勇者→魔王=\(^o^)/
作者/とろわ ◆DEbEYLffgo

Lv.25 疎林「悪魔の住まう場所」
朝。
鬱陶しい日の光が幸せな眠りを妨げ、一日の始まりを告げる残酷な時間。
「ほーら、もうすぐ朝食だぜ。早く起きろよ」
「うぜ……。もう少し、もう少しだけ寝るから黙ってろよ」
「さっきからそれしか言ってないじゃないか。今日は戦いがあるんだぞ? お前は分かっているのか?」
「んなん知ってるっつーの……」
そう言って布団に潜り込むギルベルトとは反対に、身支度を全てすませていたフォンシエ。どうやら彼は朝型の人間のようだ。
「ったく、早く起きないとここのメイド達にがっかりされるぜ。なんだかんだでモテモテなんだからさ、お前」
フォンシエが冷やかすようにそういうが、ギルベルトは「お前もだろーが……」などと独り言を呟くだけで、起きようとしない。
結局、そのあとフォンシエに無理矢理起こされることになった。
◆
「うし、準備完了だな」
朝食を終え、身支度が全て終わったギルベルトがそう言うと、フォンシエがギルベルトの近づいた。
「最後の確認をしよう。俺達の目的を言ってくれ」
「グレド疎林に行って、悪魔をボコボコにする、だろ?」
「ああ、そうだ。よーし、それじゃ出発しようか!」
「俺様の足を引っ張んじゃねーぞ」
そうして、長い一日が始まった。
◆
嫌な場所だった。
生命の潤いに飢え、渇ききった空気。青々とした表情を失い、痩せ細った木々。
まさに悪魔が棲む場所。それがグレド疎林であった。
ギルベルトは相変わらず呑気に説明神(ここの説明神は痩せていた)に近付き、説明を聴いていたが、フォンシエは地図を睨みながらルートを再確認していた。
「どうやら少し歩くみたいだな。しかし、あんなに栄えているシアオンのはずれにこんな淋しい場所が本当にあったとはな……」
フォンシエがそう思わず呟いた少し後に、説明を聴き終えたギルベルトがフォンシエの方へと歩いてきた。
「さ、行くぞ下僕。あんまり長居したくねーところだしな」
「そうだな、急ごう」
二人は早足で疎林に入っていった。
◆
林の中には動物どころか魔物の気配すらなく、より一層不気味さを演出していた。
「……おい、本当にこの道であってんだよな」
珍しくギルベルトが不安そうな表情でそうフォンシエに尋ねた。
「合っている筈だよ。この奥から何かの気配を感じるからね」
「ならいいんだけどよ」
その会話が終わった途端、二人の口数は一気に減った。
ただでさえ気を張りながら移動しているのだ。これ以上話していたら無駄に体力を消耗してしまう心配がある。
それを感じた二人は話すことを止め、移動することだけに集中することにした。
しばらく移動していると、どこからか物音が聞こえた。
流石のギルベルトもそれに気付いたらしく、瞬時にその方向へ体を向けて武器を構える。
すると、そこには……
「っと、わりぃわりぃ。悪気はなかったんだ。だからそんなに警戒しないでくれよ」
どう上ったのか不明ではあるが、木の上に黒髪の青年が座っていた。
「お前、何者なんだ」
ギルベルトが剣先を青年に向けながら、鋭い声でそう尋ねる。
「俺はただの見張りだよ」
「見張りって……。七大悪魔の手先か」
今度はフォンシエがそう尋ねると、青年はわざとらしく首を横に振る。
「そんなんじゃねえよ。俺は仕事の都合でここを見張っているだけ。むしろ、お前等こそそうなんじゃないのか?」
青年が意地悪に笑いながらそう言うと、フォンシエが申し訳なさそうな表情になって、首をゆっくりと横に振った。
「いいや、そうじゃないさ。すまないね、いきなりそんな風に疑って」
「別にいいさ。こんなところにいる俺の方が怪しいしな」
青年はそういうとははは、と軽く笑った。
二人は構えていた武器をゆっくりと仕舞う。
「ま、安心してくれよ。俺はお前等の邪魔はしないさ。すまなかったな、驚かせちまって」
「ったく、とんだ迷惑だぜ」
「おいおい……。まあ、それならここを通らせてもらうよ。こちらこそ悪かったね」
そうして軽く手を降った後、二人はまた歩き出した、
次の瞬間。
「ぐがァアッッ?!」
破壊音と共にフォンシエがそう声を上げ、崩れるように地面に倒れた。
「!?」
ギルベルトが即座に背後を振り向くと、そこには苛立ちの表情を浮かべた先程の青年の姿があった。
「おいおい、背後の警戒を劣っちゃ駄目じゃねえか」
青年がそうニタリと笑う。
周囲を見渡すと、フォンシエの近くに木製のブーメランが落ちていた。
「ああ、安心してくれ。先は尖ってないから骨が数本折れた程度だから。あー、後、肺も潰れてるかなぁ」
青年は平然と、しかし言葉に苛立ちを含ませながらそう言った。

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