二次創作小説(映像)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

Atonement【ポケモン二次創作】
日時: 2012/09/12 19:31
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

初めまして、底辺物書きのTαkαと申します。
ポケモンの二次創作を書こうと思いまして、スレッドを立てさせていただきました。

中世〜近世くらいの文明の世界を舞台とした、王道のライトファンタジーなテイストの作品に仕上げたいと思います。
一応長編ですが1話は短く、あまり重たい話ではありませんので、最低限のネチケットを守って、手軽に読んでいただければなと思っております。


さてさて、まず注意事項です。

・第五世代(BWのポケモン)は多分出ません。
・ストーリーは完全オリジナル。原作と異なる世界を舞台としています。
・属性の相関や技の効果などはゲーム通りではありませんのでご理解願います。ゲームでの数値的なものは一切出てきません。
・擬人化要素有りです。というか、殆ど擬人化です。かなり好みの分かれるところだと思うので、一応。
・ソフトですが、流血・暴力描写があります。苦手な方もいらっしゃると思うので、一応。
・当然ですが、荒らしや誹謗中傷は無しで。短レスやチャット化もいけません。
・私の文章力は非常に稚拙なため、小説と称して良い物なのかは解りません。
・不定期更新のため、しばしば姿を消します。
・小説ストーリーテラー様で書かせて頂いているものと同内容です。


感想は勿論のこと、アドバイスについてですが、辛口大歓迎、というより辛口推奨です。悪い箇所をどんどん指摘してくださると、励みになります。
我こそは、という方がいらっしゃいましたら、ビシバシとこの斜め下にいっちゃってる俺及びこの文章を指摘してください。

目次
第一章 道なき道を求めて
第1話 白昼 >>1-2
第2話 孤児院 >>3-5
第3話 少女剣士 >>6-7
第4話 三流トレジャーハンター >>8-10
第5話 小さな決意 >>11-13
第6話 プレリュード >>14-16

第二章 地神の騒乱
第7話 王都入り >>17-19
第8話 襲撃 >>20-21
第9話 見えぬ未来 >>23-25
第10話 隠し事 >>26-28
第11話 没落貴族 >>29-31
第12話 地神の神殿 >>32-34
第13話 炎の狂戦士 >>36-38
第14話 大地の思念 >>39-42
第15話


登場人物
ハーヴィ&澪紗 >>22
シデン&琥珀 >>35

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10



Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.32 )
日時: 2012/09/01 04:57
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

第12話 地神の神殿

 ミルフェルトを発って、二時間くらいの距離だろうか。人里離れた小さな丘の上に、それは建っていた。
 テラ神殿という名称だが、一つの古代都市というイメージの方が強い。ところどころに倒れた柱や崩れた建物が点在しており、肝心な神殿はその街の跡のような場所を抜けた先に、その形をしっかりと残して建っていた。
 足場はあまり良いとは言えない。先に進むには、石畳の道を遮っている倒れた柱を越えねばならないし、一旦道を外れて、崩れかけた建物の中を抜けねばならない場所もある。
 薄暗い神殿の中に入れば、この建造物が古代に建てられたものだということは明らかになる。壁のところどころに記された古代文字。アンノーンという種族のポケモンによって、記されているものらしいが、解読できる者は少ないという。
 二人はハヤテの家に一泊した後、《地神グラードン》が祀られているというテラ神殿を訪れていた。
 ミルフェルトからは然程離れてはいないものの、やはり《エリュシオン》の聖地でもあり、足場も悪いためか、人の姿が無い。時々、教徒が巡礼のために訪れるようだが、この辺りで地震が起きているという情報が広まっているからか、彼らの姿も見られない。
 不安定な石畳を踏みしめながら、二人は長い廊下を警戒しながら進む。休憩所でアズライトに聞いた情報によると、黒衣の集団がまだ潜伏している可能性が高いというものを聞いたからだ。
 もし遭遇して、相手に敵意があるようならば、戦うつもりでいる。しかし、あまり広い場所ではないため、戦うのには苦労するだろう。戦うことになるようならば、広い場所に出てからであってほしいと、二人は思っている。
 しかし、敵に遭遇することは無く、広くなった場所——祭壇の間に到着した。
《エリュシオン》で祀られている神の一柱なだけあって、豪勢な作りの祭壇だ。古代文字の刻まれた石がいくつも敷き詰められた段は幾段にも連なり、一番高くなっている場所には、黄金製の杯や燭台に囲まれて一体の巨大な像が佇んでいる。
 何かの怪物を思わせるかのような像だ。二足歩行で手足の先には鋭い爪があり、首と腰、尻尾からは棘のようなものが突き出している。やや前傾である体勢と背中と手足を覆う鎧のような鱗は大型の爬虫類を連想させる。
 この巨大な像が象っているものこそが、《地神グラードン》だ。聖典や伝説などで語られているイメージが、そのまま像となっているらしいが、結局それは創作上のものであるため、実際はどのようなものかは解らない。しかし、それを踏まえたうえでも、高い祭壇の上に佇む地神の像は、何処か神聖で威圧的だった。
「圧巻だな。こいつがグラードンか」
《エリュシオン》の教徒でないハーヴィでさえ、そう思うほどのものだった。
「私達が今立っている大地を、創造したと言われているわね。陸をグラードンが創り、海をカイオーガが創った……。天地開闢の章に、詳しく書かれているわ。聖典の序章、それもページを捲ってすぐの場所ね」
 澪紗は頭の片隅にあった知識を、軽く曝け出した。
「よく知ってるな。俺は勉強嫌いだし、そういうのは疎くてな。日曜学校でも授業中に寝てたからな」
《エリュシオン》の教徒でなくとも、日曜学校の授業で軽く触れる範囲だ。そのため、聖典の天地開闢の章の触りを知っている者は珍しくないのだが——
「教徒ではないけど、聖典くらいなら軽く目を通したことがあるから。色々と勉強の足りないあなたに、もう少し詳しく話そうかしら?」
 まるで相手の反応を楽しむかのように、澪紗はハーヴィに尋ねた。
「いや、やめてくれ。ぶっ倒れちまう」
 元々、本をあまり読まず、堅苦しいことが苦手であるハーヴィにとっては、遠慮願いたいことであった。尤も、澪紗もハーヴィがそのような人間であることを知っていたため、無理に教えようなどとは思っていない。
 そもそも、二人は聖典の内容を勉強するためにこの地に来たのではない。
「さて。来てみたはいいが、どうしたものか」
 辺りを見回すが、特におかしなところはない。倒れた柱や岩が見られるだけで、特に怪しい者がいるというわけではない。
 勿論、そう簡単に見つかるわけではない。以前、貴族の令嬢の依頼で訪れた遺跡にはあからさまな仕掛けがあったものの、そういったものは全体からみれば少数派である。
「こうなったら、片っ端から香ばしい場所を調べるしかねえな」
 面倒臭い。そう呟くも、ハーヴィは特に不快に思っている様子は無い。むしろ、何か面白そうなものを見つけられるかもしれないという期待が、彼の顔に滲み出ている。
「そうね。でも、さっきから妙だと思わない?」
 辺りをきょろきょろと見渡しながら、澪紗がハーヴィに問いかける。何かに警戒しているのか、兎のような長い耳もぴくぴくと動いている。
「ああ。明らかに、誰かの気配がある。誰かに監視されているな。妙に威圧的な感じだが、襲ってくる様子はねえのか?」
 姿は見えないものの、凄まじい程の視線を二人は察知していた。
「警戒するに越したことは無いわ」
 いつ襲われてもおかしくないような感覚に押しつぶされそうな状況だが、不思議と殺気は感じられない。ただ、こちらを虎視眈々と狙っているような視線だ。しかし、油断をした隙に襲われる可能性もゼロではないため、二人は集中を解かずに辺りを調べ始めた。
 壁を見ると、アンノーンによる古代文字が目に入ってきた。元々、不可解な姿をしたポケモンではあるが、それが文字列となって並んでいるために、幾何学的な模様に見えてくる。
「わけわかんねー」
 ハーヴィは壁の古代文字を読もうと思ったが、壁に目をやってすぐにやめる。見ているだけで頭痛がしてくるからだ。
「神々の均衡が崩れた時、世界は破滅へと……」
「っ!?」
 後ろからの声に、ハーヴィは思わず飛び上がりそうになったが、その声が澪紗のものであることを悟ると、その場に座り込んでしまった。
「まったく、脅かすなっての」
 ハーヴィは胸を撫で下ろし、深く息を吐いた。
「ごめんなさい、なんか貴方が知りたそうにしていたから」
 少し意地の悪そうな笑みを見せる澪紗。

Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.33 )
日時: 2012/09/01 04:59
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

「真面目に解読しようなんて思ってねえよ。それより、何で読めるんだ?」
「情報屋に聞いただけよ。もっと詳しく訳すなら、まだまだ勉強しないと駄目だけど」
 情報屋というのは、昨日休憩所で出会ったドンカラスの青年だろう。情報屋というだけあって、その辺りの解読方法などは、ほぼ知っているのかもしれない。恐らく、澪紗は彼からその情報も仕入れたのだろうが、大まかな訳とはいえ、短期間で古代文字を覚えてしまう辺り、かなり冴えている者であることが窺える。
「情報屋ねえ」
 如何に澪紗の頭が切れるとはいえ、すぐに覚えられるようなものなのだろうか。
 いや、本当は解読法に付いて既に知っていたのではないか。今までの何かを隠しているような様子を見ると、ハーヴィはそのような気がしてならなかった。
(色々と聞きたいことはあるが)
 誰にでも触れられたくないことはある。そう悟ると、ハーヴィは敢えて詮索しないことにした。
「ほんと、お前には驚かされるよ」
 言って、ハーヴィは適当に取り繕った。
 今までの依頼で、ハーヴィは澪紗に度々驚かされている。戦闘は勿論だが、このような知識を必要とする場面で彼女が活躍することが多いのだ。この手のものに疎いハーヴィとしては助かっているのだが、それと同時に畏怖にも似た感情を抱いていた。
「お互いさまよ」
 ふふっ、と澪紗は僅かに目を細めて微笑んだ。
「それもそうだな」
 ハーヴィは立ち上がり、再び祭壇の間の調査を始めた。
「さて、調査再開と行こうか」
「そうね」
 切り替えようとしたところで、澪紗は何者かの視線に気付く。
(え? この感覚って……)
 澪紗は鋭い眼つきで、周囲を見渡し始めた。先程よりも、耳が小刻みに動いている。
「どした?」
「気配が増えた? それに、この感覚……」
 澪紗は、確かに気配を感じ取っていた。だが、今までの緊迫した空気に麻痺したのか、その正体を掴めずにいた。
 そして——、もうひとつの気配を捉えていたのだ。
「…………」
 口元に手を当てて、無言で周囲を見渡す澪紗。
「おい、どうしたんだよ?」
「いえ、別になんでもないわ」
 どうやら、暫くの間我を失っていたらしい。ハーヴィの言葉で、澪紗は平静を取り戻した。
「これだけ怪しい場所なんだ。何か変なのがいるのは間違いねえよ。警戒するのは結構だが、あまりピリピリしすぎていても、いざという時にすぐに動けねえぞ?」
「…………」
 恐らく、ハーヴィは気付いていないだろう。初めに感じ取った視線はともかく、今感じ取った気配はほんの僅かなものだ。それこそ、全神経を研ぎ澄まさなければ、感じ取れない程だ。
「そうね。ごめんなさい」
 確かに、ハーヴィの言うとおりだ。下手に緊張を解かずにいては、非常時にすぐに動くことは難しい。頭では解っていても、緊張を強めすぎると、身体への伝達が遅れて、結果として行動を起こすのにラグが生じてしまうのだ。
 色々と気になることがあったが、澪紗はハーヴィの言葉に従うことにした。
「ま、気にすんなよ。いつでも戦えるようにだけして、適当に行こうぜ」
 ハーヴィと澪紗は周囲の適度に警戒をしながら、気になる場所を少しずつ探っていった。いつでも戦闘に移れるように、ハーヴィはグラディウスを抜刀し、澪紗は自分の周囲に小さな氷塊を浮遊させている。
 壁や石畳の隅を片っ端から剣で突いたり、手で押したりしながら調べたりした。一応古代の遺跡で重要な場所であるため、その度に澪紗に注意された。
「怪しいところは……まさかな」

Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.34 )
日時: 2012/09/01 05:01
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

 唯一調べていない場所——
《地神グラードン》を象った像の配置されている祭壇だ。
 常識的に考えてみると、有り得ない。そのような解り易い場所に、仕掛けを置くようなことがあろうか。だが、何かがあると確信したかのような表情で、ハーヴィは祭壇に向けて歩き始めた。
「そんな解りやすい場所に、何かが隠されているなんて——」
 澪紗が否定する間もなく、ハーヴィは祭壇の近くを調べ始めていた。もし、《エリュシオン》の教徒に見られていたら、シャレにならない。メルクリア王国は《エリュシオン》とのつながりが深いため、許可なしにこのようなことをすれば、それこそ厳罰ものだ。下手すれば、邪教徒や盗賊として処罰されてもおかしくない。
「ちょっと、ハーヴィ!」
 流石にこれはまずいと思ったのか、澪紗はハーヴィを止めるべく祭壇へと走っていった。
「別に変なことするわけじゃないんだし、これくらいやってもバチは当たらないさ」
 ハーヴィは像の裏側を調べているようで、向こう側から声が聞こえてくる。
《地神グラードン》の像の向こう側から、何かが崩れ落ちるような音が響いた。同時に、
「うわ、嘘だろぉぉぉ!?」
 悲鳴とも取れるようなハーヴィの声。
「ハーヴィ?」
 嫌な予感がした。
 澪紗は急いでグラードンの像の裏側へと向かった。だが、そこにハーヴィの姿はなく、地面に大きな穴が開いているだけだった。
「何てこと……」
 恐らく、足場がかなり老朽化していたのだろう。古代の神殿のため、土台が弱まってしまっているのは無理もない。
 澪紗は身を乗り出して、大穴を覗いた。下の様子を窺うことは出来たが、かなりの深さがあることが窺える。下では、ハーヴィが腰を擦りながら蹲っていた。高度はあったものの無事だったようで、澪紗は深い溜息をついた。
「ちょっと、ハーヴィ! 大丈夫?」
「心配すんな。ちょっと腰を打ったが、大したことねえよ」
 天井の穴から、見下ろしてきた澪紗に、ハーヴィは声を張り上げて答えた。安心しているような仕草を見せているとはいえ、言動から相当な心配をしていることが窺えた。
 事実、目立った外傷はなく、何の支障もない。しかし、問題はどうやって戻るかということだ。このまま神殿の地下で朽ち果てるようなことになるのは、流石のハーヴィもごめんだと思っている。
「莫迦! 少しくらいは警戒して調べてよ……」
「悪い悪い。それにしても、いきなり足場が抜けるとは思ってもなかったぜ。いてて……」
 落ちた時に腰を強打したようだが、幸い折れてはいないようだ。ハーヴィは打ったところを擦りながら、何とか立ち上がる。
「それにしても、どうなってんだ此処は?」
 老朽化が進んでいたのかもしれないが、祭壇の間の下にこのようなフロアがあることを、ハーヴィは予想していなかった。
 気になることはあるが、澪紗と分断されてしまったことが気掛かりだ。この状況で戦闘になるのが、一番まずい。
「おい、澪紗。そっちになんかロープを引っ掛けられそうなものはあるか?」
 冒険者としての最低限の道具は持ち歩いているため、このような状況を打破するのは難しいことではない。何としてでも、この場から元の場所に戻るのが先決だ。
 天井に向けて、大声を出す。出来ることなら、このまま落ちた穴から戻りたかった。
「悪いけど、そんなことしている余裕なんてないわ」
 その言葉を残し、ふと澪紗の姿が消えた。
「澪紗……?」
 そう、考えられることは一つだけだった。
 神殿に足を踏み入れた時から感じられた視線とは別に、澪紗が感じ取っていたという殺気。
「ちぃっ!」
 澪紗の言うとおり、もっと警戒すべきだったのか——
 ハーヴィは己の浅はかさを呪い、近くの瓦礫を思いきり蹴飛ばした。

===========================
区切り方が中途半端で申し訳ないです。
字数制限がなかなか厳しいもので。

Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.35 )
日時: 2012/09/01 13:08
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: 4dKRj7K1)  

キャラ設定 シデン&琥珀 その1

「い、いえ! 僕は《聖光の翼》に属する騎士として当然のことをしたまでです!」

シデン・グラナート
性別:男性 年齢:16歳
身長:158cm 体重:44kg
使用武器:ハルバード、サーベル
好き:読書、訓練
嫌い:不正、非人道的なこと

メルクリア王国騎士団《聖光の翼(リヒテン・フリューゲル)》に所属する少年。あまりにも純粋で優しすぎるため周囲からからかわれてしまうことが多い。また、あまりにも真面目すぎるために、知らず知らずのうちに自分を追い込んでしまうことがある。故に、ハーヴィからは世渡り下手と評されている。シデンが騎士になった経緯には、没落したグラナート家を復興させるという目的があってのことだが、彼自身がどう考えているかは解らない。色々と葛藤していることは確かなようだが。
華奢な身体からは想像できないがハルバードを軽々と使いこなし、空中でもバランスを崩さずに戦うことが出来る。また、人並み以上の剣技も身につけている。しかし、「殺し」の経験が少ないため、ここぞというところで詰めの甘い一面もある。
かなりの妹想いで、週に一回はハヤテに手紙を送っている。内容は妹を気遣ってのものだが、ハヤテとしてはそのまま返したいことばかり書かれているという。


「大体お前はいつもいつも……これだから……むううう……」

琥珀
種族:プテラ
性別:女性 外見年齢:17歳
身長:162cm 体重:43 kg
使用武器:無し
好き:食べること
嫌い:束縛、シデンの敵

シデンのパートナーで、彼が《聖光の翼》に入団した時からの付き合い。出生が一切不明で、しかも隊長のセリカでさえ手を焼くほどのじゃじゃ馬であったために、誰にも相手にされていなかったのだが、唯一シデンだけが最後まで付き合おうとしたらしい。意地っ張りかつ我が儘という、シデンとは正反対の性格ではあるが、不思議なことに二人の関係は破綻することなく今も続いている。彼に対してキツく当たってしまうのは、なかなか素直になれないだけであり、かなりの好意を抱いている。つまり、典型的なツンデレである。
優れた膂力と機動力を持っており、捨て身の攻撃を得意としている。勿論、風や大地の力を操ることもできるが、近接戦闘の方が性に合うらしい。ちなみに、空中戦のためにシデンを乗せる時は原型の姿を取る。
かなりの大食いで、訓練が終わるたびに食堂へ直行しては、とんでもない量の食事をとっている。しかし、やはり独りで食べるのは寂しいのか、よくシデンを無理矢理付き合わせている。彼のエンゲル係数を大幅に引き上げている要因。

Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.36 )
日時: 2012/09/02 19:05
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

第13話 炎の狂戦士

 先ほどから感じていた視線は、やはり気のせいではなかったことを、澪紗は悟った。
 地下のフロアに落ちたハーヴィを救出する方法を探そうと思っていたが、そのような余裕など今の彼女には無かった。その視線の主が、姿を現したからだ。
 手元に冷気を宿らせて、その者を睨みつける。グレイシアの特徴の出た耳と尻尾もピンと立ち、極度の緊張が澪紗の神経を研ぎ澄ましていることが、彼女自身もよく理解していた。
(間違いないわ。不意に感じた気配のひとつは、こいつね)
 視線の先にいるのは、黒い毛皮のコートに身を包んだ、ガラの悪そうな青年だ。だらしなく着こなしたコートの下には、色白ではあるが、引き締まった肉体が見える。
 見た目は人間のように思える。しかし、首の後ろからは赤々とした炎が噴き出しており、襟飾りのような形を成している。このことから、彼がバクフーンという種族の亜人種であることが窺える。
 小さく鋭い瞳には、狂気とも言えるようなものが宿っており、その混濁とした瞳は澪紗へと向けられ、口元も感情で歪んでいる。
 まずい——
 戦闘は避けられないだろう。澪紗としては、無駄な戦いなどしたくなかった。しかし、相手に宿るものは狂気そのものであり、例えこちらに戦う意思が無いことを伝えても、許しはしないに違いない。
 戦いたくない理由は、体力の温存以外にもある。
 そう、属性だ。
 バクフーンが操るのは、熱や火炎といった力だ。それに対し、グレイシアである澪紗は、氷の力を操るため、相性が非常に悪いのだ。真正面から、それもお互いの能力を駆使した戦いとなれば、彼女が勝つ確率は絶望的である。
 だが、弱みを見せてはならない。澪紗は凛とした表情で、バクフーンの青年を見据えた。
「ククク……、そんなに怖い顔すんなよ、嬢ちゃん」
 そう言って、バクフーンの男は腰から得物を抜き取り、両手に構えた。すると、拳の先に肉厚の刃が真っ直ぐと突き出た。短剣のように思えるが、握る部分が鍔と平行に作られており、ちょうど拳の先に刃がくるような造りになっている。
 ジャマダハルと呼ばれる武器だ。拳を前に突き出すだけで絶大な破壊力を出すことのできる武器だが、その分、自分の手を痛めやすいために扱いが難しいと言われている。そんな武器を好んで使っているのだろうから、己に余程の自身があるに違いない。
「さぁ、楽しもうぜ?」
 ジャマダハルの刀身をぺろりと舐めると、バクフーンの男は澪紗に飛びかかってきた。すかさず彼女は相手を氷塊で牽制しつつ短剣を抜刀し、相手の一撃を刀身で受けて、そのまま勢いを殺ぐ。しかし、相手は両手に得物を手にしているため、次々と刃が襲いかかってくる。
 接近戦は然程苦ではない。今まで何度か、ハーヴィと剣の手合わせもしてきたため、人並みにはこなせることを澪紗は自負していた。
「何だよ何だよ、それが本気なのかよぉ、あぁッ!?」
 それは憤怒なのか、悦楽なのか。何とも言えない表情を露わにしながら、バクフーンの青年が叫ぶ。
「くぅっ——!」
 素早い動きでありながらも、一撃が重い。短剣で攻撃を受ける度に、全身に重圧がかかる。
 受け流しきれなかった刀身が、澪紗の頬を掠め、赤い傷跡を残した。種族の違い、また腕力の違いもあってか、全ての攻撃を完全に受け流すのは、やはり厳しい。しかも、相手の様子を見ると、実力の半分も出していないのだろう。
 このまま攻撃を受けて体力を削られては、ただでさえ低い勝利の可能性も無くなってしまう。澪紗の戦闘力は決して低くはない——むしろかなり高いのだが——相手が悪すぎる。戦闘において重要なのは、戦闘力や経験も勿論ではあるが、相性も大きく影響してくるからだ。
(まずい。接近戦でもこれだけの力を持っているなんて。あまり、余力を残そうだなんて考えるべきではないわね)
「駄目だ。お前つまんねー」
 バクフーンは攻撃を止めると、澪紗と距離を広げた。
「だから……、とっとと死ねッ! 灰にしてやるぜッ!」
 狂気じみた瞳が見開かれ、肌を焦がすかのような熱気とともに、渦巻く火焔がバクフーンの手先から放たれた。
 赤く光る炎は澪紗の周囲を包みこみ、彼女の逃げ場を完全に遮断してしまった。渦巻く炎は徐々にその輪の形を狭め、ゆっくりと澪紗へと迫っていく。
 炎の直撃はまだ受けていないものの、高熱を帯びた風が肌をチリチリと焼く。このままでは、業火に呑まれるのも時間の問題だろう。しかし、澪紗は諦めたわけではなかった。そもそも、このような場所で朽ちるつもりなどないし、相手が全力でかかってくるのならば、叩き伏せるしかない——そう考えていた。
「クックック……、俺サマの炎に焼かれることを、誇りに思いなぁッ!」
 恐らく、相手は属性の優越や己の力を過信しているため、火焔の渦の外側から傍観しているだけに違いない。勝機があるとするならば、そこに如何にして付け込むかが重要になってくる。そのためには、まず炎を突破しなければならないのだが、澪紗は既にその方法を実行しようとしていた。
 彼女の周りに、冷気を帯びた風が渦巻く。強力な冷気を帯びているのか、ところどころにキラキラと氷の粒が輝いているのが解る。
 炎に対して、氷そのもので挑むのは無謀だが、冷気の場合はその限りではない。実質、冷気を使った技には少なからず氷の魔力が宿っているものの、その実態は氷そのものではなく風が主だ。強力な風を起こせば、炎に対して挑むことは不可能ではない。しかし、風と炎の相性は、良くもあり悪くもある。風向きなどを間違えれば、自分自身の首を絞めることになりかねないからだ。
 澪紗は炎の内側から、逆向きの冷気の風を起こして対抗した。こうなれば、単純な魔力同士のぶつかり合いだ。
「ククッ、やったか」
 火焔の渦が狭まり、獲物に到達した。辺りに黒煙が立ち込める。
 全力で放った技だ。これで倒せない筈がない。バクフーンの青年は、悦楽に浸っていた。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10



この掲示板は過去ログ化されています。