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*120*
*徹side*
本当に楽しい時間だった。
俺があんなことを言い出す前までは……。
”驚き”と”焦り”
これは同時に混在するものだと今更気づいた。
目の前で消えた青いかき氷。
必死な様子の凜の横顔。
唖然とする綾川さん。
そして終始無表情だった美樹。
驚きを隠せない自分。
――何もかもが初めての感覚だった。
友情を失う怖さ。
好きな人・恋心を傷つけてしまった罪悪感。
自分自身の恋愛に対する焦燥感。
――ああ、全てを忘れたい。過去に戻ってやり直したい。
しかしそうは言っていても仕方ない。2人となった今は遊べるような気分でもない。取り敢えず綾川さんを家まで送ろう。そう心に決め、落ち込んでいる綾川さんを慰めようとした。しかし、それが逆に彼女の逆鱗に触れてしまったようだった。
『違う。…いつだって皆そう言うの。綾川さんは悪くないって、僕が悪いんだって。でも、そんなの出任せだわ。私を傷つけないようにしているだけなの。本当は自分だって傷付いてるくせに。皆…優しすぎるのよ』
――知らなかった。
俺の知らないところでこんなにも彼女が傷ついていただなんて。
――知らなかった。
凜をこんなにも彼女が大切にしていたなんて。
――知らなかった。
自分がこんなにも弱いものだったなんて。
走り去っていく彼女の後姿をただ見送ることしかできなかった。彼女にも考える時間が必要だ。そうも思った。でもそれはただの言い訳。自分の足が彼女を追いかけられなかったことに対する言い訳だ。
「本当俺って情けないなあ」
俺は自分の掌を見詰めながら脱衣所へと向かい、彼女を待っておこうと思い、早めに着替えた。そして外に出て建物の陰で体を休めながらプールのほうを見ていた。しかし1時間待っても2時間待っても彼女が玄関に姿を現すことはなかった。どうやら先に帰ってしまったらしい。そう認識したのは待ち始めて3時間後のことだった。