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*140*
*亮side*
僕は探す。
君を探す。
君の面影を探す。
君は忘れているかもしれない、たった1つの契りを信じて――。
僕は徹が自分の好きな子をフルネームで教えてくれないことに違和感を感じた。そんなに些細なことで?と思うかもしれない。実際僕も些細だと自分でも思う。だが、その後の「どうして兄さんはマナという女性ばかりと付き合っているの?」という疑問を徹が口にした時点で、彼は僕が何をしているのか気が付いているはずだ。まだ確信がとれていないため、僕は彼に何も言うことは出来ないが。
さて、そんなわけで、僕は徹が胸を躍らせながら出かけて行ったところを尾行してきた。ドラマみたいにサングラスを掛けたり、変な帽子は被ったりしない。なぜって?そんなの決まってるじゃないか。逆にその方が目立つからだよ。……それはさておき、徹が好きになる子とは一体どのような女の子なのだろうかと期待を胸に辺りを見回してみる。すると、遠くの方から清楚な白いワンピースを着た美少女がやって来た。その少女はじっと徹の方を見つめて、何だか表情の読めない顔をしている。やがて、徹がその少女に何か声を掛けて、ホームへ連れたっていくのが見えた。
「やっぱりあの子か〜。超可愛いね」
なんて言葉を口にしながら。
そんなこんなであっという間に目的地に着いたよう。二人は仲睦まじげに下車していく。兄の僕から見ても、それはカップルにしか見えない。でも、徹の言動や行動からして彼女ではないということは推測できる。所謂友達以上恋人未満というような関係だろう。
「分かり易いんだよね」
本当に徹ってば顔に書かれているような行為の表しようだ。まあ、この言葉には別の意味も含めたんだけどね。
デパートに入ると、物凄い人だった。いくつか「逆ナン」というものにはあったけど、丁寧に断りを入れておいた。
こんな狭い建物の中にずっといては、いつかはあの二人に遭遇してしまうだろう。だから、僕は暫く喫茶でお茶をすることにした。時計をちらちら確認しながら、初デートなら一体女の子を何時に返すだろうかと考えてみる。僕なら暗くなる前に返すだろうね。初めは好印象を抱いてもらわないと。「マナ」と識別するには時間がかかる。昔の記憶をさり気なく引き出すような言葉を掛けても、随分と前のコトだから覚えていないほうが普通だ。だから、長い間付き合える方が僕にとっては都合がいい。この街に戻ってきてから何人もの「マナ」と付き合い、必要な時は体の付き合いも行ってきたわけだが、一向に僕の運命の「マナ」は現れようとしない。遠くの街にでも引っ越してしまったのだろうか、とそんな気持ちが段々と芽生え始めてきている。
「駄目だ。これ以上考えちゃ駄目だね」
僕はそう言って席から立ち上がった。時刻は17時5分前だった。
暫く二人の姿を探して歩いていると、出口付近に似たような姿をした二人が何かを話しながら歩いていた。しかし、男の方がこちらを見た。僕とばっちり目が合った。それは間違いなく徹だった。徹は僕の姿を見付けてからどこか様子が変だった。恐らく彼は「この子を取られるんじゃないか?」と心配や焦り、怒り等々で心の中は掻きまわされたような感覚だろう。何、大丈夫さ。君の好きなその子の名前が「マナ」じゃなければ僕は大人しく帰らせてもらうよ。僕は心の中でそう呟いた後、徹に話しかけた。
「徹!なーにしてるの?」
徹は恐怖というような表情でこちらを振り返る。まったく、僕たち兄弟なわけなんだし、普段からこんなに仲悪いみたいな感じで言わないでほしいな。これでも兄弟の仲は凄く良いとご近所で評判なんだから。僕は心の中で反論しつつ、というよりちゃんと言葉でも行ったが、弟との会話を少し楽しんだ。すると、先程からずっと徹の陰に隠れていた美少女がおずおずと顔を出して、挨拶してきた。
「あ、あの……初めまして。徹くんと同じクラスの綾川真奈です」
「ああ、君があの」
僕は驚きすぎて、一瞬用意していた言葉が飛びそうになったが、なんとか自然な風に発せられていたようだ。弟がこちらを心配そうに何か言っているが、僕は今、それどころじゃないんだ。……だって、「マナ」なんだろう?
「分かってるよ。どうも、初めまして。僕は逢坂亮って言います。えーっと、今高3かな?」
「でも学校では見かけませんよね……?」
その美少女が恐る恐るといった感じで僕に尋ねた。
「ははは、僕は桜田高校の生徒じゃないからね」
「ああ、そういえば、泉燈高校に通っていらっしゃるんでしたっけ?」
「そうだよ。でも、どうして僕が通ってる学校を?」
「あ、いや、たまたま私の友達に情報好きな子が居まして……」
「へえ」
僕はそう言って徹の方を見た。
「あ、徹くんじゃありませんよ!?」
「ふふふ、だろうね。徹の目がそう言ってるし」
そう言って僕は目を細めた。
「そうだ。お近づきの印にメーアド交換でも……」
「綾川さん、それは駄目だよ。さあ、早く帰ろう」
僕がせっかくメーアドをゲットしようと試みたのに、勘づかれたのだろうか。徹に阻まれてしまった。僕は成す術もなく、徹に肩を抱かれて歩く美少女の後姿を眺めていた。しかし、一瞬だけ彼女が振り返った。意味深な仕草だけを残して。
はあ。全く昔の契りなんてどうせしょうもないことだろうに。
忘れられたらどれほど楽だろう。
でも忘れられない。
もうその契りを交わした時に、僕は「マナ」に惚れていたのだから。