勇者→魔王=\(^o^)/
作者/とろわ ◆DEbEYLffgo

Lv.19 従者「メイド少女with誘拐事件」
「やれやれ、おじさんは平和的に物事を解決しようとしただけなのに」
男はそう言うと、銃を持っていない方の手で少女の細い腕を掴む。
「だから、さ。そのおっかない武器はしまってくれないかなあ。そうじゃないとさ、この子傷ついちゃうよ?」
男は口調のわりに冷たい声でそう言い放つと、少女の頭に銃口を突き付けた。
「無駄な争いは避けようよ。無駄に戦おうとするのは馬鹿がする事だからね」
「――なら、馬鹿になってやるよ」
ギルベルトはぼそりとそう呟くと、大剣を男に向けた。
「意外だな、お前がそんな事言うなんて」
フォンシエも続いて、弓を構える。
「別に、俺様は正義の味方気どりがしたい訳じゃねえっつの。ただ単に、強そうなやつがいたら戦いたくなるだけだ」
「相変わらずお前ってやつは――」
そうフォンシエが言いかけた途端、フォンシエの頬が切れ、血がうっすらと滴る。
それからコンマの違いで銃声が聞こえたために、フォンシエはあの男に撃たれたのだと気付いた。
「――仲好しなのは構わないが、それ以上仲良く話してると死んじゃうよ?」
「んな風に余裕ぶっこいてると死ぬぜ、おっさん」
連射される銃弾を軽やかに避けながら、ギルベルトは男に急接近。
「せぇえええええええい!!」
大剣を振りかざすと、男は間一髪のところで避けた。
「想像よりかはいい反応だね。――まあ、あんまり暴れるとおじさん上司に怒られちゃうし、退散でもしようか」
そう言うと、男はミレイユの腕から手を離し、闇の中に消えていった。
「ちょ、待てッッ――、くそ、何なんだあの退散の速さっ」
フォンシエは苦虫を噛みつぶしたような表情で先ほどまで男がいたほうを見ていると、少女が二人の方へ近づいてきた。
「私(わたくし)を助けていただいて有難う御座います。――是非、助けていただいたお礼をさせてほしいのですが」
透き通った声の少女は、そう言うと薄く笑みを浮かべた。
「どうする、ギルベ「泊らせてくれ」
「……ですよねー」
フォンシエは苦笑いをすると、少女は少し悩んでから口を開ける。
「分かりました。――許可が取れるかどうかはまだ分かりませんが、とりあえず、屋敷までご案内します」
「まぁずぃでぇ?!」「本当か!」
――――そうして、二人は少女――ミレイユ=フェリークと出会った。
◆
「――――成程。お前の名前はミレイユっつーのか。それで、アデレイド家っつーところのメイドをやってんだな」
「その通りです」
簡単な自己紹介を済ませた三人は、アデレイド家の屋敷へと向かっていた。
――アデレイド家、というのは、シアオンを代々統治している貴族の家系で、ミレイユはそこのメイドをしているらしい。
どうやら、昔アデレイド家の主人にお世話になったようで、それから恩を返すために働いているんだとか。
「そういや、色々と質問があるんだけどさ」
フォンシエは先ほどの出来事を思い返しながらそう言う。
「はい、なんでしょう」
「えっとー……、さっきの男は何だったんだ?」
そう言うと、ミレイユは表情を消した。
「――それが、私にはよく分からないのです」
「「わからないぃ?」」
思わず、男二人の声がハモる。
「分からないのに、あんな馴れ馴れしくできるもんなのか人間って……」
「いや、ツッコむところそこじゃないから! ……じゃあ、いつあの男と出会ったんだ?」
「それはつい先ほどです」
そう言うと、ミレイユはふぅとため息をついた。
「私の主人が先日行方不明になり、捜索をしていた時にあの殿方に出会いました」
「ちょっと待ってくれ、行方不明?」
ギルベルトがそう問いかけると、ミレイユは一瞬驚いたような表情になった。
「……そういえば、お二方は先ほどこちらに来ましたから、連続誘拐事件についてご存じないのですね」
「誘拐事件なんておきてんのかココ」
ギルベルトは露骨に嫌そうな顔をする。
フォンシエはそんなギルベルトに苦笑いした。
「――それなら、まず誘拐事件について説明いたしましょうか」
ミレイユはそう言うと、浮かない顔で説明し始めた。
「ここ最近、このシアオンでは毎晩人々が誘拐されているのです。犯人の手掛かりは不思議なことに何もなく、攫われる人間も年齢や性別がバラバラなところから、動機も不明」
「それは嫌なパターンだな」
フォンシエがそう言うと、ミレイユはただこくりと頷いた。
「――その為に、私達メイドは主人が攫われないように見張っていたのですが……」
「んでも、結局攫われちまったと」
「はい……」
ギルベルトがそう的確な言葉をかけると、ミレイユは力なく返事をした。
「私の力が及ばなかったばかりに……」
ミレイユがそう言って項垂れると、フォンシエはそれを励ますようにぽんと肩を軽くたたいた。
「そんな風に自分を責めることはよくない。……それに、毎晩攫われるという事は、犯人は近くにいるかもしれない。くまなく捜索すれば見つかる可能性だってある」
そう言われた後に、ミレイユはしばらく考え込む。
すると、ある一つの出来事が脳内をよぎった。
「……もしかしたら、なのですが」
「ん?」「んだよ」
二人はミレイユの方を向くのと同時に、ミレイユは重い口を開いた。
「もしかしたら、『七大悪魔』が関わっているのかもしれません」
「……なんだか、誘拐事件や七大悪魔、そしてあのおっさんと、面倒くせぇなここ」
「まあまあ、そう言うなって。……って、ん? 七大悪魔だって?」
フォンシエはそう言うと、緊迫した表情でミレイユを見つめた。
「それって、確か――――」
「はい。先日の『世界征服宣言』に書いてあったものです」
「ちょ、ちょっと待ちやがれ」
二人の会話に疑問を覚えたギルベルトは、半ば強引に割り込む。
「世界征服宣言、ってどういう事だよ!」
何も事情を知らないギルベルトは、脳内に?マークだらけであった。
「そういや、お前は何にも知らないのか」
「あたりめーだろ、昨日来たばっかりなんだから!!」
「……昨日?」
ミレイユがそう疑問を持つと、フォンシエはやれやれと頭を掻いた。
「……とりあえず、そのお屋敷についたらお互いの事について説明し合おう」
「それもそうですね」
「長話になりそうだからな」
それから、三人は早歩きへ屋敷へと向かっていった。
◆
「少し待っていてください」
ミレイユはそう言うと、屋敷の中へ駆けていった。
「――噂では聞いたことはあったが、まさかこんなに広大な屋敷だとは……」
、隅々まで屋敷の外観を観察しつつ、フォンシエは思わずそう呟いた。
――――学校などのグラウンドが何個もありそうな敷地内に、フランスの宮殿のような屋敷。薔薇などの花々が色鮮やかに屋敷を演出し、幻想的な風景が広がっていて、そこだけが浮世離れしていた。
「まあ、俺様にはまだまだ足りないぐらいだが、それなりって感じだな」
捻くれた言い回しではあるが、珍しく褒めるギルベルト。
「相変わらず素直じゃねぇなあ」
フォンシエはそう言いながらも、口元はうっすらと緩んでいた。
――――すると。
「お待たせしました。……二人とも、宿泊しても大丈夫だそうです」
「きたこれッッ!!」「本当か!」
二人は軽い足取りで、屋敷へと入っていったのであった。
◆
「あ゛ー、久々にマシなモン食ったぜ」
「すみませんね、俺の味は庶民の味でさ」
――――あれ、こいつコーンスープ美味そうに食ってなかったっけか?
と、フォンシエは心の奥底で思いながら、二人は馬鹿みたいに長い廊下を歩いていた。
二人はやっとの思いで食事にありつけ、空腹に豪華なディナーが染みに染みた。
それだけでなく、やたらと豪華な大浴場に入って、疲れ切っていた脚を癒す事が出来たために二人は大満足だった。
……しかし、そんだけ広いとその分屋敷が魔宮じみていて、ひたすら廊下が長々しいのである。
「どへー、これじゃ湯冷めしちまうぜー」
「そうだな。……まあ、屋敷全体がちょうどいい温度だからまだいいけどな」
「そうじゃねえとここの屋敷の主人とっ捕まえてボコボコにするけどな」
「おいおい、今はここの主人様は不在だぞ」
「……ああ、そうか」
ギルベルトは声のトーンを落として、囁くように言った。
「この屋敷の主人は、七大なんとかに誘拐されちまったんだよな。……なんか可哀想っつか、哀れだよなあ。皆その主人っつーのを慕ってたみたいだしい」
「――そうだな」
――――いや、七大なんたらって何だよ、七大なんたらって?!
フォンシエはそう衝動的にツッコみたくなったが、なんとか抑える事ができた。
「まあ、とりあえずはあいつの話を聞いてからだな。そうすりゃなんか案が浮かぶのかもしれねぇ」
「ま、まずはそうしないとだな。泊めてもらう訳だし」
――――っぷぷぷ、お前にそんな善意があったのかよ、善意gうぇへひひひひひひひひ!!
フォンシエは死ぬほどそう言いたかったが、なんとか必死に耐える事に成功した。
「まあ、とりあえずは部屋目指してどんどん進もうじゃないか」
「そうだな下僕。よーしソリになれ!」
「なんでだよッッ!!!」
そうして、馬鹿二人はなるべく急いで部屋へと向かったのであった。
「ふへー、着いたー。ぼふっ」
足が棒になるほど歩き、やっとの思いで部屋に着いた二人。
ギルベルトは真っ先にベッドへフライし、フォンシエは上質なチェアーへ腰かけた。
「ふう、屋敷が広いっつーのも困ったもんだぜ」
「確かにそうだな。……っつか、こんなんじゃ掃除も苦労するだろうに」
「あんだけ気持ち悪いほどメイドとかいるんだから平気だろ」
「まあ、そうかもしれないけども――」
そうぐだぐだと二人が雑談をしていると、カタカタと靴音がドアの向こう側から聞こえてきた。
二人はドアの方を向くと、それと同時にノックの音が柔らかく響く。
――――あ、そういや、この後世界についてー、とか、この街についてー、とかをミレイユと話すんだったっけか。
ギルベルトはぼんやりと食事中にそんな事を話していた事を思い出した。
「はいはい、はいってドーゾ」
「――失礼します」
ギルベルトは無愛想に返事をすると、ミレイユがドアを丁寧に開けて入ってきた。
「部屋はお気に召していただけたでしょうか」
「ああ、まーな」「中々過ごしやすくて快適だよ」
二人がそれぞれ感想を述べると、ミレイユの表情が少し安堵に染まった。
すると、
「……つか、それを言いに来ただけではねーよな」
ギルベルトがミレイユに向けて言葉を発した。
「はい。本来の目的は――」「この世界の事、そうしてここ、シアオンで起きている事、だろ?」
「その通りです、ギルベルト殿」
ミレイユはそう言うと、二人の方をじっと見た。
「――それでは、説明致しましょうか」
◆
「――――なる、ほど。……つまり、この世界、ディヴェルティメントっつーところは人間界と魔界の二つがあって、その魔界の頂点――魔王が人間界を征服しようとしてる、っつのが現状な訳な」
「ああ、そうだ」
三人は椅子に腰かけ、そうしてギルベルトに世界の現状について説明していた。
そして今、ギルベルトは確認のために復唱をしていた。
「それで、その魔王が世界征服のために魔王直属の部下――『七大悪魔』をこの人間界に派遣していると。……しかも、噂によるとシアオンの近くの林――『グレド疎林』にいるかもしれない、であってるか?」
「ええ、その通りです」
ミレイユは無表情でそう応える。
「それでいて、七大悪魔の一人が来たのと同時期に連続誘拐事件が発生。その数日後にお前の主人が攫われた――とりあえず、聞いた話をまとめるとこんなもんか」
「そんなもんだろうな」
フォンシエはそう言うと、ティーカップを手に取り、紅茶を啜った。
「――うん、中々いい紅茶だ」
紅茶好きのフォンシエは、そう嬉しそうにつぶやく。
「それは、ミディ北部で採れる上質な茶葉で精製されておりますので」
「そうかぁ。……ああ、いつか行ってみたいなぁ、そうして出来立ての紅茶を――」「黙ってろ紅茶ヲタ」
「そういえば、お二方が旅をなされた理由は?」
ミレイユがそう質問すると、眠そうなギルベルトの代わりにフォンシエが答えた。
「こいつが昨日、森の中ですやすや寝ててさ。なんだろうと思って、起きたところで話を聞いたら『異世界人だ』とか言い出して。本当にこの世界の事全然知らないっぽかったから、一応は信じる事にしたんだ。――で、今はこいつがこの世界に来た理由を知るために旅に出たんだよ」
「成程。……って、」
ミレイユは何かに気付いたような表情で、慌てて立ち上がった。
「申し訳ございません。――少し、待っていただけますか?」
「え、まあ、いいけどよう」
「ああ、構わないよ」
ミレイユは慌てて部屋から出て行った。
◆
「――しっかし、あんな顔して慌てて出ていくなんて、何があったんだろーな」
ギルベルトが椅子にだらしなく座りながらそう言う。
「さあ……。でも、お前に関係がある事かもしれないぜ」
「そうだったら面白れーんだけどな」
「何でも面白さで判断するなよ……」
フォンシエは呆れながらそう言うと、ギルベルトはムッスリした表情になった。
「げぼくのくせになまいきだ」
「下僕が生意気言ってすみませんねーはいはい」
――などと、いつもの会話を繰り広げていると、ミレイユが新聞を片手に入ってきた。
「んあ、なんで新聞?」
ギルベルトが尋ねると、ミレイユはギルベルトに新聞を渡す。
「今日の朝刊です。――とりあえず、これを見てください」
「はいよ、りょーかい」
活字まみれの新聞を渡され、ギルベルトは嫌そうな顔をしつつも目を通した。
「――――って、魔王の世界征服がどーたらこーたらしか書いてねえじゃねえかよ」
ギルベルトは「ちっ」と舌打ちをしつつ、ミレイユに返そうとすると、ミレイユがとある部分を指さした。
「いや、そこでは無くこちらを」
ミレイユの指先には、一面記事の横にひっそりと書いてある記事。
「――――――って、マジかよ、これ!?」
ギルベルトは驚愕のあまり、思わず新聞を落としそうになった。
「ん、見せてみろよ」
フォンシエがそう言うと、ギルベルトは少し震えたまま、新聞をフォンシエに渡した。
「どれどれ。――――『昨日、イストが勇者召喚を行う。しかし、召喚は半失敗。勇者は行方不明に』……って、」
フォンシエの心音がどんどん五月蠅く喚く。
――――そして。
「えぇええええぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええ!!??」
狩人の叫び声は、広大な屋敷に木霊していったのであった。

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