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*14*
*凜side*
「よぉ、真奈」
俺は見慣れた人影を見つけ、声を掛けた。
すると、俺が声を掛けた人物は満面の笑みでこちらに駆け寄った。
「凜!」
俺は面倒くさそうな顔をしながらも、多分笑っていたと思う。
「相変わらず、お前ちいせーなぁ?」
俺に駆け寄った美少女に俺は憎まれ口しか叩くことしかできない。
「関係ないでしょ?というか、私156センチになったもん!1センチ伸びたもん!」
ムキになって俺に対抗しようとする姿の真奈に惚れてしまいそうになる。
いや、そもそもがもう惚れているのだが。
「中学の時とあんま変わんねーんじゃねぇか?俺は中3の時から10センチ伸びたぞ?」
「う、うるさい」
中学の話をしたら真奈に悪い、と思い慌てて話題を変えることにした。
実は真奈も小学生の時に、桜田中学を俺と一緒に受験したのだ。
だが、合格したのは俺だけで、真奈は地元の中学校に行くことになった。
勿論、俺も真奈がいないのなら地元へ行く、と言ったのだが、親はそれを許すはずもなく、真奈と俺は別々の中学校へ行くことになった。
その時に、真奈は『絶対、高校は凜と同じ高校へ行くから!』と言った。
そして今、真奈はその言葉を現実にしたのだ。
「あ、それよりさぁ、お前のこと紹介したい奴がいるんだよなぁ」
これは本当だ。
枝下美樹という、中学時代から有名な情報屋がいるんだ。
そいつに真奈の話を中学の時に話したら、ぜひ一度会いたいと煩いものだから、今度会わせてやる、と約束したんだよなぁ。
「え…」
予想通り、真奈は心配そうな顔をする。
「大丈夫だ。俺が隣にいてやっから。名前言うくらいでいいしさ」
俺は小学生の間、ずっとそうしてきたように、真奈を励ました。
「う、うん…」
だが、まだ不安は解消されていないようだ。
どうすればいいのか、と考えてみたが、何も思いつかなかった。
だから、代わりに明るい話題を振ることにした。
「そういやお前、この学校来たことねーよな?」
「えーっと、そうだね。来てないなぁ。凜が桜田中学にいるから、っていう理由だけでここを受験したからね」
「ははは」
「何が可笑しいのよ?」
「いやー、そんな理由だけでこの難関高校を受験してくる奴はお前だけだろーな、と思って」
「また貶された」
「貶してねーよ。褒めてるんだ」
「絶対褒めてない」
こうして俺と真奈が小学生まで繰り広げていた”いつもの口論”をしていると、聞いたことのない声が真奈のことを呼んでいた。
それが女子なら全く気にすることはなかったのだが、残念ながら男の俺から見ても見惚れてしまいそうなほどの整った顔立ちをした男子だった。
「おーい、綾川さーん!俺たち同じクラスだよー!!」
真奈は俺との会話を中断して、声のした方を振り向いた。
彼女の視線の先には見たことのない男子が人波を掻き分けてこちらへ向かってくる途中だった。
「あ、逢坂くんだ」
「誰だ、それ?」
知らない男子の名前が出た途端に自分でも不機嫌になるのが分かった。
だが、そんな俺の態度に全く気付かず、真奈はその逢坂という男子に手を振った。
「逢坂くん!こっちー!」
呼ばなくていいって。
そんな俺の心の声と反して逢坂という男子は笑顔でこちらへ駆け寄ってくる。
俺の存在に全く気が付いてないようだ。
「あ、綾川さん!聞こえたかもしれないけど…って、その人誰?」
真奈の隣まで来てようやく気付いたのか、真奈の隣にいる俺を見て、逢坂は怪訝な顔をした。
「えっと、あの、その二人とも何で怒ってるのかはよくわかんないけど、一応紹介しとくね!」
真奈は睨み合う俺たちを見ておろおろしながらそう言うと、紹介を始めた。
「凜。この人はね、逢坂徹くん。通学中にちょっとアクシデントがあって、そこを助けてくれた人なの。で、逢坂くん。こっちはね、幼稚園の頃からの付き合いの浅井凜。いつも人見知りの私を助けてくれるの」
真奈がそう言い終えると、俺たちはにこやかな笑顔を浮かべた。
そして、誰も何も言っていないが、お互いに進んで手を出して握り合った。
勿論、ただの握手じゃない。
自分達が今出せるだけの力を振り絞って握り合っている。
ある意味、小さな戦場だ。
「よぉ、よろしく。徹くん?」
皮肉を込めて、下の名前で呼ぶと相手もそれに応戦した。
「どうも初めまして凜くん。君とはあまり仲良く出来なさそうだけどね」
本当にこいつは心の中で思ったことを悪びれもなく口にする奴だな、と思った。