二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- Atonement【ポケモン二次創作】
- 日時: 2012/09/12 19:31
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
初めまして、底辺物書きのTαkαと申します。
ポケモンの二次創作を書こうと思いまして、スレッドを立てさせていただきました。
中世〜近世くらいの文明の世界を舞台とした、王道のライトファンタジーなテイストの作品に仕上げたいと思います。
一応長編ですが1話は短く、あまり重たい話ではありませんので、最低限のネチケットを守って、手軽に読んでいただければなと思っております。
さてさて、まず注意事項です。
・第五世代(BWのポケモン)は多分出ません。
・ストーリーは完全オリジナル。原作と異なる世界を舞台としています。
・属性の相関や技の効果などはゲーム通りではありませんのでご理解願います。ゲームでの数値的なものは一切出てきません。
・擬人化要素有りです。というか、殆ど擬人化です。かなり好みの分かれるところだと思うので、一応。
・ソフトですが、流血・暴力描写があります。苦手な方もいらっしゃると思うので、一応。
・当然ですが、荒らしや誹謗中傷は無しで。短レスやチャット化もいけません。
・私の文章力は非常に稚拙なため、小説と称して良い物なのかは解りません。
・不定期更新のため、しばしば姿を消します。
・小説ストーリーテラー様で書かせて頂いているものと同内容です。
感想は勿論のこと、アドバイスについてですが、辛口大歓迎、というより辛口推奨です。悪い箇所をどんどん指摘してくださると、励みになります。
我こそは、という方がいらっしゃいましたら、ビシバシとこの斜め下にいっちゃってる俺及びこの文章を指摘してください。
目次
第一章 道なき道を求めて
第1話 白昼 >>1-2
第2話 孤児院 >>3-5
第3話 少女剣士 >>6-7
第4話 三流トレジャーハンター >>8-10
第5話 小さな決意 >>11-13
第6話 プレリュード >>14-16
第二章 地神の騒乱
第7話 王都入り >>17-19
第8話 襲撃 >>20-21
第9話 見えぬ未来 >>23-25
第10話 隠し事 >>26-28
第11話 没落貴族 >>29-31
第12話 地神の神殿 >>32-34
第13話 炎の狂戦士 >>36-38
第14話 大地の思念 >>39-42
第15話
登場人物
ハーヴィ&澪紗 >>22
シデン&琥珀 >>35
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.27 )
- 日時: 2012/08/31 22:52
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
暫くすると、注文した品が運ばれてきた。
新鮮な野菜に惜しみなくドレッシングがかけられたグリーンサラダに、形は不揃いだが焼き立ての香ばしい湯気が立ち上るパンケーキ。こちらには、生クリームとメイプルシロップも大量にかかっている。どちらも豪華なものではないが、軽い食事としては充分だろう。
二人は「いただきます」と言うと、それぞれの皿の料理に手を付け始めた。
「美味いな」
「ええ」
口をもきゅもきゅと動かしながら、澪紗は微笑んだ。
「泊まるくらいの金は充分あるが、どうするか。色々とやるべきこともあるしな」
ハーヴィは口に含んでいる物を水で流しこみ、言った。
「焦っても仕方ないと思うけど」
「それもそうか。とりあえず、今は食うことに集中しようぜ」
ハーヴィ自身も焦っているという自覚はあった。しかし、誰だってやりたいことは早くやってみたいという気持ちになる。ハーヴィほどの年齢の者なら、尚更そうであろう。澪紗もそれを指摘はしているものの、決して悪いことだとは思っていない。
だが、結局は焦ったところで仕方無いのだ。出来ることから、少しずつやっていけばいい。誰もが焦りはするが、最終的にはそれに気付く。今、二人に出来ることは、空きっ腹を食べ物で満たすことだ。何気ない会話を交えながら、二人は食事を続けることにする。
しかし、食事以外にも二人には今、やるべきことがあった。
会話をしながらも、周りの者達の談笑に耳を傾ける。
そう。情報収集だ。
依頼を終えた後、二人は《地神グラードン》の祀られている遺跡へと足を運ぶつもりでいる。《エリュシオン》の聖地でもあり、また危険な場所であるため、何の情報も無しに足を踏み込むのは自殺行為に等しい。
直接誰かに聞くという手もあるが、遺跡を荒らす邪教徒や盗賊に間違われたり、情報の対価に金などを求められてはたまったものではない。そのため、盗み聞きと言えば聞こえが悪いが、二人はこの手段を選んだのだ。
「なかなか良い情報が聞こえてこねえな。ったく、好みの女とか誇張した冒険譚とか、知りたくもねえっての」
旅人が多いために有力な情報が掴めると思ったのだが、聞こえてくるのは世間話ばかりだった。ある程度のことは覚悟して、直接聞いた方がいいのかもしれない。
「仕方ない、ちょっと聞き回ってくるか——」
「そこのお二方。もしかして、《地神グラードン》が祀られているテラ神殿に興味があるのですか?」
ハーヴィが立ち上がろうとした時だった。
二人が座っていた席の近くに、一人の青年が立っていた。
顔立ちは少し気が弱そうな感じで、中性的だ。紺色のコートにフェルトハットという大人びた格好はしているものの、全体的に線が細いために、やや頼りなくも見える。一応武装はしているようで、腰のベルトには肉厚な片刃剣、ファルシオンが佩刀されている。
後ろに流された紺色の髪は、何処か女性的だ。また、色白の顔に円らな黒い瞳は、とても男のものとは思えない。
コートの裾からは、緋色の尾羽が顔を覗かせている。首元には、白くふさふさとした羽毛が生えており、これらの特徴から、彼が亜人種のドンカラスであることが窺える。
「どうやら盗み聞きされていたのは、私達のようね」
- Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.28 )
- 日時: 2012/08/31 22:53
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
気弱そうではあるが、只者ではないということを二人は悟っていた。
「別に私はそんなつもりじゃなかったんですが。ただ、貴方がたの会話がたまたま聞こえただけです。……失礼、私はアズライトと申します」
アズライトと名乗ったドンカラスの青年は、帽子をとってぺこりと頭を下げた。
「情報屋ねぇ」
情報屋アズライト——
ハーヴィは今までの仕事で幾度もその名前を聞いていた。
冒険者の間では、その名を知らぬ者はいないといってもいい。特に宛もなく大陸を周りながら、必要とする者に情報を与えることにより生計を立てているという、情報屋だ。
このご時世珍しい職業ではないものの、割安で正確な情報を提供してくれるため、冒険者の間では頼りにされている存在だ。尤も、誰もがこの気弱そうで女性的な青年を見て、彼がアズライトであることを知ると、驚きの声をあげるのだが。
「下手に盗み聞きして変な情報掴むよりは、安い金で正確な情報を得た方がいいか」
「そうね。依頼料も貰っているし、懐には充分余裕があるわ」
言って、澪紗は懐から銀貨を取り出そうとする。
「いえ、今回は代金は結構です。先日、とある貴族の方から、情報料の十倍以上ほどのお金をいただいたので、お金には困っていません。それに、私も仕事というよりも趣味で情報屋をやっているようなものなので」
物好きな貴族もいるもんだ、とハーヴィは口に出しそうになった。
「お前にどんな事情があるかは知ったこっちゃねえが、タダで情報をくれるってのならありがたいな」
そう言うと、ハーヴィはパンケーキの最後の一切れをひょいとつまみ、口に放り込んだ。そして、水を一気に流し込むと、席から立ち上がり、店の外へと歩いていった。
「あ、情報は?」
「私が聞いておくわ。座ったら?」
ハーヴィが店の外に出たのを確認すると、澪紗はアズライトに座るように勧めた。彼は「では失礼します」と一言ことわり、静かに椅子に腰を下ろした。
「悪いわね」
少し哀しげな笑みを見せて、俯く澪紗。
「もう、気付いているのでは? 彼が席を外したのも、私達を気遣ってのことでしょうし。彼とは初対面ですが、なかなか洞察力に優れていますよ」
ただの偶然かも知れないが、ハーヴィが周りの人物の心情を読み取ることに長けているのは事実だった。それを悟ってか、アズライトはずっと様子を見られていたことに苦笑する。
「そうかもしれない。でも、詳しいことまで話したら、絶対に無茶をするから。それに、私自身の問題だから」
改めて、澪紗は真剣な表情でアズライトに向き直る。哀しげな表情は消えており、いつものような氷の如く凛とした表情に戻っていた。すぐに切り替えることができることから、アズライトは澪紗が如何に心の強い少女であるかを実感した。
「そうですか、解りました」
アズライトも彼女の心情を悟ったのか、彼女とハーヴィの関係などについては詮索しないことにする。
「華鈴からも聞いたし、それがあなたの情報だということも聞いたわ。同じ眷族としてあまり疑いたくはないけど、本当なのね?」
「ええ」
アズライトの表情も、真剣そのものだった。
「ただ、あまり良い状況とは言えません。邪教団と絡んでいるところを目撃していますし、詳しい動きもこちらからは読めません。せめて、彼女に貴女のことを伝えたいのですが、どうも周りに厄介なのがいまして、なかなか近付けないのが現状です。力に慣れないのが、申し訳なく思います」
「いえ、あなたも無理しないで」
「ありがとうございます。ですが、全力でお力になるつもりです。私も少なからず、関係していましたからね」
そう言って、アズライトは苦笑する。
そう。二人は以前から面識があった。元々親しい間柄ではないものの、互いに信用できるという関係だ。以前森で出会った華鈴との関係に近くはあるが、こちらは誰とも争うような人柄ではないことを澪紗はよく知っていた。
「失礼、話を戻しましょうか。彼女のことですが、テラ神殿で目撃されたという情報があります。申し訳ないですが、これはやや古い情報なので、信用度は低いですが」
「いえ、それでもありがたいわ。行けば、何か解るかもしれないから」
- Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.29 )
- 日時: 2012/08/31 23:30
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
第11話 没落貴族
ミルフェルトは農業地帯の一角にある街なだけあって、牧歌的な雰囲気に包まれている。暮らしを見た感じ、あまり豊かとはいえないものの、誰もが自分の仕事に誇りをもっているような——明るく温かな表情を見せている。
二人は住人にシデンの妹が暮らしている家の場所を尋ね、上がらせてもらっていた。今は母親と二人で暮らしているらしく、農作業をしている母親に代わり、家事全般は彼女の仕事らしい。
そのためしっかりしているのか、部屋の中は片付いており、床やテーブルも綺麗にされている。また、お茶の入れ方も上手で、味と香りがしっかりと生きていた。
シデンの妹は、名前をハヤテといった。
兄の性格から、大人しくて何処か弱々しい少女という人物像を想像していたが、実際に会ってみると、イメージとは違った。家事をしっかりとこなしているあたりの真面目さは兄と似ているが、それ以外の性格では、とても似ているとは思えない。
艶やかなダークブラウンの髪とパッチリと見開いた緋色の瞳、そして色白で幼さの残る顔付きは、兄とそっくりだ。しかし、兄のような頼りなさや気の弱さはなく、振る舞いや雰囲気からはしっかりとした印象を受ける。
「もう、お兄様ったら無茶していないかしら」
手紙を読んで、ハヤテは深い溜め息をついた。あの性格の兄なのだから、ハヤテが心配したくなるのも無理はないだろう。
此処に来る途中、ハーヴィはちらっと手紙を読んだ。光に翳して封の中の手紙が見えないかどうか試した時に、軽く見えてしまっただけなのだが——あまり他人の手紙を読むのはマナーとして相応しくないのは解っていたが、どうも彼の中にある好奇心のようなものが勝ってしまったようだ。
内容は、妹を気遣ったものだった。
しっかりとご飯を食べているか。身体を壊したりしていないか。周りの人たちとは仲良くやっているか。などなど、ハヤテからすれば、そのままシデンに返したい言葉ばかりであるに違いない。確かに、彼女が手紙を読んでいるとき、「こっちが言いたいです、お兄様」などとぶつぶつ言っていた。
「俺も奴とは親しいわけじゃないが、話していると結構真面目な印象を受けたけどな。あいつになりに上手くやっていると思うぜ」
事実、ハーヴィとて彼と親しくなるほど付き合ったわけではない。そもそも、偶然の出会いが何度かあり、まともな会話をしたのはそのうち一度だけだ。
「それならいいのですが、お兄様はいつも無茶をなさるので、心配なんです」
ああ、かなり愛されているんだな——ハーヴィはただ、そう思った。
ハヤテがシデンのことを語るときは、瞳が輝いていた。実の兄妹であるが、此処までお互いに愛し合っているのは珍しいだろう。
「いいお兄さんなのね」
静かながらも優しげに、澪紗は微笑んだ。
「何処か抜けているだけです、お兄様は」
そう言いつつも、何処か嬉しそうなのは、なかなか素直になれないようなタイプなのだろうか。少し顔を赤らめながらも、口元が綻んでいる。
「大体、お兄様は何でわざわざ騎士になどなったのか、私には解りません! あのような性格で、軍人などやっていけるわけがないのです」
「ははは……」
確かに、ハヤテの言う通りだ。
ハーヴィはシデンとは親しくないとはいえ、何度か会ったうちで彼の人柄というものは大体掴んでいた。十六という若さで《聖光の翼(リヒテン・フリューゲル)》に抜擢されるだけあって戦闘能力は恐らく高いのだろうが、如何せん性格に問題がある。決して嫌な人間ではないが、周りに気を遣いすぎ、そして優しすぎるため、軍人には向いていないだろう。騎士という立場にある程度必要ともいえる威厳やプライドも、彼には微塵も感じられない。
莫迦にされるではあろうが、嫌われるような人間ではない。それが、シデンだった。
- Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.30 )
- 日時: 2012/08/31 23:31
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
「別に、騎士になどならなくてもよかったのに。豊かでなくても、お兄様と共に平和に暮らしていければ、私はそれだけで嬉しいのです。今では、邪教集団が動き始めているのに、そんな身を危険に晒すような職に就かなくても……。お家の復興などと、そんなこと……」
ハヤテ曰く、色々と理由があるらしい。
グラナート家——
かつては武家の名門として名高い貴族だったという。しかし、五国戦争、邪神戦争という二つの大きな戦を経て、没落。当主であった父も、十年前に亡くなったのだという。シデンが後を継ぐことになっているのだが、当時はまだ幼かった故に、母親が現当主として台頭しているようだ。
日々の生活に困窮するほどではないのだが、貴族としては底辺、王国での発言力や地位もすっかり失墜してしまっている。このような農業都市の一角に居を構えているのもそのためだろう。
それでも、やはり貴族のためか、庶民の家々とは比にならない程の屋敷だ。調度品の数々は高級そうな作りをしているし、暖炉には派手な装飾の施された長剣がかけられている。壁には、ペアシェイプカットされた柘榴石と交差したハルバードが描かれた——グラナート家の紋章——旗がかかっている。
シデンが騎士となったのも、グラナート家にかつての威光を取り戻すためらしい。ヴェルセリエス家に並ぶほどの名門まで復興させることが目標らしく、それは今は亡きシデンの祖父母の意思を受け継いでのことらしい。長男であるためか、そのような教育を受けてきたことが窺えるが、結局それは理想論に過ぎないだろうと、ハーヴィはただそう思った。
しかし——
「いいじゃねえか、そういう目標があるってのは。もし俺がお前の立場だったら、最高の兄として惚れこんでるぜ」
ぬるくなった茶を一気に飲み干してから、ハーヴィは言った。少し冷めても味と香りが失われていないあたり、良い茶葉を使い、また、ハヤテの茶を淹れるのが如何に上手いかということが窺える。
結局、シデンも殆ど宛のないようなことをしているのと何ら変わりは無い。グラナート家復興という目標はあるのだろうが、それは短い年月で出来るものではない。それこそ、何度も武功を立て、多くの人々に慕われるような存在にならなければならない。
一度落ちてしまえば、そこから這い上がるのは苦難の道だ。現実的に考えれば、叶わぬ夢と言っても差支えない。そのため、宛がない旅とほぼ変わりがないのだ。
だからこそ、ハーヴィは好感が持てた。ある意味、自分に近いような存在なのかもしれないからだ。
「お兄様を高く評価しているのですね」
兄を褒められて嬉しいのか、ハヤテの不満げな表情に綻びが見え隠れする。
「俺は思ったことを言っただけだけどな」
ただ、世渡りはかなり下手だろう。シデンという少年は真面目で純粋すぎる性格のため、自分を追い込みすぎてしまう傾向がある。
悪いことではない。しかし、純白のものを見ると黒い染みをつけたくなるように、周りの者が黙ってはいないだろう。《聖光の翼》という、比較的身分の高い身でありながら雑用を回されるのは、彼に対するちょっとした嫌がらせかもしれない。
「大体、お兄様は……」
やはり、まだまだ不満があるようだ。ハヤテは次々とシデンに対する愚痴をこぼした。頼りないだの、情けないだの、言いたい放題だ。しかし、それだけ遠慮なく言えるということは、余程彼のことを慕っているのだろう。
十分くらいは、「お兄様は、お兄様は」と言っていただろう。あまりの兄に対する言葉に、二人は苦笑を浮かべていた。それを見て我に返ったハヤテは、顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。
- Re: Atonement【ポケモン二次創作】 ( No.31 )
- 日時: 2012/08/31 23:32
- 名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)
暫くすると、部屋の扉が開き、一人の女性が入ってきた。
柔和そうな女性だ。ダークブラウンの髪に、赤い瞳。農作業をしていたのか、服が土に汚れているが、落ち着いた彼女の雰囲気はみすぼらしさを感じさせない。
「あらあら、お客さんかしら?」
女性は何処かのんびりとした雰囲気で、柔和な笑顔を浮かべている。
「お母様!」
どうやら、この女性はハヤテの母親のようだ。とても二児の母とは思えないほどの若々しさだ。
改めてハヤテを見ると、母親と容姿が良く似ていた。今は此処にいないが、兄であるシデンも母親似だ。
「お邪魔しています」
澪紗は立ち上がると、女性に向けてぺこりと頭を下げた。彼女に小突かれて、ハーヴィも立ち上がってそれに倣う。
「よろず屋のハーヴィさんと澪紗さんです。お兄様からのお手紙を、届けていただきました」
嬉しそうに母親に報告するハヤテ。
「あら、そうなの。ありがとうございます。あの子、真面目すぎるから無理してなければいいけど」
「お母様、ちゃんと自己紹介しないと」
そう言うと、ハヤテは香茶を淹れなおすべく、台所へと向かっていった。
「あらあら、ごめんなさい。そう言えば、紹介がまだだったわね。わたしは、チトセ・グラナートと申します」
そう言うと、チトセはぺこりと頭を下げた。
「オウラン出身ですか?」
メルクリア王国ではあまり聞かない名前だ。ハーヴィは興味深そうに、慣れない敬語でチトセに尋ねた。ちなみに、オウランというのはインフィニティア大陸の東部の外海にある小さな島国だ。
「オウランというより、カムイラ地方よ。元々、わたしは冒険者だったから、そこで生まれただけなんだけど」
チトセ曰く、彼女は元々冒険者として生計を立てていたのだという。大陸中を旅しているうちに、メルクリア王国に落ち着き、そこで貴族の男性と結ばれたらしい。その貴族の男性というのが、シデンの父親だ。
初めは、周囲から散々に反対されたという。ただでさえ没落していたグラナート家だが、庶民——それも何処の馬の骨か解らないような冒険者——と結婚しようとしたのだから無理もない。色々と複雑な事情があったようだが、何とか結ばれたようだが。
「あなた達も冒険者みたいね」
「まあ、そんなところです」
淡々と、ハーヴィは答えた。
「でも、まだまだね。旅を始めてから然程経っていないってところかしら。顔を見れば解るわ」
「え?」
人の纏う雰囲気で判断できるのだろうか。それなりに長く生きているということもあるが、このチトセという人物は、名前は聞いたことは無いが、意外に名声の高い優れた冒険者だったのかもしれない。
「それに、色々と迷いがあるみたい。ハーヴィさんも、澪紗さんも」
二人は心の中を見透かされているような気分だった。だが、不思議なことに不快な感じはしない。
「でも、それで良いと思うの。冒険なんて、初めから目標を決めてやるものじゃないから。迷いながら、答えを見つけて行くものだと、わたしは考えているかな」
「もう、お母様ったらまたお客様に冒険譚を話しているの?」
茶菓子とティーポットを持って、ハヤテが戻ってきた。彼女は慣れた手つきで、四人分のティーカップに香茶を注ぎ、茶菓子を差し出した。
「ごめんなさい、ちょっと懐かしくなっちゃって」
うふふ、と柔らかな笑みを見せるチトセ。
親子のやりとりを見ていると、とても仲が良いことを窺わせる。
「でも、ご両親は反対しなかったの? 確かに冒険者は夢があるけれど、安全な職に就いてほしいと思っていなかったのかしら」
「いや、親父は俺が生まれる前に、お袋は俺を生んですぐに亡くなったんで」
「ごめんなさい、わたしったら嫌なことを……」
「大丈夫ですよ。親の顔は知らないけど、親父の友達に引き取ってもらって、特に不自由なく育ったんで。それに、今はこいつもいるんで、悲しくはないです」
そう言って、ハーヴィは澪紗にちらりと視線を移した。
悲しくはない、というのは事実だ。バウアーに面倒を見て貰っていたし、街では喧嘩に明け暮れながらも楽しく過ごしていた。それに、親の顔を見たことがないため、ハーヴィは本当の家族というものが何なのかは解らなかった。だが、この親子の様子を見ると、家族がどんなものなのか、少し解った気がした。
「冒険を始める前も、よろず屋としてシェルクの周辺で活動してたんですよ。別に働かなくとも平気だったんですが、やっぱり自分の食い扶持は自分で稼ぎたくて。それで、あまり遠出はせず、せいぜい日帰り、かかったとしても一週間で帰れる範囲で出掛けてました。澪紗と出会ったのも、ある依頼の帰りです」
話せばもう少し長くなるのだが、澪紗のことを気遣って最低限の紹介で済ませる。
「あらあら、長く付き合っているのね」
「ええ」
ティーカップを置いて、澪紗は頷いた。
ハーヴィと澪紗が出会ってから、実に五年の歳月が過ぎている。初めはお互いにぎこちないところがあったのだが、今はこうしてお互いに信頼できる関係に至っている。
「冒険者かぁ。私も目指してみたいけど、お兄様が騎士団に入っているのでは、お母様だけを残して家を開けるわけにはいかないから」
ハヤテは頬杖をついて、天井を見上げた。
没落しているとはいえ、やはり貴族である以上、下手に家を空けるわけにはいかないのだろう。ただでさえ、次期当主の候補であるシデンが、騎士団で働いているのだ。
「別に、わたしは気にしないわよ?」
言って、ハヤテに微笑むチトセ。
先代の当主が聞いたら悲しむのであろうが、チトセはお家の復興ということは考えていなかった。西のルインスティル共和国では民主的な政治が敷かれているし、メルクリア王国でも民衆の発言力が上がりつつある。勿論、形式として残すのは有りだが、貴族社会のあり方に疑問を持っているのだ。
それに、大陸中を旅してきた身であるからこそ言えるのだが、貴族社会というのは憧れの対象ではあっても、当事者からしてみれば堅苦しい以外の何物でもない。そう思ってしまうのは、チトセが冒険者という自由な職に就いていたのも理由の一つと言えよう。
だからこそ、自分の子供達には自由に生きて貰いたかった。今まで家を守ってきた先代には申し訳ないのだが、それがチトセの答えだ。
「いえ、わたしはお兄様の帰りを待ちます」
少し照れながらも、ハヤテはハッキリと言った。余程、兄であるシデンのことが好きなのだろう。
「うふふ。答えはゆっくり探していけばいいと思うわ。迷いながらでいいから」
柔らかな笑みを絶やさず、チトセは少し冷めた香茶を啜った。
答えはゆっくり探せばいい。迷いながらでいい。
この言葉は、ハーヴィと澪紗の心に深く刻まれた。
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