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Atonement【ポケモン二次創作】
日時: 2012/09/12 19:31
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

初めまして、底辺物書きのTαkαと申します。
ポケモンの二次創作を書こうと思いまして、スレッドを立てさせていただきました。

中世〜近世くらいの文明の世界を舞台とした、王道のライトファンタジーなテイストの作品に仕上げたいと思います。
一応長編ですが1話は短く、あまり重たい話ではありませんので、最低限のネチケットを守って、手軽に読んでいただければなと思っております。


さてさて、まず注意事項です。

・第五世代(BWのポケモン)は多分出ません。
・ストーリーは完全オリジナル。原作と異なる世界を舞台としています。
・属性の相関や技の効果などはゲーム通りではありませんのでご理解願います。ゲームでの数値的なものは一切出てきません。
・擬人化要素有りです。というか、殆ど擬人化です。かなり好みの分かれるところだと思うので、一応。
・ソフトですが、流血・暴力描写があります。苦手な方もいらっしゃると思うので、一応。
・当然ですが、荒らしや誹謗中傷は無しで。短レスやチャット化もいけません。
・私の文章力は非常に稚拙なため、小説と称して良い物なのかは解りません。
・不定期更新のため、しばしば姿を消します。
・小説ストーリーテラー様で書かせて頂いているものと同内容です。


感想は勿論のこと、アドバイスについてですが、辛口大歓迎、というより辛口推奨です。悪い箇所をどんどん指摘してくださると、励みになります。
我こそは、という方がいらっしゃいましたら、ビシバシとこの斜め下にいっちゃってる俺及びこの文章を指摘してください。

目次
第一章 道なき道を求めて
第1話 白昼 >>1-2
第2話 孤児院 >>3-5
第3話 少女剣士 >>6-7
第4話 三流トレジャーハンター >>8-10
第5話 小さな決意 >>11-13
第6話 プレリュード >>14-16

第二章 地神の騒乱
第7話 王都入り >>17-19
第8話 襲撃 >>20-21
第9話 見えぬ未来 >>23-25
第10話 隠し事 >>26-28
第11話 没落貴族 >>29-31
第12話 地神の神殿 >>32-34
第13話 炎の狂戦士 >>36-38
第14話 大地の思念 >>39-42
第15話


登場人物
ハーヴィ&澪紗 >>22
シデン&琥珀 >>35

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Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.17 )
日時: 2012/08/31 20:37
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

第二章 地神の騒乱
第7話 王都入り

 メルクリア王国の中南部には、小さな町や村が数多く点在している。他の国内の都市に比べるとどこか寂しい感じがするものの、メルクリア王国の食糧庫として重要な地域でもある。普段、王国に住む人々が口にしているパンや野菜は、この一帯で採れたものがほとんどである。この辺りが世界でも有数の農業地帯なのは、土地が非常に肥沃なことが理由のひとつだろう。世界でも、オウラン連邦のセイリョウ地方、マジュード帝国のマズラー地方と並ぶ三大農業地帯に含まれる。その三大農業地帯でも最も大きいために、世界的に見ても一目置かれている。
 三大農業地帯でもこれ程肥沃な土地になったのは、近くに《地神グラードン》の祀られた遺跡があるのが関係しているかもしれないと云われている。地元の住民や《エリュシオン》の一派では、《地神グラードン》による加護があるからだと信じられているが、それも言い伝えに過ぎない。現在は、学者や国の情報部が地脈の調査をしているらしい。
 くだらない。
 彼はただ、そう思った。
 彼とて、神を信じていないわけではない。如何なる者も追い込まれれば神頼みするように、彼も今まで生きてきた中で死地に瀕した時は、心の何処かで救いを求めていた。具体的な対象は無いにしろ、生ある者は知らず知らずの内に精神的なものへと依存してしまうのは、致し方の無いことである。
 今の彼にとって信仰などはどうでも良かった。他人からどう思われようが、知ったことではないのだ。名目上はある集団の幹部ではあるが、結局それは——
「はい、まいどー」
 寂れた酒場の片隅のテーブルに、麻袋が叩きつけられた。衝撃でテーブルが揺れてグラスの酒が少し零れたが、彼は気にしなかった。テーブルに袋を叩きつけた相手は既に立ち去っており、彼が興味を持っていたのは、麻袋から顔を覗かせている硬貨だからだ。
 安い酒を一口飲むと、男は笑みを浮かべたまま硬貨を数え始めた。
「んー、三万アウルかー。もっと欲しかったけど、マジュードの帝都に赴いてカジノで増やせば……」
「愚か者」
「あ」
 硬貨同士がぶつかり擦れる音と共に、手元が軽くなった。見てみると、袋ごと九つのふさふさとした尾を持つ小柄な少女に奪われていた。キュウコンの娘はぶすっとした表情で、金を数えていた男を睨みつけている。
「ああ、華鈴おかえりー。いつ戻ったんだい?」
 キュウコンの娘——華鈴の視線にも怖じずに、男は軽い口調で相棒の帰還を確認する。
「お主が金を受け取ってる時から、向かいに座っておったぞ」
 華鈴の存在に気付かなかったのは、男が周りをあまり気にしないことと、華鈴の背丈が小柄だったというのが理由だろう。尤も、華鈴の白い衣に緋袴という格好は、この地方では珍しいのだが——
 彼女の相棒の男の方は、フードを被っているために、顔立ちは窺えないが、声色から推測すれば若いことは窺える。それも何処か適当な、間延びした感じがある。
「んで、お偉いさん方は何だって?」
 重要な話であるのだろうが緊張感が全く無い。しかし、華鈴はそんな彼を指摘しようともせず、ただテーブルの上のつまみをもぐもぐと食べながら聞いている。
「王国の連中や《エリュシオン》の上層部を引き続き探れ、だそうじゃ。他の仕事も並行していいみたいじゃぞ」
「地味な仕事だねー。ま、オッサンはお金さえ稼げればそれでいいんだけどね」
「ふふん、お主にはお似合いだと思うぞ、妾は」
 華鈴は衣の袖を口元に当てて、むふふと笑った。

Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.18 )
日時: 2012/08/31 08:36
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

 王都グランダルト——
 メルクリア王国の首都であり、中央には《天龍(ヒンメル・ドラグーン》の二つ名で有名なグリューネ城が聳え立っている。その存在感は圧倒的で、五国戦争時代や邪神大戦時代の威厳を誇示している。戦争が終わってからは、その壮麗たる城を見るべく、訪れる者も多い。そのため、グランダルトは常に多くの客で賑わっているのだ。
 時刻は六時を回った頃だろうか。空は深く暗い青色に染まり、星が輝き始めている。太陽は西の山にほぼ沈みかけており、東の空はより暗い色に染まりつつあった。
 王都の宿屋《飛蠍亭》の一室で、ハーヴィと澪紗は寛いでいた。
 旅を始めてから一日しか経過していないのだが、二人の顔には何処か疲れ果てたような色が出ていた。というのも、殆んどの宿が満室で、長時間にわたる宿捜しと交渉の結果、ようやく一室を取ることが出来たのだ。
「まさか、宿ひとつ取るのにこんなに苦労するなんてね」
「ああ……」
 ベッドに仰向けになっているハーヴィは深い溜め息をつくと、傍らの台に置いてある皿の上から菓子を一粒取って口に放り込み、ワザとらしくボリボリと音を立てた。
 一方、澪紗は床に座り込み、ハーヴィと共に集めてきた情報の整理をしていた。「貴方も働きなさい」と言わんばかりの視線を、度々ハーヴィに向けている。しかし、彼はそんな視線に動じず、ボリボリと菓子を食べ続けていた。
「貴方が集めてきた情報だけど」
「……んあ」
「依頼の方は、なかなか目ぼしいものが無いわね。同業者も多いし、此処を拠点にするのは厳しそう」
「ん……」
 ハーヴィは話を聞いているのか聞いていないのか解らない返事をした。
 そして、枕元に置いてあった雑誌を取り、読み始めた。
 やはり、聞いていないらしい。
 そんな彼に屈せず、澪紗は集めた情報の確認を続けた。
「やっぱり、王都でも治安が乱れ始めてるのは、事実のようね」
「わーぉ」
「そんなに厭らしい格好の女の人が好き?」
「サンダースのレオナちゃんとか、エネコのみぃちゃんとか可愛いぜ。お前と違って色気があるし」
「…………」
 丁度開いているページには、あられもない姿にされてしまっている亜人種のポケモン達の姿が描かれていた。俗に言う、スケベ本というやつだ。
 パートナーがいかがわしい雑誌を読んでいることに腹を立てたのか、あるいは話を真面目に聞いていないことに腹を立てたのか、はたまた色気が無いことを指摘されてか——
「いい加減にしないと、凍らせるわよ」
 澪紗は手元に、青白い光を放つ球を帯びた。離れたベッドからでも、そこから恐ろしいほどの冷気を感じたため、ハーヴィは雑誌を閉じてベッドから半身を起こした。
「悪かったよ。冗談だって」
 疲れているために、あまり深いことは考えたくないというのがハーヴィの本音だった。しかし、だからといってこのまま曖昧な態度を取り続けたら、本気で澪紗に氷像にされかねないと思い、真面目に応じることにした。
 彼としては、普段からクールな澪紗をちょっとからかってみたいという気持ちもあったのだが。
「南部の農業地帯で、小規模な地震が群発しているらしいわね。あと、日差しが強い日が続いているみたい」
「ああ、酒場にいた冒険者が言ってたな。原因は解らないらしいが、自然現象の一言で済む話だろ」
「そうだと良いけど」
「気になるか?」
「ええ」
 澪紗は何処か引っかかったような思いを抱きつつも、他の情報を確認し始める。
「そういや、見つかったか?」
「莫迦ね。そう簡単に見つかりはしないわよ。それに、まだ旅を始めてから然程経っていないわ」
「強いな、お前は」
 果たしてそうだろうか——
 澪紗は自分の過去を思い出し、憂いを帯びた表情でハーヴィから視線を逸らした。
「強くなんてないわ……」
「ま、お前のことに深く入り込む気は無いが、あまり深く考えるなよ。話したくなったら、いつでも遠慮なく言いな」
 そう言うと、ハーヴィはベッドから勢いよく立ちあがると、立てかけてあった剣の鞘をベルトに固定した。
「さて、それじゃあ飯買ってくるぜ。何か食いたいもんあるか?」
「任せるわ。でも、お菓子ばかり買ってこないでよ?」

Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.19 )
日時: 2012/08/31 20:36
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

 夕闇に舞う二つの影。その影が上空から大地へと向けて疾風の如き速さで急降下していく。
 一閃——
 その影は、地上を駆け抜けていた別の影を引き裂き、再び上空へと舞い戻る。突然の上空からの襲撃に、地上にいた者達は、狼狽を隠せずにいるようだ。血液をドロドロと垂れ流している仲間を見て、武器を持つ手はガタガタと震えている。
 彼らのポケモンも同様だ。一瞬にして数を減らされたことに対し、怯んでいる。
 何かが砕ける音と共に、ポケモン達が崩れ落ちる。彼らの頭には巨岩が落とされており、頭を潰される形で絶命している。
「ジュノン隊長、敵集団は撤退し始めたようです!」
「ご苦労、シデン」
 空を飛ぶ影の一つ——一対の翼に長い尾、そしてあらゆる獲物を噛み砕く牙。岩のような灰色の身体を持った翼竜、プテラに乗った少年は再び急降下による攻撃を行った後、上空に戻った。そして、すぐ傍を巨竜カイリューに乗った女性の前でビシッと敬礼を決める。
 鎖帷子に蒼き外套。そして、背中に担がれたハルバード。その装備は、この中性的で優しそうな雰囲気の少年には、あまりにも不釣り合いだ。
「追撃は……する必要は無いな。よし、戻るぞ」
「はいっ!」
 女性の顔立ちは、深く被った外套のフードで窺うことは出来ない。しかし、女性としては低めで威厳のある声は、彼女の気の鋭さを感じさせる。フードの下には、美しくも冷厳な、女騎士としての顔があるに違いない。
 メルクリア王国騎士団《聖光の翼(リヒテン・フリューゲル)》隊長、セリカ・ジュノン。それが彼女の名だ。
 今、セリカと共にいるシデン・グラナートにとって、彼女は憧れの対象だった。彼女にチラチラと視線を向けているが、それがとても輝かしい。嫌らしい意味ではなく、正義のヒーローに憧れる純粋な子供のような、濁りひとつない視線だ。
「どうした、シデン。何か気になるのか?」
「あ……、すみませんっ!」
 シデンは慌てて、へこへこと頭を下げた。その反動でプテラからずり落ちそうになったが、何とかバランスを保つ。
 何も悪いことをしていないのに謝ってしまうのは、彼の性格のためだろう。セリカは特に気にしていなかったのだが、シデンはあまりにチラチラと彼女を見ていたために、彼女が気を悪くしたと勘違いしたのだ。
「いや、何も責めていないぞ」
「は、はぁ」
「前から思ってたが、お前は真面目すぎるのが欠点だな。出世を望んでいるのか、それとも素なのか……まぁお前の場合は素だろうな。たまには肩の力を抜け」
「はい、解りました。以後、精進致します!」
 それが駄目なんだ、とセリカは苦笑した。
「それにしても、此処のところ先程のような妙な集団を見かけますが、一体何者なんでしょうか?」
「他国の斥候のようにも思えるが、西のルインスティルや南のマジュードでも奴らの姿が目撃されているらしい。特に、マジュードでは貴族が取り入ってるらしいが……。此処最近活動を見せ始めている邪教団《タルタロス》との関係もあるかもしれないが、どうなのかは解らん」
「物騒ですね」
 シデンは何処か深刻そうな顔立ちで俯いた。
 事実、最近では、大陸が不安定になりつつあった。二人も、メルクリア南部にて妙な集団を見かけるようになったという情報を得て、見回りにきたのだ。すると、そこで情報通りに妙な集団と遭遇、さらに相手からの襲撃もあったために戦闘を展開する羽目になったのだ。
 相手の戦闘力は高かったが、名高き《聖光の翼》である二人にとっては苦戦するほどの相手ではなかった。戦闘開始から五分も経たずに、撃退することが出来た。
「今考えても仕方ないだろう。王都に戻ってから、上に報告しよう」
「はい」

Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.20 )
日時: 2012/08/31 12:31
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

第8話 襲撃

 ハーヴィは買い物を済ませ、宿へ帰る途中だった。
 屋台に好物の菓子が売っていたために立ち食いをした結果、少し遅くなってしまっていた。そのことを後悔しながら、足を少し早める。
 空を見上げると黒く染まっており、無数の星の瞬きも強くなっている。南西の空に赤き光を放つ《地神グラードン》が、いつもより妖しい輝きを放っていることが気になっていたが、それよりも彼は、澪紗に対する言い訳のネタを考えることに集中していた。このように寄り道をして彼女を怒らせたことは、初めてではないからだ。
 ——変なとこでうるさいからなぁ。そう思い、ハーヴィは苦笑した。
 しかし、そのようにお互いに遠慮なく小言の一つや二つを言えるというのは、それだけ深い絆で結ばれているということだ。それを肴にして、安価な蒸留酒をちびちびと呑むのも悪くない。
 路地裏を進み、宿への道に入ろうとした時、ハーヴィは何者かを見つけた。
「なんかキナ臭えな」
 黒い外套を纏った者が二人、宿とは別の路地へと入っていった。一見、旅人のようにも見えるが——ただ者ではないことをハーヴィは悟った。特に根拠があるというわけではないが、以前、森で襲ってきた謎の男達と雰囲気が似ている——そう思ったのだ。
 それだけではない。少し前の記憶を辿ると、山岳遺跡で盗賊達と何やら話し合っていた者達とも似ているのだ。
 
 ハーヴィは気付かれぬように、二人の後をつけることにした。
 壁に身を預け、木箱や樽などの物陰に隠れながら、慎重に、付かず離れず二人を追う。彼らはこちらには気付いていないようだが、ハーヴィは緊張を解かずに動きを監視する。
(やっぱ、ただ者じゃねえな)
 酒場の樽の陰に身を隠し、分かれ道で立ち止まった二人の様子を窺う。
 ハーヴィ自身、相手がどのような者であるかを読むことに、特別優れているわけではない。しかし、そんな彼でも今までの経験で、その者の雰囲気のようなものを察知することは出来た。第六感と言えば聞こえがいいかもしれないが、何の根拠もない、ただの勘に過ぎない。彼が二人を追っているのは、勘でしかない。
 それでも、勘というものは、時には事前に計算するよりも恐ろしいほどの精度で結果を齎すこともある。事実、戦闘においても、相手の全てを正確に計算しているだけではまず勝つことはできない。勿論、戦闘にはある程度の計算は必要ではある。だがしかし、最終的に重要になのは、自分自身の力量だ。
(動いたか)
 二人が動いたのを確認し、樽の影から出る。しかし、この動作が誤算であったことを、ハーヴィは次の瞬間に悟った。
「っ——、あっぶねぇ!」
 咄嗟に頭を下げ、体勢を低く取った。すると、彼の頭上を鈍い光沢を放つ何かが通り過ぎていき、近くにあった鉢植えの植物の葉を切り裂き、壁に突き刺さった。
 片刃で小振り、柄がかなり短いことから、投擲用の短剣、ダークであることが解る。ナイフの一種だが、戦闘においてはこのように投げることを主としている短剣である。
「ちっ、気付かれていたか」
 もし、この場から動けば、再び刃が飛んでくるに違いない。だからといって動かずに留まるというわけにはいかないだろう。相手が立ち去るとも思えないし、もう一人が間合いを詰めてくる可能性は、大いに有り得るからだ。
 その予想は、見事に的中した。もう一人がハーヴィの目の前に現れ、ギラリと光る刀身を振りおろしてきた。咄嗟にハーヴィは荷物を投げ捨て、腰から肉厚の刀身を持つグラディウスで受け止める。
「にゃろうっ!」
 強い——
 膂力が優れているだけではなく、刀身は確実にハーヴィの急所を捉えてきている。
 このまま身を低くした体勢で鍔迫り合いを続ければ、何れ力負けをする。そう考えたハーヴィは体術を駆使し、相手の足元に蹴りを入れた。
 手応えが無かった。相手もハーヴィの蹴撃を紙一重のタイミングで回避し、距離を開けたのだ。すぐにハーヴィは立ち上がり、再び自分を目掛けて放たれたダークを刀身で弾いて叩き落とした。
(マズイな。此処じゃあ思うように戦えねえ)
 まず、場所が路地裏であることだ。人通りが極端に少ない上に、狭いために思うように動くことが出来ない。また、相手の攻撃を回避するのが難しくなり、特に遠距離からの投擲が厄介となる。
 そして、数だ。一人で二人を相手しなければならないうえ、相手も実力者だ。また、澪紗もいないために普段通り戦えるという保証もない。せめて、一人なら倒すことが出来る相手なのだが。
 近距離で戦っている相手の方は、一撃のひとつひとつは重いものの、受け流す、あるいは回避するのは容易い。しかし、問題はもう一人だ。次から次へと投擲をしてくるため、そちらにも気を遣わねばならない。このままでは、的になっているようなものだ。
(攻めなければやられる——)
 そう判断したハーヴィは、芳しくない戦況を打開すべく、斜め上方向——相手の首筋を狙い鋭い突きを放つ。飛んできた短剣は身体を捻ることにより回避し、とにかく数を減らすことに彼は集中する。
 突きは紙一重のところで、相手の刀身によって受け流された。しかし、ハーヴィはすぐに隙をリカバリングし、中段——相手の脇腹に回し蹴りを入れた。
「なっ——」
 相手もそれを読んでいたのか、蹴りは軽々と避けられた。
 戦闘経験は非常に豊富であるに違いない。ハーヴィ自身、特に戦闘の上手い下手を評価できるほど経験があるとは言えないものの、今まで闘ってきた相手の中では、強さが格段に違う。更に、場所があまりにも戦いに適していないので、始末が悪い。
 少し前に、森で遭遇した黒衣の者達と同じようだ。あの時は澪紗がいたために難なく撃破することが出来たものの、今回は彼女がいない。ハーヴィは澪紗が如何に優れた戦力であることを知り、また、自分自身の不甲斐無さに軽い苛立ちを覚え始めた。
(ったく、こんなところで死ぬなんてごめんだぞ!?)
 バランスを崩し、膝をついてしまう。
 その隙を突き、相手は一気に走り寄って間合いを詰めてきた。間に合うが、もし回避しようものなら、後方のもう一人が投げてくる短剣に当たってしまう。
「くそったれ……!」

Re: Atonement【ポケットモンスター】 ( No.21 )
日時: 2012/08/31 12:31
名前: Tαkα ◆DGsIZpFkr2 (ID: BS73Fuwt)

 万事休す——
 そう思った時だった。
「身を伏せて! そのまま動かないでください!」
 何処からか、若い男、少年とも取れる声が響いた。
 ハーヴィは突然の声に驚いたため、結果的にその声に従うこととなっていた。
 そして——
 何かが砕ける音と共に、ハーヴィに向けて走り寄ってきた敵が倒れた。
 ふと視線を移すと、自分の目の前に無骨な形状の岩が数個、浮遊していた。ただの岩ではないようで、ところどころに鋭利な針のようなものが突き出ている。すべてが岩で出来ているようだが、充分な凶器となり得るだろう。
 相手がぶつかったのは、その浮遊している岩塊だった。死んではいないようだが、最早戦うことはできないようだ。それに怖気づいたのか、投擲で戦っていたもう一人の敵は、その場から立ち去っていった。
 よく解らないが、助かったようだ。ハーヴィは大きく息を吐くと、剣を鞘へと納め、置いてあった荷物を拾った。
「大丈夫ですか!?」
 自分に身を伏せるように叫んだ者と、同じ声だ。屋根に登っていたのか、近くの建物から軽い身のこなしで飛び降りてきた。それと同時に、浮遊していた鋭利な岩塊はフッと消え去った。
「お怪我はありませんか……って、貴方は確か……」
「怪我はねえよ。助かったぜ、ありがとな」
「い、いえ! 僕は《聖光の翼(リヒテン・フリューゲル)》に属する騎士として当然のことをしたまでです!」
 そう言って、少年はビシッと敬礼を決めた。
 親しいわけではないが、知った顔だ。
 ダークブラウンの髪に、ぱっちりとした瞳。ハーヴィは、仕草のひとつひとつに何処かぎこちなさと初々しさが残っているこの少年を知っていた。
「それにしても、こうやってまたお逢いするとは、何か不思議な感じですね」
「まあ、そんな感じはするな。しかし、辺境都市に牢獄、そして王都の路地裏か。色んなとこに回されるんだな、騎士様ってのは……」
「本来なら、辺境の警備が僕達《聖光の翼》の仕事なんですが、僕はまだ若輩者でして。勿論そういった仕事もやらせてもらえるのですが、雑用を回されることなんて珍しくないんです。今日も、本当はもう仕事は終わってるんですが、王都内の見回りを頼まれているので……」
 何処か自嘲気味に、少年——シデンは苦笑した。その間にも、倒した相手を捕縛しているところから、任務に対する集中力は長けているようだ。
 ハーヴィの推測は、ある意味当たっていたようだ。実力はあるのだろうが、面倒な仕事を押し付けられてしまうのは、若さとシデンの性格が大きく関係しているのだろう。尤も、彼自身は嫌々やっているわけではなさそうなので、問題はないのだろうが——
 やはり、軍人としてやっていくには、この少年の性格はあまりにも優しすぎて、あまりにも甘すぎる。
「ところで、王都にいらっしゃったということは、何か新たな依頼を見つけたのですか?」
「仕事の詮索をするのも、騎士様の仕事か?」
 詮索されるのが嫌なわけではないが、少しからかってやりたい気分でハーヴィは言った。
 シデンのことを嫌っているわけではない。むしろ、ハーヴィは彼に対してそれなりに良い印象を持っている。しかし、このような性格だからこそ、いじってやりたくなるのだ。
「あ……。い、いえ、違うんです。少し気になったので……。すみません、出過ぎたことを……。気を悪くされたようでしたら、申し訳……」
「そういうつもりで言ったんじゃねえよ。」
 予想通りの反応だった。
 なるほど、これは絶対に苦労するタイプだなと、ハーヴィは改めて思い知らされる。
「俺が此処にいるのは、何て言ったらいいんだろうな。宛もなく旅をしてるってとこか。依頼も旅を続ける中で、受けていくつもりだけどな。どうだ? 今のところフリーだし、何か簡単な仕事があるなら受けるぜ?」
「すみません。では、お言葉に甘えさせていただきます。僕の妹が南の町ミルフェルトにいるんです。彼女に、手紙とお金を届けていただけますか? 最近物騒ですし、民間の配達屋に頼むのも不安なので。ですが、貴方ならお強いでしょうから」
 ミルフェルトは、王国南部の農業地帯にある町の一つだ。
 メルクリア王国には徴兵制がないため、田舎から出稼ぎに来て軍人となったのだろうか。そう考えると、農業で生きていくというのは大変なのかもしれない。今回の依頼も、肉親を気遣っての仕送りといったところだろう。
「大して面識のない俺を信用していいのか? そのまま金をかっぱらって逃げるかもしれないぜ?」
「その時は、その時。僕の見る目が無かったということです。それに、貴方がそのようなことをする方とは思えません。なので、お願いします!」
「そりゃどうも。オーケー、その依頼、承ったぜ。手紙と金は、《飛蠍亭》って宿まで頼んだぜ」
「はい!」
 そう言うと、シデンは明るい笑顔を見せて、深々とお辞儀をした。
「おい、いつまで油売ってるんだ! あたしは腹が減ってるんだ! 早く仕事を終わらせろっ」
 突然、上空から響いた甲高い声——おそらく少女のものだろう。それを聞いて、シデンは少し気まずそうに頭を抱えた。
 声が響いてから、一秒足らず——まさに電光石火とも言える速度で、それは姿を現した。
「ごめん、琥珀(こはく)」
 岩肌のような灰色をした一対の翼に、深い紫色の翼膜。同じく灰色の長い尻尾。銀髪のセミロングの可憐な少女で、口元から見えている八重歯が可愛らしい。
 古のポケモン、プテラだ。亜人種であることから、シデンのパートナーなのだろう。先程の鋭利な岩塊も、彼女の技によるものであることは間違いない。しかしながら、優れた敏捷性と破壊力を有していることから恐ろしいポケモンであるのは事実だが、こうして亜人種の姿を見ると、何処か拍子抜けしてしまう。
「大体お前はいつもいつも……これだから……むううう……」
 顔を真っ赤にして、プテラの少女はぽかぽかとシデンの腹を叩いている。ぶつぶつと文句を言っているところも可愛らしいのだが——
「ったく、胃を痛めんなよ」
「いえ、いつものことなので大丈夫……痛い、ちょっと痛いってば、やめてよ琥珀!」
 パートナーのポケモンにまで振り回されているシデンが、何処か哀れで仕方がなかった。


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