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*22*
わーいわーい、運動会練習だやったー。…とはしゃげないタイプの作者です。
いいのよ、足が遅くても。人間だもの。
**************
〈寧々side〉
寧々「………………ど、どうしよう……!?」
光「…………せ、先輩……どうしましょう……」
私たちが今いるのは闇だけが支配する、広い階段の踊り場。
目の前にまっすぐ、段の幅が狭い階段がずっと上まで続いている。
普通、階段で下の階へ行くには、階段をただ降りればいい話なんだけど。
私は一時間もこの踊り場から動けない。
これにはちゃんと、理由があって、その理由のせいで右往左往しているのよね。
寧々「よし、もう一回……!」
私は気合を入れなおすと、階段の一段目に足を踏み出した。
そのまま、目をつぶっていっきに二段目、三段目と上へあがっていく。
さぁ、今度はちゃんと上へ…………。
行けなかった。
どういうわけか、上へ上へ登っていたのに、私の足は再び踊り場をしっかり踏みしめていた。
これが「無限階段」。
階段の中のに閉じ込められて、永遠に階段を登ることが出来ない怪異現象。
なぜ、こんなことになってしまったのか、時間を巻き戻してもう一回考えてみよう。
私は記憶をさかのぼらせて、回想を始めた。
−−−−−−−−−−−−−−−−
花子くんに「午後は大正時代!」と叫んで、私は七峰先輩のいる放送室へ向かおうとした。
放送室へ行くには、一階の階段を駆け上がって、理科室前のA階段を登らなければいけない。
西側にあるA階段の反対側にあるのが、かもめ学園七不思議2番で有名のB階段。
あのときは、巨大なハサミに追いかけられたり、光くんが人形になったり。
そのあとに………は、恥ずかしいので話はまた今度…。
えーっとそれで、私は鼻歌まじりにA階段を登ってたのよね。
寧々「♪しっあわっせはー! あるいてこーない だーからあっるいっていっくんだねー!」
※参照「365日のマーチ」
最後の1段を登ろうとしたとき、不意に上の方からカンカンと靴音が聞こえて来たの。
先生……ではない。
だって先生は、いつもスリッパや上履きを履いているもの。
生徒にしても、学校指定の上履きを履くし。
靴ってことは土足? 先生たちに見つかるのも構わない人がいるのね、なんて思って。
—ー私は「そのヒト」と、ばったり視線を合わせてしまった。
そのコは、私と同じかちょっと下。中学3年生くらいの身長の子だった。
一言で言い表すなら、古風。
今時どこを見ても、こんな格好をした人はきっといないだろう。
白いシャツに、真っ赤な肩ひも付きのスカート。
髪型はおかっぱで、手も足も異様に白い。
そう、典型的な「トイレの花子さん」そっくりの外見を、その女の子はしていたのだ。
私は思わず一歩後ずさりをする。
寧々「(え、っと……これってどういう……)」
女の子「ねぇ」
女の子は、私と反対にサラッと距離を詰めてきて、話しかけて来た。
くりくりした瞳が特徴の、可愛い女の子だった。
でも、彼女と対面した私は、ゾッと背中に悪寒が走った。
寧々「え、えっと、何か、用、ですか?」
女の子「ねえ、私のお願いを、聞いて欲しいの。いい?」
寧々「お、お願い……って」
私の返事を肯定だと思ったのか、女の子が満足そうに喉を鳴らす。
女の子は右手の人差し指を口元に当てて、にやりと—そう、にやりと笑った。
女の子「あなたに、今から死んでもらいたいの」
————え?
何を言われたのか、分からなかった。
この子は何を言っているのだろうか。
私が目を見開くと、その態度が気に入らなかったのか、女の子の双眸が猫のように細くなる。
女の子「私の頼みごとを聞けないの?」
寧々「…………きっ、聞けるわけないじゃないッ」
やっとのことで、私はそう言った。
恐怖で目じりに涙がたまり、足がすくむ。
(お願い、誰か助けに来て。お願いっ!)
女の子「お話を聞く気がない人には、刑を受けてもらわなきゃいけないね」
寧々「…………え!?」
女の子は、またにやりと笑った。
瞬間、両足の下の地面がくずれた。悲鳴も何も出ない。
助けて!と、誰かがその手を掴んでくれることを期待して右手を宙へ浮かせたけれど。
私の体は、深淵の闇にのまれて消えて行った。
−−−−−−−−−−−−−−−−
寧々「…………ん? な、なんで光くんまでここにいるのっ?」
光「え、今ですか!?」
今更の質問に、光くんが鋭く突っ込む。
なにはともあれ、一人きりじゃなくてよかった。
何も見えない暗闇で、知っている人と一緒にいられることが何よりも嬉しかった。
光「俺は、先輩が誘って下さった後、いつも通りトイレに行こうとして、それで—」
寧々「まさか、A階段を登ったの?」
光「はい、先輩も? んで、赤いスカートの女の子が、『あなたに死んでほしい』って言って」
なんなんだろう、あの女の子。
対面しただけであの威圧感、きっとただの、学園に迷い込んできた幽霊とかではないわよね。
そう言えば前に葵がこんなことを言ってた。
葵『そうそう、こんな噂知ってる? 最近流行ってる噂でね』
理科室前のA怪談に現れる花子さんの命令には、絶対に逆らったらいけません。
もし、逆らってしまえば、階段の中に永遠に閉じ込められてしまう。
そう言う噂だった気がする。
じゃあ、あの女の子の正体は………。
寧々「あれ、でも『階段』に現れる『花子さん』って話なら、色々と被りすぎじゃないかしら」
光「先輩も、そう思いました? 実は俺も、ちょっと気になってたんすよね」
私も詳しくは知らないけれど、確か何年か前、青森県の恐山で会議が開かれたんだっけ。
そこで、「学校の怪談9つの決まり」なるものが作られて。
確かその中で、「学校に同じ系統の怪談があってはならない」って決められたんじゃ……。
そ、そんなことより、とにかく今はここから脱出する方法を考えなきゃ!
約束の時間も迫ってるし、こんなところで足止めされるわけにはいかないわ。
でも、階段を登ったら踊り場に戻されちゃうし、光くんの錫杖は攻撃力がないし……。
これ、私たち、脱出できないんじゃ!?
寧々「助けて、花子くん!!」
光「花子ぉ——————!! ここから出してくれ—————!!」
花子くんは、困った時、いつも私を助けに来てくれる。
だから今日も、きっと、来てくれると信じてる。
だって花子くんは、私の友達なんだから。