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*124*
第七話 【誰かを想う、その果てに】
*真奈side*
あれから一週間は経過したのだろうか。いつの間にかカレンダーは8月2日になっていた。
「あと3週間で夏休みが終わる…」
私は朝日を浴びながらそう呟くと、大きく欠伸と伸びをしてベッドから出た。
「おはよう」
「あら、真奈。おはよう」
階下へ降りると母が忙しそうに私の朝食を用意していた。
「今日もお母さん、出勤しなきゃいけないから昼ご飯は適当に作って食べといてね!それじゃあ、はい。朝食、ここに置いとくよ?」
母はエプロンを外しながら捲し立てるようにそう言うと、私が返事をする前にリビングを去り、家を発った。私の家は共働きなのだ。
「慌ただしい人だなあ」
私はのんびりとそんなことを言いながら、席に着いて、母が作ってくれた朝食を食べる。食べ終わったら、自分でシンクまで持っていき、洗わなければならない。私はその家族のルールに則って、シンクまでお皿を持って行くと、お皿が2枚、水切り籠の中に入っていた。
「お父さんに、今日も会えなかったなあ…」
私はぼんやりとそう呟きながら食器を洗い、それが終わればソファに座ってニュースを見始めた。しかし、
『連日の暑さが続く中、親子連れでプールや海へ…』
と聞いた途端に、電源を落とした。それも無意識のうちに。本人の中では既に終わってしまった話なので、気にしないでおこうと決めたつもりではあったが、様々なことに対する動揺はまだ収まっていなかったらしい。
「私どうして…」
一人、手の中にあるリモコンを見つめがら不思議に思っていると、スマホに着信が。ーー逢坂くんからだった。彼にはこの一週間一番お世話になった。
『やあ、綾川さん。おはよう。あっという間に10時だね』
「おはよう。そうだね。今日は何か御用で?」
『何その改まった聞き方!』
電話越しに笑い声が聞こえる。
『まあ、いいや。それよりさ、落ち着いた?』
「…あ、いや、その」
この一週間の間に逢坂くんから聞いた話が頭の中にちらつく。
『そっか。まだ収拾ついてないんだね。まあ、しょうがないか。今までただの幼馴染にしか見えてなかった人に急に好意を持たれてるかもしれないって言われてもね〜』
逢坂くんはまるで他人事のように振る舞う。実際他人事ではあるのだが、彼も凜の友人ということで深く関わってくる。
『あ、そーだった!俺、こんなことで電話したんじゃなかったよー』
「他に何かあったの?」
『いやーね、美樹から昨日電話が来てさ、今日…綾川さんの家に凜が行くって』
「え…」
今、一番会いたくない人だ。逢坂くんの話が本当なのであればあるほどに。まだ彼の仮説の域を出ない現時点でさえもこんなに動揺しているというのに、今本人に出会ってしまったら私は発狂しかねない。小さな私にはあまりにも大きすぎる荷だ。
『それで綾川さんには逃げないでほしいと伝えようと思ってね』
「そ、そんな無理よ!」
私はそう叫びながら、乱暴に通話終了ボタンを押した。
「あ…」
気付いた時にはツーツーツーという虚しい機械音だけが響いていた。
「切っちゃった。どうしよう」
取り敢えず、ここにはもう居られない。どこか違う所へ行こう。
そう思った時だった。なぜか目の前に桜並木の光景が浮かんだ。
そうだ…。私、昔嫌なことがあったらよくあそこに行ってたんだ。でも、確かそれは凜も知ってるはず…
「だけど…」
あそこが一番私の気持ちを落ち着かさせてくれる。そして――私たちの曖昧だった関係にけりをつけるのに一番適した場所だ。