勇者→魔王=\(^o^)/

作者/とろわ ◆DEbEYLffgo

Lv.28 狐耳「お姫様は薔薇のお城に」


古臭い城の奥で、ぼんやりと響く話し声。

「どーやらこっちにコスプレしゅーだん、じゃなくてボクたちをとーばつしようとしているヒトたちがきてるみたいですよ、リティアさま」
幼い少年――何故か背中に悪魔の羽根が生えている――が、リティアという名の少女にそう報告する。
リティアは困ったような表情になって、暫く考え事をしていた。
「うー……ん。それは困りましたね。普通の人間ならまだしも、『世界に選ばれた人間』なのだとしたら……。アヴァちゃん、ちょっと試しに相手してあげてくれますか?」
エメラルドの髪をふわりと揺らし、リティアは彼女の使いであるアヴァちゃんことアヴァリティアにそう頼む。
彼女の仕草はとにかく上品で、服装もまるで絵本にでてくるお姫様そのものであった。
「りょーかいです。つかいまをおくってみただけのじょーほーですが、メイドちゃんにだけ、きをつければへーきっぽいです。ヤローはザコていどのそんざいですねー」
アヴァリティアはケラケラと笑いながらそう言った。
「気を付けてくださいね。アヴァちゃんに何かあったら、私は……」
「へーきですよん! リティアさまにはゆびいっぽんふれさせません! なんせ、リティアさまは……」
そう言いかけると、アヴァリティアは大きく深呼吸をした。

「……リティアさまは、『ごーよくをつかさどるななだいあくま』なんですから!」







「つーかさぁ、昨日から疑問に思ってたことなんだけどよぉ」
「ん?」
目的地に向かう途中、気まぐれでギルベルトがフォンシエに質問をする。
ちなみに、先頭を歩いているのはフォンシエだ。地図を持っているというのもあるが、エルフ耳である彼は普通の人間よりも五感が鋭く、普通は感じないような気配なども察知することができるのだ。
「いや、昨日お前が言ってた事だよ。なんで『狐耳』ってだけで七大悪魔だって言い切れんだ?」
「あー、その事か」
フォンシエはそう言った後、ギルベルトに説明し始めた。
「まず、人には普通の耳の人間と俺みたいなエルフ耳の人間の二種類しかない。まあ、特殊な人間もいるかもしれないが……。そこらへんは俺にも分からん」
「お前って案外テキトーなのな」
呆れ顔でそう呟くギルベルト。
「ははは……。んで、七大悪魔の姿には身体の一部に動物の特徴が混ざっている。耳だったり尻尾だったり、中には動物の形そのものを己の身体にして行動しているものもいるらしい。……多分、七大悪魔の話は割とメジャーだと思うぜ。童話とか言い伝えとかにもちょくちょくでるし。正直、架空の存在だと思っていたよ。そんぐらい不思議な存在だからな」
「そうか。焼肉食いたい」
「人の話を全く聞いてねえ!」
フォンシエがすかさずそうツッコむと、ギルベルトはそんなツッコミ役をしばらくからかって遊んだ。
「話が長いのは年寄りの証拠だぜ。ま、話が長くなると寿命は短くなるんだけどなー」
「あーもうくそ! こんな事なら真面目に説明しなきゃよかった!」
「そうか。焼肉食いたい」
「台詞をリピートすんな!」
そんな風にわいわいする二人を、黙って見ていたミレイユが突然口を開いた。
「すみません。賑やかなのは良いことですが、それ以上賑やかになると周りへの警戒が困難になってしまうので、声量を落としてもらっても構いませんか」
「「……すみません」」

三人の中では最年少であるはずのミレイユが、一番クールで大人びていた。


「で、なんで狐耳=七大悪魔なのかというと、七大悪魔の一人に狐耳の悪魔がいるんだ。その悪魔は『強欲』を司る悪魔で、エメラルドの美しい髪とルビーの瞳が特徴的。ほら、昨日お前に見せた紙にもそんな事が書いてあったろう?」
「んあ、そういやそんなよーな事も書いてあったな」
「で、細身で華奢な少女の姿をしているらしい。服装は基本ドレスで、悪魔というよりは妖精って感じだな。そいつをモチーフにした作品も割とあるぞ」
「なんか、話だけだと人畜無害な感じだな」
ギルベルトが素直にそう言うと、フォンシエは首を横に振った。
「いや、いいのは外見だけだ。実際は強欲を司るだけあって恐ろしい。なんせ彼女は人の魂を欲の対象にしていて、人を拐っては命を貪ったらしいぜ」
「女ってこえー……」
ギルベルトは特に悪気はなくそう言ったが、ミレイユは少しムッとしたような表情をした。本当は特に表情を変えなかったのかもしれないが。
「だから、多分そいつの仕業なんだと思うぜ。というか、それ以外は思いつかない」
「ま、俺様的には誰だっていいんだけどよー」
「……? 何故ですか?」
先程の発言以来黙っていたミレイユが思わずそう訊ねると、ギルベルトは逆に不思議そうな表情で答えた。
「だって、合法的にイキモンボコれるじゃん。」


「「…………」」

フォンシエは脳内で「ですよねー」と呟いた。







「うわぁ……」
フォンシエは感嘆の声を漏らす。
目の前にあるソレは、おとぎ話に出てくるような、否、そのものな建物であった。
老廃した城。それをまるで包むかのように這う、巨大な薔薇の蔓。咲き乱れる蒼の薔薇。
レプリカのように無機質で、それでいて妖しく輝き、人々を誘い惑わせるような魔力(一応比喩表現ではある)が漂っていた。

そんな城の扉の前に、すべてのムードをぶっ壊す男が立っていた。
『ようこそ 【『ごうよくのあくま』の しろ】へ!!▼
きつねみみの かれいなしょうじょだが▼
そのちからは きょうだいで おそろしいものだぞ!▼
さて きみたちは ちからを あわせて たおすことが できるのか!▼』
「ようこそ 【『ごうよくのあくま』の しろ】へ!!▼」
「いや、真似しなくていいから。というか、どんだけ不釣り合いなんだよこの人」
説明神(筋肉質のおっさん)をジト目で見ながら、フォンシエはやれやれとため息をついた。
「しかし、まさか城が本当にこんなところにあったとは……」
ミレイユが無表情でそう言う。本人的には驚いているようだが、ポーカーフェイスすぎてよく分からない。
「つーかさ、分かってたんならさっさと行って駆除すりゃよかっただろうが」
おいおい、駆除ってなんだよ、とフォンシエは心の中でそうツッコむ。
「いや、分かってはいましたし、行ってみた人間もいたようですが――」
と言いかけた途端、ミレイユは素早く剣を構える。
「どうやらこの奥に何者かがいるようです。みなさん、武器を構えて」
「了解。俺もそんな気がしたからな」
「ん、わーったよ」
と言いつつ、二人は既に構えていた。

「さてと、行くぞ。血塗れ大行進だぜ」
「後半には賛同しないがそうだな、行こう」
「はい。必ず成敗しましょう」


――――そうして、三人は扉を開け、中へと進んでいった。