二次創作小説(新・総合)

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逃走中:恋路迷宮ターミナル[完]
日時: 2023/07/12 23:55
名前: 綾木 ◆sLmy/eUNds (ID: ANX68i3k)

Ride on time, fugitives.


<逃走者一覧>
愛城恋太郎(君のことが大大大大大好きな100人の彼女)
赤神明光(てんぷる)
天野エリカ(カッコウの許嫁)
綾崎ハヤテ(ハヤテのごとく!)
一姫(雀魂)
鷺森灼(咲-Saki-シリーズ)
桜衣乃(おちこぼれフルーツタルト)
桜ノ宮苺香(ブレンド・S)
志田黒羽(幼なじみが絶対に負けないラブコメ)
染谷まこ(咲-Saki-シリーズ)
雀明華(咲-Saki-シリーズ)
中野四葉(五等分の花嫁)
棗ノノ(うらら迷路帖)
羽瀬川小鷹(僕は友達が少ない)
福路美穂子(咲-Saki-シリーズ)
幕澤桜花(女神のカフェテラス)
海凪小春(スローループ)
水瀬渚(カノジョも彼女)
八重森みに(彼女、お借りします)
唯我成幸(ぼくたちは勉強ができない)
(全20名・五十音順)


<ゲーム情報>
ゲーム時間:90分
賞金:1秒200円ずつ上昇、逃走成功で108万円獲得
ハンターの数:4体

Re: 逃走中:恋路迷宮ターミナル ( No.55 )
日時: 2023/06/30 23:55
名前: 綾木 ◆sLmy/eUNds (ID: ANX68i3k)

――――――



津山トシタカ《演:津田タカトシ(生徒会役員共)》
「…………」



あれからどのくらいの時間が過ぎただろうか。

少し時間をくれとは言ったものの、正直頭は真っ白で何も考えられない状態が続いている。

額から流れる汗が、俺の決断をせかしているようにさえ感じる。






萩原ルル《演:萩村スズ(生徒会役員共)》
「ねぇ津山、まだなの?」


八条マリア《演:七条アリア(生徒会役員共)》
「ルルちゃん……もう少し、ゆっくり考えさせてあげてもいいんじゃないかしら?」


天森シロ《演:天草シノ(生徒会役員共)》
「だが、電車の時間もあるだろう。あんまり遅くなると乗りそびれてしまうぞ」


マリア
「た、確かにそうね……」


ルル
「このままじゃ、全員共倒れになるわよ」



みんな、俺の回答を今か今かと待っている。

いい加減に答えを出さなくてはならないが、残された2人のことを思うと胸が締め付けられる。

かといって、3人ともせっかく今日のために準備をしてくれたのに誰も選ばず解散というわけにもいかない。






トシタカ
「…………」


俺は、自分の考えを整理するためにもう一度、3人の顔を順番に見てみる。




シロ
「…………」


最初に俺のことを誘ってくれた、会長。
整った顔立ち・凛とした表情の会長は、見た目のみならず勉強や運動も完璧にこなし、俺が通う高校のトップとしてこれ以上ないほどふさわしい存在である。
俺は、そんな彼女にこの上ない信頼を寄せているのみならず、いつの間にか魅力を感じていた。






マリア
「…………」


2番目に俺のことを誘ってくれた、八条先輩。
清楚な面持ち・美しい体躯の先輩は、いつもおっとりしていて誰に対して礼儀正しく、俺にとっては心の安らぎとなるような存在である。
俺は、そんな彼女の癒されるような美貌と包み込むような優しさに、知らず知らずのうちにとりこになっていた。






ルル
「…………」


そして最後に俺のことを誘ってくれた、ルル。
体型・振舞い共に少々幼さが残る見た目のルルは、小さいながらも気が大きく、また頭脳はトップレベルに優秀で、同学年の俺がいつも頼りにしている存在である。
俺は、そんな彼女の見た目とのギャップと、何だかんだで俺のことを考えてくれている優しさに、ふと気が付くと心惹かれていた。






トシタカ
「…………」






ルル
「た、タイムオーバーよ……そろそろ、はっきりしなさい」



マリア
「津山くん……決まったかしら?」



シロ
「さぁ、誰にするんだ?」



ついにこの時が来た。

俺が次に発する言葉で、3にんのうちたった1人が選ばれることになる。



心を落ち着けるため、俺は1つ深呼吸をする。






トシタカ
「スゥ…………」



そして……腹の底から、声を絞り出した。






トシタカ
「俺は――






1. シロを選ぶ→>>56


2. マリアを選ぶ→>>57


3. ルルを選ぶ→>>58

Re: 逃走中:恋路迷宮ターミナル ( No.56 )
日時: 2023/07/01 23:55
名前: 綾木 ◆sLmy/eUNds (ID: ANX68i3k)

Case 1 ~シロの場合~



シロ
「いやぁ、実に楽しみだな」


トシタカ
「えっ?あぁはい、そうですね」


約束の時間からおよそ30分。



俺は、会長と共に花火大会の会場へ向かって普通電車に揺られていた。






シロ
「~♪」


トシタカ
「会長、機嫌よさそうですね。花火大会、そんなに楽しみだったんですか?」


シロ
「何を言うか、当たり前だろう!昨日は楽しみすぎて一睡もできなかったんだからな」


トシタカ
「そうだったんですか……すみません、こんなに楽しそうな会長は初めて見たもので」



電車を何本か乗り継ぎ、俺たちはようやく花火大会の会場の最寄り駅に到着した。



普通電車での鈍行旅で、時刻は既に午後の4時を回っていた。





シロ
「やっと着いたな……」


トシタカ
「この辺りは空気がおいしいですね~」


シロ
「津山、すまないな。こんなに長いこと大変な思いをさせてしまって」


トシタカ
「いえいえ、そんなこと気にしてませんから。それよりも、早く会場に行きましょうよ」


シロ
「待ってくれ。会場に向かう前に1つやることがあるんだ」


トシタカ
「ん?……あぁ、浴衣ですね。どこかで着替えるんですか?」


シロ
「近くの美容院で着付けを頼んである」


会場へ向かう途中にある美容院で、会長は持って来た浴衣を着つけてもらう。


家から浴衣で来るには移動時間があまりにも長いし、この判断はまぁ妥当だろう。




待合スペースで待つこと30分、ようやく奥から店員さんが出てきた。どうやら着付けが完了したらしい。


店員さんに続いて、きらびやかな浴衣に身を包んだ会長が出てきた。


会長の浴衣は濃い青がベースで、全体に大きな朝顔の模様があしらわれている。


普段は腰まで伸びている長い黒髪は上の方でまとめられており、露わになった左耳の近くでは2・3本の細長い髪留めが光沢を放っていた。


俺が立ち上がると、会長は少し顔を赤らめて手に持った白い巾着袋をいじり始めた。




トシタカ
「……会長……」


シロ
「津山……どう、だろうか……?」


トシタカ
「うん。すごく似合ってますよ、会長」


シロ
「ほ、本当か?よかった……時間をかけて選んだ甲斐があったよ」



そう言うと、会長は少しほころんだ表情を見せた。



今、俺の目の前に立っている会長は……これまでに見たこともないくらい、綺麗な女性だった。





シロ
「そういえば、津山は浴衣じゃなくてよかったのか?」


トシタカ
「あぁ、俺ですか?なんというか……浴衣は、性に合わないというか……」


シロ
「そうなのか?直接ズレ直しするには最適な服装だと思うのだが」


トシタカ
「余計な心配ありがとうございます」


会長がいつもの調子に戻ったところで、俺たちは美容院を後にし会場への道を歩き始める。


会場が近くなるにつれて、俺たちと同じ道を同じ方向に歩いて行く人が増えてきた。


中には、俺たちと同じように男女2人で並んで歩いている人もいる。




シロ
「みんな浴衣だな……なんというか、日本の夏って感じだな」


トシタカ
「そうですね……こんな格好してるの、俺くらいかもしれないですね」


シロ
「……ふふっ」


トシタカ
「……どうかしましたか、会長?」


シロ
「やっぱり、君は相変わらずだなと思って」


トシタカ
「な、なんかすいません……」


シロ
「いや、気にするな……君はいつも通りが一番いい。そういう着飾ろうとしないところ、私は嫌いじゃないぞ」


トシタカ
「うーん……着飾らないというか、俺はただ無頓着なだけなんですけどね」



他愛もない会話をしているうちに、俺たちはようやく目当ての花火会場に着いた。


打ち上げまでまだ1時間以上あるというのに、会場は見渡す限り既に沢山の人でごった返していた。


気付けば空は暗くなり始めており、会場のあちこちでぽつぽつと明かりがともり始めているのが見える。




シロ
「おぉー……祭りだ、花火だーー!!」


トシタカ
「会長、はしゃぎすぎですって……打ち上げはまだですよ」


シロ
「だったら、花火の前に屋台を回ろうではないか。津山、早く来るんだ!」


トシタカ
「ちょっ……待ってください、会長!」



会長に手を引っ張られ、俺たちは人であふれる屋台の列へ飛び込んだ。


水風船を釣ったり、綿菓子を買ったり、射的をしたり。


屋台を回っているときの会長は子どものような無邪気な表情で、普段の厳しい佇まいとは180度違うその印象に、俺は心を奪われていた。






打ち上げ開始時間が近くなってきたので、そろそろ川沿いの観覧場所へ向かうことにした。






シロ
「どうだ津山、楽しいか?」


トシタカ
「はい、とても。普段はあまりこういうイベントには行かないんですけど……たまにはこういうのもいいですね」


シロ
「だが、満足するのはまだ早いぞ。メインはこの後の花火だからな!」


トシタカ
「分かってますよ。確か、ここの花火は日本一美しいと言われてるんですよね」


シロ
「あぁ。死ぬまでに一度見てみたいと思っていたんだが……今日、こうして君と見ることができて幸せだよ。ありがとう」


トシタカ
「っ……こ、こちらこそ……今日は本当に――」




ビュオォォォォ!!!






トシタカ
「うわっ……!」


シロ
「……っ!!」



何の前触れもなく、突風が俺たちを襲った。


ふと前の方を見やると、会長は風でめくれ上がる浴衣を手で必死に抑えていた。


やがて突風が止み、俺は会長の方に駆け寄った。




トシタカ
「会長!大丈夫ですか?」


シロ
「あ、あぁ……何とかな」


トシタカ
「すごい風でしたね……やっぱり田舎の天気は読めないですね」


シロ
「どうだ?横方向にめくれるとチャイナドレス味があって興奮するだろう?」


トシタカ
「ぜーんぜん?」




ヒュルルルル……








パーン!!




トシタカ
「……!会長、始まりました!」


シロ
「津山、急ぐぞ!」



花火の打ち上げが始まり、俺たちは観覧場所に急いで向かった。



しかし、川辺に着くとそこは大勢の人でごった返しており、とても奥へ入り込める状況ではなかった。



しかも土手は堤状に盛り上がっているため、俺たちからすれば上の方に人がいることになり花火が非常に見づらくなってしまっている。






シロ
「相当混み合うとは聞いていたが……まさかここまでとはな」


トシタカ
「まいりましたね……これじゃろくに見えやしませんよ」


シロ
「だが、こんなこともあろうかと事前に第二の場所を調べておいてある」


トシタカ
「おぉー……さすが会長。それで、その場所はどこにあるんですか?」


シロ
「えっと……こっちだ。付いて来てくれ」


会長に導かれ、俺たちは木々に覆われた暗い山道を駆け上がった。


花火の音は相変わらず大きな音量で響いてくる。どうやら、第二の場所といってもさほど離れたところではないらしい。




シロ
「ここだ!」


トシタカ
「ここですか……本当に誰もいませんね」



移動することものの5分で、俺たちは開けた場所に着いた。



さっきまでの会場とは打って変わって明かりも人の姿もなく、辺りは薄暗かった。




トシタカ
「ここからだと、花火はどの辺に見えるんでしょうか?」


シロ
「多分、あっちの方だと思うんだが……」




ヒュルルルル……








パーン!!




トシタカ
「……会長、見えましたか?」


シロ
「あ、あぁ……上の方だけ……」



人ごみから逃れることはできたものの、肝心の花火の見やすさはさっきとほとんど変わっていないように感じる。



不都合なことに、花火の打ち上がっている方角は木々が濃く立ちはだかっているからだ。




トシタカ
「……おっ、会長!あそこならもっと見やすいかもしれませんよ!」



たまたま近くにジャングルジムのような構造物を見つけたので、俺はそこに登ってみることにした。






トシタカ
「この高さならきっと見えるようになりますよ!会長、登ってみましょう」


シロ
「まっ、待て!」


鉄格子を掴んで上にあがろうとしたとき、会長は俺の腕をがしっと掴んできた。




トシタカ
「会長?」


シロ
「その……これ、本当に登るのか?」


トシタカ
「はい。絶対にこのてっぺんの方がよく見えますから」


シロ
「そ、そう……だよな……」



そう言う会長の声は、心なしか弱弱しく聞こえた。



よく見ると、俺の腕を掴む会長の右手も少し震えているように感じる。






トシタカ
「会長……もしかして、高い所苦手なんですか?」


シロ
「……っ……」



俺の腕から手を離さぬまま、会長は無言でおもむろに頷いた。



どうやら会長は高所恐怖症らしい。



普段強気な会長が俺の前でこんな弱みを見せたことには、正直少し驚いた。






トシタカ
「だったら、会長が先に登るのはどうですか?」


シロ
「……!?わ、私が先……!?」


トシタカ
「俺が会長のすぐ後に登ります。そうすれば、会長が落ちてきても下で俺が支えられますから」


シロ
「……津山……」



会長は俺の提案を受け入れ、鉄格子を掴んでジャングルジムを登り始めた。



俺もそのすぐ下から会長を追うようにして上へあがっていく。



会長は運動能力も高いため、高い所が苦手だという割には結構スムーズに登っている。




トシタカ
「もうすぐです会長、頑張ってください」


シロ
「わ、分かってる――あぁっ!」


トシタカ
「会長!」



突然会長は足を滑らせ、バランスを崩した。


俺は咄嗟に両腕と胸腹部で会長の身体を支えた。


会長の手はしっかりと鉄格子を掴んでいたものの両足は完全に外れてしまっており、体重のほとんどを俺に委ねる格好となっていた。




シロ
「すっ、すまない……!」


トシタカ
「会長、大丈夫ですか?」


シロ
「この体勢……傍から見ると立ちバックに見えそうだな」


トシタカ
「うん、どうやら平気みたいだ」



会長はすぐに体勢を立て直し、そのままジャングルジムの頂上に登った。



会長に続いて俺も頂上に到達し、花火の打ち上がっている方向の空を見やる。




ヒュルルルル……








パーン!!




トシタカ
「おぉー……!」


シロ
「見える……見えるぞ!」



俺の予想通り、ジャングルジムの頂上からは日本一の花火がよく見えた。



俺たち2人のことを祝福するかのように、色とりどりの花火が真っ暗な空を染め上げている。




シロ
「これだ……これが見たかったんだよ、私は」


トシタカ
「やっぱり登ってみてよかったですね」


シロ
「あぁ……津山がいなかったら、きっと私はこんな景色を見ることはできなかっただろう」


俺たち2人はそのまま互いの身体を支えながらバランスをとり、夜空に咲き乱れる花火の美しさを楽しんだ。






やがて花火ショーは終わり、空には何筋もの煙のみが残った。




トシタカ
「終わっちゃいましたね……」


シロ
「あぁ……本当に、あっという間だったな。でも、今日は楽しかったよ。最後に最高のスポットで花火を見ることもできたしな」


トシタカ
「はい。色々ハプニングはありましたが、俺も大満足でしたよ。会長、今日は本当にありがとうございました」


シロ
「おっ、お礼をするのは私の方だ。津山……今日は1日付き合ってくれて、本当にありがとう」



やはり俺の会長を選んだ判断は間違っていなかった。



会長のおかげでこんなかけがえのない体験をすることができたし、それに今日1日を通じて会長への想いを再確認することができたからだ。




トシタカ
「そろそろ下りましょうか、会長」


シロ
「津山!」


トシタカ
「……どうかしましたか?」


シロ
「そ、その……だな」



会長はいつになくぎこちない様子で震えた声を発している。


そして、会長は一呼吸おいて俺にこう言った。



シロ
「わっ……私は、君のことが好きだ」


トシタカ
「…………?」



一瞬、時が止まった。



俺の聞き間違いでなければ、会長は今俺にプロポーズをしたことになる。



あの全校生徒が慕ってやまない、完璧生徒会長の天森シロが、である。




津山
「か、会長……?」


シロ
「私は……ずっと前から、君のことを見ていたんだ。君には普段厳しいことを言うこともあったが……そのたびに、ドキドキしっぱなしで……」


トシタカ
「…………」


シロ
「全校集会で演説するときも、まずいつも君のことを探していたんだよ……君の顔を見ると、心が落ち着いて上手くしゃべれるんだ」


彼女は真剣な眼差しで俺を見つめている。


俺はというと、あまりに突然の出来事に頭が真っ白になり、思考回路が完全にショートしていた。




シロ
「津山……君のことが好きだ。私と、正式に付き合ってくれないだろうか?」


津山
「……会長……」


俺は自分の耳が信じられなかった。


まさかみんなの憧れの対象である会長が、本当に俺のことを好きだなんて。


もう夜だし、俺は実は夢でも見てるんじゃないだろうか。




トシタカ
「会長……ちょっと、頬をつねってもらってもいいですか?」


シロ
「……?津山の、ほっぺをか?」


トシタカ
「だってこれ、夢かもしれないから……力いっぱい、お願いします」


シロ
「まったく……君は本当にMなんだな」


そう言うと、会長は右手を差し伸べ、俺の左頬をつねった。


痛い。確かに頬に痛みを感じる。


つまり――これは夢ではなく、現実ということになる。




シロ
「こっ、これで……いいだろうか……?」


トシタカ
「夢じゃない……俺、本当に……」


シロ
「それで……その、君は、どうだろうか……?」


トシタカ
「えっ、何がです?」


シロ
「にっ、2回も言わせるな!……君は……私のことを、どう思っている?」


トシタカ
「…………」


俺はショートした思考回路を元に戻すために少し時間をおき、深呼吸をした。


そして、あらためて会長の目を見つめ、声を発した。




トシタカ
「俺も好きですよ、会長のこと」


シロ
「…………!?」


そう言うと会長は驚いた様子で、目を見開いた。




シロ
「ほ、本当か……?君も、私のこと――」


トシタカ
「最初は服装とか、行動とか、細かいところまで厳しく指摘されて、正直少し苦手でした」


シロ
「そ、そうか……それは申し訳なかったな……」


トシタカ
「でも、それも会長が俺たちのことを思ってやっていることなんだって。しっかり生徒会長の務めを果たしているからこそ、うちの高校のみんなが会長のことを支持しているんだって思ったんです。会長がいつもお仕事頑張ってるの、俺分かってますから」


シロ
「…………」


トシタカ
「会長の仕事ぶり、いつもかっこいいなって思っていました。勉強も運動もできて、それに美人で……会長は、俺の持っていないものを沢山持っていて、本当に尊敬しています」


シロ
「……津山……」


トシタカ
「だから……そんな会長に好きだって言ってもらえて、本当に光栄です。こちらこそ、これからよろしくお願いします」


シロ
「…………!」


会長は再び目を見開き、右手を口に添えて固まった。


本当に驚いてるのはこっちなのに、会長の方が驚いている様子である。




シロ
「…………」


トシタカ
「……会長……?」


シロ
「す、すまない……腰が、抜けて――」


トシタカ
「会長!」


腰を抜かした会長は、座ったままよろけて体勢を崩した。


会長が下へ転げ落ちてしまわないよう、俺は咄嗟に会長の身体を両腕で抱えるようにして支えた。


よっぽど緊張していたのか、全て伝え終わった会長の身体は気の抜けた風船のように柔らかかった。




シロ
「つ、津山……」


トシタカ
「会長……大丈夫ですか?」


シロ
「……津山の身体、暖かいな……」


トシタカ
「すっ、すみません!夏なのに、暑苦しいですよね――」


シロ
「いや、このままでいい……もう少しだけ、この時間を堪能していたいんだ」


トシタカ
「会長……」


そう言うと、会長は自分から両腕をそっと俺の肩にまわした。


俺を包み込む会長の温もりは、夏の暑さなど忘れてしまうほどの心地よさだった。





シロ
「津山……愛しているぞ」


トシタカ
「はい。俺もです」



空からはいつの間にか花火の煙が消え、幾多の星が瞬いていた。


そんな幻想的な夜空の下で、俺たちはしばらくの間抱き合い続けた。






             -完-

Re: 逃走中:恋路迷宮ターミナル ( No.57 )
日時: 2023/07/02 23:55
名前: 綾木 ◆sLmy/eUNds (ID: ANX68i3k)

Case 2 ~マリアの場合~



トシタカ
「やっぱり速いな……新幹線は」


マリア
「目的の駅までは1時間ちょっとで着くみたいだわ」


約束の時間からおよそ30分。


俺は、八条先輩と共に財閥のリゾート地へ向かって新幹線の座席に座っていた。




トシタカ
「新幹線に乗るのなんて、多分中学の修学旅行のとき以来ですよ」


マリア
「私も久しぶりだわ。私が最後に乗ったのはいつだったかしら……?」


トシタカ
「あれ、八条先輩も久しぶりなんですか?俺、てっきり先輩はしょっちゅう乗ってるものかと……」


マリア
「普段はお家の車しか使わないからね……そもそも電車自体が久しぶりだわ」


トシタカ
「そ、そういうことですか……」



そんな話をしているうちに、俺たちは目的の駅に到着した。


駅を出た後、さらに迎えの車に乗ること15分で俺たちはようやく目的のリゾート地に到着した。




外に出ると、そこには絵に描いたような楽園の風景が広がっていた。


青い空の下で、八条家の富を象徴するような大きなホテルが、白い壁に日光を反射させながらそびえ立っている。


ホテルの下にはヤシの木があちこちに生える緑の庭があり、その中心部にある大きなプールでは、透き通るような水色の水面がゆらゆらと揺れているのが見える。


その先には眩しいほどの白い砂浜、そして本物の宝石のようなエメラルドグリーンの海が地平線の向こうまで広がっている。


俺はこの雄大な絶景を前にして、思わず息をのむことしかできなかった。




マリア
「それじゃあ津山くん、私について来て」


トシタカ
「はい!案内よろしくお願いします」


先輩の案内で、俺たちは開発中の八条リゾートを回った。


ホテルの内部を見たり、プール沿いの庭を歩いたり、ヴィラからの景色を眺めたり。


どこを切り取っても美しい風景ばかりだったが、俺を導きながら潮風に長い茶髪をなびかす今日の先輩は何よりもずっと綺麗で、そんなことを思うたびに俺の胸がどきっするのを感じた。




ひととおり施設やスポットの紹介が終わった後、先輩は俺にこう言った。




マリア
「まだ時間もあるし、せっかくだから海に入らない?」


トシタカ
「えっ、海ですか?でも、俺水着とか持ってきてないですし――」


マリア
「大丈夫よ。レンタルの水着が用意してあるから、それを使えばいいわ」


トシタカ
「なるほど……水着にもレンタルとか、あるんですね」


マリア
「あっちに着替えるスペースがあるわ。私も着替えるから、一緒に行きましょう」


トシタカ
「先輩は着替え用意してあるんですね」


マリア
「ばっちりよ。貞操帯のカギだって、今はしっかり持っているわ」


トシタカ
「その情報はいらん」


先輩に連れられ、俺はビーチの側にある着替え用の建物へ行った。


更衣室に入る前に、先輩に水着を用意してもらう。




マリア
「津山くん、サイズは何がいいかしら?」


トシタカ
「そうですね……この前Lはちょっと大きいなと感じたんで、Mでお願いします」


マリア
「なるほど……津山くんはM、と……」


トシタカ
「何でそんなかみしめた言い方してんの?」



先輩から水着を受け取った後、着替えのために俺と先輩は一旦別々の部屋へ分かれる。


俺の着替えは5分足らずで終わり、すぐに外へ出たがまだそこに先輩の姿はない。


まぁ、女の子の方が着替えは長いのだから当然っちゃ当然なのだが。




その場でさらに待つこと10分、ついに女子更衣室の扉が開いた。




マリア
「津山くん、おまたせ~」


トシタカ
「着替え、終わりましたか――っ!!」



そこから出てきたのは、いつもの清楚な雰囲気からは想像もつかない大胆な水着姿の先輩だった。


透明感あふれる艶やかな肌に純白のビキニが映え、普段制服越しにでも分かる美しいボディラインがいっそう強調されている。


先輩がこちらに歩み寄るたびに枷を取り払われた豊満な胸が縦に揺れ、そのたびに俺はドキッとしてしまう。




マリア
「津山くん……どうかしら……?」


トシタカ
「先輩……綺麗です。その水着、すごく大人っぽいというか……」


マリア
「本当?嬉しいわ……でもこれ、水着じゃなくてボディペイントなんだけど――」


トシタカ
「んなバカなー」


マリア
「ふふっ、冗談よ……海に入ったときに塗料が溶けたら、環境によくないからね」


トシタカ
「その前に君自身に関わる問題があると思うケド」



水着に着替えた俺たちは砂浜に出る。


目の前には、青々とした海が広がっていた。




マリア
「津山くんも早く!水が冷たくて気持ちいいわよ~」


トシタカ
「先輩、待ってくださーい!」


先輩の後を追うように俺は透き通った海の中へ歩を進めていった。


水面が腰ぐらいの高さになろうかというとき、突然俺は顔に海水をぶちまけられるのを感じた。




トシタカ
「な、何だ……?」


マリア
「ふふっ……あははっ!」


トシタカ
「先輩……やりましたね?それっ!」


マリア
「きゃっ!うふふっ♪」



燦燦と照り付ける太陽の下、俺と先輩は2人で海水を掛け合った。


まさか高校生にもなって先輩とこんな子供じみたことをするとは思わなかった。


でも、海水を身体全体にかぶった先輩の髪や肌はみずみずしくて、色んな意味で魅力的だった。




マリア
「いくわよ……それっ!」


トシタカ
「うわっ!……はは、もうびしょ濡れですよ……」


マリア
「私もよ――って、あれ?」


トシタカ
「……先輩?どうかしましたか?」


マリア
「あっ……私のミサンガ!待って~!」


トシタカ
「先輩!そんな深くに行ったら危ないですよ!」


マリア
「大丈夫!すぐ取ってくるからー!」


どうやら思い切り水をかけた拍子に手首のミサンガが外れてしまったらしく、先輩はそれを取り戻すため、沖から離れるように泳いで行った。


俺は先輩の後を追おうとしたが、少し進むと足が地面から離れそうになったため、その場で先輩の戻りを待つことにした。


10メートルほど先まで泳いだところで、先輩は右手を高く上げてこちらを向いた。




マリア
「津山くん、取れたわ~!」


トシタカ
「先輩、よかったですね。危ないですから、早くこっちに戻ってきてください」


マリア
「分かってるわ。今から――っ!?」


トシタカ
「…………!?」


俺の方に泳ぎ始めたそのとき、突然先輩の顔色が一変し、彼女はその場でもがき始めた。


何やら、先輩の様子がおかしい。




トシタカ
「先輩!どうしましたか!?」


マリア
「あ、足が……あっ……!」


トシタカ
「せっ、先輩!」


マリア
「つっ、津山……くん……、助け――っ!!」


トシタカ
「今行きます!」




脳よりも先に、身体が勝手に動き始めていた。


いつの間にか、俺は先輩の方へ向かって一直線に泳ぎ始めていた。


塩水が俺の両目を刺激して痛みが走るが、今はそんなことを気にしている場合ではない。




先輩を、助けなければ。






マリア
「あっ……あっ……!」


トシタカ
「先輩……先輩……!」



わき目もふらず、俺はがむしゃらに手足を動かし続けた。


1秒でも速く、光の速さで先輩の元に辿り着くために。


俺が息継ぎのために水面から顔を上げるたび、先輩の身体がだんだんと下へ沈んでいくのが見える。






マリア
「……と……し……くん……!」


トシタカ
「ハァ、ハァ、ハァ……!」


もうすぐです、先輩。


もう少しだけ……あともう少しだけ、頑張ってください。


そんなことを心の中で呟きながら、俺は手足をばたつかせるペースを上げた。




マリア
「…………」


トシタカ
「先輩!」


ついに、俺は海水の中で沈みゆく先輩の右腕を掴んだ。


その手首には、確かに先ほどのミサンガがつけられていた。


俺は背中から先輩の身体に両腕を巻き付かせるようにしてがっちりと先輩を抱えた。


先輩の身体を持ち上げるほどの力は俺になかったが、辛うじて沈んでいた先輩の顔を水の外に出すことには成功した。




トシタカ
「先輩!大丈夫ですか!?」


マリア
「…………」


俺の呼びかけに対する返答はなかった。


先輩は目を閉じたまま、眠るようにして頭を俺の左肘に預けている。


一刻も早くビーチに戻らなければ、先輩の命が危ない。




トシタカ
「先輩……もう少しだけ、頑張ってください!」


マリア
「…………」


俺はできるだけ先輩の顔が水面下に潜らないように気を付けながら、バタ足のみでビーチを目指した。


俺の両脚は、すでに疲労困憊だった。




トシタカ
「ハァ……ハァ……」


ようやく、俺は先輩を波打ち際まで運ぶことに成功した。


とりあえず、最悪の事態は回避できたようである。




マリア
「…………」


トシタカ
「せっ、先輩!」


しかし先輩は依然として俺の呼びかけに応じることはなく、深刻な状況であることには変わりない。


一刻も早く手を打たなければ、先輩の命が危ない。




マリア
「…………」


トシタカ
「やるしかない……人工呼吸……!」



意を決し、俺は先輩に人工呼吸を実施することにした。


ファーストキスの相手がよりにもよってこんな俺になるだなんて、先輩にとっては相当不本意に違いない。


しかし、先輩を救うためには他に方法がないのだから致し方ない。




マリア
「…………」


トシタカ
「先輩……ごめんなさい……っ!」



俺は先輩に申し訳なく思いながら、微かに開いた先輩の小さな口にそっと俺の唇を重ねた。


そして、俺はそこからゆっくりと息を2回吹き込んだ。




マリア
「……ふふっ」


トシタカ
「……!?!?」



俺が顔を上げると、先輩はせき込むでもなく、その場に寝たまま口元に手を当ててくすっと笑った。


思いもよらぬ状況の急転に、俺は驚きを隠すことができなかった。




トシタカ
「せっ、先輩!大丈夫なんですか!?」


マリア
「うふっ……津山くん、ごちそうさま」


トシタカ
「なっ……!!」



そう言って俺の方を向いて微笑む先輩の顔は、少し赤みを帯びていた。


先輩がずっと平気だったことを知った俺の頭の中は安心感と恥ずかしさが渦巻いていて、今にも爆発してしまいそうだった。




トシタカ
「さっきまでのは……ずっと演技だったんですね?俺、先輩のことが本当に心配で――」


マリア
「心配かけてごめんなさい……でも、足がつって溺れかけたのは本当よ。戻ろうとしたら急に足が動かなくなって、どんどん身体が沈んでいって……本当に怖かったわ」


トシタカ
「先輩、急に様子がおかしくなっていましたから……俺も、あの時はどうなることかと思いましたよ」


マリア
「だから……津山くん、助けてくれて本当にありがとう」


トシタカ
「とっ……とにかく、無事で何よりです。でも、次からはもうあんな無茶はしないでくださいね?」


マリア
「ふふっ……気を付けるわ……」



安心したのか、そう言うと先輩はそのまま波打ち際の砂の上で眠ってしまった。


風邪を引くといけないので、俺はタオルを取ってきて先輩の髪や肌についた水滴を軽くふき取ってやった。


柔らかな表情で寝息を立てる先輩の顔を眺めていると、いつの間にか陽が傾き始めていた。




しばらくして先輩は目を覚まし、その場で身体を起こした。


既に時間帯は夕方になっており、空は焼け付くほどのオレンジ色に染まっていた。




トシタカ
「おはようございます、先輩」


マリア
「津山くん……ごめんなさい、私寝ちゃってたみたい……」


トシタカ
「疲れてるんですよ、きっと。先輩は俺のことずっと案内してくれていましたし、さっきは海であんなこともありましたから……」


マリア
「そっか……私、溺れかけたところを津山くんに助けられて――」


トシタカ
「先輩……身体、本当に大丈夫ですか?」


マリア
「えぇ、おかげさまで平気よ……津山くん、さっきは本当にありがとう。後でお礼を考えておくわ」


トシタカ
「おっ、お礼なんていいですから……俺は、先輩に無事でいて欲しかった、ただそれだけです」


重ね重ね感謝の言葉をもらった俺は少し照れくさくなって、夕日の方に目をそらした。


すると、先輩は隣に座ったまま少しだけ俺の方に身を乗り出してこう言った。




マリア
「ねぇ、津山くん」


トシタカ
「なっ、何ですか?」


マリア
「あっ、あのね……よく、聞いていて欲しいんだけど……」



俺が先輩の方を向くと、先輩はすぐに体勢を元に戻した。


少し下をうつむいている先輩の顔を見ると、口元がぷるぷると震えているのが見えた。


先輩は両腕で膝をぎゅっと身体の方に引き寄せた後、意を決したように再び顔を上げてこう言った。




マリア
「私は……津山くんのことが、好きです」


トシタカ
「…………?」



先輩の口から放たれた言葉を聞いて、俺の頭は真っ白になった。



俺の思い過ごしでなければ、先輩は俺のことが好きだと言った。



あのおしとやかで清楚で、まさに高嶺の花という言葉がぴったりな美少女の八条マリアが、である。




トシタカ
「せ、先輩……?」


マリア
「私……知らない間に、いつも津山くんのことを考えるようになってたの。普段の何気ないときも、廊下を歩いているときだって、津山くんとすれ違うときはいつも胸がどきどきして……」


トシタカ
「そ、そうだったんですか……」


マリア
「この気持ちが何なのか、私全然分からなかったんだけど……今日、やっとその正体が分かったわ」


トシタカ
「…………」


マリア
「津山くんが私のことを抱えて水の中から引き上げてくれたとき、思ったの。私は……津山くんのことが、心から好きなんだって」


トシタカ
「…………っ!」


マリア
「津山くん……私は、これからもあなたと一緒にいたい。ずっと……隣にいても、いいかな……?」


トシタカ
「せ、先輩……」



先輩の顔がさっきよりもほてって見えるのは、恐らく夕焼けのせいではないだろう。


人工呼吸のくだりはあったものの……まさか、あの先輩がこんな俺のことをここまで想ってくれているなんて思いもしなかった。


俺は何も考えることができず、ただぽかんと口を開けていた。




トシタカ
「…………」


マリア
「……きっ、急にごめんね!びっくりしたわよね……返事は、ゆっくり考えてもらってからでも構わないから――」


トシタカ
「俺も好きですよ」


マリア
「…………?」


トシタカ
「俺も、先輩のそばにいたいです。これからも、ずっと」


マリア
「……え…………えっ……?」


何が起きたのか分からない様子で、先輩は少し慌てふためく仕草を見せた。




マリア
「津山くん……今、なんて……?」


トシタカ
「俺、先輩のことはずっといい人だなと思って見ていました。誰に対しても気さくに挨拶してくれるし、それでもって丁寧で、礼儀正しくて……もちろん、俺に対してもそうでした」


マリア
「津山くん……」


トシタカ
「だから……別に先輩は俺に対して特別な感情を抱いているとか、そんなことは一切思っていなかったんです。俺なんて別にイケメンでもなければ大した取柄もないし……むしろ、先輩は俺なんか見向きもしてないと思ってました」


マリア
「そっ、そんなことないわ!津山くんは優しくて、かっこよくて、話をしていると楽しくて……津山くんの素敵なところなら、私いくらでも言えるわ」


トシタカ
「そうやっていいところを沢山見つけてくれるところも、俺は好きですよ」


マリア
「津山くん……」


トシタカ
「俺は……そんな先輩と、今日みたいに一緒にかけがえのない時間を過ごしたいです。先輩……これからも、2人で思い出を作っていきましょう」


マリア
「…………!!」



声にならない叫びを抑えるように、先輩は両手で口を覆った。



大きく見開いた目には、透明な涙が夕日の色に染まっているのが見えた。




マリア
「うぅ……ひくっ」


トシタカ
「だっ……大丈夫ですか……?」


マリア
「ごめんなさい……嬉しくて、涙が……」


トシタカ
「あれ、そのミサンガ――」


マリア
「あっ……切れてる……」



涙を拭く先輩の右手首につけてあったミサンガがプツンと切れているのが見えた。



先ほど溺れる危機に瀕してまで先輩が一生懸命追いかけたミサンガがこうもあっさりと切れてしまうなんて、実に皮肉なものだ。




トシタカ
「本当に切れちゃってますね……先輩、頑張って取り戻しに行ったのに……」


マリア
「ふふっ……いいのよ、これで。今日は津山くんと一緒に楽しい時間を過ごせたし……それに、ファーストキスだってしてもらっちゃったしね」



トシタカ
「……っ!あっ、あれは……キスというか、人工呼吸――」


マリア
「あの時は心配かけてごめんなさい……でも、あのときは津山くんが私に本気になっていることが分かって、私すごく嬉しかったわ」


トシタカ
「……先輩……」


マリア
「……でも、あの時は津山くんの方から一方的にしてもらってたから……今度は、私からしてもいいかしら?」


トシタカ
「…………えっ?」


マリア
「……今度は……津山くんと、本当のキスをしてみたいわ」


トシタカ
「…………!?」



先輩にこんな大胆な一面があるとは思わなかったので、俺は驚いてしまった。



まさか先輩の方から俺にキスをしたいと言い出すだなんて。




トシタカ
「せ、先輩……本当に、いいんですか……俺で……?」


マリア
「うふっ、何言ってるのよ。さっきは津山くんの方から私にしてきてたじゃない」


トシタカ
「だから……あれはキスじゃなくて、人工呼吸ですって……」


俺のことを少しからかった後、先輩は再び真剣な眼差しで俺を見つめた。


そして、先輩はゆっくりと俺の方に顔を近づけた。




マリア
「…………」


トシタカ
「…………」






マリア
「……津山くん……」


トシタカ
「せっ、先輩…………んんっ」



赤く染まった空の下で、俺たち2人は互いの唇を重ね合った。


あらためて感じる先輩の唇は、真綿のように柔らかくていい匂いがした。




マリア
「ん……んんっ」


トシタカ
「んんっ……ん……」


俺は目を閉じ、両腕で先輩を軽く抱き寄せた。


そして、空が真っ暗になるまでその柔らかい感触を堪能し、愛を確かめ合った。






             -完-

Re: 逃走中:恋路迷宮ターミナル ( No.58 )
日時: 2023/07/03 23:55
名前: 綾木 ◆sLmy/eUNds (ID: ANX68i3k)

Case 3 ~ルルの場合~



ルル
「結構混んでるわね……」


トシタカ
「あぁ……今日の朝、なぜか止まってたからな」



約束の時間からおよそ30分。


俺は、ルルと共に水族館を目指し満席の地下鉄に乗り込んだ。




ルル
「~~~っ、~~~っ!」


トシタカ
「…………?」


ふとルルの方を見やると、彼女は背伸びをしながら一生懸命吊り革に手を伸ばしていた。




トシタカ
「萩原。なにもそんなに頑張らなくても――」


ルル
「うっ、うるさいわね……これくらい……!」


トシタカ
「はぁ……仕方ないな」


そう言って、俺は空いていた左腕をルルの方へ近づけた。


するとルルは少しだけ目を見開いて、俺の方を見た。




トシタカ
「ほら。袖でも裾でも、適当な場所つまんどけよ」


ルル
「……うん……」


ルルは上着の袖を右手でつまみ、再び下を向いた。






発車から20分弱で、俺たちを乗せた地下鉄は目的の最寄り駅に到着した。


水族館までは、さらに徒歩で10分ほどである。




トシタカ
「この道をただまっすぐ行けばいいんだよな。これなら1人でも迷わないぞ」


ルル
「つっ……津山」


トシタカ
「ん?どうした?」


ルル
「……て……ない……」


トシタカ
「えっ?何か言ったか?」


ルル
「その……手、つながない……?」


トシタカ
「萩原……?」


ルル
「一応私たち、今日は初めての……でっ、デート……なんだし……」


トシタカ
「…………」


ルル
「いっ、嫌だったらいいわよ。私だって、別にアンタなんかと――」


トシタカ
「いいよ」


ルル
「……へっ……?」


トシタカ
「俺の方は全然構わないぞ。ほら」


ルル
「つっ、津山……」


俺が左手を差し出すと、ルルはゆっくりと右手の指を絡めてきた。


ルルの指は、とてもすべすべした心地のよい感触だった。


俺と手をつないだルルは、なぜか耳を赤くしてうつむいていた。




歩くにつれ、周りに同じお客さんと思われる人たちが増えてきた。


中には、俺たちのように手をつないで歩いているカップルや家族連れもいる。




トシタカ
「萩原」


ルル
「なっ、何よ?」


トシタカ
「俺たちってさ……傍から見ると、デート中っていうより親子って感じ――いでででで!!!」



ルルは俺の左手を力まかせに握りつぶしてきた。


俺はその激しい痛みに悶絶してしまった。






そうこうしているうちに、俺たちはようやく水族館の入り口に到着した。




ルル
「津山、チケットは持って来たわよね?」


トシタカ
「あぁ。ちゃんとここにあるぞ」


そして、俺たちはようやく水族館の中へと足を踏み入れた。


そこは青々とした水槽に囲まれた幻想的な空間で、さながら海の中にいるようだった。




トシタカ
「綺麗だな……さすが、噂の水族館なだけあるな」


ルル
「ほら、いつまでそこに突っ立ってんのよ。時間がないわ」


トシタカ
「えっ、時間?何か急ぎの用でもあるのか?」


ルル
「すぐに分かるわ。とにかく今は私に付いて来て」


ルルのリードで、俺たちは水族館の内部を見て回った。


中にはいろんな種類の魚がおり、ルルはその1つ1つを見るたびに目を輝かせていた。


今日のルルは普段の冷たい雰囲気からは想像もつかないほどに表情が豊かで、少し顔がほころぶたびに俺は胸の高鳴りを感じていた。




トシタカ
「あっ……この水槽はちょっと高いな。萩原、見えるか?」


ルル
「だっ……だいじょう……ぶ……!」


トシタカ
「無理しなくていいぞ。ほら、俺が持ち上げてやろうか?」


ルル
「その必要はないわ」


そう言うと、ルルは大きなバッグの中から折り畳み式の踏み台を取り出し、その上に乗った。




ルル
「どう?これで持ち上げられて恥ずかしい思いをすることもないわ」


トシタカ
「いや、結構見られてるんだが」




順路の半分を過ぎたくらいのところに、大きく開けたスペースがあった。


中央には大きな丸いプール・その周囲には多数の座席があるのが見える。




ルル
「これからここでイルカショーを見るわよ」


トシタカ
「なるほど、急ぎの用ってこのショーのことだったのか」


ルル
「でも、始まるまであと2分しかないわ。急いで席を探すわよ」


ショーが始まる直前だったこともあり、座席はほとんどお客さんで埋めつくされていた。


しかし思いもよらぬことに最前列にちょうど隣り合った2つの席を見つけたため、俺たちはそこに座ることにした。




ルル
「はぁ……何とか間に合ったみたいね」


トシタカ
「まさかこんなところが都合よく空いてるなんてな。ラッキーラッキー」


ルル
「あれ……あれっ、あれ……?」


トシタカ
「……どうした?何か探しものか?」


ルル
「ないわ……レインコート、持って来たはずなのに……」


ルルはレインコートを持ってきていたらしいのだが、バッグの中を探しても出てこない。


俺たちの列は最前列であり、ここでは水しぶきを浴びることは避けられないだろう。




ルル
「どうしよう……このままじゃ私たち、確実にずぶ濡れよ……」


トシタカ
「どうする?後ろの席に移るか?」


ルル
「もうどこも空いてないわよ……それに、もうショーが――」




~♪





ルル
「……始まったわ……」


トシタカ
「この際しょうがないな。できるだけ水がこっちに来ないことを祈るしかない」


結局、俺たちは生身でイルカショーを見ることになった。


ショーが始まると、いきなりプールの中央から3頭のイルカが飛び出し、高く宙を舞った。




ルル
「おぉー……!」


トシタカ
「すごいな……こんなに高く飛べるものなのか、イルカって」


大きな音楽に合わせ、3頭のイルカは縦や横に回転しながらジャンプしたり、背中にインストラクターを乗せて周囲を泳いだり、中心で立ち泳ぎをしたりした。


そのたびに客席からは歓声や拍手が飛び交い、会場のムードは最高潮だった。




トシタカ
「そういやあのイルカ、他のに比べて小さくね?」


ルル
「今気づいたの?あの子はまだ生まれたばかりなのよ」


トシタカ
「へぇ、そうなのか」


3頭のうち1頭は生まれたばかりで他の2頭に比べて極めて体長が小さかったが、泳ぐ速さや飛ぶ高さなど、技のレベルは他の2頭にも引けを取らないレベルだった。




トシタカ
「あんな小さいのにすげぇな……なぁ、萩原」


ルル
「何よ、それ。私に喧嘩売ってんの?」


トシタカ
「いやいや!ああいう頑張り屋なところ、萩原にそっくりですごいなと思っただけだよ。きっと毎日一生懸命努力してるんだろうな……」


ルル
「ふ、ふぅん……」


トシタカ
「何と言うか……一寸の虫にも五分の魂というか――痛い痛い痛い痛い!!!」


ルルは座ったまま俺の右足を踏みつけ、力いっぱいつま先をねじ込んできた。


俺はその激痛に再び悶絶してしまった。




そんなことをしている間にショーはクライマックスに突入していた。


これまで水しぶきがプールの外まで達する場面が何度もあったが、幸い俺たちのいるゾーンはほとんど被害なしだった。




ルル
「時間的にこれがラストかしら」


トシタカ
「何か、ここはレインコート無くても大丈夫そうだったな」


ルル
「そ、そうね……」


プールの中心部から、3頭のイルカが一斉に回転しながら飛び出してきた。


イルカたちは、今日1番の高さまで舞い上がった。


その後、大きいイルカの1頭が俺たちの近くに落下してくるのに気づいた。




トシタカ
「萩原、危ない!」


ルル
「えっ……!?」


イルカは俺たちのすぐ目の前の水面に飛び込んだ。


落下の衝撃はすさまじく、すぐに激しい水しぶきがこちらに向かってきた。


俺はその津波のような水しぶきの直撃を受け、背中が一気に濡れていくのを感じた。




ルル
「つっ……津山……」


トシタカ
「萩原……濡れてないか?」


ルル
「うっ……うん……」


俺は何とかルルの目の前に両手を広げて立つことにより、彼女をかばうことに成功した。


ルルは突然のことにびっくりしたのか、目を丸くしていた。


閉幕後、会場はお客さんたちの拍手に包まれていた。




トシタカ
「へっ……へっくし!」


ルル
「もう……津山、ずぶ濡れじゃない」


トシタカ
「ははは……でも、萩原が無事でよかったよ。まさか最後にあんな大きいのが来るなんてな」


ルル
「つっ、津山……その、ありがとう……」


トシタカ
「お前のことちゃんと守れるか自信なかったけど、萩原が小さかったおかげで何とか防げたよ」


ルル
「もう一度足踏まれたいのかしら?」


トシタカ
「すいません何でもないです」


その後俺たちは会場を後にし、上着を乾かす目的も兼ねて屋外で少し休憩することにした。


俺がテラスの席を探す間、ルルは売店で飲み物を買って持ってきてくれた。




ルル
「はい。これがアンタの分」


トシタカ
「おぉ、サンキュー。これいくらだった?」


ルル
「おっ、お金ならいいわよ……これ、一応さっきのお礼だから……」


トシタカ
「お礼なんかいいって。気が済まないから俺にも払わせてくれよ」


ルル
「いっ、いいって言ってるでしょ!アンタは黙って受け取りなさい!」


トシタカ
「は、はぁ……」


ルルの威圧に圧倒された俺は、結局彼女に対価を支払うことはなかった。


まさか初デートで女の子におごってもらうなんて、男としては不本意な限りである。




空は雲一つない快晴で、真夏の太陽が容赦なくテラス席を照らしていた。




ルル
「外はホントに暑いわね……」


トシタカ
「あぁ……でも、これなら俺の上着もすぐに乾いてくれそうだな」


ルル
「ふふっ……そうね」


そう言ってルルは俺の飲みかけのボトルに手を伸ばし、口をつけて中身を飲んだ。




トシタカ
「はっ、萩原!」


ルル
「なっ、何よ急に」


トシタカ
「それ、俺のなんだけど……」


ルル
「え…………っ!?!?」


ルルは間違いに気づくと目を丸くし、右手で口を覆った。


普段冷静沈着なルルがここまで慌てているのは初めて見た。




ルル
「え……あ……嘘……」


トシタカ
「ははは、萩原もドジなところあるんだな」


ルル
「わっ、私……今……!」


トシタカ
「でも、俺はそういう方が愛着があっていいと思うけどな」


そう言ってボトルに口をつけると、ルルが勢いよく立ち上がった。




ルル
「えっ……ちょっと、何飲んでんのよ!!」


トシタカ
「え?だってこれは俺の――あっ……」



俺はようやく、ルルが顔を真っ赤にして取り乱しているわけを理解した。


このボトルを通じて、俺とルルは互いに間接キスをしてしまったのだ。


その事実に遅れて気づいた俺は、少しだけ顔が熱くなるのを感じた。




トシタカ
「その……萩原、本当にすまん……」


ルル
「バカじゃないの……ホントにバカじゃないの……!?」


その後はしばらく気まずい時間が流れ、互いに話すことも見ることもできなかった。




しばらくして落ち着いた俺たちは、さっきのことは触れないようにして水族館に戻った。


そして、残りの展示スペースを見て回った。


ルートの最後には水槽でできたトンネルがあり、そこをくぐり終えたときには俺もルルも完全にいつもの調子に戻っていた。




水族館を出ると陽が沈みかけていて、空は淡い橙色に染まっていた。


俺たちは近くにあった無人の公園に立ち寄り、ベンチに腰掛けた。




ルル
「つ、津山」


トシタカ
「ん?どうした?」


ルル
「その……今日は付き合ってくれてありがとう……」


トシタカ
「あぁ。俺の方こそ、誘ってくれてありがとう。今日はすげぇ楽しかったよ」


ルル
「わっ……私も……」


そう言うルルの顔はうつむいていて、表情をよく確認することができなかった。


その後しばらく無言の時間帯が続いたが、その静寂を破るようにルルがこう切り出してきた。




ルル
「ねっ……ねぇ、津山」


トシタカ
「ん?何だ?」


ルル
「その……私、実はまだ津山に言ってないことがあるの」


トシタカ
「俺に?何か言うことがあるのか?」


ルル
「えっと……その……」


ルルは下を向いたままもじもじした様子だった。


10秒間の沈黙の後、ルルはようやく口を開いた。




ルル
「私……チケット、間違えて2枚買ったって言ったでしょ……?」


トシタカ
「ん?あぁ、そういやそうだったな。それでその1枚を俺にくれたと」


ルル
「その……本当はね、あれ間違えて買ったんじゃないの」


トシタカ
「……えっ、そうなのか?」


ルル
「……うん……」


トシタカ
「じゃあ、一緒に行く予定だった人が急に行けなくなったとか?」


ルル
「違う……そうじゃなくて……」


トシタカ
「……?それじゃあ、何で――」


ルル
「……と………たの……」


トシタカ
「えっ、今何て?」


ルル
「私……ここにアンタと来たかったの……」


トシタカ
「…………???」


頭が真っ白になった。


俺は、ルルの言葉の意味が理解できなかった。




トシタカ
「えっと……つまり、萩原は俺とここに来るためにチケットを2枚買ったってこと?」


ルル
「そっ、そうよ……何回も言わせるんじゃないわよ」


トシタカ
「うーん……でも、どうしてなんだ?俺と一緒にここに来たかった理由ってのはなんなんだ?」


ルル
「…………よ」


トシタカ
「………ん?」


ルル
「…………きよ」


トシタカ
「えっ……すまん、もう1度言ってくれないか?」


ルル
「だから……好きって言ってるの!!」


トシタカ
「…………!?」


ルルが唐突にこっちを向いて大声を出したため、俺は思わず後ろにのけぞってしまった。




トシタカ
「えっと……好きって、何が?」


ルル
「……っ!?何でそこまで言わなきゃ分かんないのよ!」


トシタカ
「すっ、すまん……でも、本当に分かんなくて――」


ルル
「……た…………なの」


トシタカ
「えっ、もう1回――」


ルル
「私は、アンタのことが好きなの!!」


トシタカ
「…………!?!?」




顔を赤く染めてそう言うルルの前で、俺は自分の感情を隠すことができなかった。


俺が今驚いているのはルルが急に大声になったからではなく、その内容が信じられなかったからである。


ルルは、俺のことが好きだと言った。




トシタカ
「はっ……萩原……!?」


ルル
「アンタは……どうしようもないほどバカでヘタレで……最初はアンタのこと、嫌いだったわ」


トシタカ
「ひっ、ひでぇ言われようだな……」


ルル
「でも……アンタって、何だかんだで頼りになるのよ……私にできないこと、嫌な顔せずにいつも率先して引き受けてくれて……」


トシタカ
「そんな……俺は全然……」


ルル
「それに、アンタは他の男と違って威張ったりしないし……アンタと話してると、楽しいし……」


トシタカ
「…………」


ルル
「いつの間にか、頭の中はアンタのことばかりになってて……授業中も、気づいたらアンタのこと見てて……」


トシタカ
「……萩原……」


ルル
「それで、自分の気持ちに気づいたの……本当は私、アンタともっと一緒にいたいんだって」


トシタカ
「そっ、そうだったのか……」


ルル
「だから私……もっと、津山の近くにいたい……。私は……アンタの、1番になりたいの!」


トシタカ
「……萩原……」



俺はルルのことはずっと友達だと思っていた。


ルルはよく俺にバカだとか無能だとか言ったりするし、正直内心は見損なわれているとすら思っていた。


だから、まさかルルが俺のことをこんな風に思ってくれていたなんて思いもしなかった。




トシタカ
「…………」


ルル
「みっ……見てないで、何か言いなさいよ!……笑うなら笑いなさいよ……無反応より、そっちの方がよっぽど――」


トシタカ
「笑うわけないじゃないか」


ルル
「…………?」


トシタカ
「ただ、ちょっと驚いてただけだよ……萩原が、俺と同じこと思ってたなんて考えもよらなかったからさ」


ルル
「…………えっ……?」


ルルは目を見開き、まるで何が起こっているのか分からないかのような顔をしている。




トシタカ
「俺、萩原のこといつも頼りにしてるんだよ。俺が頼んだら勉強教えてくれたり、些細な相談にも乗ってくれるし……本当に、お前には感謝してもしきれないよ」


ルル
「そっ……そんなこと……」


トシタカ
「何より萩原の頑張り屋なところ、俺は好きだぞ。俺が手出す前にいつもまずは1人で解決しようと一生懸命努力してるところ、俺は知ってるからな」


ルル
「…………っ!」


トシタカ
「でも俺、萩原は頑張りすぎだと思うんだ。地下鉄のときもそうだったけど、自分の力でどうにもならないことがあったら、もっと甘えてもいいと思うんだ」


ルル
「わっ……悪かったわね……」


トシタカ
「だから、萩原にできないことは俺が全部やってやる。俺、これからはお前にもっと俺のことを頼って欲しい」


ルル
「え……それって……」


トシタカ
「萩原は俺のできないことをやって、俺は萩原のできないことをやる。萩原……これからは2人で、恋人として支え合っていこう」


ルル
「…………!!」



ルルは俺の方をじっと見つめたまま、その場で固まった。


彼女の頬は紅潮していて、目はより一層丸く開いていた。




トシタカ
「萩原、これからよろしくな」


ルル
「…………嫌よ」


トシタカ
「……えっ……?」


ルル
「私たち、恋人同士なんでしょ……?そんな堅苦しい呼び方、私は嫌」


トシタカ
「呼び方……萩原、じゃダメなのか?」


ルル
「ルルって呼んでよ……苗字呼びなんて、なんかよそよそしいじゃない」


トシタカ
「そっ、そういうことか……」


ルル
「その代わり……私もアンタのこと、これからは名前で呼ばせてもらうわ」


トシタカ
「ま……まぁ、お前がそれでいいなら……」


恋人生活開始の第一歩として、俺たちは互いの呼び方を改めることにした。


いきなり名前呼びになるのはだいぶ違和感が残るが、これから少しずつ慣らしていきたいと思う。




ルル
「じゃあ……いいかしら?」


トシタカ
「あぁ、いいぞ」




ルル
「これからよろしくね……トシタカ」


トシタカ
「こちらこそよろしくな、ルル」


お互いに少し照れくさくなって、俺たちはくすっと笑い合った。


濃いオレンジに染まった空の下、俺たちはぎゅっと手をつなぎ合って無人の公園を後にした。






             -完-

Re: 逃走中:恋路迷宮ターミナル ( No.59 )
日時: 2023/07/04 23:55
名前: 綾木 ◆sLmy/eUNds (ID: ANX68i3k)

―新幹線エリア―



ハヤテ
「あとはここで逃げ切るだけだ……!」



クロ
「いよいよクライマックスだね……!」



まこ
「ここまで来たら、あとは根気でどうにかするしかないかのう」





―普通電車エリア―




「うぅ……私は選択を間違えてしまったのでしょうか……?」




残る逃走者は、綾崎ハヤテ・志田黒羽・染谷まこ・水瀬渚の計4人


ミッション4で渚は普通電車エリア・それ以外の3人は新幹線エリアを選択!






ハンター
「…………」


対するハンターは、広い新幹線エリアに5体・中規模の普通電車エリアに3体



以降のゲームは、それぞれのエリアで分かれて行われる!






ハンター
「…………」


逃げ切れば108万円、捕まれば0円……!










―牢獄―


一姫
「残り10分切ったにゃ!」


美穂子
「もうすぐ終わるのね……何だか、捕まってからはあっという間だったわ」


明華
「あの場で逃げていたときはあんなに時間が経つのが長く感じたのに、本当に不思議ですね」


明光
「あと1桁とはいえ、ここからは全員新しいエリアだからな……」


四葉
「最後まで何が起こるか分かりませんね……でも、今残っている皆さんには頑張って欲しいです!」










―普通電車エリア―




「まさかここを選んだのが私だけだとは思いませんでした……」


残る4人の中で唯一普通電車エリアを選択した水瀬渚……





「よくよく考えると、多少ハンターが多くてもエリアが広い方が安心感はありますよね……あぁ、どうして私はここに……」




「やっぱり、中途半端な選択はするものじゃありませんね……」


唯一の選択となってしまったことにより、完全に自信を失ってしまったようだ……!











―新幹線エリア―



ハヤテ
「それにしても、まさか誰もハンター1体のエリアを選ばなかったとは……」


果敢に全てのミッションに挑みつつ、その俊足で幾度もピンチをしのいできた綾崎ハヤテ……




ハヤテ
「他に誰もいないことが分かっていたら、さすがに1体の方にしたと思うんだけどな……」




ハヤテ
「……まぁ、こんなことを今さらくよくよ考えてても仕方ないし、隠れる場所探すか……」











【逃げ切る自信は?】



クロ
「そりゃあ、ここまで来たんだもん。絶対逃げ切れるよ」


絶対の自信でここまで生き延びてきた志田黒羽……




クロ
「逃げる準備だってばっちりだからね。もう逃げるコースだって頭に入ってるから」




クロ
「あとは8分しのげばいいだけ……108万円、持って帰るよ」











まこ
「結構広いな……これなら逃げ場がなくて困ることはなさそうじゃ」


ハヤテ・クロと異なり、本意とは違う形で新幹線エリアを選択することとなった染谷まこ……




まこ
「でもハンターは5体じゃからのう……いくらゆとりがあっても多いのはやっぱり厄介じゃ」




まこ
「……?おるな、あそこに……」








ハンター
「…………」


まこの目線の先に、ハンター……!







まこ
「ここに隠れるか……」


近くにあった物陰に身体を潜める……!






ハンター
「…………」









まこ
「おぉ、ここはなかなかよさそうじゃな……絶妙に身体が隠れていい感じじゃ」




まこ
「しばらくはここにおるとするかのう」


時間を進める絶好の隠れ場所を見つけた……!












ハンター
「…………」




刻々と近づくゲーム終了の時間……






ハンター
「…………」




しかし、最後まで何があるかは分からない……!










ハヤテ
「残り7分……まだあれから3分しか経ってないのか……」




ハヤテ
「はぁ、何でこういうときに限って時間の進みが遅いんだ……早く終わってくれ……」


時間の進み具合を気にするハヤテ……








ハンター
「…………」


そこへ迫る、黒い影……!








ハヤテ
「ここは見通しが良くて少し不安だな……どこかにもう少しいい場所、ないかな……?」








ハンター
「…………」







ハヤテ
「えっと……今僕がいるのはここだから……」










[________]











[AYASAKI]




ハンター
「…………!」ダッ


見つかった……!








ハヤテ
「うーん……この辺とかどうかな……?結構見つかりづらいと思うんだけど……」






ハンター
「…………」タッタッタッ






ハヤテ
「でも挟み撃ちは最悪だからな……逃げ道が沢山あるところがいいよな……」


地図に夢中で、ハンターの接近に気づかない!








ハンター
「…………」タッタッタッ






ハヤテ
「……ん?マジか!」ダッ


その距離は既に残り10メートル
果たして、逃げ切れるか!?






7:00
996,000円
残り4人
新幹線エリア:綾崎ハヤテ/志田黒羽/染谷まこ
普通電車エリア:水瀬渚


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