【〜秋の夜長に〜SS小説大会にご参加いかがですか?】■結果発表!(2016.11.30 管理人更新)集計し精査した結果、壬崎菜音@壬生菜さんの「マッチョ売りな少女」(>>39)が1位となりました!壬崎菜音さん、おめでとうございます〜!今回ご参加くださった皆様、誠にありがとうございます!投票してくださった皆様にも深く御礼申し上げます!次回SS大会にもふるってご参加ください。****************************【日程】■ 第13回(2016年9月3日(土)18:00〜11月26日(土)23:59)※実際には11月27日00:59ごろまで表示されることがあります※小説カキコ全体としては3回目のためまだ仮的な開催です※ルールは随時修正追加予定です※風死様によるスレッド「SS大会」を継続した企画となりますので、回数は第11回からとしました。風死様、ありがとうございます!http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?mode=view&no=10058&word=%e9%a2%a8**************************【第13回 SS小説大会 参加ルール】■目的基本的には平日限定の企画です(投稿は休日に行ってもOKです)夏・冬の小説本大会の合間の息抜きイベントとしてご利用ください■投稿場所毎大会ごとに新スレッドを管理者が作成し、ご参加者方皆で共有使用していきます(※未定)新スレッドは管理者がご用意しますので、ご利用者様方で作成する必要はありません■投票方法スレッド内の各レス(子記事)に投票用ボタンがありますのでそちらをクリックして押していただければOKです⇒投票回数に特に制限は設けませんが、明らかに不当な投票行為があった場合にはカウント無効とし除外します■投稿文字数200文字以上〜1万字前後まで((スペース含む)1記事約4000文字上限×3記事以内)⇒この規定外になりそうな場合はご相談ください(この掲示板内「SS大会専用・連絡相談用スレッド」にて)■投稿ジャンルSS小説、詩、散文、いずれでもOKです。ノンジャンル。お題は当面ありません⇒禁止ジャンルR18系、(一般サイトとして通常許容できないレベルの)具体的な暴力グロ描写、実在人物・法人等を題材にしたもの、二次小説■投稿ニックネーム、作品数1大会中に10を超える、ほぼ差異のない投稿は禁止です。無効投稿とみなし作者様に予告なく管理者削除することがありますニックネームの複数使用は悪気のない限り自由です■発表等 ※予定2016年11月27日(日)12:00(予定)■賞品等1位入賞者には500円分のクオカードを郵便にてお送りします(ただし、管理者宛てメールにて希望依頼される場合にのみ発送します。こちらから住所氏名などをお伺いすることはございませんので、不要な場合は入賞賞品発送依頼をしなければOKです。メールのあて先は mori.kanri@gmail.com あてに、■住所■氏名 をご記入の上小説カキコ管理人あてに送信してください)■その他ご不明な点はこの掲示板内「SS大会専用・連絡相談用スレッド」までお問い合わせくださいhttp://www.kakiko.cc/novel/novel_ss/index.cgi?mode=view&no=10001******************************平日電車やバスなどの移動時間や、ちょっとした待ち時間など。お暇なひとときに短いショートストーリーを描いてみては。どうぞよろしくお願い申し上げます。******************************<ご参加タイトル 一覧> ※敬称略>>1 『宇宙(よぞら)のなかの、おともだち。』 Garnet>>2 『キミの夢』 霊夢>>3 『大切な場所』 レオン>>4 『最後の英雄』 月白鳥>>5 『星空と秘密の気持ち』 霊歌>>6 『夕焼け月夜を君と』 PLUM >>7 『焦がれし子宮』 めー>>8 『知』 茶色のブロック>>9 『儚い少女』 茶色のブロック>>10 『 white lilydie 』 PLUM>>11 『音を通じて』 奈乃香>>12 『月下美人。』 鏡杏>>13 『小さい頃からスキだったの』 ユリ>>14 『折り鶴』 御影>>15 『妄想を続けた結果、こうなりました。』 のあ>>16 『夏の日の物語。』 レオン>>17 『恋するティラミス』 ゼロ>>18 『貴女の望むもの』 奈乃香 >>19 『貧血少女』 PLUM>>20 『ねぇ』 はてなの子 >>21 『記念日には、貴方の言葉。』 はずみ >>22 『君も私も爆発だよ☆』 茶色のブロック>>23 『Reason for the smile』 ユリ >>24 『彼は未来を見る研究をしていた』 葉桜 來夢>>25 『Love me only』 ユリ>>26 『ワタシとアナタ』 はてなの子>>27 『匿名スキル』 とくだ>>28 『アナタだけ』 レオン>>29 『秋の夜長に君を求めて』 蒼衣>>30 『受け継がれる想い。』 レオン>>31 『素直になってもいいですか』 たんぽぽ >>32 『color』 蒼衣>>33 『二度とない日々へ』 深碧>>34 『破られた不可侵条約』 たんぽぽ>>35 『だーれだ』 ろろ>>36 『堕天使』 鏡>>37 『複雑ラブリメンバー』 とくだ>>38 『してはいけない恋……?』 マシャ>>39 『マッチョ売りな少女』 壬崎菜音@壬生菜>>40 『空想森の中で。』 ニンジン×2>>41 >>46 >>49 『あおいろ』(1)(2)(3) &>>42 『星の降る日』 安ちゃん>>43 『この感情は。』 みりぐらむ>>45 『やさいじゅーす』 とくだ>>47 『はづかし』 沖>>48 『Trick or love!』 PLUM>>50 『月が綺麗な夜』 小色>>51 『一番は』 草見 夢>>52 『名前』 草見 夢>>53 『人が死ぬとき』 草見 夢>>54-55 『天使と悪魔と』(1)(2) 草見 夢>>56 『人生最後の現実逃避』 みかん (2016.11.19 更新)
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パパにねだった真っ白なフリルのついた赤いワンピースはとっくの昔に押し入れ行き、もうどこにあるのかすら見当もつかない。きっとどこか冷たいところでホコリをかぶっているのだろう。小学校の頃の主役が落ちたものだ。ママにねだったピンクの口紅、背伸びしすぎよと苦笑気味でプレゼントしてもらったが、私もそう思うわ、ママ。結局それは一度だけ使われたあと錆びたクッキー缶のなかに申しわけ程度に詰められ捨てた。いつの頃だったかもう思い出せない。最近誰にも裏切られなくて心が晴れ晴れしているなんて喜んだのは二度目の男に振られた日。なんだか胸糞悪くって吐いたのは五度目の男を振った日、もともと誰も信じちゃいなかったからだ。べったりとした灰色の空から降る雨を浴びることに嫌悪感を感じたのは化粧をするようになったから、絵の具のようなそれを顔に塗るのには嫌悪感を感じない、義務です、不思議ね。友人は一人二人いればいい方、それでも話題は男か金かはたまた大人の汚い部分か、女はおそろしい男はおそろしい聞き飽きたので、犬の友達でも作ってみたいと生まれて初めて思った。ワンしか鳴かないなんて理想。退屈な話題を聞いてるふりしてはがれかけたネイルを弄るくせ、ママのピンク色した爪が恋しい。学生のとき友達だった子たち、何をしているかしら。自分と同じ惨めで虚しい日々を送っていれば嬉しいなと思った。人の死ぬ話で泣けなくなった。生温い液体を垂れ流していたのが久しくなる頃には寂しさも消え失せる。泣くために人は死んでばかりだ、お葬式にもどうせなら着飾りたくなる、真っ白なワンピース着て、皮肉に醜く笑ってやりたくなる。ママ私は今日も元気よママ。ママの望むいい子でいるよ。悪い子を心の底で笑うくせはやめました。その変わりいい子を笑ってやるのです。そしたらいつの日かそのいい子、とっても悪い子になるの。ねえママ私とっても元気よ、幸せよ。自分がいちばんの被害者面して今日もこぼれた幸せを啜って生きていくの、そして不幸の下水に沈みゆく私は、幸せだよ、ママ。title∴ごめんねママ
違う、絶対に違うんだ。違う、違う、違う違う違う――。 ソファーに座り、僕は青白い顔で俯いていた。冷たい汗が止まらず流れ落ち、雨で濡れた制服のズボンをさらに濡らす。 風、ガラス戸で音が鳴る。雨、天井で音が鳴る。雷、外で大きく鳴る「怖い?」 ――そして、誰かが優しい声を喉で鳴らした。 顔を上げると、向かいに少女がソファーに座っていた。純粋な鉄の色をした、長髪と瞳の少女。 見られると怖い、呼ばれると怖い、でも今の自分がもっともっと怖いんだッ!!「な、なんで僕のい、家の中に……」 少女は優しい表情で、優しく自己紹介をした。「勝手に入らせてもらいました、おんか……御花です。ここに居ても良い?」「出ていけッ!! ここに来るなさっさと消えろよォッ!!」 恐怖で震えた声で、初対面でもある少女にそう怒鳴る。しかし、御花はまるでそれがどうしようもない不安から怒鳴ってしまっているものと知っているかのように、微笑みを続けてその場に居続けた。「何に……怯えているのかな。…………カイジ君は」「…………名前、何で知ってるの」「逃げか。……それは、知ってるから」「どうやって」「全てを知ってるから」「……訳分からないよ」 目が、とても不思議な少女だ。何もかも諦めたような目なのに、どこかやり切ろうとする意思を感じる。そして、寂しそうな目でもあった。 御花の肌は光のように白い。指はお姫様のように細く、日本人のような、外国人のような、どちらとも判別のつかない少女で――「――まだ逃げるの……? 私がどんな人なのか考えて、辛いことから逃げていくのね」 それを、御花は真剣な表情に変えて――「逃げるな」 が、次にはまた優しい表情に――「逃げるな」 同じことをまた言った。「逃げるな」 同じことをまた言った。「逃げるな」 同じことをまた言った。「逃げるな」 ……同じことをまた言った。「逃げるな」 ……同じことをまた言った。「逃げちゃ駄目」 ……同じことをまた言った。「同じことは言っていない」 ……同じことをま――「あぁあぁあぁああ!」 叫んだむしゃくしゃする頭をかきむしる! 何なんだ何なんだ何なんだよ! 目からは涙が流れてしまい、口からはよだれが。男なのに情けなかった。いや情けない、ずっと情けない。 すると、御花は僕の隣に移動して、ハンカチで拭こうとしてきた。僕はそれを強く払いのけた。「――っ」 その時、御花の人差し指の骨が折れてしまったということを僕は一生知ることはない。 それでも御花は拭いてきて、僕は三度目で抵抗をやめた。……また、御花の二度目の激痛を僕は一生知ることはない。「……人を殺してしまったんだよね?」 そして、痛みをこらえた声で喋っているということを僕は一生理解しない。 僕は怯えながら頷いた。御花が僕の秘密をばらすと信じ切って怯えた。「大丈夫、私からカイジ君の言いたくない事実を言うことはない」「え?」「そんな怖い目で睨まなくても大丈夫。私が嘘を付いたら、カイジ君は私に何でもして良いよ」 そんな自信に満ちたことを言われて、僕は落ち着いてしまった。いや、しかしその約束を破ったって何のデメリットもない。やはり、怖い。「デメリットのことを考えているの?」「……え? あ、そ、そう……」「じゃあ、今から私がカイジ君が信用してくれるまでデメリットを負うよ。……なら、まずは耳を削ぐから」 御花は立ち上がり、台所へ向かった。台所の包丁を抜き出して、台所の近くにあった柄のない白いタオルを取り、僕の隣に戻ってくる。「確認。私を――信じる?」「し、信じるから、や、やめて」 本当は信じられないけれど、しかし、耳を削ぐのなんて見たくなかった。やらせたくなかった。「そう」 削いだ。 削いだ後の流血にタオルですぐにおさえ、包丁をソファーに起き、御花は汗を流しながら笑って切られた耳の部分を見せてきた。「これで、信じられる?」「何で、こ、ここまでするの!?」「たすけたいから」「助けたいから?」「理由とか、そういうのはなんだって良いよ。私なんて、自分で笑っちゃうほど気味が悪いもの」 御花は俯き、再び問う。信じるか?「信じた」 雷の聞こえる曇り空。高校からの帰り道に、男共に乱暴されている女子高生を見掛けた。 男共の体は大きくて、僕が十人居ても勝てるかどうか。僕はそんなに弱い男だ。 女子高生は誰かと思えば、その子は僕が小学生の頃、初恋をした女の子だった。 僕は、よく覚えている。女の子の放っとけない性格で、絶対に友達になれそうのない人と友達になっていたり。愛らしいだけではなく、心を大事にする強い子。クラスは違ったし、知り合ったことなんてない。しかし、僕はこの女の子に恋していたのだ。 その女の子が、辛さを我慢するため、諦めていて、抵抗をすることをやめていた。その雰囲気は、苛められ者そのもので、知っていなくとも理解してしまった。 しかし僕は助けられない。勝てない。無理だ。 女の子が連れて行かれていく。誰も気味悪がって近寄らない廃棄された工場へ。しかも従順に。 僕は見ていたことがバレないように進行方向を逆にし、見てみぬ振りをした。そのまま数十分程離れて行き、やがて様子を急いで確認しに踵を返した。 そこには……喘ぐ女の子が。 僕は勝てない。やっぱり男共には勝てない。無理だ、強すぎて怖いのだ。しかし助けられる。僕には助けることが出来る……。 いつの間にか、僕の右手の平にはカッターナイフ。静かに近付き、僕は男共の一人の首にカッターナイフを突き刺した。もう一人には喉に切りつけ、もう一人には全力で押し倒してまた喉を切った。男共は全員死んでいっている。「う、う……?」 その時は自分でもなにが起こったのか理解出来なかった。取り敢えず女の子に視線を向けると――女の子は泣いていた。「ありがとう、ございます……ありがとうございます…………うぁ……っく…………うぅ……」 とても喜びながら、泣いてそう言った。「でも死んだ。男は死んだ。死んだんだ! 死んだんだよ! 死なせてしまったんだ! 弱いよ! 戦ってすらなくただ殺してしまっただけなんだッ!!」「殺すことに良い意味も悪い意味も存在する。ただカイジ君が悪い意味を考え過ぎているだけで、何も自分を責めなくても良いのよ」「殺すことが、そんなに良いことなのかよ!?」「意外とね」「僕にはどう考えても理解出来ないよ!!」 叫ぶ。かきむしる。泣く。 御花はため息をつくと、僕に問う。「あなたは、どうしたいですか?」「なにが!?」「私の決まり文句です。私の耳はくっつけようと思えばどうにでもなります。だから私のことはどうでも良くて、つまり、あなたはどうしたいですか?」「あの時に戻って通報したい!」「これから!!」「……ぐ。ぼ、僕は……あの子に会いたい」「じゃあ行きなさいよ」 すると、御花は安心したような表情になり、ふらつきながら立ち上がった。「お邪魔しました」 御花が僕から離れていく。「あの」「なに」「……何で知ってるの?」 御花は、僕の質問に難しそうに答えた。「中心からの振動は全てに伝わり、やがて中心に振動は戻ってくる。なら、中心というのは私な訳よ。カイジ君にはあまり関係ないわ」 良く分からなかった。 そして、御花の姿が消え、玄関の開く音と閉じる音を聞いて出ていったことを認識した。 僕は今も怖い。けれどこのままだとずっと怖いから、僕は行こうと思う。 嵐はさらに酷くなっていた。
目の前の生徒たちは、私より背が高い。 同級生の女子が三年下の女子生徒と話している姿なんて、仲の良さそうな姉妹に見える。顔や体型に遺伝子的な違いがあるのにそう思えるのは、やはり背の低さからだろう。 隣で一緒に歩いている男子生徒と私の目線は一緒だ。その男子生徒が普通の人よりもちょっと背が高いのもあるが、それでも二年生。成長する過程で四年の差がある。 だから隣の子を視界に入れる度に、私は背が小さいことを理解しなくてはならなくなる。それも無意識に。「後ろの子、なんだか無愛想だね」「え?」 同級生の女子が、隣の女子生徒の言葉に目を見開いて反応する。同級生の女子は後ろを振り向き、その『後ろの子』をちらっと見る。 ……私はただ、普通にしているだけだ。ちょっとこういうのも楽しいな、そう心の音を密かに弾ませているのもあるけれど。それに、私は彼女よりも歳上だから、『後ろの子』と呼ばれるのはおかしい。 同級生の女子が私の言いたいことを答えてくれる。「あのお姉ちゃん、別に楽しそうじゃん」「あの子が?」「まずね、あの人はお姉ちゃんというのを認識しましょうね」「えー、嘘だあ!」「ホントホント」 そうやっても楽しそうに会話をする。あの子は私をお姉ちゃんと信じないことが目に見えた。 ――私たちは毎年ある、学校がする学校探検をしていた。私たちは各学年の別れた生徒たちとこの小学校を回り、各所でスタンプをもらう。全部スタンプが集まれば、体育館でスタンプの数だけ特別な遊びができる。水に浮くゴム製の金魚の金魚掬い、新聞紙の輪投げ、水風船のヨーヨー釣りなどなど。私はそれらが楽しみで仕方がない。 隣の男の子も楽しみで仕方がないようだった。「あと一つでスタンプが揃うね!」「うん!」 私がいつもするような笑顔で男の子にそう話しかけると、男の子は私の笑顔に釣られるように元気な返事をした。その顔は、不安が取り除かれた後のような安堵の表情にも見える。「えー、やっぱり歳下だよ! 今の超かわいくて超幼いじゃん」「だから、歳上なんだって」 前列の会話がちょっと嫌だった。 やがて最後のポイント、校長室に着く。同級生の女子がノックし、私たち四人は校長室に入る。男の子が怯えて入ろうとしなかったが、私が笑顔でゆっくり手を引いてあげると、凄く安心して入ってくれた。「「こんにちは!」」 先生より早く挨拶することは良いこと。そんな学校の教えの通りに私たちが挨拶をすると、校長先生は笑顔で挨拶をくれた。「こんにちは。スタンプだね?」「はい!」 私が笑顔で返事をして校長先生に走って近寄る。「おお、黒夜ちゃんは本当に子供らしくて元気で可愛らしいねぇ。よしよし」 そんなことをしてると、校長先生に頭を撫でられた。とっても嬉しかった。 そしてスタンプは全て揃い、私たちは体育館へ向かった。 やがて私は下校した。 家は学校から遠い場所にあり、一時間掛けてアパートに着く。アパートの中から一番古い扉の前に近付くと、ノブを回す。鍵は開けっ放し。まず誰も来ない。来るのは親子だけ。その中に含まれる私。 中は埃がたくさんある。靴を揃えずに脱いであがって歩いていくと、靴下に埃が付く。慣れたせいか、元々この環境のせいか、私は対して気にならない。 リビングには、ただテレビを観る父親の姿と、テーブルの上に置かれているコンビニで売ってそうなワインを、ただ飲んでいる母親。「捨てといて」 お母さんが、空になったビンを二本私に渡した。私はランドセルをそこら辺に投げて、お母さんの真後ろの、お母さんからでは手が届かないビンだらけの大きなビニール袋まで移動し、ビニール袋にビンを入れた。「俺が買ったもんを投げんな!」 お父さんから怒鳴られる。「ごめん」 私はランドセルのところまで歩き、丁寧に拾い、お母さんのテーブルの向かいのところに置く。「お母さん、今日学校で」「ドラマ観てるからちょっと静かにしろ」「クロ、後でにしてくれる?」「……うん」 私は忘れられる話題を今忘れるようにして、ランドセルから筆箱と漢字ドリルを取り出し、テーブルの上に置く。 それから筆箱からシャープペンを取り出し、漢字ドリルを開き、漢字ドリルの黒くない白い部分に漢字ドリルの漢字を小さく書き写していく。 そのまま六時間が経過し、両親は私を六時間無視し、仕事へ出ていった。私は両親が出ていった後、ランドセルから社会の教科書とノートを取り出し、ノートを開き、点けられたままのテレビの光を利用して教科書の書いていることをノートに書き写していく。 次に三時間経過し、いつのまにか眠った。午前四時に起きると、私は服を脱ぎ、そこら辺に全て置き、裸で風呂場に向かった。お湯の出ない水を出して、洗面器に半分ため、体に掛ける。 そこら辺のお父さんの毛が付いたタオルを手に取り、石鹸を包んで泡立てる。体を三○ 分間洗うと水で流し、頭をそこら辺の倒れたシャンプーボトルを立ててシャンプーを出して頭に付ける。髪は長い方、上部分だけ洗って水で流す。そして三十分間髪の水を切ると、体を拭かずに風呂場から出て、室内の干された下着とワンピースを取り、下着を着てからワンピースを着た。 家では何も食べずにランドセルを整えて、鍵を掛けずに学校へ向かった。 教室では笑顔でおはようと言って入った。自分の席に着くと、寝る。 隣の席の男子生徒は、面白そうに怖い笑みで私を見る。いつもその笑みで、私は怖い。 名前は……東君。アルビノで白くって、とんでもなく頭が良い。「本当、黒夜ちゃんはチビだなぁ」 あはは、彼はおかしそうに笑う。 とても怖い。「チビでもこれから大きくなるんだもん」「喋り方も六年生なのか疑わしい、表情の変化は乏しく、細かな表情は無理だよね。ははっ」「やめてよ」 私はそう答える。「僕さ、とっても面白いこと知ってるんだ。黒夜ちゃんのようなチビで子供で不器用な子は、」 でも、彼はとっても面白そうに歪んだ顔で話し続けるのだ。私は泣きたくなるほど、それが本当に怖い。「愛情遮断症候群って言うんだ」 あはははははは。彼は笑う。私を。「なに? それって」 いつも身に染みている優しげな声で尋ねてしまう。声音は、これしか出来ない。だから歌は苦手だ。 すると彼は笑いながら教えてくれる。「愛情遮断症候群というのはね、親に愛されずに育たれた子供が、愛無き故に一生チビで! 発育が遅く! 表現が乏しい病名さ。だからね、黒夜ちゃんは一生チビで子供でいつのまにかいじめられていつのまにか嫌われて、それでも家でも寂しい思いをするだから面白すぎるんだよ結局ね!」「親は優しいよ?」「嘘つけ、黒夜ちゃんは愛されて無いんだよ。可哀想に可哀想にあっははははははははははッ!!」「う、そんな訳無いもん」「あはははははは泣いて言う言葉じゃないよ、黒夜ちゃんさ」 本当に彼は楽しそうだ。「それでも、将来頑張るから耐える」「親のせいで子供並みの知恵でかい?」「嫌なことがあればこれから泣いて、嬉しいときは笑って、それで頑張るもん」「笑っちゃうね、期待しているよ」 私が涙を拭くと、チャイムが鳴った。
―――私が”彼女”に出会ったのは、去年の夏頃だった。森の中の妖精さんみたいで、可愛くて・・毎日のように会いに行った。来年の受験の事も忘れ、今日も待ち合わせの白百合畑へ。・・!!?白百合畑で今日見た光景。それは・・傷だらけの彼女。「どうしたのその傷!今すぐ救急車を」「無理。実は言ってなかったんだけど・・―――私は”白百合”だったの。だからもう寿命が来ちゃったみたい」「駄目!どこにも行かないで!だって・・私達二人はずっと一緒じゃ」「大丈夫、あなたの事は絶対忘れないから」私は涙で服がぐしょぐしょだった。その涙が、彼女の額に落ちる。「バイバイ」そうして彼女は、種に扮して消えていった。白百合畑の百合も、跡形もなく枯れた。―――そして今。私は見事に志望校に合格して、高校生活を楽しく過ごしていた。彼女は、私の家の庭に宿っている。・・そして知らない間に、花を咲かせていた。
この世界は音であふれている同じように聞こえても少しの違いがある普通の人はきっとそんなこと気にしていないだろうじゃあ、気にしてる私は変人なのだろうかきっとこの問いに正しい答えなんてないのだろうならきっとそれでいい正確さを求めれば見えなくなるものもある音だってそれは同じだ正確なだけを求めたって意味がない私はそう思うからだから私の問いに答えなんていらない「お前の歌はいつだって綺麗事だ」誰かが私に言った言葉その意味も真意も私にはやっぱりわからないだから私は希望を光を歌い続ける世界は楽しことや幸せだけでできてるわけではない音だって同じだから、私にもそれぐらいわかるでも、逆に全くないわけじゃないなら増やしていけばいい照らしてあげればいい支えになってあげればいい私には音や歌しかないでも、それで誰かの役に立てるならそうでありたいだから今日も私は歌いづづけるよ誰かのため そして、私のために――――――・・・・
――月下美人。 一晩だけ、綺麗に咲く花。月下美人、と言っていいほど綺麗な娘が私の学年にいる…いや、いたと言った方が正しい気がする。夜咲 月菜。 夜に咲く月に菜と書いて「ヨザキ ルナ」と読む彼女は本当に綺麗な子だった。腰まで伸ばした夜の闇のような黒い髪と目。ちょっと低めの身長。ぱっちりとした二重の目。切りそろえられた前髪がお人形の様でかわいらしい娘だった。夜咲月菜が死んだのは数日前の満月の時だった。ちょうど私の育てていた月下美人の花が開花したその夜。原因不明の死を遂げた。あの月下美人の様に綺麗な娘は私の育てていた月下美人の擬人化した娘なんじゃないかな。なんて思う。今、プランターには枯れてしまった月下美人が植えられている。そして、近くの墓地には原因不明の死を遂げた、彼女の遺骨が、埋められている。
何処にでもあるような何のへんてつもない一軒家。それがあたしの家。その右隣のまた何処にでもあるような何のへんてつもない一軒家。それがあいつの家。あたし達は、何のへんてつもない何処にでもいるような幼なじみだった。自室の窓を飛び越えて来なくなったのは、いつからだったっけ。目も合わせずに、話さなくもなったのは、いつからだったっけ。■□■□■□■□■□■ヴゥ〜ヴゥ〜………ピッスマホの目覚ましのバイブを止めて、ムクリと起き上がる。いつもながら寝癖のひどい自身のソレを、部屋にある等身大の鏡で確認し苦笑してから、顔を洗おうと1階の洗面台へ向かう。 途中つけっぱのテレビやこちらに気付いて朝の挨拶をする両親が見えたが、やはり何も聞こえない。あたしは2年前、事故に遭ってから、耳が自身の機能をしなくなっていた。それからあたしは、音を失った。最初はそれこそ小学5年生らしく絶望感にうちひしがれたりしたが、"慣れ"とは怖いもので、もう耳が聴こえた頃の感覚さえも忘れそうな感じだ。 顔を洗ったあと、出された朝ごはんを食べて、制服を着て、鞄を持って、あいつも通っている公立の中学校へ向かった。■□■□■□■□■□■「小春っ!おっはよー!」あたしの名前を呼びながらタックルをかましてくるこの子はあたしの親友、竹田千秋だ。千秋は中学校に入ってからの友達で、何故かあたしの言いたいことが分かるらしい。だから通称"さとり"だ。「うんうんおはよ♪てゆかめっちゃ貶してない!?」 端から見たら無言の少女に1人で話しかけてるという変な光景だが、キチンと会話は成立している。あたしの耳が不自由であるにも関わらず、普通に学校生活が送れているのは、千秋がいるお蔭でもある。「え〜?小春そんな風に思ってくれてるの!?うれしいぃ〜💓」前言撤回。やはり只の変人な妖怪だ。「ひどっ!………てゆか遅刻まであと数分だよ………」■□■□■□■□■□■ キーンコーンカーンコーン遅刻ギリギリで何とか登校し、それぞれの席に着く。乱れた息を整えていると、教室の隅で友達とおしゃべりしているあいつが目に入る。途端に落ち着いていた脈が激しくなる。そう、幼なじみのあいつこと林 夏樹は、あたしの好きな人だ。二人だけの入り口から出入りすることが無くなっても、目が合わなくても、話さなくなっても、あたしは、ずっとずっと夏樹が好きだった。 夏樹に見とれていると、パチッと目が合った。胸がドキドキして、どうすればいいのかわからないのに、何故か目を逸らさずに見つめていた。すると、フイっとあっちが目を逸らした。それが答えのような気がした。急にとてつもなく悲しくなって、今日のラッキーアイテムの猫のハンカチをぎゅうっと握りしめて、教室から出た。涙が込み上げてくる。ーそうかーーーーーー夏樹にとっては、あたしなんてもうーーーーーーーーーーーー■□■□■□■□■□■そのまま授業を受ける気にもなれす、あたしは放課後まで保健室で過ごした。今は保健室の先生に留守番を頼まれているので帰るに帰れない。もう一度寝ようかと思って目を閉じた。(ここ………どこ)沈んだ意識が行き着いた先は、見覚えのある信号だった。信号が点滅する。大型のトラックが走ってくる。目の前には見覚えのある少年の背中。小春は考える前に体が動いていた。途端に視界が暗くなる。はっと目を覚ますと、保健室のベッドの上にいた。汗をびっしょりかいている。あの時の夢だ。最近は見ていなかったのに、多分先程のことも関係しているんだろう。思えばあのあとからだ、夏樹が小春を見るたびに苦しそうな、罪悪感に溢れているような顔をするようになったのは。その顔を見るのが悲しくて、いつしか、目を合わせなくなり、話さなくなり、特別な入り口からの出入りも無くなった。 ガラッ「〜〜〜〜〜〜〜!」夏樹が保健室に入ってきた。なにを言っているのかは分からないが、肘から出血していることから、手当てをしに来たんだろう。あっちも驚いている。踵を返そうとしている夏樹の腕を、小春は何故か掴んでしまった。わからないけど、これが最後のチャンスの様な気がした。 目を見開いている夏樹をイスに座らせ、救急箱を取り出し、手当てを始めた。2年前とは違う、ゴツゴツした手の甲も、体格も、まだ幼さの抜けきらない顔も、全部全部、とても愛しいものに感じられて、小春はいつのまにか、涙を流していた。先程とは違う意味で目を見開いた夏樹は見覚えのある猫のハンカチを小春に渡した。夏樹は照れ臭そうに首の裏をかき、"拾った"と言った。その仕草が妙に幼く、懐かしく感じて、小春は笑った。それにつられて、夏樹も笑った。久し振りに見る、夏樹の本当の笑顔だった。 ドキッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーースキーーーーーーいつのまにか、小春の口をついて出た。驚いた顔をした夏樹をよそに、小春は何度も何度も伝えた。蓋を開けてしまったら、溢れて溢れて、夏樹を想う気持ちは止まる事を知らない。夏樹が口を開いた。「っっ!!〜〜〜〜〜〜!!っっ」なにを言っているのかは知らない。だけど、表情はとても苦しそうで、悲しそうで、何故か、手を伸ばさずにはいられなかった。抱き締められた夏樹は、驚愕に顔を歪め、何も話さなくなくなった。だけど必死に小春にしがみついて、痛い位に小春を抱き締めた。小春より一回りも二回りも大きい夏樹の腕の中は、とても暖かくて、安心した。 どれくらいそうしていただろうか。何とも言わず腕を離した夏樹は、小春に向き直り、俺の事を恨んでいないのかと、身ぶり手振りで伝えてきた。一瞬呆れたが、フッと笑って、そんなわけないと微笑んで見せた。やっとわかった。夏樹は自分を責めて責めて、小春が自身の事を恨んでいるのだろうと勘違いして、だから避けて。そんな夏樹の様子がいとも簡単に想像できて、それすらも愛おしい。 再度、あの夏樹の腕の中にいた。あの頃と全く違う。それが悲しくもあり、嬉しくもある。夏樹が、俺も好きだと、そう言った様な気がする。 感情のままに、二人はキスをした。触れるだけの、優しい優しい。それだけで、相手の全てを知った気がして、嬉しかった。■□■□■□■□■□■何処にでもあるような何のへんてつもない一軒家。それがあたしの家。その右隣のまた何処にでもあるような何のへんてつもない一軒家。それがあいつの家。そこへの帰り道を歩く、二つの影。女の子の方が男の子の肩をポンポンと叩き、身ぶり手振りで伝える。(………なに?)(あのねーーーーーーーーーーーー)FinーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーP.S.最後に伝えたことがタイトルになっています!
「母さん、何を書いているの?」幼い俺は訪ねた。母さんは折り紙の裏に何か文字を書いていた、その手を止める。「お父さんにお手紙を書いているの」「何で折り紙に書くの?」母さんは優しく微笑んだ。陶器のように白い肌、薄紫の唇。「失敗してしまったとき、折り鶴にするためよ」ーーーーそこから先は磨り硝子の向こう側のようにはっきりしない。と言うか、いつまでも『思い出』という類の妄想に、女々しく、どっぷりと囚われてなんかいるから、またこんなチャンスを生かしきれずにいるのだ。書き損じた赤い折り紙がまた、俺の手の中で一羽の鶴になった。ーーーー「私、東京に行くんで」はあ、東京。と思った。何で行くの、と聞くと、彼女は言葉に詰まる。そこであわてて付け加えた。「新幹線かい。それとも、もっと違うヤツで?」彼女はきょとんとした。そして、笑いながら「新幹線」「そう、新幹線。いいね」自分でも何がいいのかよくわからなかった。北陸にも行けるね、なんて一言は蛇足だったに違いない。彼女の笑顔がかわいらしいからまあ良いか。心が、どうでもいい言い訳やら何やらで埋まっていく。「連絡先、教えてくれないか」「LINEは交換してたじゃないですか」……忘れていた。「いや、住所を。手紙を出したくて」すぐに馬鹿だと思った。重い男、気味の悪い男と思われたに違いない。そしてすぐに母とのあの思い出が脳裏に浮かんだのだ。ーーーー彼女は快く宛先を教えてくれた。だから今俺は、下手くそな折り鶴に囲まれながら、恋文なるものを書いている。そもそも、折り紙は手紙といえるのだろうか。そんなことを考えていたらまた書き損じた。三角形になるように、半分に折る。ーーーー「鶴を千羽折ると願い事が叶うのよ」母さんは楽しそうに言った。蜘蛛の糸のようにほっそりと繊細な人だった。「俺も」「あら、誰にお手紙を書くの?」俺は指さした。指さされた母さんはまた笑った。「家に帰ってきてって、書く」「すぐに帰るわ」とても嘘吐きな女だった。ーーーー鶴はその数500を越えた。あの娘が新幹線で東京へ行くまで、残り3日をきっていることに気づく。まだ半分も行っていないのに、時間ばかりが過ぎていた。恋文に至っては、何一つとして前進していない。母さんは折り初めてわずか二週間ほどでこの世を去ったが、鶴の数は800と28くらいあった。いったい彼女は何を願ったのだろう。ーーーー「何をお願いしているの?」「一言でいいの」母さんは唐突に呟いた。真意はわからなかったが、俺は黙って聞いていた。「口に出さないと、伝わらないわ」ーーーー「あ」手のひらの中でぐしゃりと青い鳥の顔が潰れた。隙間から裏面の下手くそな文字が覗いた。長い文章だから、書き損じるのだ――。昔から不器用だった。意外とこの性格は、母さん譲りなのかもしれない。急に机の上を埋める501の鶴が意味をなくした。母さんが言いたかったのは、きっと、そういうことだと思う。ーーーー「君に伝えたいことがあるんだ」彼女は優しく微笑んだ。「知ってた」
幼い頃から、妄想をする事が好きだった。最初の妄想は、確か5歳位の時。好きなアニメを見て、私も主人公達と仲良くなりたいって思ったんだ。そこで私は、オリジナルキャラクターを作り、主人公や、他のキャラクターと一緒に生活している所を妄想していた。今時の言葉で言うと、「夢女子」というものだと思う。このアニメの妄想は、幼稚園を卒園するくらいまで続いた。小学校に入学してからも、私は他のアニメやゲームの妄想を続けた。妄想をして、数ヵ月たったら飽きて、また別のアニメやゲームにはまって…私はこの行為を何回も続けた。******何年かたち、私は中学生になった。最近は「アニメなど」の妄想はしていない。だけど、新しいものにはまっていた。それは、自分でオリジナルの物語を作って、それを妄想する事。キャラクター、年齢、世界、何もかもが自分で操れる。私はそのオリジナルの世界を楽しんでいた。…え?オリジナルの世界を作る人は少なくない?そんなこと、とっくに知ってる。私はキャラクターの一人を、自分に置き換えて妄想をしていた。そのキャラクターの名前は、五十嵐(いがらし)凛(りん)。統合失調症(とうごうしっちょうしょう)を患いながら高校に通っているという設定だ。私はそのキャラクターを脳内でなりきっていた。******そしてある日、私、保坂(ほさか)亜夢(あむ)の妄想は生活にまで危害を加えた。「おーい!亜夢!部活いこー!」「分かった!そこの階段までねー。」そういうと、親友の結(ゆい)はぽかんとした顔で、「あれっ?今日亜夢部活休むの?」「え?だって私が吹奏楽部で、結は美術部でしょ?部室違うから、そこの階段で別れちゃうじゃん。」「何言ってんの!?私達二人とも美術部でしょ!?」「…あ。」しまった。これは凛の設定だった…。こんな過ちをしたのは、今のが初めて…どうして…。「ごめんごめん、冗談だって(笑)」「もうやめてよね!…でも珍しいね。亜夢がこんな心配する冗談吐くなんて。」「あぁ、たまにはいいかなーって(笑)」「へぇー。」何とか誤魔化せた。これからもちょっと注意した方がいいかな…。気を付けないと。******あの出来事から2ヵ月経った。凛の妄想は相変わらずで、私は前よりも妄想のキャラクターを増やしていた。それに比例するように、私の妄想は生活を悪化させる一方だった。例えば、自分の名前が分からなくなったり、自分の中学校ではなく近くにある高校に行こうとしたり…私はだんだん凛に汚染されていった。学校でも、私を怖がって避ける人が何人かいた。でも、先生や結は私のことを心配してくれた。私はその事がとっても嬉しかった。まるで私が統合失調症のように扱ってくれて…。あぁ、ごめん。何でもないや。そして、たまに幻が見えるようになったりした。それは、自分の脳内でイメージしている、凛とそのクラスメートだったり、家の風景が違って見えたり…。さすがにこれは両親もおかしいと思ったらしく、私は精神科へ連れていかれた。もちろん抵抗した。どうしてそんな所に行かなくちゃいけないのか。とか、私はただ妄想を楽しんでいるだけだ。とか。でも、最終的には強制に連れていかれた。******「保坂亜夢さーん。」自分の「本当の」名前だと思うのに数秒かかった。私は、診察室へ入る。「はい。保坂亜夢さんですね。」「…はい。」「では、今までの話を、聞かせてください。」5歳の時の妄想から、今の状態まで、全て話した。「ですから、私は精神に問題なんてありません。私はただ楽しんでいるだけなのに。あったとしても統合失調症じゃないと、ダメなんです。あ、いや、これは…妄想?あれ?…あぁもう分からないっ!現実と妄想の区別が!分からないよ!」え?何で?統合失調症は妄想の世界でしょ?何で私は今精神科にいるの?統合失調症は現実の世界だったの?もう、分からないよ…。「…妄想の通りですね。」やめて、やめてよ。「貴方は、統合失調症の可能性があります。ですが、それはほんの一部です。ちゃんとした病名があります。それは…」嫌だ嫌だ。やめて。私は統合失調症でなきゃいけないんだ…!違う、違うんだよ、もう分からない。分からないよ…!自分が誰なのか!医師がゆっくりと口を開く。「…貴方は、妄想性障害(もうそうせいしょうがい)の可能性があります。」妄想性障害…聞いたことがある。妄想のせいで、生活とかにも危害を加えるという病気…。あぁそっか、私は病気だったんだ…。事実を理解した私の中で、何かが死んだような気がした。保坂亜夢。妄想を続けた結果、こうなりました。
『ねぇ、煉…。覚えといてね?私は……xxx。』さぁさぁと流れる波の音に混じり、君の声は僕の耳に届いた。それは鈴の音のように安らぎを与えるような綺麗な声で。でも…何で忘れてしまっていたんだろう?大切なある夏の日の思い出。小さい頃毎年忙しい両親が、たった三日間だけ休みを取って…家族旅行に連れてってくれる。その海岸で一日だけ遊んだ…長い髪を揺らしながら微笑む名前も忘れた一人の少女。ただ、僕が勝手に“そらちゃん”と呼んでいた事だけは覚えてる。理由は覚えてないけど。「…ここか。ここが、赤崎海岸。ここで“そらちゃん”と遊んだんだ…。」「おーい!煉!!コッチだってよ!早く行こうぜ!海が俺を待っている!!ひゃっほう!」「あのバカ、今日はバイトだって…煉。何かあったのか?顔が暗いぞ。水いるか?」友達の双子。光夜(馬鹿騒ぎしてる奴でも真面目)と京夜(いつも心配かけてる奴でも天然)と一緒に海の家のバイトに来ていた。理由は母親の父方にあたる伯父さんの息子。つまり親戚が、海の家を経営してて今年は人手が足りないらしく、その手伝いと夏の思い出を作ろう!と言うことで仲間を誘いはるばる電車でやってきた。そして…今、どうして忘れかけていた“そらちゃん”の事を思い出したのか真剣に考えていたのに…京夜の水いるか?で一気に現実に戻ってきた。暑い。さっき天気予報を見たら三十度は軽く越えていたし、流石は夏の海だ。体感温度はそれ以上かもしれない。「あぢぃ。夏の海舐めてた。ぎょうや〜、水と日焼げ止めくれねぇ?」「はぁ。だから言ったろ?海を舐めてちゃ危ないと。それと、日焼け止めは自分にあったの使え。お前は焼けると真っ赤っかになるんだから…いや何かもう見てられないくらいに」「サンキュー。てか、お前は日焼け対策バッチリだな!?女子かよ?!」隣をよく見ると、帽子に長袖のパーカー、さらに日焼け止めをたっぷりと塗っている京夜。本当に日に焼けたくないんだなと思うし、あの駆けていったバカもそれなりに日焼け止めは塗っていた。焼けると痛いし、大変だけど焼けたからこそ夏を楽しんだって気になってたガキの頃後が懐かしい…はぁ。歳とったな。「歳とったとか思ってんだろ?なに言ってんだよ煉!俺たちはまだ花の高校生だぞ?青春を謳歌しようじゃないか!!あと、おじさん呼んでたぞ?」「うわぁっ…ビックリした。危うく耳でs……ってこるやはエスパーかよ!何で俺の考えてたこと分かりゅんだ!?!?」「そりゃあ、煉の顔見てたら分かる。お前わかりやすいし、おい。というか、名前間違えるぞ、こうやな?てか最後が一番大切だろ!」「そうだよ!おじさん所早く行こ!じゃないと殺される〜!!」「えっ、おいっ!待てって!お前足速いんだから!置いてくな〜!煉、京夜待ってくれよ〜」煩い光夜を置き去りにして海の家に急ぐ。案の定、おじさんはカンカンに怒ってて、遅いと全員頭に拳骨を一発食らった。それからは水着に着替えて…“そらちゃん”の事を考えることすら出来ずに、大忙しのバイトが終わったのは、そろそろ夜の帳が下りて来る時刻だった。「クソ〜。今日はバイトさっさと片付けて可愛い子ちゃんとおもっいっきり遊ぶ予定だったのに…」「お前はバカか?はぁ、俺は言ったからなちゃんと、とっても辛いバイトだと。しかし、俺も結構日に焼けたな。まさか日焼け止め塗る時間さえないとは…はぁ」「相変わらず日に焼けるの嫌なのな。てか、明日もあるんだろ?いじめだろ。」「まぁまぁ。てか、勝手に付いてきてその言いぐさはないだろ?それでもおじさん助かったって言ってたし…はぁぁ……そろそろ民宿に戻る?それとも、夜の海ても眺めるか?」「男三人で夜の海眺めるとか…まあ、疲れたし今歩きたくないしいいけど?」とか何とか言ってるのにその目は真っ直ぐに海に向けている。夜の海は、昼とは打って変わって静けさと波のさぁさぁとした音しか聞こえない。真っ直ぐ見つめても大きな岩か水平線かこれから漁に出かける船しか見えない。「ふふ、ツンデレだ。変わらないよなこの三人も…初めてあったのもこの浜辺だっけ?」「そうだな。たしか、俺と光夜が遊んでたところに……」「そう言えば、煉。あの子のこと覚えてるか?長い髪の確か…“そらちゃん”だっけ?可愛かったよな〜。」俺は耳を疑った。えっ、光夜も憶えていたのか、もしかして忘れていたのは俺だけなのか?そんな考えが俺の頭をグルグル回っていたところに京夜が追い打ちを駆けた。「そらちゃんか。懐かしい名前だな。確か、この近く住んでいると言っていた。たしかここから歩いてそうかからない場所だ。」「よく覚えてるな〜。俺はうろ覚えなのに…でも確か、泳ぐのとっても上手いって言ってたな?えっ…煉?どうしたんだよ?泣いてるぞ?!」いつの間にか…泣いていたらしい。何で俺だけ覚えてないのか、何で思い出せなかったのか……。俺だけ仲間外れのようでとても悲しかった。何でなんだろう?何で俺だけが忘れていたんだ?理由が思い当たらない。ただ、ただ涙があふれ出て止まらない。すると、光夜がハンカチを差し出してきた。「でもさ、俺達が再会したのはビックリだよな。まさか、同じ町に住んでたなんてな……」「煉。泣くな。知ってるか?そらちゃんがサヨナラ言ったのお前だけなんだぞ?俺たちは煉の口から聞いて初めて知ったんだからな。…それだけそらちゃんはお前を大切に想ってたんだよ。」サヨナラはお前だけ。京夜の言葉は俺の胸に刺さった。サヨナラが俺だけ?そのときのことをあまり思い出せないが、確かにコレだけは言っていたのは憶えている。『…煉。京ちゃんにも光ちゃんにも内緒だよ?私と会ったこと。だって2人に言ったら…絶対泣いちゃうもん、涙でサヨナラは私は嫌だから。そんな顔しないで笑って?』振り返り笑顔で俺に言った言葉。確かにあの頃の二人だったら絶対に泣いていただろう。今はどうか知らないけど。でもそらちゃんは涙が嫌いだった。嬉しいときに流れる涙もあるのに…泣いている人を見るのは嫌だったらしい。「…俺。“そらちゃん”のこと忘れてた。最近になってやっとこ思い出したんだ。大切な子なのに……」俺の胸の中にあった想いが溢れ出した。そしてなぜ忘れてたのかも思い出した。そうだ俺は…ずっとずっと。あの髪の長い少女に……「…恋、してたんだ」「やっとこ思い出したんだ。もう待ちくたびれたよ?」その鈴の音のような安らぎを与えるような綺麗な声がまた聞こえた。えっ、でも、待って。その声は少し大人びていても“そらちゃん”の声だと分かる。俺は辺りを見回した。でも浜辺にいるのは…俺たち三人だけ。どこにもいない人の声が聞こえるなんて、俺もそろそろ重症かも…いやでも。「煉のバカ。覚えてといてって…言ったじゃん。私が……だってこと。コッチだよ。よく目を凝らして?」その声は京夜達にも聞こえていたらしく、光夜と京夜も辺りを見回す。そして俺は見つけた。海にある一つの大きな岩の上に……足のない、しかしその代わりに尾ひれがあるあの髪が長い“そらちゃん”が座っていた。「そら、ちゃん?えっ、う、そ。足が、ない?…人魚って本当だったの?!」「煉。なに言ってんだ?どこにいんだよ?そらちゃーん、俺だよ俺!光夜だよ!どこにいるの〜?」「光夜。お前は本当バカだな?そっちにはいないぞ。多分……向こうの岩の上だ。俺達には見えないがな」「…マジか。クソ〜俺も見たかったなぁ。煉の話によると人魚なんだろ?きっと可愛いんだろうなぁ…」「ここは普通なら信じないと思うんだが?人魚なんて架空の生き物。まぁ、でも煉がいるからな…信じるしかないか。煉。耳と尻尾出てるぞ」京夜達の前にいるのは、耳と尻尾が生えている俺。そう俺は…妖。妖狐と人間のハーフ…だったりする。だから、他の人よりも目と耳がいいし、運動神経もそれなりに。でもハーフだから、耳と尻尾が出てしまうので苦労もあるし、自分ではその他は他の人と余り変わりはないと思っている。妖術使えるけど。「ねえ、言ったよね?私が人魚だって事。だからなんだよね?煉が私のこと忘れちゃったの…」「うん。たぶん母さんが…俺を苦しませないようにって。記憶を封じたんだと思う。」「まぁ、終わったことはほっといて、遅いよ?何年たったと思ってるの?!もう十年だよ?十年!」「うわぉ。結構怒ってるな、煉。頑張れ〜女の子怒らせたら怖いぞ〜。」「あはは。そう怒らないでよ。しょうがないじゃん?思い出したの、と言うか解けたの最近だから?」「解けるのに時間かかりすぎ!!そんぐらい頑張って早く解きなよ!…煉のバカ」ものすごく怒られてしょぼーんとする。勿論耳も下がってしまうし、尻尾も。これだから、尻尾があると不便だ。「なぁ。煉。煉の本当の気持ちを伝えれば機嫌が良くなると思うぞ?なぁ?京夜」「俺にふるな…まぁ、でも俺もそう思う。がんばれよ」二人の応援に腹をくくる。大切なとても大切な子へ。この言葉を…『もう二度と忘れない!ずっとずっと一緒だよ。俺…そらちゃんのこと…ううん、xxxの事…大好きだ!』風でかき消されそうになっても叫んだ。それを空色の髪をした人魚は涙を浮かべた笑顔で見ていた。「だから言ったじゃん。“遅いよ”って。」