完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~ 70~ 80~ 90~ 100~ 110~ 120~ 130~ 140~ 150~ 160~ 170~
*121*
*凜side*
ついにやってしまった。
彼女――真奈を傷つけるようなことは絶対にしないと決めていたのに。
でも、焦ってしまった。焦燥感に駆られてしまった。
もう、真奈は気づいてしまったのだろうか。この気持ちに。
いや、それはないか。どんなにアピールしたって気づいてくれなかったくらいの超鈍感女だ。
でも……傷つけてしまったことは確かな事実だ。
終業式の日に2番目でもいいと言ったのに。
彼女はあいつに惚れてる。だから俺には勝ち目がない。そう思って言った言葉だったのに。
結局は1番がいいんだ。彼女の右隣で堂々と笑っていられる1番が。
そうか。
俺は自分で勝手に諦めて焦って…。
バカみたいだ。
もっとあいつと……徹と真剣勝負をするべきだったんだ。
今からでも間に合うか?
――――まだ間に合う。今からでも戻って関係を修復しよう。
そう思って振り返った瞬間だった。身だしなみもちゃんと出来ていない、息が切れた様子の枝下が俺の胸に飛び込んできた。俺は何が起こっているのか理解できずに、ただただその場で固まるばかりだ。
「し、枝下?」
「浅井!」
「お、おう」
「浅井浅井浅井あさ、い…」
そう言って彼女は涙でぐちゃぐちゃの顔を上げた。
「お前その顔…どうしたんだ?」
今枝下が泣きじゃくっている理由がわからない。
何故俺を追いかけて来たのかもわからない。
どうして…
「どうしても何もないよ!あたしはあたしは…!!」
枝下はそう言いかけて、はっと口を噤んだ。
「お前がどうしたんだ?」
「あたしは…ただあんたが心配なだけだったのよ!」
「俺を心配する?どうしてだよ。俺、別にそんな…」
「あたしを誰だと思ってるの?天下の情報屋よ?あんたが真奈のこと好きなことくらい…」
枝下は言葉を最後まで言わずに、何かを抑えるように唇をかんだ。
「俺が真奈のこと好きなの知ってたのか」
「…うん」
「徹に対して嫉妬したりイラついたり、焦ったりしてたのも?」
「うん。全部。浅井のことなら何でも知ってる。全部知りたいの、あんたのことが。いい加減早く気づきなさいよ。この鈍感男!」
そう言って、枝下は俺の胸から飛び退くと、走り去っていった。
鈍感男?俺が?何に対して言ってるんだ?
『全部知りたいの、あんたのことが』
俺が真奈に抱く感情と同じだ。もしかして枝下、お前…!!
そう思って走り去っていった方角を見たが、彼女の後姿はもうどこにも見当たらなかった。