二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 【完結】フレッシュプリキュア!〜過去の恩と因縁と〜
- 日時: 2016/12/24 22:01
- 名前: ひのり (ID: uLF5snsy)
皆さんこんにちは!ひのりです!
以前まで春太郎という名前で書いていたのですが、雑談掲示板の方での名前変えたのでこっちでも変えました!
今回は二か月ぶりにフレッシュプリキュアの小説を書いていきたいと思います!
いやぁ、ブッキー可愛いよ。うん、ブッキー可愛い。
ちなみにタイトルはそこまで意味ないです。適当に考えましたw
では、稚拙な文章になると思いますが、温かい目で見てやってください。
それでは、よろしくお願いします。
- Re: フレッシュプリキュア!〜過去の恩と因縁と〜 ( No.38 )
- 日時: 2016/12/12 22:53
- 名前: ひのり (ID: uLF5snsy)
「ハイ。ご飯できたよ」
できあがった食事を目の前に置くと、千香ちゃんは目を輝かせた。
そして、すぐに「いただきます!」と言い、ガツガツと食べ始める。
私はそれを眺めつつ、ポケットの中のリンクルンに手を伸ばす。
とにかく、千香ちゃんの身の回りのことは一通りしてあげて、彼女が寝るまで待たなくちゃ……。
じゃないと、彼女に、私たちがプリキュアであることがばれてしまうから。
「祈里お姉ちゃんのご飯美味しい〜!」
「フフッ。急がずに、よく噛んで食べてね」
「うん!」
ごく普通のマンションの一室。それが、彰君の家だった。
特に狭苦しい雰囲気などはなく、兄妹それぞれの自室もあるみたい。
「ごちそうさまでした!」
千香ちゃんは完食したようで、元気よく挨拶をすると、皿を持って水道のところまで行った。
そして、きちんと自分で片づけている様子を見て、私は微笑んだ。
と、そんな様子を眺めていて、食器を洗うのも、やはり彰君の仕事なのだろうか、と考える。
「千香ちゃん。お皿洗いは誰の仕事?」
「お皿?あのね、お皿は私がみていない間に、妖精さんが洗ってくれてるって、お兄ちゃんが言ってたよ!」
……彰君って、意外と言う事メルヘンなんだなぁ……。
知らなかった彰君の一面を、こんな時に知ることになるだなんて。
嬉しいような、悲しいような。不思議な感情が芽生えた。
「そっか。じゃあ、次は何を……」
「祈里お姉ちゃん」
私の言葉を遮るように、千香ちゃんは声を発した。
彼女は、潤んだ瞳で、真っ直ぐ私を見つめていた。
「お姉ちゃん達……何か隠してる?」
ドキッ!と心臓が音を立てた。
しかし、まだ誤魔化せる範囲……だと思う。
私は、とぼけることにした。
「な、何を言っているの……?隠してなんて」
「嘘だよ!だって、お兄ちゃんがいなくなった理由も説明してくれないし、おかしいよ!」
千香ちゃんの真剣な目に、私は言葉を詰まらせた。
子供だからって、心の中で馬鹿にしていたのかもしれない。
「ねぇ……隠し事はダメだって……お兄ちゃん言ってた。何を隠してるの?」
……恐らく、ここで逃げたら、千香ちゃんは間違った方向に進んでしまうかもしれない。
それに、逃げるわけにはいかない。私たちプリキュアが、彼女の中で、ヒーローだと言うのならば。
「千香ちゃんってさ、プリキュアが大好きなんだよね?」
「へ?うん……そうだけど」
「私と、ラブちゃんと、美希ちゃんと、せつなちゃんがね……プリキュアなんだ」
私の言葉に、千香ちゃんはしばらくキョトンとした。
彼女が何かを言う前に、私は、リンクルンを取り出し、変身をした。
キュアパインになった私を見て、彼女は目を見開いた。
「嘘っ……」
「ごめんね。ずっと、黙っていて。彰君がね、プリキュアは千香ちゃんの憧れの存在だから。千香ちゃんの夢を壊したくないから、隠していたんだって」
「そ、れは……」
千香ちゃんは、しばらく視線を彷徨わせた後で、もう一度私を見た。
私はそれに微笑み、彼女の前で膝をつき、頭を撫でてあげる。
「彰君はね。今、悪い人達に捕まってるんだ。だから、私はそれを助けに行かないといけない。それまで、一人でお留守番、できる?」
「……できる」
頷く千香ちゃんに、私は微笑んで見せた。
その時、千香ちゃんは、「そうだ!」と言って立ち上がると、どこかに走って行った。
しばらくして、古びたカメラを持って、戻ってきた。
それは、彰君が、さらわれる直後まで持っていたものだ。美希ちゃんが拾って、渡していたのかな。
「これ、パパの形見なの。お兄ちゃん、パパのこと大好きだったから、いつも肌身離さず持ってたの。良かったら、これ、お兄ちゃんに返してきてくれないかな?」
「……分かった。私に任せて」
私が受け取ると、千香ちゃんは満面の笑顔を浮かべた。
私は、落とさないように鞄にしまい、それを肩からかけ、マンションの窓から、近くの家の屋根に飛び移った。
そして、リンクルンを取り出して、ラブちゃん達に電話する。
『あ、ブッキー。もう千香ちゃん寝たの?』
「ごめんなさい……正体、ばらしちゃった」
私が言うと、電話の向こう側でラブちゃんが息を吞んだのが分かった。
その様子に、私は、リンクルンを握る手が強くなったのを感じた。
「こうするしかなかったの。ずっと、怪しく思っていたみたいだったから」
『……そっか』
「うん。だから……早く、彰君を助けに行こう」
私の言葉に、ラブちゃん……ラブちゃん達が、頷いた。
−−−
暗い部屋。蔦で覆われた部屋の中で、目を瞑り、浅く呼吸を繰り返す少年が一人。
ソファのような椅子に、沈み込むように座り、体は完全に脱力しきっている。
彼の体を包み込むのは、漆黒の、ラビリンスのコスチューム。
胸元では、真っ青なダイヤが怪しく光る。
「そろそろ時間ね。どう?調子は」
突如、部屋に入ってきた少女、メイスは、そう言って冷たく笑った。
すると、少年の固く瞑られた瞼は、まるで、少女の言葉に反応したかのように、ゆっくりと開く。
そこには、暗く、淀んだ目があった。
「フフッ……さぁ、立ちなさい」
少女に命令されると、彼は、ゆっくり立ち上がった。
- Re: フレッシュプリキュア!〜過去の恩と因縁と〜 ( No.39 )
- 日時: 2016/12/13 22:40
- 名前: ひのり (ID: uLF5snsy)
「ブッキー!」
公園に着いた時、ラブちゃん達が、私を呼んだ。
しかし、私の格好を見て、「あ、今はパインか」とすぐに訂正した。
すぐに三人も変身する。
「そういえばパイン。その鞄は?」
ピーチの言葉に、私は肩に掛けた小さな鞄に目を向けた。
「あぁ、これは、彰君のカメラが入っているの。千香ちゃんが、持って行ってって」
「そっか……」
「……とにかく、彰君を助けに、行くわよ」
パッションの言葉に、私たちは頷いた。
すると、アカルンの力で、メイスの本拠地まで向かった。
しかし、突如、バチィッ!という音と共に、黒い閃光が走った。
顔を上げると、そこは、森の奥に続く一本道のような場所だった。
「これ以上は、闇の力が強くて近づけないみたい……」
「じゃあ、走って行くしかないでしょ」
ベリーの言葉に、私たちはすぐに走って一本道を駆け抜ける。
その時、突如茂みから、二つの影が飛び出してきた。
「キャァッ!」「ぐっ……」
それを、パッションとベリーが受け止める。
「パッション!ベリー!」
それを見て、ピーチが足を止めた。
私もその場で立ち止まり、振り返る。
飛び出してきたのは、西さんと南さん……いや、ウェスターとサウラーだった。
「隼人!瞬!目を覚まして!」
パッションの声に、ウェスターは反応せずに、彼女の体を殴り飛ばした。
ベリーはそれを見つつ、サウラーの攻撃を受け止め、私たちの方に顔を向けてきた。
「ピーチ!パイン!ここはあたしたちに任せて先に行って!」
「でもっ……」
「良いから!先に行って!ここはあたしたちだけで戦ってみせる!」
ベリーの言葉に私たちは頷き、走ってさらに奥まで向かった。
しばらく走っていると、ドーム状で、蔦に覆われた、建物のようなものが見えた。
その時、突如蔦のようなものが襲い掛かる。
「危ないッ!」
咄嗟にピーチが間に立ちふさがり、素手の状態で、ラブサンシャインを放った。
すると、蔦ははじけ飛ぶ。
やがて、蔦が出てきた場所から、ソレヨコーセが出てきた。
「ソレヨコーセ……ッ!?」
「ッ……ここは私に任せて、パインは先に行って!」
ピーチの言葉に、私は一瞬たじろいだ。
しかし、どうせここで立ち止まろうとしても、パッション達みたいに「行け」って言うのだろう。
私は拳を握り締め、それから視線を逸らし、建物に向かった。
ドアに触れようとした時、それは、まるで私を招き入れるかのように、大きく開く。
「……罠、かしら?」
そう呟きながら、中に入る。
中は、一応、西洋風の階段や床はあるが、それらの7割を覆いつくしそうな緑色の蔦が生い茂っている。
その有様に、一度怯むが、数歩館に入る。
その時、背後で扉がバタンッと音を立てて閉まるのが分かった。
「あら、よく来たわね」
それと、ほとんど同時。
鈴の音のような声に、私は顔を上げた。
そこには、メイスがいた。
「メイス……ッ!」
「北乃君を返してもらいに来たのかしら?」
「……そうよ」
私の言葉に、彼女はクスッと余裕の笑みを零した。
それを見て、私はすぐに、パインフルートシンフォニーを取り出して、構えた。
すると、メイスは少し目を見開いて、また笑みを浮かべた。
「あらあら。そんなことをしなくても、返してあげるわよ?」
彼女は、そう言うと、背後にある通路の方に顔を向け、手で何か合図をした。
私は、しばらくその様子を見つめていた。
しかし、やがてその通路から現れた姿を見て、息を呑んだ。
「そんな……ッ!」
「最も、彼にその意志があれば、だけど」
ウェスターやサウラーが着ているような、漆黒の衣装。
胸元では、メイスの目と同じ、吸い込まれそうなほど綺麗な、真っ青なダイヤ。
そして、最後に見た時とは似ても似つかない、虚ろで、濁り、焦点の合わない目。
「紹介するわ。最近私の仲間になった、北乃彰君よ」
- Re: フレッシュプリキュア!〜過去の恩と因縁と〜 ( No.40 )
- 日時: 2016/12/15 21:47
- 名前: ひのり (ID: uLF5snsy)
「彰君!」
私は、咄嗟に彼の名前を呼ぶ。
しかし、彼は反応することなく、感情の無い目でどこか虚空を見つめている。
「クスッ、無駄よ。彼には、私の声以外はなーんにも、聴こえないもの」
メイスは、そう言うと彰君の肩に腕を回した。
体に触れられても、彼は反応しない。
まるで、ただの人形になってしまったかのように……。
「彰君に何をしたの!?」
「別に何も?ただ、ちょっと彼の記憶と感情を消して、私に従順にしただけ。ただ、それだけよ」
何でもないことのように言う彼女に、私は唇を噛んだ。
そんな私を見ながら、彼女は彰君の胸元で輝く、青いダイヤを撫で、クスッと笑った。
「そんなの……洗脳じゃない……」
「えぇ。そうね。でも、こうしないと、彼は私を好きになってくれないでしょう?」
彼女は、そう言うと彰君の耳元に口を近づけ、囁くような声量で言った。
「キュアパインを倒して」
それを聞いた瞬間、彰君の虚ろな目は鋭くなり、真っ直ぐ私に敵意を向ける。
好きな人から向けられた敵意に私が怯んだ瞬間、彼との距離が縮んだ。
彼の拳は、真っ直ぐ私に向かってくる。そして、胸を打ち抜かれた。
「カハッ!」
背中から床に打ち付けられ、私は口から息を吐いた。
顔を上げると、彼の掌が、目と鼻の先にあった。
「ッ……」
直後、黒い光が視界に広がる。
数瞬後、さらに私の体は吹き飛び、壁に強く、ぶつかった。
「ゲホッ……ケホッ……」
「どう?好き合い、愛し合った彼に、殴られ、痛めつけられるのは」
遠くから聞こえるメイスの言葉に、私は返事をすることができない。
なんて強さなの……?
メイスが分け与えた力だけでも、かなり厄介なもの。
しかし、彰君の体の動きから、彼自身の運動神経も相当高いように感じる。
もし、元々の彰君の運動神経がかなり良いとしたら……どうすれば良いんだろう。私は……。
そう思っていた時、顔面に閃光が走った。
蹴られたのだ、ということに、後から気付く。
その時には、私は床に仰向けになり、天井を見つめていた。
「……ケホッ……彰君、こんなこともう、やめようよ。彰君だって、こんなことしたくないんだよね?」
私の言葉に、彰君は反応しない。
無表情で、ただ、真っ直ぐ私を見ている。
その時、彼の視線が、私から逸れたのが分かった。
視線を追うと、いつの間にか落としたのか、彰君のカメラが入った鞄だった。
「っぁ……ダメっ……」
「それは……?北乃君、持ってきなさい」
メイスの命令に、彰君は鞄を持って、メイスの元に歩いて行く。
何も言わずに従うその姿は、まるでロボットのようで、私は唇を噛みしめた。
メイスは、彰君から鞄を受け取ると、中から鞄を取り出した。
「これは、北乃君の……」
以前、カメラをナケサケーベにされて、動揺していた彰君を思い出した。
彼にとって、あのカメラは命より大事なものであるハズだ。
それなのに、敵であるメイスにああやってベタベタ触らせて……。
私が悔しがることではないけれど、それでも、やはり悔しいものは悔しい。
しかし、私は、ただ遠くからその様子を見ていることしかできない。
「……へぇ、そんなことが……。キュアパイン。貴方も、彼の過去、見てみる?」
メイスは、そう言うとクスッと笑う。
その顔に疑問に思った瞬間、彼女はカメラから、何か黒い靄のようなものを飛ばしてきた。
そして、それは私の視界を支配する。
咄嗟に剥ぎ取ろうとしたが、手は空を切り、目の前で何か映像が流れ始める。
それは、昔の彰君の、記憶だった。
- Re: フレッシュプリキュア!〜過去の恩と因縁と〜 ( No.41 )
- 日時: 2016/12/17 23:20
- 名前: ひのり (ID: uLF5snsy)
目を開けると、そこはどこかの学校の教室だった。
どうやら参観日らしく、教室の後ろの方には、大人の男女が立っていた。
私がいる場所は、どこだろう。まるで、テレビを見ているかのような、変な感覚。
見ようと思えば、歩かなくても距離を無視して近くで見れるし、そもそも体がない。
これが、彰君の記憶、というやつなのだろうか……。
「それじゃあ、次は……北乃君。読んで」
「はいっ!」
その時、凛とした声が聴こえた。
見ると、それは、見覚えのある少年だった。
黒い髪に、凛とした目。
しばらくして、それは、幼くなった彰君だと分かった。
「お父さん。六年二組、北乃彰。
僕のお父さんは、プロのカメラマンです。いつも誰かの笑顔を撮って、それで、また誰かを笑顔にする。そんな仕事をしています。それに……———」
彰君の、お父さんへの作文には、愛が溢れていた。
その作文で、涙もろいおばさん達なんかは、少し涙ぐんだりしている。
やがて、彼が作文を終えると、自然と教室内は拍手に包み込まれていた。
彰君は、それに照れたように笑うと椅子に座り、後ろの、保護者が並んでいる方を見た。
しばらくして、目当ての人を見つけたのか、彼は歯を見せて笑うと、手を振った。
その視線を追うと、首からカメラを提げた男性がいた。
彼は、それに優しく微笑むと、親指をグッと上げた。
すると、視界がグルグルと回り、気付いたら外になっていた。
そこでは、彰君と、先ほどの男性が歩いていた。
恐らく、あの男性が彰君のお父さんだろう。
「彰。今日の作文良かったぞ。先生も、何人かのお母さんも褒めていたぞ」
そう言うと、彰君のお父さんは、彰君の頭をわしゃわしゃと撫でた。
それに、彰君は嬉しそうに目を細め、「えへへっ」と笑った。
「僕、将来は父さんみたいなカメラマンになるんだ!父さんみたいに、いっぱい人を笑顔にする!」
「あははっ。またそれか」
「うんっ!だから、カメラマンになる方法を教えてよ!」
「お前にはまだ早い。もっと色々なものに触れてみて、それでもカメラマンになりたいなら、教えてやる」
「父さんこそ、いっつもそれじゃん」
そう言うと、彰君は腕を組んで、頬を膨らませ、ぷいっと顔を逸らす。
今では、そんな態度をしているのが想像できなかったので、私はついクスッと笑った。
しばらく他愛のない会話をしながら歩いて行くと、横断歩道に差し掛かる。
その信号は赤で、止まらなければならない。
しかし、彰君は嬉しそうに何かを話しながら、信号を歩いて行く。
「おい、彰っ」
フラフラと歩く彰君を、彰君のお父さんは慌てて呼び止めた。
それに、彰君が「んっ?」と言って立ち止まる。
その時、そこにトラックがものすごい勢いで突っ込んでいくのが分かった。
「彰ッ!」
すると、彼の父親が、咄嗟に提げていたカメラを地面に投げ捨て、彰君に飛びかかる。
やがて、彰君のお父さんは、彰君の体を抱きしめて、トラックに轢かれて……。
そう思っていた時、何かに吸い込まれるようにその映像は消え、目の前には、洋風の館が広がっていた。
- Re: フレッシュプリキュア!〜過去の恩と因縁と〜 ( No.42 )
- 日時: 2016/12/19 22:20
- 名前: ひのり (ID: uLF5snsy)
全て見終わり、私の視界を支配していた靄は晴れる。
目の前では、メイスがクスクスと笑っていた。
「どうだった?彼の記憶は。自分のせいで大好きだった父が死に、今でも彼の心には、その傷は深く残っている。感情を消すことで、その記憶に苦しまずに済む。記憶を消すことで、トラウマを思い出さなくて済む。私がしていることは……」
間違っているかしら?と、彼女は冷たく笑った。
その言葉に、私は口を噤む。
これは、彰君に直接聞いて見なければ、分からない。
彼がどう思っているのか、今の状況じゃ分からないから。
「……私は、彰君のことは、何も知らない。彼のお父さんが、あんな風に死んだことも……それに、彰君が苦しんでいたことも……でも」
私は、変身を解いて、真っ直ぐ彰君を見つめた。
「もっと……彼のことを知りたい。私は彼と、分かりあって、一緒にいたい!」
私の言葉に、一瞬、彰君の眉がピクリと動いた気がした。
しかし、それを知ってか知らずか、メイスが「北乃君!キュアパインを攻撃して!」と命令する。でも、彰君は動かない。
気を付けの体勢のまま、虚ろな目で私を見ている。
「彰君……?」
「何やってるの!早く、攻撃して!」
メイスの声は、少し焦りが混じっているように感じた。
その時、彰君の胸元のダイヤが、微かに黒く淀んだ気がした。
すると、彼の目も真っ暗になり、すぐに私の元に駆けてくるのが分かった。
「彰君ッ!私は信じてるよ!あなたのこと!あなたの全てを、受け止めるから……ッ!」
私は、そう言ってから両手を広げた。
そして、ギュッと瞼を閉じる。
変身している状態でも、ボロボロにされるくらいの攻撃力。
恐らく、今殴られたら、最悪絶命するだろう。
でも、彼なら……———。
———……しかし、いくら待っても、その時は訪れない。
私は、恐る恐る目を開いた。
そこには、息を吹けば掛かるくらいの距離で震えている、拳があった。
「彰君……」
「何してるのよ!さっさと……さっさと殴りなさいよ!」
メイスの言葉に彰君は反応せず、私を殴る直前の体勢で固まっていた。
その時、彼の頬を、透明の液体が伝った。
……彼は、自分の中で戦っているんだ!
だったら、私も何か、手伝わなくちゃ!
「……ラン、ラン、ラン、ラン、ランラララァ〜ラァ〜♪」
そう思った私は、彼の拳を両手で包み込み、気付けば子守唄を歌っていた。
クローバーボックスのオルゴールから奏でられるメロディ。歌詞のない、それでも、優しいメロディ。
ラブちゃんや美希ちゃんみたいに、上手くは歌えないかもしれない。効果があるかも、分からない。
でも、彰君のために、私は歌い続けた。
「それは……?」
メイスの、不思議そうな声色。
それでも、私は歌い続ける。
「ぁ……ぁぁ……」
その時、微かに、彰君の目に光が宿ったような気がした。
少しずつ、ピキピキと胸元のダイヤには亀裂が走る。
あともう少し……そう思った時、突然声が出なくなった。
首筋に手をやると、何やら妙な手触りがした。これは、ソレヨコーセの……蔦?
「ケホッ……?」
喉の声帯の辺りが締め付けられて、上手く声が出ない。
私はなんとか外そうとするが、外れない。
「危ないところだったわね……歌えなければこっちのものよ」
冷たく笑うメイス。
このまま息を止めればいいものを……いや、それは難しいのかもしれない……。
そう思いながら、彰君に目を向ける。
見ると、彼の胸元のダイヤの亀裂が少しずつ直り、目に微かに宿っていた光も消え、空洞のような淀んだ目に戻っている。
「さぁ、北乃君。戻って来て。貴方の感情を、もっと……消さなくちゃ」
メイスの命令に、彰君の体は、まるでロボットのようにぎこちなく動きながらも、彼女の元に戻ろうとする。
このまま戻って、さらに洗脳されたら、彼は二度と元に戻れない。
焦った私は、咄嗟に彼の元に駆け寄った。
そして、彼の肩を掴んでこちらに振り向かせ、口づけをした。
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