複雑・ファジー小説

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彼が愛した吸血鬼
日時: 2023/03/11 07:48
名前: ネイビー (ID: VYLquixn)

◎春だからかいくらでも寝れてしまうネイビー。
◎暇さえあれば何か食ってる。
◎楽しく書いていこう。春らしいの書きたい(大ウソ)

Re: 彼が愛した吸血鬼 ( No.1 )
日時: 2023/03/12 22:29
名前: ネイビー (ID: VYLquixn)

01


 以前からおかしいと思っていた幼馴染が、今日、いつもよりあからさまにおかしい。無視できないほどに。よそよそしいにも程がある。今までは微かな違和感を持つものの、一言えば百返ってくるようなこの幼馴染に言及するのも面倒臭いので、気づいていないフリをしていた。
 幼馴染というのは、高校で同じクラスの古舘夕紀のことだ。僕と同じ市営団地「木叢団地」に住んでいる。
 F棟まである古村団地の敷地はかなり広く、東側のAから西側のFに行くのなら、分厚い建物4つを跨ぐことになるので、徒歩で7分ほどかかる。CとDの間がかなり空いており、そのスペースに小さい公園や、憩いの場所のつもりなのか自販機と喫煙所、何個かベンチも設営されてある。しかし実際は、団地に住む怖いおじさんが夜に酔っ払ってゲロを吐き散らしていたり、喧嘩していたり、夜の仕事をしている女の人が怪しげな男と煙草をふかしていたり、金髪の若者たちが群がったりと、そこそこの治安の悪さの象徴となっている。
 僕も夕紀も、その木叢団地のA棟の住人だ。僕が201、夕紀が302。託児所から一緒だった僕たちは兄弟同様に育った。
 これだけ長く一緒にいるのだから、お互いのクセや特徴なんかも知り尽くしているし、周りには秘めておきたい内緒事も「こいつなら」と話せた。
 
 だからこそ、僕は聞けないのだ。
 明らかに様子がおかしい夕紀に、「なにかあった?」と尋ねるような野暮なことはしない。夕紀だって、あそこまで態度に出ているのだから、僕が訝しんでいることなんか承知の上だろう。なのに何も言ってこない。そこが厄介なのだ。
 夕紀とは長く一緒にいるけれど、べつに気やノリが合うわけじゃない。僕は割と周りのことはどうでもいいタイプだし、あまり干渉しない。対して夕紀は「どうやったらそんなことになる???」と頭を抱えるほどトラブルメーカーなので、何かあればすぐに「シズにも共有してやるよ」と要らんことを吹き込んでくる。目を爛々とさせながら。
 そんな夕紀が何も言ってこないことが本当に気持ち悪いのだが、彼から申し出てこないということは「隠しておきたい」ということであり、更に僕が訝しんでいることを承知で触れてこないということは「聞き出さないでほしい」ということなのである。
 普通に話はするものの、暗黙の了解、見えない壁がずううぅぅん…っと立ちはだかっている……というのは大袈裟だが、そんな緊張感もうっすら感じつつある。
 そして夕紀は今日も授業が終わると、一人で先に帰って行った。


 市立四葉根高校に入学して、まだ1ヶ月も経っていないけれど、僕も夕紀も学校に馴染んではいる。
 夕紀というポジティブな塊のようなのが仲間だったから、あまり気にしないでこられたけれど、要は家が貧乏、裕福では決してないので、小学校の頃から苦労はしてきたのだ。
 中学年の頃には「あそこの家は」なんて言われて、子どもたちの中では暗黙の了解になっていた。そもそも木叢団地があまり良いイメージを持たれていないので、そう思われてもしょうがないのだが、僕も夕紀も普通に育てられてきたのである。少し家庭の背景は淀んでいるかもしれないけれど、べつに僕たちは真っ当なふうに育ったし、物事の良し悪しも分かっているつもりだ。
 少し周りと壁を感じてはいたけれど、夕紀はけろっとして「俺んちが無理そーなら、お前んところ行っていい?シズも一緒にさぁ」と話しかけていた。お気楽で能天気で話が面白いので、徐々に周囲の薄い偏見は無くなっていった。
 そこそこの学力もあったので、二人とも無事に今年の春、四葉根に入学できた。クラスも奇跡的に同じクラスになり、毎朝自転車を漕ぎながら通っている。同級生で何人か話す友達もできた。入りたいと思ったこともないし、金銭的な余裕もないので部活動には入部せず、バイト民と化している。
 夕紀とは高校も一緒に帰ろうぜ!なんて口約束はしておらず、小学生の頃からのルールみたいなものでクラスが離れてもお互いを待って帰っていた。だから、入学して「行こうぜー」もなく、自然と二人で自転車を漕いで帰っていたのだが。

「んでー、今日も幼馴染くんは先に帰ったってわけか」

 バイト先のコンビニに僕より少し先に入ったという樹さんが、哀れげな目で僕を見る。
 コンビニは木叢団地の近くにあり、嘘の日に誕生日を迎えた僕はそこで早々にアルバイトを始めた。
 大学生だという樹さんとは月火金の夕方にシフトが微妙に被っていて、話しやすい人なので二人でいるとダラダラ話してしまう。

「古舘クンって前にここで大量のメロンパン買っていった子だよな?あのー、ちょっと俳優にいそうなイケメン」
「そうですよ。あいつ、友達との罰ゲームで1週間朝飯がメロンパンだったんです」

 樹さんは「御厩」と書かれた自分のネームプレートを指で拭きながら、はっと声をあげて笑う。

「なんだそれ……。高校生って感じ」
「どうせ買うなら売り上げ貢献してやるよーって、ここで買ってくれたんですよ。焼きそばパンも食べてぇって喚いていました」
「へぇ……。で、その古舘クンがここしばらく先に帰っていると」
「そうなんですよね」

 客が来たので、いったん話をやめて僕はレジに行く。
 気だるそうな男の人が「赤マル」と低い声で言うので、後ろの煙草の棚に視線を走らせる。赤と白のマルボロを見つけ「ボックスですか?」と聞く。男が頷いたのを確認してから、38番を取った。
 会計を済ませた男が出ていくのを確認してから、

「女じゃねぇの?」

樹さんの声が右側から聞こえる。

「え……今の人、どっからどう見ても男でしょう」
「ちっげえわ。その古舘クンのことだよ」

あぁ、そっちか。

「デートとかの約束があるとかさ」
「うーーーん……。いやそれも少しは考えたんですけれどね……」

 それなら僕に言ってきそうなものだ。惚れやすい性格なので、今まで7回「好きな人ができた」と恥ずかしげもなく真っ直ぐな目で僕に告げてきた。恋愛ってものに疎い僕はなんて返事をして良いか分からず、「ガンバレ」としか言えなかったけれど。けっきょく皆んなから「顔はいいのになんか残念だから」という不名誉な理由で断られてばかりだった。

「なんか怒らせたとかは?」
「それに関してはありえないですね。怒ったのなら論詰めしてくるやつですから」
「そうかー。なら、殺人やってるとか?」

 殺人。
 去年の8月からここらの街で、殺人事件が3件あった。
 被害者の共通点は幼い子ども。どの子も絞殺され死体は遺棄されている。そして右耳を削ぎ落とされているらしいのだ。
 先月、3人目の被害者が出てから、いよいよ物騒だということになり、街の小学校は春からまた集団登下校を再開させた。犯人はまだ見つかっていない。

「不謹慎ですよー」
「悪ぃ悪ぃ」

 客が来た。今度は金髪の女だった。缶ビールを数本持ってレジにやってくる。長い爪は真っ赤に塗られていて、てらてらと光っている。女はレジ袋は頼まず、両手で缶ビールを抱き抱えて外へ出た。

「もう突撃しなよ。隠し事は無しだぞーっつって」

 女が出るのを待ってから樹さんが再度口を開く。
 僕もそれが一番良い、というか早く解決すると思ってはいるのだが。

「ううーん。いや、でも僕からはなかなか聞き出せないというか、改めて問いただすのが苦手というか」
「…………なんかカノジョみたいだぜ、雨村」
「まあ面倒臭いっていう自覚はあります」
「さらっと聞いちゃえばいいべ。あ、おい。もう時間」

 時計を見る。時刻は午後9時を回っている。
 ここから僕は帰るけれど、樹さんは0時まで勤務だ。
 樹さんに挨拶をして、バイトの制服を脱ぐ。外に出ると生暖かい風が吹いていて、散った桜の花が絨毯のように駐車場を敷き詰めている。これ早朝シフトの人掃除大変だろうな。
 自転車を漕いで、木叢団地まで4分。
 狙われているのは幼い子どもだから、僕は大丈夫だろうけれど、家に帰るまではブレーキをかけなかった。



〆〆〆.......

古舘夕紀(Furuta Yuuki)
▷最近様子がおかしいらしい。

雨村(Amenura)
▷愛称シズ。主人公。夕紀にモヤモヤ中。

御厩樹(Mimaya Ituki)
▷シズと同じコンビニでバイトしている。


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