けた。
腕の中に深く抱え込んだ。そのまま背中と肩となだめるように撫でられていた。
そしてそのまま2人で布団の上に倒れていった。
しばらくしたのち。
「大丈夫?」
「はい」
小さい声で答えると恥ずかしくなりもぐりこんでしまう。
「顔をみせてくれないの」
「ううー。だって・・・・恥ずかしいです」
「君の顔が見えないと寂しいよ」
後ろから抱きしめられてびくとした。甘い声に自然と反応してしまう。
「えっと。孝允さん。あの・・・・はなしてください」
泣きそうになりながらもそういったら無視された。
「君は温かいよね」
「それはあなたもです」
「顔は・・・」
「手をはしてください」
観念してそういうとするりと外された。ころりと体の向きを変えた。
「そういえば聞きたいことがありました」
ん?と唇をゆるりと動かした。
「触れてもよかったのですか」
「何を言っているんだ」
真顔になり木戸は言う。
「私はあなたに触れていいのですか?孝允さんは人に触られるのを嫌がりますでしょ」
「今更だろう」
「今更ですか?」
驚いてしまう。
「今更だろう。こういう関係になっているのに・・・・」
他人に何て戻れるはずないだろうと言われた。
「他人じゃないです」
「だろう」
まだよくわからない。
私にどうしろと言うのか。
「なら触れればいい。そうすればわかるはずだ」
彼女は右手を伸ばして頬に触れて見た。髪にも触れて見たらさらさらと指を動かしていく。
「綺麗ですね」
「男に綺麗は褒め言葉じゃない」
- Re: 貴方と過ごした日々 ( No.39 )
- 日時: 2017/10/11 15:00
- 名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)
突然不機嫌になった。
今一意味が分からない。
「どうして怒るのですか?」
「本当に分からないの?」
彼女は本当に意味なんて知らなかった。
どうして怒るのか。そのことに彼の心のうちすら知るよしもない。
「はぁ。もういいよ。そのことは」
「あきれていますか?」
不安そうに見つめてきたので頭を撫でてやる。
「君は面白いね」
「どういう意味なのですか」
機嫌は直ったみたいだ。楽しそうにくすくす笑いぎゅっと抱きしめてくる。
「くるしい・・・」
と言うと力を緩めてくれる。本当に優しい人だった。
「よくわかりませんがねむくなりました」
次第に目をこすり始めた。
「お休み」
「はい。おやすみなさい」
こうして2人は本当のめおとになった。
明日から新しい生活がはじまる。
- Re: 貴方と過ごした日々 ( No.40 )
- 日時: 2017/10/15 22:03
- 名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)
【大久保家】
約束をしたその通りに早く帰宅をした。
「おかえりなさい」
「ただいま」
楓は大久保の手荷物を預かった。その足で大久保は玄関から中に入っていく。
「どうしたのですか?今日に限り早く帰るなんて珍しい」
楓が言うと心底呆れた目を向けられた。
「もういい」へそを曲げたらしい。
「冗談ですよ。拗ねないでください」
「拗ねたわけないだろう」
眉間にしわを寄せた。
「ごはんできています」
「ああ。着替えてくる」
自室に戻ると着物姿になり大久保は楓の元に戻ってきた。
「どうですか?」
「悪くない」
ご飯を食べながら感想を聞いた。相変わらず漬物が好きな男だ。ご飯を食べて汁ものを食べていた。
「食べ終わったらかた付けをしますね」
「片付けは私がする。風呂は?」
「もうじき入れると思います」
「先に入れ。いつも私の後に入っているだろう」
「でも・・・いいのですか」
言うだけ言いすでに膳を運んでいる。
言葉に甘えることにした。
- Re: 貴方と過ごした日々 ( No.41 )
- 日時: 2017/12/07 15:12
- 名前: 小鈴 (ID: DUzeI13G)
風呂から出た楓は寝室に向って歩き始めた。
そこは西洋風の部屋だった。ベッドに腰かけて夫となった人を待っていた。しばらくして大久保がやってきた。
「どうした?」
気が付くと着替えた夫がそこにいた。
「いいえ別に」
会話はそれっきり続かない。視線はあちこちにさまよわせて落ち着かなかった。
「あの」
「黙れ」
腕をつかまれて引き寄せられて口づけをされた。
そのまま何も言わずに角度をかえて何度も唇を重ねていった。明りはいつの間にか消されていてそこは暗闇につつまれていた。
「楓。無理ならそう言え」
その言葉を聞きぱっと目を開いた。
視界に移ったのはどこか辛そうに顔をゆがませていた夫の姿だった。
「大丈夫です。だから続けて」
目に涙を浮かべながらも楓が言った。
「そうか。なら続けるぞ」
ふっと笑い夫は再び動き始めた。頬に首筋に唇を押しつけて下にと下がっていく。
余りの暑さに楓は甘い声を自然に上げていった。女としての喜びだった。
しばらくしてから落ち着きを取り戻していた。お互いに同じ布団に入り語りごとを始めていく。
「いたいんだけど・・・・・」
「だから無理なら言えと言ったんだ」
「動けないんだけど」
楓は文句を言っている。手足がしびれていた。体が疲れも感じている。
夫は満足したのかご機嫌だった。
「明日は休みとした」
「休みにした?」
隣にいる夫の言葉に何かを感じた。
「利通さん。何をするつもりですか」
「大阪にいき状況をこの目で見てくる」
「私もいきます。視察と知られるとまずいですよね」
「ああ。だが私の顔は知られていないはずだ。問題ないだろう」
ふっと笑いそう言った。その方が動きやすいのだ。
「何を言っているのです。私も行きます。それと紫衣と陽菜ちゃんも一緒に」
「・・・・」
そんなことをすればもれなく夫もついてくるに違いない。
「なんですか?」
無言で夫は妻を見てきた。
「なんですか。口で言ってください」
見事なまでに眉間にしわを寄せていた。
「それこそ目立つだろう」
少し想像してみた。楓の友人たちとその夫たちはかなりの整った容姿をもっている。
「でも・・・・私も行ってみたいです。大阪」
「そうか。動けるといいな」
ふふんと鼻で笑われて「うるさいです」といい布団にもぐりこむ。
そうして明日の約束をした。
【相原家】
家から一人の男が出てきた所であった。女は男の妻だった。
「行ってくる。出来るだけ早く帰ってくるからな」
そう言い彼はにこやかに笑って彼女の頭をぐしゃぐしゃ撫でまわした。
陽菜は子供のようなそのやり取りに恥ずかしくなりながらも笑っていた。
夫は薬を売りに出かけていった。 妻は外まで見送っていた。
「いってらっしゃいませ」
しばらくして隣の奥さんが声をかけてきた。
「陽菜ちゃん。旦那さんは?」
「妙さん。今薬売りにでたところです」
きょとんとした目で奥さんを見た。
「そうなのね。困ったわ。実はね。外で怪しい二人組を見かけたのよ。そのことを誠さんに伝えようとしたんだけど」
「怪しい人ですか?」
そう言いながらも陽菜は一人考え始める。動揺が顔に出てしまう。
「怖いことでしょう。まずは誠さんにこのことを話そうと思ってね」
隣の奥さんは心配をして伝えに来てくれたようだった。
勘違いをされたようだった。しかし陽菜は陽菜で曖昧に頷いた。
「ご維新の後でしょう。このあたりも物騒になって嫌よね」
妙は言うだけ言い帰っていった。
外に立っていたが陽菜は一度夫のいる方を見上げて中にもどっていく。
土方歳三を知っている人もいるのではないか。今の政府に不満を持っている人だっているに違いない。自然と顔を曇らせていった。そんな時二人がやってきた。
「「こんにちは」」
「楓ちゃん。紫衣ちゃん」
横に扉を開けた。少しだけ不安がなくなった。いつもこの友人たちがいると安心する。
「外に怪しい人?」
楓がそのことを聞きすぐに外の様子を探りに移動した。
「どう?」
紫衣が心配そうに聞いてきた。陽菜は2人にお茶をだしていた。
2人に顔を向けて首を振った。
どうやらいないようだ。
「お茶をどうぞ」
「「ありがとう」」
履物を脱いで中に上がる。居住まいを正して話の続きをする。
「一つ気になることあるの」
紫衣がお茶を置いた。
「私たちをつけてきたってことはない?」
ふと思いついて鋭い突っ込みをいれた。彼女に楓はお茶をすすり得意げにいった。
「それはない」
楓は全て感で動く。ここに来るまでに何度迷ったか。何故だろう。全て違う道につながる。一度も同じ道を通ることはない。それはそれですごいことだった。人はそれを方向音痴という。
「いつも違う道にでる。摩訶不思議」
片言で呟く紫衣であった。またお茶をすする。
「つけられる可能性はまったくないね」
にんまりと楓は笑う。自身に満ちていた。
「確かに私たちが迷っていたもんね」
陽菜は何も言えなくなった。3人は同じくらい道に迷う。
よく土方に言われていた。
【なんでここで迷うんだよ】
【すみません】
結果手をつながれて歩くことになる。
「妙さんは見たって?」
「見たみたい。けど気が付いたらいなかったって」
「相原さんが帰ってきたら話した方がいいよね」
「しばらく帰ってこないの」
そのことを聞き楓は片目を閉じて思案し始めた。真剣な顔をしているので陽菜たちは何も口を挟まないようにした。
「あの人を探しているわけじゃないよね」
まさかと驚いたように楓を見た。
「ありえないこともない」
「恨みを持っている人もいるよね」
「うん」
どっちもありえることだね。幕府の生き残りか新政府の生き残りか。恨み憎んでいる可能性も考えられる。楓は卵を紫衣は薬を持ってきてくれた。目を閉じていた楓がすうっと開けた。
「土方さんが生きていることが知られているのかもしれない」
土方と名を告げる時だけ小さく呟いていた。楓だった。
「うそ」
目を見張ったのは2人だった。
「どうしたらいいの」
「相原さんが帰ってくるまでここでまつけどいい?」
「もちろんよ」
頼りになるのは楓だった。真剣に悩み始めている。紫衣も考え始めている。
「もしそうなら楓ちゃん。幕府関係の可能性がある」
「生き残りかな」
土方が帰って来るまで2人は何でもないことを話していた。
薬売りから土方が帰ってきた。玄関先で履物を脱ぎながら話を聞いていた。
「しばらくお前らはここに来ねぇ方がいいな」
そう言った。いつになく真剣な目をしているので心配しているとわかる。
「ですが陽菜ちゃんが・・・・相原さんが出かけてしまえば一人になってしまいます」
楓が陽菜を心配して土方にそう言う。
「俺もしばらくは外に出かけねぇようにするさ」
きりりと引き締めた顔は新選組副長の顔をしていた。
「むしろその人物を確かめたいのですが」
楓は勇ましくもそういう。
「待て。楓。その必要ねぇよ」
片手で制された楓は不満そうだった。
「それでは解決になりませんよ」
むうと口をとがらせると土方はくっとその顔を見て吹き出す。
「まぁ。そういうな。大久保さんたちに迷惑はかけられねぇよ」
はっとしたように真顔に戻る。紫衣も同じように土方を見ていた。「それに」といい土方が陽菜の肩を抱き寄せている。
「俺は陽菜の夫だ。妻を守るのは夫の役目だろう」
にやりとした。
「確かに相原さんの役目ですね」
口元を緩め紫衣はそう言った。2人は言うだけ言い帰っていった。
外をしばらく二人で見ていた。隣に立つ夫を見上げて眉を寄せている。
「心配すんな」
そう言って陽菜の髪の毛を優しく撫でていた。
「ですがもし・・・歳さん・・・のことを探している人がいたとしたらどうしたらいいのでしょう」
耐えきれずに陽菜は土方に正面からすがりついていった。その背中を土方は撫でて抱き合っている。
「今日はもう来ねぇと思うから戸締りをしっかりとして風呂と夕餉のしたくしねぇとな」
「そうですね」
いつものように陽菜が動き始めた。
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