二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- Atonement【ポケモン二次創作】
- 日時: 2012/09/12 19:31
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
初めまして、底辺物書きのTαkαと申します。
ポケモンの二次創作を書こうと思いまして、スレッドを立てさせていただきました。
中世〜近世くらいの文明の世界を舞台とした、王道のライトファンタジーなテイストの作品に仕上げたいと思います。
一応長編ですが1話は短く、あまり重たい話ではありませんので、最低限のネチケットを守って、手軽に読んでいただければなと思っております。
さてさて、まず注意事項です。
・第五世代(BWのポケモン)は多分出ません。
・ストーリーは完全オリジナル。原作と異なる世界を舞台としています。
・属性の相関や技の効果などはゲーム通りではありませんのでご理解願います。ゲームでの数値的なものは一切出てきません。
・擬人化要素有りです。というか、殆ど擬人化です。かなり好みの分かれるところだと思うので、一応。
・ソフトですが、流血・暴力描写があります。苦手な方もいらっしゃると思うので、一応。
・当然ですが、荒らしや誹謗中傷は無しで。短レスやチャット化もいけません。
・私の文章力は非常に稚拙なため、小説と称して良い物なのかは解りません。
・不定期更新のため、しばしば姿を消します。
・小説ストーリーテラー様で書かせて頂いているものと同内容です。
感想は勿論のこと、アドバイスについてですが、辛口大歓迎、というより辛口推奨です。悪い箇所をどんどん指摘してくださると、励みになります。
我こそは、という方がいらっしゃいましたら、ビシバシとこの斜め下にいっちゃってる俺及びこの文章を指摘してください。
目次
第一章 道なき道を求めて
第1話 白昼 >>1-2
第2話 孤児院 >>3-5
第3話 少女剣士 >>6-7
第4話 三流トレジャーハンター >>8-10
第5話 小さな決意 >>11-13
第6話 プレリュード >>14-16
第二章 地神の騒乱
第7話 王都入り >>17-19
第8話 襲撃 >>20-21
第9話 見えぬ未来 >>23-25
第10話 隠し事 >>26-28
第11話 没落貴族 >>29-31
第12話 地神の神殿 >>32-34
第13話 炎の狂戦士 >>36-38
第14話 大地の思念 >>39-42
第15話
登場人物
ハーヴィ&澪紗 >>22
シデン&琥珀 >>35
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.7 )
- 日時: 2012/08/30 21:33
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
「おいおい、マジかよ」
「酷いものね」
一人の男が倒れていた。服装を見ると、盗賊か何かの類だろう。身体中から血を流している。血の色を見る限り、まだ傷は新しいものの——呼吸は停止し、瞳孔も開いていた。既に事切れているだろう。
死因は失血死と見て間違いなさそうだ。傷口の開き方を見ると、普通の剣で斬られたような跡ではなく、棘のようなものでズタズタに引き裂かれているのが窺える。このような芸当は、人間には不可能だ。
「チンピラ同士の争いか? お国のお偉いさんは何やってんだか。面倒に巻き込まれないよう、とっとと行こうぜ?」
「そうもいかないみたい」
周囲に小さな氷塊を浮遊させつつ、澪紗はため息をついた。
「何だってんだ」
澪紗の呼びかけに応じ、彼女のもとに行くハーヴィ。
そこにあった光景は——
ガラの悪い男達に囲まれた、二人の少女の姿だった。
二人の少女は互いに背を預け、自分たちを包囲している盗賊達と対峙していた。
一人は、縦にロールした金髪の少女だ。澄ましているというわけではないものの整った顔立ちで、鋭い碧眼からは気の強さのようなものが窺える。まるで、何処かの貴族の娘のような気高さもある。
右手には細身の剣——レイピアが握られており、舞うような動作で敵を次々と倒していく。片手剣の中でも扱いが難しいと言われているレイピアを軽々と使いこなす辺り、相当な場数を踏んできているというのは、素人が見ても解るだろう。
もう一人は、銀髪をツインテールに結んだ娘だ。その髪型のため容姿には幼さがあるものの、赤と青のオッドアイには、彼女のパートナーであろう金髪の娘に勝るとも劣らない闘志が宿っている。
こちらは亜人種のポケモンだろう。波打った刀身が特徴的なフラムベルクを掲げながらも、手から光の球を放ったり、茨を地中から召喚したりと、人間には不可能な戦い方で、敵を倒していく。
攻撃方法や、両手のガントレットを彩る赤と青の薔薇を見れば、彼女の種族がロズレイドであることが解る。先程の無惨な死体も、彼女の攻撃によるものであることは明らかだろう。
「凄いな。相当なやり手ってとこか。だが……」
限界だろう——
旗色は決して悪くない。少女でありながら、戦い方を見る限り戦闘の経験は豊富だろう。しかし、多勢に無勢。如何に優れた一騎当千の猛者といえど、多数の相手と対等に戦うのは難しい。事実、彼女達の表情には、疲れの色が見え始めていた。
「どうするの? 助けに行くの?」
どうすべきか、澪紗はハーヴィに尋ねた。
もっとも、返ってくる答えは解っていたのだが。
「どっちを助けに?」
答えは決まっていたが、ハーヴィは敢えて澪紗に尋ねる。
「本気で言ってる?」
容赦ない突っ込みに苦笑しつつも、ハーヴィは小振りの片手剣——グラディウスを構え、敵へと突貫した。
乱戦であったため、二人の存在は感づかれていなかったようだ。そのため、ハーヴィによる奇襲は功を成し、敵の間に動揺が広まった。
「なっ、何ですか、貴方達は!?」
金髪の少女が声を上げる。
それにより少し集中が乱れたのか、振り下ろされてきた刃に僅かに反応が遅れる。しかし、すぐに体勢を整えてバランスを保つと、敵の攻撃をすぐに受けて弾き返した。
「いいから今は敵に集中しろっての。とっとと片付けるぞ」
ハーヴィは斬りかかってきた盗賊の攻撃を身を捩じらせて回避し、隙が出来たところを背中から斬り伏せる。赤黒い液体を撒き散らしながら、盗賊は下品な悲鳴を上げて絶命した。
横からの殺気。しかし、大した速度ではないために問題なかった。グラディウスの刀身で相手の刃を受け止め、急所に向けて蹴りを入れる。盗賊のバランスが崩れたところに、研ぎ澄まされた氷刃が降り注ぎ、喉元に深々と突き刺さった。
「旅のお方か? ともかく、助太刀感謝する!」
ロズレイドの少女は戦い慣れしているようで、敵を見据えたまま加勢に入った二人に礼を言った。
「お喋りは後よ。今は、敵を倒すことに集中しましょう」
戦いの最中に於いても、澪紗は冷静さを失っていなかった。次々と氷刃を放ち、接近された敵に対しては、短剣で応戦する。
「……そうだな」
容姿とは何処かかけ離れた——やや男勝りとも思えるような口調で頷く。
葉の刃を切り抜けて接近してきた敵の腹にフラムベルクを突き刺し、呻いたところに光の球を直撃させる。炎とは異なる強力な熱を持ったそれは敵の肌を爛れさせ、波打った形状の刃により抉られた傷口からは、夥しい量の血液が噴出した。
「させないわよ」
攻撃後の隙を狙いって斬りかかってきた敵に、至近距離で冷気の光線を放った。光線の直撃を受けた盗賊は悲鳴すら上げずに全身が凍結し、一体の氷像となる。そこに、無数の葉の刃が降り注ぎ、氷像を粉砕した。痛みを感じる暇すら無かっただろう。
「よし、こんなところか」
最後の一人を倒し、刀身についた血を拭き取って辺りを見渡す。四人の周りには、二十人ほどの盗賊の死体が転がっており、一部の者は戦闘力に圧倒され、逃げ出したようだ。
温まった身体に、夜の涼風が心地よくさえ感じられた。
「何処の何方かは存じませんが、助かりました」
「ありがとう。我々だけでは、少々骨が折れた」
金髪の少女はスカートを掴んでお辞儀をし、ロズレイドの少女は騎士を連想させるかのような敬礼で、二人に感謝をした。
ハーヴィは何処かの貴族だろうか——と思ったが、突っ込まないことにした。
「とりあえず怪我も無いみたいだし、良かったんじゃねえか」
服や肌のところどころに返り血がかかっているくらいで、特に傷と見られるものは無い。闘っていた相手が弱かったというのもあるが、いらぬ心配であったようだ。
「それじゃ、俺達は依頼があるから行くぜ?」
「あ、あの!」
「ん?」
「依頼ってもしかして……」
まさか——
「よろず屋のハーヴィ・ウォーデンさんですか?」
依頼者は、この少女だった。
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.8 )
- 日時: 2012/08/30 23:23
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
第4話 三流トレジャーハンター
遺跡の中は、異様な臭気に満ちていた。日の光が届いていないためか、黴が繁殖しているのだろう。石畳のところどころにはヒビが入っており、老朽化も進んでいるようだ。調査も打ち切られているだけあってか、修繕されたような跡もない。
未知の文明が栄えていた頃のものであるらしいが、朽ち果ててしまった今では、それを知る術もない。このような場所を調査する意味なんかあるのだろうかと疑問に思いながらも、ハーヴィは依頼を遂行することに集中する。
「トレジャーハンター?」
「はい。まだ始めてから間もないんですけど」
話によると、少し前に王都を発ってから、此処まで来たようだ。トレジャーハンターを名乗るには、まだまだ甘いだろう。王都の情報屋から仕入れた情報を頼りに此処まで来たらしいが、態々大したものが望めないようなところを初めから狙う辺り、素人と言われてもおかしくない。
しかし、戦闘技術は目を見張るものがあった。刃の形状から攻撃が単純になりがちなレイピアを使いこなし、多勢が相手でも怯まずに戦っていた。彼女のパートナーであるロズレイドの少女——名をジャンヌと言うらしいが、彼女との連携もしっかりとしているのだ。多勢の敵に囲まれていた先程のことを考慮しなければ、護衛する必要などなかったに違いない。
「何か、そっちも苦労しているらしいな」
「ああ、解るか? だが、私はエル……こほん、あの方に一生ついて行くと決めたのだ」
先行するフィンに聞こえないような小声で、ジャンヌに話しかける。彼女も少し苦労しているようで、微苦笑を浮かべてそれに応えた。
何かを言いなおしたのが気になったが、ハーヴィは敢えて詮索しないことにする。自分達の目的は彼女達の手助けをすることであり、素性を調べる立場ではない。
「不器用な奴だな」
ぼそりと、素直に思ったことを口に出すハーヴィ。
「貴方みたいな適当な人ばかりじゃないのよ、世の中は」
澪紗の容赦ない突っ込みに、ハーヴィは肩を竦める。
「お二方は仲が良いんだな」
フッ、とジャンヌが笑みを見せる。高飛車そうな雰囲気ではあったが、その微笑みはまだ幼い少女のものだ。
「よく言われるけどな」
ふと、澪紗が足を止めた。
「待って。此処って人目に触れず、ずっと放置されてたわけよね」
「そうみたいですけど、それが何か?」
怪訝そうに尋ねるフィン。やはり、トレジャーハンターとしての適性はあまり高くないのかもしれない。
「そのような場所だからこそ、敵襲に警戒した方がいいんじゃないかしら?」
「そうだな。警戒するにこしたことはないってか」
少し慎重になり過ぎではないかと思ったが、今まで澪紗の慎重さに何度も助けられてきたために、彼女に従うことにする。
ハーヴィと澪紗はフィンとジャンヌを守るかのような布陣で、歩くスピードを抑える。彼女達の腕前なら問題ないだろうが、依頼人に怪我があっては色々と面倒なことになるからだ。
「それにしても、二人とも結構やるんだな」
ハーヴィが訪ねたのは、剣術のことだ。先ほどの戦いを見る限り、フィンとジャンヌは只者ではないことを窺わせる。
「幼い時から、家の習わしで剣を仕込まれていたので。旅を始めたのは、つい最近なんですが……」
「家の習わし、ねぇ……」
何処かの上流階級のお嬢様といったところだろう。堅苦しい家庭に嫌気がさして抜け出してきたか、それとも追い出されたかのどちらかだろう。事実、貴族の令嬢が家出をするという事件は珍しくない。尤も、それについて詮索する気など毛頭ないのだが。
優れた戦力を持っていながら護衛を頼んだのも、それなら理解できる。万が一というのもあるが、単に冒険する仲間が欲しかったというのもあるに違いない。
「うーん、珍しいものが眠ってると聞いて来たんですが、なかなかそのようなものは見当たりませんね」
「…………」
トレジャーハンターがどのような仕事かまだ解っていないらしい。まだ捜索を始めてから時間が経っていないのに、お宝の心配をしている辺り、素人なのだろう。その辺りは経験を積めばなんとかなるのだが、フィンの行動を見ているとあまりにも警戒が足りていない。そこは、彼女のパートナーであるジャンヌがカバーしてくれているのだろうが、過信しすぎるというのも考えものだ。
通路を暫く進むと、広い場所に出た。この先には道は続いていないようだ。
「行き止まりですね」
フィンが残念そうに呟く。
「いいや、このような場所は案外怪しいもんだぜ」
ハーヴィは瓦礫を退かしたり、壁の様子を調べ始めた。
「特に此処とかな。見るからに怪しい」
地面を見ると、擦り減ったような跡があった。それも自然によるものではなく、何か固い物同士で擦れたような跡だ。よく見ると、何者かが踏み荒らしたかのような跡もあり、それがまだ新しいことも窺える。
「こういうところを調べてみると……、ほらな」
「隠し扉か?」
フラムベルクの柄に手をかけて、ジャンヌが興味深そうに覗いてくる。
「だな。古典的だが、解りづらい場所に仕掛けてやがる」
壁の奥から聞こえた風の音を聞き、この先に隠し通路があることを推測する。案の定、壁には扉が隠されており、更に奥へと続く道が発見された。
一行はより警戒心を強め、その通路の先を進んでいった。
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.9 )
- 日時: 2012/08/30 23:23
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
「明らかに誰かがいるって感じだな。それも大勢か」
「シュヴェルトベルクの時みたいに、敵陣に突撃とかごめんだわ」
「そこまで浅はかじゃねえよ」
澪紗の忠告を軽く受け流しつつ、ジメジメとした通路を進んでいく。
道中では、明らかに今までとは違う雰囲気が漂っていた。壁はしっかりと補修されており、先程まで充満していた黴の臭いも無い。ところどころに、ゴミが落ちているということからも、何者かがこの先にいるということを示している。
「ビンゴ」
曲がり角の先には、先程の広場の十倍はあるだろう、大きな空洞が広がっていた。そこには、先程の盗賊達の仲間だろう、同じような格好をした男達がうろついているのを窺える。
「おいおい、盗賊団のアジトってのは想定外だぜ?」
「あまり首を突っ込まない方がよさそうね」
相手に気付かれぬよう、壁際に身を隠して、盗賊達の様子を窺う。
(にしても……、ただの盗賊団じゃない? さっきのガラの悪い奴らの他に、見たことものないような奴らがいるな)
何やら、物品類の取引をしているようだ。彼らの間では特に珍しい光景ではないものの、法律では禁じられた物品の取引も行われていることが多い。特に最近では、邪教団との繋がりも深刻な問題となってきている。
男達の中に知った顔があったのか——、彼らの中の親玉と見られる人物を見て、フィンは驚愕の表情を見せた。
「あの人は……。私に……情報を……」
「なんだって?」
「私、あの人から此処の情報を貰ったんです」
なるほど——
一目見れば、フィンが良いところの出だということは解る。それを狙って、人質を取り、金を巻き上げようという考えなのだろう。もしくは、女というのを理由に、いかがわしいことを考えているのかもしれない。
どちらにしろ、二流三流の盗賊団がやりがちな手口である。あまりにも稚拙で、解りやすい手口だ。簡単な誘いに乗ってしまう辺り、フィンが騙されやすすぎる——真っ直ぐすぎるというのもあるだろう。
良くも悪くも、字体による性格と人物像の判断は外れたなと、ハーヴィはため息をついた。
「どうしたものか。あまりにも数が多すぎる。先程の二倍以上はいるぞ?」
ジャンヌはいつでも戦闘に入れるよう、右手をフラムベルクの柄に手をかけ、左手には魔力を帯びた葉の刃を漂わせている。しかし、相手の数の多さに、踏み込むことを躊躇しているようだ。
「流石にあの数は厳しすぎるわ。例え倒せたとしても、無傷では済まない」
「だな。俺もこんなとこに墓標を建てられんのはごめんだ。フィンさんには悪いが」
「退いた方が良さそうね」
一行は乗り込むことを諦め、来た道を引き返すことにした。
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.10 )
- 日時: 2012/08/30 23:24
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
盗賊団のアジトを見つけてしまっただけに、来た道を引き返すのは至難の業だった。襲撃は無いものの、何度も後ろを振り返って追手がいないかを確認しなければならないからだ。また、後ろだけではなく、前方にも気をつけなければならない。他の仲間が帰ってくるということも考えなければならないからだ。単純な構造は、このような時に不便なものである。
「さっきのどうするかね」
ハーヴィは深い溜息をついた。
「私の方から、警備の方に伝えておきます」
「そうかい。何も盗られちゃいないが、事前に言っといた方がいいだろうな。取引していたブツに、麻薬や兵器があるってのも考えられるからな」
盗賊以外にも不審な者達がうろついていたからな、と言いそうになったのをハーヴィは何とか抑え込む。この場は下手に口に出すよりも、国家権力に頼った方が面倒なことにならないためだ。
少し不安ではあったが、しっかりとしているジャンヌがいるために問題ないだろう。
「あ、報酬ですが……」
「ああ、いいよ。前金だけでも十分貰ってる」
事実、前金だけでも一週間の生活費を超えるだけの金額だった。これで残りの金まで貰ったら、相当な金額になるだろう。
普通なら此処で貰うのだろうが、事実それほど働いたような感じはしない。それに、報酬にがっつくほどハーヴィは欲深い人間ではなかった。
「恐れてた通り、誰か来たようだぜ」
通路に響く足音。それも、ただならぬ人数ではない。恐らく、数十人はいるだろう。
「このまま戻っても、進んでも大軍にぶち当たるわけか」
「ごめんなさい、私が依頼をしたばかりに……」
「こればかりは仕方無いだろ。澪紗、悪いな。また突っ込むことになりそうだ」
グラディウスを抜刀し、通路を走りだすハーヴィ。彼の後を、ジャンヌ、フィン、澪紗の順でついて行く。
予想通り、はち逢わせたのは盗賊達だった。先ほどよりは人数が少ないため、突破するのは容易いだろう。
ハーヴィはあまり物音を立てぬよう、そして一撃で相手を絶命させることが出来るように、盗賊達の急所を狙ってグラディウスを振り翳した。彼らは反撃も出来ずに、喉元に刃を突き刺され、血を噴き出しながら絶命する。
彼の突撃を潜り抜けてきた者には、後続の者達の援護攻撃が待っていた。ある者はレイピアを眉間に突き立てられ、またある者は葉の刃により細切れに、そしてある者はそのまま二度と動かぬ氷像と化していく。
「なんか妙だな……」
「ああ。あまり戦意が感じられない」
ハーヴィとジャンヌは前線で敵を突破していったが、違和感を覚えていた。盗賊達の様子を見ると、先程とは明らかに違う。普通、彼らならば敵を見かければすぐに襲いかかってくるだろうが、そういった動きが殆ど見られないのだ。
顔を見ると、恐怖や焦りに染まっていた。まるで、何者からか逃げるかのような——
「何か来るわ」
後方から氷弾によるサポートをしていた澪紗が、ピクリと耳を動かした。
「ああ、この足音は盗賊の連中のものじゃねえな」
人間の足音だということは解る。しかし、それには激しい金属音を含んでおり、皮製の靴で鳴るような音ではない。
「かと言って、このままアジトに引き返すってわけにもいかないからな。このまま突っ切るぞ」
「そうね。そろそろ、奥にいた連中が騒ぎを聞きつけて来るかもしれない」
「走れるか?」
フィンは無言のまま頷く。
敵中を突破するには、相手にするのは最低限の敵だけでいい。無駄に戦えば、それだけ無事に帰還できる確率が低下してしまう。
四人は武器を掲げたまま、足を速めた。徐々に、金属音が近くなっていく。もしそれが敵だとするなら、戦闘は避けられない——
丁度、曲がり角を曲がろうとしたときだった。
待ち受けていたのは、プレートメイルに身を包んだ集団だった。腰にはブロードソードを装備しており、鎧の胸にはメルクリア王国の紋章である交差した槍と翼が刻まれている。
「なんで王国の軍隊がこんなところに……」
ハーヴィは軍隊の装備を見て、軽く舌打ちをした。
《天龍の盾(ドラグーン・シルド)》という、大きな権力を持った騎士団だ。《聖光の翼》とは異なり、より貴族に近しい存在のため、ハーヴィにとってはあまり相手にしたくない存在だった。過去に酒場で喧嘩した時に、彼らに捕捉されたこともあるため、良い印象を持っていないというのもあった。
規模から察すると、小隊だろう。パートナーであるポケモン達も、守備に重きを置いた屈強そうな者が多い。亜人種と原型はまちまちであるが、どれも優れた能力を持っているに違いない。
「お嬢様、ジャンヌ殿。こちらでしたか」
部隊のリーダーと思しき者が前に出る。若い男だ。緋色の鋭い瞳に、背中まで伸ばされた美しい赤髪。一見優男のようにも見えるが、彼が纏っているのは武人らしい堂々たる覇気。
従えている亜人種のポケモンは、見たことのない種だった。全体的に露出が多い女性だ。スタイルもかなり良く、最低限の部分を鈍色の鋼鉄で守っているだけのため、正直目のやり場に困る。美麗な銀髪の美女だが、緋色の虚ろな瞳からは生気が感じられない。
淡々とした声だ。あからさまな敵意は無いものの、決して受け入れやすいとはいえない。
「探しましたよ。いつも申し上げておりますが、勝手に城を抜けるようなことは控えていただきたい」
男はそういうと、部下達をフィンとジャンヌの傍らにつけた。そして、二人は部隊の中へと連れ添われていった。途中で二人は振り向き、ハーヴィ達に申し訳なさそうな表情を見せるが、部下に咎められたのかすぐに背を向けてしまった。
「なんか物々しいが、俺にも解るように説明してほしいものだな」
この者達の素性はだいたいは解っていたが、どうも態度が気に入らなかった。ハーヴィは苛立ちを覚えながらも、赤髪の男に尋ねる。
「話はあとで聞こうか」
男の声は冷たかった。
そして——
ハーヴィと澪紗を取り囲むかのように、男の部下がつく。フィンとジャンヌを相手にした時よりも、乱暴な扱いだ。
「連れていけ」
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.11 )
- 日時: 2012/08/31 07:59
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
第5話 小さな決意
城塞都市レイナード。首都グランダルトや国境の都市シェルクから徒歩で五日から六日ほど——機動力に長けたポケモンを使えば半日ほどだが——の距離にある都市で、先には未開の地が広がっている。
地理的にも決して恵まれていない都市のためか、ほぼ完全な軍事基地となっている。宿屋や酒場などもあることはあるが、グランダルトやシェルクのような大きなものはない。訓練を終えた兵士達が、同僚と愚痴る程度の粗末な店が数軒ある程度だ。
薄暗い部屋——
黴臭い布団に、頑丈な鉄格子。壁には無骨な鉄板が打ち付けられており、床には地味な配色の石畳が敷き詰められている。灰色一色のその空間は、その場にいる者の雰囲気を陰鬱にさせるものだった。
鉄格子の先には、同じような狭い部屋がいくつもあり、通路にはハルバードを背中に担ぎ、サーベルを腰に帯びた兵士達が徘徊している。
「おい、直接じゃないとは言え盗賊退治に協力してやったってのに、何で俺達まで捕まんだよ」
「依頼者は、武家のお嬢様で行方不明。その状態で盗賊団のアジトに一緒にいたのを見られたんじゃ、盗賊の仲間と疑われても無理ないわよ」
鉄格子にしがみついて抗議するが聞き入れられず、ハーヴィの声は牢屋の中に空しく反響しただけだった。そこに容赦ない澪紗の突っ込みが入るため、彼はますます空しい気分になった。喚いたところで無駄だと気付くと、ハーヴィは軽く舌打ちをして、粗末な寝台に身を投げ出した。
彼らがいるのは、王国の都市レイナードの監獄だ。此処に連れてこられたのは、単なる誤解であった。フィンの言葉も聞き入れられず、盗賊の仲間だったという疑いも晴らせなかったのだ。
一般人が行方不明になったとしても、国にとっては大したことではないだろう。しかし、貴族の令嬢が行方不明にでもなれば、それは国にとっては大騒ぎになる。貴族社会が根強く残っているメルクリアでは、これが現実なのだ。
また、国だけではなく、その家の名誉にも関わってくる。
貴族社会というものは、外部からの圧力にも強く、権力を振りかざすだけでやっていけるような、至極単純な物のように思えるが、それは間違いである。人によるスキルや実力の違いはあるとはいえ、誰か一人が欠けるだけで機能しなくなるのだ。
また、貴族同士の確執というものもある。表向きは親しくとも、裏ではお互いに権力を握るために様々な計略を張り巡らせていることも珍しくない。尤も、現在はそれも落ち着いてきているのだが、それでもネームが重要となってくる貴族にとっては、一大事となりうるのだ。
「畜生、これで誘拐疑惑までかけられたら……」
「良くて鞭打ち、最悪の場合処刑ね」
相変わらず、淡々とした口調で答える澪紗。
「よく冷静でいられんな、お前」
「私は事実を言ったまでよ」
確かに、そうかもしれない。しかし、二人はこんなところで死ぬのはごめんだと思っている。まだやり残したことがどれだけあるか。
それならば——
「逃げるしかねえな」
心の内を見透かしたかのように、ハーヴィが言う。しかし、武器は取り上げられており、監獄の結界の力によって澪紗の魔力も完全に抑えられている。そうなると、脱獄は難しいだろう。それに、辺りを調べたが抜け穴のようなものはない。壁を壊して進むという強行突破も、賢いと言える手段ではない。
小窓はあるものの、位置が高すぎる上に、とてもではないが人の通れるようなスペースではない。
その時、鉄格子の扉が鈍い音を立てて開いた。
そこには、一人の若い男——いや、少年が立っていた。
ダークブラウンの髪を後ろで束ねており、顔立ちは中性的。服装や装備は他の兵士達と同じであるが、この少年には不釣り合いに思える。それも、彼には武器を持って戦っているようなイメージが浮かばないのだ。
「失礼します!」
ビシッと敬礼を決めるが、顔立ちの幼さと比較的小柄な背丈もあってか、やはり似合わない。それでも少年は健気に振舞っている辺りが微笑ましい。
「あ、お前は確か」
そう。この少年を二人は知っていた。バウアーの店に慌てて入ってきた少年だ。しかし、当時の彼はそれどころではなかったため、二人には気付いていないようだ。
名は確か、シデンといったか。
「エルフィーナ・ヴェルセリエス様の証言により、貴方達の無実が証明されましたよ」
事務的に振舞おうと思っているのだろうが、少年の態度は軍人としてはやや拙い。無理矢理自分を押さえこもうとしているのが見え見えだ。
「そいつはありがたいな。で、俺達の無実を証明してくれたヴェルセリエス様ってのは?」
「一人しかいないと思うけど」
「解ってるけどよ。やっぱ、挨拶くらいしないと駄目だろ。取り次げないのか?」
「申し訳ありません。エルフィーナ様は、お家の都合で……」
少年は申し訳なさそうに俯いた。
「ま、そりゃそうだろうな」
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