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*143*
第九話 【体育祭】
*真奈side*
逢坂くんと出掛けてから3日後の月曜日の6限目。私達は体育祭について話し合っていた。私達のクラス、1-Bは現在、クラスごとに割り当てられた係りをさらに分担する作業へと移っていた。
「それじゃあ、自分がやりたいものに目を伏せて挙手してください」
学級委員の委員長である花澤さんの声が聞こえる。皆彼女の指示通り目を伏せて、彼女の言葉を待った。
「全員目を伏せましたね?それでは表を採っていきます。横断幕係り。……はい、OKです。では次。応援団。……はい。では次。看板係り。ああ、看板係りは私達のクラスだけが頼まれた仕事です。代々受け継がれてきた伝統だそうです。……それで、やりたい人は挙手してください」
花澤さんの透き通った落ち着いた声が教室の妙な静けさの中に鳴り響く。花澤さんはボブヘアで、黒縁メガネを掛けたとても美人な女の子だ。とても真面目で、人を思いやる心のあるとても優しい人間だ。でも、言動はしっかりとしており、誰に対してでも思ったことははっきりと言う。そんな所が学年でも、学年以外でも人気を博している理由だと言えよう。ちなみに噂では、ファンクラブが実在するとかないとか。
「……集計を終えました。えーっと、人数オーバーはなかったので、挙手した皆さんは自分の役割を全うするように。学級委員会からはこれで終わります」
そう言って、花澤さんは自分の席へと戻っていく。……って、誰となったとか発表してくれないの?私がにわかに疑問を抱いていると、担任の山本恵利先生、通称えーちゃんが教卓の前に立って説明しだした。
「えー、皆さん。次の7限目も体育祭について行います。挙手をした皆さんは係りごとに花澤さんに集めてもらいますので、自己紹介をして何が必要か、どうしていくか等の今後について相談してください。それ以外の人たちは、競技種目の準備等に関わってくると心構えしておいてください。もちろん、委員会に属している人はそちらの方でコキ使われ……こほん。そちらの方で働くと思いますが、委員会にも属していない、教科係の皆さんは先生方の手伝いをしていただいていきます。体育祭までに手持無沙汰だったってことはないように。それでは少し早いですが6限目はこれで終了します。休憩していいですよ?」
その言葉と共に一気にくつろぎ始める生徒たち。珍しくえーちゃんが真面目に話すので、皆それなりに妙な緊張感を覚えていたようだ。
「とうとう体育祭だな」
凜が振り向き様に言う。私もそれに笑顔で応える。
「うん、そうだねー。体育祭は9月でしょ?それ終わったら12月の文化祭に向けてまた大忙しだよね」
「そうだな。3年生は少し可哀想だよな」
「ん?どうして?」
「だって12月は受験直前だからって、売店とか出させてもらえないんだぜ?」
「え!?そうなの!?」
「そうそう。まあ、3日間を自由に回るのは許されてるみたいだけど」
「そっか。それならまだいいね。準備も特にせず、楽しい文化祭を過ごせちゃうわけだ」
「ポジティブに考えるとな」
凜とそんな話をしていると、何やら慌てた様子の美樹が私の元へと飛んできた。
「真奈!ちょっと来て!」
「え。何!?」
私はいきなり腕を掴まれて、教室の外へと引っ張り出された。
「ふ〜。ここなら大丈夫そうね」
美樹が辺りを見渡しながら小さくため息を吐いた。それから私の目をまっすぐに見ると、驚きの言葉を発した。
「真奈って看板に挙手した?」
「う、うん。面白そうだなあと思って。え!?何か悪いことした!?」
私は何したっけなあ?と考えを巡らせていると、美樹は例の如く笑いながらそれを否定した。
「そんなんじゃないわよ。GOODニュースよ」
「GOODニュース?」
「そうそう。なんとね、看板を一緒にやるのは……真奈と逢坂くんだそうでーす」
「……へ?」
「そんなキョトンとした顔しないの。女のあたしまで好きになっちゃいそうよ」
「え、あ、ごめんなさい」
「いいのいいの謝らなくて。まあ、そういうわけだから、頑張りなさいよ〜」
そう言って、美樹は手をひらひらと振りながら教室の中へと入って行った。私は未だに美樹に告げられた事実が信じられなくてその場に立ち尽くしていた。