二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- Atonement【ポケモン二次創作】
- 日時: 2012/09/12 19:31
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
初めまして、底辺物書きのTαkαと申します。
ポケモンの二次創作を書こうと思いまして、スレッドを立てさせていただきました。
中世〜近世くらいの文明の世界を舞台とした、王道のライトファンタジーなテイストの作品に仕上げたいと思います。
一応長編ですが1話は短く、あまり重たい話ではありませんので、最低限のネチケットを守って、手軽に読んでいただければなと思っております。
さてさて、まず注意事項です。
・第五世代(BWのポケモン)は多分出ません。
・ストーリーは完全オリジナル。原作と異なる世界を舞台としています。
・属性の相関や技の効果などはゲーム通りではありませんのでご理解願います。ゲームでの数値的なものは一切出てきません。
・擬人化要素有りです。というか、殆ど擬人化です。かなり好みの分かれるところだと思うので、一応。
・ソフトですが、流血・暴力描写があります。苦手な方もいらっしゃると思うので、一応。
・当然ですが、荒らしや誹謗中傷は無しで。短レスやチャット化もいけません。
・私の文章力は非常に稚拙なため、小説と称して良い物なのかは解りません。
・不定期更新のため、しばしば姿を消します。
・小説ストーリーテラー様で書かせて頂いているものと同内容です。
感想は勿論のこと、アドバイスについてですが、辛口大歓迎、というより辛口推奨です。悪い箇所をどんどん指摘してくださると、励みになります。
我こそは、という方がいらっしゃいましたら、ビシバシとこの斜め下にいっちゃってる俺及びこの文章を指摘してください。
目次
第一章 道なき道を求めて
第1話 白昼 >>1-2
第2話 孤児院 >>3-5
第3話 少女剣士 >>6-7
第4話 三流トレジャーハンター >>8-10
第5話 小さな決意 >>11-13
第6話 プレリュード >>14-16
第二章 地神の騒乱
第7話 王都入り >>17-19
第8話 襲撃 >>20-21
第9話 見えぬ未来 >>23-25
第10話 隠し事 >>26-28
第11話 没落貴族 >>29-31
第12話 地神の神殿 >>32-34
第13話 炎の狂戦士 >>36-38
第14話 大地の思念 >>39-42
第15話
登場人物
ハーヴィ&澪紗 >>22
シデン&琥珀 >>35
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.2 )
- 日時: 2012/08/31 20:26
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
「ハーヴィ」
少女が、静かに口を開いた。ハーヴィと呼ばれた青年は、グラスを置いて応える。
「何だ、 澪紗(れいしゃ)」
「さっき情報を集めていたら妙な噂を聞いたんだけど……《タルタロス》の動きが活発になってきているらしいわ」
「ああ、俺も聞いたよ。十数年前にあった邪神大戦の時に暗躍した奴らだろ? 壊滅したって聞いてたけど、各地で動いているらしいな」
《タルタロス》——大戦時から暗躍していたと云われている邪教団である。大陸では邪神とされているポケモンを崇拝し、それの復活を望んでいると云われているが——
その邪神自体が人々の間では伝説に過ぎないのだ。しかし、信仰の厚い《エリュシオン》教徒や古き伝説を語る老人達の間では、彼らの動きを恐れている者が多い。特に、教圏であるメルクリアの中心部では、正規軍が動き始めているらしい。
「何か引っかかるのよね」
「町の中は安全だろうが、辺境に仕事に行くときは、気を付けた方がいいだろうな」
暫くすると、厨房からバウアーが出てきた。彼の持っている大皿には軽く五人前はあるだろうと思われるサンドイッチが盛られており、別の皿には鳥の唐揚げとフライドポテトが溢れんばかりに盛られている。
とても、二人で食べきれる量では無いだろう。その上、このハーヴィと澪紗は、線の細さから推測できるように、あまり食べるようなイメージが無く、少食であるイメージの方が強い。そのためか、大量の料理を目の前に、二人は唖然としていた。
「えっと、オッサン。いくら空腹とはいえ、流石にこの量はねえよ」
「私もこんなに食べられないわよ」
「ああ、俺もこれから昼飯なんでな。ついでに一緒に食っちまおうかと」
そう言うや否や、バウアーはサンドイッチを大きな手でひょいと掴むと、思いきり齧り付いた。彼の外見のイメージにぴたりと合う、豪快な食べ方である。二人は彼の食べっぷりをよく見ているのだが、やはり驚きは隠せないようだ。
バウアーが筋肉質な手をサンドイッチに伸ばそうとした時、店の扉が開き、一人の少年が入ってきた。
手入れされていることが窺えるダークブラウンの髪を束ね、銀製の鎖帷子に身を包んでいる。鎖帷子の上には空色の外套を羽織っているものの、その出で立ちは街——それも昼下がりの喫茶店には不釣り合いにも程がある。
年齢はハーヴィより若いだろう。彼よりも少年としての幼さがハッキリと出ている。中性的な顔立ちであるが、パッチリとした緋色の瞳が彼の覇気を感じさせる。外套の乱れもなく、真面目で誠実そうな雰囲気も窺える。しかし、今まで全力で走ってきたのか、少し息が上がっている。
「んお、こんな時間に珍しいな、シデン」
「はぁ……はぁ……、取り込み中にすみません! ジュノン隊長を見ませんでしたか?」
呼吸を落ち着かせながら、シデンと呼ばれた少年はバウアーに尋ねた。どうやら、人探しをしているらしい。
「いや、見てねぇが……。どうした、あいつまたサボってんのか?」
バウアーは特に驚いた様子はなく、むしろ「ああ、またか」といった感じで半ば呆れていた。
「集合時間がもうすぐなのに、何処に行ったのやら。あの人はいつも……」
「まぁ、あいつも女だからなぁ。商業区で買い物でもしてんじゃねぇか? あまり堅いこと言わずに、多めにみてやれよ。ガキのうちから堅いこと言ってると禿げるぜ?」
助言しつつも軽い冗談を言うのが、バウアーらしい。しかし、シデンはこの世の終わりだと言わんばかりの絶望的な表情で、頭を抱えている。外見から窺えるように、本当に真面目なのだろう。
「まだ、商業区をすべて回ったわけではないので、探してみます! お忙しいところ、失礼致しました!」
ビシッと敬礼を決めると、歳の割に気苦労の多さが窺える少年はダッシュで店を出ていった。相当慌てているのか、露店に激突しそうになっていたのが窓の外からでも見ることができた。
一体何があったのか。ハーヴィはサンドイッチを手に持ったまま呆然としていた。澪紗は特に気にした様子はなく、もきゅもきゅと食事を楽しんでいるようだ。
「なんなんだ、今の騒々しい奴は?」
バウアーに嵐のように過ぎ去っていった少年について話しかけると、ハーヴィはサンドイッチを一口だけ齧り、飲みこんだ。
「ああ、メルクリア王国の《 聖光の翼(リヒテン・フリューゲル)》の騎士だよ。良い奴なんだが、真面目すぎんだよなぁ」
「真面目すぎというより、世渡りが下手そうな感じだな。ありゃあ、近いうちに上司や出世を妬む同僚からいじめられるぜ」
初対面——というよりも、軽く見かけただけの人物を皮肉ってしまうのは、ハーヴィの癖である。そのためか、過去に何度か見ず知らずの人間と諍いを起こしてしまったこともあるらしい。
「あなたと違ってしっかりしてるんじゃない?」
「悪かったな」
澪紗の突っ込みに、ハーヴィは少しばつが悪そうに俯いた。
《聖光の翼》とは、大陸ではその名を知らぬ者はいないと言われる程の、強力な軍団である。五国戦争時代——メルクリア王国と南のマジュード帝国の戦いが激しかった頃、国境付近の防衛線で僅か五百の兵で一万のシュルークの軍勢を退けた事実は、歴史書にはっきりと記されている。
飛行能力を持ったポケモンに乗り、上空から華麗に降下して槍を振るう姿には、敵味方関係なく見惚れたらしい。大きな戦乱の無い今では、王国内の治安維持や魔境のポケモンの討伐、邪教徒の摘発などが主な仕事であるが、それでも騎士団であることは一種のステータスであり、憧れの対象となっている。
「ガキの頃は憧れたけどな」
ハーヴィも例外では無かったようだ。しかし、それは過去形に過ぎない。
何故なら——
「でも、俺には最高の相棒がいるからな。強くて可愛い相棒が……」
ニヤリと笑みを見せて、ハーヴィは自分のパートナーの肩に手を置いた。しかし、それはすぐにそっけない態度で、払われてしまう。
「褒めても何も出ないわよ」
あっさりと一蹴してしまうところが、彼女らしいと言えば彼女らしいのだろう。しかし、ハーヴィもその言葉を気にした様子もない。
「それに、貴方に騎士や軍人なんて向いてないわよ。規律を守りそうもないし」
「はは、手厳しいな」
まあ、事実なので仕方がない。
軍に入ったところで、規律をきっちりと守りながらやっていくという気は、ハーヴィにはないのだが。
「ああ、そうだ。お前ら、夜まで暇なんだよな?」
「ん、まぁな」
「ちと、頼みたいことがあるんだがいいか? 食い終わったらでいいからよ」
「ああ、いつものか。任せときな」
ハーヴィは笑顔で、バウアーからの頼みを快諾した。澪紗もまた肯定を意味するかのような微笑を浮かべている。
報酬も何もない仕事ではあるが、いつも世話になっているバウアーからの頼みということ、そして、これが二人の日課であるため、苦ではないのだ。
いや、報酬はあるのだ。だが、それは二人にとって何よりも嬉しいものであった。
「さて、それじゃあお仕事といくか」
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.3 )
- 日時: 2012/08/30 21:24
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
第2話 孤児院
辺境都市シェルクと王都グランダルトを結ぶアウゼン街道を外れ、半時は歩いただろう。道はあるものの、それはまさに獣道と言うべきもので、左右には木々が鬱蒼と茂り、地面のところどころから根が突き出している。
日の光もあまり届かず、まだ昼だと言うのに薄暗い。当然、街灯もないために夜になれば灯りは欠かせない闇となるに違いない。それに、街道を外れると言うことは、いつ野生のポケモンやならず者に襲われてもおかしくないということでもある。そのため、わざわざ街道を外れるのは、魔境のポケモン討伐を頼まれた者か、余程の命知らずくらいしかいないだろう。
しかし、そんな獣道を進んでいるのは、二人の若い男女である。バスケットを持っているため、ピクニックに行くかのように思えるが——周囲から見れば、危険な場所に自ら歩んでいくこと自体が信じられないだろう。
それでも、二人には目的があった。また、道中で敵に襲われたとしても、太刀打ちするだけの力量は備わっていると、彼らは自負している。
「気をつけて」
何かに気付いたのか。ハーヴィを守るかのように澪紗が前に出た。そして、背を向けたまま手に持っているバスケットをハーヴィに手渡す。
「ん?」
「持ってて。私一人で充分よ」
ポケモンの五感は、人間のそれを遥かに凌いでいる。ハーヴィも、澪紗の注意により何者かに狙われていることに、ようやく気付く。しかし、荷物で両手が塞がっているために、腰に帯びている剣を抜こうとしたが出来ない。尤も、その必要はないことを彼自身解っていたが。
「来るわよ。すぐ片付けるけど、いざというときは、荷物を置いてでも剣を抜いて」
「その必要はないだろ。信頼してるぜ」
「ふん、怪我しても知らないわよ」
そんなやり取りをしつつも、二人は集中を解いていない。
細い腕を前に伸ばし、掌を上に向ける。小さい手の上に青白い光が宿り、収束していく。
「そこっ!」
少女の双眸が鋭くなる。叫ぶと同時に、姿を現した敵に向けて、光を放った。
球状を成していた青白い光は、放たれると同時に夜空を引き裂く電光の如く迸った。しかし、電撃とは明らかに質の異なるそれは、少女の胸を貫かんとばかりに放たれた硬質な円錐型の凶器を空中で静止させた。
静止した巨大な針はすぐに地面へと落下した。硬質な地面では無かったが、巨大な針は硝子のような音を立てて粉々に砕け散る。
「なめられたものね」
「大丈夫か?」
「ええ。敵は大した強さじゃないわ。ただ、少し数が多いわね……」
再び、氷のような鋭い視線で針が飛んできた方向を睨みつける。すると、そこには巨大な針を放ったとみられる敵の大群が姿を現していた。
数は、軽く十体を超えているだろう。両手に巨大な馬上槍(ランス)を思わせるかのような針を携えた蜂の姿が、そこにはあった。
スピアーと呼ばれる種族のポケモンだ。両腕の針には毒を宿していると言われており、刺されれば一溜まりもない。しかし、それでも澪紗は戦慄さえも覚えていない。それどころか、氷の如く鋭い視線には闘志が宿っていた。
襲われる覚えは無いのだが、おそらく知らず知らずのうちに彼らの縄張りに足を踏み入れていたのだろう。人間と共に過ごしているポケモンなら別だが、縄張りに足を踏み入れると言うことは、敵対行動のひとつとして捉えられてもおかしくはない。故意に踏み入れたのではないにしろ、スピアーたちにとって二人は自分たちの領域を侵した敵に過ぎないのだ。
侵略者を排除すべく、蜂の大群は針を一斉に射出した。しかし、澪紗はその針に向けて青白い閃光を放ち、次々と撃ち落としていく。
直線的な軌道のため、相手の攻撃を読むのは彼女にとって容易いことだった。しかし、それでも矢のような速度のある弾を撃ち落とすには、集中力と判断力、そして精神力がどれだけ必要であることか——
「一気に片付けるわよ」
澪紗の周囲の空気が冷えていく。しかし、急激な気温が低下したにも関わらず、ハーヴィは特に驚いた様子もない。何故なら、これが彼女の得意としている技のひとつであることを知っているからだ。
突然真冬になったかのような感覚に、スピアーたちは戸惑いを隠せずにいたようだ。そんな彼らに追い討ちをかけるように猛吹雪が発生し、激しい冷気が打ち付けていく。
冷気を司るポケモン、グレイシアであるからこそ出来る芸当である。彼女にとっては苦ではなく、それこそ肌にとまった鬱陶しい羽虫を叩き潰すが如く容易いことである。
極度の低温は、あらゆる物質や生物の動きを停止させる力を持っている。それは生命活動だとしても例外ではない。スピアーたちは次々とその生命活動を停止し、ボトボトと地面に落ちていった。落ちたスピアーはその衝撃と共に、四肢を粉々にして砕け散っていった。
「終わったわよ」
すべてのスピアーが絶命したのを確認すると、澪紗はフッと微笑を浮かべて振り返った。
「相変わらず、容赦ないな」
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.4 )
- 日時: 2012/08/30 21:25
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
獣道を進んでいくと、やがて広場のような場所に出た。そこでは、十人余りの子供たちが、走り回ったり木登りをしたりと、元気に遊んでいるのが窺える。
広場の奥の方には、朽ちかけた建造物があった。動かなくなった時計に、錆びた女神の像。《エリュシオン》の教会であるが、大戦後から放置されたのか、あるいは長年の風雨で劣化したのかは解らないが——
「いつも通りだな」
「ええ……」
今は孤児院として機能しているのだろう。今でこそ、メルクリア王国では大きな戦乱は無いが、それでも不幸な子供たちは多い。親に捨てられたり、病気などで親を失ってしまう子供たちは、いつの時代でもいるのだ。それでも、子供たちの表情は明るいものだった。明るく振舞っているだけかもしれないが、同じような境遇にいる仲間たちと共に過ごすことで、傷を少しずつ癒しているのかもしれない。
二人に気付いたのか、子供たちが一斉に走ってきた。ハーヴィも手を振り、走ってきた子供たちを笑顔で迎える。相当慕われているのだろう、二人のもとに集まった子供たちはとても嬉しそうである。
「よぉ、よくきたなっ!」
「タク、駄目じゃないのっ! もっとしっかりした挨拶しないと……」
「うるせーよ、マオ。ハーヴィにいちゃんはそんなの気にしないもんな!」
「ふえええん、ジェイがぶつー!」
「そんなことしてないもん!」
「おなかすいたのー……」
などなど、挨拶しに来たのは解るが、それぞれが己の感情を素直に表している。
「ようこそいらっしゃいました」
子供たちの後方から、修道服を纏った一人の女性が現れた。
外見上の年齢は、二十代中盤といったところだろう。若々しさの中にも何処か落ち着きがあり、優しく包み込むような温かさが感じられる。顔立ちも美しいが、何よりも慈愛に満ちた母親のような雰囲気があるのが解る。
服の上からでも解るが、かなり華奢な身体つきだ。しかしながら、弱々しさはまったくといっていいほど無い。
「こんにちは、エレインさん」
「いつもありがとう」
清楚な修道女は、やわらかな笑みを見せてハーヴィと澪紗から食べ物の入ったバスケットと袋を受け取った。
二人はよくバウアーから受け取った食べ物を送り届けていた。国からの援助もあるとはいえ、それだけで十人余りの子供たちを養っていくのは厳しいのだ。戦乱が収まり、大局的に見れば食料に悩むことがまず無くなったメルクリアではあるが、貧富の差は深刻なものとなっているのだ。
「お仕事は捗っていますか?」
「ん、ぼちぼちってとこかな。おっさんにも面倒見てもらってるし」
「そう……」
ふと、エレインは何処か悲しげな表情を見せた。
いつも自分に見せるこの悲しげな表情の原因を、ハーヴィはよく解っていた。
「……やっぱり、不安か?」
「勿論です。今は大きな戦乱は無いとはいえ、魔境に行けば強力なポケモンに襲われることもあります」
そう、彼女はハーヴィの身を案じているのだ。
特に、ハーヴィは孤児院に世話になったというわけではない。しかし、バウアーの依頼で食料を届けているうちに親しくなったのだ。今ではすっかり、子供たちにも好かれている。身を案ずるのも当然のことと言えるだろう。
「ま、寝床もらってるわけだし、自分の食い扶持くらいは自分で稼がないとな」
「そうですか……」
ハーヴィには、親がいなかった。傭兵だった父親は彼が産まれる前に東国の戦場にて散り、母親も彼を産んですぐに、世を去ったのだ。そこを、彼の父と親しかったバウアーが引きとったのだという。
彼の性格は、誰からも好かれるものだった。そのためか、周りともすぐに打ち解けていき、実の親はいなかったものの決してつらい生活ではなかった。歳の割に、意外にしっかりとしていたところがあったのだろう。今でも、人気者というわけではないものの、誰とでも良い関係を築いている。
「ハーヴィにいちゃん、一緒に遊ぼうぜー」
「あー、解った。解ったから引っ張るなって! というわけで、ちょっと付き合ってくる」
子供たちに服を引っ張られ、ハーヴィは小走りで彼らについて行った。
「ごめんなさいね、貴女のパートナーなのに」
「いえ、気にしなくていいわよ。なんだかんだいって、彼も楽しいみたいだし……」
子供たちの中に一人の青年がいるために浮いているようにも思えるが、不思議と違和感がない。子供にも好かれやすいのかもしれない。早速振り回されているハーヴィを見て、澪紗は微苦笑を浮かべた。
========================
なんてこった、想像以上に字数制限が厳しい。
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.5 )
- 日時: 2012/08/30 21:29
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
香茶の上品な香りが、部屋の中に充満している。決して上質な茶葉ではないものの、午後の一時を満喫するには十分すぎるだろう。貴族達には嘲笑されるかもしれないが、庶民にとっては茶菓子も合わせれば、少し贅沢な気分になれる。
寂れた孤児院とはいえ、部屋の中は清潔感が漂っていた。外側から見れば少しみすぼらしいものの、部屋全体を見渡すとしっかりと清掃されており、物が散らかっている様子も感じられない。子供達の世話と共にこのようなことも一人でやっているというのだから、彼女——エレインはなかなか凄い者なのかもしれない。慣れていない者がこれだけの仕事量を毎日こなせば、過労で倒れてしまうに違いない。
「悪いわね、忙しいのに上がらせてもらって」
「いいのですよ」
まさに慈愛に満ちた聖母といった感じの微笑み。見ているものの心の闇を振り払い、明るく照らし出す光のように思える。
相変わらずね、と澪紗は独りごちる。
王国が冷戦状態にあった十数年前に比べれば、だいぶ平和になっただろう。それでも、世界全土という範疇で見れば、その平和も各国間の均衡の上でギリギリ成り立っていると言うものにしか過ぎない。共和国とは国交が回復しているとはいえ、冷戦時代を過ごしていた者にとっては、やはり信頼できる相手ではないと言うのが事実だ。
仮初の平和とでもいうのだろう。治安状態が安定しているメルクリア王国であるからいいものの、他国で生きていくにはエレインの性格はあまりにも優しすぎる。
いや、国に限ったことではない。いつの時代も、心優しき者というのは悪意ある者に貶められていくのだ。汚れひとつない白を見れば、誰もが黒で汚したくなるように。しかし、彼女のような者がいるからこそ、こうして不幸のどん底にいた子供達の明るい笑顔が見られるのかもしれない。
そう考えると、自分はどれだけ汚れているのだろうか。
「どうしました?」
「いえ、何でもないわ」
私らしくない——
自分の過去を思い出してしまったのか、少し情けなくなってくる。しかし、誰にも触れられたくないために、何とか込み上げてくる感情を抑え込む。
そう。これは自分自身の問題なのだから。
「隠さなくてもいいんですよ」
この人に隠し事は通用しないか——
澪紗は深い溜息をつくと、香茶をゆっくりと啜った。
「貴女には敵わないわね」
「誰にでも、心の闇というものはありますよ。それに、過去に犯した罪というものは決して消すことはできない……。生きていく上では、必ず背負わなければなりません。《創世神アルセウス》様も、この世界を創造するために多くの犠牲を払った。そのように聖典に記されています」
「そうね……。礼拝堂あいてるかしら?」
「はい。いつでもどうぞ」
ほんの気休めにもならないというのは解っていた。しかし、いつもエレインは悩める時に、神に祈ることを勧めてくる。敬虔な《エリュシオン》の信者なのだろう。澪紗には信仰するものは無かったが、断るのも悪いためか、礼拝堂で祈ることは日課となっていた。
現実的な者から見れば、神という存在に縋るのは馬鹿馬鹿しく思えるだろう。それでも、誰もが悩める時には、知らず知らずのうちに頼ってしまうのは事実である。目に見えない何かに——神という精神上の存在に縋ってしまうのは、生けるものの性なのかもしれない。
(《創世神アルセウス》か……。神様なんていても、無慈悲なものね)
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.6 )
- 日時: 2012/08/30 21:33
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
第3話 少女剣士
淡い月光と無数の星々が、漆黒の夜空を彩っている。空気が澄んでいるため、北の空の中央に位置する《綺羅星ジラーチ》の輝きも、一層に強く感じられる。
《創世神アルセウス》ほどの頻度ではないが、その名は《エリュシオン》の聖典にも出てくる。彼の星が中央から動いたときに厄が起きる、また、強く念じることにより願いが叶う——といった内容の話が記されているが、結局は作り話でしかない。其れを真に受けるのは、少し捻くれた占星術師か、寝物語にそれを聞いた幼い子供達くらいだろう。熱心な信者でさえも、法話のひとつとして覚えておくくらいだ。
勿論、二人にとってもただの作り話でしかない。伝説の名を冠している綺羅星も、方角を確認するためのものでしかないのだ。尤も、方角を知りたいと言う願いは叶っているのかもしれないが。
星空が美しいのは事実である。親しい者同士で大地に背を預け、満天の星を見るというのもロマンがあって良いだろう。尤も、依頼者のいる場所へと向かっている彼らには、そのようなことをしている暇などない。
アルテ山の旧街道には、人の姿が見られない。時間が夜というのもあるが、治安の悪い辺境の道を好んで歩く者は少ないだろう。それに、現在は新たな道も作られており、獣道となりつつある旧街道を態々通るというのは、実に馬鹿げた選択だ。
「面倒な依頼を受けたものね」
澪紗は深い溜息をつき、パートナーたる青年に抗議の視線を向けた。グレイシアの特徴の出た細長い耳も、少し垂れている。ご機嫌斜めのようだ。
無理もない。アルテ山は、シェルクからやや遠いため、交通の便が良いとはいえない。運び屋のギャロップに頼まなければ、到着するころには数日が経過していただろう。孤児院で長く寛ぎすぎてしまったというのもあるが、それは致し方の無いことだ。
山岳地帯にはギャロップで入るのは厳しいため、目的地へ向けては徒歩でいくしかなかった。上り坂ではあるが、然程急ではないため、体力的な面では特に問題はなかった。
「悪いな。もうちょっと場所とかも調べとくべきだったか」
ハーヴィもまた、少し反省しているようだ。しかし、つい依頼を受けてしまうのは、彼の性格故か。よろず屋として生計を立てている二人だが、汚れ仕事以外は基本的に受けている。
「詳しく聞いてなかったけど、依頼はどんなものなの?」
「遺跡の調査の護衛だそうだ。依頼者とは、現地で待ち合わせしてるが……」
依頼内容の書かれた紙を懐から取り出し、軽く目を通す。筆跡を見ると癖のある乱雑な字で、文の右側が上がったり下がったりしている。言ってみれば、字が下手糞なのだ。何とか読める範囲なのが救いだろう。
「えーっと、エルダイン山岳遺跡ね。特に目ぼしいものは見付からず、今は捨て置かれているみたいだけど……。そんなところを調査するなんて、何のつもりかしら?」
「さあな。でも、そんなところだからこそ、凄いものが眠ってるってこともあるんじゃねえか?」
メルクリアに限らず、大陸——いや、世界中には、無数の遺跡がある。その多くは領国の調査隊によって掘り起こされており、学者の間でも様々な研究がされている。エルダイン山岳遺跡もそのひとつであるが、大きな発見もなかったために、また、交通の便が悪いというのも理由に、調査が打ち切られている。
「もっと詳しい話は聞かなかったの?」
「ああ。冒険者ギルドの仲介で受けた依頼だしな。その依頼者の面もまだ見ていないさ。この筆跡からすると……性格は捻くれていそうだな。依頼者は、冴えない学者野郎——研究で家族を顧みない遺跡オタクってとこか」
再び、下手糞な字を目で追う。
「よく解るわね」
「職業はともかく、字には性格が出るからな」
「ふぅん、性格ね。貴方は素晴らしい性格なんでしょうね」
「…………」
どこか信じられないような視線で睨まれたような気がしたが、何事もなかったかのようにスルーをする。澪紗には敵わない——それを充分に理解しているのだ。
何だかんだ言って、二人の相性は抜群に良いのだ。このようにお互いを気にせずに言えるということは、それだけ強い絆で結ばれているということがよく解る。
「依頼者の名は、フィン・ヴェールか。果たして、俺の推測は当たってるのか。せめて、外見上の特徴とかも書いておいて欲しいがな」
「こんなところにいる人なんて限られるわけだし、すぐ見つかるんじゃない?」
「ま、それもそうか」
早くこの面倒な仕事を終わらせよう。そのような思いを胸に、二人は目的地へと向けて足を早める。途中、岩肌に化けていたイシツブテやゴローンといったポケモンたちが二人を阻んだが、それらを難なく撃破していった。
十分ほど歩くと、異様な気配を二人は察知した。道中で何度かポケモンとの戦闘はあったものの、それとはまた異なる——人の気配だ。
「何だ?」
ハーヴィは片手剣の柄に手をかけ、澪紗は右手に冷気を帯びた光球を収束させた。いつでも戦闘に移れるだろう。
今までは比較的フラットな道だったものの、岩の柱が増え、入り組んだ地形になってきている。そのためか、周囲の状況が把握しづらい。岩陰からの奇襲があることを警戒しながら、二人は足を進めた。
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