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*72*
「おっと!綾川と枝下遅刻って記しつけるところだったぞ」
「すみません」「ごめんなさい」
「まぁ、間に合ったから、咎めはしないけどな。よし、座れ」
30代前半のまだ若い担任が、笑いながら言う。
ルックスは普通なのだが、笑顔が爽やか、ということで既に女子からの支持を多く獲得している先生でもある。
「はーい、分かりました」
美樹は緩く返事して、自分の席へと戻って行った。
私もそれに倣うが、心の中では
先生は目上の存在なのに、どうしてあんな言葉遣いをしたのか分からない。
と一人で悶々と考え続けていた。
「…というわけで、今日はこれでLHRは終了だ。4時30分からの委員会に遅れないように。それじゃあ、日直さんよろしく」
「起立。礼!」
「さようなら」「さようなら」
生徒と先生の声が重なる。
「帰る奴は寄り道せずに帰れよー?部活ある奴は頑張れ」
そう言って、先生は教室を去っていく。
私と美樹はそんな先生を笑顔で見送った。
「やっぱ、日野先生爽やかだー!」
美樹が幸せそうに言う。
「あはは、そうだね。爽やかだね」
私もそれに笑いながら答える。
すると、私達の会話を聞いていたのか、凜が途中参加してきた。
「あいつのどこが爽やかなんだ?」
「ちょっと、浅井!何それー?もしかして日野先生に嫉妬しちゃってますか?」
「んなわけねーだろ!」
そう言って、罰が悪そうに目を逸らす凜。
それを見て、美樹は可笑しそうにしながらも「ごめんごめん」と謝った。
そんなところへ、さらに状況をややこしくする者が現れた。
そう、その人とは――
「やぁ、凜。今日も不機嫌だね。ライバルが多いってことに今さら気が付いたのかな?」
逢坂くんだ。
「徹!てめぇ、いつも思うけど、俺のことを馬鹿にしてるだろ!?」
「んー、そんなことは、ないと思うけどね」
「どうして言葉に詰まるんだよ!その時点で怪しいだろ!」
「俺のどこが怪しいの?あ、そうだ!クラスの女子に聞いて回ろうじゃないか」
そう言って、まだ教室に残っている女子に片っ端から「俺って怪しい?」と尋ねて回る逢坂くん。
勿論返事は「NO」。
というか、それ以前にクラスの女子は、逢坂くんに話しかけられた、ということで「期待」と「幸せ」を兼ね合わせた蕩ける様な表情をしている。
本当、逢坂くんってばモテるんだから。
そんなクラスの女子の表情を見ながら嫉妬する私。
私も話しかけて欲しかったのだろうか?
心に問いかけてみる。
しかし、返事は返ってこない。
嫌な感じ。何だかもやもやする…。
そんなことを思っていると、逢坂くんがいつの間にか目の前に…。
「どう思う?綾川さん」
「へ?何が?」
「俺のコト」
「え…?」
何それ?告白ですか?
まさか!
こんな所で告白するわけがないじゃない!
それじゃあ、何?
あ!そういえば、さっき皆にも「俺って怪しい?」って聞いて回ってたからそれを短縮して「どう思う?」になったんだ!
「How about you?」の意味だったのよ!
もう、何勘違いしてるの、私!
一人で勘違いして、悩んで恥ずかしくなった私。
そんな私の様子に気づかれないように
「別に怪しくは…ないと思うけどなぁ」
と答えると、逢坂くんは嬉しそうに
「本当!?ありがとう!これで凜を説得できる!」
と言って、凜の席へと戻って行った。
「ねぇ、凜!綾川さんが、あの綾川さんが俺のことは怪しくない、って言ったんだよ?だから俺は怪しくないよね?」
「あの、お前さ…本当に学年主席か?怪しいの意味を取り違えるなんて…。どう考えたって俺が言った”怪しい”の意味は”逢坂が俺のことを馬鹿にしているようにしか思えない”っていう意味だったろ?それがどうして、外見の話になるんだよ。お前、やっぱズレてるな」
「ははは」
「何が可笑しい?」
「そんなこと知ってたよ」
「何だと?」
「俺はただね……たかっただけだよ」
肝心な部分を凜に耳打ちされたため、聞こえなかった。
一体何がしたかったんだろう?逢坂くんは。
「…お前!俺のコト、利用しやがったな!」
「ごめんって。だけど、俺の腹の中、案外黒いからねー。気を付けて」
そう言ってから「じゃあ、委員会行ってくるー」と言って去っていった逢坂くん。
そんな彼を悔しそうに凜は見つめていた。