コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 春風〜千の想い〜【オリキャラ・コメント募集中!】
- 日時: 2015/03/02 21:54
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
1:興味
立花高校。ごく普通のレベルの、ごく普通の公立校だ。いや、そこそこ頭はいいかもしれないか。その2年3組に、橘千風は所属している。彼女は学年では有名なギャルで、頭もいい上、美人なのでもの凄いモテる。
「ちーかーぜー! 宿題写させてっ」
「由莉ったらまたなの〜?」
羽柴由莉。千風の親友であり、彼女もギャル。そして校則破りの常習犯である。指定セーターは着ないし、禁止されている校内でのレッグウォーマーの着用など、わりと酷い。頭も悪く、たまによくわからない発言をする。先生たちも既に諦めているほどだ。
「ねぇー、千風ってさあ、彼氏いないじゃんかぁ」
「うん」
「じゃあさあ、気になる人とかいな」
「いないわね」
即答に、由莉は開いた口が塞がらない。
「えっ、えっ、じゃあじゃあ、あれとかどうなのあれ!」
「あれって?」
「ほら、あのイケメン生徒会長! 私はそーは思わないけどね」
自分で言ったんじゃんか、と思いつつ、その生徒会長をちらっと見る。彼の名は忽那千春。学年ではとても有名なイケメン生徒会長…らしいが、千風はあまりそう思ったことがない。女みたいな名前して、そのくせ目つき悪くて、眼鏡で隠してるつもりらしいが逆にそれが際立っていて、むしろ何よあのブッサイクなツラ、と思っていた。
「興味ないわ」
「つれないなぁ。もっと青春すればいいのに」
「私だって彼氏ぐらい欲しいわよ? でもあれは違う、絶対ない」
「ほぉー辛辣〜」
由莉はなんだ、ああいうのがいいのか。千風にはあまりよくわからなかった。というよりは、
———興味がなかった。
始めまして! Va*Chuと申します。この小説は、学園モノで、ちょっとラブで、ちょっとギャグです。少し暗い場面もありますが、基本楽しいものになっております! よろしくお願いいたします。
また、随時更新していきますので、コメント、アドバイスなど頂けるととてもうれしいです! ぜひお願いいたします!
人物紹介書きました(遅ぇ) >>35
ギャグ↓
36:メール >>21
37:誕生日 >>22
40:体重 >>25
49:ひっく >>36
50:誕生日2 >>37
51:電車 >>38
52:萌え >>39
上記以外は比較的真面目なキャラたちの恋を描いています♪
文化祭編始めました! >>40 >>41 >>46 >>48
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.30 )
- 日時: 2015/02/03 07:11
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
44:いまむかし
「へえ、好きなんだ、その子のこと」
「だから違うっつってんじゃん」
藤堂家で、家主の修一と楓はゲームをしていた。たまにお菓子をつまみながら、基本はだらだらとしゃべっている。いつもの最近どう? のくだりから始まって、いつのまにか華織の話になっていた。
「いつになく楓の口調が強いな。成長したな」
「やめてよきしょいなぁ(真顔)」
「うわ、真顔できしょいって言ったこいつ! きもいより傷つくんだぞ!」
「ごめんごめん冗談だって」
「ならいいけど。で、その榊サンが好きなわけだ」
「修一、かち割るよ」
「割んなよ頼む」
しゃべりながらやっているせいか、簡単なステージで何度も失敗している。しかし二人にはもうどうでもよいことだった。
「修一、好きな人とかいるの」
「いねー。別にいらねーし。お前がいるだけでいいし」
「きしょいし、悲しくなるし」
「冗談だっつの。お前はあれなんだろ?」
「しつこい。仲良くしてんのは別の理由があんの」
楓が言った。修一は別の理由? と聞き返す。楓はうなずいて、続ける。
「なんか、似てるから」
「何に? 俺に?」
「違うよ何言ってんの。——中学んときの俺に、だよ」
「!」
修一は息を呑んだ。中学のときの楓に似ている。それってつまり…
「いじめ?」
「軽くそんな感じ。暴行とかはないけど、無視とかね」
「暴行はないのか、まだマシだな」
「けど、精神的ダメージはひどいと思うんだよね」
楓は無表情にお菓子を食べながら話す。修一もお菓子を食べながら黙って聞いている。
「だからかな、妙に親近感を覚えて、仲良くしたいって思ってね」
「それは…同情とかじゃなく?」
「修一が俺に仲良くしてたのは同情なの?」
ステージをクリアしたとともに、楓は悲しそうな顔で修一を振り返った。修一はお菓子をくわえたまま驚いて目を見開いた。
「そんなわけねーじゃん…しかも現在進行形だからな、仲良いのは」
「ありがとう。俺も同じなんだよ、榊さんのことは」
「なるほどなぁ。何、お前は助けたいの」
修一は頭の後ろで手を組み、ベッドに凭れ掛かった。楓も同じようにベッドに倒れて、そのうえで修一と向かい合う。
「そういう正義感とかじゃないよ。でもまあ、思わなかったこともなくはない」
「言葉減らせ、よくわからん」
「ごめん、助けたいって思わなかったって言ったら嘘になるってこと」
「そうか、俺もそうだ。ただお前と仲良くなりたかっただけだけど、助けたかった」
「うん、ありがとう」
「今日初めて笑ってくれた」
「マジ? 今のが心からの言葉って認識したからかも」
「俺はいつでも本気だっつーの」
修一が悲しそうに言うと、冗談だよーと楓が微笑む。そして、ふああ、と欠伸をして、うとうとと舟をこぎ始めた。
「え、お前眠いの」
「眠いぃ〜…」
「マジ? ガチなやつ?」
「…う、ん…」
「おーい?」
「…スー」
「マジかよ!?」
修一が叫ぶも、楓はもう夢の中。変な体勢で、しかも人ん家で寝やがって、と修一が悪態をつきながら、どうにかベッドの上に乗せようとする。
(…!? こいつ、軽っ…!!!)
修一は心配を通り越して怖くなったが、楓をベッドの上に乗せる。いとも簡単にできてしまったので楓と自分の手を交互に見て震える。
しかし、そうやって眠る楓を見ていると、少し安心してきた。少し前は、ものすごい取り乱して、泣きじゃくって、泣きつかれるようにして眠ることしかできなかったのに、今ではこんなに自然体だ。そして何より、友達が増えた今、あのときの自分の立場に立とうとしている。
「…がんばれ」
修一は小さく呟き、消灯した。
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.31 )
- 日時: 2015/02/03 09:09
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
45:イメチェン
華織は、あれから生徒会室のグループに入って、一緒に行動することが多くなった。その中でも特に女性陣や楓と仲良くしている。
しかし、生徒会室のグループは校内でも有名な人気者ばかりで、周りの目は冷たく、正直キツイものがあった。その目は、いつの間にか華織だけではなく、千風たちにも向くようになってしまった。
「橘さんたち、私と仲良くしてると、嫌われちゃうよ…?」
「いいのよ、気にしてないもの」
「そうだよぉ。華織ちゃんは何も悪くないじゃん、そんなの嫌う奴がおかしいの」
千風も由莉も優しい。最初の印象は少し性格がキツイのかな、という感じだったが、実際は友達思いの二人。華織はこのころにはだいぶ心を開いていた。それだけ、千風たちも悪口を言われるのは胸が痛かった。
家に帰って、華織は鏡の前に立った。手には、櫛とピン。
「私が嫌われるのは、きっとこの容姿のせい」
鏡の中の自分を睨みつけながら、華織は言う。きっとそれだけじゃないんだろうけど、これがきっと暗い印象を一番に映し出しているに違いない。
「なるべく明るくふるまわなきゃ」
そう言いながら、華織は自分の長い前髪を横にかきあげた。そして、ピンで留め、眼鏡をとった。
「よし!」
翌日の3年2組の教室。楓は華織の席を見つめ、溜息をついた。まだ彼女は来ていない。
「よっ森野。お前の彼女、来てねーじゃん」
最近は華織といることが多いせいか、周りにはそのように勘違いされているようだ。楓の中に、この前に感じたモヤモヤとした感情はもうなかった。
「彼女じゃないし。…でもそうだね、来てないね」
少し心配になってきた。いつもはもっと早く来て読書をしているのに。それとも今日、華織は午後からだったか? そう思って確認はしてみたが、今日は朝からあると昨日のメールにはある。本当にどうしたのだろう…。
そのとき、教室の扉が開いた。ハッとしてそちらを見ると…
「…おはよ、森野くん」
楓は目を疑った。入ってきたのは…
「お、おはよ…って」
まさか…
「ええええええ!!?」
前髪を上げ、眼鏡を外した、まるで別人のように明るい華織だった。
華織は、楓にあいさつをすると、そのまま自分の席に座った。その瞬間、どっと女子が集まってくる。
「ね、榊さんどうしたの? 急にイメチェンして」
「え、なんとなく、前髪が邪魔になって」
「眼鏡は? あれ伊達なの?」
「うん。頭良く見えるじゃん?」
「何それぇ〜」
昨日まで華織のことを空気のように扱っていたのが嘘のようだ。楓は少しイラッとしたが、自分から踏み出してみた華織を思うと、頑張ったなあと思う。は、と溜息をついて、教科書を取り出す。クラスメイトには茶化されるが、無視を貫く。彼女はもう大丈夫だな、と少し安心した。
「うおお、榊さん、イメチェンした!」
「こっちの方が可愛いよ、華織ちゃん!」
「すっごい美人…羨ましい…」
「うん、こっちの方がぜってえいい」
生徒会室に行くと、千風たちにはそのように言われた。イメチェンしてよかったかもしれない。華織は、小さく微笑んでありがとうと言う。
「これからはこれでいこうと思うの」
「いいんじゃない? ねえ千風!」
「ええ、それでいきましょー」
「ふふっ、ありがとー」
「…なんか、楓に似てる」
翔が突然呟いた。楓がえっと声を上げて、なんで、と尋ねる。
「その…話し方っていうか、可愛らしいところ」
「男子が言うとキモいわね」
「ひでえ! 俺は正直に言ったまでだ! お前もそう思うだろ忽那!」
「んー、わかるようなわからんような」
「俺、男子だからね、浅川くん。可愛いっていうのは違くない?」
「いや、お前はそうだよ。男って感じが少ない」
「千春、それ地味にひどいわ」
いつものどんちゃん騒ぎが始まる。華織は、少し前の自分を思い出して、なんて簡単なことだったのだろうと思う。周りが変わるのを待つんじゃなくて自分が変わればよかったんだ。それを教えてくれたのは、ほかでもない楓たち、かけがえのない友達だ。これから私はこの中で頑張っていける。よし、と華織は唇の裏で頷き、にこっと笑った。
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.32 )
- 日時: 2015/02/03 10:18
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
新章と言いながら超短くなってしまった…スミマセン。
ここからはいつものノリに戻ります。
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46:カノジョ
マ●クにて。生徒会室グループの男性陣はハンバーガーを食べながら、他愛もない話をしていた。
「この中でさぁー彼女いたことが一度でもある人ぉー」
バッと手を挙げたのは千春のみ。楓は無言でずずっと紅茶を啜っている。翔は意外だーと呟く。
「楓、彼女いたことないんだー」
「まあ、中学んときがあんなだしねー」
沈黙。楓の紅茶を啜る音だけが響く。
「ああ、なんか、ごめん…」
「ん? 別にいいよー、もう気にしてないしぃ」
楓が笑顔でそう言う。癖なのか、萌え袖をプラプラ揺らしている。翔はなんか癒されるわあと呟く。
「忽那はいいよなぁ。マジでリア充爆ぜろや」
「あれのどこがリア充に見えんだよ、あんなヴァイオレンスな彼女だぞ」
「知らん、俺はそのヴァイオレンスな彼女にフラれてんだよ」
「それこそドンマイとしか言えねえ」
「うわああ、もう楓ぇ、俺と付き合う気、ない…?」
「ごめんね、根本的な話、無理かなぁ」
「うわあ、ノった上でフラれたああ…」
「お前、勢い余って森野に告んなよ…」
翔が机に突っ伏す。楓はごめんねぇ、と苦笑混じりに言いながら、ポテトをくわえる。千春も溜息をついて、ポテトに手を伸ばしたそのとき、店に入ってきた見知った顔を目撃した。
「うお、藤堂じゃん」
「おっ、千春と翔と楓だー」
「あ、修一だ、どしたの」
「うわー彼女いそうな藤堂だー」
修一は横いい? と断りを入れて、当然のように楓の隣に座る。あまりにも自然な流れすぎて、翔はうわああと声を上げる。
「彼女はいねーけど、翔、どうした」
「あまりにも自然な流れで楓の隣に座るううう!! お前も好きなのかああ!!」
「は!? 何が!? なんで!?」
「彼女がいなくて焦ったかあ!」
「何の話だよ!?」
まあ、修一は単に楓の隣が空いていたから座っただけなのだが、病んでいる翔には修一→楓としか見えなかったようだ。そんなわけがあるか。
「でも修一、時々それっぽいこと言うよ、俺に」
「馬ッ鹿、冗談に決まってんだろ」
「えー…たまに本気っぽく言うじゃん」
「それは本当にそう思ってるときだ…」
「きっしょお」
楓は修一相手だと容赦ない。他の人にきしょいなんて言ったことはない。それだけ心を許してんだろうなあと翔は思う。
「ダメだ…藤堂には勝てねえ…」
「翔のことは置いといて、藤堂は今日はどうしたんだ?」
「なんとなく、楓見つけたから寄った」
「もうその理由がさあああ」
「翔のことはほっとけよ」
千春が翔の頭を叩く。修一はこいつどしたんと聞く。
「彼女いなくて病んでる」
「大丈夫だろー、俺もいねーし。こん中でいるの千春だけだろ」
「ん、まあ」
「いいよなあホント。美人だし」
「何が!! あんなヴァイオレンス(巻き舌)な、理不尽な、あんな彼女だぞ!!」
「じゃあなんで好きになったんだよ」
「よくわかんねえよ!!」
千春は一通り叫び終えて、はあはあと息切れをする。楓は大変だねぇ、と他人事のように、いや実際他人事なのだが、紅茶を啜っている。しかし、突然何か思い出したように声を上げ、修一を見てにこっとした。
「彼女いないって言ってたでしょ、修一」
「うん。それが何か」
「でもねぇ、この人すっごいモテるんだよ」
「なっ!?」
「だって言ってたじゃん、ラブレター1週間に2通来るって」
「それは内緒にしてたろ!?」
「もうよくない」
「よくない!」
修一が思いもよらぬ暴露をした楓の両肩を掴み、叫ぶ。痛いよぉ、と言いながらも楓は楽しそうだ。そのとき、千春が時計を見て立ち上がった。
「悪い、今日は千風の家に行くんでした、もう帰る」
「うっわあ、お泊りですかあ」
「別に。隣だしな」
「そうかいそうかい、せいぜいおしあわせに」
「一言一言をはっきり言うなよムカつく」
じゃあ、と言って千春は店を出ていく。俺らも帰るか、と3人は立ち上がった。
「俺だけ別方向かよ、そちらもせいぜいおしあわせに」
「浅川くん、何の話」
「おう、またな〜」
店の前で、修一と楓、翔に分かれて帰る。駅に向かう二人の、楽しそうに話す声が翔の耳にも届き、頭の中で彼女欲しいーと悲痛な叫び声を上げるのだった。
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.33 )
- 日時: 2015/02/03 14:17
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
47:気になる
男子がマ●クにいたとき、女子はファミレスにいた。千風、由莉、華織、海の4人だ。海は不本意だったようだが。
「この中で、一度でも彼氏がいたことある人ォー」
由莉がだるそうに聞き、手を挙げたのは千風、由莉のみ。千風は現在いる、という状態で、由莉は中学時代に微妙にいたらしい。
「辰野はいないの? 一人も?」
「いないわよ、悪い?」
「あれかな、可愛すぎて逆に近づいてくる奴がいなかったとか?」
「違うわよ、海が可愛すぎて告白してくる人たちはみんな相応じゃなかったの」
なんともナルシストな考え方だ。由莉はもう苦笑いをするしかなかった。
「華織ちゃんは? いなかったの?」
「うん…中学のときも、あんなだったから」
「あーなるほどね。これからモテてくわけだ。誰か気になる人とかいないのぉ?」
「えっ!?」
「あ、いるんだ〜。千風、聞いた? いるんだって」
「聞いたー、なんとなく予想はついてるわよ」
由莉が乗り出して誰!? と聞き、千風はジュースを啜り続けている。華織は顔を真っ赤にして言わないで〜とせがんでいるが、千風は止まらない。
「あれでしょ、楓」
「楓かー! なるほど!」
「ち、違うよ〜、森野くんなんてそんな、私にはもったいない…」
「ふーん、気になってるんだ」
そこで急に海が口を開いた。そうだ、彼女は楓のことが好きなのだった。あんなに豪快にフラれても未だ諦めようとはしていない、執念深い女なのだ。
「え、まあ、言っちゃうと…そう、かなぁ…」
「ふーん、そうなんだぁ、でも海には関係ないね」
「華織ちゃん、気にしないで大丈夫だからね」
「うん、知ってる」
海は勢いよくストローでジュースを啜り、は、と息をついて、私もう帰る、と席を立った。じゃあね、と言って、海はそのまま店を出た。
「感じ悪ー。友達少ないだろうから仲良くしようとしてんのに」
「ほっときなさいよ。———で、榊は楓が好きなのよね?」
「えっ!? うう…はい…多分…」
「ふふー、楓、モテるね〜」
「だ、よね…」
「楓と榊って、美男美女じゃない。ヤバくない?」
「思うー!! 華織ちゃん、頑張って!」
「なんか応援の理由が違うところにある気が…」
華織は俯いて、顔が赤いのを隠す。楓のことが好きなのは多分、本当だ。しかし、肝心の彼は、誰にでも優しいから。きっと自分に気なんてないんだろう。
「はぁ〜…」
「うお、華織ちゃんどしたの」
「どうせ実らない恋なんだろうなあって」
「え、そんなことないと思うわよ」
千風が頬杖をついて、華織を見ながら言った。
「もしかして、楓は誰にでも優しいって思ってんじゃない?」
「え、違う、の」
「違うわよ。特定の人にずっと優しくなんてしないわ。というか、できない」
「え、…なんで」
「心を開いてないからよ。それを、私たちやあなたにはしてるってことは、心を開いてる証拠」
「そう、なんだ…」
「その詳しい理由は本人に聞いた方がいいかもね」
「え」
「中学んときのこと。あなたも、何かあったんじゃないの?」
ビクッと、体がはねるのを華織は感じた。千風がまさかそんなことを言ってくるとは思わなかった。何か心の中を見透かされているような気がして、少し怖くなった。
「…うん。よく、わかったね」
「見てたらわかるわよ。楓と似てるもの」
「森野くん、と?」
「そうよー。まあ、詳しいことは私たちから言うのは申し訳ないし、本人に聞いてみて」
千風はそう言いながら立ち上がった。由莉がもう帰んの、と尋ねると、もう帰るーと返した。
「今日、うちに千春が来るの忘れてた」
「うわああ、彼氏がお泊りですか、あっついねえ」
「泊まんないわよ。隣に住んでんだから」
「つまんなーい。まあいいや、私たちもかーえろっ」
由莉が華織の腕を引いて立ち上がった。うん、と頷いて華織も立ち上がる。
店を出て、千風と由莉、華織に分かれて、軽い挨拶をしてから帰った。華織は、楓の中学のころのことが気になっていた。千風は似ている、と言った。もし、同じなら…
「…っ、そんなわけ、ないか」
華織は今日も早く寝ようなんてどうでもいいことを思いながら、帰り道を駆け出した。
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.34 )
- 日時: 2015/02/03 16:48
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
48:助け、助けられ
華織は、自分の席で突っ伏していた。千風が言っていたことが気になって仕方がないのだ。
「森野くんが…ねぇ」
「俺がどうかした?」
「ぬあああっ!?」
「ぬあって…」
いつの間にか、後ろに楓が立っていた。楓は、誰の席だっけ、まあいいや、と言いながら、華織の後ろの席に座った。
「で、俺がどしたの」
「…聞きたいこと、あって…」
「中学んときのこと?」
華織は驚き、目を見開いた。楓はにこにこしている。聞かれて、嫌ではないのだろうか。
「なんで、わかったの」
「だいたい聞きたいことってそれくらいかなあって。場所変えようか」
「え、あ、うん」
二人は立ち上がって、教室を出た。
「俺ね、いじめに遭ってたんだ、中学んとき」
屋上に着いて、唐突に楓はそう言った。え、と華織が声を落とすのが風に乗って聞こえてくる。まあ、信じられないか、なんて楓は苦笑する。
「暴力とか、そういうやつ。心も身体も痛くて、死にそうだった、死にたくなった」
楓がそこまで言って、黙って俯いた。涙をこらえているように、華織には見えた。
「でも、今はそんなことない。自分を支えてくれる友達が、たくさんいるから」
俯いたまま、楓は続けた。声が、わずかに震える。情けねえ、と心の中で思う。すると、華織が声を出した。
「私も、一緒、なの」
「え」
「私も、中学んとき、いじめに遭ってたの!」
楓が驚いて顔を上げた。華織は、拳を強く握りしめて、話している。
「私も、暴力とか、そういうのだった。死にたくなったよ」
「うん」
「中学卒業まで、ずっとだった」
「そう、なんだ」
「でもね、今は辛くないの!」
華織が顔を上げて、そう強く言った。楓はさあっと風が吹き、意識が覚醒したのを感じる。
「森野くんの、おかげなの。私が、もう大丈夫なのも」
「…」
「私ね…森野くん…楓くんが、好きだよ!」
「!」
華織の顔は赤かった。楓も、顔の温度が上がっていくのを感じる。そして、必死に言葉を紡ぎだした。
「俺も、華織ちゃんのこと、好きだよ」
「えーマジでぇ?」
藤堂家。特に用事はないけど、楓は来ていた。布団に埋もれながら、楓はマジですうう、と小声で言う。
「前に榊サンとは何もないって言ってたじゃん」
「それが、あったんだからしょうがないよね」
「くっそぉ、楓に先越されたのが悔しい。俺、まだ彼女いねーよ」
「じゃあフラなきゃいいんじゃん」
楓はごろんと寝返りを打ち、天井を向く。なんか、ひどく疲れた。修一は、そんな彼を横目で見ながら、携帯をいじっている。
「あー…気持ち悪い…」
「はっ!? じゃあ帰れよ、熱あんじゃねーの!?」
「大げさな。ちょっと貧血起こしたかもってだけぇ…」
「大丈夫かよ…少し寝れば」
「いいの? マジで寝ちゃうよ?」
「いーよ、なんかもうお前ならいいわ」
「そんなんだから彼女できないんじゃない」
「何、嘘、嘘なのかよ!?」
「嘘じゃないけど、寝なきゃいけないほどひどくはないよ、心配してくれてありがとう」
本当に心配になったのか、いつの間にか修一は携帯いじりをやめていた。そんな彼をいじめるのが楓は楽しかった。
「そりゃ心配すんだろ〜、お前、ガチな体調不良多いし」
「他にいないよ、俺のこと心配してくれる人」
「言いすぎだろ」
「いや本当に」
楓が小さく微笑む。しかし、少し暗い表情になり、不安げにこう言った。
「俺が、華織ちゃんと付き合うことになっても、修一はそうやって、親友でいてくれる?」
修一は楓のその言葉に少し驚いた。が、何をこいつは心配してんだ、と心の中で笑い、こう返した。
「当ったり前じゃん。お前は、俺にとって一生もんの親友だっつの。あと、もう一言」
修一が楓の額にデコピンをかまし、痛がっている彼にさらにもう一言追加した。
「何かあったらいつでも相談しろよ! 頑張れ!」
修一はニカッと笑ってそう言った。楓は微笑み返し、ありがとう、と言って、天井を仰いだ。
(一言じゃないじゃん…)
そんなことを思いながら。
ーーーーーーーーーーーーー
ごめんなさい、新章ってここまででした。本当はくっつける予定なかったんですけど。次からは本当にいつものノリに戻る予定です。
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