コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 春風〜千の想い〜【オリキャラ・コメント募集中!】
- 日時: 2015/03/02 21:54
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
1:興味
立花高校。ごく普通のレベルの、ごく普通の公立校だ。いや、そこそこ頭はいいかもしれないか。その2年3組に、橘千風は所属している。彼女は学年では有名なギャルで、頭もいい上、美人なのでもの凄いモテる。
「ちーかーぜー! 宿題写させてっ」
「由莉ったらまたなの〜?」
羽柴由莉。千風の親友であり、彼女もギャル。そして校則破りの常習犯である。指定セーターは着ないし、禁止されている校内でのレッグウォーマーの着用など、わりと酷い。頭も悪く、たまによくわからない発言をする。先生たちも既に諦めているほどだ。
「ねぇー、千風ってさあ、彼氏いないじゃんかぁ」
「うん」
「じゃあさあ、気になる人とかいな」
「いないわね」
即答に、由莉は開いた口が塞がらない。
「えっ、えっ、じゃあじゃあ、あれとかどうなのあれ!」
「あれって?」
「ほら、あのイケメン生徒会長! 私はそーは思わないけどね」
自分で言ったんじゃんか、と思いつつ、その生徒会長をちらっと見る。彼の名は忽那千春。学年ではとても有名なイケメン生徒会長…らしいが、千風はあまりそう思ったことがない。女みたいな名前して、そのくせ目つき悪くて、眼鏡で隠してるつもりらしいが逆にそれが際立っていて、むしろ何よあのブッサイクなツラ、と思っていた。
「興味ないわ」
「つれないなぁ。もっと青春すればいいのに」
「私だって彼氏ぐらい欲しいわよ? でもあれは違う、絶対ない」
「ほぉー辛辣〜」
由莉はなんだ、ああいうのがいいのか。千風にはあまりよくわからなかった。というよりは、
———興味がなかった。
始めまして! Va*Chuと申します。この小説は、学園モノで、ちょっとラブで、ちょっとギャグです。少し暗い場面もありますが、基本楽しいものになっております! よろしくお願いいたします。
また、随時更新していきますので、コメント、アドバイスなど頂けるととてもうれしいです! ぜひお願いいたします!
人物紹介書きました(遅ぇ) >>35
ギャグ↓
36:メール >>21
37:誕生日 >>22
40:体重 >>25
49:ひっく >>36
50:誕生日2 >>37
51:電車 >>38
52:萌え >>39
上記以外は比較的真面目なキャラたちの恋を描いています♪
文化祭編始めました! >>40 >>41 >>46 >>48
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.5 )
- 日時: 2015/01/25 20:49
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
7:誘い
「昼飯? 別にいいけど」
「忽那がいいって言うなんて、雪でも降るんじゃね」
「うっせーな、翔はどうなんだよ」
「いいよ全然。楓の誘いだぜ、断れるワケねーじゃん」
「意味わかんねぇ」
千春と翔は、楓からお昼を一緒に食べないか、という誘いを受け、それに答えていた。楓は二人からのOKを聞いて、笑顔でありがとうと言っている。が、突然あっと声を上げてこう言った。
「女の子が二人いるんだけど、それでもいい?」
「いいぜー。ちなみに誰?」
「橘さんと羽柴さん」
「へー、なるほどな、忽那は? 橘さんに初対面だぜ」
「えー…」
「一緒に来なかったらボッチだぜ」
「うー…」
「よし、OKだって」
「おおおうい!!」
「本当!? ありがとう! やっぱ女の子のなかに一人は辛いから助かるよ〜」
二人は完全に千春を置いていっている。なんか勝手に了承されてしまったらしい。これは困った。千風との関係を隠す必要がなくなってしまう、気まずいぞこれは…
「じゃあ昼に屋上な!」
「うん」
「はいはい」
本当にどうしよう。そのことで千春の頭はいっぱいだった。
8:昼飯
千風は頬杖をついて教科書をめくりながら今日のお昼のことを考えていた。まさか楓が一人で来るとも思えない。誰を連れてくるのかしら…
(楓って誰と仲が良いんだっけ…)
そういえば、楓は病弱なせいかそもそも学校にちゃんと来ることが少ないので、誰と仲が良いとかいうのはあまり聞かない。
(ああ、でも私と由莉以外には翔が名前で呼んでるわね…)
となると、翔は仲が良いのか。そうなると…
(げぇっ、あいつも来るかもしんないってこと!?)
千春。翔と仲が良いあいつだ、きっと誘われてるだろう。ああ、でも、
(私が一緒って聞いてるだろうし、断ってるわよねー)
まあこれはもう願望でしかないが。ド天然な楓のことだ、言い忘れていてもおかしくはない。お願い、断っていて! そう願う他なかった。
「やっほー橘さん! 一緒に食べるのって久しぶりじゃんね!」
「ごめんね。なんか大勢になっちゃった」
「大勢でいーじゃん! ねー千風! …千風?」
千風は固まっていた。まさか、そんな、マジかよ、とそんな言葉が頭の中を駆け巡っていた。そう——目の前にはいてほしくないとあれほど願った千春がいたのだ。
「どーしたどーした…あ、初対面だっけか」
「えっ、そうなの?」
「そういやそうだね、千風〜」
何も知らない三人は、口々に言う。固まる千風と千春。先に口を開いたのは千春だった。
「もうさ、やめようぜ」
「えっ、な、何を?」
「その態度を」
何も知らない三人はちんぷんかんぷんだ。千春は続ける。
「だんだん目的もわからなくなってきたろ? こうなるときがいずれ来るってわかってたんだから」
「え、まあ、うん…」
「隠したいって言ったのはお前。俺はもうキツイぜ。やめよう」
「嘘、マジで!?」
「おう。俺たち実はさ——」
千春が千風の背中をドンと押した。そして堂々とこう言った。
「幼馴染なんだ」
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.6 )
- 日時: 2015/01/25 20:54
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
9:本性
しばらくの沈黙。やがて、翔が急に、
「はははは! マジかよ! なんで隠してたんだよ!」
「そ、そうだよ! 幼馴染なんて、びっくりしたじゃん」
「し、知らなかった…」
「知るワケないじゃん、初めて言ったのよ。つーか、こいつが勝手に…」
言って、千風が千春の頭をべしっと叩いた。千春がいてっと声を上げ、なんだよ、と毒づいた。
「なんで隠してたんだよー」
「なんでって、千風がさあ」
「だああああ!! 千春、それ以上言ったら背骨とるわよ!」
「ほら、こういう暴力的なところがあるからな、それを隠したかったらしいぜー」
「いやあああもおおお!! やめてよおおお!!」
悶絶している千風を見る千春はしてやったりの顔。すると、千風があっと何かに気づき、少しにやっと顔を上げた。
「ああでもねえ、その生徒会長さん、私にいじめられてたのよー」
「おい、ちょっと」
「そんなガチなのじゃなかったんだけどねえ、ピーピー泣いてさー」
「やめろって、千風、はずい」
「マジでぇ〜!? 忽那がぁ〜!?」
「翔!!」
「会長が、ピーピー…ぐふっ」
「羽柴までぇ…」
ニヤニヤと語る千風と楽しむ翔と由莉、悶絶する千春。それを黙って見ていた楓が、ふふっと笑いをたてた。
「どうした森野ぉ、お前もか」
「違うよ。楽しいなあって」
「そうじゃんか」
「違うってー。二人がそんな感じなの初めて見たからさ。いっつもクールで近寄りがたかったの」
「それがなくなった、と」
「うん。いいんじゃない? これからこんな感じで」
「いいのか…」
うなだれる千風と千春。楽しそうな翔、由莉、楓。
———物語は、これから始まる。
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.7 )
- 日時: 2015/01/25 21:03
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
10:ドンマイ
千春と千風。二人の関係がバレて数か月が経った。いつの間にか千春、千風、由莉、翔、楓は一つのグループになっていて、生徒会室にたむろするようになった。
「千春ぅー暖房つけなさいよー」
「自分でつけろよ、遠いんだっつの」
「そんなだから運動できないのよ」
「関係ねーだろ!」
言いながら結局逆らえない千春は、暖房のスイッチをつける。千風は携帯をいじりながら千春に話しかける。
「由莉はお昼買いに行ってるんだけどさー、翔と楓はどしたの」
「翔も森野も保健室なう」
「また楓の具合が悪いの?」
「逆。翔が腹壊した。森野はその付き添い」
「おおマジで」
「まだ寒いのに昨日アイス食って腹出して寝たんだと」
「うわードンマイだわ」
会話が途切れる。学校で幼馴染として会話することに未だ慣れないのだ。気まずい。お互い何を話していいのかわからなかった。意味もなく緊張してくる。こんなこと、今まであったか——
「よっしゃあ! するめパンゲットォォ!!」
「うわあびっくりしたあ!! 由莉か、どうしたのよ!」
「みてみてするめパンよ! すごくね!」
「何よそのハズレ感の否めないパンは…。男子二人、見なかった?」
「保健室で怒られてたよ、翔が」
「楓は?」
「翔の横で愛想笑い」
「楓の愛想笑いとか辛っ」
千春はそんな女子の横で黙々とコンビニ弁当を食べている。しかし、彼はそのとき口を挟んだ。
「森野も愛想笑いはよくするぞ」
「そうなの?」
「翔がスベったときとかあははは…って」
「へえ、辛いね…。でもそれはまだ可愛らしいでしょ」
「まだあるぞ。あん時は笑顔だったけどな、つい一昨日なんて、目が笑ってなかった」
「おおう、辛いわ。保健室はそんな感じだったよ」
そのとき、生徒会室の扉が開いた。翔と楓が戻ってきたのだ。
「翔、腹」
「忽那、単語並べるだけはやめろよ。うん、もう大丈夫」
「翔、ドンマイ」
「えっ、何が」
「翔…貴方にはまだまだ魅力的なところがあるはずよ、諦めないで。まだ大丈夫」
「だから何が!?」
「浅川くん、フラれたの? ドンマイだね」
「誰に!?」
結局意味のわからないまま一日を過ごすことになった翔だった。あっ、楓もわかってなかったね。
11:クラス替え
「おはよーおはよー千風おはよー!!」
「おはよう由莉。テンション高いわね、クラス替えだから?」
「うん! みんな同じクラスだといいね〜」
「そうねー」
4月。もう高3になってしまった。早いものだ、ついこの前に入学したばかりだと思っていたのに。
「誰も留年してないわよね」
「楓はギリだったみたいだよー、出席日数が」
「あーなるほど。千春も成績がギリだったみたい。由莉もでしょ?」
「あははーまあね。余裕だったのは千風と翔ぐらいだよ」
「そうかあー。…あっ、出た」
廊下の掲示板に、新しいクラスの名簿が貼り出された。千風と由莉の名前はすぐに見つかった。…1組だ。
「由莉、一緒…」
「やったあああ!! 千風一緒だよお、1組だよお! 3年間一緒だったよおお!!」
「あ、うん、そうね…」
だんだん千風は由莉のテンションについていけなくなってくる。なぜこうもテンションが高いのか…。まあでも、同じクラスなのは嬉しい。
「よっす二人とも。これからよろしくな」
「おはよー翔と会長。えっ、二人も1組?」
「まあな。千風と一緒かあ…やだな」
「こっちだって嫌よ。…てか、楓は?」
翔と千春に会ったが、楓の姿がないことに気づく。いつも一緒にいるのに…
「ああ、なんかさっき『さよなら…』とか言ってどっか行ったぜ」
「楓だけ2組でさー。悲しー」
「辛ー」
「会えねーわけじゃねーんだし、こっちから行けばいいじゃんか」
「会長にはデリカシーがない」
「もともとよ。もう手遅れ」
「おい」
新しいクラス。残念ながら皆が皆同じクラスになることはなかったが、楽しくやっていけそうだ。高校生活最後の1年。どんな1年になっても後悔しない気がする。この時千風はそう思った。
12:学年一
なんか一人だけ違うクラスになってしまった。楓は少し悲しくて机に突っ伏していた。同じクラスになりたかった…と考えれば考えるほどショックになってくる。
「どうした森野? また具合悪いのか」
「…ちがーう…」
クラスの友達に心配された。そんな風に見えたか。ちょっと気をつけねば。まあ、クラスが違うからって二度と会えなくなるわけでもあるまいし、落ち込みすぎた。病は気からというし、これ以上落ち込んだら本当に熱でも出すかもしれない。
「なんだよ、クラスのことかよ〜。大げさな〜。お前熱出すぞ」
「だよねえ、ごめん」
「それに、ほら」
友人が指さした先にはツインテールの小柄な女の子。なかなか可愛らしい。
「あれ、学年一可愛いって言われてる辰野海。可愛くない?」
「えーそうかなあ? 俺は別にそーは思わな…」
「ねーえっ」
突然声がして振り向くと、そこには———
「辰野海っていうの。よろしくねっ!」
「え、あ、よろしく…」
学年一から話しかけられていた。なんで俺なんだろうと思いつつ、とりあえず答えておく。
「あなたは?」
「えっ?」
「あなたの名前。教えてよ」
「え、あ、森野、楓…」
「へえ〜! いい名前だねっ! じゃあ海、楓くんって呼ぶね! だから海って呼んで!」
「えっ!?」
いきなりすぎだろ。最初から名前で呼ぶなんて勇気がいる、いりすぎる。なんだこの子は。
「ねーねー楓くぅーん」
「なんですかぁー…」
正直すごく苦手なタイプの女子だ。他の男子は可愛いなんて騒いでいるが、面倒なだけだ、正直。何がこんなにこの子を人気にさせているのだろう。
「いいなあ森野。いきなり逆ナンかよ」
「しかも相手があの辰野とか、マジ幸せ者じゃんね」
幸せだと。そんなワケないだろ。本気でそう思った。このクラスで平和にやっていける気がしなかった。1組が羨ましい。なんで、一人だけ、違う、クラスに…
「1限始めるぞ〜。あれ、森野は?」
「気分悪いって言って保健室行きました」
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.8 )
- 日時: 2015/01/25 21:11
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
13:保健室で
「マジかよ、笑える」
「辰野ってあの辰野? あー面倒な性格よね」
「で、呼んだの?」
「かわいそーにな…」
保健室にやって来たいつものメンバーは、見舞いの言葉より嫌味を先に言った。楓は布団に顔をうずめて、うう、と唸る。
「呼ぶワケないじゃん…絶対嫌だよ…ああいうタイプ、俺は苦手だしね…」
「へえ、手懐けると思ってた」
「忽那くんは俺をなんだと思ってるの…」
楓はあの後、体調を崩し、保健室に行った。熱があったので休んでいると、そこにこのメンバーがやって来たので、事の顛末を話したというワケである。そして、冒頭に繋がるのだ。
「体調はどう?」
「おかげさまだよ…」
「熱があるなら帰ればいいのに」
「でも出席日数があ…」
「冷えピタをあっつくしてる子がよく言うわぁ」
保健医の松重綾美が、楓の冷えピタを貼り換えながら言う。松重は、溜息をつきながら、続ける。
「まだ一日目じゃないの、どうとでもなるわよ。今日は帰った方がいいわ、帰れるんなら」
「せんせぇ…」
「だるいならまだ居てもいいけど」
「ありがとうございます…」
「楓くぅーん!! 大丈夫ぅー!?」
そのとき、絶対に来てほしくない人が来た。そう、辰野海だ。
「ねえお願い、橘さんたち行かないでね…」
「え、私もあの子苦手なんだけど」
「お願いだからぁ…」
ついには目に涙まで溜めて言い出した。少し熱も上がってきたように見える。
「楓くん? 大丈夫? あっ、橘さんたちも居たのね、うつるわよ、出てったら」
明らかすぎる嫉妬だった。どうやら楓に一目惚れしたようだ。
「辰野さんこそうつるわよ。楓も心配してる」
「ホントォ〜!? ありがとぉ楓くぅん!!」
「だ・か・ら! 出てけって言ってんだよ辰野。俺たちもすぐ出るし」
「何よ忽那くんまで…わかったわよ、楓くんが心配してるっていうんなら」
この場はなんとか切り抜けられた。この後、千風たちは出ていき、楓も帰ったらしい。けれどこれから辰野海は最大の厄介となりそうだ。
14:テスト返し
千風は自分の手の中にある紙の束を見つめつつ、はあと溜息をついた。小テストが返されたのだ。そのとき、だだだっと足音が聞こえ、顔を上げると、由莉がにこにこして立っていた。
「千風、今日も最初に呼ばれてたね、さっすが〜!」
「全然ダメだったわよ。2年のときのが良かった」
「そうなの? 私はねえ、良くなってたよほらぁ〜!!」
「…20点台じゃない。ヤバくない? 早々から」
「いつものことじゃん! あっ、翔と会長は?」
「あんな感じ」
千風が指さした先、そこだけ地獄になったかのようなオーラが漂っている。千春が机に突っ伏し、翔が慰めているといった感じだ。
「わお、ご愁傷様です」
「ヤバいらしいわよ。次同じような点数かそれ以下をとったら呼び出しだって」
「会長が?」
「そう。翔は呼び出しなんて食らうような点数とらないでしょ」
千風は立ち上がって、由莉と一緒に千春と翔のところへ行く。千春は気づいても顔を上げず、翔は苦笑して手に負えないと目で訴えている。
「翔、大丈夫なの、これ」
「手に負えねぇ」
「口に出したわね。何点だったの」
「82点」
「あんたのじゃなくてこれのよ」
「これ呼ばわり…。12点」
「だああもう言うなよ!!」
そこでようやく千春が顔を上げた。点数の悪さによる不機嫌が目つきの悪さに拍車をかけている。髪もぼさぼさになって、乱暴に溜息をつきながら、それをがしがしと掻いた。
「クラス最低点、記録更新って言われた」
「そりゃそうじゃん、3年になってからは初なんだから」
「違う、先生が今まで持ったクラスでこの点数はなかったって。どんなに悪くても」
「うっわあ、お気の毒にねえ、ぐっふう」
「笑ってんじゃねえよ羽柴。お前も似たようなもんだろ」
「ざんねーん、20点近く差があるもーん」
「それでも30ぐらいだろ」
馬鹿同士の小さな競り合いは、まだまだ続くようだ。千風と翔は、それこそ手に負えねぇ、であった。
「橘さんは?」
「85点」
「わあ、さすがだ」
「そんな変わらないでしょー。去年のが良かった」
「わかるぜー。むずいわ」
こっちが普通の会話だ。千春と由莉はしばらくこんな会話はできそうにはない。二人とも次での挽回を誓っているが、それもどんな具合になるか。千風も翔も、心配でしかなかった。
15:テスト返し2
「かーえーでーくん! どうだったー?」
「私ね、2年のころよりちょっと上がったのー!」
「ねーねー褒めてー! わあー! 楓くんすごぉい!! 満点じゃん!」
楓の席の周りをぴょんぴょん跳び回る海。楓は煩わしくて仕方がなかった。上がったってったって、20点台じゃんか、と思っている。それにそんなに自分の点数を大きな声で叫ばないでほしい。あと、自分に構わないでほしい。
「あのさぁ、辰野さん…」
「海!!」
「え゛」
「海って呼んでって言った!!」
「無理だよぉ、そんな急に…」
「急じゃないもん! 最初に海、言ったもん!」
周りの男子は羨ましそうにこちらを見ている。そんなに羨ましいか。俺は1組の方が羨ましいよ、と思う。正直、海のことは苦手以外の何でもない。
「海ね、海ね、楓くんのことが好きなの! だから名前で呼んでほしいの!」
「辰野さん、俺のことが好きなんだ、でもごめんね、俺はそうでもないかな」
「だから、海のこと好きになってよーー!」
(自己中———!!)
めんどくさい。自己中すぎると思った。そんな簡単に好きになれるか。そもそも、楓はモテるだけで恋愛経験は殆どない。誰かを好きになるなんて難しいにも程がある。
「ごめんね、他を当たってください」
「ダァメ! 海は、楓くんじゃなきゃダメなの!」
「俺は辰野さんじゃなくても大丈夫なの」
「楓くんが大丈夫でも海はダメだからダメなのぉー!」
(知らないし!!)
正直バッサリと切り捨てたいが、そんなことをすれば多分、海は泣いてしまうだろう。女の子を泣かせるなんてこと、楓にはできない。でもフリたい。どうしよう…
「おい、森野の奴、辰野に告られてんぞ」
「マジかよウゼぇ」
「嫌がってるけどな」
「じゃあフレばいいのによ」
このままでは男子にも嫌われる。それは辛すぎる。本当にどうしよう…。
泣きそうになったそのとき、教室の前を翔が通った。
「あっ、楓ー」
「浅川くん!!」
楓は無我夢中で教室を飛び出し、翔にすがりついた。翔はどうした、と驚く。
「もうダメ、頑張っていけないよぉ…」
「おいおい、俺が恨まれるからとりあえず離れろ」
「楓くーん! なんで行っちゃうのー!」
「ほらぁ、もう助けて、浅川くんだけが頼りなんだ」
「よっしゃ任せとけ」
翔は仁王立ちし、海と向き合った。そして言った。
「辰野さん! 俺は君のことが好きだあ!」
「あっそ」
唖然。嘘ではあるがきっぱりすぎだろ。海はこの後も楓を追いかけ回したそうな。
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.9 )
- 日時: 2015/01/25 21:15
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
16:お泊り
「レッツお泊りー」
言い出したのは確か翔だったか。千春の家に男子三人で泊まることになったのだ。千春は大きく溜息をつきながら、翔と楓を案内している。
「とりあえず、ここが俺の部屋な。今日はここに泊まってもらう」
「すげええ! 忽那ん家でけええ!」
「翔うるせえ。そうそう、森野は大丈夫だったのか、家遠いけど」
「うん、母には連絡済だから問題なし」
そういえば、今回のお泊り会(?)の意図を聞いていない。翔は何か考えているのだろうか。今更親睦を深める…とか?
「お前、なんで今日泊まろうって考えた?」
「その日の気分〜」
殴ろうかと思った。その日の気分だと、ふざけんな。でも、翔も楓も楽しそうだし、まあいいかもな…
「なあ〜お前ん家、ゲームとかねーの」
「勝手に触んな。あるよ、ほら、やっとけ」
「わー忽那やっさしー!」
翔は相変わらずうるさい。ゲームやりたいなら言えよ、と内心で毒づく。と、楓がそわそわしているのが視界の端に見えた。
「どうした、トイレにでも行きたいか」
「違うよぉ、なんか友達の家に泊まるのって久しぶりで…ごめんうるさかった?」
「大丈夫、お前がうるさかったらこいつなんか追い出してるレベルだから」
「ひっでー。そうそう、寝るのどうしよーかー」
翔はけらけら笑い、そう聞く。ああ、と千春も思う。どうしようか…
「俺、下でいいよ。忽那くんの家だし、忽那くんがベッドを使うべきじゃない?」
「えー、忽那は生命力強そうだし、楓が上なべきじゃねー」
「俺、生命力弱そうなの…」
楓ががくっと肩を落とす。翔がけらけら笑って千春に同意を求めている。千春はいや、とこう提案した。
「森野と俺が上、翔が下ってどうだ」
「ひでええ! 俺が上という選択肢はねえのか!」
「では何か、森野を下にせよと? そんな非情なことできるか。ただでさえ体弱い子を」
「お前、自分が下という選択肢は…」
「ねえよ? 俺の中にはお前だけ下という選択肢しかねえ」
「ひでええ!」
「ねえ…俺だけ下でもいいんだけど…?」
「「それはダメだ!」」
楓の仲介も空しく、結局この競り合いの末、楓がベッドで、その他二人が下となった。
「千風ぇ、それはマジ勘弁…ああああ鎖骨とれるううう!!」
「おい忽那お前それ!! なあんだ象かあ…」
「ぎゃああ俺の足首いい!」
「うお、それ来年号じゃね!?」
(浅川くんも忽那くんも寝言大きいなあ…眠れないよぉ…)
17:お泊り2
「あれ、翔と楓じゃん。どしたの」
お泊り二日目の土曜日。今日は殆ど勉強会で、千春の部屋で勉強をしていると、インターホンが鳴り、冒頭に繋がる。
「うお、橘さんだ。今は忽那ん家にお泊り中。橘さんは?」
「さっき作ったクッキーのお裾分けー。家隣りだし、エプロンのままで来たんだけど、はずいなあ」
千風が恥ずかしそうに笑うと、楓が可愛いエプロンだね、と微笑んだ。
「えっそお? へへーありがとう。はい、翔と楓にクッキー」
「おおやったサンキュー!」
「ありがとう、橘さん」
「千風、俺の分」
「え、ないわよ」
冷やかな目で「は? 当たり前じゃん何言ってんのこいつ」と訴えているのを千春は感じとった。ダメだ、千風には逆らえない、と改めて思う。
「嘘よ、ほらこれ。一瞬本気にしたでしょ」
「おお、サンキューな」
まあ、悪い奴ではない、基本的にはやはり幼馴染だ、彼女は。そう胸に刻み込みつつ、千春はクッキーをかじった。
「何、勉強してたの?」
「ん、まあな」
「へえ、千春は教えてもらってたのね。どうなの、頭良くなりそう?」
「いや、ダメだ全然わかんねぇ」
千春がクッキーを食べながら頭を掻く。彼のイライラしているときの癖だ。すると、楓が蒼白な顔をしておそるおそる尋ねた。
「俺の教え方、わかりづらいかな…?」
「え、俺は超わかりやすかったぜ! 間違っても優しく指摘してくれるし!」
「浅川くんは優しいからなあ…」
「大丈夫よ、これの理解力がないだけだから」
「おい、幼馴染をこれ呼ばわりかよ」
まあ千春の理解力がないのは事実である。それは千春自身も自覚していた。どうすれば人並みの理解力が持てるのか。いつも考えているのに変わっていかない。自分だって辛いのだ。
「でもね、忽那くんはすごく真剣にやってるんだ。なんでできないのかわからないぐらい」
「あー生まれつきよ、しょうがないわ」
「俺だって辛いんだぞ、頑張ってんだ」
「ああそう。せいぜい頑張ってちょーだいねー。じゃあ帰るわ」
「また明後日な、橘さん」
千風は部屋を出ていく。千春は自分の理解力のことしか頭になかった。つくづく、自分は千風に認められていないな。そう、感じた。
「忽那くん? 大丈夫?」
「ん? え、ああ、大丈夫」
「そう? 悲しそうな顔してた」
「マジか、忽那、写真撮らせろよ」
「馬鹿、やめろよ翔。俺にも色々あんの」
騒ぐ翔をよそに、悩む千春。三人はその日、わけもなくギスギスしていたのだった。
この掲示板は過去ログ化されています。