二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド—
日時: 2016/04/03 00:43
名前: 諸星銀佳 (ID: CN5DwmtD)

こんにちは。諸星です。

もう此処には長いことお世話になっているのですが長続きせず…すべて途中で投げ打ってしまいました。
ですが、最近出会ったゲーム…「GODEATER2」をやって、また書きたくなってしまいました。

なんとか、頑張っていきたいと思いますので、暖かい目で見て頂けたら幸いで御座います。

※本作は「GODEATER2」を基にしたフィクションです。
※ストーリーをクリアしていない方は読まないことを推奨致します。
※ジュリウス×主人公♀の要素を含ませることを考えているので、苦手な方はブラウザバックをお願いします。

—登場人物—
『特殊隊ブラッド』
・神野マキ(カミノマキ)…フェンリル極致化技術開発局ブラッド隊隊長。男勝りな極東出身のゴッドイーター。血の力『喚起』の持ち主。今も、仲間を失ったことは自分の所為だと思っている。
神器:ショートブレード・全ての銃身(ヘアスタイル→3,アクセサリ→なし,共通アクセサリ→13:色2,ヘアカラー→銀,フェイス→8,アイカラー→11,ボイス→10)
・ジュリウス・ヴィスコンティ…ブラッド元隊長。現在は「螺旋の樹」の創造主として一部の市民から信仰の対象となっている。表向きは故人扱いだが、彼の特異点がコアとして樹の内部に存在することは間違いない。しかし詳細は一切不明。
・香月ナナ(コウヅキナナ)…ブラッド所属。マキとは同期。血の力『誘引』の持ち主。明るくて大食い。
・シエル・アランソン…ブラッド隊副隊長。血の力『直覚』の持ち主。冷静で戦術理論へ造詣が深い。
・ギルバート・マクレイン…ブラッド所属。血の力『鼓吹』の持ち主。ブラッドの兄貴分的存在。
・ロミオ・レオーニ…元ブラッド隊員。2074年、サテライト拠点の防衛任務にてKIA(作戦行動中死亡)と認定。仲間とのコミュニケーションのとり方が上手く、フライアや極東では頼りにされていた。

『極東支部ゴッドイーター』
・アリサ・イリーニチナ・アミエーラ
・藤木コウタ(フジキコウタ)
・ソーマ・シックザール
・エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ
・台場カノン(ダイバカノン)
・雨宮リンドウ(アマミヤリンドウ)
・真壁ハルオミ(マカベハルオミ)
・エミール・フォン・シュトラスブルク
・キグルミ

『その他の登場人物』
・葦原ユノ(アシハラユノ)
・レア・クラウディウス
・ラケル・クラウディウス
・竹田ヒバリ(タケダヒバリ)
・フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュ
・ペイラー・榊(ペイラーサカキ) andmore…。

※極東ゴッドイーター・その他の登場人物については登場しない可能性があります。詳細プロフィールはGODEATER2の公式ホームページをご覧下さい。また、今後オリジナルキャラが登場する可能性があります。

序章 >>3
第一章 夢か現か >>4-9
第二章 決意と覚悟 >>10-17
第三章 忍び寄る悪夢 >>18-30
第四章 束の間の安息 >>31 >>33-39 
第五章 変わる世界 >>40-48

番外編 副隊長の見た夢 >>32
 

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Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.7 )
日時: 2015/09/25 13:08
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


——何が、起きているんだ?
目の前に螺旋の樹の創造主であるはずのジュリウス・ヴィスコンティがいる。螺旋の樹があるのか確認しようにも、ここからでは見る事ができない。そもそも。

螺旋の樹は、神機兵保管庫——フライアで出現した。

「どうかしたか?」
あの声だ。あの顔だ。あのオーラだ。もう一度会いたいと願っていた彼が目の前にいる。
「…夢でもいいから、覚めないでくれ…」
マキは小さく呟き、その場に崩れる。
「おい、大丈夫か副隊長」
——副隊長。先程から皆に呼ばれていたが、彼に呼ばれると何か特別なものを感じる。もともと彼が「隊長」と呼ばれていたのだ。彼が離脱した後にマキが隊長を引き継いだが、未だにしっくりこないのだ。他のメンバーに「隊長」と呼ばれても、たまに振り向けないことがある。
「何があった」
「どうして、何も言ってくれなかったんだ…」
マキはくしゃくしゃの顔でジュリウスを見て怒鳴りつけた。
「そうやって!いつも勝手に行って!仲間を思いやるのも良いけど、もっと自分を大切にしろ!!ロミオも、貴方も…皆、自分勝手だ」
ジュリウスは、普段見ないマキの姿に困惑しているのか、はたまたマキが自分に怒ったのを驚いているのか、反応に困っていた。
「よく分からないが、俺が何かしたなら謝ろう…すまなかった」
謝罪を聞くと、慌ててマキは首を横に振る。すまない、みっともない姿を見せたと小さく呟く。自分でも、もう何がなんだか分からなかった。失った仲間にまた会えた嬉しさ。何も言ってくれなかった彼らへの苛立ち。彼らを救えなかった自分の不甲斐なさ。そういったものが一気に押し寄せ、言葉にしようにも上手く伝えられない。嗚咽を漏らしながら泣き続けた。
「……隊長」
呼吸を整え、やっとの思いで紡いだ言葉は、今は自分に使われている役職名。名前で呼びそうになったが、この時は彼のことを名前で呼んだことはなかったのではないかと思う。久々に人に向かって「隊長」といった気がした。
マキは涙を拭い、いつもの凛とした表情をジュリウスに向け、思い切り深呼吸をする。
「一緒に、ミッションに行ってほしい。ロミオも」
「構わないが…今の副隊長の状態では無理だろう。神機使いは、確かに常人とはかけ離れた治癒力を持ってはいる。だがいつ傷がまた開くか分からんぞ」
「後方支援に回って二人に指示を出す。前には出ない」
目が腫れてはいるが、いつもの——いや、いつも以上に真っ直ぐな視線——に押され、渋々承諾した。
「わかった。ロミオに話をつけてこよう。副隊長は準備をしておいてくれ」
一つ頷くマキを見ると、ジュリウスは庭園を後にした。一人になった庭園をマキは改めて見渡す。
ロミオの墓はない。昔の、マキが大好きなあの時のままだ。ここでジュリウスと出会い、仲間とピクニックをしたものだった。最近は前以上に忙しい日々が続いており、ピクニックどころか、十分な休息も取れていない。
「…本当に、戻ってきたのか」
マキは夢ではないと信じることにした。これは現実なのだと。非科学的なことが起こる。それはもう何度も体験した。新型同士が触れると起こる感応現象。ブラッドアーツの覚醒。終末捕食の相殺。それによるジュリウスとの再会。今起きている現象——仮にタイムスリップとでもしておこう——もきっとその非科学的な現象の一端に過ぎないのだと思う。
マキはずっと抱いていた二人への自責の念を闘志に変える。体が熱くなってきた。いつも以上の力が出せる気がする。いつの間にか、体の痛みも引いていた。
「戻ってきたなら、やることは一つ」
点滴を無理やり剥がし、エレベーターへと歩を進める。懐かしい自室に戻り、入院服からクローゼットに仕舞ってあるはずのブラッドの制服へと着替えること。案の定、まだおろしたての匂いがする制服がそこにはあった。ジュリウスが特異点と化したあの日以降、ロミオの墓参り以外で着ていなかった制服。なんとなく気が引き締まる。着替えてエントランスへ出ると、出撃ゲート前には二人の姿があった。
「準備は出来たか、副隊長」
「早くいこーぜ!でも、あんま無茶すんなよな!」
マキはジュリウスよりもどこか隊長らしい雰囲気を身に纏いながら二人へ近寄る。
「詳しい話は後だ。行くぞ」
先陣を切って出撃ゲートをくぐる。

——今度こそ、二人を護る。ブラッド全員揃って、生きていく為に。
そう、心に誓った。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.8 )
日時: 2015/09/25 13:18
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


今回のミッションは、ハガンコンゴウとザイゴート堕天種討伐ミッションだ。舞台は蒼氷の峡谷。雪深い地方にひっそりと佇むダムの跡地。かつては観光地として賑っていたが、環境の変化に伴って寒冷化が進み、現在は大型アラガミの長距離移動の通路となっている。
マキたちは高台から状況を把握する。討伐対象を確認すると、ジュリウスとロミオに目で合図をし、飛び降りる。当然、耳の良いハガンコンゴウはこちらを振り向く。面が割れたような不気味な顔がマキたちを睨む。その周りにいたザイゴートたちも向かってきた。
「私は雑魚をやる。二人はハガンコンゴウを頼む」
「了解」
「任せとけって!」
二人はそういうと、ハガンコンゴウに剣を振るい始めた。マキはまだ万全の状態ではないため、剣で空中戦にもって行くのではなく、狙撃銃で雑魚たちを地面へ叩き落していく。倒す前に捕食をし、バースト状態になる。無論、今回は自分へのバーストが目的ではなく、手に入ったアラガミバレットを二人へ受け渡し、彼らをリンクバースト状態にすることが目的だ。
ザイゴートを全て倒し、二人へ合流する。
先程手に入れたアラガミバレットを二人へ受け渡す。神機開放レベル最大となった彼らは、更にハガンコンゴウへ斬撃を叩き込む。攻撃を喰らってHPが危険になった時は、すかさず回復弾を打つ。その間も二人に指示を出し続けた。
そして、マキがハガンコンゴウに触れることなくミッション完了となった。

「…さて、ここからが本題なんだ。話したいことがある」
段差に腰掛けた二人を若干見上げる形で話す。
「何だ?」
ジュリウスの催促にマキは軽く頷き、今は——というよりこの時代には——ない「螺旋の樹」を見つめるように話した。
「私は…副隊長として、皆を引っ張る立場にある。先陣切って敵の懐に飛び込み、仲間護るのが私の義務だ」
「それは俺も同じだ。しかし、それは隊長である俺の方が責任が重い筈だ。このことを思い詰めていたのか?」
心配そうに問いかけたが、マキは首を横に振る。そして視線を下に落とした。
「私は、ロミオを護れなかった。そして、ジュリウスの覚悟を、受けとめることが出来なかった。あの時…気付いていれば…止めていればっ」
マキは拳を強く握り、歯を食いしばる。声をかけようとしたが、その姿に二人は何も言えなくなった。
「だから…ここで、二人に誓うよ」
二人に向き直り、背筋を伸ばして敬礼をする。靡く銀髪のしたから見える血の色の瞳は力強い。
「私は…二人を、皆を護る。絶対。誰一人死なせはしない。私がっ、この手で護るっ!だから、どうか…死なないでくれ」
その決意とは裏腹に、涙を浮かべたその姿は少し頼りなくも見える。
「副隊長…」
小さく呟くジュリウスを余所に、ロミオは立ち上がって、マキの隣に下りる。そして、いつもみたいに肩を組んだ。
「何があったのか分かんねぇけど…ありがとな、副隊長!俺だって、皆や副隊長を護るよ。それは俺も、皆同じだからな!そんな簡単に死なねぇって」
破れんばかりの笑顔を向けた。それに続くようにジュリウスも彼女の隣に下りる。
「俺もロミオと同じだ。俺はブラッドを何が何でも護ってみせるさ。ブラッドが全員いれば…死ぬことはない」
「言ったからな二人共。私は忘れないぞ…」
マキは涙を拭うと、二人を横に並べさせる。顔がハテナな二人を気にせず、二人の肩を抱いた。
「ふ、副隊長!?」
ロミオは赤面する。ジュリウスも困惑の表情を浮かべた。背の高い二人の隙間に顔を出すことは出来なかったので、二人の肩に額を当てた。
「…本当に、生きてるんだよな…」
暫く二人の肩を抱き、その温かさを身に染みて感じていた。その間も、二人は何も言わずにただじっとしていた。そして確信した。

——二人は生きている、と。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.9 )
日時: 2015/09/26 22:52
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


その後も前と変わらずにマキはミッションに追われていた。着実に力をつけていくブラッド。そして、遂にシエルは血の力「直覚」に目覚め、ブラッドアーツとブラッドバレットの習得に励んでいた。
前と変わらないブラッドと過ごす日々。それはマキにとって何物にも変えがたいものであった。だが、着実にジュリウスとロミオの死が近づいていると言っても過言ではなかった。
マキは薄暗い自室のベッドの上で呟いた。
「夢ではないとしても、あれが起きたのは確実なんだ。きっと、これは本当に…」
——タイムスリップではないのかと。
血の力に目覚めてから、様々なことが起きたのだ。何が起きてもおかしくない。なんらかの影響で過去に戻ることもあるかもしれない。
「そういえば…極東に呼び出されたんだったな」
シエルの血の力に目覚める前——つまり、神機兵の運用テストに行く前に、世界中でも強敵とされるアラガミが多数目撃されている極東支部に行けと言う指示が出ていた。
「榊博士が、いるんだよな」
フェンリル極東支部技術開発統括責任者で、フェンリル創設メンバーの一人。アラガミ研究の第一人者で、ゴッドイーター達の座学教官も担当している彼なら、この事実が分かるかもしれない。

マキはベッドから起き上がり、なんとなく庭園へと向かった。

陽もすっかり落ちた庭園は、昼とはまた違った幻想的な雰囲気を作り出している。月光が程よく差し込み、夜でも明るい。
「こんな景色が、昔は沢山あったんだろうな」
遺産に登録されていた極東一高かった山とか、どこかの滝とか、木とか。それらは突然現れたアラガミに全て壊された。いつか、アラガミが消え、人々が安心して暮らせる世界を…神機使いたちは目指している。
庭園にある木の下に腰掛ける。いつもは此処はジュリウスの指定席だ。初めて会ったのも、待ち望んで再会したのも此処だ。この場所はジュリウスとの思い出が詰まった場所と言っても良い。
「しかし、相も変わらず此処は本当にいつ来ても良いな」
すると、エレベーターのドアが開く音がした。背の高い影が見える。近づいてくる影は淡い光に照らされ徐々にその姿に色をつけていく。それは見慣れた立ち姿となった。
「副隊長か。どうしたんだこんな時間に」
「ギル。それはこっちの台詞だ。寝れないのか?」
ギルバートはマキに促され隣に腰掛ける。その顔はどこか仄暗い。
「いや…夢を見て目が覚めた」
「昔の夢か」
「…まぁな」
ギルバートは、フライアに来る前はグラスゴー支部で神機使いとして活動していた。そして、真壁ハルオミ——彼にもまた会うことになる筈だ——の妻だったケイト・ロウリー少尉のアラガミ化を防ぐ為に介錯した——この事件に関しての詳細は嫌でも話すことになるだろう。
「副隊長はどうしたんだよ」
「私は…色々考え事をしてたんだ。色々あったからな。まだ整理が出来てないんだ。今、起きていることが本当のことなのか。それとも夢なのか。今、ギルの前にいる神野マキは、ギルの知ってる神野マキなのか…ってな」
「副隊長?」
どこか遠くを見つめるように話すマキに一抹の不安を覚えたギルバートは思わず声をかけた。ブラッドで一番の年長者なのにも関わらず、時々見せる負の表情は、迷子で母親を探す、もう会えないのではないかと不安で仕方がない子供のようだ。
「…よく分からないよな。私もよく分かってないんだ。ごめん。忘れてくれ」
軽く笑ってお茶を濁す。さてと、と立ち上がり、ギルバートに背を向ける。
「明日は早いからな。あんまり夜更かしするなよ」
「あぁ、おやすみ副隊長」
「…おやすみ」

この時はまだ知らなかった。
過去に戻ることは、リスクを伴うということを。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.10 )
日時: 2015/09/25 22:51
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


§第二章 決意と覚悟§

——現在、フライアは「赤い雨」の中を通過中。いかなる理由があれ、屋外に出ることを固く禁じます…  
あの時と同じ、ロビーに集まって赤い雨の話をするブラッドメンバー。その頃。

「ラケル、そろそろ教えてほしいのだけど、極東に来たホントの狙いは……何?」
フェンリル極致化技術開発局室長のレア・クラウディウスは妹のラケル・クラウディウスに問う。
「グレム局長にお伝えした通り、神機兵とブラッドの運用ですわ、お姉様」
「なら、良いのだけど……神機兵は私たちの悲願。何があっても、認めさせなくては……」
その通りだ、とラケルは手元のモニターから視線をレアの方に移して続ける。
「彼らにはしっかり働いてもらいましょう……あら?極東がもう近づいているようですよ。お姉様、ほら」
レアは言われるがままモニターを見る。そこには高く聳え立つ壁に囲まれた居住空間——極東支部が映っていた。

「ブラッド隊長ジュリウス・ヴィスコンティ以下隊員各位、到着しました」
極東に着いた一同は、最高責任者に会いに行った。どんな人なのかとそわそわしている仲間を他所に、マキは微動だしになかった。
「ようこそ極東支部へ!私がここの支部長、ペイラー・サカキだ」
——サカキ博士。貴方に会いに来たと言っても過言じゃないんですよ。
マキは心中で呟いた。サカキは丁寧に極東支部について、感応種について話す。一度聞いた説明ではあるが、改めてこの場所はアラガミの最前線なのだと思い知らされる。彼が色々話している時、ドアの方から元気な声が聞こえてきた。
「博士ー!歓迎会のスケジュール、みんなに聞いてきましたよ……あれ?もしかして、ブラッドの人たち?」
——コウタ…。
変わっていない姿に安堵して溜息をひとつ漏らすと、隣にいたロミオに不思議な顔をされた。「歓迎会があるから、準備が出来るまで極東を見て回るといい」と言われ、一同は支部長室を次々と後にする。
そんな中、マキは一人支部長室に残った。サカキは訝しげな顔をする。
「どうしたんだい?」
「初対面で申し訳ないのですが、私は、貴方にお話があって」
サカキは顔の前で手を組んだ。まるで「何のことだね」と誘うように。
「博士は森羅万象が観察対象、なんですよね」
「そうだね」
「ということは、この世界で起きること全てが研究対象ですよね。今から私が話すことも、研究対象にして頂けますか」
サカキは感情が読み取れない瞳を向ける。
「話の内容次第だが…そのもったいぶり方は、実に興味深い」
マキはにやりと微笑む。流石は極東の頭脳といったところだ。彼女は部屋の横にあるソファーに座るよう促され、サカキと共に腰掛けた。
「私は、貴方に以前会ったことがあります。その証拠に他の隊員はまだ知らない人たちの名前も存じています。例えば——雨宮リンドウ、とか。あぁ、でもあれか。リンドウさんなら知らない人はいないか。じゃあ…」
極東で一緒に戦った神機使いたちの名前や特徴を事細かに言う。サカキは驚いた表情を見せた。掴みは良いようだ。
「クレイドルや防衛班。彼らが過去にどんなことをして、今何をしているのかも、知っています。結論を言います。つまり私は——未来から来ました」
瞳は真剣そのものだ。彼女が嘘を吐いているとは思えなかった。
「昔、本で読んだ『タイムスリップ』でもしたというのかい?」
無言で頷く。そして、ここに至るまでの経緯を説明した。ロミオの死。ジュリウスの離脱。ラケルによる終末捕食。それを防ぐ為のサカキによる終末捕食の相殺。その相殺を止めないように生まれた螺旋の樹。キュウビとの戦いや、防衛班との任務。そして、あの時の任務のことも。全てを聞き終わったサカキはゆっくりと呟く。
「実に興味深い。命の危機に応えたという訳か」
「貴方ならそう言ってくれると思ってましたよ、博士」
「確証が得られるまではなんとも言えないが、これだけは言っておこう」
咳払いをひとつして、少し声を低くする。
「過去を変えるということは、未来を変えるということだ。信じたくないが、ロミオ君が死ぬことを君が防げたとしよう。それで本来…君がいた未来が、君がいたときと全く同じまま時が流れるとは限らない。彼らを助けたことで、ラケル博士がまた何か新たに策を仕掛けてくるだろう。彼女は最高の頭脳と称されている位だからね」
マキは目を見開いた。彼らを助けたいと思うあまり、元の時間で起きてきたことなど気にしていなかった。あの時間に置いてきた仲間たちが犠牲にならないとは、言い切れないのだ。そして、仮に助けられても。自分の身を犠牲にしてまでジュリウスを『世界を拓く者』にした彼女だ。次なる手があるに違いない。あまりの衝撃に、そして自分の愚かさに言葉を紡げなかった。
だが、とサカキは続ける。
「君は、話を聞く限り、想像を絶するような戦いを続けてきたみたいだ。奇跡も起こした。二人を救える可能性はゼロではない。現在を変えることで未来も変わるリスクを背負うか…同じように時を過ごし、元いた世界に戻るのか…」
マキは鼻で笑う。
「言うまでもない。私が戻ってきたのは、二人を救う為。その為にきっとジュリウスが私をここに連れて来てくれたんだと思うから…だからと言って、他の仲間を見捨てたりしない。全員まとめて護ります。この手で。命に代えてでも」
彼女の目は仲間を護りたいと思う優しさと、ラケルを許すわけにはいかないと思う怒りが入り混じっていた。だがどこまでも、その眼差しは力強かった。
「そうかい」
サカキは立ち上がっていつもの感情が分からない顔に戻る。
「私も出来る限りの援助はしよう。だが、無茶はいけないよ?仲間を頼りなさい。君一人では出来ないことも、仲間がいれば出来ることもあるのだから」
「はい…ありがとうございます。お時間を頂き、申し訳ございませんでした」
マキはドアをくぐり抜けようとしたとき、振り返って追加の依頼をする。
「このことは、内密に願います」
人差し指を立て口元に持っていく。サカキも同じジェスチャーをする。マキは微笑むと、今度こそ部屋を後にした。
「…タイムスリップか。実に興味深い。ブラッド副隊長。君は底知れぬ技量があるようだね」

再びパソコンに向き直り、リズミカルにキーボードを打ち始めた。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.11 )
日時: 2015/09/26 23:14
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


エリナとエミールへの挨拶を簡単に済ませた後、自室へ向かったマキ。そこで高峰サツキと葦原ユノに会った。
貴族趣味だと言ったギルバートへサツキが反論したり、ロミオがファンだとユノへ言い寄り、サツキがそれを止めに入ったりと一悶着あったが、どうにか部屋へ入ることが出来た。
「確かに、フライアは貴族趣味かもな」
部屋はフライアよりも簡素に出来ていた。青い床にベッドと机とソファー。それからターミナルがある程度。フライアは窓枠や床に装飾が施されており、食事といえば極東のようなアットホームな雰囲気は無く、昔テレビでよく見た長い机にブラッドや局員が定位置に座り、重苦しい空気の中食べていた。
今では——といってもこの頃はまだ極東の事を何も知らなかったが——フライアより極東にいる時間の方が長くなってしまい、フライアにいた僅かな時間さえ懐かしく思えてしまった。マキは苦笑し、ベッドへ横になった。

『——過去を変えるということは、未来を変えるということだ。本来君がいた未来が君がいたときと全く同じまま時が流れるとは限らない』

先程のサカキとのやり取りを思い出す。
何度もジュリウスとロミオを救いたいと願っていた。出来ることなら過去に戻って二人を助けて、またブラッド全員で任務に行きたい。自分が副隊長として隊長をサポートしながら先陣を切って戦いたい…そう思っていた。けれども、二人を救ったら、別の誰かが犠牲になるかもしれない。その犠牲者は自分かもしれない。
「あんな大口叩いておいて、出来るのか…私が」
先のことなんて何も考えていなかった自分に腹が立ってきた。いつもなら気にすることなど無い未来を気にして、叫ぶことができない鬱憤をシーツを握り締め、皺くちゃにさせることで解消する。その時、部屋の外から声がした。
『副隊長ー!任務だってよー!』
ロミオの明るい声がする。軽く返事をし、ターミナルで準備を整える。次の任務は確かコンゴウ二体の討伐任務だ。
「…そういえば、あの辺の奴らとやりあうのは久々な気がする」
マルドゥークやらキュウビやらハンニバル神速種やら、所謂「強敵の大型種」と何度もやり合ってきたマキは、コンゴウ二体程度なら一人でも行ける。そしてふと、思う。
「…この頃の武器ってあんまり揃ってないか?」
ターミナルで自分の持ち物を確認する。
「…え」
武器は——ないといえばないし、あるといえばあった。属性に特化した武器はなかったが、クロガネの武器ならあった。しかも最終型。この頃、まだ極密度複合コアはまだ作れないはずだ。
「まさか…あの時の持ち物のまま…?」
過去に飛ばされる前、付けていた装備だ。簡単な任務だと思っていたので、回復錠Sはあの時持っていってなかった。ホールドトラップも持っていっていない。いつものスタングレネードと回復錠・回復錠改のみだ。
外でロミオが催促している。マキは装備を変えず——正確には変えられず——自室を後にした。

ミッションはコウタ・ロミオ・ジュリウスで向かうことになった。コウタが付いてきたのは「ブラッドのお手並み拝見と行こう」というものだった。そこに隊長と副隊長、一番近場にいたロミオを連れてきた。マキはいつものとおり指示を出す。
「コウタ…隊長はロミオと雑魚を叩いて下さい。私と隊長はコンゴウを一体ずつ相手する。二人は雑魚を始末次第、どちらかに合流してくれ」
マキは作戦エリアに入る前に全員に告げる。
「っふー!やっぱブラッドは違うねー!指示の出し方が上手いや!俺も見習わなきゃなー」
コウタが賞賛する。それに便乗するかのようにロミオもマキを賞賛し始める。
「うちの副隊長はすげーんですよ!血の力にもう目覚めてるし、ブラッドアーツなんかかっけーんですから!」
「あぁあれね!噂は聞いてるよ!必殺技みたいなのをずばーっと…」
「コウタ隊長、その話は後ほど…」
ジュリウスが話を強制的に終わらせる。マキは思わず噴き出した。二人のテンションに彼は付いていけないみたいだ。「俺はロミオみたいにできない」と言っていたのを思い出す。
「隊長はローテンションみたいですよ」
「え、そうなの?そんなんじゃやってけないよー!テンションあげていこうぜ!この後は歓迎会だからな!」
コウタがバシバシとジュリウスの背中を叩く。ジュリウスは背中をさすっていた。少々痛かったようだ。
「余興はこれくらいにして、行くぞ」

「「「了解!」」」

三人の声が重なった。それを合図に全員作戦エリアに下りる。開けた場所に出ると、コンゴウが姿を現した。
「コウタの願いに応えてやらないとな…」

先程の迷いなどなかったかのように、マキはコンゴウに向かっていった。


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