勇者→魔王=\(^o^)/
作者/とろわ ◆DEbEYLffgo

Lv.33 道化「Yes!ハンプティ・D GoGo!」
二人が抱擁している間に、アヴァリティアはリティアの服の裾を軽く引っ張り、少し離れたところまで移動した。
(――なんで『せかいにえらばれたニンゲン』いがいが、このバショにこれるようになっているんですかね)
アヴァリティアがリティアにぼそぼそと耳打ちする。
(多分、私達の負けっていうことになったからだと思う。魔王様に『オシオキ』される事になっちゃうだろうね……)
リティアは重い表情でそう言うと、アヴァリティアは首を横に振った。
(だいじょーぶです、あんしんしてください。いくらマオーサマでも、リティアさまにはゆびいっぽんふれさせませんからっ)
(ふふっ……。ありがとう、アヴァちゃん)
「? どうしたんだよ、二人とも」
ギルベルトが怪訝な顔つきでそう訊ねると、二人はなんでもない、と言って元の場所に戻った。
◆
「挨拶が遅れてごめんなさい。私はローズ・アデレイド。シアオンの領主ですわ」
大分落ち着いたらしい、先程までミレイユを抱きしめていた女性――ローズは、恭しく一礼した。
「今回は私達の捜索をしてくれてありがとうございました。……それと、ミレイユちゃんを護ってくれて本当に感謝しています」
「全くだぜ。本当に死ぬかと思った」
「おい、そんな言葉遣いは――」「ああ、いいのいいの。私堅苦しいの好きじゃないから、むしろそのぐらいが丁度いいわ」
思っていたよりもオープンな人なんだな、とフォンシエは思った。
「寧ろ、それよりも私のミレイユちゃんに手を出していないかどうかの方が重要だわ……」「んな事するわきゃねーだろ! なんで俺様見て言うんだよ!」
「ほら、若さ故の過ちがね、ぐちゃどろにねっ?!」「お嬢様、落ち着いてください。皆ドン引きしてます」
ミレイユの声によって我に返ったのか、ローズはわざとらしくこほんと咳をした。
――――思ってたよりも激しい人なんだな。
とフォンシエは心の奥底で呟いた。
「こらー!! まるでハンプティを脇役みたいな扱いにするんじゃないのー!」
「だーっ! うっせ!」
突然ローズの隣に突っ立っていたちっこいの(byギルベルト)が叫び散らした。
「よし、皆ハンプティさんの方向いたね? よしよし、それならいいんだよムッフーン!」
「なんだこの自己主張」
「ハンプティはハンプティ・ダンプティっていいまーす!」
やたらとぶかぶかなマジシャンの衣装を身に纏ったクリーム色の髪の少年――ハンプティが元気に自己紹介をする。
「ハンプティ・ダンプティってあれだろ? 擬人化卵で塀の上から落っこちる駄目駄目な奴だろ?」
「駄目駄目いうなー! 失敬な、というかー、これ芸名だしぃー」
「芸名ってなんだよ……」
――――まーたトロイや鍛冶屋みてーのが増えたな……。
とギルベルトは呆れながら思った。
「しかし、どうしてハンプティさんが此処に?」
本来はもっと早くにするべきだった質問をミレイユが問いかける。
「いっやー。話すと長くなるんだけどね。まあそれやんないとどうしようもないしやるかー」
ハンプティは自分の腕よりも長いであろう袖をぱたぱたさせながら、説明し始める。
「えーと、まず、王都とシアオンの間にある、でっかーい山はご存じかな?」
「んにゃ、そういやー街探索の時に見た気がするな」
「そそ、それそれ。ちなみに名前は『モン リッシュ』って言うんだけどね。まあ、それの頂上に町があるんだけどー」
一旦言葉を切って、ハンプティはすぅっと息を吸う。
「なんとなんと、その町はサーカス団が運営している稀有な町でー、しかもそこの団長――あ、町長みたいなのね――それがハンプティさんなのです!」
「…………えっ」
ギルベルトは硬直した。フォンシエは何とも言い難い表情をしている。
「うわーん! 完璧に疑われてるー! ていうか、ハンプティはこれでも26歳なんだぞー!」
「え、ああそうかそうか。2足す6で8歳かー。さんすうできるようになんたんでちゅねーすごいでちゅねー」
「こいつムカツクー! だから26歳なんだってばー!!」
「ええ、ハンプティちゃんは26歳よ~」
「はい、そうですよ」
「「何……だと……?」」
二人は驚愕の表情を露骨に浮かべる。
「んなんありえねーどう考えてもファンタジーぐらいでしかありえなってそういやファンタジー世界じゃんここー」
ギルベルトは棒読みでそうぶつぶつ呟く。正直不気味である。
「しかしリティアさまー。カンゼンにおいてかれてますよねボクたちー」
「そうかもね……」
「ってあら、こんなに可愛い狐耳っ娘がこの世に存在するなんて……! はぁ~ん、可愛い、お持ち帰りしたいわ~! もふもふっ」
「ぴゃあああああああああああああ?!」
「ちょ、リティアさまにてをだすなぁ――――っ!!」
リティアに抱き着く寸前ぐらいのローズを慌ててアヴァリティアが止める。
「お前の主人って……そういう趣味なのか?」
フォンシエが呆れ気味にそう訊ねると、
「ええ、まあ……。アデレイド家の屋敷がそうだったかと思いますが、お嬢様の使用人のほとんどが女性です」
とミレイユが涼しい顔で答えを返した。
「恐ろしきレズ……」
「ん、レズって何だ?」
「あー、あれだ、百合だ百合」
「いや、更に訳が分からないんだが」
「しかし、あれねぇ。こんなに悪魔が可愛いとは思わなかったわ~。うふふ、夢が広がるわね」
「あう、あうぅぅ……」
「うぐぐぐぐぐ……オマエ、ニンゲンのクセにナマイキだぞっ」
「お嬢様に対してそのような口のきき方をするとは――斬りますよ?」
「ぎゃにゃあああああん! ごめんなさいレイピアむけないでー!」
と、先ほどまでの戦闘が嘘のように賑やかになった。
***
「――うん、大分脱線したけどさっきの話に戻ろうと思う」
「ずっと此処にいるのは嫌だからな。さっさと済ませろ」
ギルベルトの命令口調にムッとしながらも、ハンプティは説明を再開した。
「実を言うと、もうすぐハンプティ達の町――『クラウン』で武闘大会が開催されるんだ」
「ん? ……ああ成る程。葡萄栽培が盛んなんだな。大食いでもやるのか?」「やっらっねーよ!! グレープの方じゃないよ武闘だよ!」
「ふむ、サーカスらしく躍り明かすのか」「それは舞踏だよ! てか、いちいちそういうボケいらないから」
何気に息ピッタリなギルベルトとハンプティ。フォンシエはただ何も言及せずにその光景を見ていた。
「……いや、キミも助けようとしてよ」
「まさかツッコミが一人増えるだけでこんなに楽になるとはなー」
「…………むすぅ」
「そういえば、もうそんな時期になったんですね。私も毎年この時を楽しみにしています」
ミレイユがフォローするかのようにそう言うと、ハンプティの機嫌は戻ったらしく、その言葉にうんうんと頷いていた。
「へー、そんなに大きな大会なんだな」
「なんてったって、イストの三大イベントって言われるぐらいの盛り上がりだからねー! 毎年、優勝者にはハンプティが世界中を旅して手に入れたオタカラを贈呈するのだっ」
「あれだろ、ブリキの玩具とかだろ」「ちっげーよ! うえーん、ボサボサ銀髪野郎がいじめるー!」
ハンプティは、泣きながらローズに抱き付くと、ローズは宥めるようにハンプティの頭を撫でた。
「あらあら。――でも、こんなにちっちゃいけど、ハンプティちゃんの凄さは本物ですわ。十数年前から移動サーカス団を運営してて、数々の勲章貰っていたりするぐらいですもの。ハンプティちゃんは一流のマジシャンでもあると同時に、『人を集める力』があるからね。後、その時の旅やコネクションで集めたお宝は、正真正銘の本物よ」
「このチビのがかー?」
「だから26歳だってば――――!!」
「ま、それがあるから宣伝しに街へ向かっている途中、ローズ達が倒れてたから、ハンプティ達が助けたのさ」
「本当に助かったわ。ありがとうね、ハンプティちゃん」
「えへへー」
ハンプティはご満悦そうな表情になる。
「ちなみに、その時に私達を襲ったのは、リティアちゃんではなかったわ。リティアちゃんよりも凶暴そうな娘だったもん。……可愛かったけど」
「本当にコイツじゃなかったのか……」
「ほらいったろー! リティアさまはムジツだったんだよー!!」
「ごめんな、二人共。知らなかったとはいえ」
「いえ、いいんです。――いつかはこうなる運命だったから」
リティアはぼそりと聞こえないように呟いた。
「本当に申し訳御座いませんでした……」
「大丈夫ですよ、全然。――これからも、主人さんの事を、大切にしてあげてください」
「はい」
リティアがミレイユに柔らかく微笑む。ミレイユも、それを返すように微笑んだ。
「リティアさま、リティアさま。『アレ』をわたさなきゃですよ」
「ああ、忘れるところだった。――ギルベルトさん。貴方に渡す物が」
「ん、俺様にか?」
「ええ。『世界が選んだ』貴方に」
その言葉にギルベルトは首をかしげたが、気にしない事にしてリティアの正面に立った。
「はい」
そう言って、リティアは青薔薇のペンダントをギルベルトの手に置いた。
「『強欲の悪魔』を倒した証です。『貴方』がしっかり持っていてください」
「……まあ、よう分からんが持っていておく」
ギルベルトは疑問符を頭上に浮かべつつ、ペンダントをしまった。
「んにゃ、それってなんだい?」
ハンプティが興味津々で二人に近付く。
「あ、駄目ですよ。『選ばれた人間』にしか渡せませんからっ」
「選ばれた人間……? って、ここそういや七大悪魔のお城だったんだっけ。」
「って、また俺様おいてけぼりトークす「なら君達は相当な実力者って訳だー! きゃはっ、これなら大会も盛り上がるぞー!」
「…………なんだコイツ」
「さぁ……。俺には何とも」
「もしかして、城に入れた私達三人は……」
二人がリティア達の会話に付いていけず、ミレイユは気づいた事実に戸惑っていると、ハンプティは目を輝かせながら三人の服を摘まんだ。
「それなら、是非是非武闘大会に参加してほしいなー! 今回の賞品凄いし、実力者が集まる大会だから、参加するときーっと楽しいと思うよ!」
「まあ、それなら結構オイシイかもしれんな」
「えー、なんかなぁ」
「憧れの舞台で闘えるなんて……」
「よーし! 決まったからには早く話を進めよう! さ、屋敷に戻ろ戻ろ! 大会の事とか説明したいし、なんなら選ばれた人間についても話すからさ、ねっ!」
「ああ、おうおう……」
ギルベルトはハンプティにぐいぐい押される形でその場を後にした。
「では、私達も戻りましょうか。暗くならないうちに帰らないと」
「そうね。……うふふ、リティアちゃんも今度いらっしゃいね! 紅茶と茶菓子を用意して待っているわー!」
と、主従コンビもそれに続いて部屋から出る。
「さーて、俺もそろそろ戻りますかねぇ」
「あ、フォンシエさん!」
去ろうとするフォンシエを、慌ててリティアが止める。
「その……。フォンシエさんにも渡したい物があるんです」
「ん、俺にか?」
フォンシエはリティアの方を向く。
「はい。――先程は私やアヴァちゃんを助けていただいて本当に有難うございました」
「いや、礼はいらないよ。こっちにも非はあるしね」
「それでも……。私、初めてだったんです」
リティアは唾をごくりと飲んで、胸をきゅっと抑える。
「あんな風に、人に優しく接してもらえた事が。今まで恐怖の対象として恐れられ、石を投げられたり、罵られたりしてきましたから」
「――――『悪魔』だから、か」
「はい。まあ、私も人々を襲ったりしていましたから、私も悪いんですけどね。……だから、もう嫌われたくなくて。だから対象を薔薇に変えたんです。でもやっぱり怖がられて」
無意識に涙が零れる。その涙を、フォンシエはハンカチでそっと拭き取った。
「それでも、君は変わろうと努力してるんだろう? 大丈夫。いつかきっとわかってもらえる日がくるさ」
「そうですかね……」
「ああ。もう既に俺がそうだしな。悪魔=怖いなんて方程式は存在しないって事がよく分かったよ。君やアヴァリティアは優しい悪魔だよ」
フォンシエは優しく頭を撫でてやると、ひょこひょこと尻尾が揺れた。
「へへへ……。そうだ、渡さないとっ」
リティアは手で円を描くと、そこからエメラルド色の魔力の塊が現れた。
「これは?」
「これは、私の技『ロウザ・ステルス』です。この先の旅で使ってください。きっと役に立ちますから」
「いいのか? そんなの貰って」
「いいんです。――これが、私の気持ちです」
そっと塊を差し出す。すると、塊がフォンシエの体にすっと入り、消えてしまった。
「凄い、頭の中に呪文が入ってくる……」
「これで使えるようになりました。……さあ、皆様が待っていますから、フォンシエさんも屋敷のほうに向かってください」
「ああ。――じゃあな! また、いつか」
「はい、また会いましょう!」
二人は手を振って、そうして別れた。
――――さようなら、私の『初恋』の人。
リティアはぽろりと、一粒の涙を零した。
――そんな彼女の元に、『誰か』が近づいてるとは気づかずに。

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