勇者→魔王=\(^o^)/

作者/とろわ ◆DEbEYLffgo

【二章】勇者→魔王=\(^o^)/【スタート】


ハンプティはふと時計(どうやらこの世界に時計は珍しいらしく、一部の金持ちぐらいしか所持していないという)に目をやる。
時計の針はもうすぐ七時を指す。(少なくとも外見は)お子さまなハンプティはあまり夜遅くに行動しない方がいいと判断し、いそいそと帰りの支度を始めた。
無機質に時を刻む針の音が、一気に耳に響く感覚に襲われ、ギルベルトはもぼおっとただその音を聞いていた。
――――あー、なんつーかなぁ。
なんだか懐かしいような、なんとも言えないような感じになった。
だから、ギルベルトは気付かなかった。ハンプティが窓の外を見ながら呟いた言葉に。

「今宵は満月、か」
目を細めて、寂しそうに呟いた台詞に。


「そういえば、ひとつ質問があるんだが」
「あら、なーに?」
ミレイユの代わりに紅茶を淹れるローズ(ミレイユは頑なに拒否したが、「もうメイドじゃないでしょ」と言われて渋々引き下がった)が、がした方向に顔を向けると、フォンシエが柔らかく微笑んだ。
「その、『選ばれた人間』について教えて貰いたいんだ。それってどういうのが基準で『選ばれた人間』になるんだ?」
「すっかりその説明を忘れていたわね。……はい、ミレイユちゃん」
「あ、ありがとう、ございます……」
ミレイユは主人が淹れた紅茶をしばらくじっと見つめていた。
やがて、飲む決心がついたのか、ぐびっと一気に飲み干す。そうして、美味しいと小声で呟いた。
「ああ、俺様も気になってたんだよな。――まあ、俺様的にはミレイユが言ってた『勇者』の方が気になるんだが」
無意識ににやにやといった表現が似合う表情になったギルベルトがそう訊ねると、ローズは「じゃあそれについても知っている限りで説明するわね」と言ってこほんと咳払いをした。
「まず、『選ばれた人間』というのは、文字通り世界に選ばれた――どうしてその人が選ばれたのかはわかっていないけれど、七大悪魔の城に入れる資格を持った人の事、だそうですわ。あ、七大悪魔は分かるかしら。リティアちゃん達が七大悪魔よ」
「じゃあ、城に入れた俺達は『選ばれた人間』なんだな」
「なんか特別感? みてーなのがあっていいな。超VIP待遇じゃねえか。で、それって何人ぐらいいんだ?」
「確か……。十人ぐらいしかいない、とかなんとか」
その言葉に、フォンシエは目を丸くした。
「! そんな低確率のものなのに、ただの狩人が選ばれていいんだろうか、って感じはするな。もっと強い人間ならいるだろう?」
「フォンシエくんも十分強いと思うけど……。まあ、確かにそうかもしれないわね。イスト王国騎士団団長の『アンジェラ』も選ばれてないっていうから。強さだけが基準じゃないのかもしれないわね」
「騎士団ってまた随分とRPGっぽいな。……やっぱつえーのか?」
「ええ、とっても。【イスト最強】とか言われてるぐらいだし、人望も厚いわ」
「最強か……。闘ってみてーな」
「いや、多分敵わないと思うぞ? ……しかし、ますます謎は深まるばかりだな。そんな人が選ばれず、俺が選ばれた理由が」
「そこまで気にしなくてもいいと思いますよ、フォンシエ殿。フォンシエ殿は私達を引っ張ってくださったじゃありませんか」
「そ、そうかなぁ」
照れ臭そうに笑うフォンシエをぎろりと睨み付けるギルベルト。目は「俺様よりもリーダーぶるんじゃねえよks!」と語っていた。実に分かりやすい程。
「まあ、一旦その話は置いておこう。……で、なんなんだ? 勇者って奴はよぉ」
「うふふ。なんだか男の子って感じがするわね。じゃあ、早速そのお話をしましょうか」
今度は逆にフォンシエが、「一昨日の夜のアレは一体何だったんだ」と言わんばかりの表情でギルベルトを見た(物凄い呆れ顔で)。

「勇者は、世界が危機に陥った時に与えられる称号みたいなものよ。勇者中心に解決への道が開けていくの。言わば『物語の主人公』っていうポジションになる人の事ね」

「物語の……主人公……?」

ギルベルトは心から驚いた表情で、『物語の主人公』というフレーズを繰り返し呟く。
フォンシエは、その様子を意外そうに見ていた。
――――こいつなら、「そんなの当然だぜ」みたいな事を言うと思っていたんだがな。
すると、ギルベルトはフォンシエの方に目を遣ると、どこか透き通ったような――普段の行動からは想像もできないような酷く綺麗な、そうして脆く儚げな笑みを浮かべた。
「…………?」
その表情からは、彼の感情が一切読めなかった。