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*99*
――――バキィ!!
いつもの自然な感じでかぐやは目覚めたのではなく、何かが殴られたような音で目を覚めた。
場所はいつものバスター本基地の医務室。
ただ、いつもじゃないことは秀也が郡司を殴っていたところだった。
「ちょ、三城君!飛来さん病み上がりだよ!?」
「うるさい。此奴がちゃんとかぐやを守っていればこんなことには……!」
「……ごめんな、秀也」
慌てて包帯を取り換えようとしていた花江が2発目パンチを出しそうになっていた秀也を止める。
不機嫌さを隠すことなく秀也は射抜くような視線を郡司に送る。
郡司は抵抗することなくしょんぼりした様子で小さな声で謝った。
目覚めてからしばらくしないため、ボーっとしていたかぐやだったがその状況に気が付くとすぐに大きく目を開けた。
「秀也!?何で郡司を殴ってるの!?ていうかあのあとわたし氷漬けになってどうなったの……!」
「かぐやの氷漬けのことはわからないけど、謎の氷の壁を突破した私たち雁渡隊が発見していた時にはもう2人とも凍傷ギリギリの状態で倒れていたんだ」
花江はかぐやの毛布の上にさらに毛布を乗せる。
秀也は不満げにどっかりとパイプ椅子に座る。
そしてかぐやは悲しそうに目を伏せた。
「……わたしと郡司が生きてるってことは、くじらはあっちに行っちゃったのね」
「……ああ」
かぐやの問いに郡司は悔しそうに毛布を固く握った。
2人の心情を悟った花江はストーブをつけた。
「2人とも、悔しいのはわかるけど今も軽い凍傷なんだからちゃんと体を温めないとね」
「……上層部は今荒れている」
秀也の真っ直ぐ突き抜けるような言葉にかぐやと郡司は目を見開いた。
だが思えば当たり前だ。
トップエデンが神光国家にさらわれているのだ。
ただで済むはずがない。
「ちょっと三城君、この話はまだ……」
「いずれ伝わる話だ。今しても問題がない」
「……俺が行く」
いつもの飄々とした雰囲気が抜けた郡司がバッと顔を上げる。
3人はそんな様子の郡司を驚いた様子で見つめた。
「俺が1人で神光国家に行ってくじら……トップエデンを助ける。そんで、古文書……も全部終わらせる」
「1人で!?アンタバカじゃないの!?そんなこと1人でできるわけないじゃないの!」
「やるしかないだろ。勇魚さんに行っても無視されるだけだ。だったら今晩にでも速く行ってくじらを助ける」
「1人でっていうのがダメに決まってるでしょ!そんなの、5歳児にだってわかるわ!」
「じゃあほかに何があるってんだよ。お前に何がわかる。8年間、いなかったくせに。俺がどんなにくじらのことを……っ」
ギラリと猛獣のような目で郡司はかぐやを見る。
思わず背筋を凍った。
彼がそんな眼差しをしてくることはなかったからだ。
ハッとした郡司は冷えで痛む体を無理やり起こし、歩き出した。
「おい郡司。今の言葉訂正しろ。いくらお前がトップエデンを想っていたとしてもさっきの言葉は許さない」
「……頭、冷やしてくる」
秀也の顔を見ずに、郡司は点滴を引っ張りながら医務室から出て行ってしまった。
ハアッと花江は困ったようにため息をついた。
(……もしかしたら、郡司はわたしが死んでもくじらだけは行ってほしくなかったの……?だからあの時わたしが凍っていてもくじらにいくなって……)
かぐやはそう思いかけて軽く頭を振った。
違う。
くじらも郡司も自分さえよければそれでいいと考える人間ではない。
だがどうしても思ってしまう。
自分は捨てられかけたのか、そして……。
心の中で何かが割れたような感じがした。
「何なのよもう……っ。古文書も、郡司も……!」
「かぐや……」
悲しそうに体育座りをするかぐやに花江は優しく毛布をかぶせた。
すると、ガラッと扉が開いた。
そこには梶原と雁渡がいた。
「すまないな。失礼する」
きびきびした感じで梶原は医務室に入る。
秀也は椅子を2人に促す。
2人は「ありがとう」と礼を言いながら座った。
「―――ようやく、わかったんだ。君の宿命と古文書が」
雁渡しはスッと懐から古ぼけた本を取り出した。