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*112*
第六話 【水辺に咲く花】
*真奈side*
「…それでは皆さん、2学期にまたお会いしましょう」
体育館に校長先生の品のある声がこだまする。
そう、今日で私達桜田高生は夏休みに入るのだ。
「礼。…それでは3年生から退場してください」
副校長先生の退場の指示が出た。
下級生は上級生よりも我慢を多くしなければならない、これはもう中学生の頃から身に染みているものだ。例え、熱中症になりそうな暑さの体育館の中でも。
「あっちー。早く先輩出てくれねーかな?」
「お前しっかり見ろよ」
「あ?…うわ、醜いな」
「だろ?先輩らだって早く出たいんだよ。でもそれは皆同じだから…出口の争奪戦になってんだよ」
「なるほどねー。まあ、そんなことするくらいならクラスごとに並んでパーッと出た方がいいと思うんだけどな」
「しょうがない。欲求は皆一緒なんだ」
「…欲求と言えばさ、お前、女子何人誘った?」
「女子?あー26日のことか?」
「そうそう」
「そうだなーざっと…」
そんな年頃の男子の会話が聞こえる。
「ねぇ、真奈」
美樹がいつの間にか後ろから移動してきて、私の隣にいた。
「わ!美樹!」
「そんなに驚かないでよ〜。ちょっと傷つくし」
「ごめん」
「いいよいいよ。あ、それでさ、どこか遊びに行こうよ!」
「どこかってどこ?」
「ほら、テーマパークとかプールとか!」
美樹が目を輝かせながら言う。
「わー!楽しそう!いいね!」
「でしょでしょ?肝試しとか最高じゃん?」
「本当!楽しそう!」
私も美樹と同じように満面の笑みで話していると、背後から気配が…。
そして、後ろの襟の部分を摘ままれ、出口まで引き摺られた。
こんなことを私にする人なんて一人しかいない。
「凜。ちょっと乱暴すぎ〜」
「お前らが退場の指示でてんのに、まだ喋ってるからだろ?」
「ん?お前ら?」
私はその言葉に引っ掛かり、左を見る。
すると、笑えるくらいに私と全く同じ状況の美樹がそこにいた。
「真奈〜。引き摺られるってこういう感覚なのね!」
少し残念そうにしたかと思えば新しい発見!とでも言うようにパンッと手を合わせた。
「美樹って喜怒哀楽激しいよね」
「そう?」
そう言ってクスクス笑った。
そして急に引き摺られなくなったと思えば、ほいっと投げられた。
あまりにも急に投げられたので、背中から落ちてしまうかと思われたが、そこはなんとか持ち堪えて立った。
「わーお!真奈って運動神経いいのね!」
「そんな意外そうに言われると結構傷つきます」
「いや、その全くできないとか思ってたわけじゃ…」
「思ってたんでしょ!」
そんなボケと突っ込みを繰り広げていると再び背後に気配が…。
私は笑いながら
「今度は何?凜?」
と言って振り返ると…学校一怖いと評判の進藤先生がいた。
「お前ら、何やってる」
「は、す、すいません!今すぐ教室に帰ります!」
こうして私達はその場から風のように去って行った。
――教室にて。
「危なかった〜」
美樹が緊張から解放されたとでも言いたげな顔で言う。
「確かにあれは怖かったね〜。凜も驚いて一目散に逃げてたけど」
「うるせー」
凜が照れ隠しのように言葉を尖らせる。
「何?凜、進藤先生に怒られたんだって?」
先に帰っていたと思われる逢坂くんが妙な笑みを浮かべて、会話に入ってきた。
「別に怒られてなんかねーよ。何やってんだ?って聞かれただけだ」
「詰まる所注意されてるんだね?」
「その妙な笑顔やめろ。気味悪い」
「えー?結構女の子に人気なのにー?」
そう言っていつもの微笑に戻る逢坂くん。
逢坂くんっていつも笑ってるイメージがあるなー。
そんなことをふと思っていると、急に美樹がバンッと机を叩いた。
「ねぇ!」
「何?」
「何だ?」
「どうしたの美樹?」
皆が一斉に美樹のほうを見たところで、彼女は口角を上げながら言った。
「せっかくだしさ、この4人でプール行こうよ!」
この一言から私の、私たちの夏休みは幕を開けた。