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*43*
「よかったぁ――――っ!無くしたかと思ったわ!」
「まさかそれがかぐやの物だなんて思わなかったよ。言ってくれればよかったのに」
「花江が持っているだなんて思わなかったのよ!」
安心し、目尻に涙を浮かべるかぐやを花江は微笑ましそうに見つめた。
この2人がこんなに話しているのは花江の家が花屋で、そこにちょくちょく花を買いにかぐやが来るうちに仲良くなって行ったのだ。
先程かぐや達の事情も話し、無事に彼女の首飾りも返還してもらった。
雁渡は物珍しそうにかぐやの首飾りを見つめる。
そんな彼女に郡司は目を向けた。
「どうしたの雁渡さん」
「いやね……昨日君と梶原長官殿が話しているのを聞いてしまって」
「盗み聞きね……」
ボソッと言葉を返す西園寺に雁渡は「こら」と言いながら彼女の首に腕を回した。
「花江、零奈。君たちは先に帰って報告書を書いていてくれ。私も後に戻る」
「はい、わかりました!」
「了解」
「じゃあね、花江」
「うん。バイバイ」
2人はそういうと小走りでこの場から去って行った。
彼女らの背中が見えなくなると、雁渡は「さて」と言いながらかぐやと郡司の顔を見た。
「―――盗み聞き、と言えばそれまでだが。私も少し興味を持ってしまったんだ」
「わたしの首飾りに?」
「そうだとも」
雁渡は「基地まで歩こう」と2人に促す。
かぐやと郡司は特に用事がなかったため、彼女に着いていく。
「私もあまり聞けなかったんだが――飛来君が帰った後も梶原さんは研究員とその首飾りの研究を進めていてね……。梶原さんたちはそれを“王の鍵”と呼んでいた」
「王の鍵……!?」
新しい単語にかぐやは目を丸くする。
郡司は何も言わずに彼女の話を聞いていた。
「まあ、梶原さんは気配に敏感だからね。私の気配が47秒でばれてしまってね。そこまでしか話を聞けなかったよ。……やはり見送りはここまででいい。時間を取らせてしまったね」
2人をじっと見ると、そのまま歩き去る雁渡。
かぐやはボーっと彼女の背中が見えなくなるまで見送っていたがペシン、と郡司に頭を叩かれた。
「何ボーっとしてるんだ?」
「……今、梶原さんに話を聞いたらわかるかな」
「止めとけ。昨日の今日でそこまで研究の成果は出ない。出るのは憶測の話ばっかだ」
「そうよね」
ハァと、期待外れと言いたいような表情を浮かべるかぐや。
そんな彼女に郡司も苦笑した。
「まあ、今週の土曜日にでも本基地の資料室に行くわ。そしたら何かわかるかもだし」
「……かぐや、“幻”やめるのか?」
「止めるも何も、わたしは幻なんかになったつもりはないわ。これからはコソコソ本基地に行けると思うと清々する」
そう言い放ち、かぐやは自宅へ向かう。
その顔は清々しいものだった。
郡司はそんな彼女を見ると、眩しいものを見ているかのように目を細めた。
(………そろそろ、何か来る)