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*151*
授業が終わり、再び看板の塗装へと移行していた私と逢坂くん。他愛もない会話をつづけながら何気なく夕暮れ色に染まる校門を見ていると、人影が……。
「ねえ、逢坂くん」
「ん?どうしたの?」
逢坂くんは顔をこちらに向ける。私はそんな彼の顔にドキドキしながらも言葉を紡ぐ。
「校門前に人がいるんだけど……」
「こんな時間に訪問者?もう5時半なのにね」
そう言って逢坂くんも振り返って窓の外を見た。すると、どんどん表情が強張っていくのがわかった。
「どう、したの?」
「……」
「逢坂くん?」
「……え!?何か言った?」
逢坂くんはまるでその人影に吸い込まれるように視線が釘付けになっていて、私の声にも応答できないほどに夢中になっていた。
「いや、その、どうしたのかなーって」
私が苦笑しながら言うと、逢坂くんは私を安心させるようにふわっと笑った。
「大丈夫。俺の知り合いみたいだから、ちょっと話してくるよ。その間、作業、綾川さん1人になっちゃうけど……大丈夫かな?」
「う、うん!大丈夫だよ」
「そっか。ありがとう!すぐに戻ってくるから!」
逢坂くんは去り際に手を振りながら、走って校門前まで向かった。私は校門前で何やら話している2人の人影を窓から見ていた。逆光の所為で、真っ暗で何も見えない。でも、初めて見たという感じはしない。どこかで一度あったような……。もしかして亮さん?だって私、逢坂くんの知り合いなんて、お兄さんの亮さんしか会ったことないもの。……でも、もしかしたら人違いかもしれないし。うん、そうだよ。きっと人違いだ。ここで私がしゃしゃり出ても何も変わらないよ。そう言って一人でうなづいていると、いつの間にか廊下を駆ける音が。そして1-Bの教室の前でその音が消えると、一気に扉が開け放たれた。廊下を駆ける音で誰かが近づいてきているのはわかっていたけれど、いきなり扉を開け放たれると、こちらだって驚きくらいはするものだ。しかし、私が驚いたのは扉の所為だけじゃなかった。
「真奈ちゃん!」
「え……?」
私は予想外の人に混乱した。今の足音は逢坂くんのはずじゃ……?いや、亮さんだって逢坂くんか。じゃなくて!どうして徹くんはいないの!?私は必死に考えを巡らせるが、どうも解決の糸口は見つかりそうにない。
「あの、どうしてここに……?」
「うーんと、話すと長くなっちゃうから簡潔に。真奈ちゃんに会いに来たんだけど、徹に邪魔されて、走ってここまで全力疾走してきたって感じかな」
なんて非常識な……。私はそう冷たい目で亮さんを見たが、彼は何食わぬ顔でそこに立っていた。
「では、逢さ……じゃなくて、徹くんは?」
「彼は今、告白されてるよ」
「こ、告白!?」
「そうそう。僕を追ってくる途中に女の子に掴まったみたいでねー。あの子の表情の強張りようったら、告白しかないんじゃないかな?」
さも可笑しそうに薄い笑みを浮かべて先ほどのことを思い浮かべている亮さん。もしかして、性格悪い……?そんなことを思い始めていたとき、廊下から再び足音が。
「わお。案外早く断って来ちゃったのね。女の子が可哀想だなあ」
そんなことを言いつつも顔は笑っている亮さん。素直に恐怖を覚えた。
「それじゃあ、僕はここに長居できないみたいだから、メーアドと携帯番号、置いておくね?連絡宜しく!」
そう言って、私に小さな紙切れを1つ渡した亮さんは風の如く、物凄い速さで私の目の前から姿を消した。私はただこの状況に呆然としてると、遅れてやってきた徹くんが開け放たれた扉から慌てた様子で入ってきた。
「綾川さん!兄さんに何もされてない!?」
そう言いながら私に駆け寄り、なんと……抱き締めた。力強く。私の存在を確かめるかのように。
「あ、逢坂くん……?」
私は驚きのあまり、現状を把握するのにたっぷり時間を要したが、状況をだんだんと理解していくうちにだんだんと頬が紅潮していくのがわかった。
「ごめん」
そう言って、逢坂くんはゆっくりと私を抱きしめる力を緩めた。そして、あまりにも心配そうに私のことを見詰めるので、私は笑って見せた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、逢坂くん。私、何もされてないよ?ちょっと話しただけ」
私はそう言いながら、背後にある右手の中のものをぎゅっと強く握りしめた。この嘘は優しい嘘だよね……?間違って、ないよね?私は自問自答を繰り返して、結局隠し通すことを決めた。
「本当に?俺は綾川さんを信じてもいい?」
「……うん」
私は少し躊躇いながらもそう返した。しかし、よほど心配なのか、また私を抱きしめながら彼は言う。
「もし、メールとか電話とか来ても1通もとっちゃダメだし、真に受けちゃダメだよ?」
「ふふふ、わかった」
私がようやく笑顔をこぼしながら頷いたことに安心したのか、「よかった」と言って、私の元から離れて行った。……その後しばらく作業を続けて、昨日より少し早く帰宅した。勿論、逢坂くんと一緒に。そして、家に到着した私は、逢坂くんい抱きしめられた時の感覚を思い出しながら1人で悶えていた。母に気味が悪いと言われるほどに。
「ほんとう、変な真奈。逢坂くんにでも抱き締められたの?」
「ど、どうしてそれを……!?」
「図星なのね。ふふふ、私の学生時代にそっくりね」
「母さんと同じ……?」
「そうそう。まあ、これから先真奈がどういう恋愛道を通るのかはわからないけれど、母さんの選んだ道は茨の道だったわ。すっごく辛かったわねー」
「そんな恋をしてたの?」
「そう。本当につらかった。まあ、ここで話す気はないけどね」
母は語尾にハートマークをつけそうな勢いで話し、しまいにはウィンクまでつけてくる始末だった。
「はいはい」
「まあ、私の恋愛道を知ってしまったら、真奈が自分の通りたい道を塞いでしまうかもしれないからね。何もかもが片付いたら話してあげる」
「分かった。……それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
私はそう告げると、自室がある2階へと階段を上って行った。