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*102*
「まあ、言いたくないんだったらこれ以上は聞かない。――それが美樹のモットーでしょ?」
私がにっこりと微笑みながらそう言うと、美樹は少しばかり目を見開いた。
しかし、すぐに元の表情に戻って言った。
「そうかもね。…それよりさ!この後どうする?あたしたち、何も考えずに飛び出してきたけど」
「そうだねー。することがないねー。取り敢えずぶらぶらする?あと1時間は残ってるよ?」
「よし、そうしますかっ!」
そんなこんなで始まった2人きりのデート(?)。
中々女同士というのも楽しいものだ。
「あ!これなんてどう?」
「本当だ〜!可愛いね!あたしのお姉ちゃんに買っていこうかな?」
「美樹、お姉ちゃんいるの!?」
「いるよ〜!今大学1年かな」
「そうなんだ!羨ましいな」
「真奈は一人っ子?」
「そうなの。だけど、凜がお兄ちゃんみたいなものだから寂しくはなかったかな」
「…そっか」
美樹の少しの間が気になったが、なぜだか気づいてはいけないような気がして、気付かなかったふりをした。
「って、噂をすれば本人が来たよ!」
美樹が少し興奮気味に言う。
「誰が来たの?」
「浅井よ浅井!」
「凜?」
「そうそう!」
私たちがそんな会話をしながら、じーっと大通りを歩く凜を見ていると、その視線に気づいた彼が店の中にいる私達に目を向けた。
一瞬呆れたような顔をしながらもこちらへやってきた。
「お前ら何やってんだ?ストーカーかと思ったぞ」
「凜、それはあんまりだよ」
「だって、そんな商品と商品の隙間から見られてたら普通そう思うだろう」
「いや、それ、普通ではないと思いますが…。あ!さては、ストーカー経験がおありなのですね〜?」
美樹がニヤニヤと効果音が付きそうなくらいの笑顔で凜に尋ねる。
すると、彼は少し頬を染めて
「ば、ばか!そんなんじゃ、ねーよ!」
と怒り出した。
本当にわかりやすい。
「では、何があったのですか?」
「だから知らねーって!」
「はいはいはいはい、静かにしようねー!凜くん?」
「っち。ムカつく野郎の登場かよ」
凜が舌打ちするのは、逢坂くんしかいない。
基本凜は誰とでも仲が良いが、特に男子と仲がいいのである。
仲がいいのか悪いのかわからないのは、逢坂くんだけである。
「登場早々、それは酷いよー。凜くん」
「妙な君付けやめろ」
「それじゃあ、凜」
「…なんかムカつく」
「結局のところ、俺は何したって一緒だろう?」
「そういうことだな。てか、さっきまでお前の周りにいた煩い女子はどうしたんだよ?」
「あー、あの女の子たち?綾川さんと美樹を見つけたから撒いてきた」
「撒いてきたって…」
凜が苦笑を浮かべる。
「いいだろう?別に。俺の勝手さ」
そう言って逢坂くんは私に微笑む。
私はあまりにも急な出来事だったため、あたふたして顔を赤らめた。
彼も私がここまで動揺すると思っていなかったのか、同様に顔を赤らめる。
「ったく、お前らも何やってんだよ」
凜が私と逢坂くんとの間に入ってくる。
「べ、別に私たち、何もしてないじゃない」
私が頬を膨らませながら言うと、凜は少し慌てる。
「いや、そのそういう意味ではなくて俺はただ…」
なぜか凜が言葉に詰まっていると、美樹が彼を助けるかのように私達に言った。
「残り15分程度だよ〜?そろそろ帰らないと不味いんじゃない?」
「もうそんな時間!?それじゃあ、戻ろう」
私は少し慌てながら、皆にそう言うと、皆は少し笑いながらも頷いた。
「よし、帰ろう」
私はそう言って歩き始めたのだが、凜に
「お前、反対だぞ」
と手を掴まれて引っ張り戻された。
…手を、掴まれ、た?
そう認識した瞬間、記憶が泡のように思い出されてきた。
それも処理が追いつかないくらいに。
あぁ、そうだったのか。
私が手を握られるのが嫌いな理由、私がこうなってしまった理由、すべてがわかった。