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*20*
第三話 【思惑が交差する入学式】
*真奈side*
「ちょっと、もう握手いいんじゃないかな…?」
私が恐る恐るそう言うと、2人とも同時にこちらをチラリと見てからゆっくりと手を放した。
その時の、2人の手が赤くなっていたことに気付いたことは、誰にも言わないでおこう。
「も、もうすぐ入学式だねっ!ど、どんな人がいるのかなー?楽しみだなー」
明らかに棒読みだろ、と突っ込まれそうなセリフの言い方で2人の険悪な雰囲気を取り払おうとする私。
なんて無力なんだろ…。
「そうだね。綾川さんの言う通りだよ。こんな所で君なんかと握手してる暇なんてなかったんだった」
「っち。ムカつく言い方をしやがる。まぁ、いい。お前とはもう二度と関わりたくねーしな。こんなとこで喧嘩するのもめんどい」
「どうだか?もしかすると争わなきゃいけないかもしれないよ?」
「それはその時さ」
そう言って不気味に笑いあう、凜と逢坂くん。
たったの握手でどうしてこれほどまでに犬猿の仲になってしまったのか…私にはさっぱり理解できない。
「よ、よし!そうと決まれば教室へ行こう!り、凜の教室はどこなの?」
「あ?俺?俺はB組だけど?」
「B組!」「B組?」
私の声と逢坂くんの声が重なる。
「ん?どうして逢坂くん、そんなに驚いてるの?」
「え…?いや、凜くんの名前なんてあったかなー、と」
「おい、お前。どんだけ失礼なこと言ってんのか分かってんのか?」
「ちょ、凜。何でさっきからそんな不機嫌なの?」
「…お前には関係ないことだ。ほら、行くぞ」
凜はそう言うと、私の腕を引っ張って、靴箱の方へと歩き始めた。
「逢坂くんのこと、置いてくの?」
歩き始めた凜に尋ねると、ただでさえ不機嫌なのに、さらに眉を顰めて、
「あ?あんな奴、ほっといても大丈夫だよ。すぐにお前んとこに戻って来るって」
と言って、逢坂くんの所へは戻ろうとしなかった。
私はというと、何度も逢坂くんの所へ戻ろうと試みたが、凜が私の腕を引く力の方が大きくて、とてもじゃないけれど、振り切ることが出来なかった。
そして、何やかんやで到着してしまった教室…。
座席表を確認すると、私の席は窓側の席の前から3番目だった。
ちなみに凜は私の前で、逢坂くんは凜の前だった。
ということは、入学式の順番もそういうことになるというわけだ。
「はぁ。今年の俺、ついてねーかも…」
そう言って愚痴をこぼす凜。
私はそれを苦笑いして見守りながらフォローする。
「そ、そんなことない、と思う」
「何だよ、思うって」
凛が拗ねたような口調で言う。
何かいつもの凜と違って可愛い。
いつも凜は無愛想で、言葉遣いが荒いの。
でも、本当はとても優しくていいやつ。
おまけに私のことをいつも助けてくれるから、私にとって兄のような存在。
一時、凜のことを”お兄ちゃん”と呼んだこともあった。
「まあまあ、そんなに綾川さんを責めないの。凜くん?」
「またお前か。徹くん」
「お!俺の名前を覚えてくれたんだね!」
「真剣に嬉しそうな顔をするな」
「いや、だってー、綾川さんのお友達とは仲良くしときたいしね。お友達とは!」
「友達を強調すんな!」
「え?友達じゃないの?」
「と、友達だが、そんな普通の友達じゃなくてだな…そう幼馴染だよ!友達以上の格だ!ただの友達では容易には慣れないクラスだぞ?」
「へ〜?幼馴染ね〜?ただ、一緒にいた時間が長かっただけじゃないの?」
なんか逢坂くんが怖い!
そして凜も逢坂くんのこと睨んでる!!
確かに今回は逢坂くんから喧嘩を売ったけど…。
「うっせー。時間でもなんでもいいんだよ!とにかく共有してるものが友達より幼馴染の方が多いんだ。ほら、くっだらねー話してないで、会場に行こうぜ?黒板に”自主的に行け”って書いてあるしよー?」
「そうだね。今回はお相子ってことで。それじゃあ、綾川さん一緒に行こうか?」
「真奈、お前は俺と来るだろ?」
「え?えーっと…」
私が2人の顔を交互に見ながら、困り果てていると、横から腕を引っ張られた。
「えーっと、綾川さんだっけ?綾川さんはあたしと一緒に行くの!」
「え…?」
私は驚きながら、横を向くと、ボブヘアの活発そうな美少女がニコニコしながら立っていた。