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恋桜 [Cherry Love]  ――完結――
作者: 華憐  (総ページ数: 176ページ)
関連タグ: 恋愛 三角関係 高校生 美少女 天然 
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第六話 【水辺に咲く花】

*真奈side*

「…それでは皆さん、2学期にまたお会いしましょう」

体育館に校長先生の品のある声がこだまする。
そう、今日で私達桜田高生は夏休みに入るのだ。

「礼。…それでは3年生から退場してください」

副校長先生の退場の指示が出た。
下級生は上級生よりも我慢を多くしなければならない、これはもう中学生の頃から身に染みているものだ。例え、熱中症になりそうな暑さの体育館の中でも。

「あっちー。早く先輩出てくれねーかな?」
「お前しっかり見ろよ」
「あ?…うわ、醜いな」
「だろ?先輩らだって早く出たいんだよ。でもそれは皆同じだから…出口の争奪戦になってんだよ」
「なるほどねー。まあ、そんなことするくらいならクラスごとに並んでパーッと出た方がいいと思うんだけどな」
「しょうがない。欲求は皆一緒なんだ」
「…欲求と言えばさ、お前、女子何人誘った?」
「女子?あー26日のことか?」
「そうそう」
「そうだなーざっと…」

そんな年頃の男子の会話が聞こえる。

「ねぇ、真奈」

美樹がいつの間にか後ろから移動してきて、私の隣にいた。

「わ!美樹!」
「そんなに驚かないでよ〜。ちょっと傷つくし」
「ごめん」
「いいよいいよ。あ、それでさ、どこか遊びに行こうよ!」
「どこかってどこ?」
「ほら、テーマパークとかプールとか!」

美樹が目を輝かせながら言う。

「わー!楽しそう!いいね!」
「でしょでしょ?肝試しとか最高じゃん?」
「本当!楽しそう!」

私も美樹と同じように満面の笑みで話していると、背後から気配が…。
そして、後ろの襟の部分を摘ままれ、出口まで引き摺られた。
こんなことを私にする人なんて一人しかいない。

「凜。ちょっと乱暴すぎ〜」
「お前らが退場の指示でてんのに、まだ喋ってるからだろ?」
「ん?お前ら?」

私はその言葉に引っ掛かり、左を見る。
すると、笑えるくらいに私と全く同じ状況の美樹がそこにいた。

「真奈〜。引き摺られるってこういう感覚なのね!」

少し残念そうにしたかと思えば新しい発見!とでも言うようにパンッと手を合わせた。

「美樹って喜怒哀楽激しいよね」
「そう?」

そう言ってクスクス笑った。
そして急に引き摺られなくなったと思えば、ほいっと投げられた。
あまりにも急に投げられたので、背中から落ちてしまうかと思われたが、そこはなんとか持ち堪えて立った。

「わーお!真奈って運動神経いいのね!」
「そんな意外そうに言われると結構傷つきます」
「いや、その全くできないとか思ってたわけじゃ…」
「思ってたんでしょ!」

そんなボケと突っ込みを繰り広げていると再び背後に気配が…。
私は笑いながら

「今度は何?凜?」

と言って振り返ると…学校一怖いと評判の進藤先生がいた。

「お前ら、何やってる」
「は、す、すいません!今すぐ教室に帰ります!」

こうして私達はその場から風のように去って行った。

――教室にて。

「危なかった〜」

美樹が緊張から解放されたとでも言いたげな顔で言う。

「確かにあれは怖かったね〜。凜も驚いて一目散に逃げてたけど」
「うるせー」

凜が照れ隠しのように言葉を尖らせる。

「何?凜、進藤先生に怒られたんだって?」

先に帰っていたと思われる逢坂くんが妙な笑みを浮かべて、会話に入ってきた。

「別に怒られてなんかねーよ。何やってんだ?って聞かれただけだ」
「詰まる所注意されてるんだね?」
「その妙な笑顔やめろ。気味悪い」
「えー?結構女の子に人気なのにー?」

そう言っていつもの微笑に戻る逢坂くん。
逢坂くんっていつも笑ってるイメージがあるなー。
そんなことをふと思っていると、急に美樹がバンッと机を叩いた。

「ねぇ!」
「何?」
「何だ?」
「どうしたの美樹?」

皆が一斉に美樹のほうを見たところで、彼女は口角を上げながら言った。

「せっかくだしさ、この4人でプール行こうよ!」

この一言から私の、私たちの夏休みは幕を開けた。

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